哿と婚約者   作:ホーラ

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注意:銀華出番少なめ


第43話:血の呪印

『アドシアード準備委員会』の末席で俺は1人ぼんやりとアリアのことを考えていた。

最近あいつは魔剣(デュランダル)の情報収集をするためあちこちを駆け回っている。夜中、ちょっとでも音がしたら飛び起き拳銃を構える警戒っぷりだ。だがその敵の影は依然見えないのと、睡眠不足もたたっているのだろう。最近は明らかにご機嫌斜めだ。

 

「星伽さんもぜひ、閉会式のアル=カタには出ていただきたいわ」

「枠も一つ開けてありますし」

 

武偵高はこんなんだが一応、高校という区分なので生徒会がある。

しかし、生徒会のメンバーは校則により女子ばかりだ。

この理由はかつて男子が生徒会役員だった頃、部費の取り合いだかで撃ち合いに発展したからである。この学校は世紀末かよ本当に。

で、このアドシアード準備委員会は生徒会メンバー、つまり女子だけで構成されている。

なんでこんな退屈かつ銀華に誤解されて危険そうな委員会にお邪魔してるかというと白雪のボディーガードのため、というよりアリアの命令のせいである。

白雪を推す生徒会メンバーに対し、あくまで裏方で貢献したいという意見を伝える白雪。主な議題はみんな終わったので早く終わってくれという俺の願いが通じたのか

 

「--もう時間ですし、これで会議は終了したいと思います」

 

よく通る綺麗な声で、白雪は一同にそう宣言した。

アニメ声のアリアが声優、踊れる銀華がアイドルなら、白雪は女子アナだな。

そんなことを考えながら席を立つと……女子どもがキャッキャと騒ぎ始めた。

どうやら、台場に行くとかどうとか。

きゃっはは、うけるー!

だとよ。

みんな明るい笑顔なんかしやがって…

いやだなー。こういうの。

モテるモテないの話してるが、お前らがモテないのは腰に拳銃ぶら下げてるからだぞ。

 

「星伽先輩も一緒にどうですか?」

 

白雪の後輩の1年が話しかけると、白雪はえっ、という表情になった。

 

「あ、私は家でアドシアードのしおり作成しなくちゃいけないから…」

 

と顔を下げた白雪に女子たちは

 

「勉強熱心…さすがです」

「本当に超人ですね」

 

などと、嫌味ではなく本気で尊敬するような声で言った。そして--同時になんとなくだが一歩引いてる感じだな。

 

 

夕日が照らす道を白雪と並んで帰る。

先ほどまで委員会をやっていた場所と男子寮は近いから徒歩だ。

女子と2人で歩いてるのを銀華に見られたら、ご機嫌が急降下だろうが、ボディーガードだから仕方ない。

もし1人で帰ったら、今度はアリアに風穴祭りにされる。

行くも地獄、帰るも地獄。神様は俺に試練しか与えない。

 

「き、今日の私…どうだった?」

 

体の前に提げた学生かばんを両手で持つ白雪は、まるで一生起こらないと思ってたことが起こって嬉しいという顔をしている。

 

「信頼されてるって感じだったな。いいと思うぞ」

 

と感じたことを率直に言ってやると、白雪はかあああああ。

顔を真っ赤に、緋袴のように染めて、俯いた。

 

「……き、キンちゃんにほめ……褒められちゃった……」

 

などと脳内トリップ。

おーい、前向かないと危ないぞ。

 

「あっ」

「前向いて歩けって、電柱にぶつかるぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

脳内トリップの達人である銀華も、俺といるとよく電柱にぶつかりそうになるからな。昔はそんなことなかったのに、なんであんなにポンコツになったんだ……

 

「そういやお前、チア出ないのか?みんな出て欲しそうだったじゃんか」

「だ、だめだよ。チアは……銀華さんみたいなもっと、明るくて可愛い子の方がいいよ。私みたいな地味な子がでたら、武偵高の評判下がっちゃう」

「お前なー、自分のこと下に見るの良くないぞ。チアやってる時だけ明るい演技すればいいし、もしかしたら演技してるうちに本当に明るくなるかもしれないぞ。それに武偵高の評判なんて地の底なんだから、これ以上下がりようがない」

