注意:リサ=紅華
「なっ……!?」
あたしは驚きのあまり声が出なかった。開いた口が塞がらないを初めて実体験した感じだ。
小夜鳴がこの家の管理人なのも十分驚いたけど、そんなのもう比較にならない。なぜなら……
「初めまして。リサ・アヴェ・デュ・アンクです。以後お見知り置きを」
なんでここに紅華がいるんだよ……
「おや、どうかしましたか?」
「い、いえ。可愛い娘だなあと思いまして」
紅華を褒める言葉を咄嗟に出す。
動揺してることを小夜鳴に悟られてはいけない。実際に横のキンジとアリアは紅華に見惚れているし、嘘だとはわからないだろう。
「同意見ですね。実はこの前私も初めてお会いしまして。あ、さっきの言葉には語弊がありました。帰ってきたというわけではなくメイドの休暇を聞きつけた主人が別の屋敷からこの屋敷に応援を寄越してくれたんですよ」
「なるほど、そうなんですね」
嘘つけ。
銀華はこの前まで学校に通ってたし、設定が微妙に最初からずれていることから、小夜鳴も紅華がブラドのメイドじゃないことは分かっているという感じがする。
ブラドと小夜鳴は親密に繋がっているのか?
「そのご主人様はいい方ですね。ご主人様はいつ頃お戻りになるのでしょうかね?」
いや、この質問はまずかったか?動揺して、直接的な表現すぎる気がする。
ああ、もう!なんで紅華がメイドとしているの!
「彼は今遠くにおりまして。しばらく、帰ってこないみたいです」
ブラドが作戦中帰ってくる確率は低いってところか。そこは良かった点か。
「ご主人はお忙しい方なのですか?」
「それが実は、お恥ずかしながら、そこまで詳しくは…。私と彼はとても親密なのですが、直接話したことがないものでして」
親密だが話したことがない?一体どういうことだ?だがこれ以上質問するのは危険だ。小夜鳴が不審感を覚えてしまうかもしれない。ここはさっさと立ち去るのが無難だな。
「それでは2人をよろしくお願いします」
「お見送りを。リサ」
「はい」
あたしと紅華は2人で応接間を退室した。カナに変装している
小夜鳴は一般人だからわからないだろうが、確実に紅華はあたしの変装を見抜いている。
ここは偶々2人になれた状況を使って、聞いてみるか?いや逆に何を聞く?
何か下手なことを喋ってブラドの耳にはいったらまずい。ブラド側のメイドとして出てきたからにはブラド側、つまり敵の可能性も十分あり得る。
だが、こちらには
うーん……どうするか……
「どうかいたしましたか?」
「い、いえ…なんでも」
紅華はこちらを見上げてきたが、その目はしどろもどろに慌てるあたしを笑っているような目だった。その目は研鑽派に向ける目と同じで……
あたしはそんな目で紅華に見られるのが嫌で早足で屋敷の玄関に向かった。
「お見送りありがとうございました」
「いえ、これぐらいは。では、
紅華の最後の言葉が紅鳴館から逃げるように出て行くあたしの耳にとてもよく残った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
別働隊の理子が館を去り、俺とアリアは2階に自分たちの部屋をあてがわれた。先ほどリサと名乗ったアリアよりチビな女の子も俺たちと同じく2階に部屋があてがわれているらしい。
