哿と婚約者   作:ホーラ

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第31話:変装逢引(マスケ・デート)

日曜日

度重なるピンクのモンスター(ピンキー)による襲撃から、あいつは朝襲撃する頻度は低いという統計から、朝早く家から出た。

むかうのは銀華の家。

今日の出来事にアリアを付き合わせるわけはいかない…というか、あいつが付いてくるとこれからする行為が無駄になるし、あれを銀華以外に知られたくない。

 

今日は銀華とデートする約束だ。

だが、俺の足取りは鉛のように重い。

それはなぜか。

その理由は金曜日まで巻き戻る--

 

 

 

 

--昼休み

 

「キンジ、お前そういや日曜日に銀華さんとデート行くらしいな」

「ゲホッ!ゲホ!ど、どこでそれを」

 

ガヤガヤとうるさい学食で、不知火と武藤と俺の3人で飯を食ってる時、唐突にそんなことを言ってきたから、飲んでた水が変なところに行ったぞ。

俺はこの二人には話してないし銀華が話すわけないし、どうして知ってるんだ?

 

「その反応ってことは本当なんだな」

「ポピュラーな話題だよ、遠山君。北条さんはここ昨日今日とずっと機嫌が良かったからね。北条さんが機嫌がいいのは遠山君関連だし、いつも機嫌がいいのはだいたい遠山君とのデートの前だからね。そして土曜日はこの前のチャリジャックの調査の任務が北条さんには入ってる。行くとしたら日曜日しかないって寸法らしい」

 

……さすがは武偵高。

推理はお手の物ってことか。

そのことをこんなことな使うのがいかにも武偵高(ウチ)らしいがな。

だが、不知火の言葉に少し引っかかるところがあった。

 

「……らしい?」

 

不知火が推理したのではなく伝聞情報として、不知火は伝えてきた。一体情報の出所はどこなのか。それを突き止める必要がある。

 

「キンジは知らないと思うが、俺も不知火も武偵高の情報科(インフォルマ)が作った銀華さんのファンのSNS、『しろろんを愛で隊』で見たんだぜ」

「まあ、遠山君的には『キンジ死ね死ね団』の方が正しいかもしれないけどね」

 

でたよ。

武偵高の一大勢力となっているらしい銀華のファンクラブ。俺は襲われたことはまだないが、もし襲われたら銀華に言いつけて、お前ら潰してやるからな。襲われて、女の銀華に頼るのも情けない気がするがな……

 

「ここで遠山君にはアンラッキーなニュース」

「アンラッキー……?」

 

不知火がイケメンな顔を、俺の顔に近づけて--

 

「遠山君と北条さんのデートを邪魔する計画があるらしい」

 

そんなとんでもないことを言った。

 

「は?あいつら銀華のファンクラブだろ。銀華の楽しみ邪魔してどうするんだ」

「キンジ。人はそう賢くないんだぜ」

 

武藤(バカ)がいうと説得力あるな。

 

「遠山君を認めてる会員もいるけど、認めていない過激派の人たちもいるからね。まあそのせいで『キンジ死ね死ね団』と呼ばれてるんだけど。解決策としてはデートの日付を変えるか、二人とも変装してデートするかのどちらかだね。僕と武藤君は二人を応援してるよ。頑張ってね」

「俺はファンクラブには入ってるがキンジとの関係容認派だからな。過激派の連中も銀華さんのこと好きなだけだし、まあ幸せ税と思って頑張れ!」

 

そんな丁寧なアドバイスをくれる不知火と雑な対応の武藤の二人だったが……

マジでどうすればいいんだこれ。

 

 

 

デートの日にちを変えるのは銀華の機嫌を損ねかねん。銀華の機嫌を取ろうとしてこの出かける提案をしたのにそれだと意味がなくなっちまう。

となると…変装しかないんだが…

俺は探偵科(インケスタ)の実習で変装術にE判定を受けてる。変装とは技術も要されるがセンスがあるかがどうかが大きく関わり、俺にはそのセンスがない。

電話で銀華の在宅を確認した後、相談のために銀華の家に行き、俺は洗面所で鏡とにらめっこ。

 

(バレない変装……メガネとか付け髭とかか……?)

