哿と婚約者   作:ホーラ

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ポケモンがひと段落したので

注意:視点変更少し多め



第30話:Sランク

強襲科の授業を自由履修という制度を使って取るには、申請が必要だ。そのために俺は強襲科の事務にある申請所に今まで行っていたのだが…

 

「遠山君!」

 

不知火が俺へ向かって走ってくる。

その表情はいつもの余裕の笑みを浮かべたイケメンスマイルではなく、ちょっと慌てている。

 

「どうした不知火」

 

そう聞く俺に、不知火はとんでもないことを、耳打ちしてきた。

 

「闘技場に急いで、遠山君!()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

俺は不知火と共に強襲科の第1体育館の内部にある闘技場(コロッセオ)とあだ名されるスケートリンクみたいな楕円形のフィールドに向かった。そこには見物をする生徒達が大勢集まっている。

防弾ガラスの向こう、闘技場の中心から……銃声が聞こえてくる。

戦っている--誰かと、誰かが!

 

「ど、どいてくれ!」

 

俺は人だかりを掻き分けながら、銃声の方へ走る。

 

「シルバーのあの目。ありゃ、マジだぜ」

「神崎の無敗伝説、終わるかもしれないぜ」

「2人の姿が速すぎて何が起こってるか見えない…」

 

俺が掻き分けた強襲科の奴らが、そんな興奮したような声を連ねている。

 

「やれや!どっちか死ぬまでやれや!」

 

という大声に顔を上げると、2メートルはある長刀を何本も背負った強襲科の教師の大女--蘭豹が防弾ガラスの衝立(ついたて)の上にいた。

ジーンズを履いた足でガンガンと衝立を蹴っている蘭豹は、19歳。

俺たちと同年代で、香港では無敵の武偵と恐れられていたらしい。その後、教師になったが…あまりの凶暴さ故に各地の武偵高を次々にクビとなり、転々としているようなやつだ。

 

「--銀華!」

 

叫びながら防弾ガラスの張られた衝立に飛びつくと、その向こう、砂がまかれた闘技場には--

 

--銀華が、いた!

 

銀華は長い銀髪を靡かせながら、アリアと向かい合っていた。片方の目は(あか)く、もう片方の目もいつもの深い瑠璃色に赤色が混ざっている。

 

「神崎、もう終わり?」

 

--パアン!

 

銃声--!

だが、俺の目が捉えたのは銀華の手元で弾けた閃光のみ。だが発砲音と同時に…

バシィッ!

とアリアが鞭で叩かれたような音が響き渡る。アリアはかわせないのだ。銀華の弾を。

 

今のは--銃撃。

だが、銃は全く見えなかった。

あれは兄さんの技の一つ、『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』だろう。たぶん。

俺も兄さんの同僚から昔聞いたことがあるだけで、仕組みまでは知らないが、『不可視の銃弾』とは、その名の通り銃がみえない銃撃のことである。

いつ銃を抜かれたのか、いつ狙われたのか分からない--反撃はおろか、人間には反応することすらできない攻撃だ。

銀華も同僚のその話を横で聞いていたのだが…持ち前の推理力で原理を解明し、それを物にしたらしい。ヒントは兄さんの銃らしい。兄さんも俺の銀華の話を聞いて、銀華の技何個か使えたぽいし、もしかしたら教えあってたのかもしれんないけどな。

 

「うっ」

 

どしゃっ!

アリアは短い呻き声をあげ、前のめりに倒れた。血しぶきは上がらなかったようだから、防弾制服のどこかに当たったみたいだ。

防弾制服に使われているTNK繊維は、銃弾を貫通させることはないが、その衝撃がなくなるわけではない。制服に被弾すると金属バットで殴られたような衝撃を受ける。

当たり方が悪ければ内臓破裂で死ぬという事例もある。もちろん頭部に当たれば……

 

「おい、蘭豹、やめさせろ!こんなのどう見ても違法だろ!こんなことばっかりしてたら、死人が出るぞ!」

 

こういった実弾を使った模擬戦は、強襲科のカリキュラムの一つにある。だがその場合、体中を完全に守る、c装備の着用が義務付けられている。

制服での模擬戦は、現実には私闘や暴力教師(蘭豹)の命令で時たま行われるが、明らかな武偵法違反行為だ。

 

