哿と婚約者   作:ホーラ

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遅くなりました…


注意:微原作改変、キンジ視点


第24話:アンハッピーバースデー

幸せは長く続かないと言う。

高校生活を不知火や武藤、そして銀華のお陰で平和……とは言えないが、比較的幸せに過ごしていた俺へ降りかかってきた突然の不幸。

それは兄さんの死だった。

 

 

 

――金一が事故にあった。

12月24日、明日の銀華の誕生日の為に家でいろいろ準備をしている時、実家から電話がかかってきて、暗い声をした爺ちゃんからそう聞かされた。

浦賀沖を航行していたクルージング船・アンベリール号が海難事故を起こした。事故の原因は爺ちゃんだけではなく、まだ警察も詳しいことはわかっていないらしい。

幸い、乗客は救命ボートで脱出できたことにより皆無事。

だが、兄さんは乗客を逃していたせいで、自身は逃げ遅れ、未だ行方不明らしい。

兄さんの安否を心配するあまり一睡することもできず夜を明かした朝、少しでも情報を集めようとテレビをつけて飛び込んできたのは……

 

『彼は特命武偵だったのです。その立場にありながら事故を防げなかったのは、彼の実力が足りなかったからと言わざるえません』

『武装を許可されている武偵の身でありながら、事故を防げなかったなんて…嘆かわしいことです』

『彼の実力が足りてれば、乗客は危険な目に合うこともなかったでしょうし、クルージング・イベント会社もクルージング船を失うという多額の被害を受けずに済んだでしょう。事実、同乗していた武偵が有能な人なら良かったという声が救助された乗客から声も上がっています』

 

まだ行方不明の兄さんに向かって投げかけられる罵詈雑言の数々であった。

さらにニュースによると、夜間の懸命の捜索が行われたが事故が起きたのは潮の流れが早い所だったらしく、兄さんは見つからず、捜索は早くも打ち切られたらしい。つまり兄さんは見捨てられ死亡扱いにされたということだ。

そんな現実感のない情報は頭に入らず、テレビにでている奴に対して怒りが湧いてくる。

 

(クソッ!)

 

なんで兄さんが非難されなくちゃいけないんだ。何のために命を賭して乗客を助けたんだ。人的被害は出ていないじゃないか!

 

(誰のおかげで乗客が助かったと思ってるんだ、こいつらは!!)

 

TVに映るコメンテーターへのはらわたが煮えたぎるような感情で俺はTVを消す。

本当は銃でTVを撃ち抜いてやりたい。だが壊れるのは俺の部屋のテレビだけで放送が止まるわけではない。

その後俺はふと思い出し、緋色のバタフライナイフを取り出す。これをくれたのはカナ―――つまり兄さんだ。

そして、その兄さんは…………

 

死んだ

 

もういない。

あの憧れていたヒーローはもういない。

俺の憧れで尊敬していて、いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった兄さんはもういない。

母さんが死んで寂しがっていた俺を女装して慰めてくれた優しい兄さんはもういない。

 

「うっ、う…兄さん」

 

その現実を受け止めるためた途端、口から嗚咽が漏れ、目からは涙が溢れでる。

母さん、父さん、そして兄さんまでも…

 

「うぁああああぁぁあああああ……!」

 

俺はここ最近あげたことのなかった泣き声をあげた。

 

 

 

 

 

一頻り泣いた。

同部屋のやつが任務で不在でよかった。こんな恥ずかしいところを見られたらたまったもんじゃない。話しかけられる気分でもないし、誰かにこのことを話す気分でもない。どうせそいつも兄さんを批判するだけだ。

(……今日は学校いいか………)

武偵高は年末まで授業があるのだが、今日は行く気分ではない。

 

--兄さんはなぜ人を助け、自分は死んだのか?

--なぜ死してなお、死体に石を投げつけられるのか?

--なぜスケープゴートにさせられたんだ?

--なぜ?

--なぜだ?

--ヒステリアモードのせいなのか?

--武偵をやっていたからなのか?

 

そんな疑問が頭の中を延々と駆け巡る。だが、その答えは出ることはなく、徹夜をしていたこともあって、意識が落ちてしまう。

 

――――――――

 

(ここは……どこだ…?)

