哿と婚約者   作:ホーラ

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遅くなってしまい申し訳ありません(モンハンにハマりすぎた)

注意:ジャンヌ視点 口調が迷子


第40話:銀氷vs荊棘

私--ジャンヌ・ダルクは女子寮の空き部屋から、星伽が移動した遠山の部屋を観察していた。どうやら星伽は神崎と遠山にボディーガードの依頼を出し、遠山の部屋で警戒線を引き、籠城を行うつもりのようだ。

こういった籠城は、古来より敵がいつ来るかわからないので、ずっと気を張っていなければならないので、こちら側が何もしなくても精神的なダメージを与えられる。

今私がするべきことは無理に攻めることではなく、情報収集だ。

そう思っていたのだが…

 

「キンジ。はい、あーん」

「お、おい。他の人が見てるんだからやめろって」

「むー、いいじゃん別に」

 

どうして、こんな甘々な奴らを観察しなくてはいけないのだ…

部屋を出た遠山を情報が得られるかもしれんと思い追いかけ、ファミレスに入り、奴を観察していたら、北条が遠山に合流し甘々な光景を見せつけられることとなった。

不自然に見せないためコーヒーを注文していたのがまさか役に立つとはな…世の中何が役に立つかは分からない。

 

「はい、あーん」

「だからしないって」

「ふーん…じゃあアリアにキンジがここでボディーガードをサボっているって言いつけちゃおっかな」

「お、おいっ!」

「じゃあ、あーん」

「……」

 

遠山はようやく対面に座った北条がフォークで差し出した一口サイズのケーキを口で受けとった。受け取るならさっさと受け取れ。私が隠れて読んでいる少女漫画のようなシーンを見せつけるな。

 

「……」

「どうした。いきなり口開けて」

「アリア」

「…ったく。一回だけだぞ」

「うん」

 

そういうと遠山は自分も注文していたケーキを一口サイズ、フォークで取り北条の顔に近づけた。そのフォークの先を少女漫画の主人公のような顔をしながら口で受け取る北条。

甘ったるくてこっちが胸焼けするぞ。

幸せそうにそんなことをする空間を作っていたのだが…

 

「こらぁー!」

「いてっ!」

 

そんな叫び声と共に神崎が遠山に向かって拳を振り下ろした。

……まさか今回の任務の障害となるだろう人物の3人にこんなところで会うとはな。

 

「何サボってんのよ、キンジっ!」

「いろいろ事情があったんだよ」

「サボってただけでしょ!というか銀華!キンジを探しに行くと言って、なんであんたもサボってんのよ」

 

Tel est pris qui croyait prendre.(ミイラ取りがミイラになる)

北条は出かけた遠山を探しにきてたのか。でそのまま遠山とイチャイチャしてたと。

 

「私は星伽さんにボディーガード依頼されなかったし、サボってない。あとアリア、私のキンジに乱暴しないで」

「これは乱暴じゃない……そう、サボってた罰よ」

「ふーん、じゃあ私もアリアがサボってたらゲンコツするからね」

「や、やってみなさい!私は忙しいんだから、サボってる暇なんてないわ!」

「じゃあ、なんでお前こそ出てきたんだよ」

「あたしは買い物ついでに脱走兵を狩りにきたのよ」

 

……こいつら大丈夫なのか?

神崎と北条のやり合いを見るに私が何かするまでもなく勝手に自滅しそうだぞ。

さらに、さっきの会話で一ついい情報が聞けた。

星伽のボディーガードは遠山と神崎だけらしい。探偵科のSランクの北条は受けてないのはラッキーだな。

そして神崎が正当な理由があるという感じでスカートから取り出したのは対超能力者用の手錠。

なるほど、こっちの動きが少し勘付かれてしまっているのか。今まで以上に注意して動かなくてはいけない。

 

「脱走兵って。というかボディーガードはどうした」

「見張りはレキに任せたわ」

「レキさん?」

「そう、私が頼んだの。遠隔から監視させてるわ」

 

遠山の向かいに座っていた北条は遠山の横にいつの間にか移動しており、その向かいの席に神崎はすとんと腰を落とした。

ふむ…神崎がいない隙は狙撃科のレキが見張ってると。ただしスナイパーは護衛者の周りで起こった危機に対して、すぐに動くことができないので、ボディーガード向けじゃない。それは神崎もわかっているようで

 

「でも、レキに頼ってばっかりじゃダメよ。あたしとキンジが頑張らないと」

「わかった、わかった。ていうか、なんで白雪のボディーガードをやるって言い出したんだよ」

 