「死ね死ね!教育のため死ね!」

 

(ダメだ酔ってやがる…)

 

蘭豹の周りには瓢箪が転がっており、明らかに酒が入っているのがわかる。今は銀華が優勢なのだが、相手もSランクのアリア。もしものことがあり得る。

もし銀華まで失ってしまったら、耐えきれない。

防弾ガラスの扉をICで開け放とうとしたが、どうやら内側からロックが掛かっているらしく、開かない。

たぶんアリアか銀華がかけたのだろう。

つまり、どちらかが勝つまでこれは続くということだ。

 

「銀華!」

「…キンジ?」

 

俺の呼びかけがかすかに聞こえたようで、銀華が一瞬こっちを見た隙に--銀華に撃たれ、倒れていたアリアは--

バッ!ドキュンキュン!

逆立ちするように跳ね起きながら、両手の大型拳銃(ガバメント)で銀華を撃った。

双剣双銃(カドラ)のアリア』

お前は銃技の天才らしいな。確かにチャリジャックの時のお前の射撃は、眼を見張るものがあった。

だがな…

 

 

 

俺と銀華(おれたち)HSS(ヒステリアモード)は天下無双、舐めてもらっちゃ困るな。

 

 

 

 

--バチバチッ!

弾丸同士が衝突する火花が、銀華とアリアの中間で連なる。銀華が撃った弾と(はじ)いた弾が四方に飛び散り防弾ガラスにぶつかる。

当たると確信していたらしいアリアは眼を丸くしている。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)なんて始めた見たわ…」

 

そう。アリアが言う通り銀華が使ったのは銃弾撃ち。普段の俺たちなら使うことはできないが、HSS(ベルセ)の銀華なら問題なく使うことができる。……というか、あそこまでキレてる銀華のベルセ久しぶりに見たぞ。

なんかアリアのことだし怒らせること言ったのかもしれんな。俺関係で。

 

「まあ、このぐらいはできて当然だよね。双剣双銃のアリアさん?」

「こっからが本気の本気!本気なんだから!」

 

挑発するように銀華が言うと、アリアはムキーと擬音が出るぐらい顔を真っ赤にして、地団駄を踏んでいる。

そんな隙だらけのアリアに銀華は一気に近づいた。

 

(--近接拳銃戦(アル=カタ)--!)

 

挑発して隙を作り、一気に攻め込む。案外銀華も卑怯な手を使うな。などと感心する暇もなく、銀華とアリアは--

バッ!ババッ!

一気に詰まった距離から銃弾を放ちあった。

近接拳銃戦は、銃を使った格闘技。防弾服の着用を前提に、手足による打撃技(ストライキング)に零距離射撃を併用する格闘戦だ。

アリアは体を捻るようにして躱したが、銀華はロングスカートに銃弾を受ける。躱せなかったのではない。わざと当たったのだ。

相手の銃弾の威力で絶牢もどきを使い、走りながら空中で一回転。

まだ距離があるものの銀華はその回転の勢いを使い

ブンッ!

と足を振るう。

空振りをしたわけではない。あれは銀華の中距離攻撃技、『incessant shelling(降りやまぬ雨)』。蹴りで空気弾を飛ばす技だ。

初見では、ヒステリアモードでも躱せなかったそれを、何か感じ取ったのかアリアは体を跳ねるようにして避ける。

その回避の隙に、銀華はお互いの腕が交錯し合うような間合いまで一気に詰めた。銀華の腕をアリアが肘で弾き、アリアの手を銀華の掌底が弾き、互いに銃口を逸らしている。逸らされながらも光るマズルフラッシュが、光の短剣のように(せめ)ぎ合う。

 

(ま、マジか…)

 

今度は銀華が押され始めた。あの目は本気のベルセ、なのに。

発砲しながら、その場で片脚バク宙を切ったアリアは銀華の顎を蹴りにかかるが、銀華は上体をスウェーして鼻先で躱す。

拳銃を持ったままその場で着地したアリアはその手を中心に回転する、二連撃の回転蹴り(スピニングキック)

Sランクと聞いていたが--アリアに対して初めて恐怖が湧く。

こんなの…まるで銀華の戦い方じゃないか!

