俺がこの学校に入学してから約2ヶ月。
先週関東もとうとう梅雨入りして、ジメジメした天気が続いていたが、今日は久しぶりに晴れている。
空が晴れていると気分もいいな。
「ねえ、キンジ」
「ん?どうした?」
放課後銀華が話しかけてきたが、珍しく周りにクラスメイトがいない。
「今日、買い物に行きたいんだけど付き合ってくれないかな?」
ああ、なるほど。銀華は荷物持ちが欲しいのだろう。
「わかった。いつも勉強やらなんやら教えてもらってるしな」
「ありがとう!キンジ!」
急に銀華が俺に抱きついてきた。
近い!近い!近い!顔近いって!
女性特有の甘い匂いも俺の鼻腔にせまってくる…!
銀華のこの匂い…菊みたいな匂いだな。どこか落ち着くようなリラックスするような匂いだ…………ってそんな批評してる場合じゃない!ヒス的な血流が高まるのを感じるぞ…!
こんなところでヒスってみろ…
相手は婚約者とはいえ人気者の銀華だ。
もしクラスメイトに見つかったら最後、村八分ならぬクラス八分に合うに決まっている。耐えるんだ、キンジ!
「し、銀華!嬉しいのはもうわかったから早く離れてくれ!」
「ごめんごめん、キンジ。クラスの人に見られたら恥ずかしいもんね」
危機一髪のところで離れてくれた。あぶねえ…
それにしても銀華、今日はやけに積極的だな。
「…で、どこに行くんだ?」
「クラスメイトに聞いたところにいこうと思ってるんだけどいい?」
「任せる」
俺はそういったんだが、後の俺はこの時何も確認しなかった自分をぶん殴りたくなったね。
クラスメイトにオススメされたらしい、武偵中から駅3つ分離れたショッピングモールについたんだが、ショッピングモールに来たのが初めてらしい銀華は買うわ買うわ。
金に任せてここからここまでっていう買い方するやつ初めて見たぞおい。
女子って買い物が好きなんだなって現実逃避を始める頃には俺の腕には大量の箱が積み上がり、カバンが大量にぶら下がっていた。
もう俺が持てないぐらい買った銀華は満足したのか、帰宅することとなった。銀華の家はここから徒歩圏内らしく、俺たちは歩いて銀華の家に向かう。
というか家近いなら1人で先に来とけよな…
「銀華、買いすぎたんじゃないのか?」
「確かに買いすぎたかも…」
日が落ち暗くなった夜道を2人で荷物を両手にたくさん抱え歩く。銀華も買いすぎたって自覚してるようだし、問い詰めるのはやめてあげよう。
「あとどれぐらいだ?」
「半分ぐらいは過ぎたと思うよ」
そんな会話をした時---
ダン!
バババッ!バババッ!
後ろから発砲音がすると同時に、銀華は手に持っていた荷物を放り投げながら拳銃をクイックドローして狙いもそこそこに発砲した。
「な、なんだ!?」
急な発砲音に俺は驚くことしかできない。
暗闇の中に見えたのは二桁に及ぶだろう人影。
「敵は約20人無力化1人。正面後ろの道ふさいでる。アサルトPDWなし、たぶん全員拳銃かそれ以下の武装。塀の向こうは一般人の民家だから巻き込むの考えて、塀越えるのはNG。どうするキンジ?」
銀華はもうそんな分析をしていたが小声でそう言われた俺は混乱しかしない。
というかなんで俺たち狙われているんだ?
それにこいつらはナニモンなんだ?
