その後、星伽さんとアリアがどうなったかというと、ハッキリと明暗が分かれた。
元
その後、キンジを見るとアリアは顔を赤くして逃走するようになった。うん、うん。アリアの気持ちはものすごくわかるよ。
最初、父さんに手を繋いだら子供ができると教えられていたのに、医学の勉強をした時、そのそういうことをしないとできないと知って、しばらく男の人の顔見れなかったし。まったく嘘は良くないよ…
一方、星伽さんはあからさまにキンジとアリア、そして私までを避けるようになった。星伽さんとは仲良くしてたつもりだったんだけどなあ…
そんなある日の昼休み。
「北条さん、遠山君。ここ、いいかな?」
ガヤガヤとした食堂で、アリアとキンジと一緒に昼食を食べていると不知火君が喋りかけてきた。やっぱり女子に絶大な人気を誇るだけあって、不知火君かっこいいね。もし私にキンジがいなくて、その腹黒さがなかったら好きになってたかもしれないよ。私も一応普通の女の子だもん。
「聞いたぜ。キンジ、ちょっと事情聴取だ。逃げたら轢いてやる」
不知火君の反対側、アリアと不知火君の間に武藤君が近くのテーブルから、椅子を持ってきて座る。武藤君は……うん。悪い人じゃないんだけど……ガサツさを無くせばいい人見つかると思うんだけどね…
「どうした。いきなり事情聴取って」
「キンジ、星伽さんとケンカしたんだって?」
「北条さんも…だよね?」
流石武偵高。噂が広まるのが異常な早さだよ。というか、なんで武藤君がむっつりしてるんだろう?
「星伽さん元気なかったみたいだぞ?どうせお前が何かしたんだろう」
「何もしてないが……ていうか。お前、白雪を見かけたのか?」
「今朝、不知火が占札を使った占いをしてるのを見たっていうからよ」
「なんだよ占札って」
「ポピュラーじゃないか」
不知火君が整った眉毛を和ませながら言う。
「知らねーよ。銀華知ってるか?」
「うん。星伽さんだったら
星伽巫女の巫女占札は私たち魔女にとっては不知火君じゃないけど、ポピュラーだから当然知ってる。パトラの星占いよりちょっと精度は良かったかな?
「へぇー、そんなのあるのね。知らなかったわ」
「銀華。お前そういうオカルト系統にも詳しいんだな」
「ま、まあ、そうだね。推理に使うときもあるし」
よく考えたら今の私は魔女じゃなくて北条銀華だよ…
あの姿はキンジには知られたくない。だってあっちの私はキンジが愛してくれる私じゃないから。
「僕にみられているのに気付いたのと一限の予鈴が鳴ったから、占い自体は中断してたけど。なんか元気なかったよ?……それで、二人と何かあったの?いつものラブラブの愛し合う様子見せてもそんな風にはならないよね?」
そこまで学校ではイチャイチャしてないと思うんですけど…
それに愛とか言うから、アリアがももまんを詰まらせちゃったじゃない。
「あのなぁ…別に学校ではそんなことしてないだろ」
馬鹿!何言ってるの…!?
「ははーん。遠山君、僕たちの前でも散々あんな甘々のことやっといて、家ではもっとイチャイチャしてるんだ。君もそんな顔しながら、意外とやることはやってるわけだ」
「キンジ、一回殴ってもいいか…?」
墓穴を掘って…まったく!
「も、もしかしてアンタたち!そ、そういうことやってるんじゃないでしょうね!?」
「そういうことってなんだよ?」
「い、言えるわけないでしょ!あたしがこの前調べたことなんて!」
アリアが最近調べたこと…っていうことは…
「な……や、やってない!絶対やってない!」
「う、うん!うん!まだ、やってない!やってないよ!」
白昼堂々なんてこと言い出すのアリアっ!
ま、まだそんなことはしてないよ!それに近いことはしたけど!
「
「なっ…!?」
私の考えを見透かすようなことを武藤君がいう。
なぜアリアの調べたことが子作りのことってわかったの!?武藤君、もしかして名探偵?
「あはは…北条さん、本当にわかりやすいね。いつもはポーカーフェイス保ててるのに遠山君のことになるとすぐ顔に出る。慌てると自爆するところも遠山君とそっくりだ。恋する乙女は辛いね」
「し、不知火君!風穴!」
「あたしの真似するんじゃないわよ!」
バンっ!
ドシン!