銃弾の飛ぶ線が銀華の身体を捉えようとせめる。それをギリギリ銀華は躱しているが…防戦一方のようだ。

だが、俺はそんな状況に違和感を覚えた。

銀華が押されているのは事実だが--何かおかしいと。

それを裏付けるように銀華は--

 

「ふーん」

 

--笑っていた。

アイツ。

強襲科に何人かいたが、あのアドレナリンに酔った表情のような典型的な戦闘狂とも何か違う。

 

「神崎の本気ってそんなもんなんだ」

 

銀華の笑み。それは嘲笑。

銀華はアリアの本気を見るためにわざと手を抜いていたのか。俺のベルセは攻め一辺倒になるのだが、もしかしたら女のベルセは仕組みがちょっと違うのかもしれんな。

 

銀華はその言葉の後、動きのキレが格段に上がった。ギアを上げたと言うべきだろうか。銀華の高速の攻めがアリアを襲い、アリアは防戦一方だ。銀華はもうすでに拳銃を使っていない。それもそうだろう。

銀華は近接拳銃戦や刀での戦いも得意にしているが、一番得意なのは徒手格闘。

アリアが『双剣双銃』なら、銀華は『双拳双脚』なのだ。銀華の攻撃はまるで()()4()()あるかのようなスピード。銀華のことをSランクのアリアすら追い詰めてるスピードのある攻撃を見て、流星と呼ぶ人もいるらしいからな。

それをガードするだけで精一杯で防戦一方だったアリアを…

ゴスッッッ!

秋水の蹴りで吹き飛ばした。吹っ飛ばされたアリアは身体が小さく軽いのもあるだろうが、まるでダンプカーに跳ねられたかのように、俺が観戦している前の防弾ガラスまで吹っ飛び……

バンッ!!

防弾ガラスに打ちつけられた。

ズルズルと壁を伝い、地面にずり落ちたアリアのダメージは…重そうだ。すぐには立ち上がることができなさそうだ。

そんな俺の目の前にいるアリアに対して、銀華はゆっくりと近づいてくる。まるで目を離したら食われてしまうと思わせるような、捕食者のムード。

これ、アリアの命が流石にやばいぞ…!

銀華の持ち銃であるベレッタ93Rをアリアに向けたのを見て

 

「お、おい。銀華待て!撃つな!」

 

と慌てて言うと…銀華は銃を下ろし、銀髪を翻しながら、近くにあった闘技場の出口の方へ向かった。まるで敗者には興味がないと言う風に。

ひとまず武偵法9条、人殺しを防ぐことができて一安心だ。

 

「な、なんで…」

 

そんな声が防弾ガラスを挟んだ目の前のアリアから聞こえる。

 

「なんで、そんなに強いあんたにはパートナーがいて、あたしにはいないの!?」

 

アリアは仲間を探していた。一緒に戦え、合わせることができる仲間を。だから、俺を実力が合う仲間として勧誘してたのだが…

 

「神崎、自惚れるなよ」

 

振り返ることはなく、低い声で銀華はそう言う。

 

「お前が『独奏曲(アリア)』なのは、他の人がお前に合わせられないわけじゃない。お前が合わそうとしないからだ。そこを履き違えるな。それを履き違えてる限り、私はお前と組む気はない」

 

そう言って内ロックを解除し、闘技場から出る。

 

「ライカ」

「は、はいっス!!」

 

銀華は仮の戦妹である火野を引き連れて、この場から去っていく。

 

「…それじゃあ…間に合わないのよ…あたしが合わせるんじゃなくて……あたしに合わせられる人を探さなくちゃ……いけないのよ。そうじゃなきゃ……ママを……助け……られ……ない」

 

う、う……

とアリアはついに泣き始めてしまう。泣くアリアを慰める人はおらず、

 

「ガハハハ、流石北条やな。ええもん見れたわ」

 

と笑う蘭豹と黙りこくる野次馬の生徒しか残されていなかった。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

すごいものを見てしまった。

銀華先輩とアリア先輩が戦っているという話が耳に入って、急いで駆けつけたのだが、目に飛び込んで来たのはそれはアタシからしたら異次元の戦闘。横にいたあかりも同じ感想で目を奪われていたしな。

……まあ、そんなことはどうでもいいんだ…

何がやばいかって、さっき会った時とまるで違う、アタシの前を歩く銀華先輩のオーラだよ。

この前、戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)で戦った時も、やばかったけどこれほどじゃなかった。