「おとなしくすれば手荒な真似はしない。女をこっちに渡せ」
そんな混乱の中、人影の中のリーダー格と思われる体格のいい男がそう言う。
奴らの要求から少し状況が掴めてきたぞ。
女は当然銀華のことだろう。
つまり奴らの目的は銀華ということか。
先制攻撃しといてその言い草はないだろう。
答えは最初から決まっている。
「先制攻撃しといてその言い草か」
「私がそう簡単に捕まると思ってるの?」
銀華はそう言いながら、最近授業で習った瞬き信号で
流石にこの人数相手にするのはAランクの銀華でも分が悪いのだろう。
「手荒な真似はしたくなかったんだがな」
男がそういうと前から5人、後ろから5人突っ込んできた。拳銃を撃たないのは
「キンジ、突っ込むよ!」
それをいうと同時に銀華は前方に一気に突っ込んだ。
銀華は同じく突っ込んできた敵にドロップキックをかましぶっ飛ばす。そしてその敵を足場に再び飛び上がり、空中で一回転しながらかかと落としを片足1人ずつ、合わせて2人の脳天にぶち込んだ。
こんな状況で言うことではないと思うけど、スカートでそんなアクロバティックな動きしたら中身見えますよ、銀華さん。
けど銀華のアクロバティックな動きによって相手が一瞬ひるんだ。今がチャンスだ。
「うおおおおおお」
俺はベレッタで威嚇射撃をしながら銀華と共に突っ込み……よし、相手の囲みを抜けた。
「何をボーとしている、撃て!」
リーダー格の男がそういうと…また撃ってきたぞ!?
いくつかの弾丸が身体の側を通過していく。
素人ではなさそうだがそこまでの腕はないようだ。
俺には弾は当たらなかったのだが…
「んぁっ…」
横の銀華から小さく悲鳴が声が上がり、走るスピードが低下する。まずいぞ…見た所、血は出ていないがたぶん防弾制服足を撃たれた…防弾制服を着ていると言っても、制服の上から食らう銃弾のダメージは飛び蹴りを食らう威力と言われている。足に当たったなら相当なダメージに違いない。
こっちの戦力のかなりの力を占めている銀華のとんでもない機動力を削がれたぞ…
「鬱陶しいなもう!」
そう1つ呟いた銀華は振り返りながら、93Rの二丁目をだし、二丁拳銃スタイルの三点バースト×2の圧倒的火力で相手の追撃を防ぐ。
銃声に紛れバチバチッ!と銃弾がぶつかる音が聞こえるほどの激しい撃ち合いが起こる。
「弾切れ」
流石に二桁の相手を1人で相手するには弾の数が足りない。銀華は弾が切れてホールドオープンした拳銃をしまい、俺の手を引いて再び逃げ出した。だがその走り方はやはり負傷したような走り方だ。
銃弾の射線から逃れるために裏路地に入り、右左と不規則に曲がり、鍵がかかってなかった古い倉庫の中に逃げ込んだ。
いくつか銃弾が扉に当たる音がするがすぐに発砲音は止んだ。
流石に無駄撃ちはしないか…
「ピンチだね」
少ししかめっ面をしながら銀華はそう言う。
外の奴らも銀華の強さを理解しているようで倉庫内での不意打ちを警戒して入ってくる様子はなさそうだな。人数差は歴然だからそう無理もすることも向こうとしてはないからな。
「というかあいつら何者なんだ?」
敵がわからないと対処のしようもないからな。聞いている場合じゃないかもしれないが敵を知るのは重要だ。
「たぶん、ヒトラーを未だ崇高してるナチの残党じゃないかな?上層部に私のこと気に入っている人がいるぽいんだよね。いつもお断りしてるのにしつこいんだよ」
「な…」
俺はその言葉に絶句してしまう。
ヒトラーはやったことはあれだが、類稀なるカリスマを持つ人物だ。
ナチス・ドイツはとっくの昔に解散しているが、未だ心酔してるものは少なくないと言われている。そんな奴らが日本にもいたとはな…
「お前よく今まで逃げてこれたな…」
「キンジがいなかったら全員叩き潰せたんだけどね。私が片方攻撃してる間にキンジがやられちゃう可能性あったからこうするしかなかったんだよ」
つまり俺を守るために銀華は気を使ったということか。自分の力の無さに悲しくなると同時に銀華に申し訳ないな…
「どうにかなるか?」
「うーん、今の私が全員倒すのは厳しいかも」
銀華は自分の足を指差しながらそう言う。やっぱり負傷していたか。
「この状況抜け出す策は2つある。1つは私が向こうの要求通り捕まる。 捕まっても抜け出すことはできると思うけどこれは最終手段にしたいね」
「もう一つは?」
「HSS」
「――っ!?」
俺は銀華が発したその言葉に驚くことしかできない。どうしてお前が知っているんだ…
「別に知っててもおかしくないでしょ。キンジと私は婚約者なんだし。それに、持ってるんだ私も。キンジと同じ体質、HSSを」
な、なんだと…銀華も俺と同じHSS、ヒステリアモードを持っているだと…
女版のヒステリアモードなんて聞いたことないぞ。けど銀華が言うことが本当だとするとこいつもあの状態になるとー
「キンジの想像通り、HSSが起こると別の人格みたいになるね。あの感覚はこの体質持ってる人しかわからない悩みだと思うし、キンジがHSSになりたくないのもわかるよ」
実体験のように言う銀華は……嘘など一ミリも感じさせない本気の目をしている。本当にヒステリアモードを銀華も持っているらしい。
「けど、現状打破にはこれしかないんだよね…HSSを使ってキンジが敵を打ち破る。でもこの作戦は全てキンジにかかっている賭け」
「賭け?どういうことだ」
2人でHSSになったら最強超人タッグが生まれるんじゃないのか?
