「ふああ……」
銀華に朝の挨拶を終えた俺は洗面所で顔を洗って眠気を吹っ飛ばす。今日は日曜日で世間的には休日だが、俺の
身だしなみを整えつつ、防弾服に着替えてからリビングに入ると、先ほどまで朝ごはんを食べていた二人の娘たちはリビングのソファーでテレビを見ていた。
「おはよう、お父さん」
そう言ってきたのは銀華譲りの銀色の髪の長女、
……だが、美銀はめちゃめちゃ強い。俺と銀華の子なのもあるが近接戦闘に絶大なセンスを持ち、ヒステリアモードなしでも俺や銀華の技を使うことができるぐらいだ。このまま成長してったらどうなることやら…
その横でウトウトしているのは黒髪の次女、
……だが、この子も俺と銀華の子というだけあって普通の子じゃない。
「おはよう、美銀、亜金」
そんな可愛くも末恐ろしい娘に朝の挨拶を返しながらリビングと繋がっているダイニングの席に座る。そこには銀華特製の朝ごはんが用意してあった。もちろん和食の。
「今日少し起きるの遅かったんじゃない?」
「たしかに、何か長い夢を見たような気がしてな」
「?」
「なんでもない」
手を合わせいただきますといい。朝ごはんをかき込む。武偵の頃からの名残で食事を素早く済ませた俺はナイフやら銃などを持ち慌てて家を出て行こうとすると…
「うぐっ…!」
銀華に後ろから襟首を掴まれて息が詰まった。
「な、なんだよ」
「もう、ネクタイ曲がってるから!こっち向いて」
銀華と対面するように回転させられた俺は俺の防弾スーツのネクタイやシワを直されるのを待つ。
何年もその姿を見ているはずなのに、その姿は昔から変わってなくて、とても綺麗で……
「ん?私の顔を見てどうしたの?もしかして……」
ニヤリと小悪魔のように笑う銀華。この笑みは俺をからかう時の顔だ。
「私が可愛くて見惚れちゃったとか?」
俺に長年可愛い可愛いと言われた銀華は自分の可愛さを自覚したらしく時折こういうことを言ってくる。
「そうだな。お前は世界一可愛いよ」
ヒステリアモード時の俺がいいそうな言葉を少し借りて、逆にからかってやると…
かああああああ。
昔のアリアばりの急速赤面術。
顔を耳まで真っ赤の茹でタコみたいになって俺の胸で俯いた。
「いってくる」
胸の前にいる銀華に頭を撫でてやりながらそう伝えると…
チュッ
「いってらっしゃい、気をつけて」
慣例のキスなのにどこか懐かしい気がするのはなんだろうな。
家の門から出たところでところでした気配を感じ取った俺が横に振り向くと、横には平均台に立つようにして、1人の少女が直立不動の姿勢で立っていた。彼女がその肩にかけているのは、ドラグノフ、が入ったトランク。
ドラグノフは細身・軽量で耐久性に優れる、戦場での使用を考えられ設計された実践的な狙撃銃。
「レキ」
その名を呼ぶ。
今は武偵局に勤めており、昔からの仲間のレキだ。俺とレキは勤める場所は違うのだが今日はたまたま同じ任務を受けることになった。
「おはようございます、キンジさん」
昔はこの気配のなさによく驚かされたもんだが、慣れると意外とわかるもんだな。
「…どうかされました?」
「いや、お前も昔と変わったなって…」
「そんなことないです」
「そういうところだよ、そういうところ」
少し頬を膨らませるような
「もしそう見えるなら、私を変えてくれたのは…」
「キンジさんたちですから」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
イ・ウーでの戦いなどがあった波乱の夏休みの最終日。
「呼び出しといて、何してたんだよ」
屋上のフェンスの上に座っていた、俺をここに呼び出したレキに対してそう問いかける。
「読んでました」
「読んでた?何を?」
「本ではありません」
「じゃあ、なんだよ」
レキの不可解な言葉に質問する。
「風を」
風。
レキが時折口にする言葉だ。
俺にはその意味がわからないが銀華は推理できているらしい。だが俺には教えてくれないので、俺には不可解な単語のまま。
「…呼び出しといて、高いところから人を見下しながら話すのは良くないぞ」
海風でレキのスカートが揺れたのを確認した俺は、不慮の事故を防止するためにそういい、再びチラッとフェンスの上を見ると、レキはもうそこにはいなかった。
「……!」
振り返った俺は、息を呑んだ。
いつのまにか--レキが俺の背後、すぐそばに立っていたのだ。
「風が狂い始めてる」
レキの独り言。
「なんだって?」
レキは電波系だ。レキの目はどこか遠い虚空を見るようなムード。背筋に何か寒いものを感じるぜ。
「そして風は興味を持っている」
「何にだよ」
「風以外の二人、その二人と心通わせ制御している少女に」
風以外の
「キンジさん」
ガラス細工のような目。
その視線に俺は本能的に意識をレキに集中させてしまう。
この目。
まるで、捕食者が獲物を見るような--
「あなたはアリアさんと決して一緒になってはならない」
「なっ……」
なんだ。
どういうことだ。レキ。
「アリアさんに手を出すということは、銀華さんでは満足できない様子。それなら、これからは私が、あなたの仕事仲間、パートナーになります」
「お、おい……」
何を言って……
「あなたは強くなった」
録音されたラジカセのように、抑揚のない声で語ってくる。
「イ・ウーぐらいの敵なら、それでも十分だったことでしょう。実際、
こいつ、知っているのか。
イ・ウーも。
あっちの俺も。
「でも、ここからの敵はそうはいかない。単純な力比べでは斃せない。やり方次第であなたは簡単に殺されてしまう」
これからの敵だって?
聞き逃すことができないその言葉に--
俺が反応する前にレキは言葉を続けた。
「例えば
そう言い放ったレキの胸ポケットから取り出された銃弾は…….
「--
その言葉にレキは何も答えない。
弾頭と輝き方が通常のそれとは違うこの狙撃弾は、シャーロックがカナを撃ったのと同じ、装甲貫通弾だろう。
「今から私がそれを教えます」
流れるような手さばきでドラグノフの弾倉に--ぱちん、と必殺の弾丸を込めたレキ。
俺はその前で何もできずにいた。今の俺はヒステリアモードの俺じゃない。イ・ウーを倒したからって油断していた。
そう。これは人生のパターンのようなものなんだよな。新たな事件を解決しても、また新たな事件が現れる。白雪も理子もそうだったのに、銀華、紅華の時だけないなんてないよな。
まあレキが次だとは思わなかったけど。
「キンジさん」
「……なんだ」
「私と結婚して下さい」
……は?
あまりに意外すぎる言葉に俺の口から声にならない言葉が漏れる。
「レキ…聞き間違いだとは思うが、今何を…?」
「あなたにプロポーズしたのです」
「ま、待ってくれレキ。俺には銀華がいるんだ。お前の条件は飲めない」
「銀華さんとの関係をそのままに私を第二夫人としてくれるだけで問題ないです」
レキの放った言葉に「一夫多妻制」「正室と側室」のような単語が脳内でヒットした。
「お、落ち着け…この国では一夫多妻制は採用されていないし…それにそれは人に銃を向けて話すことじゃないだろ」
ドラグノフの銃口にビビり一歩引いた俺に
「逃げられませんよ」
たじろぐ俺を射抜くような双眸で見つめたレキは
「もし断るというなら」
この日、この時から始まる大事件の始まりのゴングを鳴らしたのだった。
アリアのお株を奪う、あのセリフで
「風穴を開けます」
こんな感じにのんびりやっていきたいと思います