銀華の家に泊まった次の日。
「理子」
メールで呼び出した通り、理子は女子寮の前の温室にいた。温室は人気がないビニールハウスで、秘密の打ち合わせには便利な場所なのだ。
「キーくーん!」
温室の中にあるバラ園の奥にいる理子がクルッと振り返る。
こいつはアリアと同じぐらいチビだが美少女だ。
「相変わらずの改造制服だなおい」
「これは武偵高の女子制服・白ロリアレンジだよ!しろろんもこの制服持ってるのに知らないのキーくん」
「知らねえよ。着てるとこ見たことないし」
銀華は他の
「……って今は制服のことなんてどうでもいいんだ。ここでの事はアリアには秘密だぞ」
「うー!ラジャー!」
理子は気をつけのポーズになり、ビシッと両手で敬礼を取る。苦い顔でカバンから取り出した紙袋を差し出すと、理子はビリビリとそれを破いた。
「ううううわあああ!『しろくろ!』『シロツメグサ物語』『
理子はぴょんぴょん跳ねながらR-15ゲーム、いわゆるギャルゲーを振り回している。
理子の趣味はなんとギャルゲー。中でも特に自分と同じようなひらひらフワフワの服を着たヒロインが出てくるものに強い関心を持つ。
理子も15歳以上でこれらのものを買う事はできるのだが、身長を見て中学生と判断され売ってもらえなかったらしい。その代わりに俺が買ってきてやったというわけだ。
こんなものを買うのは死ぬほど恥ずかしいし、銀華に誤解されたら死にそうだが、これもアリア対策のためだ。
--アリアはなぜ、俺を奴隷にしたがるのか?
あいつを家から追い出すために最初に解き明かすべきはその謎だ。銀華がその辺の話をしていたが、協力ではなく奴隷ってことが納得がいかない。俺を奴隷扱いするのは1万歩譲って許すが、銀華を奴隷扱いするのは許せないからな。
情報を集め、それを使ってアリアを家から叩き出す。武偵同士の戦いはまず情報戦と相場が決まっているのだ。
「よし、早く教えろ。俺はトイレに行くふりして小窓からベルトのワイヤーを使って脱出してきたんだ。アリアにバレて捕獲されるのは時間の問題なんだぞ」
理子はバカだ。だが長所がある。ネット中毒者が故に、覗き、盗聴盗撮、ハッキングなどの情報収集が並外れて上手いのだ。こいつも今年の始め、俺と同じように強襲科から探偵科に移ってきたのだが、
「ねーねー、キーくんはしろろんとラブラブなのに、アリアと浮気してるの?」
「してねえよ」
「ねえねえ、どこまでしたの?」
「どこまでって」
「えっちいこと」
「バカ!あいつとするわけねえだろ!」
「ヘェ〜、その言い方だとしろろんとはヤってるような言い方だねぇー」
クソ……嵌められた。理子は満面の笑みで、このこの〜というように俺の脇腹を肘でついてきた。ムカつくなおい。
「そんな事はどうでもいい。それより本題だ。アリアの情報…そうだな。まずは強襲科の評価を教えろ」
「キーくん。話題そらしたけど後で取り調べするであります。それで、アリアの情報だけど、んーと…まずはランクはSだったね。2年でSって片手で数えられるぐらいしかいないんだよ」
別に驚きはしないな。ヒステリアモードの俺とまあまあ互角に戦える身のこなしは常人ではない。
「それに徒手格闘も上手くてね。ボクシングから関節技までなんでもありで、しろろんも使う流派……えっと…」
「バーリ・トゥードのことか?」
「そうそれ。それを使えるの。イギリスでは省略してバリツって呼ぶんだって」
体育倉庫で俺はアリアにぶん投げられたんだが…あれは凄かった。ヒステリアモードでも受け身を取るのが精一杯だったからな。
「拳銃とナイフ、この二つの扱いは天才の領域。両利きでどっちも二刀流らしいよ」
「それは知ってる」
「じゃあ
二つ名--優れた実績を持つ有能な武偵には自然と二つ名がつく。
俺と銀華のペアの二つ名『
それをあいつも持っているのか。
知らないといった顔を俺がすると、理子がニヤリと笑った。
『
--双剣双銃。
武偵用語では二丁拳銃や二刀流の事はダブラと呼ぶ。
これは英語のダブルから来てるんだよ、と自身も二丁拳銃を使いダブラになる銀華が言っていたのだが、そこから考えるに
「笑っちゃうよね。双剣双銃なんてさ」
「いや、笑いどころが俺にはわからないのだが…まあいい。他には…あいつの武偵の活動について知りたい」
「その件に関してはスゴイ情報があるよ。アリアは14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活動していてね…その間、一回も犯罪者を逃した事はないらしいんだよ」
「逃した事がない?」
「そう。狙った相手を一度の強襲で全部捕まえてるんだよ。99回連続パーフェクト。ま、キーくん達は100回以上事件を解決してるけどね」
