注意:高1の時のお話、今日は11月11日、いいね?
銀華の家で夕食を食べた後に行われる、いつものお茶の時間。俺たちがいるのはダイニングの4人掛けのテーブルで、いつもは俺の正面に座る銀華だが、今日は珍しく俺の横に座った。
「今日のお茶菓子はこれです!」
ジャジャーンという風に銀華が取り出したのはポッキー。
「日本では11月11日はポッキーの日と言うらしいからね」
「まあ正確にはポッキーとプリッツの日らしいがな」
ポッキーとプリッツは、スティック状菓子の代表的な存在。その形が数字の"1"に似ていることから平成11年11月11日の"1"が6個並ぶ珍しい日にポッキーの日がスタートしたという裏話もある。
そのポッキーの袋の開け口を俺の方に向けてきたので、俺はそこから一本取って口にいれる。それを見て銀華も一本取り、リスのように、もそもそと食べ始めた。
「これ、おいしいね」
ニコニコ笑顔で銀華がそう言ってくる。
「まあな」
そりゃ、一大メーカーの看板商品だ。美味しくないわけがない。
そんな返事をすると、横の銀華はいきなり恥ずかしそうにモジモジしだして、新しいポッキーのチョコがついてない持ち手の方を咥え、チョコがついている方をこちらに向けてきた。
「いきなりどうした銀華?」
そんな質問を投げかけると、銀華は顔を真っ赤にして、咥えたポッキーを超高速でそのまま食べ……
ぽかぽかぽか。
両手で俺の二の腕を弱く連続で叩いてきた。
これはたぶん怒りの表現だろう。本気の怒りの1億分の1ぐらいで全く痛くないけど。
「だから、なんだよ」
「見てわからなかったのキンジ」
「さっぱり」
そんなことを言うと銀華が驚いたような不思議がるような顔になった。
「ポッキーゲームって知らないの?」
「……」
ポッキーゲーム。
これは日本の宴会などでよくやられる悪い風習のゲームだ。ポッキーゲームに明確なルールは存在しない。
「理子が恋人同士がやる一般的なゲームって言っていたんだけどなあ…」
それもそうだろう。
2人でやる場合、2人が向かい合って1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいき、先に口を離したほうが負けとなる。
もしお互いが口を離さずに食べ切った場合どうなるかは考えるまでもない。
その2人はキスをすることになるのだ。
それまでもいかなくても、お互いの顔を間近でおがむことになるので気恥ずかしさは免れない。
純粋な銀華は
「キンジ…本当に知らないの?」
俺とポッキーゲームをやることを楽しみにしていたらしい銀華は涙を瞳に溜め、ウルウルとさせている。そんな顔されると嘘つけなくなるだろ…
「…知ってるよ」
そう答えると、銀華の暗い顔は、太陽のような明るい笑顔に置き換わった。
「じゃあ、じゃあ!やろう!」
まあ…気恥ずかしくなったら先に離して負ければ……
「ねえ、負けた方に罰ゲームをつけない?」
「…罰ゲーム?」
「うん。負けた方が相手の言うことを聞くって言う罰ゲーム」
負けられなくなった。
「…罰ゲームはやめないか?」
「ええー、それじゃあ面白くないよ〜」
そんな声と共に、銀華は俺に全身をすり寄せてきた。
銀華、意外と天然だからこの辺はたぶん意識してやってないんだろうけど、体の凹凸の柔らかい部分を当ててきてやがる。あの殺人的に馨しい髪も近いし、ヒステリアモードの火薬庫かよ、銀華は。
「わかった。わかったから!罰ゲームでもなんでもするって」
そんな約束をして銀華を引き離すが…要するに勝てばいいんだ。勝てばこっちから命令できるんだ。今度の夕食のメニューとか指定できたり、ちょっと豪華にしてもらうことすらできる。
なぜそんな勝てると思うかって、銀華は照れ屋だからな。ポッキーゲームで俺が負けるわけないぞ。
勝負だ銀華。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
ふっ。
かかったね。キンジ。
罰ゲームは認めてもらえないかもしれないから、予め理子にどうしたらいいか聞いておいて正解だったよ。
どうせキンジは私が照れ屋さんだと思ってるだろうけど、心頭滅却すれば、なんとかなる。たぶん。
キンジの知ってるポッキーゲームのルールと私が理子に教えてもらったルールは同じだったので、そのルールを使うことになった。
「じゃあ、やろうか」
そういった後に、私はポッキーのチョコのついてない方の端を咥え、キンジにチョコの方の先端を向けると、キンジも咥えた。