先輩が前を歩くだけで人垣が割れるし、まるでモーゼみたいだ。

 

「し、銀華先輩」

「ん?何かなライカ」

 

前を歩く先輩に話しかけると、顔だけ振り返りながら、答えが返ってきた。

さっきまで紅色だった左目は、だいぶ瑠璃色に戻っているし、たぶん聞いても大丈夫かも。

 

「先輩と遠山先輩ってどっちが強いんですか?」

 

アタシが一番気になっている情報を尋ねる。

あの見えない発砲や超人的な近接拳銃戦をできる先輩があの普通そうに見える遠山先輩に負けるわけがない。

だが、今度は体ごと振り返った先輩が、なぜかちょっと照れる様子で返された答えは……

アタシの予想と違った。

 

「組手や演習の対戦なら私が9割9分勝つけど、なんでもありの実戦なら私はキンジに勝つことはできないと思うよ」

 

演習や組手などのいつもは、遠山先輩は本気を出していないのだろう。

本気を出すと銀華先輩より……強いのか。遠山先輩は。

性別で強さが測れないことは知ってるけど、あの戦闘を見た後だと信じられないな……

もしかしたら遠山先輩は漫画みたいに死んでも生き返ったり、素手で銃弾をキャッチしたりするのかも。

いや、流石にそんなわけないか…

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

しばらくの後、あたしは放課後の校内を一人で歩いていた。

アリア先輩の戦妹として、さっき銀華先輩に負けたアリア先輩の怪我の処置に行ったんだけど、今はほっといてと言われ、ライカも銀華先輩とのトレーニングに連れていかれたから、一人寂しくスポーツドリンク片手に歩いているわけだけど………

志乃ちゃんは今日明日と恐山に行っていないし、ライカも銀華先輩の家に行くだろうし、家に帰ろうと思い、ちょうど校門をでたその時。

 

(--あっ、アリア先輩!)

 

門の近くにいたアリア先輩を見つけて嬉しくなってしまう。

『今は話しかけないで』ということは、ちょっと時間が経った今なら話しかけていい。

そう思った、その直後。

あたしは、ピキーン!と固まってしまう。

 

「どうして止めたのよ!」

 

応急手当てを済ませたアリア先輩が。

歩いていたさっきの遠山キンジに近づき、声を掛けた。

 

「止めるも何も、もう勝負はついてただろ」

「違う!」

 

アリア先輩はあの綺麗な声…だけど、ヒステリック気味な声で叫んだ。

 

「あんたが邪魔しなければ、あそこからいくらでも勝つ手はあったもん!」

「自分を誤魔化すな。お前より銀華の方が強かった。それはあの場のみんなが分かっていたはずだぞ」

「--相手が強くても!勝たなきゃいけなかったのよ!」

 

アリア先輩は俯いてはいないが、身長差的に遠山キンジの胸に向かって叫ぶ。

そんな叫び声を聞いて、他の校門を行き来する生徒はそんな二人を見ていた。

 

「銀華と初めて会った時はあたしがイギリスにいた時。一目見た時、ピーんときたの。あたしは、このあたしとどこか似てる人と組めればママを助けられるって…でも、あたしが負けたら組んではくれないって……」

「アリア。銀華と組みたいなら、俺を解放して銀華の意味を考えろ」

「ダメよ!ダメなの!あたしには時間がないの!」

 

う、う…

アリア先輩は再び泣き出してしまうと、アリア先輩を泣かした遠山キンジは少し困ったようにオロオロし始めたが…

 

「早く走るやつは転ぶ。一旦止まって、銀華の言った意味を考えろ」

 

そう言って、アリア先輩を置いて、離れて行く遠山キンジだけど……

なに!?なに!?なに!?なに!?

アリア先輩にそんな上から目線なんて何者?

アリア先輩は女神にも等しい完璧な人物なんだから、いたって普通の人間がアドバイスしていい存在ではない。

遠山キンジは無礼なやつだ。

……それとも何か、そんなことを言える間柄!?それはダメ。アリア先輩を取られる。

絶対、絶対に、突き止めねば。あの男が何者なのか!