私が真似をしたことによって、興奮して掴みかかってくるアリアを秋水を使って取り敢えず座らせる。
「話を戻すけど…僕の推理では星伽さんと仲良くしてた遠山君と北条さんのカップルとの仲を神崎さんが横から奪い去って、嫉妬した星伽さんと決闘した…ってセン。だって最近の神崎さん、強襲科でも楽しそうに二人との話するもんね」
バタン!
神崎・H・アリア嬢が秋水の一瞬のスタンから復活し、椅子から立ち上がると
「こ、このっ--ヘンタイ!」
「ぐはっ!?」
どういうわけかキンジの顔にパンチを入れた。なんでやねん。
「ハッキリ言っておくけど、あたしは白雪から二人を奪い取ってないわ!そ、そのキンジはパートナーで、そのパートナーの銀華が付いてきただけよ!」
「へぇ、そうなんだ。だけど北条さん、遠山君のパートナー取られてもいいの?」
言外に入学直後のようなことを起こさないか聞いているのだろう。まったく心外だなあ。
「プライベートのキンジは私のパートナーだけど、仕事のパートナーは私じゃなくてもいいからね」
「神崎さんと遠山君がビジネス的なパートナーになっても問題ないと?」
「うん。まあ、もし、もしもだけど、神崎がプライベートまで入ってきたら。ね?みんなわかってるよね?」
私が少し脅すとみんな身震いした。キンジとアリアはわかるけど不知火君と武藤君はそこまで怯えなくてもいいのに。
「あと不知火君。一つ聞きたいんだけど、いい?」
「何かな?」
「今朝の予鈴の時、白雪さんのこと見たって言ってたけど、それ本当に白雪さんだった?私とキンジはその時間、一般区の廊下で出くわしてそのまま女子トイレに逃げ込まれたんだけど」
「うーん。占札を使ってたし、星伽さんで間違えないと思うんだけど」
確かに。占いをしていたしてたなら
となると、私たちの白雪さんが違う人物だということ。私を騙せる変装をできる人なんて、この学校には今いない。ということは外部の人ってことで、そんな類稀な変装スキルを持ってる人は限られてるわけで…
あいつが来てるってことか。
これは色々注意しないと……武偵の北条銀華としても、イ・ウーのクレハ・ホームズ・イステルとしてもね。
「……そういえば不知火。お前、アドシアードどうする?代表とかに選ばれてるんじゃないか?」
キンジはどうやら、話題を変えることにしたらしい。
アドシアードは年に一度開催される武偵高の国際競技会で、オリンピックみたいなもの。
平和の祭典のオリンピックと硝煙臭いアドシアードを並べるのはどうかと思うけど。
「競技には出ないよ。補欠だからね」
「じゃあ何か手伝いやらなきゃいけないらしいし、イベントのヘルプか。何にするんだ?」
「それがまだ決めてないんだよ。どうしようか」
アンニュイなため息をつく不知火君。
「アリアはどうするんだ?アドシアード」
「あたしも競技には出ないわよ。
「うん。私も出ないよ」
「二人とも、代表を辞退するなんてもったいない。ポピュラーな話だけど、アドシアードのメダルを持ってると進路が良くなるんだ。武偵大にも推薦で行けるし、武偵局にはキャリア入局できるし、武偵関係の仕事も一流どころが選り取り見取りらしいよ?」
「そんな将来のことはどうでもいいわ。あたしには、今やらなきゃいけないことがある。競技なんかやってる場合じゃないわ」
なるほど。アリアは母親の神崎かなえさんを助けるためにアドシアードを辞退したんだね。でも、それはアドシアードを辞退したぐらいでどうにかなるものではない。
アリアがやろうとしてること。自身はまだ知らないけど、それは国を相手にしてるってことなんだから。
「私はそんな大した理由じゃなくて、キンジに出ないでって言われたからだけどね」
「「「え?」」」
「おい、馬鹿。言うなって」
「事実なんだから、言ってもいいじゃない」
私の言ってることは本当のことで、武偵を辞めて一般人になることを私たちは目標としているので、キンジに、もし代表に選ばれたとしても出ないよう頼まれたのだ。
「キンジ、お前なあ…」
「まったく…この二人、あたしの手に負えないわ…」
「ははは…遠山君って意外と独占欲強いんだね?」
なぜか3人に呆れられた。なんでだろう?
キンジもそう思ったようで…
「は?どういうことだよ」
「どうせ北条さんを大勢の観客に見せたくないからだろ」
「北条さんの将来を潰しちゃダメだよ遠山君」
「別に、私はキャリア入局する気はないよ。キンジのお嫁さんになって、専業主婦になるのが私の夢だから」
「「「…………」」」
3人が私の言葉を聞いて苦虫を噛み潰したような顔になった。
「ああっもう!勝手にしなさい!」
「キンジ一回殴らせろ」
「遠山君。一回君のこと撃ってもいいかな…?」
「な、なんでそうなるんだ!?」
うーん。なんで怒ってるのか推理できない。
怒るならせめて私にじゃないのかな?