 

俺が立っているのはどこかの広い草原。たった一人でその広い場所にポツーンと立っている。ここがどこか、なぜここにいるのかもわからない。

 

『キンジ』

 

そんな俺の名前を呼ぶ声がして振り返ると、そこにいたのは……

 

「父さん…母さん…!」

 

死んだはずの父さんと母さん。母さんは俺が小さい頃に死んでしまって、俺には母さんの記憶がほとんどない。だが、そこにいるのは母さんと直感的にわかった。本能というやつかもしれない。

俺はその二人の方に走りだした。一目散に。だが…

 

「…ッ………!」

 

地平線から恐ろしい速さで闇が迫ってくる。俺が二人に辿り着く前に二人を飲み込むぐらいの速さだ。

 

「……待って…!」

 

そんな声は闇に通用するわけがなく……俺が二人に辿り着くあと一歩のところで二人を包み込んでしまった。二人を包み込んだ後も闇が止まることはなく、

 

(しまった…)

 

俺までその闇の領域の中に突入してしまう。

母さん父さんはおろか、自分の腕や体すら見えない。こんな暗闇は体感したことがない。まるで星のない宇宙空間だ。

 

「父さん!母さん!」

 

そんな中を俺は必死に叫びながら手探りで二人を探すが、さっき二人が立っていた辺りにも姿はない。音の反響で探そうかと思ったが、こういうひらけた場所では音が反響しないので、何がどこにあるのかわからない。

俺は、本能的な恐怖を掻き立てられる闇の中、必死に二人を探し回る。

 

『キンジ』

 

また、不意に俺へ声がかけられる。今度の声は……

 

「兄さん!」

 

兄さん。暗闇が薄くなっているのか、兄さんの姿は見える。暗闇と同じ漆黒のコートを羽織り、上から下まで―――薄革の手袋まで全て黒ずくめの服を着ている。この場で異なる色は―――首周りをタテガミのように覆う白い毛皮と顔ぐらいだ。

だが当の兄さんは俺を呼び止めたにもかかわらず……

 

「…待って!兄さん!」

 

兄さんは闇の中へ歩き去ってしまう。漆黒のコートは暗闇と同化し、もうすでに見えない。その気配すらもうしない。

俺はこの暗闇の中で取り残されたのだ。ただ一人で、誰も残っていない暗闇に。

俺はもう何も見も聞きもしないことにする。なぜなら、目の前で失うのは嫌だから。そう思い膝を抱え塞ぎ込む。

 

『キンジ』

 

最近、一番よく聞いているからか耳に残るそんな女性の声がしたが、俺はそちらを見ることはなかった。

 

--------------

 

 

 

目を覚ましてベランダの方を見ると、もうすでに日も傾き始めた夕方。どうやら徹夜と泣き疲れで少し長い時間寝てしまったようだ。何か悪い夢を見た気がするが、今の現実より悪い夢はないだろうな。

 

(……………?)

 

台所の奥から何か物音が聞こえる。誰かいるようだが、同居人はしばらく帰ってこないと言っていたし、武偵の寮に盗みに入る馬鹿はいないだろう。誰だろう。心当たりがない。

一応誰か確認しとくかと思って、台所の方を見ると、そこにいたのは

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 

料理を作っている最中の銀華であった。

武偵校の制服にエプロンつけた姿でおたまを持っている。銀華はこの部屋の合鍵を持っているし何度か訪れたことがあるので、居てもおかしくはなく、その表情はいつもと変わらないのだが……今の俺には眩しすぎる。

 

「その顔だとどうせ朝から何も食べてないんでしょ?とりあえず、何か作るからできるの待ってて」

「……ああ……」

 

とりあえずグイグイと台所から追い出されたので、部屋に逃げることにした。今は誰とも喋りたくない。それは銀華も例外ではない。

俺は自室に逃げ込み、ドアの鍵を閉める。

しばらく自室で一人でいる時に思い浮かぶのは……なぜ兄さんがこんなに批判されなければならないのかということだ。正義の味方をしていたのに……なんで、なんでなんだよ、兄さん……

 

「キンジできたよ」

 

コンコンッ

ドアをノックしながらそんなことを言ってくる。朝から何も食っていないし、腹は減っている。だが…………

 

「いや、いい」

 

