第一弾はリサ
注意:ロマンチストキンジ
夕暮れ時の商店街。
学校帰りの学生や夕食の準備をするための主婦が行き交うこの時間の商店街に現れる、とある有名人がいた。
「へい、いらっしゃい!リサちゃん!今日も美人だね」
「うふ。ありがとうございます。今日は…ジャガイモとニンジンを頂けないでしょうか?」
八百屋の親父の褒め言葉に対して、にっこりと笑いかける女性。
彼女の名はリサ・アヴェ・デュ・アンク。
長い金髪を携え、モデルのようなスラっとした体型であるにも関わらず、女性として出るところは出ている。この地域では知らぬ者のいない有名人である。
金髪の美人だけではここ日本では珍しいとはいえ、ここまで有名人になることはなかっただろう。
彼女がここまで有名になった理由。
それは彼女がきている服装にある。
彼女がいつも着ているのは、白とえんじ色を基調とし膝まであるワンピース、フリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに、同じく白いフリルの付いたカチューシャを組み合わせた服。
そう、彼女が着用している服はメイド服なのだ。
日本には女中、家政婦という文化はあるがメイドという文化はあまり普及していない。
だが、彼女は違う。
彼女は海外出身なのもありコスプレ感は一切なく、まるでメイド服が身体の一部かのように着こなしている。
それもそのはず。アヴェ・デュ・アンク家は代々、武人に仕える家系。リサの母親も祖母もメイドだった。彼女も以前メイド学校に通っており、ある場所でもメイドをしていた。そして、そこにいた時に今の主人に拾われた。
「はい、これいつも通りね。オマケつけといたから」
「リサちゃん。厳しいねえ…これ以上はまけられないよ」
「まいど、また来てね」
夜ご飯のための買い物を終えたリサは上機嫌で帰宅の途につく。
今日は忙しいリサの主人が帰ってくる日。主人がいない時の家を守るのはメイドの務めといえども一人は少し寂しい。なので、その好きな人、主人が帰ってくるとなると機嫌が良くなるラインまで、幸福度数が跳ね上がってもおかしくないだろう。
スキップのような軽い足取りで、自分と自分の主人が一緒に暮らす家に帰り、これまたヒラヒラのフリルがついたエプロンを着け料理を始める。
リサはメイド学校に通っていたのもあり、料理が得意だ。いや、得意どころではなくプロ級だ。炊事だけではない。洗濯、掃除にも精通しており、いわゆる完璧なメイドとしてリサはこの家の全てを任されている。
そして、主人に家を任されることはリサにとっては至高の喜びであり、さらにメイド業に精を出すことになるのだが主人はそのことを知らない。
主人が連絡した帰宅予定時刻に合わせ料理を始め、リサの丹精を込めた料理が出来上がって来た頃…
ピンポーン
家のチャイムが鳴り、ガチャっと鍵が開く音がする。リサの主人が帰って来たのだ。
リサは料理をする手を止め、濡れた手をタオルで拭き、玄関に小走りで向かう。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「ああ、ただいま。リサ」
リサの迎えの挨拶に応えたのはリサの主人、遠山キンジであった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「お、おい。リサ。何で泣いてるんだ?」
「え、あ…!も、申し訳ありません」
ご主人様に会えたのが嬉しくて、思わず涙を流してしまったみたいです。メイドとして、こんなことで取り乱してはいけません。涙を拭い、ご主人様にお見せできる最も綺麗な顔で向かい合います。
「謝る必要は別にないんだが…」
そういう風に頭をぽりぽり掻くご主人様のお鞄を受け取ります。これもメイドの務めです。
「腹が減ったんだが、飯できてるか?」
「はい。すぐにご用意できます。ですが先にお風呂に入られた方がよろしいかと。見たところ、お疲れのようですし」
「いや、飯を先にしてくれ。任務中まずい飯しか食えなくて、リサの飯が恋しかったんだよ」