 

しかし、我ながらセンスのないことしか思いつかん。銀華の家の部屋の一つ、俺用としている部屋に荷物を置いた俺は、銀華が料理してる音をBGMに……

機嫌良くハミングしながら料理をする銀華を見る。

腰まで届く少し青みがかった銀色の髪は常に濡れているかごとく艶やかであり、雪景色のように白い肌は、まるで赤子のように柔らかそうだ。瑠璃色の目は大きく、それ自体がサファイアかのように輝いている。

顔だけじゃなく、プロポーションもいい。銀華自身強調することはないが、意外とある体の凹凸。女性では少し高めの身長で、足も長くまるでモデルみたいだ。

そりゃ、もし俺が病気(ヒス)持ちじゃなくて、銀華と知り合いじゃなかったらファンクラブに入るかもしれん。武偵高の一大勢力だし、気持ちはわからんくもない。俺を襲うのはやめて欲しいがな。

こんな美人の銀華より、人気なやつなんていな……いな……いた………

黒髪で可憐なハーフみたいな美人さんが。

……いや、いやいや。いかんぞキンジ。

確かにあれは見破られることなく()()()にも通えた奇跡の変装だが、もし俺を襲おうとしてる連中にバレてみろ。人生が終了する。

 

(だが、何も思いつかん…)

 

頭を抱えてダイニングテーブルでウンウンと唸っていると、銀華が食事を運んできてくれた。

肉じゃがとひじき煮、高野豆腐とご飯と味噌汁だ。

私服に着替えた銀華と2人、和食は美味い銀華の食事を食べながら…

 

「おい銀華」

「ん?何?」

「デートの日付をずら………さなくてもいいよな?」

「うん!日曜日楽しみだよ」

 

ずらそうと提案しようとしたが、泣き出しそうになっていたので、頑張ってごまかした。ずるいだろ。女の涙って。

 

「それでだな…銀華……」

「キンジが私のファンクラブに襲われるかもしれない話?」

 

肉じゃがを食べながら、冷静に俺が隠そうとしたことを言ってくる。

 

「な、なんでお前が知ってるんだ…!?」

「不知火君達から聞いた」

 

不知火。俺だけじゃなく、銀華にも喋ったのか。

………というか、お前冷静だな。

いつも通りの顔でご飯食う姿は、さっきまで頭を抱えていた俺とは対照的だ。

 

「銀華お前も、デート邪魔されるの嫌だろ?何か知恵を出せ」

 

と尋ねると……

 

「クロメーテルさん一択じゃない?」

「それだけはイヤだ」

「え…私とデート行くの嫌なの……?」

 

ウルウルと涙を目に貯めてそんなこと言うし、それずるいっちゅうの。

わかったよ。やりますよ。やればいいんでしょ。

 

 

 

 

 

 

--と言うわけで、俺の銀華の家に行く足取りは重い。二度とクロメーテルになることはないと思っていたのに…

銀華の部屋に着くと、一応チャイムを鳴らした後、合い鍵でドアを開ける。

銀華の朝は早いが、今は日の出よりちょっと後。まだ寝ているだろうなと思っていたが……

 

「おはよう、キンジ」

「おはよう、銀華」

 

トテトテと玄関に銀華が小走りでやってくる。パジャマじゃなく、すでに部屋着に着替えているようでもう起きてから時間が少し経っていたみたいだ。

今日をすごく楽しみにしてたみたいだし、夜も眠れなかったっていうところか?

遠足の前に寝れない小学生かよ。

銀華に朝の挨拶を済ませた俺は、銀華から変装用具(クロちゃんセット)を受け取る。

タクティカル・ヘルメットを装着するより嫌なそれ(ヅラ)を、俺の部屋に設置されている姿見の前で着けるが……服装は男性的なのに、もうすでに男装したクロメーテルさんのように見えるよ。なんで!?

その後、女の子らしい黒のワンピースを着て、その上にもう一枚羽織ってみると……

うわぁー美人さんだぁー。

本当になんで俺にはこんなにもいらない女装の才能があるんだ…

俺は兄さんと同じ系統の変な属性が覚醒する前に--姿見の前を離れ、リビングに座って待つ。

キンジが変装するなら、私もと、今日は銀華も変装するらしいが変装内容は聞いていない。

まあ、あいつは変装術A判定を貰っているし、問題ないだろう。黒髪のヅラ被って、カラコン入れるだけでも誰かわからなくなりそうだし。

そんなことを考えながら、リビングのソファーで銀華の着替えを待っていると…

--パタン!

そんな扉が開く音がしたので振り返ったその時、

 

「クロメーテルおねーちゃん!」

 

な、なんだ。そんな声と共に金髪碧眼の中学1〜2年生ぐらいと思われる()()が、俺のあんパンを詰めた胸に飛び込んで来たぞ!?

