注意:理子の口調迷子
幸せは長く続かないという。
キンジに降りかかった不幸は兄さんの死というニュース。だが不幸はキンジだけじゃなく、私にも降りかかった。私を天国から地獄に突き落とすようなものが。
ーーーー
キンジを励まし、一緒にご飯を食べた後、私は自室に戻った。左の薬指にはまったプラチナの指輪を見る度に天にも昇る気分になるが、天に昇るにはまだ早い。私は確認しなくてはいけないことがある。
私は秘密回線処理のされた電話に手を掛け、数瞬悩んだが電話をかけた。数コールの後電話を取ったのは………目的の人物の父さん。
『銀華くん、久しぶりだね。それにナイスタイミングだ』
久しぶりに聞く声。その声は聞くだけでこれから嫌なことを言われると直感的にわかる。娘である私ですら全細胞が硬直してしまいそうな声であった。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
『その質問の前に一つ言わせてもらおう。ハッピーバースデー銀華君』
「ありがとう父さん」
実は今日、私の誕生日なことはキンジが心配のあまり忘れていた。自分の誕生日よりも
『さて、銀華君。僕から君に伝えたいこともあるが君の質問から答えよう。君が聞きたいことはなんだい?』
いつもの癖で少し回りくどい言い方をして父さんがそう言ってきた。それじゃあ遠慮なく。
「金一義兄さんは生きてるでしょ?」
『ああ、当然だよ』
その答えを聞いて一安心。勘は金一義兄さんが生きていると告げているし、推理もイ・ウーの一員になるために死んだことにしたという結論に至ったんだけど…証拠がなかった。キンジの家に行くまでに聞けば良かったと思われるかもしれないが、イ・ウーが攫ったという事実を知ってから、キンジに会って励ますことはしたくなかった。事実を知っているのに秘密にして励ますことは、キンジを裏切る行為だと思ったからね……最低限でも事実は知らない状態でいたかった。
「これは武偵殺しの一連の事件と酷似している。やったのは理子だね」
『ああ、そうだよ。そして金一君は進んで理子君に協力したようだ』
「ふーん……」
イ・ウーに本格的に入るために一芝居うったってところか。でも『義』を貫く金一義兄さんが悪の組織ぽいイ・ウーに本格的に入るとは思わなかったよ。今までイ・ウーにいたのは潜入捜査するためだと思ってた。もしかしたら他の狙いがあるのかも……
もう少しで狙いがわかるというところまで思考が進んだが…
『銀華君、僕は君に言いたいことがあるんだよ』
父さんの一言によって妨げられてしまう。
言いたいこととは何だろう…
娘の私にはわかるが、どこか不機嫌な声だ。
先ほどの勘と合わせて考えるとこれから言われることはいいことではないのは確かだ。
「何…?」
勘が告げている。
聞くな。聞いてはダメだと。
だが聞かないわけにはいかない。
好奇心がなかったとは完全に言いきれない……
が、それは主な理由ではない。
『イ・ウーの艦長として銀華君に命令する』
私はイ・ウーの一員。イ・ウーの一員である以上、リーダーである父さんの言葉は聞かなくてはいけない。
そう覚悟を決めた私に投げかけられた言葉は
『銀華君。キンジ君とは別れてもらう』
一番言われたくない言葉だった。
「ど…ういうこと…?」
『そのままの意味だよ。キンジ君との婚約を
破棄し、イ・ウーに戻ってくるんだ。ホームズ一族の中で最も優れた才能を持った、天与の少女―――君を極東の島国で生涯を終えさせたくはないからね。君を一般人なんかにはさせない。君は僕の後継者になるんだ』
少し怒ってるような口ぶりでいう父さんの言葉は理解できない。頭が動かない。
さっき二人で決めた一般人になるという決意が推理されていることに疑問を持ったり怒ったりはしない。そんな余裕はない。
ハハハ
私とキンジが別れる?
何か悪い冗談でしょ?
