哿と婚約者   作:ホーラ

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視界内瞬間移動(イマジナリージャンプ)より陽位相跳躍(フェルミオンリープ)の方がかっこいい


第7話:次に進むために

特急列車乗っ取り(エクスプレス・ジャック)を解決した俺たちは、夜武偵高に帰るとーー

重傷者がいないことを確認した教務科はすぐさま俺たちを学科ごとに分け調書を取り始めた。ひどい。酷すぎる。少しは休ませてくれよ。

アリアは蘭豹と校長室に。俺と理子は探偵科、武藤は車輌科でそれぞれの先生と面談し…後で警視庁・マスコミ・JRへの連絡をするとのことだった。

新幹線を切ったりした(切らせたともいう)ので怒られると思ったが、その辺は犯人逮捕の功績と差し引きされてお咎めなし。どころか、俺たちは事件を解決に導いた功労者達、ということにされるらしい。

ココたちが新幹線を乗っ取ったのは日本政府を脅して、金をぶんどろうとしていたせい、ということで武偵高の問題にもされていないようだ。

あれこれ話がうますぎると思っていたが

 

「遠山くん、司法取引の話が来る前に言っておくけど、自分たちが狙われたことは内緒よ。とっても偉い人に怒られちゃうからね」

 

という探偵科の先生・高天原ゆとり先生の話と調書をとりにきた黒服の男の姿をみて、なんとなく推理できた。

見るに黒服の男はおそらく外務省の官僚。それも事務次官クラスだ。

おそらく…アリアのおかげ。

原則として武偵はどんな事件にまきこまれても自己責任。だが、アリアは外国の貴族だ。日本国内で堂々と危険に晒された、っていう事実は隠しといた方が日英関係にとって良いのだろう。大人の事情ってやつだな。

 

口止め料のつもりか「君には政府から見舞金を出す」との厚意を丁重にお断りし、すっかり遅くなって解放された俺は…

久々に男子寮の自室へ戻ってきた。

部屋は誰もいない。

今まで一緒に行動してきたレキは事件の後、忽然と姿を消した。

レキはもう風の声は聞こえない。自分の意志で自分自身が新しい風のように自由に歩き始めているんだ。

狙撃拘禁されていた俺が目論んだ『リマ症候群』、その逆に『ストックホルム症候群』というものがある。拘禁された人間が、拘禁した人間に共感しすっかり味方になってしまう現象だ。

たぶんそれに俺はなってる。嵌めるつもりが嵌められたってわけだ。そんな意図は向こうにはないだろうけど。

 

 

ドタバタ騒ぎの9月だったが、神様も俺に同情したのか、修学旅行Ⅰの後に来た連休を丸ごと休養に当てることができた。

…いや、休みの序盤をだ。

昼過ぎ起きると固定電話の留守電に『今日の夜帰ります。私の家で事情聴取』とだけ留守電を残した銀華からの電話が残されていた。

…………

銀華の『事情聴取』とは、つまり『尋問』である。

俺は新幹線ジャックでアリアでヒステリアモードを発動している。銀華さんはそこにお怒りなのかもしれない。発動しなければ無事生き残れなかったのは事実なので、そこに焦点を当てて誤魔化すしかない。

神はやっぱり俺のことが嫌いなようだ。

 

その日の夜、俺は女子寮の銀華の部屋を訪れた。

インターホンを鳴らすと……シャンシャンシャン…

室内から小さいシンバルを鳴らしてるような音が聞こえてきたぞ?なんだ?

ーーガチャ!開いたドアから俺たちを迎えたのは、

 

「キ・ン・ジーっ!」

 

満面の笑みで両腕を広げた、紅の瞳と髪を持つ

 

「く、紅華っ…!?」

 

ちっちゃな体でピョーンと飛びついてきた。

びっくりしたが、所詮小2ぐらいの背丈なので余裕にキャッチ。うわ、軽。

俺たちの足元には小さな木の人形達が音楽隊みたいにミニシンバルを鳴らして歓迎ムード。

ナニコレ。

 

「キンジ、キンジィ…」

 

ロリータ服を着た紅華はほっそい両手を俺の首にかけながら、俺の胸で頬擦り。とっても幸せそうだ。

紅華は相変わらず可愛い。変な意味じゃなく、心を癒す子供の愛らしさがある。髪の匂いはヒス的に強烈だけど。

それにしても…紅華さん。あなた、若干ヒスってませんか…?

 

この部屋に来るまでの恐怖とは違う、何か別の恐怖と謎の音楽隊と共にダイニングに来た俺は、少し前までここで一緒に暮らしていたレキがいないのを寂しく思うが、『座って座ってー』と甘える紅華に勧められ、大人しく席に着く。

俺を座らせた紅華は昔の超然とした姿ではなく、普通の小学生のようなオーラだ。その紅華が作ってくれた料理は、豆のスープ、ハーブオイルをかけた魚の蒸し焼き、ジャーマンポテト等(エジプト出身らしいパトラやドイツ出身の友達に教えてもらったらしい)海外の料理は目新しいものばかりだったが、とても新鮮で美味しかった。

聞いてみるに、紅華状態でも背が小さくてやりにくいだけで、料理はできるらしい。紅鳴館でできないふりをしていただけだとか。あと紅華だと和食は作れなく洋食の料理しか上手く作れないそう。どういう体の作りなんですか変身する方々達は。

まあ…俺は敵としてや緊急事態ではなく、普通に紅華と気軽に2人で会話をするのが初めてなのもあって、それがなんだか嬉しかった。

 

「その姿だと、何かと不便だろ。皿洗いぐらいするぞ」

「ううん。後でするから大丈夫」

 

飯を食べ終わり、ソファーに移動した俺たちだが…片付けを手伝うようなこと言っても、紅華のこっちをみる目はずっと俺に釘付けでずっとニコニコしてる。俺のことなんて見慣れてるはずなのに。そうだ、機嫌がいい今がチャンスだ…!