 

 

 

 

 

 

あたしは帰宅予定を変え、遠山キンジを追跡することにしたのだが…

その遠山キンジは、ため息交じりに、武偵高にある人工浮島--学園島の路地を歩いていた。

ありがたいことに今日は風がかなり強いので、足音が紛れ、尾行には適している日だ。

遠山キンジ。どんな人なのか、根こそぎ調べてやる……!

そんな怒りと共に、十字路を遠山キンジが消えた方向へ曲がろうとしたとき、不意に頭上から…

 

「--間宮殿。そこまでにされよ」

 

そんな時代がかった声で呼び止められる。

気配がなくて、全く気づかなかった。

 

「……!?」

 

びっくりして、見上げると高さ4mのそこには、街灯の支柱に足先を掛け、逆さ吊りで腕組みをした武偵高の制服を着た女子生徒がそこにいた。

手には時代がかった手甲。

マスクのような布と長いマフラーをして口元を隠しながら、鋭い眼をこちらに向けている。

 

「お初にお目にかかる、間宮殿。(それがし)は師匠の戦妹、1年C組の風魔(ふうま)陽奈(ひな)

 

その名を聞いて、無意識に身構えながら距離を取るように一歩下がった。

『風魔』

家の事情もあって、その名は聞いたことがあった。

 

「風魔一族は、相模の忍だったよね」

 

昔のことだけど、風魔は間宮家と敵対関係にあった忍者の姓。今は凋落したらしいが、かつては神奈川県の山林部を根城としていて、強大な力を持つ一族だったらしい。

ご先祖様も、随分と手を焼かされたとか。

そんな話を聞いていたので、あたしは警戒していたのだが…

 

「………」

「………」

 

何も言わない。

静かな中、しばらく風魔と睨み合っていたのだが、その沈黙を破ったのは、あたしではなく風魔の方だった。

 

「遠山師匠は女子がお苦手でござる。それ以上追わないよう。今より、某が護衛いたす。御免!」

 

胸元から取り出した、以前間宮の里でも見た煙玉のようなものを地面に投擲した。

ぼふん!

そこから白煙が巻き上がる……でも……

今日は風が強い。なので、すぐにその風で払われていく。

見上げると風魔はいなくなっていたが……

 

(せ、背中丸見せ…)

 

撤退中の姿はすぐに見つけることができた。

遠山キンジの姿はもう見えない。

風魔は遠山キンジを護衛するといっていた。

ということは風魔を追えば、遠山キンジのところに行けるだろう。

あたしはそう考え、風魔を追ったが…

 

(いない…!)

 

T字に入った瞬間、風魔の姿まで見失ってしまった。

なるほど。あの子はわざとあたしに追いかけさせて時間稼ぎをしていたんだ。遠山キンジの方に行くと見せかけ、あたしを引きつけるために、違う方へ逃げたんだ。

ということは遠山キンジは別の方向に…!

逃さない。絶対に見つけてやる。遠山キンジ…たぶんこの辺だ!

騙されたことによる怒りから出る執念で道を北から南、東から西へしらみつぶしに探し回っていると公園に着いた。

その中も探そうとそこへ踏み込むと…

 

「風魔のやつ、撒けてねーじゃねえか…でお前誰だよ」

 

後ろにあった木の陰から遠山キンジが出てくる。やっと見つけた…!

 

「遠山キンジ!……先輩っ……」

 

アリア先輩のことがあってムカついて呼び捨てにしかかってたけど、一応先輩を付けた。

 

「何が狙いで俺を()ける?」

 

と、めんどくさそうな顔で遠山キンジが質問してくる。そう問われて思い出すのはアリア先輩の泣き顔。

 

「アリア先輩を泣かせて、一体どういうつもりなんですか!」

 

感情のままに、この男に向かって叫ぶ。

 

「アリア先輩は完璧超人なのに、アドバイスするようなこと言って……二人はどういう関係なんですか!」

「話が見えんが……お前アリアのファンか?」

 

興奮して説明不足になってしまっていたけど、ちゃんと伝わっていたらしい。だけどこの男は

 

「俺はな、アリアが追いかけてきて迷惑なんだよ」

 

そんな許しがたい発言をした。

アリア先輩のことが迷惑!?この無礼者!

