「キンジ、今日は泊まっていかない?」
きっかけは食事後の銀華のそんな言葉だった。
「あー…明日は金曜日でまだ学校あるし、女の部屋に男を泊めるのはな良くないぞ」
「えー!どうせキンジは置き勉してるんだし、着替えは私の家にあるし、キンジのチャリ壊れてるから私の車で行けば楽だし、キンジは婚約者だから別に問題ないよね」
「あ、はい」
俺の微かな抵抗も虚しく、銀華の家に泊まることになった。以前はアリアに俺の家が脅かされて、銀華の家に泊まったことがあったが…よく考えたら、い、いかんでしょ。婚約者とはいえ、男女二人っきりで一つ屋根の下、夜を過ごすって。銀華も
そして、寝るにしても明日は学校。体は清潔にしときたい。
なので俺は、銀華のバスルームを借りたのだが、これがミスチョイス。
銀華の家に泊まることはほぼ今までなかったので、初めてバスルームに入るので油断していたのだが、ここは従来、女子しか入ったことのないバスルーム。つまりある種の女子風呂だ。銀華の後に入ったら、本人がいなくても匂いだけで、ヒスって大変なことになると思った俺は先に入ったのだが、すでに充満していた女ぽい匂いを吸ってしまいむせる。
なので俺は息を止め、得意技の高速洗体術。
烏の行水で上がった。なんで風呂でこんな疲れにゃならんのだ。
となると次は、銀華が入るワケで--
考えるだけでヒスりかねんその状況を想像しないようにと、現実逃避気味にダイニングの棚に置いてあった、銀華が調べたと思われる武偵殺しのレポートを銀華の家の自室で読む。
ふむふむ、何々…
『武偵殺しは以前、バイクジャックとカージャックを起こしており、今回のチャリジャックもそれに当たる三件目とされている。しかし、事故となっているが実際は武偵殺しが行ったと思われる可能性事件が数件見つかった。それを考慮すると、犯人が本物の武偵殺しか模倣犯のどちらにせよ、このチャリジャックは始まりにすぎない。もっと大きな事件を起こす可能性があるため注意が必要である』
「まだ終わってないか…」
俺のチャリに爆弾を付けた意味もわからないし、まずなぜ俺なんだ?優秀な武偵ならアリアや銀華を狙うべきだし、事件を確実に成功させたいなら、自分で言うのもなんだが、もっと下のやつを狙うべきだろう。また、アリアが武偵殺しを追っていることは多分わかっているだろう。そして助けるだろうことも。
じゃあなぜアリアがいる時に実行した?
なぜアリアがいない日を狙わなかった?
考えれば考えるだけわからなくなる。
まあ頭脳系分野はこの俺じゃちょっと荷が重い。あっちの俺や銀華に任せた方が良さそうだな。
……コンコン。キィ……
「キンジ。まだおきてる?」
そんな声でドアを見ると、ちょうど飲んでいた水を噴出しそうになり--堪えてぐっと飲み込んだ。が、変なところに入ってしまい、結局むせる。
というのも、銀華が風呂上がりの体に--
ネグリジェなる夜着を着用していたからだ!
「……っ!」
いつも銀華は長袖のパジャマを着ていたはず。それが故に油断があった。
超ミニスカートのワンピースみたいな銀華のネグリジェは超能力者でなくても内部が透視できちゃうような化繊製。
意外とある胸を隠す下着や肌が薄っすら見えちゃいそうなレース地のショーツが--見えてるような見えていないような…だ!
俺がテンパって硬直していると、銀華は恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「ど、どうかな?」
どうかなじゃないですよ銀華さん!
銀華と俺は
俺に見せるためか、クルッとその場でマイ枕を持って一回転スピンした銀華に
「かわいいが…」
「ほんと!?」
「あ、ああ!」
かわいいが…いつもの服の方が俺は気楽だと言おうとしたのに、笑顔の銀華には勝てなかったよ…
「キンジもうすぐ寝る?」
「そのつもりだが」
「……うん、あのね…それでね…キンジにお願いがあるんだけど…」
「…なんだ?」
銀華からされるお願いは少ないが、基本的に厄介なことが、遠山研究所では提唱されている。嫌な予感しかしない。
「い、一緒に寝てもいいかな?」
……そうきたか。
実際銀華の私物らしい俺が使ってるベッドは一人用にしては大きい。二人寝れないこともないだろう。だが、だがな…
(婚約者とはいえ同衾するのは流石にやばいだろ…!)
