哿と婚約者   作:ホーラ

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注意:視点変更多めです


第50話:本当の姿

俺とアリア、今2人がいるここは秋葉原。

別名、『武偵封じの街』

秋葉原は常に人が闊歩しており、銃が使いにくく、路地が入り組んでいるため犯人の追跡もしづらい。理子のお願いとやらの『大泥棒大作戦』の会議を、なんでか知らんがこの秋葉原でやろうと提案してきたのである。

--ここに来たということはつまり、俺とアリアは理子のお願いを受けた。

俺もアリアも理子が出した条件は無視できなかった。泥棒は法に触れないかという俺の真っ当な疑問はアリア曰く、相手はイ・ウーのナンバー2、無法者だから問題ないらしい。

そんなこんなで俺たちは約束の店に着いたのだが……こんな店初めてでかなり迷った。

 

「いくぞ…」

 

俺は強襲科の頃、ヤクザのアジトに突入した時と同じ気分で、扉の取っ手を掴む。

室内の様子を背伸びしながら覗っていたアリアも、脇にどき緊張の面持ちで頷いた。

がちゃりと扉を開けると……

 

「「ご主人様、お嬢様、おかえりなさいませ!」」

 

ここはいわゆるメイド喫茶。

理子はあろうことかここを待ち合わせ場所に指定してきたのである。

メイド喫茶。

テレビやネットで見たことがあるから知ってはいたが、本当にあるんだな……

というか…突入するより、銀華さんのご機嫌取る方が大変だった……

 

「メイド喫茶行くの?ふーん…?キンジの好みはメイドさん?」

 

という風にヘソを曲げられてしまったからだ。

俺も行きたくないが理子が指定した店だからということを懸命に説得し、事なきをえたが、なんて落ち着かない店なんだ…

室内はピンクと白を基調とした少女趣味バリバリの内装。ウェイトレスさんはやたら胸を強調したメイド服。か、帰りてえ…

横のアリアも落ち着かないようで、髪を触り枝毛を触っている。

そんな落ち着かない俺たち2人の元に--

 

「ごぉっめーん!チコクしちゃた!許してちょんまげ!」

 

いつものゴスロリ制服に身を包んだ理子が走ってやってくる。飛行機のマネなのか羽のように広げた両腕には、ゲームやらフィギュアやらが入った紙袋。

もしかしてそれを買ってたせいで遅れたのか?時間には厳しい銀華が見たら蹴られるぞまったく…

 

「んーと、理子はいつもの!キーくんにはオススメの紅茶、そこのピンクにはももまんでも投げつけといて!」

 

と勝手に注文を済ませてしまう理子。まるで水を得た魚だ。

ああ、なるほど。

秋葉原という、自分のホーム、俺たちにとってアウェイの場所に連れてきて話し合いのイニシアチブを取るって寸法か。

狡猾なやつだよ。理子は全く。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

あたしは秋葉原で行われた『大泥棒大作戦』の会議を終え、家に帰ってきた。

買った荷物を放り投げ、ソファーに身を沈める。会議は上手くいった。あたしのホームの秋葉原にしたこともあったが、常にイニシアチブを取ることもでき、アリアとキンジにメイドと執事になることを認めさせることもできた。

まず第1条件はクリア。

そのことについて安心すると、沸々とブラドへの怒りが湧いて来る。あたしの命の次ぐらいに大切な十字架を奪いやがって……それもあたしが大切にしてるのを分かってて。

そして嫌がらせのように警戒厳重なところに隠すのもタチが悪い。おかげでキンジとアリアの力を借りることになった。まあ条件は出したけど、2人を使って十字架を取り戻した後で、そのまま2人を倒す。条件はあってないようなものだよね。

今回キンジをパーティーに入れたのは、それ以外にも意味がある。それは紅華の存在。

紅華はあたしによくしてくれた。ボロボロになったあたしを路地裏で救ってくれたのも、イ・ウーでの居場所を作ってくれたのも紅華だ。紅華のおかげで今のあたしがあると言ってもいい。

だが……紅華があたしだけに対して特別な境遇与えてくれた訳ではない。紅華は研鑽派のメンツを除き、全てのイ・ウーメンバーと平等に優しく接していた。それはブラドも変わらない。ヤツは基本的に人間のことを遺伝子としか思っていない。そんなブラドにさえ、紅華の対応は変わらない。ヤツが他の人間と違い紅華のことを一目置くようになったのはこの点もあるだろう。