「それでアリアは何やるの?」
「ええっと、あたしは閉会式のチアね」
「いてて…チアって…アル=カタのことか」
アル=カタとはイタリア語の
「へえ…チアねぇ…」
「キンジも銀華もやりなさいよ、パートナーでしょ」
どっちかと言うとパートナーというよりチームだけどね。ちなみにチアで踊るのは女子だけで、キンジが参加するにしてもバックでバンドを演奏するだけな地味な役。まあクロメーテルさんなら問題ないけど。
「俺はいいが…」
そう言ってチラッと私を見るキンジ。
もしかして出て欲しいってことかな?
裾が短いチアのスカートは少し恥ずかしい…
でも
「うん、わかった!私も出るよ」
キンジのためなら頑張るよ!アリアなんかに負けないんだから!
「お、おい!なんでそうなる!って……ウオ!」
「キンジばっかりいい思いしてんじゃねえよ」
「北条さんのファンへのガス抜きも必要だよ、遠山君。あ、僕も武藤君も遠山君と一緒に参加するから心配しないでいいよ」
「何やってるのよあんた達…」
「アハハハ…」
暴れるキンジを取り押さえる二人を見ながら首を振るアリアの前で、私は笑うしかなかった。
そんな日の翌日の朝7時。
「ふああ」
「眠いの?」
「こんな時間だしな。あと朝ごはんサンキューな」
「別にお礼はいいよ。私がやりたかっただけだから」
私はキンジとレインボーブリッジに向かって立てかけてある巨大な看板裏の空き地にいた。ここは体育館と看板に挟まれていて人通りが少ない場所。
私達がどうしてこんなところにいるかというとアリアに「あんた達、朝練するわよ」と言われ、強制的に連行されたわけである。アリアも変わったけど、こういう強引なところはあんまり変わってないね…
そこにアリアはまだ来てないわけで…朝早かったのもあり、壁にもたれ掛けてうつらうつらしてると…
「あんた、意外に朝弱いのね」
今来たのだろう。チアリーダー姿のアリアに話しかけられる。
ちなみに私は制服。制服でも十分動きやすいからね。
「弱くはないけど少し眠かったから目を瞑ってただけ」
「あんた…弱点ないわよね…」
「まあアリアとは付き合いが短いんだし、そういうところがまだ見つかってないだけだよ」
「あんたの大好きなキンジは弱点ばっかりだけど」
「アリアはわかってないなあ。弱点ばっかりに見えるけど、それなのに時々見せるかっこいい時があるのがいいんじゃん」
「……一つ聞くけど、あんたはどこまで知ってるのよ」
「どこまでって?」
「…もういいわ。これからあたしの
少し離れたところで携帯を弄っていたキンジを呼ぶ。起こさないように気を使ってくれたっぽい。
「なんだよ、その格好」
「見てわかんないの?チアよ」
「んなもん見たら分かるわ。今のは、なんでその格好なんだっていう質問だ」
「それならそう言いなさいよ。これはあんたを調教する間にチアの練習をする準備なの」
「調教!?」
驚いて大きな声をあげてしまう。
調教とはサーカスの猛獣や競走馬に対して芸を仕込んだり、鞭を打つことで早く走るようにすることである。
これを人間に使うときは…
「そう。同時にやれば時間を無駄にしなくて済むでしょ」
SMプレイとかなんとかいうやつで、理子に教えてもらったところによると、そういう、え、Hなことをするときも使うらしいんだよね…理子にそんなキーくんに依存してると雌犬とか雌奴隷とかにされそうとか言ってたけど。
「って…聞いてるの銀華!」
うん…キンジのならどっちでもいいかもしれない…ってアリアがキンジを調教するってことは雄犬?雄奴隷?にするってこと?そ、そんなのは嫌だよ!