銀華と一緒に寝てヒステリアモードを抑えることはたぶん無理。
だが、銀華のお願いを断って、もし怒ったら怖い。もし追い払っても寝てる間に潜り込んでくるリスクがある。それなら最初から入れといた方がマシだろう。野放しにするよりは目の届く範囲で監視する。これは危険物管理の原則である。もしヒスったら……リゾナ俺に任せよう。
「まあ…いいが…」
「ありがとうキンジ、大好き!」
「………」
もうちょい刺激の少ない服に着替えて来いと言おうと思ったが、銀華の笑顔には勝てなかったよ…
というか俺、銀華の笑顔に弱すぎないか…?
仕方ない。銀華が俺のベッドに上がってきたし、少し手をうっておくか。
「上がるのはいいけど、ベッドの上は俺の支配領土だから、俺の言うことを聞けよ?」
我ながら意味不明な理論で銀華にそんなことを言う。それを聞いて銀華は…
「う、うん。わかったよ…」
顔を赤らめて了承の返答をしたが、さらに用心深い俺は、あぐらをかいた俺の正面で女の子座りをしている銀華が俺の命令を聞くかどうかのテストに入る。
「お手」
「はい」
俺が手のひらを上に向けて突き出すと、銀華は手を乗っけてくる。
「伏せっ」
「はい」
ふぁさっ、とサラサラの銀髪を広げ伏せのポーズも取った。
……よし。大丈夫だろう。
小声で『もしかしてこれが理子の言ってた…』とか呟いている銀華は、基本的に俺の言うことを聞くからな。ヒスると本能のままに動くが、そういう行為をしなきゃいいだけだ。
「じゃあ寝るぞ」
「ねえキンジ…」
「なんだ?」
「これってもしかして雌犬プレイってやつなのかな………?」
雌犬プレイ?
もしかして、ちゃんと言うことを聞くか確かめるために銀華を犬扱いしたことを言ってるのか?
「ああそうだ」
俺がそう答えると…
キュィィィィン
と音が聞こえるがごとく顔を真っ赤にした。
その後、少し雰囲気が変わり、
ぽんっどさっ。
銀華は俺を一瞬押し、俺が抵抗し戻そうとした力を利用して、自分の上に俺を覆い被させた。まるで俺が銀華を押し倒したみたいな体勢になっている。
「お、おい銀華」
「……キンジ。……私を可愛がって…?」
ギャー!銀華がヒスってやがる。でも完全じゃない。甘くかかった状態、
「ちょっと、待て銀………」
最後まで言うことができなかったのは、俺の唇が銀華の唇で塞がれたからだ。
ドックン、ドックンと俺の心臓が止めどなく暴れ--
--なっちまったな。ヒステリアモードに。
「…キンジ…」
銀華もさっきのキスで完全にヒステリアモードになったのがわかる。いつもの凜とした雰囲気ではなく、小動物のような可愛らしい雰囲気を発している。今更だけど俺的には甘ヒスが一番厄介なの忘れていたよ。
「銀華、最初からこのつもりで俺を泊めたのかな?」
「……うん。嫌……だった………?」
「いいや。こんなにも可愛い銀華の姿が見れて俺も嬉しい」
思い返せば、いつもの銀華にしては服装やお願いなど、かなり積極的だった。最近、こういうことをしてなかったので銀華は不満だったのかもしれない。
銀華の上げた手が俺の頰に当たる。
俺はその手を伝っていき、再び唇と唇が触れる。
最初は唇だけだったが、それだけでは満足できずお互いの舌がお互いを求め合う。
そうしてどれほどの時間が経っただろうか。
「銀華…」
「キンジ…」
お互いの唇をようやく離すと銀華の目はトロンというように酔っているようだった。
「……キンジ私のこと……好き?」
「この世のどんなものよりも愛してる。当然だろ?」
「……じゃあ……それを証明して……」
その日俺たちの夜は長かった。
………ブルルルル、ブルルルル。
俺はマナーモードの携帯の震える音で目を覚ました。多分電話だろう。
だが、まだ眠いんだ俺は。こんなに早くに起こさないでくれ。
…ブルルルル、ブルルルル
まだ眠いんだ…
ブルルルル、ブルルルル!
ったく!しつけえな出ればいいんだろ、出れば!
「もしもし」
『キンジ。今どこ?』
アリアだ。
「銀華ん家だが、こんな早くになんだ?」
「はあ!?もう普段なら授業始まってるわよ!」
時刻を見ると8時20分。もう授業が始まってる時間。やべえ!完全に寝坊だ!
