哿と婚約者   作:ホーラ

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遅くなりました……ジャンヌ戦前半


第46話:偽り

排水溝から出る水の流れには何も不審なところは見られなかったが、フタは一度外されムリに繋ぎ直されたような跡があった。

こんなわずかなことで生じる海面の異変をあの距離から見抜いたレキの超人的視力に驚いている場合ではない。

俺はこの排水溝がどこに繋がっているのか、武偵手帳で調べる。

 

地下倉庫(ジャンクション)…」

 

ベルセの俺でも冷や汗が出る。

地下倉庫とは柔らかい言い方にすぎない。

武偵高三代危険地域に数えられてるそこは、

火薬庫。

マズイ。

何か悪い予感がするぞ。

 

武偵高の地下は多層構造になっていて、地下2階から水面下になる。

俺はそこまで階段を駆け下り、立ち入り禁止区画につながるエレベーターに乗り込むが、

おかしい。

エレベーターが動かない。

ベルセじゃなくてもわかる。これは何かがおかしい。普段通りじゃない。罠が仕掛けてあるかもしれない。

だが知ったことか。今の俺には敵に襲いかかり、銀華と白雪を奪い返すこと以外にあまりものが考えられないんだ。

エレベーターが動かないならハシゴを使うしかない。

そして錆びて痛いハシゴを降りること地下7階。

地下倉庫(ジャンクション)

ここは武偵高最深部だ。

地下倉庫の片隅、今はそんな使われていないらしい資料室に着いて、ふと机の上を見ると

 

「!?」

 

ベレッタ93Rと懐中電灯が目立たないように置いてあった。普段の俺だったら見逃していたかもしれない。

ベレッタ93Rという銃はあまり出回っていない。俺の使ってるベレッタ92Fと違い3点バーストができるという利点があるが、流通量が少なく、そのせいでパーツも高い。実践信頼度も長く使われている92Fの方が高い。

何が言いたいかというと、ベレッタ93Rを使っている人は武偵高でも少ないということだ。現に俺はこの銃を使ってる人を、1人しか知らない。

 

「銀華……」

 

そう93Rは銀華のもち銃である。

つまりこの銃の持ち主、銀華はここにいるというサインで…

俺はその銃と懐中電灯を手に取る。

音を立てないようにそっと資料室のドアを開けると、そこは真っ暗だった。

電気が落とされている。

ついているのは赤い非常灯だけだ。

これを銀華は予期していたのか。

できるだけ足音を殺しながら、されど全速力で通路を走り、銀華と白雪の姿を探す。

武偵手帳によれば、近くに大広間みたいな空間がある。

地下倉庫の中でも最も危険な弾薬が集積されている、大倉庫と呼ばれる場所だ。

そこから……人の気配がする。

 

「……それともう一つ」

 

女の声が聞こえる。

 

「今回のことに一つだけ誤算があった。お前の性格を読み違えてたようだ。約束は守るやつだと思っていたのだがな」

「……なんのこと?」

 

白雪の声も聞こえた。つまりもう1人の声はやっぱり…

 

「『何も抵抗せず、自分を差し出す。その代わり北条を解放し、遠山にも手を出さないこと』--お前は確かにそう約束した。だが、その裏で、お前はヤツを呼んでいる」

 

魔剣(デュランダル)か……お前が俺の銀華を攫ったのか……!

こっちにむかってヤツがそう言った瞬間に

 

魔剣(デュランダル)ッ!」

 

叫ぶと同時に、白雪の方へかけていた。

相手は魔剣。

何人もの超偵を誘拐してるだけあって、装備はしっかりしているだろう。

だが、こちらは装備を整える時間はなかった。

それに近くの弾薬の誘爆も考えて銃を使うこともできない。

だが、そういう戦力分析を放棄する。

どんなに不利でもぶっ潰す。それだけだ。

 

「キンちゃん!?」

 

驚いた白雪の声が、大倉庫に響く

 

「来ないでっ!逃げて!武偵は超偵に勝てない!」

 

悲鳴のようなその叫びに続いて、俺の足元にガツっ!

目にも止まらぬ速さで飛来した物を飛び上がって躱す。

ベルセの反射神経で見えたが、先ほどの飛来物はヤタガン。強襲科の教科書によればフランスの銃剣で、細長い古式銃の先端につけるサーベルのような小剣だ。

 

「身近にいる人は似るという。お前も北条と同じだな」

 

なんだ?

