哿と婚約者   作:ホーラ

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第51話:紅の序章

さて、狼を撃退した俺だが(覗きに関しては銀華にこってりとお説教された)、潜入作戦をやるからにはアリアだけではなく、俺も執事の仕事について学習しておく必要がある。銀華に何気なく聞いて見ると、メイドや執事の仕事に何故か詳しいらしいが、依頼者(理子)の頼みで今回銀華に関わせたくないらしく聞くこともできず、独学で勉強することとなったのだが……

雨だ。

5時ごろ帰宅の途につき、探偵科棟の外に出ると、朝は晴れていたのに雨が降っていた。

…傘持ってねえ……

銀華がいるなら、呼べば車で迎えに来てくれるのだが、あいにく銀華は新しく入ったらしい任務の準備でいない。

大雨ってほどじゃなかったので、バス停まで強行突破しかけたが、運の悪さに定評のある俺。選択教科棟のそばでバケツをひっくり返したかのように大雨になってきたから、ひさしの下で雨宿りすることになった。

 

(どうしよう……)

 

どうしようか考えながら、ボケーと突っ立っていると、背後の音楽室からピアノの音が聞こえてくる。

弾いてるやつやたら上手いな。ピアニストか何かかよ。

あと、この曲なんだっけ。

確か、音楽の授業で……そう!劇的オラトリオ。それをピアノ曲にアレンジしたものだなこれ。

曲名は確か…………『火刑台上のジャンヌダルク』

………うん。

………ものすごく。

………嫌な予感がする。

 

見たくないけど好奇心が勝って、そーっと振り返るとそこには

 

「うっ…!」

 

見てしまったことに後悔する。

俺の声に気づいて演奏するのをやめ顔を上げた、武偵高の臙脂色のセーラー服姿のそいつは

 

(じ、ジャンヌ!?)

 

この前、銀華と白雪を誘拐し、俺たちと戦った『魔剣(デュランダル)』こと、ジャンヌ・ダルク30世だったのである。

俺と目があったジャンヌはすっ、とドアに流し目した。

来い(フォロー・ミー)、ってことだろうな、たぶん。

 

 

拳銃(ベレッタ)の安全装置を外して入った音楽室には、本当にジャンヌがいた。

片手を腰にあて、相変わらずのクールな表情。銀華と似た綺麗な銀髪を頭の上でまとめ、さらに長い後ろ髪も背中に垂らしている。

 

「チッ……司法取引か」

「そういうことだ」

 

口紅を差しただろうローズピンクの唇が、俺を馬鹿にするような笑みを形作る。

 

「とはいえ、捕えられたも同然。取引条件の一つに、ここの学校の生徒になるよう強制されているのだからな。だから、お前が安全装置を外していようと、私に戦う意思はない。今の私は、パリ武偵高から来た留学生。情報科(インフォルマ)2年のジャンヌだ」

 

そういう設定か。

というか同い年かよ。

似たような姿の銀華より大人っぽいから年上かと思ってたんだけど。

 

「それで似合わないセーラー服も着ていると」

「私とて恥ずかしいのだぞ?」

 

本当はよく似合っていたが皮肉も込めてそう言ってやると、ジャンヌは窓ガラスを見て、そこに映る自分の姿に眉を寄せた。

 

「だいたいなんだ、この服は。いくら女性が腿に拳銃を隠すのが時代からの伝統とはいえ--未婚の女性がこんなにみだりに脚を出すものじゃない」

 

と言う割にはしっかり着てるじゃねえか。それに、そう言うならロングスカート穿けばいいだろ。銀華だってそうしてるし。

 

「イ・ウーに制服はないのか?」

 

探るように聞くと、窓を見ていたジャンヌはすっと流し目をするようこっちを見た。

 

「イ・ウーの事を知りたいのか?」

「アリアも理子も教えてくれないんでな」

「ふむ……イ・ウーは国家機密なので知ってるだけで身に危険が及ぶ。私としては、こんな目にあわせたお前に教えて、奈落の外に叩き落としてやりたい。だが、そう全て話すことはできんのだ」

「イ・ウーの誰かに話す事を禁じられているのか?」

「そうではない。イ・ウーは何も禁止されていない。……それはつまり私闘も禁じていないという事だ。話す内容では、私が狙われる」

「狙われても大丈夫だろ。お前強いし」

 

ちょっと皮肉交じりに言うと

 

「無理だ」

 

俺たちを苦しめたジャンヌダルクの末裔ははっきりと横に首を振り、できれば聞きたくなかったセリフの続きを言った。

 

「私はイ・ウーでは最も弱いのでな」

 

は……?