『まあいいわ。銀華の
「そんな場合じゃねえって!今からすぐ学校行かなきゃ!」
『授業は中止されたわ、事件よ!あたしがすぐと言ったらすぐ来なさいっ!』
そんな怒鳴り声と共に電話が切られた。
あいつ今事件って言ったよな……?あいつと約束した事件を一件だけ一緒にやるというやつかもしれない。
--事件。
何だ。
何が起きたんだ?
願わくば小さな事件であってほしい。
だがそんなことも、愛らしい銀華の寝顔によって救われるような気がする。
ちょっとだけ頰に髪をかけ、横向きで寝ている銀華は、初めて会った時よりも--いや、去年より美人になった。
昨日会った時よりも美人になっている気がする。
……っ、て……!
下着姿じゃんこいつ!わ、忘れてた!
「……キンジ」
俺が登場する夢を見てるのか俺の名前を寝言で言っている。
こ、この銀華と…昨日色々やったんだよな…
さて…アリアに銀華も連れて来いと言われていたがどうするかだな……
銀華はアリアと組む気はなさそうだったし、あんまり危険なことに俺としても関わらせたくない。俺の身勝手だが、銀華はこのまま寝させておくか。
「行ってくるよ」
寝てて聞こえてはないと思うが、髪を一撫でしながらそう言い残し、俺はアリアが待つ女子寮に向かった。
俺は自分の姿を苦々しく見る。
SATやSWATにも似たこの装備はC装備と呼ばれるものだ。これは武偵がいわゆる『出入り』の際に着込むもので、女子寮に到着するや否やこれに着替えさせられた。
何度かこの装備を着たことはあるが、基本危ない任務だ。銀華を連れてこなくてよかったな。そんなことを考えながら屋上に出ると、そこには、俺と同じくC装備を着用したアリアが鬼気迫る表情で、何か無線機にがなり立てている。
「……!?」
ふと気がつくと俺の横にはレキが体育座りしていた。気配がないからびっくりしたぜ。狙撃科の麒麟児を呼ぶとは、転入生のくせにいい駒がわかってるじゃねえかアリア。
「お前もアリアに呼ばれたのか?」
「はい」
「また風さんの音を聞いてるのか?」
「はい」
抑揚のない声でレキはそう言うと、かちゃっ、と狙撃銃--ドラグノフという、スリムなセミオート銃--を、自然に肩にかけ直した。
「時間切れね」
通信を終えたアリアが俺たちに振り返った。
「もう一人Sランク欲しかったのだけど」
「しゃあねえだろ。体調不良だったんだから」
とりあえず銀華は体調不良ということにしといた。本当は俺の身勝手な願望なんだが。
「仕方ないわね。
「追跡って…目的語を言え。状況説明ぐらいしろ」
「バスジャックよ」
「--バス?」
「武偵高の通学バスよ。あんたが乗ったこともあると思う。あんたのマンションの前にも7:58に停留するやつ」
何!?
乗ったことがあるじゃねえ、ここ最近毎日乗ってるやつだ。あのバスが乗っ取られたのか?
