哿と婚約者   作:ホーラ

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注意:キンジ出番なし、セーラの口調が迷子、甘さ0ブラックコーヒー


第22話:似た者同士

7月25日

私は北条銀華としてやらなければいけないことを終え、イ・ウーに戻っていた。

寂しいけどキンジとは暫しの別れ。

この前--7月16日のキンジの誕生日には2人で誕生日会もしたしね。

今回のプレゼントは写真立て。キンジが()()()()を欲しがっていると不知火君と武藤君が言っていたので、()()()()()()()()、その写真を写真たての中に入れたのに、なんか違うみたいな顔を微妙にされたのは残念だけど、基本的に喜んでもらえたのは良かった。

そんな約1週間前のことを思い出してニヤニヤしながら、目的地の教会に辿り着いた。

イ・ウーの内部には大きな聖堂がある。大理石の床には見渡す限りラテン語の文字がびっしりと彫り込まれており、椅子はない。

これはカトリック・ネオゴシック様式の聖堂。神を信じてない私ですら、一瞬我を失いそうになるほど美しい空間。

私はイ・ウーに戻るなりすぐここに呼び出されていた。

奥の後陣には、この空間で唯一の光源--複雑なステンドグラスが高く聳えており、その下には私を呼び出した人物がこちらに背を向けて立っていた。

 

「やあ、余命ちょうど1年の父さん」

 

私はその人物に対して挑発するようにそう声をかける。この後何が起こるか推理できていますよと言うように。

 

「ははっ。もうそろそろ来る頃だと思っていたよ。そして君がそう言うのもわかっていたさ。推理の初歩だけどね」

 

父さん--シャーロック・ホームズが満足気な笑みを私に返しながら振り向く。

 

「それでこんなところに呼び出して何の用?」

「君は推理できているようだがあえて言おう。イ・ウーの次の長になる心の準備はできたかい?」

 

ああ…そっちから話すのね。

 

「その話は父さんが死ぬまでに決めるって言ったでしょ。一応()()はかけてあるんだし」

「そうだったね。まあ僕にはどうなるかは推理できているのだけど」

 

一応、今の所イ・ウーの次期艦長は私ってことになってるんだけど……私は主戦派(イグナテイス)だから研鑽派(ダイオ)が反対気味なんだよね。だから保険をかけてある。研鑽派も納得するだろう保険をね。

 

「じゃあ、もう一つ聞こう。婚約者、遠山キンジ君とは仲良くしているかい?」

 

やっぱり来たねその質問。私の推理通りだよ。

 

「仲良くしてるよ。今の私の一番は父さんからキンジに変わったぐらい」

 

それを聞いた父さんは満足気な笑みを再び浮かべ、

 

「いいんだよ、紅華君。君は父親--僕という存在を心の中で乗り越えた。それは君の心の中で、僕よりもキンジ君の方が大きな存在になったという意味なのだ。まだ愛の量は僅差のようだがね」

「父さんが愛を語るなんて、ホームズファンが聞いたら驚き呆れるね。女心がわからないことで有名なのに」

「紅華君もわからないだろ?男に対して『……キンジ………しよ?』や『…わ、私に乱暴して欲しいの…』というぐらいだし」

「そ、そ、そ、それを言うなああああああああああああああ!」

 

理子の変声術を使ってヒス私の声を出すのほんとにやめて!それ私の消し去りたい記憶第1位だから!これを言われることは推理できてたけど実際目の前で言われるとキツイから!本当にやめて!

 

「紅華君は推理できていたのだろう。それなら恥ずかしがることじゃないじゃないか」

「そんな問題じゃない!父さんはそうやって私を虐めて楽しいの!?」

「先に紅華君が挑発して来たんじゃないか。僕がこれを言うからね。そしてそれは、君が挑発して来るからだった。おや、それでは最初に挑発して来たのはどっちかな?わからないね。優れた推理者と優れた推理者は、時にタマゴ・ニワトリ(チキン・アンド・エッグ)の状態を呈する。僕はこの興味深い現象を『双推理の円環』と個人的に呼んでいるが君とこれを起こす日が来るとはね。そしてさっきの質問に答えよう。答えはイエスだ」

 

なるほどね。そうかい、そうかい。そんなに馬鹿にされちゃ、私も黙っていられない。口に水を含み、金の指輪を手の全指にはめ、薔薇の種を袋から取り出しポケットにジャラジャラと入れる。そして手には香水の容器(アトマイザー)