足元の地面が崩れ落ちる感覚。
深く寒く暗い穴に落ちて行く。
そんな感じがする。
「じょ、冗談でしょ…?」
『僕が冗談を言う人ではないことを君は知っているはずだよ?』
「なんでっ!」
私とキンジが過ごしたこの4年間はなんだったんだ。
「それじゃあ、なんで!」
最初は、なんでこの人何だろうと思ってた。
婚約者といってもただの観察対象みたいに思ってたし、もちろん恋心なんて持ってなかった。
……でも
一緒に過ごしていくうちに……
キンジに惹かれるようになった。
一緒にいて楽しいと思った。
横にいてほしい存在になった。
生まれて初めて『恋』をした。
「キンジと私を婚約者にしたの?!」
初めから婚約者にしなければ良かったのに。
父さんは初めから、私とキンジが一般人を目指すと推理できていたはずなのに。
そうすれば私はこんな悲しまずに済んだのに。
母さんが決めたことを最初から無視すれば良かったのに。
どうして…どうしてなの?
『推理の初歩だよ。君とキンジ君の婚約は緋色の研究―――緋弾のために必要だったからさ』
「緋色の研究で…?」
緋色の研究とは以前私も手伝っていた、緋弾―――
『君も知っているとは思うが、緋弾の継承には難しい条件があるんだよ。1つは緋弾を覚醒させられる人格に限りがあること。情熱的でプライドが高く、僕は自分自身そう思わないが……どこか子供ぽい性格をしなくてはいけない。2つ目は能力を覚醒させるまで三年の間緋弾と共にあり続ける必要があった。これは僕と銀華君…いや紅華君の二人で実験したからわかったことだ』
私が手伝った緋色の研究。それは緋弾の継承の
緋弾を少し削り、私の体に埋め込むという実験を9歳の頃にしており、今もまだ体に埋まっている。そのせいで私、『紅華』は身長が伸びず、もともと紅華の時も銀色だった髪の毛なども紅色になってしまった。
だがおかしなことに紅華から銀華に変わると髪は銀に戻る。父さん曰く、簡単にいうと、色金は紅華と超能力の力を渡す『法結び』を結んでいるから銀華には色金の影響はないらしい。色金に詳しくない私はよくわからないけど。
銀華と紅華の見た目は昔は同じだったのに、今は別人のように変わる理由である。
『そしてこの条件は最近わかったことだが、緋弾を覚醒させるには、緋弾を持つものは心理的に成長する必要があったんだよ。僕は緋弾の継承者―――アリア君を女性として成長させる存在をずっと探していたんだ。そして、覚醒させることができる人物を見つけることができた。それがキンジ君だ』
「……つまり私はキンジが緋弾を覚醒させれるかを見極めるための実験体として使われたんだね」
『言い方は悪いが、そう捉えられて貰えてもらって構わないよ』
ハハハ
馬鹿みたいだね。
わかってるいるつもりで何にもわかってなかった。
私は父さんの掌で踊ってただけだ。
婚約した後、一般人を目指すということもわかってて、それを理由にキンジとの婚約を破棄。
私と別れたキンジを四世にくっ付けるつもりだったんだろう。
そのことが分かり、ペタンと座り込んでしまう。
父さんの思惑通り、キンジと会って、仲良くして、恋して…
……キンジ……
会いたいよ……
会って謝りたい。
ずっと一緒にいるって言っていたのにいれなくてごめんって。
涙が目からこぼれ落ちる。
涙は顔を濡らし、顔からこぼれ落ち手を濡らす。そしてその落ちた涙は……
--キラリッ
と左手の薬指にはまった指輪輝かせた。
(キンジ…)
キンジがくれた指輪。キンジのことだから薬指にはめるという意味は理解していないだろうけど……気持ちは伝わった。キンジが私を愛してくれているって。それは私も同じ。
……その気持ちは父さんに作られたもの?