 

「だ、誰だお前!?」

「僕のこと忘れちゃったのおねーちゃん…?」

 

ウルウルと大きい瞳で俺のこと見てくるんだが…この匂いもしかして……

 

「もしかして銀華か…?」

「ピンポーン。大当たりだよ!!」

 

俺に抱きつくのを解除して、ぴょんぴょん跳ねながら言うけど…まじでお前そこらへんにいそうな男子に見えるな。

……いや、金髪碧眼の中性的なやつなんてそういないんだけどさ。

 

 

 

 

まだ早朝なのでどこに行くにしても早く、俺もなるべくこの姿を公に出したくないので、ひとまずボロを出さないために練習をしようということになったのだが……

 

「おねーちゃん。また、歩き方が男装的になってるよ」

「……」

「表情がまだ固いよ」

「……」

「はい、笑顔」

「……」

 

完全に俺の女装の練習になっていた。銀華の変装のなりきりは完璧で、男の俺から見ても、中学生ぐらいの外国のガキンチョにしか見えない。変装術の実習でもAは確実だろう。というか、男装まで完璧って、なんでそんなところまでハイスペックなんだよ銀華は。

そんなわけで、この時間は俺の女としての練習となっているわけだが、中学1年の時の女子校への侵入するための練習が体に残っていたらしく、銀華に指摘されるとすぐに直った。

ここまで俺の女化が水面下で進んでいたとは……もう泣きたいよ…!

よよよ、と女泣きしてしまったクロメーテルさんに銀華は近づいてきて

 

「泣かないでおねーちゃん。泣く姿も美人だけど、笑ってる姿の方が僕は好きだよ」

 

(のたま)うが、笑いながら言ってもなんの慰めにもなってないからな!

 

 

 

 

しばらく二人で変装の練習をした俺たちは、二人並んで家を出た。銀華が横にいるとはいえ、まるで兵士として出征する気分だ。

それもそのはず。今外はバレたら人生が終わりの戦場だからな……

銀華の車に乗るのは変装した意味がない。なので俺らは、モノレールで簡単に行くことができる武偵高の近くにあるラクーン台場に行くことになったのだが、モノレールに乗っても誰も俺のことを男子と思ってる人はいない。

前も思ったが、これはこれで傷つくな。

 

「お……ねえ、ウィン」

「何?おねえーちゃん」

 

通称『ウィン』、正式名称ウィンギスは銀華のこの姿の仮名だ。名前の由来はシャーロックホームズシリーズに出てくるベイカー街遊撃隊の隊長の名前らしい。相変わらずシャーロックホームズが好きだなあ銀華は。

 

「そんなくっつくのやめて欲しいな…って」

 

銀華のいい匂いを直で受けて、ヒスのダム抑えるのに苦労してるのもあるが……

それ以上に…

 

「うわぁ、あの外人二人美人美少年すぎる」

「姉弟かな?」

「年の差カップルかも」

 

注目されまくってる。

銀華は変装せずとも目立つし、俺もなんの自慢にもならんが、クロメーテル状態だとなぜか目立つ。

そんな二人がべったりくっついていたら、際立って目立つだろう。それを証明するかのように…

きゃっ!また私たちの写真を撮ってらっしゃる!おやめになって!恥ずかしくて死んじゃう!

 

「まあ撮りたい人は撮ればいいんじゃない?減るもんじゃないんだし」

 

減ってますから。俺の尊厳とか威厳とか男らしさが特に…

そんな俺(女)とは対照的に、俺にべったりくっついている銀華(男)はすごく楽しそうだ。機嫌がいいのが一目でわかる。

ぱっと見、姉のことが大好きな弟で一緒に出かけれてて嬉しいと言った様子だ。どっちも性別違うのがアレだがな。

 

 

 

そんなトンチンカンな格好をした俺たち二人は、結局ぴったりくっついたまま、ラクーン台場の最寄駅に着いた。学園島は交通の便が悪いので、目と鼻の先ぐらい近くにあるのに意外と時間がかかるんだよなあここ。前に来た時も思ったけど。

 

 

「しろ……ウィン。本当にここでよかったの?」

「うん。おねーちゃんと一緒にいれれば、どこでも楽しいからね」

 

じゃあ出かける必要ないじゃねえかというツッコミが口からでかかったが、銀華の機嫌を損ねる可能性がある。

口は(わざわい)の元

銀華の怒りは禍レベルだしな。

 

「なんか失礼なこと考えられてる気がする」

「そんなことはない。」

 

げ、相変わらず勘は鋭いな…

ベイカー遊撃隊じゃなくて、まるでシャーロック・ホームズみたいだ。実際は北条政子の子孫だけど。

 

「じゃあ行こうか」

「うん」

 