 

「………相変わらずプライドが高いね。紅華君は。馬鹿にされるとすぐにこうなる。僕としては娘とのスキンシップなのだが。でも、優れた推理者となった君にはわかるはずだろう?潜水艦内、それも深海では君、紅華君の力を十分に発揮することはできない。陸の上、特に森ならまだわからないが、ここでやる勝負なんて結果は見えている。これは君にとっては初歩的な推理なはずだよ」

「父さんは経験無いよね。推理を仕損じるって言う経験は…」

 

私はこの前の恥ずかしい事件のことを思い出しながら父さんに言う。

 

「無いよ。僕の推理はいつも完璧さ」

「でも私は初歩的な推理すら間違えたことある。成功し続けるものは失敗を知らない。失敗を知ったものは、その失敗を糧にさらに強くなる。見せてあげるよ。進化した私の姿を」

「いつも通り、僕は親ではなく強者として君に警告したが、君はそれを受け入れなかった。理解できているね?」

 

父さんはコートを抜きながら、手にしていた太めの金属製ステッキを持ち上げた。

 

「理解できてるよ。父さんと()り合うのはこれで99回目だね」

「そうだ。そして私が98勝0敗。おいで、遠慮はいらないよ」

「じゃあ、遠慮なく」

 

私は香水の容器で

シュッ!

という霧吹きみたいな音をだし--ゴマ粒みたいなサイズの、小さなシャボン玉を私の前に生成する。

そのシャボン玉を

 

「--竜巻地獄(ヘルウルウインド)--」

 

その瞬間、ぶわああぁぁあああっ!と私を中心に巻き起こった烈風に乗せ、高速で父さんの前まで運んだ。ちょうど目の前で弾けるように。

 

--バチィッッッッッッ!

 

父さんの眼前で弾けたシャボン玉から激しい衝撃と閃光が上がる。

私が使ったのは爆泡。藍幇のココが作った気体爆弾だ。シャボン玉が弾けて中身が空気中の酸素と混ざると爆発する画期的な代物。

ココに試供品として貰っといた物だけど中々の威力だね…でも中々にすぎない。

 

「超能力と武器の融合技なんてね。紅華君も考えた物だよ。だが紅華君。少し推理不足だったね」

 

父さんはほぼ無傷だ。竜巻地獄で加速してぶつけたけど、父さんがあんなものに当たるわけが無い。逆に利用されただけだったね。傷つけることはできないことは推理できていたけど、利用されるとまでは推理できなかった。

バキイィィィィンッ!

強風でガタガタ揺れているステンドグラスを背に、父さんは先ほどの爆発で半分ほど割れたステッキを床に叩きつけた。

ステッキは粉々になり--中から仕込まれていた一振りの刀が現れる。

あの直刀に近い感じはスクラマ・サクス。日本刀で言えば古刀が打たれていた時代に、ヨーロッパで作られた強靭な片手剣。そしてあの眩い輝き方は

 

「ラグナロクね」

「正解だよ。エクスカリバーをこの前使った君の相手としては少し劣るかもしれないが、これで我慢してくれないか」

「別に剣の名前なんて本当はなんでもいいけど…」

「ははっ。君の婚約者もそう言いそうだ」

「確かにね!」

 

父さんはバッと私に駆けて向かってきて、私はそれに対して左手をあげる。

その瞬間、私のあげた左手から一斉に指輪が変形した金色の弾丸が、一気に放たれる。

その弾丸は父さんに向かうが……

ギンギンギンギンギン!

全て剣に弾かれてしまう。

まあ当然ガードするよね。だがそれらは目くらまし。本命は……

バッ!

右手をポケットに突っ込んで、入れていた薔薇の種を一気に巻く。そして念じること数瞬。

一瞬で成長した薔薇の荊が父さんの足に絡みつく。その一瞬の隙に

--バシュッッッ!

