今年もキンジと銀華をよろしくお願いします。
注意:いろいろスキップ、アリアの性格かなり改変
静かな俺の部屋のベランダから、東京の夜景が見える。
『空き地島』の風力発電機は1本折れるようにひん曲がっており、その下では解体前のB737-350が打ち捨てられている。
あれは俺とアリアが緊急着陸させた飛行機なんだが…自分の好きな景色を、自ら壊しちまったな。
「ママの公判が延期されたわ」
今日は事情聴取などでいろいろあって大変だったのだが、なぜかアリアが俺の部屋にまでついてきてしまっている。
「今回の件で『武偵殺し』が冤罪ということを証明できたから…聞いたところによると、最高裁、年単位で延期になるらしいわ」
「そうか」
よかったなという雰囲気でもなかったので、俺は一言それだけ返答する。
アリアは翼の折れたB737を見てから、クイッという風に俺の方を向いた。
「ねえ。なんで、あんたあたしを助けにきたの?」
なんで、って…。
「言っただろ。銀華がそう望んでいたって」
「違うわ。うまく言えないけど、そうじゃないってなんか分かるの」
なんて無茶苦茶な…
と思うが……まあ、確かに俺もそう思う。
銀華が望んでいることはたぶん本当だ。だが、あれは『キンジが望むなら助けてあげて』といった種類のものだった。それなのに、なんで助けに行ったんだろうな。
「馬鹿のお前じゃ、『武偵殺し』には勝てないと思ったからだ」
「あ、あたし1人でもなんとかできたわ。バカはそっちよ」
「そうだな。気の迷いでお前みたいなバカを助けた俺が一番バカなのかもしれないなぁ」
俺はベランダの柵に肘をつきながら、深ーくため息をつく。
するとアリアは大きな瞳をパチクリさせ、少し言い淀んでから…
「ゴメン、ウソ」
「どれが?」
「1人でもなんとかできたって言ったこと」
そう言って、アリアにしては珍しくモジモジとした喋り方になった。
「あのさ。空で…あたしわかったんだ。なんであたしに『パートナー』が必要だったのか。自分一人じゃ解決できないこともあるんだって…」
「……」
「それに、銀華の言った意味。キンジは最終的に自分が制圧するとしても、負傷したあたしでも役に立てる作戦を立ててくれた」
「まあ…あれは…」
「人には役割がある。ひいお爺様のパートナーもそうだった。あたしは今度からあたしに合わせられる人じゃなくて、あたしを最大限に活かせるような人を探そうと思うわ」
「アリア…」
「--だから今日はね。お別れを言いに来たの」
「お別れ?」
「さっき言ったようなパートナーを探しに行くのよ。ホントは…あんただったら良かったんだけど……あんたは銀華のパートナーだからね。それに約束したし」
「約束?」
「1回だけって約束だったでしょ?」
「あ、ああ」
武偵殺しの件が片付くまで。そんなことを飛行機で言った気がする。
「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対に守れ。だからもうあたしはあんたを追わない」
アリアはもじり…もじりと。
言おうか言うまいか何度か迷った後、今度はしっかり俺を見つめてきた。
「キンジ。あんたは立派な武偵よ。だから、あたしは今は、あんた達の意思を尊重するし、もう奴隷なんて呼ばない。だから、もし、もし、気が変わったら…その、今度は二人で会いにきて。その時は今度こそ、二人はあたしのパートナーに…」
まだ諦めきれていないらしいアリアの申し出に俺は
「…悪い」
と目をそむけながら言っていた。
俺は武偵になる気は無い。銀華にも武偵を辞めさせる。
それに正直、今回みたいな危険な現場に飛び込むのはもうこりごりだ。
「い、いいのよ。あんたにその気がないなら。あたしはまだ、
そう言うとアリアは俺に背を向け、少し冷えたのか室内に戻る。
「あーあ。東京の四カ月間、本当に最悪だったわ。パートナーは結局できなかったし、頭は怪我するし、近くでイチャイチャするのを見せつけられるし」
「イチャイチャって…」
「してたでしょ銀華と!いっぱい!」
ぷんと擬音語が鳴るかのように、アリアが両手を腰に当て見上げてきた時、
ピンポーン!