違う。
きっかけは父さんかもしれないけど、私たちの気持ちは私たちが一緒にいて、芽生えたもの。他の人に作られたものではない。
そうだよ。何諦めてんだよ私。キンジだって金一義兄さんが生きていると信じて、また立ち上がったんだよ。私がへこたれてどうするんだ。
「父さん」
『なんだい?』
「私はキンジと別れない」
『ほう…』
今から言う言葉は覚悟がいる選択だ。キンジが目標としていた武偵を辞めると言ったように、私は……
「私はイ・ウーを退学する」
生まれ故郷であるイ・ウーから出ることを決めた。
「イ・ウーを退学した私に対して、父さんは私に命令権を持たない。だから私はキンジと別れない。私は私の世界からキンジがいなくなるなんて耐えられない。生まれ故郷のイ・ウーを辞めること以上にね」
半ば意地になって言うと―――
父さんは黙った。電話口だが、どこか目を閉じているような気もする。
そして……
『銀華君。イ・ウーを辞めるということはこの後どうなることが起きるのかわかってるのかい?』
「初歩的な推理だよ。私の力を狙う奴らが現れる。イ・ウーという後ろ盾を失うからね」
『そうだよ。君の力は唯一無二だからね。君を欲している陣営なんて星の数ほどあるんだ。その中には強引に入れようとする集団もあるだろう。イ・ウーという組織から出て、フリーとなった君を世界が放っておくわけないんだよ』
「私は世界なんて知らない。キンジと共に平穏に暮らして死ぬ」
私がそうきっぱり言い切ると
『それが、世界の選択か…』
父さんはそう呟いた。
『それなら平穏に生きるといい…と言いたいところだが、僕は君の保護者だ。僕が生きている間は君の安全を見守る義務がある。銀華君。イ・ウー艦長とその生徒ではなく、父親と娘として取引をしないかい?』
「取引?」
『そうだ。僕が生きている間はイ・ウーの力で君を今まで通り守ってあげよう。だが、その間アリア君がキンジ君に接触するのも許してあげてほしい』
「緋色の研究のため?」
『そうだ』
悪くはない条件だが良くもない。だが、この条件で飲めばキンジと別れろとはもう言ってこないだろう。私としてはキンジと別れなければ問題はない。四世がキンジに接触するせいで、キンジとイチャイチャできる時間は少し減るかもしれないけど……父さんが死ぬまであと半年。それぐらいは私でも我慢できるよ。そしてこれが父さんの最後の頼みだろう。まあ聞いてあげてもいいか…
「わかったよ。あと、推理できてると思うけど、私はイ・ウーの次期リーダーにはならない。よろしくね、父さん」
そう言って答えを聞かず電話を切った。
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一方的に切られた電話を片手に僕は苦笑い。
相変わらず銀華君はキンジ君が関わると推理力が全く働かなくなるね。
僕はイ・ウーの"リーダー"である以前に銀華君の"父親"なんだ。いくら女心がわからないと言われている僕とはいえ、娘の幸せを奪う行為をするわけがないだろ?
キンジ君と別れろという命令に対して反抗を起こすのは今までの行動からすぐにわかる。
僕の本当の目的は取引で出した『アリア君がキンジ君に近づくことを許す』ことを銀華君に飲ませること。
この取引を最初から出しても、銀華君は確実に拒否するであろう。なので最初に怒ってるフリをして明らかに無理な条件を出し、譲歩するように見せ、飲ませたい条件を飲ませた。
キンジ君は
銀華君はキンジ君と今まで通り仲良く出来なくなり、不満が溜まるだろう。だがそれを乗り越えることで紅華君の色金は覚醒する。
また、アリア君はキンジ君を欲するだろうが、銀華君という強力なライバルがいるせいで自分のものにできない。アリア君の場合はそれを乗り越えることで緋弾が覚醒する。
『緋色の研究』最終章。その序曲の始まりはもうすぐだよ。
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金一を教授の命令通り、武偵殺しとして攫った2日後の12月26日。
武偵高に戻って来ていた私は銀華の家に招待された。
北条銀華。
ここ1年間私は銀華とは仲良くしてるけど……わかったこと言えばキンジに本当に惚れているぐらい。実力の底は見えないし、過去の情報も洗うことができなかった。雰囲気がどこか知っている誰かに似てると思うんだけど……あと一歩のところで出てこないんだよね…喉元まで出かかってるのに出ないこのもどかしさ。
そしてこのタイミングで私を家に招待するなんて、何か裏があるとしか思えない。だけど、あの事故を起こしたのが私に繋がると思われる物は何も残していない。それに事故から2日しか経っていないんだ。この短時間であの事故を起こした犯人とこの私と結びつけることができるのは、教授とその娘の紅華ぐらいだよね。
…あと、それと銀華の婚約者―――遠山キンジ。
金一の弟で、銀華の技も何個か使えて、実力は申し分なし。オルメスのパートナーにもうってつけだろう。
だが…問題は銀華とキンジ、二人が愛し合っているってところなんだよね。銀華なんてキンジといる時は周りにハートが浮かんでるし、キンジも銀華とそれ以外の人といる時じゃ表情が違う。
あの二人を引き剥がすなんて、できるのか?