そんな疑問を遠山が神崎にぶつけると……神崎は周りを警戒しながら3人でヒソヒソ話を始めた。

私が盗聴しているのを警戒するのはあのホームズの子孫として当然だろうが、それならもっと早く警戒するべきだったな。

小声でよく聞こえんが、神崎の回答はわかる。私が彼女の母親に冤罪を着せてる敵の1人だからだろう。推理をするまでもない。

3人で話していると遠山の携帯が鳴り、彼は電話に出た。

電話先の相手と北条と遠山が話してる間はまだ大丈夫だったが、神崎が会話に参加した途端不穏な空気が流れ始める。

 

「わかった、帰るよ帰る!」

 

そう言うと遠山はパン!と閉じ、そのまま3人、いや北条は用事があるそうで神崎と2人で遠山の自宅に帰って行った。

弱みを握るほどの情報は得られなかったが、向こうが私に気づいている、遠山はそれほどやる気がないことがわかるなど、それなりに付いてきた意味はあった。

 

(ふう…)

 

神崎たちが帰り私は一息つく。

盗聴していた時は気づかなかったが私は緊張していたようだ。Sランク相手には気が抜けないのもあるだろう。私は今星伽を狙う狩人であるが、こちらが隙を見せた瞬間、狩る方狩られる方が逆転する。私1人では少しばかり不安だが……理子も一緒にイ・ウーから来た夾竹桃も負けてしまった。この任務は私1人で遂行しなくてはいけない。

そんなことを考えながら、せっかくこういうところに来たということで時間も時間なのもあり、そのままファミレスで夕食を取っていると……私の近くに人影が現れる。

 

「ハロー、相席いいかな?」

「っ!?」

 

私が水を飲んでいたので驚きで思わずむせる。

私は今、理子から教わった変装術を使い一般的な武偵高生に変装している。理子から習った変装で気づかれたことはほぼない。

しかし、この変装した私には友人がいない。相席を求める人なんて明らかにおかしい。そう思いその声に対して見上げると……

 

「お、お前はっ……!?」

「久しぶりだね。Joan of arc」

 

Joan of arc。フランス語のJeanne d'Arc(ジャンヌダルク)を英語読みに直したものである。私の目の前でその言葉を発したのは紅の髪と紅の瞳を持った小学生のような少女。

ただし、こいつはそこらにいる普通の少女じゃない。

なにせこいつはイ・ウー船長の愛娘で元主戦派のリーダー、イステル・ホームズ・クレハだ。

 

「な、なぜ…」

 

私のなぜお前がここにいるという質問は最後まで発せられることはなく、

 

「ジャンヌの言いたいことはもう推理できている。初歩的な推理だったし、その質問に答えてあげる。偶々近くにいたから挨拶をしようかと思ってね」

 

この独特の言い回し、オーラ、推理力。どうやら本物のようだ。

だが、おかしい。数年前からイ・ウー産まれイ・ウー育ちのクレハが時々しかイ・ウーに帰ってこないとは知っている。主戦派のメンツやこいつの能力を狙う輩は、未だこいつがどこにいるかわかっていないと聞いているので、普段どこかに隠れて暮らしてのだろう。それも理由があって。

だが、私の前に現れた。私達・研鑽派と元主戦派のクレハは仲が良い訳ではない。一部メンバーを除くと悪いとも言えるだろう。()()近くにいて挨拶をしに来る間柄でもない。なぜこいつが、私の前に……

 

「GGG《トリプルジー》作戦、他の2人は失敗しちゃったね。しかも、夾竹桃は拘束されている」

 

店員を呼びパフェを頼んだ後、テーブルに片肘をつきこちらを見ながらそんなことを言ってくる。

『GGG』

私が星伽、理子が神崎、夾竹桃が間宮をイ・ウーへ誘拐するという作戦。作戦名は研鑽派であるがクレハ信者の理子から聞いたのだろう。

 

「そうだ。だがこのまま逃げるわけにはいかん。私だけでも成功させないといけない」

 

私が成功させれば作戦は一部成功になるが、私が失敗すれば完全失敗になってしまう。

それだけは避けなくてはいけない。来るべき戦役に備え、1人でも研鑽派のメンバーを増やさなくてはならないのだ。

 

「へえー立派、立派」

 

ニヤリと嘲笑するような顔をしながら適当な返事をするクレハ。

こいつは自分の配下にはすこぶる優しいのだが、敵には容赦ない。イ・ウーの同朋でお互い技を享受しあった仲だが、研鑽派の私には敵の方にウエイトが置かれてるようだ。まあ、私も似たようなものだがな。

 

「でも、1人じゃ厳しいんじゃないかな?Aランクを誘拐するのにSランク数人を相手にしなくちゃいけないよね」

「ああ。だがやるしかない」

「だったら、手伝ってあげるよ」

「は?」

 

