哿と婚約者   作:ホーラ

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第5章スタート。今回プロローグなのもあり、短め+原作多め


第5章:塔の上の吸血鬼(ザ・クリムゾン・プリンセス)
第49話:双剣双銃の帰還


武偵少年法というものが日本にはある。

犯罪を犯した未成年の武偵の情報は公開を禁止するというものだ。

そのプロフィールをやり取りするのは武偵同士でもタブーなこととされ、知ることができるのは一部の司法関係者と被害者のみ。

マスコミにも公開されないため、報道で『A少年』とかされるあれだ。

これが理由でアリアも俺も銀華も、他の人にハイジャックの犯人が理子だと言っていない。

つまり、あれだ。

何が言いたいかというと……

 

「たっだいまぁー!」

 

理子が帰ってきやがった。

いきなり例のヒラヒラ制服で教室に現れた理子に、わあと喜ぶ生徒と驚きの顔をする俺とアリアの2人。

まさか堂々と帰って来るなんて……

 

「今度こそ捕まえてやるわ……」

「やめなさい」

 

スカートから二丁拳銃(ガバメント)を取り出したアリアに対して、1人納得した銀華が珍しくきつい声で制止をかける。

 

「今度はアリアが犯罪者になるよ」

「犯罪者って…なんでよっ!」

 

理子が帰ってきて、盛り上がるクラスの後ろでガゥガゥと銀華に吼えたてるアリア。

 

「簡単な推理だよ。あの事件の犯人の理子があの事件の真相を知っている私たちの下に戻ってきた。理子はああ見えて賢い子だから、予め保険をかけているだろうね」

「何よその保険って!」

「司法取引よ」

 

司法取引。

アメリカでおなじみのこの制度は、犯罪者が犯罪捜査に協力したり、共犯者を告発することで、罪を軽減したり、なかったりすることにできる制度だ。

 

「そんなのウソよ!」

「もしかしたら私の推理が天文学的確率で間違っているかもしれない。でも私たちはここでそれを確かめることはできない」

 

推理に自信を持つ銀華がそういうなら、やめるしかない。もし、理子が本当に司法取引を済ませていた場合、理子を逮捕しようとすると、俺たちには暴行罪・不当強襲・不当逮捕いくつ罪が重なるかわかったもんじゃない。

それはアリアもわかっていたらしく……

ぐぬぬぬぬぬ。

地響きかと思うほどの唸り声をあげつつも、なんとか耐えた。

その理子は

 

「みんな〜、ひさっしぶり!りこりんが帰ってきたよ!」

 

教壇でクラスのアホどもに囲まれていた。周りを囲んでいない奴らも『りこりん!りこりん!』などと大合唱。もうやだ、この学校。

とはいえ…

理子が武偵殺しだと知らないなら、わからんこともない。

理子は外見だけなら美少女だし、あの改造制服も一部の男子からしたら泣いて喜ぶ格好らしい。

理子は、クラスでマスコット的存在。銀華と同じく人気者なのだ。銀華のように優しさやカリスマで人気なのではなく、性格の明るさやおバカキャラで警戒心なく受け入れられている。

俺が理子に気をつけろとクラスメイトに言ったところで、「昼行灯」や「ネクラ」など女子に呼ばれている俺の言うことより、あのお馬鹿な仮面に騙されて理子の方につくだろう。

かくなる手は

 

「銀華、みんなに理子に対して気をつけるよう……」

「嫌」

 

言ってくれと最後まで言う前に拒否される。

 

「む…なんでだよ」

「私、理子のこと好きだもん」

 

そう言って俺たちから目を離し、机に肘を置き、手を顎に当てて理子の方を見る銀華。

よく見ると確かに心なしか銀華の顔は嬉しそうだ。

まったく……どこまでも甘いやつだ

クラスに発言力を持つ銀華が中立ということはつまり、クラスは理子の味方だ。俺とアリアは外堀を着々と埋められているな。

そんなことを考えながらせめてもの抵抗でそっぽを向いていると…

ピロリン

とメールが届く音がした。

携帯を開くと送り主は理子。理子がウインクをしてきたのを見るにクラスメイトに囲まれながら俺に送ってきたらしい。変なところで器用だな本当に。

中身は絵文字に顔文字にギャル文字で暗号文的なメールだったんだが、『放課後、屋上においでよ』的な文章だと一応解読できた。

それだけなら当然罠を警戒していくわけがないが、追伸として『お兄さんのこと、聞きたい?』と書かれていた。

武偵殺しとあだ名された、峰・理子・リュパン4世は、かつて何人もの優秀な武偵を消している。その犠牲者の1人となった兄さんはシージャックで理子に襲われている。

そのことを話すというのか…!理子!

 

 

 

結局、俺は放課後屋上で理子を待っていた。

俺は兄さんのことになると正常な判断ができない。それを全てわかってのメールだったのだろう。やはり油断の出来ないやつだ。

 

「キーくん!来てくれたんだ!」

 

屋上に唯一繋がる階段から来ると思っていたが、ワイヤーを使って俺の後ろから現れた。

 

「早く兄さんのことを教えろ」

「そんなに焦らない焦らない!早い男は嫌われちゃうぞ!ガォー!」

 

何が早いと嫌われるのかよくわからんが、ライオンのような鳴き声をあげる理子。

 

「早速ですがここでキーくんに選択肢でぇーす!」

 

理子は俺と向かい合いながらピースの構えを取る。

 

「キーくんはりこりんの言うことを聞いて、()()()()に参加しますか?『はい』か『いいえ』で選択してね。もし『はい』を選ぶなら契約の後、お兄さんの話をしちゃう。いっぱいしちゃう」

「兄さんを殺ったことについてか…!?」

「--まだ、殺したと思ってる?」

 

くふ、と笑う理子はその場で一回転した。

 

「…どういう意味だ?」

「そのままのイミ。しろろんは推理してるんじゃないの?お兄さんは死んでないって」

 

銀華は推理というよりは、勘だったはずだがそれを律儀に理子に教える必要はない。

 

「推理は推理だ。証拠がない」

「--H、S、S」

 

--ッ!?