教授は大丈夫と言っていたけど、不安しかない……
とりあえずは今は銀華と会う。
それでキンジを銀華から引き離し、オルメスと引きあわせるきっかけを掴もう。
そういうつもりで銀華の誘いを受けたんだし。
女子寮に着き、何度か訪れている銀華の家のインターホンを鳴らし
「しろろん来たよ〜」
と言う。数秒待つとバタバタと慌ただしくスリッパを鳴らす音が部屋の内部から聞こえ……
「はーい」
と言ってエプロン姿の銀華がドアを開けた。
「いらっしゃい、理子」
「何度見てもエプロン姿可愛いよしろろん!新婚のお嫁さんみたい!」
「えへへ…そうかな?」
相手自身の情報を上手く引き出すためにはいい気分にさせることが必要だ。そのために少し煽てておく必要がある。そして、銀華は乙女思考だから、お嫁さんや彼女という言葉を使うと簡単に喜んでくれる。チョロい。
「おじゃましまーす!」
元気よくそう言い、銀華は私の前を歩きダイニング兼リビングまで連れて言ったのだが、ふとある部分に目が止まった。
「しろろん…それって?」
私が注目したのは左手の薬指にはまった指輪。確か学校では着けてなかったよね。宝石とかは付いていないけど、輝きからして安物じゃない。
「これね、昨日誕生日プレゼントにキンジから貰ったんだ」
「へー、やるじゃんキーくん」
嬉しそうに笑う銀華は幸せ一杯といった感じだ。
あれ…昨日は金一が死んだと思って、キンジはショックで学校休んだらしいけど……恋人の誕生日祝う余裕があるなんて、そんなにショックじゃなかったのかな?意外とお兄さんに対して薄情だねキンジ。
「さてと……ご飯にしようか」
「わーい」
何度かご馳走になっているが銀華のご飯は美味しい。イ・ウーのリサが作る和食も美味しかったけど、銀華の方が美味しい。曰く花嫁修行の成果だそうだ。本当に一途だね銀華は。
今日のメニューは鰤の塩焼き、根菜の煮付け、しじみの味噌汁とご飯だ。
「いっただきまーす!」
「はい、召し上がれ」
食事中も会話に困ることはなかった。
私が一方的に話しても上手く答えてくれる。やっぱり銀華は聞き上手。
「しろろん、こんな美味しいご飯作れるんだったら私のお嫁さんにならない?」
とそんな冗談を飛ばしても
「嬉しいけど、私はキンジのお嫁さんになるつもりだから、ごめんね」
余裕の笑みで返してくる。
ぐぬぬ…冗談だとわかってる反応だけど軽くあしらわれると私のプライドが…
そのまま和やかな雰囲気で食事が進んでいき、食事が終わると--
ガタッ
銀華が椅子から立ち上がった。
そしてそのまま寝室の方に向かう。
「しろろん、どうしたの?」
「ちょっと着替えようかなって。お茶でも飲んで待ってて」
銀華は制服から私服に着替えたいのだろう、そのまま寝室に入って行く。
くふふ…銀華甘いよ。怪盗から目を離しちゃうなんて。警戒心が甘いよ。Sランクと言ってもそこまでだね。
私は監視カメラが仕掛けられている可能性も考え、不自然ではない感じに部屋を見渡す。
少しでも正体がわかるものがないか。キンジと引き離すのに使えそうな、少しでも弱みを握れる物はないか探す。
でも視界に入るのは、家具や電子機器、ハート型のクッション、写真立て。
写真立てにはキンジとのラブラブ写真が入ってる。銀華とキンジ、本当お互いに完落ちしてるね。
まったく…こんなラブラブカップルなのに、引き離してオルメスとキンジを引き合わせるにはいったいどうすればいいんだ。
そんなラブラブな写真を見て苦笑いしていると……
ブルルルル
ポケットの中の携帯が震えた。相手は……銀華だ。
…なんで近くにいるのに電話かけてきたんだろう?
「どうしたの、しろろん?」
「ちょっとお喋りしたくなったんだよ、理子」
ちょっと待って…少し怖いんだけど…
さっきまでの優しい声はどこ行ったの?