紅華は人によって対応を変えない。

……だが、唯一紅華が対応を変える人がいる。

--それがキンジだ。あたしが今回キンジをパーティーに入れた理由はここにある。

完全無欠といってもいい紅華の弱点。それはキンジにぞっこんなところだ。

キンジがパーティーにいる限り、余程あたしがヘマをしない限り、紅華が相手方、ブラド側につくことはない。あって中立だろう。つまりキンジは人質だ。

卑怯な方法だが、紅華の一番になれなかったあたしはこれぐらいしか紅華が敵につかない方法が思いつかなかった。

 

(ふぅ…)

 

一つ息を吐き呼吸を整える。

思ったより、あたしは緊張しているようだ。

この作戦は失敗できない。

もし仮に失敗したら、お母様からもらった十字架はさらに厳重な場所に移されるだろう。

そしたらあたしは、ホームズより上ということを証明できずに…また、檻の中へ…………

……いや、ネガテイブなことは考えないでおこう。失敗した時のことを考えても無駄だ。

成功させることだけを考えればいい。

 

「成功させるには……っと」

 

この作戦を成功させるには、キンジをHSSにすることが必要だよね。だが、キンジのHSSのトリガーであろう紅華こと銀華の手は、借りることができない。じゃあどうするか?

他の人でHSSになってもらうしかあるまい。

 

(うーん…でも)

 

キンジをHSS化させるには当然、性的興奮が必要。だけどそれを最近依存系ヤンデレヒロインと化してる紅華が許すかどうか。

あたしの見立てでは9割5分の確率で許さないよ。

 

「偶然を装うしかないよね…」

 

あたしはキンジが()()HSSになるように特訓メニューその1を書いたメールをキンジに送った。

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

俺とアリアは理子の『大泥棒大作戦』で、横浜の古い洋館・紅鳴館に、執事とメイドとして潜入捜査(スリップ)をすることになった。

潜入捜査とは、暴力団、企業、ナイトクラブなど捜査対象となる組織に武偵を潜入させて情報を集めて、場合によっては逮捕する捜査手法である。

まあ今回に限っては潜入捜査ではないか。なにせやることが捜査ではなくドロボーなんだからな。

紅鳴館の関係者は主人のブラド・謎の管理人・雇われのハウスキーパー2人。でこのハウスキーパーが休暇を取るらしく……管理人が帰って来るのに加え、臨時の雑用係を2人募集していたそうだ。そこに理子は派遣業者に化け接触、紅鳴館から採用通知を貰っていた。手を回すのが早すぎて、俺もアリアも驚いたぐらいだ。

まあやろうとしていることは何度も言うがドロボーなんだけどな。

で、その前だけど、なんで俺はこんなところに潜入してるんだろうか……

 

「だよねー」「あれはクサい」「でも、なんで再検査なんだろう?」「知らなーい。めんどくさいよね」

 

女子たちの声が、スリット越しに聞こえてくる。

ここは救護科棟1階、第7保健室。

理子は作戦(ドロボー)のために特訓メニューを作ったらしく、その特訓1と称して、放課後ここに来いとメールで指示をしてきたのだ。

で、なんだと来てみたら保健室は誰もいなくて、途方に暮れていたら、廊下から女子たちが何人か喋りつつ入ってきたので、授業で習った抜き足(スニーキング)で奥の物陰に隠れたのだ。

そしたら、いきなり女子たちが制服を脱ぎ始めたのだ。

ヤバイ。

と気付いた時はもう時すでに遅し。

俺の退路はこのでかいロッカーしかなかった、そういうことだ。

 

「…で、なんでお前もいるんだ武藤」

「そいつぁ、聞くだけ無駄な質問だぜキンジ」

 

なぜかロッカーにいた先客は武藤。

入学以来の腐れ縁の男だが、今この時点ではロッカーの中の空間を大きく取る邪魔者以外の何者でもない。

 

「キンジも女子の再検査、覗きに来たんだろ?」

「この状況で言っても信じてもらえないだろうが、一応言っておく。違う」

「ていうか、お前こんなところにいて大丈夫なのかよ?北条さんに見られたら殺されねえか?」

「…………………」

 

もし銀華にバレたら、ベルセが出て来て………

うん…考えないでおこう。

 

「まあ、もし見つかったら2ケツで逃げんべ。外の覗き防止用の茂みに大型バイクを隠してある。まあ北条さんからは結局逃げれんとは思うが…」

 