「でも…」

「もしかして魔剣(デュランダル)にビビってるのか?そんなもん、いない。狙撃されたりしねえって」

「うん……でもダメなの」

「なんでだ?」

「星伽に怒られちゃうから」

 

星伽。

白雪の名字だが、こう白雪が呼ぶときは、星伽神社。

つまり実家を意味している。

 

「なんでだよ。そんなこと怒る事じゃねえじゃないか」

 

何度か今まで白雪がこのような発言をしていたから、なんとなく知ってはいるのだが…

白雪の実家、つまり星伽神社は神社から出て東京に来た白雪にあれこれ制約をつけているのだ。格式を重視しているのか、あれこれダメとうるさい。

 

「ダメなの。私はあまり大勢の前に出たらダメなの」

 

ダメなのと、二回白雪は繰り返したが…

よほどダメなのだろうな。

 

「さっきの台場に行く誘いを断ったのだって、ひょっとして星伽か?」

「うん」

「お、おい」

「私は神社と学校からは、許可なく出ちゃいけないの」

 

おいおいおいおい。

それは流石に酷くないか?人権侵害だろ。

あのなぁーと俺が抗議しようとしたタイミングで

 

「星伽巫女は守護り巫女。生まれてから逝くまで、身も心も星伽を離るるべからず」

 

俺に言うというよりは独り言と言う風に呟いた。

 

「私たちは代々、星伽神社に一生いるべき人間なの。他の神社との交流もあるから、もちろん行くこともあるし、現代は義務教育とかもあるけど、それはあくまで最低限にしなくちゃならないの。私が武偵高に来たのだってすっごく反対されたよ」

「でもお前はそこから出て来たんだろ。じゃあ、もう今更あれだろ」

「……」

「素直になっていいから、今はあいつらのとこ行ってこい…護衛は、そうだな。銀華に頼むよ」

 

あいつは白雪のボディーガードを頼まれていないが(というよりも白雪が拒否した)、ボディーガードではなく、友人として白雪に付き添えばいいだろ。あいつの性格上、白雪か俺が頼めば断らないし。

 

「今日は飯作らなくていいから、思いっきり遊んでこいよ」

「ううん。いいの。銀華さんに迷惑だよ。それに外は…なんだかこわいよ」

「怖いって、台場がか?あそこただの商業施設だぞ」

 

怖いというか危ないというか武偵高にいるのにどうなんだそれは。

 

「でも私、今まで女巫校(めかんなぎ)を出たことがないの…」

 

女巫校。

神学校の一種で、裕福な神社の娘が通う全寮制の女子校だ。

白雪はそこに小学校、中学校と通っていた。

 

「ああやって、外に出てお買い物とか、してみたいけど……私、自信がないの」

「自信?」

「うん。私はみんなが知ってること何も知らないの。話せることと言ったら学校のことぐらいだし、流行も何もわからない。みんなと理解しあえないの…」

 

こんなことあったなそういえば。

 

「自信とか言っているが銀華も最初そうだったんだぞ」

「え?」

「あいつ海外出身だからさ。全然日本のこと知らなくて。最初は大変だったんだぞ」

 

あいつに付き合ったせいで初リゾナも体験したしな。それも、4年前か……懐かしい。

白雪はそれを聞いてなぜかちょっと納得したようだ。何に納得したかはわからんが。

 

「だから、お前もチャレンジしてみろって。意外とお前も銀華みたいな感じになるんじゃないか?お前ら仲いいし」

「私と銀華さんは違うよ。なんたって銀華さんは北条なんだから…」

「銀華も言ってたが、ご先祖様のことなんてお前が気にする必要ないだろ」

「ううん、そういうことじゃないよ。キンちゃんは知らないかもだけど、北条の血はすごいの」

「……どうすごいんだ?」

「人を惹きつける力。その力が代々北条の家系には流れてるの」

 

……そんなことがあるのか?

実際に銀華は人に好かれやすい。

クラスでは俺と違い中心にいるし、ファンクラブがあるぐらいだ。

それが遺伝体質だとでというのか…?