「いいけど…どうしたの?」
「ねえ理子、一昨日起きた浦賀沖海難事故のことは知ってるよね?」
「……知ってるよ、キンジのお兄さんが巻き込まれた事故だよね」
私が起こした事件なんだから。
「私はあの事故は誰かが引き起こしたものだと思うんだよ」
「………」
「理子、『武偵殺し』って聞いたことある?」
「…あるよ」
私のことだよ。
武偵殺しというよりは本当は武偵攫いなんだけど。
「『武偵殺し』の犯行はエスカレートしている。バイクジャックから始まり、次はカージャック。今回のがもし『武偵殺し』の犯行だったらシージャックだね」
「……本当に武偵殺しがやったとは限らないんじゃない?」
「確かにそうだね。でも私はこの事件、武偵殺しの犯行としか考えられないんだ。現代技術がふんだんに詰め込まれた豪華客船で沈むような海難事故が起きるとは考えづらい。外部からの干渉があったと見るべきだよ。そして、死亡したのは優秀な武偵である金一兄さん一人。この用意周到な手口・犯行計画などから挙げられるものからして、『武偵殺し』が起こした犯行にしか見えないんだよ」
銀華の言葉に私は額に汗をかく。
「そして私は、武偵殺しの犯人までわかった」
「……」
「そうだよね。理子・峰・リュパン四世。いや『武偵殺し』さん」
まずい。銀華を甘く見ていた。
オルメスと戦う前に私が武偵殺しだとバレるのはまずい。ブラドとの約束を果たせなくなって、本当の自由を奪い取る機会を失ってしまう。それを防ぐには…
「何を言ってるの、しろろん?私が『武偵殺し』なわけないでしょ?」
「一昨日理子学校休んだよね。一体どこにいたのかな?」
「……」
とぼけてみたが効かなかった。
なら……
「私の口を封じるつもりかもしれないけど無理だよ。理子には」
思考を読まれている。
だが思考を読まれているからといって負けたわけではない。
ただの武偵には負けない。
負けられない。
私は『
ただの武偵には負けない
負けられない。
絶対に負けられない。
ホームズ四世に勝つまでは絶対に負けられないんだ!
「うおおおおおお!」
雄叫びをあげて私は寝室に突っ込んだ。
両手に銃、ツーサイドアップのツインテールの両方に双剣を握らせて本気の姿で。
イ・ウーでは私は弱い。
でもただの武偵ではこの私には勝てない。
この時はそう思っていた。
だが相手はただの武偵ではなかった。
突っ込んだ寝室にいたのは……
紅の髪に、紅の瞳をもつ小柄な少女。
「だから無理って言ったでしょ」
その言葉に私の全細胞が硬直する。
なんで……なんでここにいるんだ。
「驚いているようだね。まずは武器を降ろしなよ」
そう言った後、紅華が小さく力むのが見え--バチイイイイイイイイッ!
「きゃああああっ!」
私はその場に転倒した。
こ、これは…!
この60〜90万ボルトの強力なスタンガンを食らったような衝撃…
ヒルダの超能力…!
「寝室で使うことになるとはね」
ヒルダの超能力を使えるのはヒルダと教授……そして紅華だ。
立とう……立とうとするがダメ。
意識は保てている。だが、全身の運動神経を痛めつけられ、筋肉に力が入らない。
「どうして……く、紅華……がここに?」
震える口からそんな疑問がつむぎ出される。
「ん?私の家だからだよ?」
「……え?」
ここは銀華の家なはず……ま、まさか!
「そうだよ。理子の予想通り私は二つの姿を持っているんだ。紅華・ホームズ・イステルと北条銀華。これが私の持つ二つの姿」
銀華の雰囲気がどこか誰かに似てるなと思ってたが紅華だったのか……!
「私は怒ってるんだよ。キンジを泣かせた理子にね。実行した理子だけじゃない。いなくなった金一にも命令を出した父さんにも」
紅華を怒らせてはいけないというのは、イ・ウーでは暗黙のルールとなっている。怒らせたらやばいということが知られているからだ。
「ねえ、理子。取引しよ?」
体を動かすことができない私を仰向けにしてマウント状態になる紅華。
「……取引?」
「四世との勝負、私も協力してあげる。キンジをアリアに少しぐらいなら貸してあげてもいい」
いい条件だ。というか良すぎる条件。紅華……いや銀華が自らアリアとキンジの接触を許すとは思わなかった。
「その代わり……」
紅華は一区切りつけ
「キンジを殺すな」
その時の紅華の顔は初めてみる顔だった。
紅華の顔に浮かんでいたのは怒りではなく…
キンジを失うことへの危惧や恐怖の感情であった。
銀華を泣かせたの許さねえからなシャーロック。
いつかぶちのめしてやる(キンジが)
次話から原作突入です