哿と婚約者   作:ホーラ

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今回まで原作通りです




第61話:救出への決意

兄さん。

俺はそう呟き、目を覚ました。

ここはどこだ…?ベッドに横になっていたが、ここは見たことがあるぞ……車輛科の休憩室だ。

 

「キンちゃん?」

 

耳元から聞こえた白雪の声。

体を起こすと、巫女装束姿の白雪が林檎を剥いていた。

 

「白雪…?」

「キンちゃん!桟橋に倒れてるのを見つけたときは本当に心配したんだよ!目が覚めて…本当に…よかったよぉ…」

 

そうか…俺は崩れゆく砂嵐の中で…海に転落したはずなのだが…兄さんが助けてくれたんだ。

兄さんと俺の対決は俺が勝った。兄さんの『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』を『銃弾撃ち(ビリヤード)』の応用技の『鏡撃ち(ミラー)』で防ぎ、兄さんの愛銃のピースメーカー破壊したのだ。

そのことを思い出していると俺の口に

「キンちゃんまずは栄養。食べて食べて!」

リンゴのウサギを詰め込んできた。し、死ぬぅ。

俺は白雪のウサギの大行進を避けるために顔を背け、ハッと我に返る。

壁の時計は午前7時を示している。

アリアが撃たれたのは昨日の18時。もう既に13時間経ってしまっている。兄さんの話が本当ならあと11時間しかない。

急がないと…

しかしどうすればいい。

どこに行けばいい。

 

「アリアは攫われたんだ。でも…どこに!」

「海」

 

俺がガシガシ頭をかいたのを見て白雪が呟いた。

 

「海?」

「アリアがいる場所を占ったの」

「北緯43度19分、東経155度03分の太平洋上。理子がアリアに付けといたGPSも同じことを言ってるよキーくん」

 

いつの間にか現れた理子がノートpcを片手にドアの前に立っていた。

 

「目が覚めたか遠山」

 

その横からはセーラー服姿のジャンヌが松葉杖(デュランダル)をつきながら現れる。

 

「二人から聞いたよ。イ・ウーのパトラっていう超能力者にアリアは攫われたんだよね」

 

深刻そうな白雪の声に頷きながら、理子とジャンヌに問いかけるような目線を向ける。

 

「カナから私たちに連絡があったのだ。遠山、ついて来い(フォロー・ミー)

 

松葉杖のジャンヌに合わせつつ歩き、俺たちは車輌科の階下に降りていく。

 

「イ・ウーでカナは私たちの上役だったのだ。私たちはカナを心の底から敬愛している。どんな協力でもすると伝えたが、カナは3つのことしか喋らなかった。1つ目はアリアがパトラに攫われたこと。2つ目はお前に話したイ・ウーの内容。最後は、お前に自分が破れたこと…」

 

兄さん…

 

「私と理子はイ・ウーから脱離敵対したわけではない。だから話したくはないのだが、もう今更だ。パトラの呪いについて教えておく」

「呪い?」

「これもこれもそう」

 

眼帯をしている理子が眼帯とジャンヌの松葉杖を指差しつついう。

 

「理子はスカラベに呪いをかけられ、右目が見えない。私のこの足もスカラベのせいだった。私としたことが気づくのが遅かった」

 

白雪の説明によるとスカラベはパトラの使い魔らしく、魔力を運び、相手に呪いをかけるらしい。パトラ…スカラベ…ジャッカル男……もしかして

 

「ジャンヌ。もしかして、パトラは…」

「そうだ。奴はクレオパトラの子孫。奴自身はクレオパトラ7世の生まれ変わりと称しているがな」

 

クレオパトラ。

古代エジプトの王女。

リュパン、ジャンヌダルク、ドラキュラときてクレオパトラか。なんでもありじゃねえかもう。

 

「パトラはイ・ウーの厄介者なのだ」

 

エレベーターに乗り込み地下の2階ボタンを押しつつジャンヌがそう言い、俺白雪理子もエレベーターに入る。地下2階は車輌科のドックだ。

 

「厄介者?あいつはお前たち、イ・ウーの仲間じゃないのか?」

「もともとはそうだったよ。ブラドより上のナンバー2だったんだけど、素行が悪すぎて退学になったの」

 

自分も退学になった理子が教えてくれる。

 

「パトラは誇大妄想のケがあって、自分は生まれながらにして覇王(ファラオ)だと思い込んでる。そのパトラを上手く手綱を取ってたのがこの前会ったクレハ・イステル。でも最近のクレハはイ・ウーの席を空けがち。だからパトラはクレハを再びイ・ウーのリーダーにすることでイ・ウーに連れ戻し自分と一緒にいる時間を多くし、なおかつ自分の王国を作るために世界征服しようとしてるんだよ」

「お、おい。世界征服って…そんなことが…」

「いるんだよ。イ・ウーには。パトラの他にも何人か。その人たちは世界征服すると同時にクレハも手に入れたいと思ってるんだよ。それぐらいの力がイ・ウーとクレハにはある」