 

「あ、あとすまん。アリアでヒステリアモードになって」

「…ううん。緊急事態だし仕方ないよ。レキさんの件も花丸だし、最近のキンジはすごくかっこいい!」

 

紅華はそんなこと言いながら、うっとりと幸せそうに俺を見つめている。

普段の銀華だったら『お仕置きが必要』とか言って脚でぐりぐりしてきたりするのに…もしかして紅華だとベルセになりにくいのかもしれない。

これは俺の安全衛生上の良い発見だぞ。

そして、紅華は銀華でもあるので、行動を共にした時の感覚が他人のそれではない。

俺は通常、女子と一緒にいると喋るのも億劫なほど気疲れするが、紅華はそれを感じない。銀華と同じだ。まあ…銀華のベルセに対しては気疲れするのだが。

 

「あとレキに対してはこの家に泊めたり、緊急時にはヒステリアモードになるの認めたり、お前甘かったよな。ここまで甘いのは珍しいと思ったんだけどなんでだ?」

「う、うん。ええっとね…理由は二つあるんだけど…一つ目はレキさんちょっと私狙いなところもあって申し訳ないかなあって思ったからね」

 

…まあその線は大いにある。

実はココも俺を戦闘員に欲しがっていたのと同時に、俺を餌に銀華/紅華を釣ろうとしていた。婚約者なのもあるだろうが、イ・ウーで俺が倒したことで、絶対無敵だと思われていた紅華の弱点が俺だということがばれたのかもしれん。

レキの故郷、ウルス族も俺を含め銀華/紅華を欲しがっていたってことか。

 

「二つ目は、『弱きを助け強きを挫く』、それが私の意志。以前のレキさんは風の奴隷だったから…救ってあげたかったんだよね。ああいう子はなんか……危なくてほっておけないでしょ?だからああいう子は条理を無視するキンジが特効かなって」

「俺が条理を無視するみたいなことはさておき…実際リマ症候群狙っていたのにストックホルム症候群でレキの味方になっちまったからな。お前の推理は当たってるぞ」

 

俺の言葉を聞いた紅華は苦笑い。この反応をみるにどうやらレキがどうなるかまでは推理できていなかったらしい。

 

「まあ、解決したから良かったよ。それはさておき…」

「……?」

「……今度は私は今ものすごい弱点を2個抱えているの。でもキンジが()()()()くれたら解決するんだけど、どう?」

 

そう言いつつ、俺の腕を紅華のちびっこい両手でロック、逃しませんよのポーズだ。

まあ、見た目通り小学生程度の力なのでいつでも逃げれるのだが、そんなことしたら次は荊で拘束されかねん。ここは大人しくするのが一番だ。

 

「…で、どうかな?」

「やります、やります。協力するよ」

 

俺がそういうと紅華はどこか安心したと同時にどこか覚悟を決めてるムードもある。どういうこと?

 

「ありがとう…まず問題点から話すね。1つ目は銀華の時、意図してベルセが使えなくなったってこと」

「…本当か!?」

 

銀華はベルセをある程度コントロールして自分の能力を高めて戦っていた。戦闘力で言えば、

 

ヒス俺>ベルセ銀華>銀華=アリア>>>>>普通の俺

 

みたいな感じだろう。確かにそれは銀華にとって緊急事態ではある。

 

「推理してみるにこれはイ・ウーの一件を通して、私・銀華の中でキンジのことを深く愛してることが確立されたかららしい。信頼していて、だから嫉妬しない。つまり、キンジと銀華の関係が上手くいってることの現れだね」

「まあ…それならそれでいいんじゃないか?」

 

銀華が自発的にベルセになれないのは戦力的にはダウンだが、HSSを持つ俺たちが一緒にいるうちにいずれこうなっていくものなのだろう。

 

「2つ目は………」

「……ん……?」

 

いきなり言い淀んだ紅華を訝しげにみると、顔をカーっと、髪と同じように真っ赤に変えていく。

そして意を決して

 

「2つ目は…最近、今の紅華()でキンジを見るとものすごくカッコよく見えて…すぐHSSになっちゃいそうになること。今も若干なってる……」

 

とか言ってきたんですけど…!?

つ、つまり俺の顔を見るだけで性的興奮してるってこと…?

 

「し、銀華の時はそんなことないんだけど…紅華だとキンジの年上感が強くてそれが、わ、私の被虐性欲・マゾヒズムにどうやら刺さるみたい。推理してわかった」

 

自分の性癖を自分で推理する名探偵様だが、俺もHSSの仕様上理解はできる。 

女版HSSの通常は弱くなるHSS。男に子孫を残す行為をしてもらうためのHSSだ。男心をくすぐり守りたくなるような女になってしまうため、北条家の代々の性癖もそれに伴って進化していったのだろう。ご迷惑なことにな。

 

「…………で、俺に何させたいんだよお前は…?」

「この二つを、一気に解決できる方法、それは『ショック療法』だよ!」

 

ちょっと意味は違うけど…とその後に紅華は呟いたがその言葉に嫌な予感しかしない……。

 

「…今からキンジは私・紅華を……お、女扱いする。私はそれでキンジに慣れる。それで紅華時にキンジを見るだけでHSSになっちゃう問題はたぶん解決。銀華時にベルセになれない理由もそ、そういうことをした紅華に嫉妬すればいいからね。名付けて『自分自身との戦い(myself cheating)』私の新しい必殺技だよ」

 

ぎゃー、とんでもないことを言い始めたんですけど!?そ、それってつまり、今ここでヒステリアモードに俺もなれってことだろ…!?紅華で…!?