この魔剣・ジャンヌが。

銀華を誘拐しあそこまで追い詰め、俺とアリアと白雪が3人がかりで、勝つことができたジャンヌが…

イ・ウーの中では最弱なのかよ。

なんてことだ。アリアはそんな組織を敵に回してるのか。

ていうか、俺と銀華もそうってことだぞ。それ。

 

「さっきの質問に答えるが、イ・ウーに制服はない。この学校と同じで、教えるものは制服を着ない」

 

そこからかい。

その話はどうでもいいんだが、生真面目なやつだ。

 

「お前、それじゃあ先生だったのか?」

 

理子がこの前、退学になったと言っていた。だから学校のような組織だとは思うのだが…

 

「イ・ウーは全員が教師で、全員が生徒なのだ。才能を神より授かったものたちが集まり、技術を伝え合い、どこまでも強くなる。いずれは、()の領域まで。それがイ・ウーだ」

「何が目的なんだ、お前たちは」

「組織としての目的はない。目的は個人が自由に持つものだ」

 

なるほど。断片的に見えてきたぞ。イ・ウーの正体が。

天才同士がお互いの能力をコピーし合い、超人になる。

そのコンセプトはいい。

だが問題は、理子やジャンヌをみるに、そいつらが法を守る気が一切ない、無法者集団ってことだよな。

 

「お前が理子に作戦術を教え、理子が変声術を教えたのもそれの一環か?」

「そうだ」

「なるほど。無法者同士、仲良くってわけか」

「仲はいいぞ。理子は努力家だからな。私は理子が好きだ」

「努力家?」

「イ・ウーで最も貪欲に力を求め、勤勉に学んでいた一人が、峰・理子・リュパン4世だ。理子は、他の()()()の周りの人間と同じく、必死に努力していた。悲痛なまでにな」

 

 

 

 

 

部活で音楽室を使うそうで、俺とジャンヌは話を中断し、音楽室から出て、ジャンヌと近くのファミレス『ロキシー』に駆け込む。

ジャンヌは性格はともかく、見た目は抜群に美人だ。連れていると目立つ。

似たような銀髪美人の銀華は今準備でいないと言っても、誰かが俺とジャンヌが一緒に歩いてるところを見て、銀華の耳に仮に入ったら……考えるだけでも恐ろしい。

まだジャンヌには銀華は甘くないからな。白雪と銀華が起こした入学式後の大災害みたいな事を引き起こしかねん。

なので、俺はとにかく目立たないように素早くドリンクバーを注文し、ジャンヌにドリンクバーの使い方を教え(使ったことがないらしく、教えるのにも苦戦した)、人気のない席に着いた。

 

「話は戻るが、理子はイ・ウーで何のために強くなろうとしていたんだ?」

 

俺が声を潜めて聞くと、ジャンヌは美しい目を閉じる。

 

「選ばれるためだ」

 

それはどこか、諦めているような声だった。

 

「選ばれる?誰にだ?」

「理子を監禁から解放し、自由を与えた人物にだ」

「監禁だと…?」

「ああ。理子は少女の頃、監禁されて育ったのだ」

 

な……なんだと?