もし見つかったとしても、再検査に銀華がいなかった場合、銀華の耳に入らなければ問題はない。もし見つかったら、耳に入らないように出来る限りの努力をするしかない。

 

「さーて、本日は……大漁大漁。平賀に峰に…あ、レキもアリアもいるぞ。あっ……北条さん」

 

はい。見つかった瞬間、俺の死が確定しましたね。何としても隠れ続けなければいけない。そんな決意をした瞬間、ぶるるっ。

マナーモードにしていた携帯が震えた。

嫌な予感がしたので見ると、理子からのメールだ。

 

『キーくん。()()女子たちが再検査のところに呼んでごめぇん!でも、キーくん!これはチャンスだよ!しろろん以外にもヒスれそうな女の子がいたら、しろろんに秘密でその子のアイテム、なんでも盗んであげる。もちろん理子でも、おっけー!』

 

デコメ絵文字だらけのメールを解読するとこんな文らしい。

あ、あいつめ……

偶々な訳ねえだろ!ハメやがって……

なんの特訓だよこれは、と変身する前に2通目が来た

 

『あとキーくんがちゃんと見てるか。確認!「10秒以内に理子の下着の色を返信せよ」違った場合、ロッカー大解放の罰ゲームでーす』

 

ま、まずいだろそれは。

ロッカー大解放。これは死刑と変わらない。

なんたってこの部屋には双剣双銃のアリア様と--怒るとそれよりもっと怖い閻魔の銀華様がいるんだからな。

 

「ど、どけ武藤!」

 

俺はよだれを垂らしている武藤(アホ)を押しのけつつ、扉のスリットから外を見る。

見えて来たのは、当然下着の女子、女子、女子。

だが、なめるな。俺はヒステリアモードを天然で誘ってくる銀華の誘惑に何度も耐えてきているんだ。その辺の女子じゃヒスらん。

俺はそう思い込み、理子を必死に探す。

有象無象の女子の中から理子を探すのは大変かと思いきや、意外とわかりやすい位置にいた。わざと体重計に肘をつき、こっちにアピールしている理子の下着の色は--

ハニーゴールド

と、俺は返信画面で待機させておいた携帯に打ち込んで送信する。高そうなランジェリーなんかつけるなよな。チビのくせに。

理子が手に持っていた携帯が光り、メールを見た理子(バカ)がこっちに『OK』って感じでウインクして来たので、安堵のため息をつきつつ、血流をチェックする。

意外といけるもんだな。なってないぞ。乗り切った。この勝負、俺の勝ちだ。

そんなことを考えているとスリットから銀華がチラッと見えた。あいつは下着姿にならずまだ制服のままなので、ヒス的には問題ないのだが…ジト目でこのロッカーを見ていた。

銀華検定5段の俺にはわかる。

あの目は何してんの?と少しイラついている目だ。

ば、バレてる。

こ、これは理子の策略にはまっただけで俺が進んでやったわけじゃなくて、下着姿の女子も理子のせいで見ただけで……

そんな言い訳を考えていると

--がら。

という扉が開く音がした。

 

「誰か来たのか?」

「ああ、講師の小夜鳴だぜ」

 

飽きずにスリットから室内を見ていた武藤が少しイラついた声を返してくる

 

「あいつ、あんな顔して女子に手を出すとか、そういう噂があんだ。あいつの研究室から、フラフラになって出てきた女子生徒がいたとかなんとか」

 

へえー、そんなことするやつなのか。

ということはもしかして、この部屋にいる銀華もその対象に入っているわけで……

すまんが少し観察してもらおう。覗きというわけではなく、銀華を護るためだからな。

 

「ぬ、脱がなくていいんですよ!再検査は採血だけです!メールにもそう書いてあったじゃないですか。はい、服着て」

 

と奥の丸椅子に座りながら苦笑い。

そして窓の外に向かって……

 

(??)

 

何か呟いた。遠くて正確には聞こえなかったが、たぶん日本語じゃなかった。

一方女子たちは右往左往しながら制服を取りにいっていた。常識がぶっ飛んでいる武偵娘でも流石に恥ずかしかったらしい。

……が、動かない女子が2人いる。

もともと服を着ていた銀華と飾りっ気のない下着姿のレキだ。

2人は窓の外へ目を向けている。

武藤のバイクがバレたのか?

そんなことを考えていると、銀華が

ピク。

動いたかと思うと、すごい速度で床を蹴って走ってくる。

こっちに向かって。

 

「お、おおおお!?」

 

武藤が焦った声をあげたかと思うと、銀華はばんっ!