 

「な、なな、なんか必殺技みたいに言ってるけども!それ俺しか殺さないぞ!」

「わ、私も恥ずかしいんだからもう!……それともこのちっこい私じゃHSSになれない?」

「……そ、そんなことはないが」

 

俺のその言葉にパァっと花が咲いたような笑顔になる。どうやら自分で興奮してくれるのがとても嬉しいらしい。

その顔を見てーーードクッ

ちょっと俺もヒスリかけてるし!

で、でもいいのか?こんな小さい子でヒステリアモードになって!?

 

「北条家の女は『遠山家の男を自在に返對させてこそ一人前』、遠山家の男は『戦う前に自在に返對してこそ一人前』、っていうのをおばあちゃんから前聞いたの。だからキンジも今私でHSSになって、その私との思い出で危ない時HSSになって…」

 

…………言わんとしてることはわかる………戦闘になった時ヒステリアモードになってるかどうかは生死に関わる。でも、毎回トリガーになる人物が近くにいるとは限らない。そういうことを思い出すことでヒステリアモードになる技が、どうやら遠山家にあるということを俺のばあちゃんから聞いていたらしい。

そのストックを自分で作れと言っているのだ、紅華は。

 

「…キンジはイ・ウーで紅華()を認めてくれたから。銀華(あっち)だけじゃなくて紅華()も。だから……私も愛して欲しい」

 

近くから俺を可愛く見上げてくる紅華は、この世のものとは思えない可愛さで…俺は……

 

「君はこの世の何よりも美しい。その美しさを誰も認めないことはできないよ」

 

いつの間にか完全にヒスっていた。

…俺の言葉を聞いた紅華は目を見開いて驚いた後、ウルっと征服欲を掻き立てる顔になって

 

「……これは合理的なことなの。遠山家と北条家は双方が許した時に限られはしたけど、HSSになる練習にお互いの母、姉、妹を使うことが過去にもよくあったらしいの……だから婚約者同士でこういうことをするのは普通………だから……して…」

 

 

☆★☆

 

 

思い出すだけでしばらくヒスるのに困らなさそうな体験をした俺だが…目下の問題はチーム編成だ。最悪、銀華と2人で組めばいいやと思っていたのだが、どうやら銀華と組むことは『お上の意向』でできないと高天原先生から言われた。

どうやら、かなりの数の国から俺と銀華が組まないようにという意見書が来たらしい。

理由は簡単、俺が銀華(紅華)を籠絡してイ・ウーを崩壊させたことが、どこの国も記憶に新しいからだ。もちろん紅華も裏世界ではとても有名人。何を起こすかわからない俺たちを、仕事の面だけでも縛ろうということだろう。

これを先生に言われた後、「潰す…」と小さく呟いていたのだが、本当に小国ぐらいなら潰しかねないので聞かなかったことにした。本当に潰すなよ…?

レキが申請したレキ・俺・銀華の3人チームもその理由により否認されたとのことで、俺はどこのチームに入る予定もない、宙ぶらりんの状態になってる。

こういう生徒は結構多いので、『直前申請』という救済措置がある。この直前申請ではメンバーの名前を書いて提出した後、集合写真を撮ってもらえば「承認」「登録」となる駆け込み型、悪く言えば手抜き式のチーム登録システムだ。

その締め切りももう1週間後に迫っている。

流石に焦りを感じていた俺はアリアに『どうするんだ?』と尋ねると 

 

「チーム編成についてはちょっと待ちなさい」

 

待機とのご指示を頂いた。

 

「待てっていうけど何か計画でもあるのか?」

「ふーんだ。キンジはこの前生意気な口利いたから教えてあげなーい」

 

どうやら修学旅行(キャラバン)Ⅰの前に俺が『チーム編成なんてどうでもいい』と言ったことを根に持ってるらしい。

あれは俺も悪かったが、身長も性格もガキだなあー。アリアは。

というわけで締め切りの最終週に差し掛かってもーー俺は無所属のままだ。

直前申請の後も無所属の生徒は教務科が勝手に決めた相手とチームを組まされることになるんだが…まあ最悪それでもいい。どうせ武偵高(ここ)はやめるし。

などと腹を括っていたら

「キンちゃん、ごめんね。ギリギリまで言えなくて」

「キー、キー、キーくん来い♪こっちの水は甘ーいぞ♪」

 

などと白雪と歌いながら理子が現れた。どちらも黒服姿だ。どちらも服だけじゃなく髪を結ぶリボンまでちゃんと黒にしてある。まさに上から下まで黒ずくめだな。2人とも。

 

「チームの直前申請か。お前たち行くのか?」

「そーだよ!キーくんも行こ!」

「俺も……?」

「あのね、言いづらかったんだけど……私、自分の先行きを占ったらキンちゃんとチームを組めるって出てたから、誰ともチーム申請出してなかったの。そしたら修学旅行Ⅰの後でアリアから、みんなでチームを組む話をもらってね……」