 

「理子が未だに小柄なのは、その頃ロクな食事をすることができなかったからで……衣服に強いこだわりを持つのは、ボロ布しか身に纏うものがなかったからだ」

「冗談だろ?リュパン家は怪盗だが、高名な一族のはずだぞ?」

「お前は知らないだろうが、リュパン家は没落したのだ。理子の両親の死後にな。使用人たちはバラバラになり、財宝は盗まれた」

「リュパン家が没落して…どうなったんだ理子は?」

「その頃幼かった理子は、親戚を名乗る者に養子に取ると騙され、フランスからルーマニアに渡った。そこで監禁されたのだ」

 

まさか。にわかには信じがたい話だ……

そして、似たような話を俺はどこかで聞いたことが……

 

「……マジか。誰に監禁されてたんだ?」

「イ・ウーのナンバー2『無限罪のブラド』」

「……」

「知らない名前ではないだろう。お前たちが潜入しようとしている紅鳴館は、やつの別荘の一つだ」

 

潜入作戦を知ってやがる。理子から聞いたのかもしれん。

 

「とはいえ…理子が監禁された話は、ブラドからわずかに聞いただけで私もよく知らん。しかし、万が一の時のために、ブラド本人については、教えておこう。あいつは危なすぎるからな」

「危ないか…それなら教えておくの俺よりアリアの方がいいんじゃないか?」

「いや、お前の方がいい。アリアに教えたら真正面からブラドを襲い返り討ちに遭って、私にまで反撃の手がおよびかねないからな」

 

アリアに教えると大戦になるだろうが、そこまで力のない俺に教えても問題ないってことか…

信頼されてるなー俺。逆の意味で。

 

「まず、先日ここに現れたコーカサスハクギンオオカミのことだ。まだ調査中だが、私の見解では、ブラドのしもべと見て、間違いない」

「しもべ?」

「飼い犬、ペットのようなものだ」

「つまり、俺たちの動きがブラドにバレてる……?」

「そこまでの確証はない。オオカミは狙撃科の少女に襲われ、ブラドのところに帰れなかったようだし、手下は世界各地にいて、それぞれ、かなり直感頼みの遊撃をするらしいからな」

 

な、なんだそれ。世界中に手下って。

映画に出てきそうな悪役みたいなやつじゃねえか。

 

「詳しいな。ブラドのこと」

「我が一族とブラドは仇敵なのだ。ブラドは私の先祖とも戦い、引き分けている」

「ブラドの先祖とか?」

「いや、ブラド本人だ」

「ちょっ、ちょっと待て。それいつの話だよ」

「1888年。まだエッフェル塔が半分しかできていなかった時だ」

「お、おい。120年生きてる人間ってありえんだろ!」

「奴は人間ではない」

 

きた。

きましたよ。

もう驚かないぞ。

 

「……そっち系の話かよ。で今度はなんだよ。メイジか?ソーサラーか?属性術師(アルケミスト)か?」

 

こいつらと付き合いだしたのが運の尽きだ。

心構えはできていた俺は、ゲームで出てくる用語を適当に羅列する。

 

「うむ、私も日本語でなんと言えばいいのかわからないのだが、強いて言うならば…………オニだ」

 

鬼かよ。

実は心当たりがあるのだ。

少し前に白雪に俺は忠告されていた。

『キンちゃんは狼・鬼・幽霊に会う』と。

その時はありえんと笑っていたが、実際に狼には会った。もしかするともしかするかもしれんな。

 

「ブラドは理子を拘束することに異常に執着していてな。檻から自力で逃亡した理子を追って、イ・ウーに現れたのだ。そしてイ・ウーで連れ返そうとしたブラドから理子を守ったのが--」

「理子を助けた人物というわけか。そして、理子はそのお姫様に感謝して…必要とされる人物になりたかったと……」

「むぅ。その通りだが、なんで理子を助けた人物が女だとお前が知っている?」

「理子から昔話と称して直接聞いたんだよ。思い出したのは今だが」

 

昔話と言っていたが、あれは理子の実体験だったんだな…

 

「そうか、理子にな」

「で、その理子を助けたお姫様は誰だよ」

 

俺がそう聞くと、ジャンヌは話すか話すまいか迷うような顔を見せる。

 

「本当に知りたいのか?」

「ああ」

「これを聞いたら後戻りできなくなるぞ」

「お前倒してしまった時点で後戻りできねーよ」

 

そう言うと、ジャンヌの顔は不機嫌そうな顔になる。俺たちに倒されたことを思い出してるのかもしれないな。そして、そっと一つ息を吐き

 