いきなり俺と武藤が詰まっていたロッカーを大解放!

 

「!?」

 

そして伸ばした左右の手で俺と武藤のネクタイを掴み、ロッカーから引っ張り出す。

 

「ま、まて!銀華、謝る!あや!」

 

俺の謝罪(言い訳とも言う)や女子の悲鳴が最後まで言い終わることなく、遮られた。

窓ガラスが割れる音で。

 

「っ!?」

 

ドォンっと爆発のような衝撃がロッカーを襲う。金属が紙細工のようにひしゃげたロッカーが、冗談みたいに吹っ飛ぶ。

銀華が引っ張りだしてくれたおかげで俺たちは助かった。

大柄な武藤はそこまでだったが、勢いよく引っ張っられたせいのもありクルクルと転がる俺と銀華。その回転が止まり、状況確認しようとするが、それができない。

というのも俺の顔は、口を含め下半分が、セーラー服に包まれた大きな胸に押し付けられているからだ。呼吸をするために鼻で息をする俺だが、そのせいで銀華の菊のような銀華の香りを強制的に吸気させられてしまう。

さらにこの、銀華の胸の柔らかさ。制服越しとはいえ、マシュマロのように柔らかいそこに口づけさせられている状態はまるで、前武藤がいっていた『年齢差を考慮せずママ役と赤ちゃん役を演じて行われられるらしい』高尚な大人の遊戯。

だが、銀華の表情は少し赤くなっているものの、警戒心を露わにしている。

 

「……」

 

なるほど。ロッカーを吹っ飛ばした何者かに対抗するために俺をヒステリアモードに変えたんだね。ありがとう。なれたよ。一瞬で。

俺は幸せの谷間から脱出し、ロッカーにのしかかっている何者かに銃を向ける。

 

「嘘だろ…」

 

横で同じく銃を構えていた武藤がそう呟く。目を奪われている。それは俺も同じだった。

なにせ侵入者は、銀色の体毛を持つ、巨大な狼だったのだ。

オオカミ。

犬じゃない。狼だ。動物にはそこまでの知識はないが、強襲科で猛獣について習ったから知っている。

圧倒的殺気。どこか美しさを感じさせる体格。

間違いない。こいつは絶滅危惧種のコーカサスハクギンオオカミだろう。

しかし、なぜこんなところに!?

 

(銀華…)

 

ロッカーから俺たちを救い出してくれなければ俺たちは潰されていた。狼が襲ってくるのを発見し、目標はこのロッカーと推理したのだろう。流石Sランク武偵だ。

 

「お前ら、早く逃げろ!」

 

女子たちにそう叫んだ武藤はドォン!!

天井に向けて、.357マグナム弾を使用できる大砲みたいな拳銃、パイソンで威嚇射撃を行なった。通常、動物は大きな音に弱いが、この狼は全く怯まない。人間が飛び道具を持ったパターンの戦闘は経験慣れしているのだろう。

 

「武藤、跳弾の可能性があるから銃を使うな!」

 

丸腰の女子たちに跳躍した狼に銀華直伝の蹴りをぶちかましながらそう忠告する。

壁際まで吹っ飛んだ狼は今度は俺に跳躍しようとするがなぜか--キュッと方向転換。

壁際で立ちすくんでいた小夜鳴先生を

 

「あっ!」

 

体当たりで吹っ飛ばした。先生は身長計や棚を倒しながら転倒し、狼は自らぶち破った窓から逃げていく。

しくじった。俺は優先順位を誤った。

小夜鳴先生は武偵高の先生だが、非常勤講師。戦闘訓練を受けたことのない一般人だった。同じ丸腰なら女子生徒よりも彼の方が非力だった。

なのにヒステリアモードの俺は、何よりも女子の安全を取ってしまった。

 

「追ってキンジ!先生は私が手当てするから」

 

衛生科も兼ねている銀華にそう言われ、俺は頷き窓の外に向かう。

先生だけじゃない。学園島には学生向けの施設で働く民間人も大勢にいる。あんな猛獣を野放しにしておくわけには行かない。絶対に止めなくては!