「そ、そんな。お褒めの言葉を……!」
「別に事実を言ってるだけなんだが…」
ご主人様は天然でジゴロなので急に褒めてきたりして油断できません。それがリサにだけならいいのですが…他の女性にもしてしまうので、他の方にご主人様が取られないかいつも心配してしまいます。
リサにはご主人様の好きな顔があります。それはリサの料理を美味しそうに食べてくれる顔です。それだけでリサは満足なのですが、美味しいと言ってもらえると天にも昇る心地になります。ますますご主人様が好きになってしまいそうです。
今日も美味しい美味しいとご主人様は食べてくださいました。リサはそれだけで生きる意味を感じます。
さて、楽しいお食事も終わり食器の後片付けをしていると…
「風呂入ってくる」
「はい。お着替えのご用意をしておきますね」
ご入浴されるようですね。
パジャマの準備をしないといけません。
本当は一緒に入りたいのですけど……約6年前、理子様に教えられてお背中を流そうとしたことがあったのですが、拒否されてしまったのでそこからは一緒に入ろうとしたことはありません。ご主人様の嫌うことはできませんから。
ご主人様が出た後、リサも入ります。
先にご主人様が入ったと思うとちょっと興奮しちゃう……げふん、げふん。なんでもありません。ごめんなさいご主人様。リサはちょっとHな子です。
お風呂は日本に来たばかりの時は慣れませんでしたけど、約6年間も日本で暮らしていれば慣れましたね。今ではリサは湯船に浸からないと満足できない身体にされてしまいました。ご主人様がバスタブにお湯を溜めていらっしゃった理由も今ならわかります。日本の文化は大変素晴らしいです。
お風呂から出て着替えるのはパジャマではなく、ネグリジェ。ご主人様が好きなキャットガターも付けます。香水を抑え気味に振りかければ、はい。完成です。
これでご主人様がそういうお気持ちになってくださればいいのですが…お情けをそろそろリサは頂戴したいです。
脱衣所から出ると、ご主人様はテレビで洋画を見ていらっしゃいました。
だけど、ちょっとなぜか緊張していらっしゃるようですね。なぜでしょう。
「ご主人様?」
「あ、ああリサ。ちょっと座ってくれ」
「…?はい、ご命令とあらば」
ソファーでご主人様の横に座りますけど心臓の鼓動がリサにまで聞こえるぐらい緊張していらっしゃいますね。この格好が効いたのでしょうか?いや、でもそれならHSSになられるはずなので……うーん、わかりません。
「リサ…」
「はい、なんでしょう」
重要なことを喋り出しそうな雰囲気だったのに、テレビを消してリサに向かって話すことは「獅堂さんが競馬でまた負けた」とか「灘さんの実家の和菓子屋が全国展開始めた」とかお仕事仲間のお話ばっかりです。これが大事じゃないこととは言いませんが、ご主人様がこれを話すのに緊張するとは思えません。うーん……気になります。
「獅堂さんがそういや0課の一式になったぞ。初めて会った6年前は三式だったのにえらい出世だよな」
「まあ!獅堂様が。これは今度お祝いの席を用意しないといけませんわね」
「まああの人はカレーでも食わしとけばいいだろ…………リサ」
「はい、なんでしょう?」
いきなり真剣な顔で呼びかけられました。何か、おいたでもしたことを話すのでしょうか?
「お前とも会ってから6年か」
「はい……そうですね」
「あの時のこと覚えてるか?」
「当然です。リサはあの時をずっと待っていたのですから」
ご主人様と初めて会ったのは6年前。最初は敵同士、それも会った場所が下水道というロマンスのかけらもありません。でもご主人様はリサを助けてくださいました。リサに優しくしてくださいました。リサのご主人様になってくださいました。リサのあの姿を見てもご主人様のままでいてくださいました。
「あの時からずっとリサは俺に仕えてくれている。月並みの言葉しか言えないが本当にありがとう」
「いえ、当然のことをしているまでです。何て言ったってリサのご主人様なんですから」
そう言うとご主人様は顔をさらに曇らせました。
何か気に障ることでも言ったでしょうか?