まあそれは銀華のおかげなんだが…
というか一人で一発逮捕を99回連続ってバケモノかよ。そんなやつ普通いない……銀華はできそうだな。
銀華レベルの奴に追われているのかよ俺は。
気が滅入りそうだし話題を変えるか。
「他には。そうだな、例えば体質とか」
「アリアってお父さんがイギリス人とのハーフなんだよ」
「てことはクォーターか」
銀華もクォーターだし、周りのやつクォーターだらけだな。
「そう。で、イギリスの方の家がすっごく高名な一族で、ミドルネームの『H』家なんだよ。おばあちゃんはデイムの称号を持ってるんだって」
「やっぱりあいつ、貴族か」
「そうだよ。リアル貴族。でも家の人たちとはうまくいってないみたい。だから家の名前は言いたくないみたい。まあ理子は知ってるけど」
「教えろ。ゲームやっただろ」
「まあ、イギリスのサイトでググればいいじゃん。それかしろろんに聞くか」
「銀華には聞けないし、俺は英語無理なんだよ」
銀華に他の女子のことを調べさせるのは流石にどうかと思って理子に調査依頼したのに、聞いたら意味なくなるじゃねえか。
「がんばれ!」
と俺の背中を叩こうとしたらしい理子のちっこい手が思いっきり空振り……
バシッ
と俺の手首をぶっ叩く。
「うお!?」
ガチャ。
その勢いで俺の腕時計が外れて足元に落ちた。
拾い上げると金属バンドの3つ折れ部分が外れてしまっている。
「う!ごっごめーん!」
「別に安物だしいいぞ。もう一つ銀華に誕生日でもらった腕時計があるし」
以前、誕生日プレゼントとして銀華にもらった腕時計は高そうなやつだったから大事な場面用に取ってあるが…安物が壊れたなら仕方ない。それを使えばいいだろう。
「え、それ?本当…?」
「ああ…ってどうしてそんな顔が青いんだ?」
「ううん、なんでもないよ。他にはなんかある?」
「もうそのぐらいでいい」
そう言って俺は温室から立ち去った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
私が家で食後のお茶を飲んでいる時、携帯が鳴った。相手は理子だ。
「こんばんは、どうしたの理子?」
『しろろん?今一人?』
「ん?そうだけど何かな?」
『聞きたいことがあるんだけど』
声のトーンが下がり、いつもの理子ではなく、イ・ウーにいるときのような声になった。
……なるほど推理できたよ。
「キンジは二つ腕時計持ってるよ」
『紅華はキンジに…って流石の推理力だね』
「理子はバスジャックするつもりで、わざとキンジの腕時計を壊した。キンジをバスに乗り遅れさせるつもりで。本当は修理を口実に時計を持ち帰り、細工を仕込むつもりだったけど、腕時計が二つあるならそれは無意味。どうしたもんかという具合で私に電話してきた。違う?」
『その通りだよ…』
呆れたように理子がそう言った。
「とりあえずキンジをバスに乗らせなければいいんだよね?」
『そう。それで四世と組ませる』
「まあ、それぐらいだったら協力してあげるよ」
『本当?』
「うん、約束だからね」
『詳しい日時はまた連絡する』
「りょーかい、じゃあまた」
そう言って電話を切った。
ふう…
ここ最近ずっと、気持ちがモヤモヤする。
私にとってキンジと神崎を組ませるのは楽しい話じゃないからね…
父さんや理子との約束だし仕方ないんだけど。頭でわかってても気持ちは別だよ…
キンジが私に依存してるかと思ってたけど逆。
私の方がキンジに依存してたんだ……
翌日の昼休み、
「銀華」
ガヤガヤと賑やかな学食の中、一人寂しくハンバーグ定食を食べていたら、キンジが話しかけてきた。自身もハンバーグ定食のトレイを持って、私が座っていた2人席の空いてる席に座る。
「キンジ。珍しいね、キンジの横に誰もいないなんて」
昼休みはお互いの友人と食べることが多い。
キンジはよくつるんでいる武藤くんと不知火くんと。私は学科の子と。
そんな深い意味で言ったわけではなかったんだけど…
「あー……アリアなら俺の家から出て行ったぞ」
頭をぽりぽりかきながら、キンジはそう言った。
アリアとの関係を当て付ける意味にとったみたい。
まあ、あれは仕方のないことだから…そんなに怒ってはないんだけどね…
神崎が勝手に押しかけただけだし。
「どうやってアリアを追い出したの?」
「…約束したんだ。強襲科に戻って一回だけ組んでやるって。そのことを銀華に許しを請いにきたんだが…」
私たちはHSSのせいで勝手に相手が異性と組んじゃうとベルセになっちゃうからね。最近はお互いマシになってきたとは思うんだけど、一応許可をとりにきたってところかな?