「キンジのHSS状態は強くなるんだよね?」
「あ、ああ」
「でも私の、女版HSSは弱くなるんだよ。それもその辺のチンピラどころか、五歳児のちびっこにも勝てないぐらい『最弱』にね。だからこれはHSSで『最強』になるキンジにかかってるの」
「……っ!」
確かにヒステリアモードはそもそも『子孫』を残すためにといったもの備わっているものだ。その前提から考えても、男が女を守るために強くなり、女は守られるために弱くなるのは理にかなっている。
「無理にとは言わないよ。キンジに全ての責任を負わせたいわけじゃないし」
「銀華…」
「それにこれは私の問題だしね。キンジに付き合わせるのは筋違いなのもわかってる、でも…」
銀華は一回言葉を区切る。
「助けてほしい」
上目遣いをしながら銀華は懇願するようにそう言う。
そんなこと言われたらな…
「遠山家は先祖代々正義の味方なんだ。助けてほしいって言われちゃ断れないな。それに婚約者の悩みは俺の悩みでもあるからな。俺に任せとけ!」
男としてこう言うしかないよな!ヒスってもいないのにこんな臭いセリフがスラスラと言える自分がちょっと嫌だが。
「ありがとう、キンジ!」
そういって俺に飛びついてきた銀華が-
「---!?」
その時、自分の身に何が起きたのか、理解できできるまでに数秒かかった。
俺の唇に銀華の唇が押し付けられていたのだ。
銀華の張りのある唇から、俺の口に熱が伝わってくる。少し青みがかった銀華の長い銀髪の髪から、ふわ。
俺の鼻腔に、教室で匂ったのと同じ菊のような香りが忍び込んでくる。
銀華の全てが、今、世界の誰よりも近くにある。
ドクンッ、ドクンッと俺の心臓が止めなく暴れ、唇を離すと---なっちまったな。この血の巡り。体の中心・中央に太陽が生じたような熱い滾り。ヒステリアモードだ。
しかし、今まで経験してきたよりも強い。今の俺は、通常のヒステリアモードの30倍よりも強力な状態にあるのがわかる。
一方銀華は---
「今まで襲われて怖かったの、痛かったの…もう嫌なの…。助けて…キンジ…」
今までよりずっと愛らしく、愛おしさを感じさせる仕草で潤んだ瞳から涙をこぼした。
俺の腕を掴む力が…か弱い。
足はブルブル震え、内股にとざされ、怯えて…いる。
これは演技じゃない。演技でここまでできない。やっぱりこれはヒステリアモードだ。銀華は本当にヒステリアモードを持っていたのだ。
「銀華のお願いだったらなんでも聞いてあげるよ。だってそうだろう?銀華は俺のお姫様なんだから」
1つウインクしながらそう言うと、銀華は少し顔を赤くしたが、まだ両手の甲で目を拭いながら…ひっくひっくと泣き続けていた。
震え、怯え、男の征服欲を掻き立てるような異常な可愛さで。
もう普通の人間だったら、銀華のことしか考えられないだろう。
俺はそんな銀華をお姫様抱っこし倉庫の端まで移動させる。
「そこでいい子にしてるんだよ、銀華。そんな姿を他の人に見せて、俺以外の人が銀華に心を奪われたら俺は嫉妬で狂いそうだよ。だからその姿は俺だけのものにしてくれ」
「が、頑張って…キンジ…」
計算かわからないけど、俺から見て一番可愛い上目遣いの角度でそんなこと言ってくるの反則だね。ますます惚れちゃいそうだよ。
俺は倉庫の扉から飛び出すと、男達からの銃弾の雨のプレゼントだ。女性からのプレゼントはなんでも嬉しいものだけど、男からのプレゼントを貰っても何にも嬉しくないね。
普段の俺なら何にもお返しできないところだけど、今の俺はヒステリアモードだ。
そっくりそのまま返してあげよう。