キンジの顔が目の前にあるのが、もうすでにすごく恥ずかしいけど…
さてゲームのスタートだよ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
銀華の手の合図でポッキーゲームを開始し、少しずつ、銀華の顔と俺の顔が近づいていくのだが……
(これまずくねえか…)
俺はまずい点に気づいた。
それは銀華の匂いだ。
俺は生まれつき鼻がいいのだが……俺のヒステリアモードのダムは銀華の匂いに弱い。
いつもはやばくなったら口呼吸に変えてるんだが、ポッキーを咥えてるせいで口呼吸することができん。目の前で鼻をつまむのは、銀華も傷つくだろうし、どうすればいいんだ。
そんなことを考えてる間にも残りポッキーは少なくなっていく。
そんな時銀華が、俺の顔の目の前で……
「…〜〜!!」
ウインクしやがった。そんな銀華の可憐なウインクを眼前で拝んでしまい、動揺した俺は、
「ゲッホ…銀華お前なー!」
むせてポッキーを離してしまう。
「わーい。私の勝ちだー!」
銀華はバンザーイしながら喜んでいるので…
「ウインクは卑怯だろ」
と抗議するが、
「武偵にとって卑怯は褒め言葉だよ」
トンチンカン武偵高理論で流されてしまう。
まあ実際卑怯やズルは褒め言葉で、嵌められた方が悪いというのが
「それでね、それでね。罰ゲームの私のお願いなんだけど…」
顔を赤くしているが、その瑠璃色の瞳の奥で、抑えきれない欲望が渦巻いているのがわかる。
お人形さんみたいな綺麗な容姿で、学校では模範的な生徒なのに…
今はまるで発情期のケモノみたいなムードだ。
ちょっとこれまずくないですか…?
「キンジ。そ、それ以上のことは、もう、今日は頼まないから……」
はっ、はっ……と菊のような爽やかな香りのする息を断続的についている。
「お願い、キスして--それだけでいいから--」
な、なんでそんなお願いなんだッ。
いつもはそんなお願いしてこないのに。
「し、正気か?」
「うん。正気だよ」
そういった後、銀華は口を少し開けたまま、眠るように……目を瞑った。
流石にこの行為は俺でもわかる。
銀華は待っているのだ。俺から銀華にすることを…
(ど、どうすりゃいいんだ…)
俺たちは婚約者であるが、そういう行為をすることはほぼない。お互いにヒステリアモードになることを避けているからだ。
俺はあの姿を見せたくないから。銀華は弱くなるから。
でも銀華はあの俺の姿を知っている。銀華でなるリゾナだったら、
それだったら、別に大丈夫なんじゃないか?
そんな言い訳をつけて、俺は右手で銀華の顔を引き寄せ--
「--ッ--」
してやった。
罰ゲームの要求通りに。
可憐な銀華の唇は柔らかくて、あったかくて、その唇が種火になって、こっちの全身へと、火炎を広げていくのがわかる。
--ドクン。
体の中心がむくむくと強張り、ズキズキと疼くような、この感覚。
いつものヒステリアモード・リゾナだ。
ということは…
「キンジ……」
俺から唇を離された銀華も、弱くなるリゾナになっている。
膝は哀れなほどに震え、内股に閉ざされている。ちょっと椅子に座ってるのも危ないかな。
「ちょっとごめんよ」
弱々しい銀華をお姫様抱っこして、ソファーに運んであげる。リゾナの銀華は相変わらず、涙を両手の甲で拭いながら、震え、怯え、男の征服欲を掻き立てるような、狂おしいほどに愛おしい姿だ。
「銀華、もう一度ポッキーゲームをしないかい?」
「…う、うん」
震える銀華ともう一度ポッキーゲームをするが、当然震えているので銀華はポッキーを折ってしまう。
「あっ…」
「じゃあ、俺もしたい要求をさせてもらおうかな」
再び俺の顔は銀華の顔に近づき、唇を重ねる。チョコの甘さと粘膜が交わる快感から俺と銀華は本能的に舌を絡ませていく。
そして、俺の口内のチョコがなくなると、さらなる甘みを求め、弱々しい銀華の舌を押し返して、逆に彼女の口内へ侵入していった。
「…んむっ……」
銀華のより奥へ舌を伸ばそうと考え、ソファーで仰向けになっている銀華へ、覆いかぶさっている俺はグッと体を寄せると、銀華はピクリと震えた。
その長いキスを終え、唇を離すと…銀華が
「……もっとして……」
もしかしたら、その時は銀華だけじゃなく、俺もケモノになっていたのかもしれない。
昨日思いついて書きはじめてたのに間に合わなかったのはスプラのフェスが悪い。