「…まあ、仕方ないよ…キンジの家にいつまでも神崎が居座るのは嫌だろうし」
「ごめんな。最近放っておいてしまって」
「ううん。私もそれぐらい我慢できるよ。キンジが悪いわけじゃないんだし」
本当はあまり我慢できていないけど…
「今日、強襲科に戻るんだが一緒に行かないか?」
「うん。行く行く」
まあ、あと4ヶ月弱の辛抱だよ…
だけど、この後、私の機嫌はキンジの一言で、劇的に改善した。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
強襲科でのトレーニングは、最低限のノルマをこなせば何をやっても自由だ。自分が何の訓練をすれば将来生き延びられるか、自ら考え、自分で実践するという習慣をつけさせるためだ。
なので放課後にも射撃や
横にはあかりも一緒だ。
横にいるあかりはエクササイズバイク、アタシはプッシュアップ・トレーナーで腕立て伏せをしている。あかりはアリア先輩が来ないか気になるようで、ガラス窓ばかりチラチラ見てる。まあアタシも銀華先輩が来ないか気になるんだけど。
「なあ、あかり?アリア先輩ってどんな人なんだ?」
腕立て伏せをしながら、アリア先輩の戦妹のあかりにそんな話を振る。
「厳しくて不器用だけど意外と優しい人だよ。ずっと先にいる存在だけど、いつか横に並び立てるようになるまで頑張ろう、と思わせてくれる人かなあ」
「へー、この前見た感じ厳しそうな人だと思ったけど、意外と優しいんだな」
「銀華先輩はどうなの?」
「先輩は優しいけど厳しいところもあるな」
「もしかしたら、戦姉はみんなそうなのかも。で、ライカは本当の戦妹になれそう?」
「わかんねえ。でも、やるだけのことはやるだけさ」
ライカらしいねとあかりは笑うけど、結構難しい問題なんだぞ…何せ戦姉妹契約の条件が銀華先輩に気に入られればいいっていう条件になったんだけど、あの人結構変わってるからな…
気に入られ方なんて分からない。
唯一気に入られてるとわかっているのは先輩の婚約者の…
「キンジが強襲科に帰ってくるって!?」
「マジかよ!キンジってあの『
「パーフェクトの復活か!?」
2年の先輩たちがそんなことを話す声が耳に飛び込んでくる。
そんな声を聞いて緊張で唾を飲む。
「……ライカ?」
いきなり黙ったアタシにあかりは声をかけてきた。
「この前言った伝説の男、遠山キンジが帰ってきたらしい」
「あのバケモノ…」
あかりの中ではどうやら遠山先輩はバケモノ扱いになってるらしい。まあ見たことなくて噂だけ聞いてたらそう思っても仕方ないか。
「前、銀華先輩の家でお世話になった時に、少しだけ顔合わせしたんだが…あっあれだ」
二階の内窓から人だかりが見える。その人だかりの中心では、少し目つきの悪い、暗そうな一人の男子--遠山先輩が髪をくしゃくしゃにされたり、服を引っ張られたりと揉みくちゃにされていた。
その様子を見てあかりは…
「……なんか…想像してたのと違う……」
まあ分からなくもない。バケモノみたいな大男を想像していたら、実際の遠山先輩は普通の男子高校生だからな。
「そう見えるんだよなあ。銀華先輩の婚約者だから、まあまあイケメンとはいえちょっと暗めだし。上勝ちすると大手柄だから、狙ってる奴もいるけど、アタシはやめといたほうがいいと思うんだよなぁー」
「まあ、いつものキンジが頼りなく見えるのも無理はないよね」
あかりではない声が聞こえて後ろを振り返ると……
「「銀華先輩!?」」
「やあライカと間宮さん」
ニコニコ顔の銀華先輩が立っていた。
……というか、銀華先輩が大好きな遠山先輩を微妙にdisってたこの状況、まずくないか?