私の口で圧縮した水の矢を放つ。

だが…

 

「パトラ君、君、カツェ君のハイブリット技だね。でも少し推理不足だったようだ」

 

拘束して放ったコンボ技も、シュッと、かわされてしまう。足元には蔓を切られ散らばる無残な薔薇の残骸。

薔薇の拘束を鎌鼬で切って解いてしまったのだろう。

 

「もう少しだったね」

 

言葉が終わった次の瞬間、映像のカットが切り替わったのように

おそらく鬼との交流で津羽鬼(つばき)からコピーしたのであろう、人知を超えた超スピードで。

 

「----!」

 

私の懐に潜り込んできた。キンジが誰かに取られる妄想をすることで、軽くベルセを発動させている私でもギリギリ認識できるという刹那の出来事だった。普通だったらこの時点で負け。

だけどそう来ることを推理していた私は父さんの攻撃をポンッ。

見えない盾で弾くようにして、簡単に躱した。さらに連続で私に向かって来る斬撃を、さらにポンッ、ポンッ、と柱や壁をアスレチックみたいにジャンプして躱していく。

まるで磁石のs極とs極のように父さんの攻撃をかわす私だけど、仕組みはセーラの能力。風を操って空気のクッションを私と父さんの間に張って躱している。

汎用性が高いセーラの技を使って剣を持った父さんから距離をとった私だけど…

すっ、と父さんはスーツの懐から銃を取り出した。

あれはアダムズ1872・マークⅢ。父さんが父さんの相棒、ワトソンから譲り受けた名銃だよ。撃鉄(ハンマー)を起こす動作で見えたけど全弾装填済み。そして風の勢いで壁に着地している私に向かってパァン!と全弾6発放ってきた。その飛来する6発を…

 

(連鎖撃ち(キャノン)!)

 

バチバチバチバチバチバチッ!!

右手にはめていた金の指輪を弾丸に変え全弾発射。4つ銃弾撃ち(ビリヤード)、一つ2連鎖の連鎖撃ちをすることによって5発で6発を防ぐことに成功する。

お互いの弾丸が四方八方に散らばった後、無傷の私がすたっと地面に着地すると今度はいつの間にか周りが、濃霧で囲まれていた。

 

(…やば!)

 

今度は父さんがさっき私も使ったカツェの技、ウォーターガンで私のことを撃ってきた。だが……

パリン!

そのウォーターガンを貫いたのは氷の幻影。私がジャンヌの技を教えてもらったお礼に、ジャンヌの技を応用して生み出した技。

技の名前は『銀氷の幻影(ダイヤモンドダスト・イリュージョン)

光を屈折させて、本来の位置と見えている位置を微妙にずらす。これだけじゃ盲目の父さんに通じないから、微妙にアレンジを加えてるんだけどね。

 

霧で視界が悪いが生体反応で相手の位置を把握しているこの状態の私には関係なし。生体反応がする方向に

バチイイイイイ!

地面に電気を流し、麻痺させることを試みるが、霧の向こうでジャンプで躱したようだ。

そんなこっちに向かってジャンプして来る父さんを雷球で迎撃しようとするが…

 

(あれ…?)

 

そうだった…ここでは私は魔力を補給できないんだった。ペース配分を…

 

「ペース配分を見誤ったね」

 

私の思ってることを推理したのかそう言いながら飛びかかってきて、この魔力がきれた紅華()では何も対処することができず…

 

「これで僕の99連勝だね」

 

父さんは私を押し倒しながらニコォー!と笑っていた。150年以上生きてるのに、私よりももっと歳下の少年みたいな感じで。

 

☆★☆★

 

父さんとの模擬戦を終え、自室に戻るためにイ・ウーの廊下を歩いているのだが…その足取りは重い。

クソー、生まれてこの方父さんに対して99連敗。四年ぶりの対戦だから勝てるかと思ったけど、まだ甘かったか…

深海や天空は私の能力を存分に使えないんだけど……

とはいっても、負けた言い訳にはならない。今までの99戦。父さんに対して一撃も入れれたことないからなあ…

 

(もし魔力がきれた状態でも戦えたら……)

 

とは思う。父さんはバリツと超能力のハイブリッドに対して、私は紅華の場合超能力、銀華の場合徒手格闘と完全に別れてしまってる。どちらを選択してもハイブリット型には有利状況を取られるのは確実。はあ…自分の体質が憎らしいよ…

ドナドナが聞こえてきそうなぐらい、がっくり肩を落としながら私の部屋にたどり着くと、そこでそわそわしてる人間がいた。

 

「セーラ、久しぶり。こんなところで何してるの?」

 

私の部屋はイ・ウー最下層部。用事がなければこんなところに来るわけがない。つまりセーラは私に用事があるはず。

そう思って話しかけると

 

「うわあぁあぁ!」

 