拳銃の弾は当然、銃口が向いている方に線で飛ぶ。銃弾がいかに早かろうとその線上にいなければ銃弾には当たらない。そしてヒステリアモードの俺ならば、20本程度の線を避けるなど簡単にできる。
俺はその線を銀華のアクロバティックを真似るようにかわしながらベレッタのセミオートで相手の拳銃を狙い撃つ。通常時の俺ならともかく、今の俺ならこれも簡単にできることだ。銀華と同じような俺のアクロバティックな銃技で銃を弾かれた男達は
「な、なんでいきなり強くなったんだっ!?注意すべきはターゲットだけでお前は強くないはずじゃっ!?」
そんな声を上げる。
「俺のお姫様を泣かしたからさ。男は女の涙に弱いが場合によっては強くもなるのだよ」
そう言葉を返すとリーダーがキレたのか、1発銃弾を放ってきた。兄さん達が忘年会でやっていたように銃弾を銃弾で弾く『
音速で飛ぶ銃弾すらスローモーションに見える世界でどうするかと考えていると1つの技を思いつく。普段の俺やいつものヒステリアモードでは無理だろうが、今の俺ならたぶんできる。
飛んできた銃弾に対して人差し指を向ける。そして人差し指の爪の先に着弾した瞬間、腕を弾と等速で引いて爪の先で受ける。それを受けながらその場でクルリッ、と後ろ回れ右をしながら、体重で弾の突進力を体重で相殺していく。360度の後ろ回れ右を終えると、
「銀華の力を得た俺に銃弾が効くとでも?」
俺の爪の先でリーダーが撃った銃弾がスピン運動をしながら静止直立していた。その銃弾はジャイロ
爪は人体の表面にあるものの中で歯についで二番目に硬いってことを知っといてよかったよ。銃弾をつかんでもよかったけど絶対熱いから火傷して水膨れになるだろうし、銀華には完全な状態の俺を見て欲しいからね。
「な、なんなんだよお前!?」
「ただの中学生さ、偏差値がちょっと低くて荒っぽい学校のな」
驚愕するリーダーの質問にそう答えると俺は相手に突っ込んだ。俺が初めに突っ込んだ男はナイフを取り出したが、蹴りでナイフを吹っ飛ばしその勢いを利用して、地面に手をつき体をコマのように回転させながら周りの敵を蹴り飛ばす。
「ぐわぁ…!」
一気に群がってきた5人を無力化した俺は次々に男達を無力化していき、残りはリーダーだけとなった。
「ゆ、許してくれ…」
リーダーは頭を地面に擦り付けるながら懇願する。
「お前らはなんで銀華を追う」
「し、知らない。今回ら上からの命令で何も知らされていないんだ!本当だっ!」
「そうか」
聞きたいことは聞けたのでリーダーを蹴り飛ばして気絶させる。ヒステリアモードは男には優しくないし、そもそも銀華を泣かせた奴らは許せないからな。
俺が無力化したやつをせっせと拘束していると、ようやく警察が辿り着いた。
後処理は警察に任せ、倉庫の中へと戻る。
そこには心配そうな顔をしていた銀華がいたが、俺のことを見つけると花が咲くような笑顔になった。
「ありがとう…キンジ」
ちょっと照れながら笑顔をで言ったお礼はさっきの泣き顔とのギャップもありすごい破壊力だ。これはまた銀華のことを守りたくなるだろうな。
「お礼は別にいらないよ。だってそうだろう?騎士が姫を守るのは当たり前のことだからね」
さっきの笑顔で再びヒステリアモードが強化された俺がそう答えると、銀華は俺の胸に飛び込んできた。
華奢だがしっかりと女らしい柔らかさを持った銀華の体を抱きしめているとすぅすぅと銀華が寝息を立て始めた。
男の胸の中で寝るなんて本当に男の庇護欲を掻き立てるね、銀華は。罪なもんだよ女のHSSも。
寝ている銀華をおんぶし、襲われさっき買った荷物が散らばっているところまで戻ったところで
(何してくれちゃってるの…ヒス俺!)