女の声に従って俺を中心に白いものが広がる。それを無視して飛びかかろうとするが、動けない。

足が床に貼り付けられている。

冷たい。

まさか氷っ…!?

 

「『ラ・ピュセルの枷(l'anse de la pucelle)』--の進化、『ラ・ピュセルの陣(Équipe de la pucelle)』はどうだ、遠山。綺麗だろう?」

 

見渡すと白いものは何かの形を持って広がっており、その各頂点にはヤタガンが刺さっている。その光景を見て、俺はあるものを思い出す。

--氷晶--

その六角形にそっくりに広がっているのだ。

俺は氷に縫い付けられたってことか…!?

 

「お前がこんなにも早く来ることは誤算だったが、来ることは分かっていた。だからあらかじめ用意させてもらったぞ遠山」

 

この陣は言うなれば

--魔法陣--

ゲームでよく見るそれに酷似している。

それがさっきのヤタガンで完成したってことか。

と理解した時にフッ--

室内の非常灯が消えた。

周りは俺が先ほど落とした懐中電灯の光以外完全に闇に包まれる。

 

「いやっ!何するの!やめて!」

 

という声が白雪の方から聞こえる。

敵--魔剣が動いている。

 

「白雪!」

 

俺の叫びに、白雪は答えない!

何をしやがった魔剣。

だが、ベルセの俺でも氷に縫い付けられた今となっては動くことができない。

馬鹿みたいに真正面から突っ込んだからだ。

 

「さよならだ、遠山」

 

シャっという次の銃剣が空を切る音。

俺には見える。

あれは俺を仕留める(やいば)

 

「……ッ!」

 

脳裏に閃くのは、銀華とアリアの戦闘で銀華が見せた技。

 

(--!)

 

今俺が動かせるのは上半身だけだ。膝まで氷漬けにされている。だがあれならきっとできる。ヒステリアモードじゃなきゃ間違いなくできないが--

ヒステリア・ベルセの俺よ。お前が馬鹿みたいに突っ込むせいで、こうなったんだ。

1.7倍の能力を発揮できるってんなら--自分の汚名返上ぐらい

 

(これぐらいできろ!)

 

飛んで来た銃剣を俺は

 

「--!」

 

右手の人差し指と中指に挟む。

ちょっと亜種だが、真剣白刃取りの片手版だ。ヒステリアモード、それにアリアの特訓のおかげでできた。

だがそれだけじゃ終わらない。それで掴んだ銃剣の勢いを使い、銀華の絶牢もどきで大きく仰け反る。だが、足は氷漬けにされているので後方宙返りとはならず、ブリッジのような形になる。そしてキンッ!と金属と金属が鳴る音がした次の瞬間、

『秋水』

全体重を拳に乗せ、地面を叩くと…

ピキピキピキピキ

パリンっ!

床の氷含め俺を拘束していた氷も割れた。

 

俺がやったことは簡単だ。銃剣を白刃取りし、それを投げ地面に刺さった他の銃剣に当てる。それが抜けたと同時に自分を拘束していた氷を破壊しただけだ。

1本でも欠けると、この魔法陣が発動しないのはわかる。俺は魔法陣を破壊し拘束を解くプロセスを高速でこなしただけだ。遅いともう一度縫い付けられる可能性があり、早いと秋水の手まで縫いつけれる可能性があったが流石はベルセ。タイミングばっちりだ。

 

「やればできるじゃない」

 

後ろから暗闇を切り裂くようなアニメ声。

ちか、っと部屋の片隅の天井で電気が灯った。その光が

パッパパッ、パパパッ。

体育館並みに広い大倉庫の闇を、純白の光に塗り替えていく。

 

「そこにいるわね『魔剣(デュランダル)』。未成年者略取未遂の容疑で逮捕よ!」

 

俺の横に並んだのは、武偵高セーラー服の

 

「アリア」

 

だった。

 

「ホームズか」

 

そしてまたどこからともなく、姿なき女の声。そして、白雪も消えている。火薬棚の裏に引きずり込まれたらしい。

その火薬棚の微妙な隙間から

シャシャッ、と俺とアリアめがけて一本ずつ銃剣が飛来した。

俺とアリアはぎぎん!