今日は雨。チャリ通のやつがバスを使うから、バスの中はすし詰め状態だろう。
「犯人は車内か?」
「たぶんいないわね。バスには爆弾が仕掛けられている」
それを聞いて銀華のレポートの内容が頭をよぎる。それを感じ取ったのか、アリアがこちらを見た。
「キンジ。これは『武偵殺し』。あんたのケースと同一犯の仕業よ」
「武偵殺しは逮捕されたんじゃないのか?」
「それは真犯人じゃないわ。武偵殺しは遠隔で爆弾をコントロールするんだけど、その操作に使う電波にはパターンがあって、今回もあんたの時もその前も同じなのよ」
「なんだって?」
そう言ったアリアはパンと一つ柏手を打つように鳴らし、
「もう背景の説明する時間はないわ」
「お、おい」
「あんたには知る必要がない。このパーティーのリーダーはあたしよ」
「待て…待てよアリア!」
「事件はすでに発生してるわ!事件は待ってくれない。ミッションは車内全員の救助!以上!」
「リーダーでもなんでもいい!だがリーダーならそれらしくメンバーにきちんと説明しろ!」
「武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』。武偵高の仲間を助ける、それ以上の説明は必要ないわ!」
俺たちの頭上から、雨の音に交ざって激しい音が聞こえてきた。
ヘリだ。
アリアがどうやら呼んだらしい。
こうなったら、確かに説明聞いてる暇なんてないな、チクショウ。
「キンジ。これが約束の最初の事件になるのね」
アリアがヘリに乗り込みながらそんなことを言ってくる。
「ああ。大事件だな」
「約束は守りなさい?あんたが実力を見せてくれるのを楽しみにしてるんだから」
「言っておくが俺はEランクだからな」
「万一ピンチになったら、あたしが守ってあげるわ」
ヘリの中で話した情報によるとアリアは通報より早く、武偵殺しの電波をつかみ、準備を始めたらしく、警視庁や武偵局よりも早くに動けたので、俺らが一番乗りらしい。
視力が左右6.0のレキにバスを見つけてもらい、ヘリで近づくとバスはかなりのスピードで他の車を追い越しながら、暴走してるのが見えた。
『空中から、バスの屋根に移るわよ。あたしはバスの外側、キンジは内側で状況確認した後、連絡。レキはそのまま追いながら待機』
強襲用パラシュートを天井からはずしながら、テキパキとそう告げる。
「内側って、中に犯人いたら刺激して危ないだろ」
『「武偵殺し」なら、車内に入らないわよ』
「違ったらどうすんだよ」
『違ったら違ったでなんとかしなさい。あんたならできるわ』
コイツ。
ほぼ全てのセオリーを無視して、現場に一番に乗り込み、圧倒的戦闘力で一気にかたをつけてしまおうというわけだな。
そんなんだから『
バスの屋根に空挺した俺とアリアはさっき決めたようにアリアは背面に、俺は内側に移動した。
「キンジ!」
大混乱の生徒たちの声の中から、聞き慣れた声がしたので振り向くとそこには武藤がいた。
「キンジ、あれだ。あの子」
武藤が指をさしたのは、運転席の近くに立つメガネの中等部の後輩。
「ととと、遠山先輩たすけてっ」
「どうした、何があった」
「わわわわ私の携帯がいつの間にかすり替わってたんですっ。そ、それが喋り出して」
「速度を落とすと 爆発しやがります」
なるほど。これはアリアの言う通り俺の時の犯人と同じ人物だろう。
「アリア」
『何!中の様子は!?』
「お前の言った通りバスは遠隔操作されてる。そっちははどうなんだ」
『車体下にカジンスキーβ型の
どんだけ過剰火力なんだ、武偵殺しは。爆発したらバスどころか電車も吹っ飛ぶぞ。
『解体を試み--きゃ!』
アリアの叫びと同時に、ドン!という振動がバスを襲う。慌てて後ろの窓を見ると、このバスに追突したと思われる1台のオープンカー、ルノー・スポール・スパイダーが距離を取っているところだった。
「おい、アリア!アリア!」
応答がない。今の追突でやられたらしい。
まず撃退しないとアリアが助けられないので、側面の窓から上半身を出すと、後ろにいたはずのルノーが横に回り込んできた。
その無人の座席から
「みんな伏せろっ!」
俺が車内にそう叫び、乗客が頭を低くした直後--
バリバリバリバリッッ!!
頭の上を無数の銃弾がバスの窓を割りながら通過していった。俺の忠告で乗客に怪我はなさそうだが…
ぐらっ
変な揺れ方をしたので運転席を見ると、運転手が肩に被弾しており、ハンドルにもたれかかるようにして倒れていた。運転のため、伏せることはできなかったのだろう。
「有明コロシアム の 角を 右折しやがれです」
後輩の女子が落とした携帯から声が再び聞こえてきた。
さらにまずいことにバスは速度を落とし始めている!
「武藤!運転を代われ!減速させるな!」
俺の防弾ヘルメットを武藤に渡しながら叫ぶ。
「い、いいけどよ!お前はどうすんだよ!」
「俺はルノーを撃退する」
再び俺はバスから上半身を出す。バスの後ろの拳銃交戦距離外にいるルノーに狙いをつけた。
拳銃交戦距離外、揺れるバス、不安定な姿勢。前までの普通の俺なら万に一つも当たることはなかっただろう。だが俺は銀華と出会って、銀華に見合うパートナーになりたくて必死に努力してきた。拳銃も体術も最初は銀華に到底かなわなかったが、今では銀華に褒められるレベルまでにはなった。
(ここで当てなきゃ今までの努力がなくよな!)
周りに通行人や車がないのを見て
バババババ!
