哿と婚約者   作:ホーラ

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注意:ブラック銀華さん、三人称視点、オリ展開強め、キンちゃん出番なし


第42話:絶望と希望

「おはよう!ライカ、志乃ちゃん!」

 

あかりがいつも通り、教室に入り2人に挨拶する。おはよう、と2人とも返してくるが少しいつもと様子が違った。特にライカが。

分かってもらえなくて不満といった感じだ。

 

「聞いてくれよ、あかり」

「ライカ、どうしたの」

 

ライカの隣の席に座り、荷物を降ろしながら相打ちをうつあかり。

 

「昨日、アリア先輩に似てる人をロキシーで見てさ」

「それ、アリア先輩本人じゃなくて?」

「どうやらライカさん曰く違うようで…」

「あれはアリア先輩じゃない!絶対!」

 

ロキシーとは、学園島唯一のファミレスの名前である。そこでライカはアリアに似た人を見たらしい。

 

「な、なんで?」

「うーんと、アリア先輩のトレンドマークのツインテールじゃなかったし、髪の色がピンクブロンドというより赤?、っぽかったし、座ってたから確証はないけど、多分あの子はアリア先輩よりちっちゃかった!」

 

そう断言するライカ。

 

「一緒にいた強襲科(アサルト)の連中もその子見たはずなのに、何も覚えてないっていうし……なんだったんだろうな、あの子」

「それはまた不思議ですね…アリア先輩より小さいとなると、あかりさんか小学生ぐらいしか思い浮かびませんが……」

 

 

若干失礼なことを志乃が呟いたのだが、そんな言葉を気にしてる余裕はあかりにはなかった。

 

「髪が赤っぽくて…アリア先輩より小さくて……もしかしてッ!」

 

考え込んでいる様子だったあかりが、急に椅子の上で飛び上がった。そして武偵手帳から慌ててある物を取り出し、ライカの目の前に突きつけた。

 

「ライカっ!」

「き、急にどうした」

 

あかりの勢いに押されるライカ。

ライカがあかりのペースに飲み込まれるのは実は珍しい。ライカの方が普段は余裕があるのだが、その余裕を吹っ飛ばすほどのあかりの勢いだった。それほどの勢いであかりが突きつけたのは……

 

「その人の髪って、この花と同じ色だった!?」

 

大きく真っ()に咲いた綺麗な紅菊の押し花だった。

 

「そうそう、この色この色。赤っていうより紅だな」

「その人の目もこの色じゃなかった!?」

「あ、そういえば目も紅色だったような……って、なんであかりの方がアタシより詳しいんだよ。あかりもその人見たのか?」

「うん…ちょっと2人とも付いて来てくれる?」

 

珍しく神妙な面持ちをして教室を出て行くあかりを見て、2人は顔を見合わせた後、その背中を追った。

 

 

 

あかりが向かったのは校舎の屋上。朝のこの時間には人気のない場所だ。この場所に連れてきたということは他の人に聞かれたくない話をするということに違いない。

 

「あかりさん…一体どうしたのですか?」

「そうだぞ、お前らしくない」

 

志乃とライカが屋上に着いても背を向けたままあかりに呼びかける。

 

「ごめん…ちょっと興奮しちゃって。ちゃんと話すから」

 

そう言いながら振り向いた。振り向いたあかりの目はどこか遠くを見ており、何か昔のことを思い出しているような顔だ。

 

「……あたしはね、本当はもうこの世にいない存在なんだよ」

「「っ!?」

 

あかりの発した言葉に2人は息を飲む。

こんなところまで連れてきたんだから、人に聞かせたくない話だとは覚悟していたのだが、その驚きの限界値を超えたのだ。

 

「生かされたの方が正しいかもね」

「どういうことだ……?」

「志乃とライカには話したよね。私の故郷が襲われた話」

「……ええ」

 

以前、あかり達は夾竹桃という犯罪者と闘ったのだが、闘う少し前にあかりは志乃達に自分の昔のことを話したのだ。

その中にはあかりの故郷、間宮の里が夾竹桃とその仲間によって襲われたということも含まれていた。

 

「その時にあたしは撃たれたんだよ。防弾服なしでこの前志乃ちゃんが撃たれた機関銃と同じもので。」

「そ、そんな……」

「な、なんでお前生きてんだよ」

 

志乃は夾竹桃戦であかりの盾となるため夾竹桃の機関銃の掃射を受けた。それでも今生きているのは運が良かったのもあるが、防弾制服を着ていたところが大きい。

だが、あかりは生き残ったというのだ。防弾服なしで、それも今よりもずっと小さい時に。

 