このドアを開けると一人ではなくなってしまう。今は一人で居たいんだ。

 

「ダメだよ、お腹すいてるでしょ?」

「すいてない」

「すいているよ」

「すいてないって言ってんだろ!」

 

思わず大きな声を出してしまう。

ドア越しにいるはずの銀華がそんな俺の声を聞いて、

--ビクッ

と身を竦めたのがなんとなく気配でわかった。

 

「……金一義兄(にい)さんのこと大変なのはわかるけど、それじゃあキンジまで倒れちゃうよ?」

 

倒れる?別にいいさ。俺は人生の目標である兄さんを失ったんだ。目標を失った俺は、言わば抜け殻。抜け殻にはお似合いだろ。

俺は銀華の言葉に返答せずにしばらく黙っていると……

 

「でもマスコミも言いたい放題だね…」

 

ポツンと銀華が喋り始めた。

 

「金一義兄(にい)さんは乗客を救ったのに悪者扱いされて」

 

やめろ

 

「正義の味方が、これじゃあ悪者だよ」

 

ヤメロ

 

「逃げ遅れなければ……スケープゴートにされることはなく、結果もまた変わってただろうにね」

「黙れ!」

 

俺は我慢できず、ドアの鍵を開け勢いよく開き、エプロン姿の銀華と向かい合う。

 

「お前に何がわかるんだよ!家族を失った悲しみ、人生の目標を失った悲しみ、尊敬する兄さんがバカにされる悲しみ。どれもお前にはわからないだろ!」

 

俺の心を理解してないようなことを言ってくる銀華に対して、思わずそんなことを怒鳴りつける。

 

「……うん、そうだね……私にはその気持ちは推理できない…だって私はキンジじゃないから」

「………ッ……!」

「でもね、キンジ」

 

銀華が俺に近づいてくる。

 

 

 

 

『一人で抱え込まないでよ』

 

 

 

 

 

俺の耳にはそんな声が届き、銀華は俺の頭を胸に抱いた。俺が銀華に抱きつかれるのは度々あるが銀華の胸に抱かれたことはあまりない。普段の俺なら、いきなりのことに慌てて突き放しまうかもしれないが……今の俺はそうしないでいる。

銀華という女性には、人を安心させ、柔らかく包み込む……そんな不思議な力がある。そんな気がする。ヒステリア性のものとは違う、落ち着いた気持ちになれる。

 

「一人で抱え込んでても何もいいことはないよ」

 

それを裏付けるかのように俺を抱く銀華の声は………優しい。俺はあんだけ銀華に対して怒鳴ったのに。

 

「キンジは私に嬉しさや楽しさなどの幸せだけじゃなくて、悲しみも共有していいんだよ、私たちは家族なんだから」

「家族…?」

「ちょっと気は早い気はするけどね…いずれ私たちは家族になって家庭を持つんだから問題ないでしょ?」

 

胸から見上げると銀華はちょっと顔を赤くし照れ気味。確かにちょっと気が早い。

 

「悲しみや困ったことがあって一人じゃどうすることもできない。そんな時に一人で抱え込むんじゃなくて、私に話してよ。一人じゃ無理でも二人だったらどうにかなるかもしれないし」

「銀華…俺は…」

 

何かを俺の口は言おうとするが、まだ言葉が紡ぎ出せない。

 

「私はキンジの婚約者。一番身近にいるからこそ私はキンジと気持ちを共有したい。楽しいこと、嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと全部。だから私に話して。今思ってること全部」

「う…うぐ、銀華……」

 

俺はそう言われ、再び涙腺が崩壊した。

俺は泣いた。

俺を優しく抱いてくる銀華の胸の中で泣いた。

一人の時より泣いた。

人前でこんなに泣いたのは父さんが死んだ時以来かもしれない。人前でこんな姿を見せるのは恥ずかしい。

……だが、銀華になら見せていいと思った。自分を飾ることなく、ありのままの姿を。

もしかしたら……これが………この感情が……

 

『恋』

 

ってことなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

俺は泣きながら銀華に話した。

―――兄さんが死んでしまい、家族で俺だけが取り残されたこと。

―――尊敬する兄さんが命を落としてまで救ったのに世間に非難されるのが悔しいということ。

―――なぜ兄さんは、死んでなお石を投げつけられるのかということ。

―――それは武偵のせいかもしれないということ。

 