それぞれの刀剣で二本とも撥ねのける。

 

「何本でも投げて来なさい。こんなのバッティングセンターみたいなものだわ」

 

アリアが刀をバットのように構えると、どこかの扉が閉まる音がした。

……しばらくの静寂の後

 

「逃げたわね」

 

アリアがこっちに振り返った後、とてとてと白雪の様子を見に行こうとし

--きゅきゅっ。

とスニーカーを鳴らして急停止。

 

「どうした?」

 

俺がそう問いかけると見えない何かを切った。

 

「ピアノ線。正確にはTNK(ツイストナノケプラー)ワイヤー。あたしの首の高さにあった。まっすぐ走れば、あたしの頸動脈を切れるよう上手く、斜線に張ってある。あらかじめ準備していたようね」

「卑怯な奴め」

 

そう吐きつけるように言いながらアリアと共に、白雪が連れて行かれた方に向かう。

倉庫の壁際には、立ったまま鎖で縛られた白雪と……

 

「銀華ッ!」

 

両手両足を氷漬けにされて十字架のように壁に磔にされ、頭を垂らしている銀華がいた。

 

「おい、銀華!目を開けろ銀華!」

 

ベルセの反射神経で一気に駆け寄り肩を揺する。

外傷はないように見える、脈もある。

……だが、気絶しているのか目を開けない。

まずは氷をなんとかしようとバタフライナイフで、銀華を傷つけないように氷を剥がしていく。氷のせいなのか、白い肌がさらに白く見える。

 

「キンちゃん!銀華さんは生気を抜かれてるの。生気を奪ったり与えたりできるのは、修道女(シスター)か魔女か--巫女だけ」

 

白雪の口を縛っていた布をアリアが外すと、自分のことはさておき、銀華の置かれた状況を説明してくる。

 

「私なら目を覚ましてあげることができる…でもこれじゃあ……」

 

白雪は鎖に繋がれているのだが、その一つ一つの環がハンバーガーのように大きく、鋼鉄のパイプにつながれている。錠前もこれまた大きくドラム錠と呼ばれるもので、3箇所もロックされている。

俺は壁から切り離した銀華をそっと床に置き、アリアと共に一旦武偵手帳から解除キーを取り出し白雪の鎖を解除しにかかる。複雑にできているのかアリアは苦戦しているが……

 

「どけ!アリア」

 

ベルセの俺には何も問題がない。ほんの数秒で鎖を解除していく。

 

「あんたやっぱり、なったのね」

「キンちゃん様……」

 

そのスピードにアリアと白雪の2人が驚く。

そりゃそうだろう。普段の俺ならこんな鍵、何時間掛かっても解除することができないからな。

鎖を乱暴に白雪の体から外した俺は白雪の後頭部を自分の胸に抱き寄せると…

 

「うっ……!?」

 

白雪は俺に抱かれ、身悶えしているが、縛られていたせいでまだ痺れているのか、なされるがままだな。

気をつけろよ白雪。今の俺みたいな男に、こういう乱暴されないように。

 

「白雪」

「キ、キンちゃんっ!?」

 

俺は左手の指で、真っ黒な髪の間から雪のように白い片耳をそっと探り出す。

その耳元で

 

「白雪は銀華を助けることができるのか?」

 

そう小さく呟く。

 

「う、うん。す、直ぐに完全には治せないけど、目を覚まさせるぐらいは…」

「そうか、頼むぞ」

「は、はい!」

 

俺に頼られたのがそれほど嬉しいのか、俺から解放された白雪はにへらといった感じのにやけ顔を晒したが、その後真面目な顔をして銀華に向き合う。

銀華の体の中心、心臓の位置に手を当て、小さく、何か、呪文のようなものを呟いた。

精神を集中させているのだろう。

目には見えない力が、白雪の手から銀華に伝わっていくのがわかる。

そしてそれを続けること10秒。

 

「銀華っ!」

「………キ……ン…ジ?」

 

銀華が目を覚ました。俺はその銀華の体を思わず抱きとめるが、だがその声には覇気が無く、体も冷えきっており、白雪の言うとおり完全には回復していないようだ。

 

「ほ、本当に良かった…銀華…」

 

人前じゃなかったら銀華が目を覚ました安堵で泣いていただろう。それぐらい俺は銀華の氷漬けの姿にショックを受けていた。

 

「………ご、ごめん。私の……せいで、こんな危険なことに……付き合わせて…しまって…」

「謝ることじゃないさ。教務科から調査を依頼されていたんだろ?銀華は自分の仕事を頑張った。それだけさ」

 