「えへへ…ある人が守ってくれたんだよ」

「もしかして、それって…」

「そう、ライカが言ってたあの人」

「…っていうことは、そのライカさんが見たって方はあかりさんのご親族なのですね」

「なるほど。だから、あかりが知ってたってことか?なんだよあかり、早く言えよな」

「違う!!」

 

突然のあかりの大声に2人は面食らう。

 

「ご、ごめん。いきなり大きな声出して」

「謝ることはありませんけど…それじゃあその人は」

「あたしの故郷を襲った1人、夾竹桃の仲間だよ」

「マジかよ…まだガキだったぞあいつ。てかなんでお前を助けたんだよ」

「任務に不殺とあったかららしいけど真意は知らない」

「ま、ガキだから非情になりきれなかったとかそんなん感じじゃないか?でも、アタシが見たやつも小学生ぐらいのガキだったんだよな…それから何年も経ってるはずなのに」

「もしかして、あかりさんと会った時から成長してないんでしょうか…?それとも、妹?」

「それは、わからない…でも、だけど見たらわかると思う」

「というより、そいつが本人にしろ妹にしろいるのやばくないか?夾竹桃の仲間なんだろ?」

「うん。だから、そのことを伝えようと思って」

「まさかもう一度あかりさんを狙いに…!?」

 

あかりは夾竹桃に狙われていた。夾竹桃が失敗した今、夾竹桃の仲間の紅の髪の少女が出てくるのは自然だと志乃は考えたのだ。

だが、ライカは違った。

 

「いや、それはねえな。奴はあかり本人というより、あかりの鷹捲(たかまくり)を毒と勘違いして狙ってたんだろ?鷹捲が毒ではないとわかった今、あかりをその仲間が狙う意味がない。あかり本人が優等生ならまだしも、Eランクのへっぽこだもんな」

「Eランクの……へっぽこって……」

 

そう言われたあかりも事実なので反論できないのだが。

 

「アタシ達に報復に来たなら、そんなウロウロする必要はないし、奇襲をかけるだけでいい。夾竹桃の時、向こうは交渉する気があって、その隙にアタシ達は戦力を整えて、ギリギリ勝てたんだ。もし奇襲されてたら、各個撃破されて終わりだっただろうな」

「それじゃあ……」

「たぶん、あかりではない他の人を狙いに来たんだろう。それも奇襲で片付けることが出来ないので、機を伺う程のあたし達よりずっと強い人を」

 

ライカの呟きに、あかりはアリアを、志乃は白雪を、ライカ自身は銀華という自分の戦姉のことを思い浮かべた。

 

「あ、そういえば……」

「志乃ちゃん、どうしたの?」

「私の戦姉の星伽先輩がボディーガードを教務科(マスターズ)に言われてつけられたのを思い出しました。少し前まで嫌がっていらっしゃてましたのに」

教務科(マスターズ)がそこまでするってことは、狙いは星伽先輩の可能性が高いかもな」

「どうして星伽先輩を…」

「もしかしたら超偵だからかも……アリア先輩が昨日超偵がどうとか電話で話してたし」

 

超偵とは超能力を使う武偵のことである。

胡散臭がられながらも日に日にその存在感を武偵業界で増している。

武偵高はその超偵を超能力捜査研究科で育成しており、白雪はそこの生徒であることをこの3人は知っていた。

 

「もしかして……魔剣…?」

「魔剣…?なにそれ?」

「超偵ばかり狙って攫うと言われてる犯罪者だ。都市伝説みたいなもんだけどな」

「確かに、ライカさんが見たっていう少女が魔剣なら筋が通りますね」

「銀華先輩に一応このこと伝えとくよ。あの人星伽先輩と仲良いからたぶんなんとかしてくれるだろうし、星伽先輩の不安をさらに煽るのも良くないしなって……あかり?」

「…うん!あたしも銀華先輩に伝えとくのいいと思うよ!」

 

歯切れの悪い回答をするあかりを見て、少し不思議がった2人だが、これからの対応について話は戻っていった。その横であかりは

 

(あの人が本当に魔剣……?本当にそうなのかなあ……)

 

武偵手帳に挟んである紅菊の押し花をこっそり見ながらそう思っていたのだが、その思いが口を出ることはなかった。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

最近にしては珍しく自分の部屋に帰って来た私はライカを招いて、夕食をとっていた時のこと。

ライカは私が作ったご飯をいつも通り、美味しい美味しいと言いながら食べてくれた後、後片付けでライカが皿洗いをしてくれている時のことだった。

 

「銀華先輩」

「どうしたの?ライカ」

 

キッチンからダイニングにいる私に呼びかけて来る。その声は話しかける機会を伺っていたという感じだった。何か相談事かな?