ヒステリアモードが切れた。
ヒステリアモード時に言ったこと、行ったこと思い出すと1つ1つが黒歴史だ。お姫様とか騎士とかキザすぎるにもほどがあるだろ…
あとなんで銃弾素手で止めてんだよ…兄さんに追いつきたいには追いつきたいけど、人間やめ人間になってさらば人類をするのはもう少し先でいたい。
(これから、どうすっかな…)
とりあえず目下の目標は散らばった荷物の回収だな。ヒステリアモードのことは…うん。忘れよう。
それはそうと、銀華、お前ほんと軽いな。おんぶしながらでも普通に動けるぐらいの重さだぞ。
だが俺としては軽いとはいっても再びヒステリアモードの爆弾となった銀華を下ろしたいんだがな。連続してヒステリアモードにはなりにくいといってもこんな爆弾を背負ってたらいつ爆発するかわからん。
「おーい、銀華おきろー」
「うにゅ……」
そんな声を出すと同時に銀華の体が震えた。
「え、あ…キンジ。ごめんごめん。すぐ降りるね」
そんな声が聞こえると同時に背中の重さが消滅する。振り向くと銀華が少し恥ずかしそうにしていた。
「ヒステリアモードは?」
「私のは切れたよ、キンジのも切れたみたいだね」
俺と銀華のヒステリアモードの終了時間はだいたい一緒ってことか。
始まりも倉庫での銀華とのキスからだから持続する長さも同じ…
…ま、まずいぞ
さっきの銀華との光景が一気に蘇りそうだ。
思い出すな俺!
また黒歴史製造機になりたいのか!?
「顔赤いけど大丈夫?男版HSSの副作用?」
首を傾けながら銀華が聞いてくる。俺は銀華の唇に注目しそうになり…
「な、なんでもない」
顔を大げさに逸らしてしまう。それを銀華は見逃すはずもなく
「なんでもないなら、どうしてそんなに顔を私からそむけるのかな?」
「そ、それはだな」
おかしい点を的確に突いてくる。
くそ、なんでおんぶしていた時は思い出さなかったのに今になって思い出したんだ。
銀華が起きたからか?
「ゴメンゴメン。理由は推理するまでもなく分かるけどね」
手を合わせて笑いながら謝るようにそう言った。こいつ…わかってて聞いたな。
「あ、そういえばこっちの私で言ってなかったね。助けてくれてありがとう、キンジ」
ちょっと真剣な顔に戻して銀華はそう呟く。
「お礼は別にいらないぞ。女を守って男が戦うのは義務みたいなもんだしな」
今日日こんな男女の関係は流行らないが、俺と銀華に限れば成り立つかもな。と俺が気にするなという風に答えると銀華はクスッと小さく笑った。何がおかしいんだ。今、そんな面白いこと言ってないぞ。
「普通のキンジもそんなこと言うんだね」
俺はその言葉に苦笑いを浮かべることしかできない。
ヒステリアモードが終わるとヒステリアモード時の記憶が残らない人もいるらしいが、どうやら銀華はちゃんと残るような人のようだな。
だが俺の黒歴史を覚えているということであり、俺的には記憶を完全消去してもらいたいんだがな…
「私の家寄ってく?」
「寄るには寄るけど荷物を届けたらすぐ帰るよ。少し眠いんだ」
「あ、それ分かる。あれなんなんだろうね?」
「脳を無理して動かすからじゃないか?」
「私は弱くなったんだけど…」
「泣き疲れたとかじゃないか?」
「乳児じゃあるまいしと思ったけどあの状態だったら乳児と変わんないかも…」
「あの状態だったらお前Eランクより下だよな」
「言うなればKランクとかじゃない?ドイツ語の子供って意味のkindからとったんだけど」
「英語でもkidっていうしな」
「キンジいつもより賢いね、もしかしてまだHSS残ってるの?」
「相変わらず酷えな…」
俺と銀華は腕にいっぱいの荷物を載せ、そんな話をしながら銀華の家に向かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ありがとうキンジ」
「おう、また明日な」
玄関で手を振ってキンジと別れる。そしてゆっくりと扉が閉まり、鍵を掛けた瞬間
(何をやってるんだ…HSSの私は…)
玄関にへたり込んでしまう。泣きじゃくって、抱きついて、寝てって、やりたい放題すぎる。HSSの本能で全部やったんだろうけどあんなので男性喜ぶのかなあ?