玄関のインターホンが鳴り、誰かが入ってきた。鍵を勝手に開けリビングに入ってきたのは…
「むぅ。私お邪魔だった?」
ふくれ顔の銀華だ。仲良く話してたのがお気に召さないらしい
「そんなことはないさ。なあアリア」
「ええ。あたしは貴女にもお礼を言わなくちゃいけないわ」
それを聞いて銀華はふくれ顔を驚きの顔に変える。そんな表情をしている銀華にアリアは真剣な表情で向き合う。
「あたしを助けてくれて、その…ありがとう」
アリアが頭を下げる。これには銀華も、そして俺も目を丸くするぐらい驚いた。
こいつはいつも上から目線で頭を下げるところなんて見たことなかったのに。
リアル貴族様が銀華に対して頭を下げるのは以前のアリアなら考えられない行為だろう。
現に銀華も推理できていないようで、俺でも見たこともない驚愕を浮かべた顔をしている。
「あたしを助けるためにキンジを助けに送ってくれたことにも感謝しているけど、今のあたしにはわかる。前のあたしは他の人のことを何も考えずステージに立つ
アリアはずっと自分自身についてこれる人をパートナーとして探していた。だが、銀華の言葉とこの前のハイジャックから、自分のことだけじゃなく相手のことも考えられるようになったみたいだ。初めて会った時とえらい違いで…その変化を俺は嬉しく思う。
「だから…その、本当にありがとう」
「そう…私が言った意味がわかってくれたなら良かったよ。
俺が聞く限り初めて、銀華がアリア呼びした。
それを聞いたアリアも、そう名前を呼んだ銀華もどっちも笑顔で、まるで姉妹のようで……その笑顔に釣られ、何がおかしいのか分からないが、俺も笑ってしまい、そのまま、あははは、ははは、と一緒に笑うのだった。
玄関まで銀華と二人でアリアを送り、脱ぎ散らかしていた靴をアリアが履くのを見守る。
「あ、もうこんな時間?急がなきゃ」
「何か約束があるの?」
「うん。お迎えが来るのよ。あんなこともあったし……ロンドン武偵局が東京にあるヘリで送ってくれるの」
そこは以前アリアが活躍していた場所。
「銀華と初めて会った時ぐらいから、あたし、あそこで派手に働いちゃってるの。あいつら帰ってこいってうるさいのよ」
「あはは…大変だね」
「帰るって…ロンドンにか?」
「うん。ヘリでイギリスが保有する空母まで行って、そっからジェット機でひとっ飛びよ」
ロイヤルネイビーの空母かよ。スケールでけえよ。流石は貴族だ。
「見つかるといいな。お前のパートナー」
「きっと見つかるわ。あんた達のお陰であたしは変わることができた。今度からは違う視点で探してみる」
「そっか…じゃあな。頑張れよ」
「頑張って。月並みの表現だけど応援してるよ」
「うん。バイバイ」
アリアはドアを開き、外に出て…俺はそれを止めることなく…扉は再びしまった。
これにて一件落着…か。
「……?」
アリアの足音がしない。
出ていったならエレベーターなり階段なりで下に降りると思うんだが。
「キンジ…」
心配そうな顔で銀華が俺を見る。
少し気になって、覗き穴からドアの外を見ると…
「…えぐっ…ひっく……ひっく……うぅ…」
アリアが扉を出た先で泣いていた。
「イヤだよ…あんた達みたいなコンビは、絶対……いない……あたしを変えてくれたあんた達みたいな人なんて…もう見つかりっこない…よ……」
アリア…どうして泣くんだ。
前向きにパートナーを探すって笑ってたじゃないか…
どうして泣くんだよ。アリア。
結局、俺はあの扉を開くことはできず部屋に戻り、ソファーに身を沈め、額を抑える。
見なかったことにするんだ。あれは。
そうすれば何もかもが終わる。
そうだよキンジ。あいつが居なかったら銀華との時間もたくさん確保してやれるじゃないか。
「ねえ、キンジ」
俺の横に座った銀華が呼びかけてくる。
「…どうした?」
「このままでいいの?」
「…何がだ?」
「自分でも分ってると思うんだけど…」
「………」
銀華が諭すように言ってくるので一旦黙る。
「アリアは、キンジと似てるよ。他人には理解できないものを背負い、武偵という道を全力で……だけど正反対の方向に走ってる」
「それがなんだっていうんだ…」
ちょっと怒り混じりの声が思わず俺の口から出るが、銀華は怯むことはない。
「だから、お兄さんがいなくなった時のキンジが今のアリアなんだって!自分で言うのもなんだけど、あの時私が居なかったら、ネガテイブの方に思考が沈んでいったと思うよ?」
「……」
「それで、今度はキンジがあの時の私の役をやる時なんだよ!アリアは孤独。手を差し伸べることができるのはキンジだけなんだから」
「お前でもいいだろ…」
「私はアリアを変えるきっかけを作っただけ。ほぼ部外者だよ。アリアを変えたのはキンジなんだから」
「お前はそれでいいのかよ!」