 

「魔剣と呼ばれる犯罪者がいるってことは知っていますよね」

「うん。都市伝説とも言われてる超偵を狙う犯罪者のことでしょ?」

「はい。それでですね……アタシ、たぶんその魔剣と思われる人を見たんですよ」

「ほう……それはどんな人だったの?」

 

ジャンヌの変装を見破ったのか、なかなかやるじゃない、ライカも。だが次の言葉を私を動揺させるには十分な言葉だった

 

「えっとですね……髪が紅色で、背は小さくて、目も紅色でその人が魔剣じゃないかって……」

 

もしかして、この前ロキシーに出てった時に見られていたってこと?緑松校長の認知されにくい体質を不完全だけど超能力で再現していたのに?いや、不完全だからか。あれは私に近い人は見えちゃうらしいから、戦妹のライカには見えちゃったんだ…

それはまずい。

マズイ。

マズイマズイマズイマズイマズイマズイ。

 

「アタシの友達が以前助けてもらったらしいんですけど、だけどそいつは以前アタシが捕まえた犯罪者の仲間で…」

「………その魔剣の話は誰としたの?」

「えっと……アタシと志乃とあかりの3人でしました。他は知らないです」

 

そうか、まだその3人でしかも全員女性だけか。それだけなら……

 

「まだなんとかなるね」

 

バンッ!

私がライカの襟首を掴み壁に叩きつけた音が響き渡る。

 

「しろは…せん…ぱい……?」

 

私にいきなり叩きつけられたライカは驚きで目を丸くしている。それはそうかもしれない。自分ではそうは思わないけど、キンジに優しいと何度も言われたし、他の人にも言われる。そんな私にいきなり叩きつけられたら、驚くに決まっている。

 

「ごめん、私には今余裕がないんだよ」

 

だが、自分では自分でしたことに何も驚かない。それはなぜか。なぜなら、私は武偵・北条銀華であると同時に

 

「だって、それ私だもん」

「……は…い……?」

 

イ・ウーの紅華・ホームズ・イステルなんだから。

 

「その紅のちびっこは私のもう一つの姿。それを言いふらされたら私が困るの」

「……じょう……だん…です…よね?」

 

壁に叩きつけられたままのライカは息が苦しいらしく言葉を長く続けることができない。

 

「私は冗談を言う人だったっけ?」

「じゃあ…ほんと…に?」

「そう。ライカたちが倒した夾竹桃の仲間だよ私は」

 

そう言い私はライカの額をコツンと指でつくと、ライカの体から力が抜けた。気を失ったのだ。

 

「ごめんね…ライカ…」

 

聞こえてないだろうけど、ライカにそう謝りながらソファーに寝かせる。

私が使ったのは北条家の技、『絶経(ぜっこう)』。

相手が直前に思っていたことを丸々忘れさせる技だ。忘れさせるというよりは思い出させなくするといったほうが正しいかもしれない。

記憶喪失には人間の防衛本能から起こるものがある。それは強いショックや恐怖、絶望を受けた時だ。人は心が壊れるのを防ぐためにそのことを忘れる。これを絶経は利用するのだ。

強いショックや恐怖、絶望を声、目線、圧迫感などを駆使し相手に与えて、心を守ろうという機能を強引に働かせる。その結果、相手は恐怖や絶望に加え、直前に思ってたことについて思い出せなくなるのだ。

相手の記憶の引き出しに対する鍵をそれらによって壊すとでも言えばいいのかもしれないね。

記憶の鍵を作る遠山家の禁術、『猾経(かっこう)』とは、真逆の技。

私の推理では私のご先祖様が浮気されて、浮気相手やご主人の記憶を消すために作られたんだと思うんだけど、どうなんだろう?