「…まあ、いいだろう。あいつは裏世界では有名人だしな。理子を助けたのはクレハ・イステル。おそらく世界中で最も強い魔女だ」

 

俺たち3人(+銀華)で倒すのに苦戦した最弱(ジャンヌ)が言う、最強か…

 

「最強だが、ブラドほど危険ではない。もし何かあって仮に戦うことになっても命は見逃してくれるだろう」

「ブラドより弱いと言うことか?」

「違う。ヤツはブラドより強い」

 

ナンバー2より強いって……イ・ウー最強じゃねえか。

 

「相性がいいのもあるらしいがな。ヤツはイ・ウーのドクター、医者なのだ。襲うより助ける方が専門で、イ・ウー内の序列に興味はない。もし、序列に興味があるならブラドはナンバー3だっただろうな」

 

無法者の医者。闇医者ってところか。しかも世界最強の魔女。そんなのが医者やってるイ・ウーはどんだけ力あるんだよまじで。

 

「クレハは敵対しなければ、何もしてこない。仮に敵対しても命までは奪わない。ヤツが命を奪うのは本気で怒った時と悪人を滅ぼす時だけだな」

「悪人って…お前らも無法者の悪者だろ」

「無法者と悪人は違う。クレハが命を奪うのは一般市民を襲うゲリラや海賊、人身売買組織などの武装勢力。その組織を潰すことで得た報酬金はヨーロッパにある孤児院に寄付してるらしい。イギリスやフランスでは彼女のことを密かに英雄と慕ってる人もいるぐらいだ」

「……物騒な英雄もいたもんだぜ」

 

と俺は腕組みする。

イ・ウーの無法者なのに、ベタな言い方すりゃ正義の味方やってんのか。

 

「ああ。イタリアでは彼女はお尋ね者だし、そう思うのも無理はない」

「……じゃあそのクレハ?が出てきた時はどうすればいいんだよ」

「逃げろ。ヤツは危険だ」

「…さっきと言ってることちげえじゃねえか。そんなに危険じゃないんだろ?」

「危険の種類が違うのだ。ブラドは命の危険だが、クレハは違う」

「じゃあなんだよ」

「心の危険だ」

「は?どういうことだよ」

 

心の危険ってなんだよ…映画みたいにメンタルを攻撃され、廃人にされるとかそんなのか?

 

「彼女と関わると心が奪われるのだ」

「精神操作されて操り人形にされるってことか?」

 

医者っていうことは精神にも詳しいと思った俺がそう言うが…

 

「操り人形の部分は否定しないがお前の言う精神操作の部分は違う」

 

どうやら違うらしい。

 

「上手く言えないが心が奪われ、彼女の下につきたくなるのだ。現にイ・ウーには彼女のシンパが多数いる。日本語で言えばカリスマってところか」

「……」

 

身近にもいますよ、周りを虜にする女子が。

俺の婚約者、北条銀華と言うんですけど。

 

「理子もそのシンパの1人だ。逃げろというのはもし万に一つもないと思うが、お前たちがクレハを逮捕してしまうと、信者がなにをしでかすかわからないという怖さもある。お前にクレハのこと教えた私まで危険が及びかねん。だから逃げろ」

「宗教じゃねえか…」

「そうだ。彼女を一言で表すなら…教祖…いや、神なのかもしれない」

 

 

 

 

 

6月13日。いよいよ、潜入作戦開始の日がきた。これから2週間、俺とアリアは横浜の紅鳴館に潜入する。学校を休むことになるのだが、ここは武偵校。『民間の委託業務を通じたチームワーク訓練』などとした書類を教務課に提出したらなんなく通った。さすが武偵校だ。

で、潜入のフォーメーションは予定通り俺とアリア。ミッションは理子の十字架の奪取だ。

朝早くに待ち合わせしたモノレール駅で、アリアと駄弁っていると

 

「キーくん、アリア、ちょりーっす!」

 

理子の声がした。

それに顔を上げた俺は、

 

(--か、カナ!?)