 

「どうだ。聞いて満足したか?そしたら、もう俺のことを尾けるな。あとお前の発言を訂正するが、弱点がない完璧超人な人間はいない。弱点が見えてないとしたら、それはお前がその点を見つけられてない、つまりその人のことをよく知らないということだな」

 

あたしの火に油を注ぐようなことを言ってくる。

 

「銀華先輩にも弱点あるんですか!?」

 

この人の婚約者の名前を反論の材料にするけど、

 

「あるぞ。意外と抜けてるところとか、勝手に推理して推理をミスってバグるところとか…………まあそこも可愛いんだが…………」

 

最後はよく聞こえなかったけど、この男はあたしの反論に対して反論してくる。

 

「……もうお前が俺を追う理由はないだろ。じゃあな。今の俺はEランクだが、1年の尾行ぐらいわかる。次は女とはいえシメるからな」

 

え?元Sランクなのに……今はEランク!?

最高ランクから最低ランクに落ちたとなるとただ事じゃない。完全に武偵としてのモチベーションを失った人にしか起き得ない事だ。

おかしい。そんな人がアリア先輩が追いかけたり、アリア先輩にどうこういうなんてもっとおかしい。

 

「遠山先輩。何か隠してますね?」

 

そう指摘すると…この男の逆鱗に触れるとまではいかないが掠めたらしく、

 

「度胸と無鉄砲は違うぞ。1年」

 

強風に木が揺れる中、振り返ってきた。

その目はさっき見たアリア先輩との組手で見せた、銀華先輩の『殺気』と同じものが混ざっている。

感じる殺気は、目の前にいる男からだけじゃない。

見上げると、木の枝にはさっきの風魔。手にクナイと呼ばれる短い刃物を持って屈んでいる。クナイは投擲武器としても使える忍者の武器。

あたしは急いで風魔から距離を取り、自らの持ち銃であるマイクロUZIを抜く。

 

「…はあ…………」

 

その動作の起こりを見逃さず、勘弁してくれよという表情で遠山キンジは腰の拳銃を抜いた。

生徒同士の銃撃戦は武偵高ではよくあること。教務課(マスターズ)は『射撃場以外での発砲は必要以上にしないこと』としているのでいい顔はしないが、止めはしない。

今にも銃撃戦が起こるかと言ったその時

 

「まったく……何やってるのキンジ」

 

三人とまったく別の方向から声が掛けられる。その声の先にいたのは…

 

「銀華」

 

呆れたような顔をした銀華先輩。

 

「どうしてここがわかった?」

「風魔さんにキンジが間宮さんにつけられているという情報を貰ったからね。初歩的な推理だったよ」

「流石だな……っていうかなんで風魔俺の情報銀華に流してんだ!」

「師匠の奥様には学費を援助して貰ってる身ゆえ」

「最近、よく銀華が俺のことを知ってると思ったらそれか!?」

「風魔さん。ちゃんとご飯食べれてないでしょ。はい、今回の情報料」

「かたじけない」

 

といって、あたしをほったらかしにして3人でコントを始めている。もう戦う気はなさそうだ。

 

「間宮さん、キンジがいくら気になったからって、尾けたらだめだよ。私のキンジは誰にも渡さないし、私が嫉妬しちゃうからね」

「は、はい」

 

銀華先輩の言葉に返答を返したけど……

 

「いつ俺はお前のものになったんだよ…」

「じゃあ私がキンジのものかな?」

「まあ、どちらかというとそうじゃないか?」

「じゃあ、私を所有してるキンジ。日曜日のデートどこ行くか決めてよ」

「そうだな…銀華が決めることを決めた」

「キンジらしいね。うーんとじゃあねぇ………」

 

 

なんか途中からあたしはまったく関係ない様子で二人が惚気始めた。そんな様子をどういうすればいいのか?という雰囲気で見てると…

 

「あのお二人はああなると長く、此方まで甘さでやられる。撤退するのが懸命で御座る」

 

風魔がそんなアドバイスをしてきたので、あかりはアドバイスを聞いて、遠山キンジの尾行は諦め、帰ることにした。

確かに悔しいけど、銀華先輩は完璧超人とライカは言っていたけど、あの人のいう通り、完璧超人じゃない。

銀華先輩はあの男が関わるとポンコツになる。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作の中で、アリアが一人で勝った戦闘0回説

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