 

白雪は持ってきた風呂敷を開くとそこには黒いスーツが入っていた。

これはーー俺用の、防弾制服・黒。

 

「理子りんとアリアも2人でチーム登録してだんだけど、解散させたんだよ。アリアが改めて構想した、理想のチームをキーくんたちと組むためにね」

 

という理子は、ペラ、と直前申請用紙を見せてくる

 

チーム名『バスカービル』

 

メンバー

○神崎・H・アリア(強襲科)

◎遠山キンジ(探偵科)

・星伽白雪(超能力捜査研究科)

・峰理子(探偵科)

・レキ(狙撃科)

・北条銀華(探偵科)

 

と6人(1人は消されてるが)の名前が書いてあった。

これがアリアの構成したチームーー

リーダーを示す二重丸が俺に、副リーダーを示す丸印がアリアに付けられていることはさておき、

 

「おい、これ」

 

と俺は、レキの名前を指した。

直前申請に限らず全員揃って教師に写真を撮ってもらう。

そうやって、各メンバーが合意できていることを見せて示すのだ。

しかし……東京駅で姿をくらましたレキはまだ失踪したままでいると思っていたのだが…

 

「うん、キンちゃんは銀華さんとレキさんと組んで武偵活動がしたかったんだよね。銀華さんはちょっと残念だったから仕方ないけど…レキさんとは今日連絡ついたから、キンちゃんを呼びにきたの。『キンジを入れるなら、レキも入れる。そうしないとキンジの意志に反したチーム編成になるから』って」

 

アリア…

そういう人間関係に関する繊細さは女性的なんだな。他はあんな男まさりなのに。

 

「アリア、もう撮影会場にいるってさ。レキュももうすぐ来るみたい。さあ、着替えて着替えてっ!キーくんの生着替えショーだ!きゃっは!」

 

と黒いスーツを手に立ち尽くしていた俺のベルトに理子が手をかけてきたので、振り払いつつーー防弾制服・黒を手に着替えに行くことになった。半ば、なし崩し的にな。

 

俺の部屋は元々4人部屋なので個室代わりになる小部屋が幾つかある。その一つに入り鏡を前に着替えているとーーーかしゃ。

天井の方からケータイのカメラ音が聞こえてきた。

 

「キーくん無防備すぎー。今のがピストルだったら風穴だぞー」

 

見上げれば、天井板のパネルが一つはずされている。

そこから理子が逆さ吊りの体勢で上半身を出しつつ、めっちゃ女子っぽいケータイをヒラヒラさせていた。

 

「女が男の着替えなんか撮るな。俺はやらんが逆だろ普通」

 

理子の奇行は止めるだけ無駄だ。無視して黒ネクタイを結びながら鏡に向き直る。

 

「キーくんの日常フォトは、ゆきちゃんに高く売れるからねぇ。将来プレ値でしろろんにも売るんだ。くししししし」

売るなそんなもん。

ていうか買うな白雪も。

銀華も買いそうだし、どうなってるんだ俺の周りの女子は。

 

「ところで……いいのか、理子は」

 

一応ーー頭上の理子に尋ねておく。鏡の方を見たままで。

 

「お前、俺とアリアを殺りたいんだろ。チーム組んだら闘いづらくなるぞ。喧嘩ぐらいならともかく、本気でやり合うのは御法度だ。特にチーム内でやり合ったなら重罪になるぜ」

「ハッ、ここにいる女は無法者だぞ。このトリ頭め」

 

理子はーー急に鋭い声になって逆さ吊りののまま俺を嘲笑う。

 

「あたしがお前たちと一緒に行動してるのは他の奴らに殺られないためだ。お前らときたら何回も死にかけて、見ちゃいられない。もうすぐ宣戦会議(バンディーレ)があるだろうしな。これからのために、アリアとキンジは十分育つまであたしが近くにいてやるよ。そしてさくらんぼが熟れたらーー改めて紅華をかけて勝負だ」

「これから……バン……なんだって?」

 

何やら不穏なことを口走った理子の方を見ると、天井はもう元通りになっていた。

俺は不気味な空気を打ち消すように「フン」と鼻を鳴らし黒服姿で部屋を出た。

 

今年のチーム編成の写真撮影会場は探偵科の屋上だった。

白雪・理子と3人でそこに着くと、思ったより多くの生徒が黒服姿で集まっている。

うちもそうだが、結構みんな最後の方までもつれ込んだな。

まあ武偵のチームっていうお互いの命を預け合うものだ。そう易々、手軽に決めれるもんじゃない。

曇り空の下、屋上を見渡すと、20〜30人ほどいる生徒がごった返す中に…アリアの姿もあった。

特注品と思われるちびっこ用の防弾制服・黒でーージャケット下にはチューブトップしか付けてないらしく、風でちらちらとヘソが見え隠れしている。

 

「おい、アリア。そんなヘソ見せてるとカミナリ様にヘソ取られるぞ」

 

撮影の様子を無言で見つめていたアリアに、そう声をかけるとーー

 

「キンジ」

 

振り返ったアリアは「?」という顔をして自分のヘソと曇り空を交互に見た後、眉を思いっきり寄せ、俺たち3人のところに歩いてくる。

 

「相変わらず、あんたはおかしいこと言うわね。撮るのはおへそじゃなくて写真でしょ」

 

どうやら海外育ちのアリアは雷神が人のヘソを取るって伝承を知らないらしい。

アリアは雷が大の苦手だからな。今度説明して思いっきり怖がらせてやろう。

 