俺がそう怒鳴るように言うと銀華はビクッとした。
今一番言われたくないことを言われたというように。
「俺がアリアを手を差し伸べたとして、お前は平気なのかよ!?」
俺もアリアを助けたいとは思う。
だけど、それを妨げるのは説得している銀華自身だ。
アリアがいる間は銀華にあまり構ってやることができず、寂しい思いをさせた。自分の元から去るんじゃないかと不安に思ったことは一度や二度じゃないだろう。
その銀華の気持ちを思うと俺はアリアに手を差し伸べることができない。
「こっから言うことは事実だけど、聞いたら忘れて。本当にあさましいことで、私のこと嫌いになるかもしれないから…」
「……わかった」
そう答えると銀華は大きく息を吸い込み
「さっきああは言ったけど…私の心の底ではね、キンジにアリアを向かえに行って欲しくないんだよ」
「……っ!?」
「アリアが来てから、キンジが私と過ごしてくれる時間が減って本当に寂しかった……キンジに私だけを見て欲しかった。私だけを愛して欲しかった。何度もアリアに嫉妬して、
「銀華…」
「本当に何やってるんだろうと何度も思ったよ……寂しくてキンジに構ってもらうために、色々考えたり、ちょっとえ、エッチなことも勉強した」
「じゃあなんで…」
「そんなキンジを好きになっちゃったからじゃないかなあ」
「………は?」
思わず聞き返してしまった。そんなってどんなだ。
「キンジって基本的にウジウジしてて、勝手に一人で悩んで、おせっかいなんだけど」
「………」
「でも、優しくて、お人好しで、時々すごくカッコよくて」
「………」
最初とは別の意味で黙ってしまう。照れるだろ、目の前でこんなこと言われたら。
「こんな人が私の旦那さんになると思うと、心があったかくなって」
「……銀華…」
「そんな優しくてかっこいいキンジを見たいっていう私のわがままで……ごめんね、こんな醜い女で…」
まったく銀華は。もう本当にまったく、まったく、まったく。
「バーカ。何言ってるんだ銀華。お前が醜い女な訳ないだろ」
「キンジ…」
「お前も勝手に一人で抱え込んで、ウジウジして、おせっかいだけど」
「………」
「それ以上にお前は優しくて、気遣いができて…美人で」
言葉がスラスラと口から出てくる。
「俺には勿体無いほどの俺のお嫁さんだよ」
「…キンジ!」
横に座って居た銀華がそんな言葉を聞いて抱きついてきた。柔らかい銀華の身体が俺のいろいろなところに当たるけど、ヒス性の血流は感じない。このハグは謂わばお互いの愛をお互いに確認する行為だからかもしれない。
「かっこいいところ見せてくるよ」
「うん、私の旦那さんは正義の味方だっていうことを証明して」
「そんな大層なものじゃないけどな…」
俺たちは耳元で言葉を交わす。
遠山家は正義の味方。だが俺は半人前だ。
正義の味方になんかなれない。
でも、でも。
--アリアの味方ぐらいになら、なれるかもしれない。
俺が一番落ち込んでくれた時に助けてくれた銀華のように、俺もアリアを助けたい。
そんな俺を銀華は好きなんだから。
「愛してるよ、キンジ」
「俺もこの世で一番銀華のことを愛してる」
ヒスってもいないのにそんな言葉がスラスラと出てくるのは、惚れた弱みというやつかもしれないな。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
キンジは私が止める間も無く慌てて、部屋から出て行った。
この時間にはバスもないし、自転車はチャリジャックの時に壊れている。キンジが武偵高のヘリポートがある女子寮に駆けつけると思って、あらかじめ車を用意しておいたのに、それを聞く前に家を出て行った。
まったくもう…キンジは。
まったく、まったく、まったくだよ。
そう言いながらも頰が緩むのを感じる。
愛してる、この一言を聞いただけで、全てのことが許せそうになってしまうのは惚れた弱みというやつなのだろうね。
「でもなあ…はあ…」
さっきキンジに言った言葉に嘘偽りはない。キンジに嘘を言うわけにはいかない。
でも真実を全て言ったわけではない。
キンジとアリアを
騙してるわけではないけど、キンジを騙してる感じがして本当に、うん、罪悪感がすごい。
まあ、気にしてもしょうがないから別のことに意識を持っていくんだけど…アリアすごく変わったね。棘がなくなったというか…肩肘張らなくなったというか…
それを変えたのがキンジだというのは誇らしいけど、少し嫉妬しそう。
そしてキンジも、アリアがホームズの子孫ということももうすぐ知るだろうし、それによってちょっと関係がギクシャクするかもしれない。
アリア。負けないよ。キンジのお嫁さんになるのはこの私なんだから!
To Be Continued!!!
一巻の話がようやく終わりました…ここまでくるのに31万文字…長かった…