お母さんに教わったお父さんにこれを教わった時、使う場面がないことを祈るよとか言ってたし。私も初めて使った。

それほど私は焦っていた。

キンジがイ・ウーと敵対していて、なおかつ私がまだイ・ウーから抜けきれてない今、私が紅華だとバレるのはマズイ。キンジと敵対することになってしまう。そのための不安要素は消さなくてはならない。

 

(あとはあの2人か……)

 

ライカがしばらく寝てることを確認した私は、着替えて夜の街に抜け出した。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

あかりは日課となっているアリアの家の掃除をすませて、妹のののかが待つ家へ急いで帰宅していた。

アリアの家は広い。1フロア丸々くり抜いたものが2層重なっている。銀華が住んでる部屋も広いがアリアの住んでる部屋とは比べ物にならない。

放課後、アリアに命じられた自主トレをこなしたあかりは、そこからアリアの部屋の清掃をしたので、帰るのが遅くなっても仕方がないだろう。これが武偵高1年が奴隷の1年と言われる理由である。

 

(また、今日も遅くなっちゃった。早く帰らないと…)

 

今日、あかりがアリアに命じられたトレーニングは一段ときつかった。アリアの機嫌が悪かったからである。なぜアリアの機嫌が悪かったかはお察しの通りだ。

トレーニングも兼ねて小走りで帰宅していると曲がり角で不意に誰かとぶつかった。

 

「あいたた……ごめん、だいじょ、うぶ……?」

 

あかりの最後の方の言葉が濁ったのだがその理由は二つある。

一つはあかりはよろけたが、その子はあかりより小さいのにも関わらずまるで地面と足が張り付いているかのように一歩も動いていなかったからだ。体格差があるならわかる。だがその子はあかりより小さいのだ。ニュートンの第3法則より考えるとあかりより相手の方が吹っ飛びやすいはずである。

そしてもう一つは、その子の風貌だ。

 

「久しぶり、私のこと覚えてる?」

 

忘れるわけがない。1日足りとも忘れた日はない。紅の髪と瞳、愛らしい顔、そして一般人とは明らかに違うオーラ。

声が出ない。

いると聞いていたのに驚きで声が出ない。

状況は少し違うがアリアと初めて会った時と同じ状態にあかりは陥っていた。

 

「その様子だと覚えてるみたいだね」

 

ニコリと笑う紅の少女。だが、その笑みはすぐに消えた。

 

「まあ、もうすぐ忘れるんだけど」

「え……?」

 

あかりの口から声が漏れた。驚きすぎて一周して元に戻ったのかもしれない。

 

「今日、あなたの友人から私のこと聞いたでしょ?」

「……それが?」

「困るんだよ。私がここにいるってことを知られたら。だから消して回ってるの。私のことを知ってる人のをね」

「消すって?」

「そのままの意味だよ。文字どおり消してる」

「ライカと志乃ちゃんも…?」

「そう。あなたが最後だよ間宮あかり」

 

相手を追い詰め、恐怖させるようなことをいう紅の少女。

……だが、あかりは一歩も引かなかった。

 

「そう、じゃ消していいよ」

「え?」

「あたしの命はあなたに貰ったものだから。でも一つだけ、これだけは言わせて。あなたにあったらずっと言おうと思ってた」

「……何?」

「ありがとう」

「………はい?」

 

いきなり感謝された紅の少女は困惑気味だ。

 

「あたしとののかを助けてくれてありがとう。ずっとお礼が言えていないことが気掛かりだったんだよ」

「私はあなた達を襲った敵よ。憎まれることはあっても感謝されることはない」

「あなたが敵であることには変わりはない。だけど、あたしとののかを助けてくれた事実も変わらない」

 

あかりは確信していた。この少女は消したと言いながら誰も殺してない。ライカも志乃も。だってこの人は見ず知らずのあたしを助けてくれたヒーローなんだから。

 

「あなたのおかげであたしたちは今生きている。あなたが銃弾を止めてくれなければあたし達は死んでいた」

「あれは命令の中にって…」

「そうだったね、でもあの時助けてくれたのはあなただけだった」

「……」

「武偵高のみんなを裏切ることはできないけど…あなたのことなら」

「もういい!」

 

紅の少女は叫ぶように声を出した。そしてあかりとすれ違うように歩きだす。

 

「気が変わった。消すのは止めだ。間宮あかり、私と約束しろ」

「うん。何を?」

「私がここ、学園島にいること。私と今日あったこと。私のことを誰にも話すな」

「わかった」

 

そう言いながら後ろを振り返ったのだが、もうそこには人影はなかった。

紅華は諦めたのだ、『絶望』させることを。それはなぜか。推理できてしまったからだ。

 

あかりの中で紅華の存在が生きる『希望』となっていることに。




甘い話はどこ…?ここ?(砂糖不足で死にかけてる筆者)
そして原作の話が一ミリも進んでいない(絶望)
甘い話を書ける日はいつ来るのか…
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