「ご主人様?」
「…なあ、リサ」
「はい…?」
「俺はお前に本当に感謝している。家を空けて仕事に出れること、今俺が生きていること、Nに勝ててみんなハッピーエンドで終われたこと、全部お前のおかげだ」
「い、いえ。かいかぶりです!それはご主人様の力で…」
「俺本来の力を出せるのはお前が支えてくれてるおかげだ」
「……ありがとうございます」
「だからこそ、俺は言わなくちゃいけない。リサに甘えてばっかりじゃいけない……リサにとってきついことだろうけど聞いてくれ」
「……はい」
「6年前の約束を覚えてるか?」
「それは、どれでしょう?」
「ブータンジェでお前とした…」
「ご主人様がご主人様になってくれる約束でしょうか?」
忘れるわけがない。だってずっと探していたリサの勇者様が見つかったのだから…
「そう、それだ。その約束をだな……」
「…はい…?」
「俺は破る」
ということはつまり……
「…それは……どういうこと……でしょう」
頭ではわかっているけど理解ができません。理解を拒んでいます。だって、つまり、それは…
「お前のご主人様を辞めようと思う」
「り、リサのどこがダメだったのでしょうか!すぐに直します。ご主人様好みになります。髪型だって体型だって服装だってご主人様の好きな通りにします。好きな時に好きなことをしてくださって構いません!だから…どうか……どうか……リサを捨てないで…」
「お、落ち着け!リサ!や、やっぱりこうなるよな。いいから最後まで聞いてくれ。その後に全部聞いてやるから」
「ぐ、ぐすん。ご主人様がそうおっしゃるなら…」
これ以上嫌われたくない…ここで無理に問い詰めたらさらに嫌われてしまいます……何がダメだったのでしょう…リサはご主人様に捨てられてしまうのでしょうか……?
「お、俺が言うのもなんだが…お前は俺のこと好きだろ?」
「は、はい!世界全員がご主人様の敵になろうともリサはご主人様と心中するつもりです」
「心中って……まあいい。そう、それだよ」
「??」
どれでしょう?
「お前は俺のことを一番愛してくれているのに、お前は二番目でいいのか?ってことだ」
「どういうことでしょうか?」
「お前、前に言ってただろ。アヴェ・デュ・アンク家の女は愛のおこぼれで子孫を繋いできたって。それでいいのかってことだ」
ドキンッ!
「自分で言うのもなんだが、お前の中では世界で一番大切な人は俺だ。俺もそれに応えたい。でも今のままじゃ応えることができない。なぜなら、お前は一番を望んでいないからだ」
「……っ!」
「お前はメイドという立場上二番目でも…いやそれ以下でもいいと思っている。それで本当にいいのかリサ?主人と従者の関係のままでいいのか?お前の気持ちは本当にそうなのか?」
リサは便利な女になるように小さい頃鍛えられました。そうすれば勇者様から愛のおこぼれを頂けるって。リサの一族はそうやって子孫を残してきたって…でも、でも…
「…….……や…….……す」
「ん?」
「いやです!」
リサはご主人様の一番になりたい。
ご主人様と常に寄り添う存在になりたい。
「愛のおこぼれじゃ嫌です!ご主人様に愛して欲しい!リサの勇者様に一番愛して欲しい!ご主人様を独占したい!二番じゃダメなんです!わがままってわかってますけど、一番愛して欲しいです!」
ご主人様が誰かと仲良くしているのを見たくない。ご主人様が誰かと結婚するのも見たくない。ご主人様にリサより近い女がいるのも我慢できない。
「それがリサの本当の気持ちだろ?」
「はい…」
「じゃあ、一番にしてあげるよリサ」
リサの左手を取るご主人様。そして薬指にスーっと何かがハマる。
「こ、これは?」
「一生、俺の一番はリサだ。もしリサの一番が一生俺でいてくれるなら……結婚しよう」
それは一番望んでたことで。
叶わないと思っていた願いで。
「ぐずっ…ぐすっ…リサはこんな幸せでいいんでしょうか?」
「ああ、これからもっと幸せにしてみせる」
「……プロポーズお受けいたしました」
「リサっ!」
リサは抱きしめられました。リサを抱きしめる力は少し強いですけど、そのぶん幸せを感じることができて……その時間は永遠に感じて……
「リサは……世界で一番幸せです…」
「そうか……本当に良かった……」
「これからまた、よろしくお願いします…リサの」
リサの勇者様はリサを助けてくれて。
リサのご主人様はリサの気持ちに気づかせてくれて。
そして最後にはその方はリサの……
「
自分の好きなキャラとキンジをイチャイチャさせることができるのは作者の醍醐味ですね。気が向いたら別キャラも書きます。
「旦那様」
「どうしたリサ」
「旦那様はずるいですね」
「…どういうことだ?」
「指輪をはめられた後に、プロポーズをされたらお断りすることなんてできませんよ。まるで脅迫みたいです」
「た、確かにそうだ。すまん!」
「…でもリサは嬉しいです。旦那様は私が受け取ってくれると信用してくれていたのですから」
「リサ……」
「旦那様に信じていただけて、リサはとっても幸せです」