「すみませんねえ。この館の古くからのルールで、ハウスキーパーさんは男女共に制服を着ることになっているんです。先ほどリサさんが着ていた服がそうですね。それぞれの居室に色々なサイズの制服が揃えてありますから、合う物を着てください。仕事に関しては、リサさんに聞いてくださいね」
あはは、と男性タレントのような笑顔を見せる小夜鳴。
「で、申し訳ないのですが、私は研究で多忙でして、いつも地下で引きこもっているんです。ですから、あまりお二人と遊ぶ時間は取れないんですよ。すみませんね…」
いや、別に謝る必要はないと思うぞ。
「それじゃあ、早速ですが失礼します。他にわからないことあればリサさんに聞いてください。あと、夕食の時間になったら教えてくださいねー」
そう言い残した小夜鳴は、螺旋階段を降りていき…
ばたん。
扉を閉ざし、地下の研究室に閉じこもる態勢だ。
だだっ広いホールに残された俺とアリアがお互いの顔を見合わせていると…
「「うわっ!?」」
「部屋まで案内します」
いきなり後ろからリサと名乗った少女が現れた。いきなり出てきて、かなり驚いたぞ。
「た、頼む」
というか…俺たち武偵の後ろをとるなんて只者じゃないな。メイドはメイドでもブラドのメイドだから只者じゃないってことか。こいつも要警戒だな。
「こちらが遠山さんのお部屋となっております。神崎さんのお部屋はこの奥です」
「どうも」
「ありがとう」
それぞれ紅の少女、リサにお礼を言い部屋に荷物を運び込む。
まずは普通に働いてこの2人を信用させるという計画通り、小夜鳴の指示に従い制服に着替えることにした。
クローゼットから俺のサイズにぴったりの古めかしい燕尾服を取り出す。
こうやって着て…と。
できた。執事のいっちょあがりだ。
自分で言うのもなんだが…違和感ないなー俺。
元から人を使う立場ではなく、人に使われる立場の方がしっくりくるしな。
姿見の前で自分の姿を整えて部屋を出ると、外でリサが待機していた。
「よくお似合いです」
リサは社交辞令とは言えないぐらい感情が篭った声でそう俺のことを褒めてくる。褒められるのはあまり慣れていないので不覚にも照れてしまう。
「アリ…神崎は?」
「まだ出てきていません」
……ったく、何やってるんだ。
『管理人に怪しまれないように行動はテキパキと』って言ったのはアリアだろうが。
「おい、アリア。早くしろ」
そう俺がノックするが返事がない。どうやら聞こえていないらしい。
「遠山さんはここでお待ちを。私が中の様子を見てきます」
そう言ってリサはアリアの部屋に入っていった。部屋の前で待っていると……
ギャー!
アリアの悲鳴があがった。
「おい、アリア。どうした!?」
俺が慌てて部屋に入るとドアの反対の壁まで全力後退してるアリアと鏡の前で立ち尽くすリサがいた。
「あ、あんたいきなり何すんのよ!」
「肩を叩いただけですが?」
「なんでいきなり肩を叩くのよ!そ、その……幽霊かと思ったじゃない!そんなものいるわけないけど!」
アリアはどうやら部屋に入ってきたリサに肩を叩かれたらしい。まあこの屋敷はブラインドやカーテンが厚手なせいで全体的に薄暗いからビビるのもわからないことはない。
「いえ、お楽しみのようだったので声をかけて邪魔するのは悪いかと」
少しニヤリと笑って言うリサ。あ、この笑み悪い笑みだ。銀華でよく見るからお兄さん知ってるよ。ってか…立ち位置的にアリアは鏡の前で何か楽しんでたのか?