涙ぐみながら詰め寄ってきた。

 

「先生、助けて助けて」

 

私に抱きつきながら何かをお願いするセーラ。まるでこの前泣き落としをしようとしていた誰かさんに似てるね……

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

私はプロ。雇い主の人種や思想は問わない。1ポンドでも高く報酬を出す方につくし、仕事ならたとえ貴族でも牧師でも射る。なので私の視線の先にいるのは、これから射抜くターゲットの人物であることが多い。だが今この時は、それに当てはまる時ではなかった。

 

「せーの」

 

「「「お姉ちゃんたちありがとー」」」

 

この施設で一番広いと思われる教室で私は、たくさんの子供と向かい合っていた。

今日のターゲットはこの小さい子達ではない。横に笑顔で『どういたしまして』と返している紅華曰く、今日は仕事ではなく、ボランティア。

 

今、私たちがいるのはスコットランドの孤児院。紅華が建て、私が度々寄付をしている施設。

稼いだ金を貧しい人にあげるのがフッド家の生業。貧者がいなくなるまで私の戦いに終わりはない。そして紅華も似たような主義を持っているから、私と似たようなことをしている。そして紅華は裏切ることはないので、信頼を置ける。

この二つの点から私が唯一、金以外で動くことを考させる人物。現に1ポンドも金にならないのにここに来ているし。

 

「久しぶりだけど、みんな元気だった?」

「うん」「紅華お姉ちゃんも元気そう!」「背はちっちゃいままだけど!」

 

紅華に話しかけられると、子供達は嬉しそうに紅華に言葉を返す。

 

私が今回紅華に出した救援依頼は、孤児院への同行。ここに度々寄付をしている私に対して、お礼を言いたいと言う招待状が来ていたのだが、その日は毎回仕事と被っていたので断っていた。しかし、今回は再就職するまでのオフの時間の招待が来たので、どうするべきなのか迷ってしまったのだ。

私のオフはブロッコリーの育成かブロッコリーを食べることか弓の練習ぐらいしかしていない。ましてや、少数ならまだしもたくさんの小さい子の前で喋ることなんて当然したことはない。脳のキャパが教授や紅華に比べて小さい私はどうするべきかわからなくなってしまい、オーバーヒートした私は、紅華に助けを求めたっていうのが2人でここに来た経緯となっている。

 

ここでの慕われ具合からわかるけど、ここでの紅華はヒーロー。イ・ウーにも研鑽派の峰理子のように紅華を慕っている人物がいるからわかるけど、紅華は人を惹きつける何かがあるから、それが子供達をも惹きつけているのだろう。

 

「ねえ、新しいお姉ちゃんは紅華お姉ちゃんの仲間?」

 

と1人の女の子が私を指さすと

 

「そうだよ。このお姉ちゃんの名前はセーラ。忙しい中、貴方達のために来てくれたんだよ!」

 

紅華は子供達に、大げさなジェスチャーで私を紹介する。

すると、

 

「やっぱり紅華お姉ちゃんの仲間なんだ!」

「すっごい!」

「ねえ、お姉ちゃんはどこで戦ってるの?」

 

子供達がキラキラした目で私の方を向いてくる。ううっ…そ、そんな目で見られると恥ずかしい。

 

「私はプロ。依頼されればどこにでも行く。でも、最近はヨーロッパ。その前は北米だった。貧者がいなくなるまで、私の戦いに終わりはない」

 

そう私が答えると、ワーオ!と子供達は私を紅華と同様にヒーロー認定。ううっ、どうしてこうなった…

 

「セーラお姉ちゃんと紅華お姉ちゃんどっちが強いの?」

 

今度は私を取り囲んで来た子供達から、そんな質問が飛び出る。どう考えても紅華…

 

「戦ったことはないけれど…セーラの技はすごいよ。2km先から同じところに矢を命中させれるんだ。嵐を巻き起こしたり矢で銃弾を迎撃したりできるし、たぶん私負けちゃうんじゃないかな?この風を操る『颱風(かぜ)のセーラ』には」

 

そんな(うそぶ)いた紅華の発言を聞いて、颱風のセーラすげえええええええええ!と目を見開いて唱和。周りに集まってワイワイと騒ぎ立てられる。ううっ、助けて……

それから私は今までの仕事のことについて聞かれたり、急に始まった広い庭での子供達のフットサル大会で紅華と共にチームに入れられたりと忙しい時間を過ごした。

私もそんな上手いわけではないけれど、相変わらず紅華の運動能力は超能力抜きにすると極端に下がり、止まっているボールに対して空振りするなど子供達より下手。

……けど、子供達も紅華も楽しそうだった。

 