「遠山。私たちはパトラをイ・ウーのリーダーに置きたくない」

「でも、今のままだとなっちゃうかもしれない」

 

そう二人が言い終わるとエレベーターは車輌科のドックで停止した。

エレベーターホールには、ベンチに体育座りしているレキとその横で伏せている銀狼がいた。俺たちの姿を見たレキは横にあるアタッシュケースを持って立ちあがる。

 

「キンジさんはアリアさんを救出しに行くのですね」

 

なんとなくわかる。皆俺がアリアを助けに行くと思っているらしい。だからどこかへ案内しようとしている。

 

「仲間がやられて黙ってられるかよ」

 

レキの問いに俺は頷いた。

 

「では、これを」

 

レキが持っていたアタッシュケースには俺が強襲科時代使っていたB装備とベレッタキンジモデル。そして兄さんから貰ったバタフライナイフが収められていた。

よかった。これでちゃんと力を発揮できるぞ。

 

「これもキンジさんに」

 

レキが渡して来たのは兄さんがパトラから渡された小さな砂時計。

おそらくこれがアリアの死までの時間を表しているのだろう。

なるほど…。

これは兄さんの挑戦状か。

--やってみろ。

自分を倒した俺に、そういうことなのか兄さん。

 

「お前はこないのかレキ」

 

装備を整えながら尋ねると、レキは首を横に振った。

 

「行けるのは2人。キンジさんと誰かです。相手が超能力者なのと状況を考えると、白雪さんが適任です」

 

どうやら俺が倒れていた間に、アリア救出要員の相談は済ませていたっぽいな。しかし、

 

「行けるのが2人っていうのはどういうことだ?」

「すぐにわかる。こっちだ。装備が終わったらこい」

「キーくんこれ」

 

扉の前で俺に背を向けているジャンヌと俺に向かって何かを差し出す理子。

それはアリア用の防弾制服、それも新しい夏服だ。

成功しろ。絶対に武偵高に連れ戻せという意味だろう。

 

「アリアは理子の獲物なんだから--死なせちゃ、がおーだぞっ」

 

頭に指でツノを作って見せた。

 

 

 

初めて来た車輌科のドックは海水の匂いがする。なぜならここは海から水を引き、小型船舶の整備ができるようになっているからだ。

 

「キンジ!」

 

ある程度進んだところにある第7ブリッジで、油まみれの武藤が頭を上げた。

武藤が整備しているのは白黒に塗装された魚雷かロケットのようなもの。

 

「これはオルクス。私が武偵高への潜入に使ったものだ。元は3人用だが武藤の改造により2人乗りになった。武藤によると170ノット出せるらしい」

「これ作ったやつは天才だな。元は海水気化魚雷(スーパーキャビテーション)だったんだろうなこれ」

「スーパー?なんだそれ」

「詳しい説明をしている余裕はない。簡単に言えば超スピード魚雷から炸薬を下ろし、人間の乗るスペースを作ったものなのだ。オルクスは」

「だがよ。2000kmも走らせるのは燃料積めるだけ積んでも片道分しかないぜ。何かで迎えに行くとは言っても、自力では帰ってこれねえぞ」

 

と俺の方を見た武藤はこの事件の裏事情を知っているようだった、

 

「武藤。聞いたのか?俺たちの」

「お前、ほんっと鈍感だな。俺たちが何も知らないとでも思ったのか?お前、それに北条さんを見たらわかるんだよ。お前があぶねえ橋を渡って来たってぐらい」

 

バカにすんなと、小突いて来た武藤の後ろ、潜航艇のハッチから

 

「みんな薄々気づいてたよ。武偵だもん。でもね、危ない橋の一つや二つみんな渡ってるからね。武偵憲章4条--武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事。だよね?だから僕たちは陰からしか心配することしかできなかった。僕はやっと手伝える時が来て嬉しいんだよ、遠山君」

 

武藤の手伝いをしてたらしい不知火がイケメンスマイルを俺に向けてくる。

お前ら…何も聞かず、手を貸してくれたんだな。

 

「ありがとう…」

 

俺はそれだけを言った。

みんなの思いに応えてみせる。

俺は絶対アリアを救ってみせる!

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

「紅華君、もうすぐだよ」

 

私はその声を聞いて、部屋を出る。

通路にコツコツと鳴り響く、私の足音。

それ以外の音はない。

 

「どうやら覚悟は決まったようだね」

「ええ」

 

私の心を読んでくる父さん。

私の気持ちは固まっている。

 

「さあ、行こうか」

 

私と父さんは艦橋に向かう。

 

(キンジ……)

 

私はその気持ちをしまいこむ。

何せ私は…

 

イ・ウーの紅華なのだから。




ちなみにパトラ戦はカットです(無慈悲)
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