言い当てられた銀華と、知らなかったアリアと白雪の3人が目を丸くするが、ヒステリアモードの俺にはわかっていた。銀華が最近忙しかったのは魔剣(デュランダル)の調査をしていたから。俺とアリアがボディーガードの依頼を引き受けてから、銀華は忙しかったしな。(ベルセ)の推理によれば、銀華は今日の誘拐まで推理できていて、自分の推理があってるのか確かめるために1人で魔剣の元へ向かったのだろう。単独行動をした銀華には後で元気になったらお仕置きが必要だな。なんたって銀華は俺のものなんだから。

 

「………もしかして……キンジ、今ベルセ?」

「ああ」

 

俺に抱きしめられた銀華が耳元で小さくそう言ってくるので、そう返す。まあ実際はノルマーレ5割ベルセ5割ってところか。銀華を取り戻した安心感と銀華の()()()()柔らかい部分に触り、ノルマーレも多く出始めている。

なぜ銀華はそんなことを聞いたのか?その答えは顔を少し赤くした銀華の行動で示されることとなった。

 

「……じゃあ」

「っ!?」

「みゃっ!?」

「ひゃっ!?」

 

とある理由により声がでない俺と、驚きの声を出すアリアと白雪。

それもそのはず。銀華が俺にキスしてきてるのだから。銀華のいつもより冷たい唇が俺の唇に触れ、息が交換され、目を閉じると俺の中の血が再び湧き上がる。

銀華の菊のような匂いが俺の鼻腔から肺に入ってきて、再び目を開けた時には俺は…

 

「ありがとう、銀華」

 

ベルセは消え、リゾナになっていた。

 

「……キンジ……頑張って……」

「ああ、お前の気持ちを無駄にはしない」

 

銀華は自分が無力化され戦えないことを理解したから、戦える俺を強化するために俺をリゾナにした。ベルセはリゾナより倍率は高いが攻撃一辺倒になるので諸刃の剣。数的有利が作れているこの状況でその強みを生かせないだろうベルセよりは冷静な判断ができるリゾナの方が優れていると判断したのだろう。

だが、これは……

 

「……え?」

「……銀華さん…?」

 

銀華の()()を俺以外の人に見せる行為だ。現に銀華のHSSを見たアリアと白雪は困惑している。

武偵は同級生やクラスメイトであっても弱点を隠す。なぜなら何でも屋の武偵は、今仲間でも未来は仲間であるとは限らないからだ。俺たちは弱点や自分の武器を隠しながら武偵高に通っているのだ。

だが、銀華は自分の弱点を見せた。

それの意味することは……

 

「2人ともわかってると思うが()()銀華は内緒だ。本当はこの銀華は俺だけのものだけど、お前たちに見せてくれたのはお前たちを信用してのことだ。少し嫉妬するぞ」

「目の前であんな光景見せつけといて嫉妬ってよく言うわね。わかってるわよ。貴族の誇りにかけて言わないわ」

「う、うん。キンちゃんの頼みなら神に誓って言いません!」

 

ヒス俺は女の子2人にそう約束させる。

 

「……3人とも……頑張って……」

 

儚く弱々しく言う銀華のそんな声を聞いて2人は何か言いたげだったが、口からその言葉は発せられることはなかった。

 

 

 

銀華をものを使って隠した後、こっちのカードが全てオープンとなり、相手のカードも幾らかオープンになったところで作戦を決める。

「魔剣は超能力者(ステルス)。これは確定ね」

「うん。国際分類で言えばⅢ種超能力(クラスⅢステルス)、たぶん魔法使い(マッギ)だと思う」

「超能力者は初めてだな」

 

理子は超能力のようなもので髪を動かしていたが、あれは超能力に入るのだろうか?

 

「恐れることはないわ。あたしの経験上、手品師や大道芸人みたいなもんよ。今のあんたなら問題ないわ」

 

直感的に俺がヒステリアモードになっていることを見抜いているアリアはそう言ってくる。

 

「相手の目標(ターゲット)の白雪はどうする?あたしと今のキンジなら魔剣にも勝てるわ」

「相手は魔法使い(マッギ)だよ。私も戦う!」

「勇敢な子だ。だが俺たちは白雪を守らなくてはならない。じゃあどうしようもなくなったら手を貸してくれ。俺とアリアが前衛(フロント)。白雪は後衛(バック)だ」

「うん。でも気をつけて…予想外の攻撃をしてくるかもしれないから…」

 

 

 

 

 

 

 

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