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

予定通り、怪我をすることができた私は()()通り、北条銀華に手当てされるために私が間借りしている研究室に2人で入ります。

ガチャンと扉が閉められたこの部屋は密室。

防音はもちろん盗聴対策もばっちり。ここでの会話はどこにも洩れず、私たちだけの秘密だ。肩を北条銀華に貸されてここまできた私ですが、部屋に入ると同時に

 

「やっと貴女と2人で喋ることができますね。私がこの時をいくら待ち望んだか」

「あら。私もよ。お揃いね」

 

ニヤリとお互い笑い、恋人のような会話をするが私と彼女はもちろん恋人ではありません。

 

「お久しぶりです。()()()()()

「あなたの口からプリンセスとか出てくると気持ち悪いんだけど……ねえ、()()()

 

小夜鳴、北条ではなくお互いにイ・ウーでの通り名を口にする。ちなみに私の主人のブラドは紅華かお前呼びなので、一部の自身の信者からの呼び名『プリンセス』は気持ち悪いようですね。

 

「やはり気づかれてましたか」

「うまく人間界に擬態してるようだけど、私から見たらバレバレよ」

「貴女もそこまで上手いとは思いませんけどね」

「さっきの貴方の下手な演技よりはマシ」

 

私的にはそこまで下手な演技ではありませんでしたが、彼女からは合格点は貰えなかったようです。

 

「ちゃんと()()しとかないから、上手くいかないのよ」

「不審な監視者がいれば襲うよう狼たちに教え込んであったのがアダとなりました」

 

今日の採血で一気に優良そうな遺伝子を集める予定でしたのに、失敗したのは少し残念。まあそのお陰でやっと彼女と喋るチャンスができたのですが。

 

「それにしてもビックリしましたよ。プリンセスの貴女がこんなところにいるなんて。採血検査で拝借した血の匂いを嗅いで驚きですよ」

「血の匂いで私と分かられるの少し嫌ね」

 

嫌がるようにちょっとしかめた顔をする彼女。

 

「人間は遺伝子で決まる。私が今まで見た中で一番優秀なのは貴女ですよ。プリンセス」

「はぁ…なんども遺伝子だけでは決まらないって言っているのに…ここは貴方と合わないところね」

「私としてはビックリですよ。優秀な貴方が無能な弱い者を助けるなんて。無能な遺伝子は淘汰されるのが自然の摂理です」

「先天的な遺伝は、確かに人間の能力をある程度決めるけど、でも人間はそれ以上に努力や鍛錬で自分を後天的に高めることができるの」

「努力できるかできないかも遺伝子が決めています。それに優秀な遺伝子を持つ貴女が無能な存在を語るのは御門違いではありませんか?」

「この話は平行線だしやめましょう。こんなことを話すためにあった訳じゃないでしょ?」

 

そうでした。遺伝子の講義をしにきたのではありません。

 

「そうでした。では本題に…貴方も知っているとは思いますが、リュパンと神崎さんと遠山君が十字架を奪い取りにくるそうで。その時に盗みの手際が悪ければ、再び檻に戻そうかと思うんですが」

「貴方と私の契約は別にそのことを禁じたりしてないでしょ」

「貴方とは主人もなるべく戦いたくないようでね。貴方の意思確認が必要なのですよ」

「というか、貴方と私の契約は」

「ええ、『自分の血を差し出す代わりに、しばらくイ・ウーでリュパン4世を自由にさせろ』でしたよね」

「ああ、そうよ。でもこれは理子が知っている部分。これには続きがあって」

「『有能だと証明できたら自由に。無能だとわかったら、再び檻に』。意外に貴女も冷酷ですよね」

「何が?」

「貴女は手を差し伸べて助けることはするが、その後に干渉はしない。助けたものは貴女のこと恩人として熱い眼差しで見るのに、貴女は助けた者に興味がないかのように目もくれない」

「私は医者。助けることはするけどアフターケアまでは対象外だから」

「そういうところですよ…まあ遠山君にはプリンセスもそうはいかないといったところですか?」

「は?」

「おお、怖い怖い。そんな睨まないで。そんな顔をしてたら遠山君に嫌われちゃいますよ?」

「キンジはそんなことで私のこと嫌いになったりしない……たぶん」

 

プイッと横を向く彼女。

 

「ブラドがキンジを殺したら許さないから」

「貴女のお気に入りである遠山君を殺したりはしませんよ。貴女と遠山君の子供の遺伝子を見てみたいですしね。ですが条件があります」

 

そう言うと彼女は顔を再びしかめた。これから私が言うことが推理できているのでしょう。プライドが高い彼女にはきつい任務。

 

「そう、貴女には遠山君や神崎さんと共にメイドとして働いてもらいます。それも紅華の姿で」




まさかの小夜鳴視点と何を考えてるかわからない銀華

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