今こいつなんて…

 

「その耳は飾りなの?私が手伝ってあげるって言ってんの」

「……」

 

私の聞き間違いじゃないようだ。

クレハが私の任務を手伝う。

イ・ウーの同朋だが、これはおかしい。

繰り返すがイ・ウーの同朋でも仲間なわけじゃない。それどころか研鑽派と主戦派はいわば冷戦状態にある。そんな状態であるのに主戦派(クレハ)研鑽派()を助けるということは裏があるとしか思えない。

 

「目的はなんだ?」

「ん、目的?気まぐれだけど、そんなに私のことが信じられないの?」

 

イ・ウーでは有名な話だがクレハは約束を必ず守る。これだけは悔しいが信頼に値する。

しかし、この話は怪しい。美味しい話には裏がある。こいつの罠に嵌められないよう注意しなくてはいけない。

 

「だったら、お前のことだ。どうせ交換条件があるのだろう?」

「さっすが、よくわかったね」

 

頬杖をついてる逆の手で私を指差しながらそう奴は言ってくるが、褒めてるというより馬鹿にしてるといった感じだ。

私でもそれぐらいはわかる。こいつは手伝うという名目という名の脅しをし、私を自由に操りたいのだろう。

 

「条件はなんだ」

「私が作戦を立てるから、お前は私の言う通りに動くこと」

「そんな条件認めん。そんなのお前の操り人形になるだけではないか」

「うーん、残念。私が立てた作戦なら絶対成功するんだけどなあ」

「お前などいなくても私1人で成功させてみせる」

「いや無理だね」

 

そうクレハはきっぱり言う。

 

「それはお前の条理予知か?」

「さあ、それはどうでしょう」

 

条理予知。本当に優れた推理力を持つ人間にしか使えない未来を見通す力。もし、条理予知で私が失敗する未来が見えてるなら、確実に失敗する。

 

「それじゃあ少しヒントをあげるよ」

 

人差し指を立てながら奴は説明するような口調で話し始めた。

 

「星伽の周りには何人ものSランクがボディガードの任務を受け、うようよしている。じゃあどうすればいいのか?」

「分断するしかあるまい」

 

1vs3で勝てないなら、分断し1vs1で戦うのがセオリーだ。

 

「そう。それじゃあ、1番最初に誰から分断するべきか?」

「司令塔、つまり北条からか」

「正解。遠山は北条に()()依存しているし、四世も頭が硬い。柔軟な思考ができる北条から狙うべきだね」

「しかし、あいつはボディーガード役ではないぞ。自分で言っといて何だが分断させるべきは遠山か四世のどちらかの方がいいかもしれんぞ」

「逆だよ。一番厄介な相手が他の人たちから浮き気味なんだからそれを利用しない手はない」

 

私たちは周りに人はいないが小声でそんなことを話す。こいつは教授と同じで知識を広げて自慢したいのか、自分の考えてることをペラペラ喋る弱点がある。取引の前に前にこいつの考えを聞けてラッキーだな。

 

「北条は星伽に甘い。それは自分でも自覚してるようだが、それを上手く使えば油断を引き出せるはずだよ」

「そうか……というか、なぜ奴らと無関係のお前がそれ知っている」

「それは教えられないなあ」

 

ニヤニヤ顔でこちらを見てくるクレハ。

教授といい、こいつといいどこでそんな情報を集めてきてるのやら。

 

「まあいい。私はお前の助けなどいらん」

「そう、残念。でも私が伝えた情報代ぐらいは貰おうかな」

「何!?」

「まあ、そんな高くはないけどね。一つ約束をして貰おうかな」

「約束?」

「今回の作戦、四世以外は殺さないという約束」

 

戦闘になった時殺せないのは少し面倒だが、それは向こうも同じ。私の方だけが殺せるのはフェアではない。同じフィールドで戦ってみろってことか。馬鹿にするな。

 

「……まあいいだろう。私でも殺さずに戦うことぐらいできる。………代わりに」

「代わりに?」

「お前の約束を受ける代わりに一つ質問をさせろ」

「はい、何でしょう」

 

よし、言質を取った。

私が……イ・ウーの乗組員全員が、気になっていることをお返しに聞いてやる。

 

「お前のパートナーは見つかったのか?」

 

ホームズ家の人間はパートナーがいることで本当の力を発揮する。元主戦派のクレハはイ・ウー崩壊後行われるだろう宣戦会議(バンディーレ)研鑽派(私たち)の敵と宣言する可能性が高い。

私としては見つかっていて欲しくなかったが、答えは最悪のものだった。

 

「見つかったよ。飛びっきり最高のね」

 




次回は早くあげれそうです、たぶんmaybe

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