銀華は聞き上手なところがあるので、自分で驚くほどスラスラと言葉が出てきた。

その聞いていた当人、銀華は俺が小さい子のように泣きながらいうのを俺の背中を撫でながら目をつぶって静かに聞いていたのだが、俺が泣き止むと……

 

「ねえ、キンジ」

「…ん?」

 

そんな声が頭の上から掛かる。

 

「一つ聞きたいんだけど」

「……なんだ?」

 

今の銀華の声はさっきまでの優しい声とは違い、人を従わせるような抗い難い声だ。そういった銀華は俺を胸から解放し、俺と向かい合う。抱きついていた時は分からなかったが向かい合ってわかった。

銀華は怒っている。

 

「なんでキンジは金一義兄さんは死んだと思ってるの?」

 

その言葉は、雷に打たれたような感覚を引き起こした。

そうだ…俺は兄さんを…勝手に死んだことにしてしまった……だが、

 

「捜索はされたが行方不明なんだぞ、そしてその捜索も打ち切られた。死んだと考えるのが自然だろ?」

「死体はあがったの?」

「……いや……そんな連絡はまだない」

「じゃあまだ生きてるって信じてあげなよ!マスコミや世間がなんて言おうと金一義兄さんはキンジのヒーローなんでしょ!尊敬する人なんでしょ!まだ行方不明なだけで死んだってわかんないのになんでキンジが諦めてるの!一番近い親族である弟のキンジが諦めたら、金一義兄さんは本当に死んじゃうんだよ!」

 

そんな大声が廊下に響き渡る。

--パリンッ!

俺の心の中で何かが割れた。

そんな銀華の一言で色を失った暗黒の世界が色を取り戻した……そんな気がする。

 

「最初はね、怒る気なかったんだよ。私も金一義兄さんのこと悪く言われて本当に腹が立ったし、行方不明で心配だったし。でも、キンジが金一義兄さんのことを死んだことにしてるのは許せなかった。人の生死はその瞬間を見るまで諦めたらダメだよキンジ」

 

涙を目に一杯ためた表情でそういってくる。銀華も怖かったのかもしれない。俺に怒って嫌われることが。でも言わずにはいられなかった。そんなところだろう。

 

「ああ……そうだな……」

 

気持ちを共有し、なおかつダメなところは指摘してくれる。そんないい婚約者(パートナー)が俺にはいるのだとわかると、

 

「うん、うん、その表情だよ。悲しそうにしてるキンジは私も見てて辛いからね」

 

銀華はうんうんと頷く。

 

「それに金一義兄さんは生きてると思うよ」

「それは推理か?」

 

期待を込めて聞くが……

 

「勘だけど」

「勘かよ……」

「だけど私の勘だよ?」

「そうだな…」

 

銀華の勘は鋭い。以前二人で組んで解決した事件なんて、銀華の直感がなかったら迷宮入りしていたかもしれないものまであった。

俺を元気にしようとするための励ましかもしれないが、ちょっとそれを聞いて元気が出た。

 

「銀華……ありがとな」

「ううん、これぐらいは普通だよキンジ」

 

笑顔でパタパタと手を振りながら銀華は俺のお礼に応えるが、振り終わると銀華は真面目な顔に変えた。

 

「それでキンジはどうするの?」

「どうする…?」

「武偵を続けるのか辞めるのか」

 

銀華にさっき聞いてもらった話の中に、武偵という職業に対する不信感があった。それに対する答えは決まっている。

 

「俺は武偵をやめる」

 

武偵は人々を助けるために、戦って、戦って、傷ついて、そして死体にまで石を投げられる。ろくでもない、そんな役回りじゃないか…

 

「そっか…」

 

そういう銀華は何か考え始めた。

俺の心情的には銀華にも武偵を辞めて欲しい。身近な奴がまた一般人に非難されるのは金輪際ごめんだ。優しい銀華ならたぶん武偵を辞めてくれるだろう。

だが、それを俺から言いだすことはできない。なんたって銀華は優秀な武偵。他の奴らからも頼りにされてる。そして、何より銀華の将来の選択肢をつぶしたくはない。

 