「レキは?」

「まだ来てない……あんた来てくれたって事はいいの?あたしたちとその………チームを組む事」

「いいも何も、お前が申請用紙書いたんだろ。俺の名前。しかもリーダーで」

「あ、あたしは…あたしとレキの事であんたがどこのチームにも入れなくなる事態は避けたかったのよ。銀華とあんたも組めなくなったし、レキから横取りし返したとか、そういうんじゃ……ないわ」

 

少し強引に事を進めた事を恥じているのか、アリアは口ごもる。

今日日珍しいフイルム式のカメラを持って撮影係をしている蘭豹のところに理子と白雪の2人は申請用紙を提出しに行ったので…俺は少し背をかがめて小声で囁く。

 

「アリアちょっと耳かせ」

「……?何よ」

 

アリアは背伸びしてちっちゃい左耳を俺に向ける。

 

「理子ーーあいつは危険だぞ。敵か味方かわからない」

「わかってるわよそんぐらい。理子とはまあいつか、決闘する事になるでしょうね」

「寝首をかかれるかもしれないぞ」

「そういう事をする子じゃないわ。プライド高いのよ、ああ見えて」

 

自分のプライドの高さを見なかったことにして、アリアは理子の背中を横目で見た。

 

「まあ、万一あたしが闇討ちにあったら、あんたがしっかりやっつけなさい」

「この俺じゃ、理子を倒すのは荷が重いけどな…ていうか、なんで俺がリーダーなんだよ」

「あれは戦略上、戦闘陣形でキンジを隊長に配置するからよ。名目上のリーダーね。命令はあたしが下すから任せなさい」

 

別に勝手に命令するくせに。

だがそれを言うと拳銃が出る。まあもういいか。リーダーの件は。

 

「あとチーム名。えっと、あの乗り物みたいな名前……どういう意味の言葉だ?」

「あれはあたしの持ってる土地の名前よ」

 

サラッと言ったアリアに俺は目を丸くする。

と、土地持ってんのかよ。女子高生のくせに。

 

「まあ…荒地だけどね。ホームズの戦勝地相続しただけ。あたしの力で手に入れたものじゃないわ」

 

アリアは気恥ずかしそうに俺から目を逸らした。

そのセリフで思い出したが……バスカービル。その単語、探偵科の教科書にあったな。初代シャーロックホームズが解決した土地をホームズ一家が買収して、バスカービルと名付けたとか。

今はそこはアリアの持ち物らしい。

(やっぱりこいつは貴族様なんだな)

と俺が首を振った動作で動いた視界の端に、白い何かがチラッと見えた。

屋上に据えられた2mはある、空調設備のその陰に、白い尻尾のような何かが。

 

「……!」

 

俺は駆け出す。

 

「キンジ!?」

 

と背中にかけられた声を無視して空調設備の方に走る。角を曲がるように空調設備の横に出ると、そこにはやはりーー銀狼、ハイマキがいた。もちろん、そしてその飼い主も。

男子っぽいスーツ型の防弾制服・黒が似合う、ショートカットの小柄な女子。

設備の壁に背をつけ、無表情無口で立っていたのは

 

「レキ……!」

 

後ろから俺を追っていたアリアが、彼女の名を呼ぶ。

 

「……」

 

名前を呼ばれても無反応なレキだが、傷はほぼ完治しているらしい。4kgはあるドラグノフも普通に肩にかけてるし。

 

「レキさん!怪我治ったようでよかった…!みんなすっごい探したんだよ?どこに行ってたの?もう…」

 

理子と共にかけてきた白雪は下の子を問いただすようなムードでレキに問いかける。

 

「ーーハイマキと合流しに京都に行ってました」

「えっ」

 

白雪の反応を見るにどうやら星伽の分社には行ってないみたいだ。神社の近くまで行ったレキに気づいたハイマキは神社からそのまま脱走したってところか。

 

「それから東京に帰ってきて、携帯電話を買い直した時に、アリアさんからの連絡が入ったのでここにきました」

 

(なんにせよ、レキは…来たんだ。ここに。もう『風』の声が聞こえなくても)

そう。自分の意志で。

レキとしては前だったらありえないことだった。成長してるな。

ーー歓迎するよ。ようこそ。レキ。

 

「……」

 

アリアは連絡した張本人のくせに黙っていた。

何モジモジしてるんだよ。

大喧嘩した末にチームを組むわけだから気まずいのはわかるけどさ。

仕方ない…ここは俺が取り持ってやるか。

モジモジしてるアリアと無口なレキじゃ話が進まないだろうし。

 

「レキ。お前このチームでいいんだな?アリアが勝手に作ったチームだけど」

 

アリアの代わりに聞いてやると、レキはーー

こくり。頷いた。

 

「じゃあアリアも何か言いたいことがあるなら言え。チームに入って欲しいんだろ。ツンケンするな」

「ち、チームには狙撃手が必要だからよ。だから呼んだだけだもん!」

 

こ、この強情なアリア…俺が説得したら逆効果みたいだぞ。

と、むずがる子供に俺が手を焼いているとーー助け舟を出すように

 

「とかなんとか言っちゃってぇー。なんだかんだアリアはレキが好きなんだよねー?」

「アリア、ほら、ちゃんと言葉で言ったほうがいいよ。傍から見てると可哀想なくらいレキさんのことばっかり気にしてたんだから……………」

 

左右から白雪と理子が援護してくれた。

アリアは2人を見て、俺を見て、レキを見て、ぶわあああああ。いつもの高速赤面術を見せる。

 