こう思うと、金髪碧眼の男子の変装をしてる北条政子の子孫ってやばいよな。まあ隣に並んでるのは兄弟揃って、世間に女装を披露してる遠山の金さんの子孫なんだが。

今日は俺が誘ったということで、俺がチケットを二人分買い、入場したんだが……

 

「ありがとう」

 

お礼を言う銀華(男)の笑顔に不覚にもドキッとさせられちまった。俺にそっちのケがあるわけではない。銀華の男装は中性的だから女性ぽさが残ってるんだよな。男の笑顔でそんな可愛いの反則だろ。現に…

 

「キャー!あの男の子可愛い!」

「金髪だし外人さんかな?」

「写メ!写メ!」

 

周りの女子は大興奮だ。

可愛いって言ってますけど、そいつ女の子ですからね。元が可愛い女子だから可愛いのは当たり前なんだよなあ…

 

「ちょ、ちょっと……ウィン!?」

 

そして、銀華は結構ファンサービス精神があるので、あろうことかこちらを見てる周りの女子に手を振り始めた。周りの女子は銀華(男)の虜になってる。お前、なかなか酷いことするな。

そんなことをしてると横にいる俺まで目立つわけで…

 

「うわぁ、あの子連れてる女性も美人すぎる」

「あっちはハーフかな?」

「超キレー!」

 

などという声と共に、写真を撮られまくる。何これ。お忍びで来るために変装したのに総理大臣や不祥事を起こした芸能人並みに写真撮られるし、意味がないじゃない……

 

 

銀華にファンサービスをやめさせ、園内を回りはじめたのだが、まるで芸能人かのように写真を撮られまくる。

クロちゃんが俺だとバレる日も近いぞこんなんだと…

そんな風に怯えながら、変装が崩れるアトラクションは避け、大人しめのアトラクションや館内施設を回っていると…

 

「ゲーセン…」

「ここは前来なかったね」

「確かに」

 

こんなところまで来てゲーセンはどうかと思ったからな。

店内に入った銀華は物珍しそうに周囲のクレーンゲームやコインゲームの台を見ている。

ははーん。俺でもわかったぞ。

 

「やりたい?」

「うん!」

 

そんなキラキラした目と表情を見れば、一目瞭然。

 

「じゃあやってみるか」

「これどうやってやるの?」

 

瞬き信号で俺が男言葉になってると注意しながらも、店の入り口にあった小さなぬいぐるみが入っているクレーンゲームに興味津々の銀華に、縦ボタンと横ボタンを順番に押せと教えてやると、銀華は財布から100円玉を取り出した。

そして筐体の前で、まるで狙撃訓練をしてるかのような真剣な顔でクレーンを操作し始める。

うぃーん……

ぽと。

だが、狙いが悪い。クレーンはライオンかヒョウだか、よくわからないネコ科の小さなぬいぐるみの体の下に潜り込んだが、持ち上げたところでクレーンの上から落ちてしまった。

 

「ふーん、なるほどなるほど」

 

銀華は何か数瞬考え、もう一度100円玉を入れると、今度は落とす穴に近いやつを狙った。そいつの胴を狙うかのようにクレーンを動かし…

ぎゅ。

クレーンは見事、一頭の胴をがっしりつかむことに成功する。

 

「お?」

 

見れば、ぬいぐるみのしっぽにはその下にいたもう一頭のタグが絡まっている。

ぬぬぬ…

クレーンに持ち上げられた1匹のしっぽにつられて、もう1匹。

 

「どうかな?」

「あー、入る、入る、行って!」

 

銀華ほどじゃないが、なぜか関係ない俺もこれにはドキドキする。1匹は確定だが、もう1匹は…どうだ?

クレーンが開く……!

ぽと。

っぽと。

1匹目が穴に落ち、そのしっぽに引っ張られ、もう1匹も穴に落ちた。

 

「「やった!」」

 

無意識に

ばちぃ♪

と二人とも満面の笑みでハイタッチした。

長いこと一緒にいるだけあって、無意識でも息がぴったりだ。

 

「お姉ちゃん。はい、あげる」

 

銀華は2匹釣れたうちの1匹を差し出してくる。

 

「今日付き合ってくれたお礼」

 

まあお礼は銀華の笑顔で十分採算が取れていたんだが、貰っておくか。タグを見ると名前が書いてあり、名前はレオポン。なんじゃそりゃ。

 

「しろ……ウィン。もしかして2匹取りは狙った?」

「うん。ちょっとズルしちゃったけどね」

 

ズルとはずば抜けた推理力を使った推理のことだろう。

銀華のいたずらっ子のようにぺろっと舌を出す動作は本当に似合っており、俺よりずっと年下に見えた。

 

 

