哿と婚約者   作:ホーラ

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第6話:光の中へ

本当はレキが目覚めるまで警護してやりたがったが、まもなく神崎かなえさんの裁判が再開される。それに備え、俺たちイ・ウーと戦ったメンツは近々弁護士との事前打ち合わせをする可能性が不確定ながらもそれぞれあった。

紅華はかなえさんの件についての話し合いはもう少しあとらしいので、その日の夕方、レキの看護は紅華と風雪達に任せ、俺は東海道新幹線・のぞみ、東京行きに乗った。

 

「16号15列D・E、あっここ。一番前だよキンちゃん。一番前だよキンちゃん!キンちゃんは通路側が好きだったよね。はい、こっちの券どうぞ」

 

レキが心配で言葉少なな俺を励まそうとしてくれているらしい。いつも他人に気配りを忘れない、いいやつだ、白雪は。

 

「白雪、ありがとうな」

「えっ、いいの。私新幹線乗るの初めてだし、景色見たかったから、窓側が良かったの。逆に私こそ……キンちゃんのお供じゃなかったら車で移動だったから…ありがとうございますっ」

 

俺に礼を一言言われただけで、白雪は赤くなってパタパタ手を振っている。

努めて明るく振る舞おうとしてくれた白雪が急に素にもどったのでフッと小さく笑うとーー白雪がわぁーと言う表情をした。

 

「あぁ、至近距離でキンちゃん笑いしてくれたよぉ…」

 

心の声らしき声を漏らしつつ白雪は理子語でいう『なにかとても萌えた顔』をしている。きゃーって感じに。

……あーー、これ。銀華のいう『キンジ笑い』というやつか。「不意にされたらHSSになるから禁止!」と理不尽に怒られたのでしないようにしていたが、気が抜けて出ちまったようだ。

何故か俺の笑いは困ったことに本当に極、極、一部の女性を興奮させるらしい。勝手に興奮しないでほしい。

 

など考えながら俺は動き始めた新幹線の中で座席をリクライニングさせた。

一息つくと、一連の事件があったのもあり眠くなってきた。

 

………

…………

……………

 

「お休みのところ失礼します」

 

いけね。車掌さんがきた。

いつのまにかマジ寝してしまったらしい。

乗車券を見せようとした俺だが、何故か制服の下に油汗をかいた車掌さんは頭上の荷物ラックと座席下を素早くチェックしてそそくさと去って行った。

検札にしにきたわけではないらしい。

何か探しているような手つきだったが…まあいいか。

ふと隣を見ると白雪も姿勢を正しくしたまま眠っている。深く眠っているのか、車掌が来ても目覚めなかったらしい。無理もない。俺は星伽で寝てたが、白雪は夜通しでレキや俺の番をしていたわけだからな

 

 

「ふふ…かわいいねえ。目元はキンちゃんにそっくり。鼻は銀華さんにそっくり……」

 

何か夢を見ているようだ。

 

「キンちゃん………次は私の番だね………」

 

何が次なのかわからないが深く考えないでおこう。想像するだに恐ろしい。

まだ頭がぼんやりするし、顔でも洗ってくるか。

自動ドアをくぐり16号車の先頭、運転室の手前にある洗面室に入ろうとするが…

あれ、扉が開かない。

溶接したみたいにびくともしない。

トイレではないので中は覗けるが、誰もいないのに何故か開かない。なんで?

開かないなら仕方ない。後ろの車両にある洗面室を使うしかないので俺は15号車に向かって歩く。

チェスをやってる客や、不快なイビキをかいてる大男の武藤剛気などがいたが、16号車の最後尾には何故か2人がけの席をターンさせてこっちに席を向けているシートがあった。その上部には赤いツノーー正確には赤いツノのような髪飾りの先端が飛び出て見えている。

 

(アリア…!)