ベレッタ92Fをルノーのタイヤに向かって発砲する。
「やった…!」
俺が撃った銃弾の一つがタイヤに当たったらしく急激にスピンを始め、ガードレールにぶつかり--ドオンッ!
バスの後ろで、爆発、炎上した。
「おいアリア、大丈夫か!」
ルノーを処理したのでアリアを救出しようと、屋上に登った俺に
「キンジ!」
ワイヤーを伝って上がってきたアリアが顔を上げた。
「あんた意外とやるわね……ってヘルメットどうしたの!」
「運転手が負傷して…今、武藤にメット貸して運転させてるんだ!」
「危ないわ!一台倒しても一台だけとは限らないでしょ!すぐ車内に隠れ--後ろっ!伏せなさい!何やってるの!」
アリアがいきなり俺に向かって突進してきた。
油断が無かったと言えば、嘘になる。
ルノーを一台撃退していい気分になってなかったとは言えない。俺の横にはいつも優秀な
背後を振り返ると、どっかで待ち伏せしていたと思われる、新しいルノー・スパイダーがUZIをぶっ放すのが見えた。
俺めがけて。
飛んでくる。
銃弾が。
死んだ。
本当にそう思った。
俺はアリアに吹き飛ばされ、
バチッバチッ!!
被弾音が2つ。
視界に鮮血が飛び散った。
が俺に痛みはない。
「アリアッ!」
アリアはゴロゴロ、と屋根の上を転がり側面に落ちていった。
「アリア--アリアああああああ!」
ありたっけの力を持ってアリアを支えてるワイヤーを引っ張る。
ルノーは速度を落とし、側面に回ってきた。
今撃たれたらアウトだ。そんな、覚悟を決めた時、
バババッ!バババッ!
特徴的な三点バーストの音が聞こえ、2台目のルノーもスピンし、爆発炎上した。
この特徴的な発砲音は、もしかして……
「ごめん、遅れた」
銀華が並走させた自動運転のマイバッハから、ワイヤーでバスに乗り移ってきた。
銀華の乗り移ったバスは台場を抜け、レインボーブリッジに突入していく。
「助かった。アリア見てくれるか」
「うーんと、見た感じ重症ではないけど脳震盪を起こしてるね。ひとまずここでは治療できないから、キンジ
そう言って銀華はバス後方に向かう。
そちらに目を向けると…
「……っ!」
さらに3台のルノーが迫ってくるのが見えた。
銀華はC装備でなく、普通の防弾制服。ヘルメットは当然していない。
「おい、銀華!危ないって!」
「キンジ、伏せてて」
3台のUZIが銀華に向かって火を吹いた。
すでに93Rの2丁目を抜いていた銀華は、アリアのお株を奪う
バリバリバリバリッ!
空中に全弾ばら撒いた。
--ギギギギギギギギギギギギギギンッ!
--ボボボボボボボボボボボボボボボッ!
数百の弾子がアスファルトに食い込む音が聞こえる。そしてドオンッ!という3つの爆発音。被弾は0だ。
「
こちらを向いた銀華の目は片方が
『私は一発の銃弾』
インカムからレキの声が聞こえてきたので横を見ると、バスの横に武偵高のヘリが並走している。そのハッチは大きく開かれ、レキが膝立ちでバスを狙っている。
建物が多いところでは無理だった狙撃のチャンスが今、このレインボーブリッジの上できたのだ。
『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない』
詩のようなことを呟いている。
『ただ目的に向かって飛ぶだけ』
何度か聞いたことがあるレキのまじないのようなクセだ。それを言い終わった瞬間、レキの銃口が3回閃き、ギンッ!キギンッ!と着弾の衝撃がバスを揺らす。何かの部品がバスの下から落ちて道路を転がる。それはバスから分離された、爆弾。
ギンッ!
再び部品から火花が上がり、爆弾は下の海に落ちていく。
ドウウウウッ!!
遠隔操作で起爆させられたのか--海中から水柱が盛大に上がる。
「キンジ、なんで私を起こさなかったの!」
次第に減速し停まったバスの上で、アリアの応急措置をしながら銀華がそう言ってくる。
「銀華を巻き込みたくなかったから…」
「何言ってるのキンジ!私たちは二人で一人なんだよ!まったく…神崎に迷惑かけて…あとで謝っときなさい!」
「はい…」
怒る銀華、うなだれる俺、ぐったり動かないアリアだけが、豪雨に打たれ続けていた。
最初読んだ時、アリアが怪我して結構衝撃受けたんですが、今読むとなんでアリアは