ゲーセンでその後エアホッケーなどをして(ボコボコにされた)、時間を過ごした俺たちは、再びアトラクションの方に戻り、遊園地の定番ともいえる観覧車に乗ることにした。

銀華の先に乗り、銀華の手を引いてエスコートして、ゴンドラのドアがしまった数瞬後、

 

「「ん?」」

 

俺のマナーモードにしていた携帯が震え、銀華の携帯からも洋楽のメロディーが鳴る。

俺と銀華、同時にメールが送られて来るとなると、武偵高からの緊急周知エリアメールだろう。不審に思った俺たちはメールを見ると……

 

「…!」

 

俺は冷や水をかけられたような気持ちになり、銀華の笑顔も急に引き締まった顔になった。

 

『Area:江東区2丁目6 case code.F3B-O2-EAW 特殊(C)捜査(V)研究科(R) インターン「中3」の島麒麟より発信あり(13:55)』

 

一部暗号化されているが、これは事件発生を意味するメールだ。

 

「場所はここ。ラクーン台場だね」

「ケースF3Bは誘拐・監禁。CVRの女子だったらあり得ない話でもない」

「うん。O2、『原則的に2年以上が動け』って言われてるし、犯人は防弾装備(EAW)。たぶんプロだね」

 

銀華や俺のような武偵が言う『プロ』とは、昨日今日銃を初めて手にしたような人ではない犯罪者を指す。ヤクザやマフィアといった、危険な相手だ。CVRのインターンの女子なら、誘拐されてもおかしくない。

 

「銀華、校内(イントラ)ネットではなんて?」

 

武偵高の校内ネットには緊急連絡BBSがある。そこを銀華は見にいったようだが……

 

「早い生徒でも現場到着は20分だって…この場の2()()以上は私たち以外にはいないみたい」

「学園島はそことは言え、交通の便がわるいし、これに乗ったばっかりで俺らもあと15分ぐらいかかりそうだしな…」

 

今思い出したが、よく考えたら俺クロちゃんじゃん!武装はしてるけど俺こんな姿じゃ救助できないよ…

 

「まあ、この件に関してはなんとかなると思うよ」

「なんでだ?」

「2年以上は私たち以外この現場にいないけど、1年なら動けそうな人たちがいるからね」

「……原則として2年以上が動けという話だが?」

「原則は原則だよ。例外は何事もあるんだからこの場合は別。私の推理ではその子たちが解決してくれると思うよ」

「お前がそう言うなら…」

 

銀華は未来推理や直感でやばいと感じた時、自分が動くからな。それが外れたのは見たことがないし、銀華がそう言うなら、まあ大丈夫だろう。この格好でさらに目立ちたくないし。

 

 

銀華の予想通り、この事件は銀華の仮戦妹の火野を含む後輩3人が解決した。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

月曜日

強襲科の通称『黒い体育館』こと格闘訓練場でアタシは

 

「てやぁぁああああっ!」

 

男子に豪快な払い腰を決める。

続けて挑戦してきた男子は、小内刈りを仕掛けてくるけど、

 

「おりゃあ!」

 

アタシはそれをすかし、逆にそこから一本背負いへと繋げる得意技を披露すると……

どたんっ!

とその男子も板の床に叩きつけられた。

武偵高の訓練は当然、男女の差や体重差も考慮しない。犯罪者と戦うんだからそんな差を考慮するわけにはいかない。

まあ、そこらへんの男子よりアタシの方が強いんだけど。

 

「お見事ッ」

 

授業を担当する強襲科教師の蘭豹に褒められるけど……こんなもんじゃダメだ。銀華先輩に認められるためにはもっと頑張らないと。

なんたってもうすぐ仮戦姉妹の期間は終わるんだから。銀華先輩との幸せな生活がこんな早く終わるのは嫌だ。そんなことを考えながらも真剣に徒手格闘訓練をしていると……

 

「失礼します」

 

訓練所入り口から最近聴き慣れて来た凛とした声が聞こえた。

この声は……

 

「北条か。どうしたんや」

 

やっぱり、銀華先輩だった。まだあたしたち授業中なんだけど、どうしたんだろう。確か、今日はこれから任務で忙しかったはず。

 

合姉妹(ランデ・ビュー)の件でお話が」

「ああ。あれか。それで結局どうするんや」

 

アタシの視線に銀華先輩は気づいたようでこちらに手を振ってくれた。銀華先輩はファンサービスいいことで有名だけど、アタシ個人に振ってくれるのは嬉しいけど、そんなこと思ってる場合じゃない。私の戦妹の話じゃないか。

 

「私はライカを戦妹に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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