 

アリアだぞあれ。

その隣に金髪見えるし…あれは理子だ。

 

「アリ…」

 

レキのことを伝えようとして踏み出した俺の腕をぐいっ。

 

「ーー?」

 

アリア・理子の一つ手前の席から誰かが掴み強引に空席に座らせてきた。見ると俺を掴んだその手はーー不知火亮だ。

イケメンの不知火は口の前に人差し指を立てて『静かに』のジェスチャー。

左右の目をパチパチさせてマバタキ信号を送ってきた。

解読すると『面白い話をしてる 聞こう』…?

『はなせ 俺はアリアに話がある』

『話は後でもできるよ』

『離せ』

『いいから いいから』

 

一応空気を読んでマバタキ信号で押し問答してると、3人がけの席から武偵高の女子3人がこっちを見ていた。

「キンジが…!?」「男に…!?」「北条さんもいるのにっ!?」

ま、マズイ。この体勢を見たら腕を組んで無言で見つめあってるようにしか見えん。

不知火が男とはいえ、なんか余計なこと銀華に言われたら、どうなるかわからん…!

『わかった 5分待ってやる 手を離せ』

と不知火に伝え、なんとか腕を解いてもらえた。

しかし聞けってなんだよ…

 

「これはあたしの友だちの話なんだけどね。ほら、あたし恋愛話わかんないから、あんたならわかるかなー……って思ってね」

「なんでも聞きたまえ!理子はラブロマンスの人間ウィキペディアだ!」

 

…恋愛?ロマンス?

別に俺的にはあんまり得意じゃない話だぞ。

 

「あたしの友達……その、……えっと仮にAさんと呼ぶわ。そのAさんはある男子……まあこれはK君。K君とまあ一緒に行動してたのよ、何ヶ月も。それでわかったんだけど、Kはやる気はないけど、やればできる男子だったのよ。それでAさんはKと協力関係になって喧嘩友達みたいになってたの。そうしているうちにAさんはK君を『欲しい』と感じるようになっていったというか…その……」

「ふむふむ。異性に対しての独占欲が正式にお付き合いする前に芽生えてきてしまったと、そういう症状ですな。くふふ」

 

先生気取りの理子は楽しそうだ。

こういう話が好きなんだろうな、心底。

 

「でもK君には彼女がいるの。それは……えっとSさんとするわ」

「あるよねー、彼女持ちの男好きになっちゃうとか」

「……でも、AさんはKへのその気持ちを仕舞い込んだの。KにはSさんがいるから。でも、そうなった時にK君は別の女子に近づかれたの。Rさんっていう女の子ね。性格も能力もAさんやSさんとはまた違うタイプの…優秀な子よ。」

 

なんか登場人物が増えてきたな。Aさん、K君、Sさん、そしてRさんか。

まあ、どうでもいいから早くおわんないかな。

 

「その後RさんはKと一緒に行動するようになって、でもSさんはそれを認めてて…」

「ふむふむ、Sさんは私が一番だったらいいってそんな感じ?」

「そうでもないはずなんだけど……それならAさんも我慢する必要なかったって感じで」

「もしかしてK君は女好き?」

「女ったらしよ!」

 

というアリアは怒ってるような口調だ。実際に見なくても鬼の表情が思い浮かぶ。関係ないのに背筋が凍るぜ。

 

「普段はダメ人間なのに、女の子の前では一瞬かっこよくなるってか、すごく…こう胸が苦しくなるってか…その後そのことばかりグルグル考えちゃうような…変なことをたまにいうの。Sさんがいるからそういうこと考えちゃダメなのはわかってるけど、いきなり触ってきたりもするし、ほんとびっくりする。そういうのが上手すぎて、こっちは何にもできなくなって、されるがままになっちゃって……そこから何されても抵抗できないっていうか……頭がぼーっとなっちゃう…なにか…ヘン。そう、ヘンになるのーーーってえっとそう、Aさんが言ってたわ」

 

へー、そんな悪い男がいるのか。うちの学校に。魔性の男だなそいつは。

 