 

時がとまったかのように、立ちすくんだ。

カナ。

いや違う。あれは理子が変装したカナだ。そもそも声が理子だし、身長も違う。

 

「り、理子!なんでその姿なんだよ!」

 

ニセモノで良かったと思う。

あり得ないことだが、本物のカナなら俺はこの金縛りから解き放たれることはなかったからな。

アリアや白雪、理子やレキ、ジャンヌもまたそれぞれに美しいが、カナの美しさは銀華と同ランクだったのだ。

もはや神々しい、崇高な存在だったのだカナは。

 

「理子はブラドに顔が割れてるしさー。防犯カメラか何かに映ってブラドが帰ってきたらまずいでしょ。だから変装したの」

「なんで、よりによってカナなんだよ!」

「カナちゃんが理子の知ってる中で()()()に美人さんだから。それにカナちゃんはしろろんと同じでキーくんの大事な人だもんね。キーくんの好きな人の顔で応援しようと思ったんだけど…怒った?」

「いちいち、ガキのイタズラに目くじらたてるほど子供じゃない。行くぞ」

「ほんとは喜んでるくせに」

 

そう返された俺は何も言えず、誰なのよと聞いてくるアリアを無視して自動改札へ向かった。

横浜に向かう京浜東北線の車内でいろいろ話しかけてくる理子の顔を見るだけで懐かしく、悔しいが幸せな気持ちになってしまった。やっぱり、俺は兄さんのことを忘れられないのだろう。

そんなこんなをしていると、横浜駅に着き、そこからタクシーで紅鳴館に向かう。

紅鳴館は昼なのに薄暗い、鬱蒼とした森の奥にあり……

 

「呪いの館…みたいね……」

 

と呟くアリアの表現が当てはまりすぎる、ホラーゲームに出てきそうな怪しい洋館だった。見取り図からはこのオーラは判断できなかったな。本日だけであることを祈るが、館本体は薄気味悪い霧で包まれている。

 

「初めまして。正午からで面会のご予定をいただいております者です。本日よりこちらで家事のお手伝いをさせていただく、ハウスキーパーを2人連れてまいりました」

 

そう言う理子がちょっと引きつった顔で最初の挨拶をしている。それもそのはず、俺も紅鳴館の管理人を見て思いっきり不安になった。

というのも門の前で出迎えたこの家の『管理人』は

 

「い、いやー。意外なことになりましたね…ははは…」

 

と苦笑いする小夜鳴だったのだ。

びっくりしたという話をしながら案内されたホールのソファーに座った俺はある一つの疑問を覚えた。

 

「小夜鳴先生、この館には管理人の小夜鳴先生しかいないと聞いていましたが、誰か他の人がいるのですか?」

 

屋敷に入った瞬間、気配がしたのだ。こちらを見る人の気配が。だが、この館には理子の事前情報によると管理人の小夜鳴しかいないはずなので、そう質問すると、

 

「そういえば1人のハウスキーパーが帰ってきていたのですよ。ああ、ご心配なさらずに。お二人も雇いますよ。その子と武偵の貴方達じゃ役割が違いますからね」

 

そう小夜鳴が言うと

コンコンと部屋がノックされた。

アリア、幽霊じゃないとわかったんだからそんなビビるな。

 

「お茶をお持ちしました」

「ありがとう、入ってきて」

 

扉の反対側の幼い声に小夜鳴が答え、扉が開く。

 

「なっ…!?」

 

その声を聞き、なぜか理子はその声に心底驚いたようで震えている。いきなりどうした?

と思ったのは一瞬。

俺はこの部屋に入ってきたその子を見た瞬間、動けなくなった。

時が止まるほどの美しさ。カナと同じオーラが扉の()の少女から放たれたからだ。

長い紅の髪を三つ編みにし、こちらを見る真紅の目は視線そのものに引力を持ち、男も女も無関係に人の心を虜にするかのようであった。

その少女は俺たちのように時間が止まることなく、俺達の目の前に紅茶を置いていき、それが終わると…スッと一礼した。

 

「初めまして。リサ・アヴェ・デュ・アンクです。以後お見知り置きを」

 

そう自己紹介する紅の少女から俺たちは目を話すことができなかった。

 

 

 

 

 

 




次は遅くなりそうです…

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