フットサルがひと段落つき、紅華と並んでペットボトルの飲料水を飲みながら一休みしてると、隣の紅華に声をかけられた。

 

「子供達、可愛いでしょ?」

「うん。でもまだちょっと苦手」

 

私が事実を述べると、あははという風に紅華は可愛く笑った。

 

「先生は、どうしてこんなに子供達に手を掛けるの?」

 

紅華が建てたり、訪問してるのはこの施設だけではない。でも、子供達の様子を見るとかなりの回数、ここの施設には来てるようだった。

 

「ねえ…セーラ。貧しいってなんだと思う?」

「………金銭的に貧しいってことじゃないの?」

 

私たちの家ではそう言われてきた。仕事で金を稼ぎ、それを配ることで貧者をなくすのが私たちの家の使命だと。

私がそう答えると、ううんという風に首を振った。

 

「セーラの言う通り、お金の面で貧しいってこともあるけど…私はそれだけじゃないと思うんだよね」

「それだけじゃない…?」

「そう。私が思うのは心の貧しさ。あの子達は両親がいないじゃない?表には出さないけど、多かれ少なかれ寂しい思いをしているはずだよ」

 

まるで自分のことのように話す紅華を見て、はっと思い出した。紅華も幼い頃に母親を病気で亡くしている。紅華の話は推測ではなく、実体験からきているのだろう。

 

「貧しさは『生命力』の低下に繋がる。そして生命力の低下は私にとって見過ごせない。」

 

紅華が提唱した生命力という力。紅華の超能力は荊を操作する物ではなく、この生命力を操作するものと知らされている。この能力があるおかげで紅華はイ・ウーで医者という地位を確立している。

 

「だから、少しでも心の貧しさを減らせるように、なるべく子供達と触れ合うようにしてるの」

「先生はすごいね」

 

そこまでは考えたことがなかった。貧しい者を救うには金を与えて金銭的な貧しさから脱出させることしか考えていなかった自分が恥ずかしい。

 

「でも、セーラの貧しい人を救う方法も間違ってないよ。金銭的な貧しさは心の貧しさに直結しているからね。金銭的な貧しさを解決するのが心の貧しさを解決する一番の近道な場合もある。だからセーラはセーラの生き方をするべきだよ」

 

紅華がそう締めくくると、すっと立ち上がりこちらに走ってくる金髪の女性に向かって、ぺこりと頭を下げる。金髪の女性はこの孤児院の院長だ。

 

「ご無沙汰しています」

「紅華さん、セーラさん。私からは月並みの言葉しか言えませんが……いつも、ありがとうございます」

「これが私の生業(なりわい)。感謝されるようなことはしてない」

「もうっ、セーラ!変なこと言っちゃって、すみません」

「いいんですよ。生業でもなんでも。あんな額を何回も寄付してくださる方が悪い方なはずありませんから」

 

悪い人じゃないと言われ、恥ずかしくて顔に血が上っていくのがわかる。横で、可愛いなあ、みたいな目で見てくるのが紅華じゃなかったら射抜いてた。死人にくちなし。

 

「そう言えば、紅華さん。見ないうちに女ぽく綺麗になりましたね。愛する男性でもできました?」

 

確かに、女ぽく綺麗になったとは思う。背は変わってないけど。でも紅華が恋愛なんてありえない。男なんて下らない生き物だし…

 

「…わかっちゃいますか?」

「ええ、昔から恋する乙女は綺麗になると言いますしね」

 

--スルッ

ショックで手からペットボトルが滑り落ちてしまう。

紅華に男?だれ?私の紅華を奪った男は誰。

 

「紅華さんが好きになるなんて、よっぽど素敵な方なんですね」

「はい。私の自慢の彼です」

 

書物で読んだことがある。これは完全に心を射抜かれているってやつだ。仕方ない…

紅華の()を射抜いたその射手()()()を、今度は私が射抜き紅華を取り戻す。私の誇りに賭けて。

 

そう決意しながら、昼過ぎの晴れた空を見上げた。

 

 

 




銀華(紅華)がギャグキャラ化していないだと…いやいいことなんだけどさ…

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