 

「昔からなのか…?」

「うん。有名どころで言えば承久の乱かな。キンちゃんも知ってるでしょ。北条政子の演説」

「ああ…」

 

承久の乱。

鎌倉時代に後鳥羽上皇が起こした戦いだ。

朝廷の敵になることで浮ついた鎌倉武士を一つに団結させたのが、銀華の祖先、北条政子の演説と言われている。

そう考えると少し納得できるかもしれん。

 

「遠山家と北条家の付き合いは長いからキンちゃんにも流れてるはずだよ。銀華さんと同じ血が」

「途端に信用できなくなったんだが」

 

綴に非社交的と言われる俺だぞ。その後潜在的カリスマがどうとか言っていたが、それは買いかぶりだ。銀華と俺に同じ血が流れているのは事実だが、人を惹きつける力はたぶん北条の血は関係ないだろそれ。反例がここにいるんだしな。

 

「そ、そんなことないよ。キンちゃんは私を助けてくれたし…」

「それとこれとは関係ないだろ」

「…だけどキンちゃんはそれでも私を助けてくれた。それは私にとって嬉しいことで…そういうことを無意識にするから、銀華さんの一族は北条姫と言われているんだよ」

「…北条姫?」

「そう、お姫様。みんなに優しく、みんなに慕われるお姫様。だから銀華さんの婚約者のキンちゃんは王子様だね」

「お、王子様って…恥ずかしいから、やめてくれ」

 

お姫様……王子様……どこかで最近こんな話を聞いた気がするんだが、なんかの童話だっけな?

 

「私はね、いいの。2人がいれば。キンちゃんは私のことを理解してくれる。お姫様の銀華さんは私の相手をしてくれる。だからいいの。他には何もいらないの」

 

白雪、お前。

それじゃあ銀華が増えただけで、根本的にはあの頃とまるで同じじゃないか。

こんなに星伽神社から離れているのに--お前まだ、かごのとりなのかよ。

 

「だからね…キンちゃん」

 

少し立ち止まってこちらを見る。

 

「銀華さんを守ってあげてね」

 

占いの時と同じことを言う白雪。

白雪、お前…

いったい占いで何が見えたんだ…

 

 

 

 

夜シャワーから出た俺は体を拭き、ズボンを履いて、浴室の電気を消す。

そしてそのまま…時計を見るともう10時だ。

銀華は今日、久しぶりに戦妹のライカを招いて食事を取ってるので、この家に来ないとメールが来ていた。その時に一緒のタイミングで来てたアリアのメールには諜報科(レザド)に行くとかどうとか。またどうせ魔剣の情報を探しているのだろう。

そんなことを考えながら、顔をバスタオルで拭いていると

パタパタパタ。

何やら慌てて廊下を走ってくるスリッパの音が聞こえた。

 

「??」

 

どうした、と脱衣所のカーテンの方を向くと

 

「--キンちゃん!?どうしたの?」

 

しゃー!

 

脱衣所のカーテンが全開されてしまった。

開けたのは、巫女装束を身にまとった白雪。

 

「は、はっ!?」

 

俺はいきなりのことに後ずさってしまう。

っていうかこれっ。

普通なら--いや、普通が何かはわからないが--男と女が逆じゃないか!?

などと意味不明な分析をし始めるぐらいテンパってしまった。

 

「な、なんだ!いきなり急にっ!?」

「え、えっ、だ、だってキンちゃんがで、電話」

「電話って?」

「す、すぐに来いって言っただけで、急に切っちゃったから」

「確かにあれはキンちゃんだよ!非通知だったけど『バスルームにいる』って」

 

なんだそれ。

幻聴だろ。

 

「シャワー浴びながら電話が掛けれるわけねえだろ!な、なんでそんな変なことが起きる!」

「で、でも、でもでも、でんでんでんぇん!」

 

俺が上半身裸なことを今更把握したらしく、顔から腰へ視線を下げつつ、白かった顔を下から上へ、何かメーターが上がるかのように、赤く染めていった。

そして大きく息を吸い込み

 

「ごめんなさいっ!!!」

 

どういう跳躍法なのか理解できない奇妙な飛び方で斜め後ろに跳ねる。

そして、空中で正座の姿勢になったかと思うと、服を広げつつ、着地をしながらベタァああああ

土下座した。

 

「ごごごごご、ごめんなさいごめんなさい!」

 

体を小さくし、頭から湯気が出そうなぐらい顔を真っ赤にしている。

 