俺の背筋に稲妻のような衝撃が走る。

 

「理子は誰も殺してないもーん。だから『武偵殺し』っていうのは間違ってるんだよぉ。正確には『武偵攫い』かなあ?」

 

武偵殺しとあだ名された、峰・理子・リュパン4世は--

過去に何度も優秀な武偵を消している。

その犠牲者の1人、兄さんはシージャックで理子に襲われた。

だが、その場で兄さんが今の言葉『HSS』を口にする可能性は極めて低い。

兄さんは俺と同じようにその言葉を他人には厳重に隠していたのに……

理子は知っていた。

銀華もヒステリアモードをHSSというし、もしかしたら銀華がぽろっと漏らしたかもしれないし、それは兄さんが生きている事とイコールではない。

だが、可能性としては十分な証拠だ。

 

「ねえ…キーくん。いいでしょ?()()()()もいいよね?」

「うーーん。理子の頼みでもなあ……」

 

理子は、実は最初から屋上の死角に居た銀華に話しかける。屁理屈になるが理子のメールには1人で来いという条件はなかったからな。アリアを連れてきたら絶対戦闘になってあれだが、銀華は理子擁護派だったから、連れてきても問題ない人物だ。

 

「キーくんはお兄さんの話を聞きたい。それは理子のお願いを聞いてくれたら叶うんだよ?キーくんの幸せをしろろんは邪魔するの?」

「……」

 

どうする。

理子のお願いとやらを聞けば……

 

(兄さんの話を聞ける……!)

 

ああ、兄さん。

俺の目標であり、恩人であり、しかしあまりに突然姿を消し、俺の人生を180°変えた人。

銀華がいなかったら、兄さんがいなくなったことで俺は今よりももっと塞ぎ込んでしまっていただろう。

ああ--ダメだ。

俺は兄さんのことになると正常な判断ができなくなる。

俺の理解者である銀華もそのことをわかっているが、心配そうに俺を見つめるだけで今回は何も言ってこない。さっきの理子の言葉の影響だろう。

理子。

お前はさすが、怪盗リュパンの血を引く女だよ。

お前は、俺の兄さんへの崇拝にも近い思いと銀華の俺への思いをわかった上で--この選択肢を突きつけたのだろう。

 

(クソ……!)

 

理子のお願いとやらを聞くしかないのか--と思ったその時。

ドドドド。

 

「あたしのドレイを盗むな!!」

 

地響きをあげて階段を登ってきたアリアが屋上に乱入してきた。

 

「あぁんも。アリアが出てくるまで、もうちょっと時間かかると推理してたんだけどなあ」

「泥棒の一族!あたしのモノは盗めないわよ!」

「キンジは私のものなんだけど」

 

おい、銀華。バカ2人に交ざるな。

 

「っていうかぁ…キーくんとしろろんはガチラブなんだから、アリアはぼっちなんだよ!ぼっち!」

「こ、このぉ!!」

 

アリアはじゃきっ。

白銀のガバメントを取り出し理子に向ける。

頭に血が上って何も考えられないみたいだ。完全にさっき話した司法取引がどうとか忘れている。

ちなみにアリアを抑えることができる銀華は理子のガチラブという言葉で照れてそれどころじゃないらしい。

俺の彼女チョロすぎないですかね……

 

「ママに武偵殺しの濡れ衣を着せた件、忘れたとは言わせないわよ!理子!その罪は最高裁で証言しなさい!」「いーよ」

「イヤと言うなら、風穴……って……え?」

 

アリアのセリフの途中で割り込んだ理子の声に紅い瞳をまん丸にした。

 

「証言してあげる」

「ほ…ほんと?」

 

先ほどまでブチギレていたのはなんだったと思えるほど、理子の言葉にアリアは疑うフリをしながらも嬉しさを隠しきれていない。

基本的に人の話を信じやすいやつなんだよな、こいつは。

 

「でもね?条件があるのです!」

「その条件ってなんなのよ」

「理子、理子……アリアとキーくんのせいで、イ・ウーを退学になっちゃったの。しかも負けたからって、ブラドに--理子の宝物を取られちゃったんだよぉ」

 

ぴりっ……

と、周囲の空気が張り詰める。

振り向くと、アリアが--理子の言葉を聞いて目にさっきをみなぎらせていた。

 

「……ブラド。『無限罪のブラド』……!?イ・ウーのナンバー2じゃない…!」

「そーだよ。理子はブラドから宝物を取り返したいの。だから()()()()()()()。理子を助けて」

 

理子の言葉を聞いていたのもあるが、俺とアリアは気づかなかった。

 

「理子のお願いはね。キーくん、アリア。一緒に--」

 

俺たちの後ろで銀華が--

 

「ドロボーやろうよ!」

 

銀華がニヤリと微笑んだことに。

 

 


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