「ち、違うわよ!あたしはこんな子、こんな…」

 

と言いながら、わなわなと震える手をレキに伸ばし、一歩二歩レキに歩み寄り…

 

「…レキ」

 

抱きしめた。

 

「レキ…レキ、心配したのよ!急にいなくなっちゃうから…!」

 

感情を露わにするアリアと無表情のレキ。

それを理子はニヤニヤと白雪は2人のお姉さんの顔つきで見る。

よかった…やっぱり女同士を仲直りさせるには女の手助けが必要だぜ。

 

「新幹線ではアリアさん。ありがとうございました」

 

ーーありがとうーー

レキの口からそんな言葉が出るとは。俺が覚えてる限りないぞ。

無口なやつだからそんなに気にならなかったが、レキから当たり前の言葉が出てくるのは気持ちいい。

やっぱり変わったんだな。

あまりにも正直に感謝されたアリアは

 

「レキ…あたしもありがとう、あの時のこと。それと来てくれて…ありがとう。絶交は取り消しよ。また復交?再交?えっと…また交わりましょう」

 

赤くなってよくわからない絶交取り消し宣言をするアリアに俺が苦笑いした時…

 

「くぉらガキども!イチャイチャしとらんと、揃ってんならこっち来いや!はよそこの枠に入れ!撮影するで!」

 

蘭豹がカメラを振り回し、ビニールテープで囲んだ写真撮影の所定位置を示している。

 

「いこ」

 

レキの手をアリアが握り、走り出す。

レキは素の自分を人から受け入れられてどうリアクションしたらいいかわからない顔で…アリアに引っ張られるまま、走っていた。

 

レキ…お前本当にいい仲間が得れてよかったな…!

 

 

 

☆★☆

 

 

写真撮影が終わった後、学園島の最西端、海を望む転落防止柵の外に、俺はレキとハイマキを連れ込んだ。

京都の山で頑張ったハイマキにソーセージを箱買いをしてあげ、食べさせてあげると白い尻尾をぶんぶん振って喜んでいた。よっぽど好きなんだな。魚肉ソーセージが。

 

「…」

 

レキはハイマキの側に膝を揃えてしゃがみ、背を撫でてやっている。相変わらず、知らない人が見たら無表情なんだろうが、俺は少しレキの表情がわかるような気するな。

どこかハイマキを労うような優しい感じがする。

 

「そういえばアリアのやつ、戦闘配置まで勝手に申請してやがったぞ。知ってたか?」

 

そういうと、レキはふるふる。首を横に振った。

 

「前線がアリアと俺。支援は白雪とお前。後尾が理子。突入時は俺とアリアが拳銃弾で押しつつ、お前たちが中遠距離で支援する陣形だな。理子は殿ってとこだ。あと本当は銀華を前衛後衛もいけるフレックスな枠で入れようとしてたらしいんだけどな。そこはちょっと残念だ」

 

そう説明する俺をレキは端正な顔でじっと見てくる。何も言わないところを見るに特に異存はなさそうだ。

まあ…説明するまでもなくこの陣形は優れているのはわかるよな。

アリア…あいつ推理はからっきしりのくせに戦闘絡みのことになると天賦の才がありやがるぜ。

(しかも…陣形だけじゃない)

このチーム、個々の能力が高いのも特徴的だ。レキとアリアを含めSランク武偵が2人いるチームなんて3年でもなかなかない。2年ではあと2チームあるだけらしい。

白雪も理子もAランクだし、俺だけがEランクで平均を落としてる。すみませんねほんと。

 

「本当にいいんだな…?またアリアと組んでも」

 

事後ではあるが、一応あらためて確認するとーー

 

「はい」

 

スッと静かに立ち上がり、俺に向き直した。

 

「私は今まで…人の『気持ち』について考えたことがありませんでした。ですが、今回の体験から私なりに考えてみたのです。アリアさんの気持ちを」

「アリアの気持ち?」

「山岳で負傷した時、私は風の命ずるまま戦死を覚悟しました。そして貴方だけが助かるようにいいましたが…あれはきっと強がりだったのです。あの時、私は風とあなたで揺れていたから」

 

あのレキが…『強がり』か。

 

「今だから言いますが、あの時私は『死にたくない』との思いがあったのです」

「……」

「その思いを抱かせてくれたのはキンジさん。あなたです」

「俺…?」

「キンジさん、あなたは私の大切な人ですから離れたくありませんでした」

 

感情というものの初心者・レキは…それを隠すことなく俺にまっすぐ伝えてくる。

 

「……っ……」

 

いきなり美人の女子にそんなことを言われ海の方に視線を逃してしまう。

 

「あなたは私に感情というものを芽生えさせてくれた。その大切な人と離ればなれになってしまう。そうなりたくないと思ったのです」

 

ストレートだなぁ、レキは。まっすぐターゲットを射抜く狙撃手だけに。

 

「そして…今回アリアさんの気持ちを考えるきっかけを与えたのは紅華さんです。紅華さんは私の自分自身の気持ちに気づかせてくれた」

「紅華が…?」

「はい。キンジさんが気持ちを『抱かせてくれた』。紅華さんが気持ちに『気づかせてくれた』。そこからアリアさんの気持ちを考え、引き離すのはそれと同じ行為だと気づいたのです。彼女にとってもあなたは大事な人だから」

 

俺と合わせ海を見るレキは、どこか少し寂しそうに見えた。

 