「銀華さんが今日いないから!キンちゃんのことばっかり考えてたのは事実です!裸なのを想像してたのも事実ですっ!」

「そ、そんなこと聞いてねえよ!」

「でも、想像したら、それがそれがそれが!お、お許しください!白雪は悪い子です!いけない子です!くぁwせdrftgyふじこlp」

 

やばい。

 

「お、おい」

 

ぶっ壊れやがった。一番身近な銀華も時々バグるしなんで女どもはこうなるんだ。このままほっといたら、アリアに敵に攻撃されて白雪がおかしくなったと思われかねん。

俺はとりあえず白雪の前で片膝をつく。

 

「ほ、ほら。多分間違い電話だろ。そんな謝らなくていい」

 

と出来る限り穏やかにいってやるが、

これがミスだったぽい。

白雪は自分の目を手で隠しながら

 

「おあいこ!」

 

とまた意味のわからないことを絶叫し始めた。

そしてかぁーと発熱したかのように体まで赤くした。というかちょっと暑くなってきたぞ。お前は暖房器具かよ。

 

「おあいこって何がだよ」

 

と聞くと、ぶっ壊れた白雪はぶっ壊れた演算結果を発表した。

 

「キンちゃんが私の上裸を見れば公平だよ!」

「はっ!?」

 

と言った白雪はいち早く自分も脱がなくちゃいけないと言った風に急いで脱ぎ始めた。

 

「な、なんでそうなるんだよ!」

「これで、おあいこ!脱ぐ脱ぐ脱ぐぅ!キンちゃん様なら見られて平気なの!むしろ見て欲しいの!」

 

と暴走する白雪を俺は全力で止める。これは命に関わる問題だ。もしヒスって間違いをおかしてみろ。俺がベルセ化した死神(銀華)に殺される。な、なんとかして阻止しなくては!

 

「キンちゃん放して!」

 

と白雪。

「大人しくしろ!」

 

と俺

 

「ただいまー」

 

とアリア。

…………アリア?

………最低最悪のタイミングで帰ってきやがったなこのやろう!

少し盤面を整理してみよう。

--白雪の黒い瞳は潤んでおり、着衣は乱れている。

--そして俺は上半身裸。

--おまけに先ほどの会話『放して』『大人しくしろ』

 

詰んだわ。

 

「……こん…こんのおおおおお……」

 

がるるるると、獅子が唸るようなアリアの声。

さっ。

スカートの側面に突っ込まれる手。

 

「バカキンジイイイイイイイ!!」

 

バスバスッ!

漆黒と白銀のガバメントで、.45ACP弾をぶっ放してきやがった!

 

「ま、まて!」

 

バリバリ!

足元に命中した弾に俺は後ろに飛び上がる。

ちょ、ちょっとまて!俺今裸なんだぞ!

 

「あんたは!銀華がいるくせに!バカ!ケダモノ!強猥魔!」

 

バスッ!バスッ!

拳銃を撃ちつつ前進してくる。

俺はとうとうベランダまでの追い詰められた。

もう後がない。下は東京湾だ!

 

「あたしに強猥した挙句、今度は白雪!?ヘンタイ!」

 

とうとうアリアは2丁拳銃を俺に向けてきた…

ど、どうする俺…!?

武器はなし。

物置に入ってもそのままぶん投げられる。

この状況で生き残るための活路を考えろ俺!

 

「ち、違うのアリア!負け惜しみはもうやめて!」

 

壊れた白雪によくわからないことを叫ばれ、アリアはピンクの眉を、寄せて振り返る。

 

「な、なんであたしが負け惜しみなのよ」

 

犬歯をあらわにしたアリアに白雪は、

 

「あれは無理やりじゃないの!合意の上だったんだよ!」

「合意?」

「そう。あれは自分から脱ごうとしてたの!だからキンちゃんは悪くない!」

「ぬ、脱ぐって、あんたら一体何しようとしてたのよ!」

 

と慌てるアリアの手から、白雪が「えいっ!」と拳銃を奪い取る。

言ってることはよくわからないが、頑張れ白雪!

 

「た、たたたとえ合意の上だとしても!」

 

一気に赤くなったアリアは白雪の袖を掴むと

ずだんっ!