人生で銀華先輩に話しかけられて不味いと思う時が来ると思わなかった。
「どこから聞いてたんですか?」
「ん?ライカの『銀華先輩の婚約者』ってところからかな」
やべ…ちょっと暗めっていうところ聞かれてたか。でも機嫌がいいのかそんなに悪い意味に取られなかったみたいだ。そこは良かった。
「あの、銀華先輩は…遠山先輩の婚約者なんですよね?」
「うん、そうだよ。……間宮さんって私のことあんまり知らなさそうだし、もしかして一般中学出身?」
「あかりは去年の二学期に
「まあ、それなら私たちのこと知らなくても仕方ないか」
アタシが補足説明すると先輩は頷いた。
「それでどうしたの?」
「その…なんていうか…」
「想像と違うって言いたいのかな?」
「なんでわかるんですか!?」
なんでわかるって?そんなの決まってるだろ?
「初歩的な推理だよ間宮さん。キンジの噂なんてSランク、入学試験トップで強襲科の首席候補、
「はい…そうです。すごいですね、銀華先輩は」
そりゃ銀華先輩は探偵科のSランクだからな。こんな推理、造作も無いだろう。
「ありがとう。ま、さっきも言ったけど普段のキンジはそこまで頼りになるタイプじゃないんだよ」
「そうなんですか?」
前、先輩から聞いた話だと、絶賛の嵐だったんだけど…
「でもね。時々本当にかっこいいんだよ。そのギャップがキンジのいいところでもあるんだよね」
やっぱり銀華先輩は遠山先輩のことが大好きなんだな。横のあかりなんてそれを聞いて顔真っ赤にしてるし…
「あ、そういや。先輩。どうしてここにきたんですか?アタシとの稽古まで少し時間ありますよね」
「ありがとう、ライカ。本来の目的忘れてたよ。でも、ここには居ないようだね。じゃあ、また。間宮さん、ライカ」
と言って立ち去る先輩だけど…
「自由な人だなあ…」
あかりの意見にアタシは横で首を縦に振った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
私は強襲科に戻ったキンジの様子を人だかりの外から見ていたけど……ふーん。人気者なんだね。ちょっとビックリした。
キンジは人付き合い悪いし、ネクラ?って感じもするんだけど…
あたしになんか、誰も近寄ってこないのに…実力差がありすぎて誰も合わせられないのよ。まあ、あたしは『
そんなあたしに近づいてくる人がいた。
「あ、いたいた」
長い銀髪を携えた銀華だ。
「あんた、強襲科にはあんまり来てないみたいだけど、珍しいわね」
キンジのことを調べるついでに、この銀華についても調べた。どこかあたしに似てる気がするんだよね。上手く言えないけど。
「まあ、この前来たんだけど。サボっていた神崎はいなかったから、知らなくても無理はないね」
銀華は挑発するような口調でそう言ってくるので、あたしは思わずカチンときてしまう。
「あんた、言うわね」
「別に事実を言ってるだけだよ」
「…………そうだ。あんたも事件解決に協力しなさい。キンジは一件やると言ったわよ」
「私にメリットがない」
「は?」
「は?私にメリットがない依頼を受けるわけないでしょ」
「報酬は出すわよ」
「金はいくらあっても足りない……でもそれだけで動くぐらい私は安くない」
「どうしてもやらないって言うの?」
「お前がメリットを提示するまでは」
腕を組んで馬鹿にするような言い方で私を見る銀華を見て、頭に血がのぼる。
「じゃあ!勝負よ!私が勝ったら言うことを聞きなさい!」
「じゃあ私が勝ったら、私はアリアと一生組まない」
「ふん、いいわよ。どうせあたしが勝つから」
「大した自信だね。まあそんな子の鼻を折るのが大好きなんだよ私は」
「か・ざ・あ・な!」
あたしと銀華は睨み合いながら闘技場に移動した。
忙しくて7〜10日に一回投稿になりそうです…