「い、いや!楽しんでないし!メイド服を見て意外といいとか思ってないし!」
「そうですね『まあ、たまにはいいわね。こういう平民の服も……』。そんなこと言ってませんよね?」
「はぁっ!?あんた聞いてたの!?」
「はい、全部」
キャンキャン吠えるアリアと冷静にアリアをいじるリサ。見た目は小5(アリア)と小1〜2(リサ)ぐらいであまり変わらないが、精神年齢が大きく違う。残念ながら低いのはうちのアリアの方でして…すみませんね、いきなり迷惑かけて。
というか、アリアとリサどっちもメイド服似合ってるなあ。どちらもすごく可愛い。鬼武偵のアリアさんも自分で見惚れてしまうのも理解できないこともないぞ。
この2人、どちらも小さくて赤っぽい髪色してるせいで姉妹に見えないこともない。なんかよくにてるし。うん。直感的にというかオーラというものがな…いや、カナにもなんとなく似てるし、銀華にもよく似てるんだよなぁ…変わっているなあこの
それから数日間の生活でわかったことだが、どうやら俺には執事の才能があったらしい。というのも、銀華がいないときは自分で飯作るぐらいはする一人暮らしだし、手先も器用な方だ。学校でも自分で言うのもなんだが、陰でネクラと言われているとおり、陽と言うよりは陰の者だしな。立場的にもしっくりくる。何より気配り精神が鍛えられていたこと。まあ気配りのプロとも言える銀華と、気を配らせるプロとも言えるアリアが近くにいたら鍛えられますわな。
というわけで俺は日々、執事の仕事を
理子が事前に調査してくれていた防犯カメラを避けつつ、館内の防犯設備や小夜鳴、リサの行動パターンをつぶさに観察していく。
あと観察してわかったことだが、リサの家事スキルはほぼ完璧だ。それなりにしか執事の仕事をしてないのはリサが八面六臂の活躍をしているからだ。1人で掃除洗濯や小夜鳴の世話をこなしてしまうし、俺がやることといえば門番と料理ぐらいだ。
どうもリサは料理だけが苦手らしい。俺も料理はそこまで得意じゃないが、小夜鳴は串焼肉しか注文してこなかった。だが、リサはそれすらも炭にしてしまう始末。
まあ他は完璧だし、いつも2人のメイドがいるということはもう片方のメイドがやっていたんだろうな。
あとリサはそこまで運動が得意じゃないことがわかった。バランス感覚が悪いのか結構よく転ぶし、反射神経もあまりよくない。最初俺たちの背後を取ったことから、メイドのふりをしたブラドの戦闘員かと思って警戒していたが、やはりただのメイドのようだ。
そして今は深夜2時。理子との定期連絡の時がきた。こんな時間になったのは、同じ階に寝泊まりしているリサに気づかれないようにだ。リサは見た目通り、あまり遅くまで起きてはいないことは、隣の部屋の俺が確認済み。そして壁が薄いせいで話し声が隣の部屋まで聞こえる、ということはない。だが、やることがやることなので、念には念を入れ、こんな時間に定期連絡をすることにしている。
理子とのやりとりに何を使うかというと、ただの携帯。日本の携帯は極めて複雑な信号変換をしているので、
「ああ、聞こえるか?」
『聞こえるわ。理子、あたしのはどう?」
『うう、2人ともオッケー!それじゃあ報告よろ!』
「やっぱり十字架は地下の金庫にあるようだな。一度小夜鳴が金庫に入るのを見たが…青くてピアスみたいに小さい十字架だよな?棚の上にあったぞ」
『そう!それだよキーくん!』
『だけど、地下には小夜鳴先生。地上にはリサ。侵入しづらいわ。どうするの?』
『だからこその2人チームだよ!キーくん、ク……リサは毎日買い物に出かけるんだよね?』
「ああ」
『それなら超古典的な方法だけど「
潜入した俺たちの情報をもとに、理子がドロボーの作戦を修正していく。
だが、理子の口ぶりはなんとなく成功するとは思っていないような口ぶりだった。
定期連絡が終わったのは3時。明日も執事の仕事あるから早く寝なくてはいけない。だが、俺には日課がある。それは……
「んーと…今日も1日頑張った。キンジ褒めて、か」
そう、銀華とのメールのやり取りだ。
銀華も何か泊まり込みで仕事をしているらしく、大変らしい。俺も泊まり込みで働いているし会うことは難しいので、こうやってメールでやりとりしている。電話もしたいと俺から言ったのだが、あまり声を発せる環境じゃないらしく、おかげで俺は銀華成分が足りない日々だ。というか、どちらかというと普段は銀華が我慢できなくなるはずなんだが…俺が銀華に依存しすぎなんだろうか?
「よく頑張ったな、俺も頑張るからお前も頑張れ」
そう返信した後、俺は眠りについた。
あと3〜4話で終わらせたいなあと思っています