「そんな顔してたら、流石に私でもわかるよ……キンジは私に武偵を辞めて欲しいんでしょ」

「あ、ああ…」

 

そんなに顔に出ていたのか…

 

「………わかったよ。私も武偵を辞めて一般人になる」

「ほ、本当か!」

「うん」

 

とりあえず一安心だ。辞めることを反対されたり、銀華が武偵に残るかもと思っていたが、すんなりいって助かった……

 

衛生科(メディカ)の経験もあるし、私は看護師にでもなろうかな。キンジは何になるつもり?」

「うーん、そうだな……」

「主夫?私が頑張って養ってあげるよ」

「それは嫌だな…」

 

一生懸命外で働いている銀華と対照的に、家で家事をやっている俺を想像するが……俺は家事全然できんし、これはダメだ。銀華におんぶに抱っこになってしまう。

 

「それじゃあ新しく企業でも立ち上げたら?遠山何何株式会社みたいに」

「俺が作った会社なんて潰れるのがオチだぞ…」

「ううん、キンジは商才あるよ。私が保証する」

「勘か?」

「勘」

「やっぱり…」

「でも、私の勘だよ?ホームズが、“凡庸な人間は自分の水準以上のものには理解をもたないけど、才能ある人物はひと目で天才を見抜いてしまう”と言ったように、才能ある人は才能ある人が見抜けるんだよ。少し自画自賛になるけどね」

 

てへっという風に可愛く舌を出す銀華を見て、普段の調子が戻ってきた俺はふとあることを思い出す。

 

「銀華お前。今日誕生日だったな」

 

勿体つけるのもあれだから、思い出してすぐそんなことを言うと銀華がいきなり固まった。

その後……こくん。という風に頷きながら、

 

「そ、そうだよ」

 

緊張してるのか声が震えている。去年も一緒にデートしたのになんでそんな緊張してるんだ?銀華もだが、女ってやつはわからないよな、本当に。

 

「手。出せ。プレゼントやるから」

 

というと銀華は両手を出しながら

どっきん、どっきん。

という心音が聞こえてきそうな、緊張の面持ちになった。

 

「あ、いや。片手でいい」

 

と右手で銀華の左手を掴む。

さっき確認したが、俺はポケットの中に--

プラチナの指輪がある。

銀華が銃を撃っても邪魔にならないよう、宝石のない、 指輪をな。

これは今年任務でせっせと稼いだ金をコツコツ貯めて買ったものだ。かなり高かったが銀華に安物つけさすのは気が引けたので、高いものを買った。そのせいで財布は軽い。

だが……銀華の左手を胸の前に引き寄せた俺は、ふと気づく。

今更だが、この指輪。銀華の指をこっそり盗み見て大体で買ったのだが、どの指に合うサイズなのかまでは考えていなかったぞ。迂闊だった。

 

「そ、そ、それで……キンジは……私に何をくれるのかな……?」

 

銀華の声は震えているし動きはギクシャクしている。

 

「すぐわかるから。ちょっと指みせろ」

「ゆ、指!?な、ななな、なんで?」

 

目をまん丸にしている銀華の、白くて長い五本の指を近くから観察するが……親指、人差し指、中指……はダメだな。入らない。小指だとずり落ちる。

じゃあ薬指だな。

 

「ほら」

 

俺が昨日爺ちゃんから電話が来る前にポケットに入れといた指輪ケースを取り出し、パカっと開けると

 

「わー!わー!」

 

尋常じゃないテンパり方で銀華が叫び始めた。

そりゃ輪だよ。指輪なんだから。

 

「誕生日おめでとう、銀華」

 

と指輪を渡そうとするが、銀華はビビって震えているので、自分ではつけられなさそうだ。

仕方なしに俺が銀華の左薬指を取り、スッと指輪を填めてやると----

おっピッタリだ。良かった。

 

「う、嬉しい…」

「そんなに喜んでもらえて良かった。これからもよろしくな」

「--はいっ」

 

敬語になるぐらい喜んでもらえてよかったぞ。

兄さんが失踪したり今年は色々あったが…

ハッピーバースデー銀華。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はこの時はまだ知らなかった。

俺と銀華が一般人を目指したことで、世界中で超人共が戦う、あの戦争を引き起こしてしまうことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後編は銀華視点です
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