「だからあなたとアリアさんは一緒にいてもいいのです」

 

そういうとレキはその小さな唇を閉じた。そして珍しく、一拍ためらうような間を置いてから

 

「でもこれは強がり」

「強がり?」

「はい、私は一つ矛盾した思いを持ってますから。

私はウルスに必要な男性としてではなく…感情を抱かせてくれたキンジさんの……一番になりたい」

「…………」

「…………」

 

その言葉に対して、何もいうことができず、しばらく2人して黙っていると、ざぁんと波の音が聞こえてくる。

 

「逆にキンジさんはいいのですか?こんな私と組むことになってしまって。もう『風』は何も言わなくなって…『心』という自分でもよくわからないものを不確かな道標にして歩いているのです。風に言われない私は、何者かすらわからないのに」

 

今の沈黙で不安を煽られたのか、レキの態度はどこかすがる感じだ。

 

「レキ、自分が何者かは誰にもわからないんだ」

「……」

「レキはレキ。それでいいじゃないか。俺もそのままのレキでいいから、心配すんな」

「……でも私はこれから何をすればいいのかわからないのです」

「…それなら、自分で言うのもなんだが……俺の一番を目指してみたらどうだ?相手は強敵だぞ。お前に感情を気づかせた紅華なんだから」

 

ストックホルム症候群によってレキの味方になっていた俺はそんなことを言うとレキは少しびっくりした顔のようにみえる。

まあ、風を失ったレキの目標がわりになってやるのも悪くはないさ。

 

「あなたは風によく似ている。キンジさんは器の広い人です。こんな…空虚な私を知っても変わらない」

「俺は意外とせせこましいぞ。それに空虚、空っぽなのもいいもんだぞ。それは、これからいろんなものを入れていけるってことなんだから」

「キンジさん…」

「だから銀華・紅華に勝つためにいろんなものを入れよう。俺も教えてやるからさ」

「はい、教えてください」

 

とレキの態度にピュアな敬意を感じられたので…俺は少し気恥ずかしくなってもう一度海を見る。

 

「キンジさん……ウルスの忠誠は永遠(とわ)。私は風が何も言わなくてもあなたを守ります……ずっと」

 

言葉の内容より、その幸せを噛み締めるような声色に俺が振り返るとーーああ、その表情を見れてよかったよ。

レキをよく知らない人が見てもわからないだろうが、俺にはその表情が確かにわかった。とても僅かで、でも心を掴まれるほどに愛らしいその表情が。

それはまだ上手くないけれども……

 

 

笑顔だったのだ間違いなく。

 

 

☆★☆

 

 

それからしばらくの間は嘘みたいに平穏だった。アリアの誕生日に誕生日プレゼントを渡したり(喜んでいた)、一般校への転出申請も銀華と無事教務科に出すことができた。

順調にいけば来年の4月。どこに行くかは未定だが、3年になると同時に俺たちは転校となる。

そうやって俺が『普通の高校生』に一歩ずつ前進しているときの放課後、事件は起きた。

土足厳禁の情報科の授業の後、帰りに下駄箱を開けるとーー

 

「…?」

 

俺の靴の上に手紙が置いてあったのだ。

手紙は真っ白な封筒に入っていて、映画とかでお金持ちが手紙を封印するのに使う赤い蝋みたいなので封がされている。初めて見た。

筆記体の署名は…Janne d'Arc……ジャンヌか。

 

「おいおい、そんなの少女漫画でしか見たことねえぞ」

 

そう言っていきなり俺の頭を掴んでくるのは、一緒に帰ろうとしていた車輌科の武藤。

 

「最近、平和だと思ったらもうこれかあ」

 

左では不知火がイケメンな顔で苦笑い。

 

「………『そんなの』とか『これ』ってなんだよ。ジャンヌが手紙入れてただけだろ。しかし今日日手紙って、古風なやつだな。連絡ならメールでいいのに」

「あのなあ…メールじゃロマンスやメルヘンがねえだろ。それはラブレターって言うんだよ。武士の情けだ、見せろ」

「北条さんはジャンヌさんと犬猿の仲っていうのは武偵高では有名な話だからね。ちょっと僕にもラブレター見せてよ」

 

と2人がたかってくる。内容は知らんが、人の手紙を他人に見せちゃダメだろ普通。

と思った俺は武藤を頭突きで粉砕し、不知火がそれの手当てをしてる間に情報科から脱出、巡回バスでその手紙を開けた。

めちゃくちゃ流麗な、レタリングの筆記体で書かれた手紙はーーうっ。英語じゃない、フランス語だ。

あいつ字が上手いな。絵は終わっているくせに。

ていうかフランス語読めるわけねえだろ。それもこんな飾り文字。

と思っていたら文末に日本語で

 

『どうせお前は読めないと思うから裏に日本語でも書いておく』

 

じゃあ最初から日本語で書けよな。

 

『遠山キンジ殿

 10月1日 夜0時

 空き地島南端 曲がり風車の下で待つ

 武装の上 1人で来るように

     ジャンヌダルクより』

 

なんだこれ。日時は明日というより今夜だ。

 

『遠山かーー読んだようだな』

 

俺がジャンヌに電話をするとすぐそう答える。

 

「ジャンヌお前なんで手紙なんだよ。おかげで武藤が粉砕されたぞ」

『あれは正式な書状ーー招待状、だからだ。お前も男ならちゃんと来い』

 