けどキンジは現に興奮してたようだし、まあいいっか。
それにしてもHSSキンジはすごかったね。普通のHSSは思考力・判断力・反射神経などが30倍になるはずだけどキンジの今回のHSSは45倍ぐらい出てなかったかな?
こっそり見てたけど、銃弾を素手で止めたのは流石に笑いそうになったね。あれは私でもできないなあ…
それに玄関でへたり込んでる場合じゃないんだ。次の行動を起こさないと。
気合を入れて、立ち上がり電話の元へと向かう。掛ける相手はこの前と同じ相手。長いコールの後ようやくかかった
「もしもし、カッツェ?」
「おう、紅華か。風邪か?ちょっと声変だぞ」
あ、しまった声変えるの忘れてた。風邪のふりしてこのまま隠し通そう。
「そうなの。今忙しかった?」
「少し取り込み中でな。少しなら大丈夫だ。それでこの前の件は首尾よくいったか?」
「失敗しちゃった。ごめんね。あと拘束された実行メンバーはどうする?」
「お前が失敗するって珍しいな。悪いがアタシ達の情報が漏れないように処分しといてくれないか?」
「了解、またイ・ウーで会おうね」
「ああ、じゃあな」
カッツェが忙しそうなのを感じ取り、短めに電話を切る。
今回の襲撃はもちろん自作自演だ。ナチスメンバーに私の拘束を指示し、不意打ちを受けやすいように荷物で私やキンジの手を塞ぎ、わざと私が負傷してキンジが戦わなければいけない状況にするというのが私のプランだった。
カッツェには失敗したといったが、私的にはキンジの実力が見るという目標が達成できて大成功だね。
HSSがどれぐらい嘘を見破る力があるかわからなかったから嘘はついてないし、それも上手くいった。実際カッツェからナチス残党へのラブコール受けているのは事実だし。
あとは後処理か。
私は服を脱ぎ、銀華から紅華へと変わる。服を脱ぐのを忘れると身長が変わるからサイズが合わなくなるからね〜。
銀華から紅華へはぶかぶかになるぐらいだから問題ないんだけど、紅華から銀華へは服がパツンパツンになっちゃうからどっちに変化するにしても服を脱ぐのを忘れないようにしているんだよね。
髪や目が紅色の紅華になった私は服を着て
「さあ、やりますか」
再び夜の世界に飛び出した。
『銃弾撃ち』
原作3巻初出、敵が撃ってきた弾に自分の弾を当てて逸らす技であり、ヒステリアモードの基本技。こんなことを忘年会でやる遠山家は異常。
『銃弾止め』
伊藤マキリの技、原作25巻初出。銃弾に体重かけるって物理法則どうなってんだってツッコミはNG。銃弾を素手で無効化するすごい技なはずなのに、キンジが似たようなの技を大量に持っているのと他のメンツの披露した技がインパクトありすぎて影に隠れがちで地味な技。
銃弾無効化系では一番かっこいいと思うんだけどなあ…
あと戦闘シーンの模写難しいですね…