綺麗な一本背負いで白雪を床にひっくり返した

 

「きゃっ!」

「あんたには銀華がいる上に、そそ、それはボディーガードの禁止事項(タブー)よ!」

 

そう叫んだアリアが白雪を踏み越えてくる。

お、おい。白雪はお前の護衛対象だぞ!

 

「仲良しぐらいならまだ許すけど!く、依頼人(クライアント)とそ、そういう関係になるのは、武偵失格!失格!大失格!」

 

アリアは高ヘルツの窓を破壊しかねんキンキンする声を上げ

 

「風穴まつり!」

 

バリバリバリ!

情け無用という感じで俺をうってきた。

それはもう読んでいた俺は男子寮のベランダから飛び降りベルトのワイヤーに捕まる。

か、間一髪だった…

と思った矢先

 

「頭を冷やしなさい!」

 

バキュン!チュインッ!

叫び声と共にベランダから放たれたアリアの銃弾にワイヤーが切断され、俺は落下防止柵にバウンドし、ザブン。

気がついたら東京湾に浮かんでいた。

 

 

ボディーガードは依頼人と深い関係になってはならない。

これは基本中の基本で、強襲科の教科書にも載ってる。

依頼人とそういう関係になってしまうと警戒が緩んだり、イザという時に冷静な判断ができなくなる可能性があるからだ。

だが、今回の任務は過保護から始まった、言うなれば、ごっこ遊びだ。

魔剣(デュランダル)という都市伝説に目の色を変えたアリアだけが本気になってるわけで、俺はいい迷惑だよ。

でだ。

元々少し疲労がたまってたところに、シャワーの後東京湾に落とされた俺は

カゼをひいてしまった。

朝、クラクラしながら体温計を咥える俺を見てアリアは、「まったく…だらしない!」とおかんむりだったが……それ以上いつものように手を出してきたりはしなかった。

白雪は俺を看病したがり、キンちゃんが休むなら私も学校を休みますとまで言ってきたが、さすがにそれは悪いのでなんとか登校させた。

で、その後俺はベッドの上で手持ち無沙汰な時間を過ごした。

熱は38度ぐらいを行ったり来たり。

辛くない時もあるが今はちょっと辛い。

そんな高熱に意識が朦朧としていると、昼休みぐらいの時間だろうか?

誰かが家に入ってきた。

声を出すのもだるい俺はそのまま気にせず寝に入る。

 

「まったく…もう…」

 

ため息ぐらいの大きさで発せられた凛々しい声。

ガンガンと痛む額に、熱を測るかのように優しく手が置かれる。その手は冷たく……気持ちよかった。

 

 

 

何時間ぐらい経過しただろうか…眼が覚めて、ベッドの横にある時計を見ると午後2時だった。体温計を取ろうと右手を動かそうとするとがっちりと何かに繋がれている。

 

「あれ、起きた?」

 

ベッドの側には銀華が居た。銀華は右手で何かの本を読みながら、俺の看病をしてくれていたぽい。そしては左手は俺の右手に繋がれている。

 

「銀華……」

「もしかして喉渇いた?水は一応薬と一緒にそこにあるけど」

 

銀華が指を指す方向を見てみると、薬の効かない体質の俺に唯一目覚ましい効果のある風邪薬『特濃葛根湯』とコップに入った水がある。銀華が買ってきてくれたのか。

 

「ありがとう」

「ううん。私は何もしてないよ。買ってきたのは私じゃないから。そのお礼はちゃんとその人に言うんだよ」

 

銀華じゃないってことは--白雪か。

さすがだ。気がきくな。

 

「なんか食べる?お粥でも作るよ」

「いや、いい…それよりも」

「ん?」

「ここに居てくれ…」

 

熱が出ると寂しくなる、と言われている。

身体が弱ってるから他の人の助けを求めてるのかもしれない。熱に侵された俺は銀華を求めたのかもしれない。

 

「うん。わかったよ。ここに居てあげる」

 

再び手を繋ぎなおし、聖母のような優しく慈愛に満ちた頬笑みを浮かべる銀華を見て、俺はその笑顔に無意識に惹きつけられながら、安心した気持ちで眠りに落ちた。

 

 




銀華さんの血の力が予想外の威力で読者にも効いてて、驚いてる筆者。
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