それだけ言うとジャンヌは詳細も語らず電話を切る。もう一度かけても出ないし…

なんというか詳細を知らせると俺が来ないと思っているらしい。ますます怪しいぞ。

 

 

あまり気乗りしなかったが、ジャンヌの態度に引っ掛かるものがあった俺は、車輌科からモーターボートを借り、学園島から空き地島の南端へ渡る。

銀華には話していない。不知火も言っていたが、銀華とジャンヌは仲が悪いからな。何か余計なことは言わない方がいい。

そんなことを考えながら、渡った空き地島は暗い上に不気味に濃霧に覆われていた。その濃霧を掻き分けるようにして俺は4月飛行機をぶつけた風力発電機の下まで歩いて行く。……というか、この霧、何か違和感あるぞ。そうだ。イ・ウーでシャーロックホームズと戦ったときに奴が『予習』と称して使った霧に似ている。

 

『遠山、こっちだ』

 

かけられた声に振り向くとーー

少し離れたところに白銀の鎧を着たジャンヌが立っていた。

 

「どうした。こんなところに夜遅く呼び出して」

 

そんなことを言いながら、ジャンヌに近づくとーー彼女の甲冑は前戦った時よりも重武装なことがわかる。

そしてその端麗な顔にも緊張感があるな。どうしたんだ。

 

「まもなく0時です」

 

頭上からこの1ヶ月で聞き慣れた声がしたので顔を上げると

(レキ…?)

壊れて動かなくなったプロペラにレキが腰掛けていた。ドラグノフを体の前で抱え、かなり警戒感を、高めている雰囲気だ。

 

「なんなんだよお前たち…」

 

と眉を寄せた瞬間、パッと複数の強力なライトが灯った。

眩しさに目を覆った俺だが、再び周囲を見ると……

 

(なんだこいつらは…!?)

 

光で明らかになると周りには俺たち以外にも人影がある。

ーーーヤバイヤバイ。こいつらは危険だ。

俺の脳裏にイ・ウーの面々と戦ってきた記憶が次々と甦ってくる。

どいつもこいつも怪人・魔人・怪物の類だ。

やろうと思えば俺なんて一瞬で殺せる。

たとえ俺がヒステリアモードでも勝利はおぼつかないだろう。そういう奴らだ。

 

「先日は藍幇(うち)曹操(ココ)姉妹がとんだご迷惑をおかけしたようで。陳謝します」

 

恭しく俺たちの方にお辞儀してきたのは、細い目に丸メガネをかけ、色鮮やかな中国の民族衣装を着ている男。

そいつから離れた地面ではゾゾゾと黒い影が蠢いている。おかしい。上にものがないのに影だけが動いているぞあれは。

影が集まって人形になったかと思うと、地面から起き上がってきて

 

「お前が紅華の婚約者の男か。信じがたいわね」

 

紅華がよくきてるような服の色違い、黒と白のロリータ衣装を全身に纏った、金髪のツインテールの少女になった。右手には黒いフリル付きの日傘を持っており、背には蝙蝠のような大きな翼が生えている。

その背には3mはある巨人が現代的な装甲を覆い、ガトリングガンを携え、肩にはロケランすら装備している。まるで人間戦車だ。というより、あいつはそもそも人間なのか?それすらわからん。

その傍らで白い法衣にグラマーな身体を包み、巨大な十字架なような大剣を背負ったシスターと、漆黒のフード・大きなとんがり帽子・肩には大ガラスと言った、本の中から出てきたようなチビの魔女が睨み合っている。

あのチビ魔女眼帯をつけているが眼帯に付いてるマーク……逆鉤十字(ハーケンクロイツ)じゃないか?第二次世界大戦を引き起こしたナチスのシンボルとなるマークだぞあれは。

 

「仕掛けるでないぞ、遠山の。今宵はまだじゃ。ワシも大戦(おおいくさ)は86年ぶりで気がたつがのう」

 

何故か俺のことを知っているような口ぶりで話しかけてきたのは藍色の和服を着た、紅華より小さな女の子だった。

狐目は日本人ぽいが、長い髪は濃い金髪。というよりキツネ色だ。

しかも頭の上にはキツネのような耳がピンと立っている。動いたのを見るに飾りではないらしい。

周囲には他にも、トレンチコートを着て長剣を背負った男、虎のような模様の毛皮をワンピースにした原始人のような女の子、イヤホンで音楽を聴き体を揺らすピエロ…様々な怪人が集結している。

そして視界の向こうから

 

「ほほほ、トオヤマキンジ。久しぶりぢゃの」

 

砂礫の魔女パトラ。そして『はーい』って感じで俺に手を振るカナ、兄さんまで現れた。

そして最後に…

 

「みんなお待たせ」

 

紅華が髪色と同じ紅のロリータ服で空中に現れた。

足下に七色の光がわずかに散っているように見える。イ・ウーで俺との戦いでも使っていた何か見えないキューブのような踏み台があるのだろう。

 

俺は苦虫を噛み潰したような顔で周囲を改めて見渡す。俺はただ普通の一般人になりたい。

それだけが願いの()()の高校生なのに。

この場にいるってことは、俺もこいつらと同じ、『普通じゃない』人間の1人ってことにされちまってるのか…!

 

「時間だ。では始めよう。各地の機関・結社・組織の大使たちよ。宣戦会議ーーイ・ウー崩壊後、求めるものを巡り、戦い、奪い合う我々の世がーー次に進むために(Go For The Next)




アリア発売されて十数年読んでるのに『バスカービル』じゃなくて『バスカビール』だと思ってた…。

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