「わ、私を調教して!」
「「…は?」」
二人に呆れた顔をされたが、キンジは私が軽くHSSになり始めたのに気づいたようで…
「アリアちょっと待ってろ。銀華ちょっと来い」
「う、うん」
「まったく…この二人は…話がなかなか進まないわ」
キンジが私と肩を組んで、アリアの元から連れて出す。も、もしかしてこんなところで…
「ち、調教してくれるの…?」
家じゃなくて屋外。それもクラスメイトの前ではできない調教とかあるのだろうか?人通りが少ないとはいえ0ではない。た、たくさんの人に見られるのは、恥ずかしい…でももしかして調教の一環だったり…
「って…アイタ」
「頭おかしくなった銀華にお仕置き」
脳天チョップをされた。私にチョップをしたキンジは呆れたような顔をしてる。
「ったく…こんなところでヒスるんじゃねえよ…」
「ご、ごめん」
「とりあえず落ち着いて血流を戻せ。お前のヒステリアモードはお前の最大の弱点なんだから」
「うん」
何度か深呼吸して雑念を取り除き、血流を安定させる。
「あと昨日の武藤やお前の反応見る限り、そういう行為ぽいが俺は調教のそういう意味は知らん。あの俺よりそういうこと知らないアリアがそういう行為のこと知ってるわけないだろ」
「…確かに」
キンジのことになると推理力が働かなくなるのも、私の弱点な気がする。というか、HSSのトリガーもキンジだし、私の弱点キンジじゃん…
血流が安定したのでアリアのところに再び戻る。
「おまたせ」
「本当に待ったわよ。あんた達二人揃うと2人の世界に入っちゃって中々話が進まないわ」
私の想像(?)でご迷惑をお掛けしました…
「で、お前は俺に何をさせたい」
「おっほん!あたしの中ではあんたはSランク武偵だわ。強襲科のSランクっていうのは『1人で特殊部隊1個中隊と同等の戦闘力を持つ』っていう評価なのよ」
「んなムチャな」
「あんたはそれだけの才能がある。あんたと銀華が『
アリア教授は一生懸命語るけど、推理力の遺伝してない4世は、まさかわたし達自身が鍵だとは夢にも思うまい。
「で、調べたのよあたし。銀華に負けてから少しずつ。二重人格ってものをね」
二重人格ね…ハズレ。
HSSは心因性の後天的なものではなく、神経性の先天的なもの。
それをキンジもわかっているはずなんだけど…
「そうなのか。よくわかったな」
まるで正解だという風にそう言った。
なるほど。勘違いしたアリアにそう思い続けてもらうってことか。ここは合わせてあげたほうがいいね。
「バレちゃったね」
「ああ、そうだな」
アイコンタクトでありがとうと言ってるのが伝わってくる。瞬き信号すら使わずに目を合わせるだけで大体わかるようになったのは本当に便利だよ。
「ふふーん。本とかネットとかで勉強したのよ。銀華はうまくコントロールできるけどキンジはできていない。キンジは多分幼少期のトラウマによる別人格があって、戦闘時のストレスによってそっちに切り替わるのよ」
「なるほど」
「自転車ジャックもハイジャックの時もそうだったから、これは間違いないわ」
バスジャックはどうなるんですか?
「だからあんたを戦闘のストレスに晒しまくるのが、まず最初の特訓ね」
というとアリアは
ゾロリ。
いきなり背中に隠してあった刀を抜いた。
「ま、待て。お前に斬りかかられたら死ぬぞ俺!」
「これは今のあんたにストレスを与えて覚醒させて、反撃するって流れの訓練なの」
「ああ、なるほど」
「一ミリもわからないんだが…」
「まったく…1.今のあんたがいる。2.戦闘時に覚醒。3.その場で反撃。これがあたしが考えた、理想の流れよ」
お父さんの子孫なのにアホほどシンプルだね。いいところまでは勘だけでいってる。なにせ、2を私とイチャイチャするに変えれば一応正解だからね。私は戦闘不能になるけど。根本的なところが違うから意味ないんだけど。
「だからあんたが覚えるべきなのは、防御や
「それはなんだよ」
「まずは
そういうとアリアは刀を振り上げキンジが待てと言う前に振り下ろした。
ヒュッと空気を切る音がして、アリアがキンジの肩に刀を打ち下ろし……かけたところで寸止めした。防刃制服といってももしそのまま打ち下ろしてたら、結構ダメージ負ってたかもね。
「はい。今のタイミングで500回イメージしなさい」
「イメージ?」
「そう。まずは今のを動きから刀を挟み取るイメージを作るのよ。銀華は以前したことあるらしいし、それをイメージすればいいわ」
私の真剣白刃取りは入学式の時の星伽さんとの戦いで見せたけど、キンジ覚えてるのかなあ。
あと私の推理ではこの後、キンジはアリアに刀でポコポコ叩かれてタンコブできると言ってるんだけど、アリアのことを嫌いにならないようにフォローしてあげないといけないね……
次回は訳あって少し遅くなりそうです(25日に発売される27巻の設定も入れたいため)