「その…Aさんはどうしたらいいと思う?」

「理子りんにそれ聞く?そんなの一手に決まってるでしょ!SさんとRさんからK君を盗むんだよ!」

「はいいい?」

「Sさんは多分K君との関係が上手くいってるから油断してる。Rさんも二番手に甘んじてる。そういうときこそがチャンスなんだよ。攻めて、攻めて、攻めまくれば、落ちない男はいないよ。女と畳は新しい方がいいって日本の諺にもあるぐらいだし、くふふ」

「あ、あんたの話ちょっと生々しいわ…」

「Aさんが攻めて攻めて攻めまくれば、女好きのキー…Kくんはアリアの方に靡くかも。そうすればKくんは告白どころかーーそれ以上の行為に出るかもねえ……!」

「そ、それ以上いけない!」

 

アリア、声でけえよ。

電車内は公共の場なんだから大声を出すな。

 

「そ、それtoo much!だ、、だってtoo early for me,for I'm just 17 at that time!こっほっ、ほら!急に来られたらhow,how,how,how'd I…Iっ!」

 

アリアが謎言語を発し始めたので俺は馬鹿らしくなってきて……

 

『くだらんもういいだろ』

『遠山くん 頑張ってね』

『何を頑張るんだ』

『それでこそ 遠山くんだ』

 

不知火は苦笑いし俺を解放してくれた

なんだったんだよ。結局。

と俺が口をへの字に曲げて立ちあがろうとした瞬間。

グッーー

と電車が前に引っ張られるように揺れた。

わずかな速度だけ、急加速したような揺れだったな。

あれ、とつぶやいた不知火が見る窓の外で名古屋駅のホームは流れている。

名古屋は基本的に全ての新幹線停まるはずだぞ?

何かおかしい。

 

『乗客の皆様に お伝えしやがります』

 

ーー!

 

『この列車はどの駅にも停まりません 東京までまで ノンストップで 参りやがります アハハハハハハハ 列車は 3分おきに 10キロずつ 加速しないといけません さもないとドカーン! 大爆発! しやがります アハハハハハハハ』

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

「……?」

 

私は目が覚めた。

私が寝かされていたのは和風の家屋。

体を動かした限り、どうやら障害が残るほどの大怪我は残らなかったようだ。

 

「…お。ようやくお目覚めね。おはようレキさん」

「……」

 

私の枕元にいたのはハイマキと銀華さんのもう一つの姿、紅華・ホームズ・イステル。風が興味を持つ少女。

 

「体がだるいとかない?ごめんね…完全に治しきれなくて」

「いえ、戦闘には何も問題ありません」

 

私とおそらくハイマキもほぼ死にかけだったはずだが、包帯も巻かないでいられるのは目の前の少女のおかげだろう。

謝罪と共に渡された私の防弾制服に、着せられていた寝巻きを脱ぎ着替える。

私を治療してくれたらしい女医に感謝を述べ、ドラグノフを背負い、2人で救護殿と呼ばれる場所を出ると、

 

ーー風が騒ぎ始めていることに気づく。

風だけではなく私がいるこの館自体が慌てている。

 

「レキ様……!お体良くなったようでなりよりです……それより北条様、お耳に入れたいことが…」

 

私が起きて歩いていることにびっくりする巫女の少女。私から隠れるように2人で喋ってるのを読唇してみるに名を『風雪』というらしい。

 

『それで風雪さんどうしたの…?』

『白雪お姉様と遠山様が東京に帰るために乗った新幹線がジャックされているとニュースでやっております…!早く助けに行かないと!』

特急電車乗っ取り(エクスプレス・ジャック)…!一応推理してたけどまさか本当になるとは…キンジが絡むと推理してもあってるかあってないからわからないから厄介すぎる…』

 

キンジさんを守らないと。

 

「すぐに救出に行きます。私を列車まで連れて行ってください」

 

近づいて2人にそういうと風雪さんは驚いたような表情をした。

 

「どうしてそのことを…?」

「レキさんは視力が6.0あるからね。聞こえないように遠くに離れても読唇術されるからあんまり意味ないよ」

 

どうやら、わざと私に情報を流していたらしい。

 

「…現在星伽が保有するヘリ・OH-1(ニンジャ)はガレージにありますが追いつけるかどうかは……」

 

ヘリで追うといっても相手は先に動いてる新幹線。不利を背負ってる

 

「確かにトンネルが多い静岡県に入ってしまったらヘリの墜落の可能性もある。Many go out for wool and come home shorn(ミイラ取りがミイラになる).ヘリで行くのは賢い案ではないのかもしれない」

「あなたには助けに行く方法があるのではないですか」

 

……!?

紅の少女は大きな目をまんまるにして驚愕しているようだ。

 

「ーー風が言っています。あなたには助けに行くことができる力があると」

 

そういうと彼女は少し考えーー何か含んだ笑いをして、こちらを向いた。

 

「今すぐに行くことはできるよ。でも私は昨日この力を使ってしまったのでね。本当は一昼夜回復がかかるし危険は伴うけど今無理やり使うこともできるーーーーただ行くことができるのは1()()()()

 

やはり彼女は持っているらしい。この状況を打開できる技を。

そして私の目の前に金色の粒子が生じた。

その光が風に揉まれる金粉のように空間を行き来し始める。

飛び交う光の粒は2つ、4つ、8つーー128、256と倍々に増えていく。

瞬く間に私と彼女の間に金色の光の球体を作り出す。その大きさはちょうど人1人分の大きさだ。

 

「私1人で行こうかと思ってたけど、推理ではレキさんでもいいみたい。でも一つ聞きたいことがある」

「それは何ですか」

「レキさんはどうしてキンジを助けたいの?」

 

………風に命じられたから

 

「それは風に命じられたから?風に命じられたら、私やアリア、悪人でも守るの?」

「ーー私は一発の銃弾。銃弾は人の心を持たない。故に何も考えない」

「違う。あなたは銃弾なんかじゃない。あなたが自分で銃弾って言うなら、それなら私は銃弾なあなたにキンジを助けることを任せられない」

「……」

 

……私は、何も考えない。

 

「違うでしょ。レキさん、あなたは『風に命じられたから』ではなく、『キンジだから』助けたいんじゃないの?」

「私は…」

「あなたは昨日の山岳戦で風に命じられるままーー戦死を覚悟した。でもあの時、『死にたくない』と思ったから、今生きてる、違う?」

 

……

 

「あなたは自分に感情を芽生えさせてくれたキンジを助けたい、違う?」

 

…………違わない。

 

「……はい、私は………私の意思で『大切な人』のキンジさんを助けたいです」

 

私がそう答えると、彼女・『紅華さん』は、今日一番の笑顔になって…

 

「はい合格!じゃあ光の中に入って!」

 

そう言われて私が光の球に入ると、まるで光る雲の中にいるようで周りが見えない。

 

「私の『()・大切な人』のキンジを助けてきてね」

 

むっ。

周りの音が遠ざかり、周囲の光の色が、赤、青、黄色や緑、白光など……色とりどりに変わっていく。そして……

ゴウッーーーーー

私の背中が風圧に突き飛ばされる。

目を開けてみるに私は新幹線の屋根の上に立っていた。

振り返ると『大切な人』と背の低い女が戦っている。

私はドラグノフを構える。

 

「私は………」

 

 

「ここは暗闇の中…一筋の光の道があるーー光の外には何も見えず、何もない。私はーー」

 

 

「光の中を駆ける者」

 




風雪「それは視界外瞬間移動…!?」
紅華「ニコッ(どうしようどうしようどうしよう)」



レキの二つ目の詩好きなのにあんまり出てこなくて残念
新幹線での戦闘はカット予定(出番がほとんどなくてココは泣いてます)
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