哿と婚約者   作:ホーラ

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第11話:泣いて馬謖を斬る

 

アリアは次の日の朝、目を覚ました。聞いてみたが、昨日の記憶はないようで…ヒルダに噛まれた跡を何か勘違いし、

『アンタには銀華がいるでしょー!バカキンジ!風穴ァ!』

と、俺に対していつも通りバカスカ撃ってきやがった。

 

・2人で俺の部屋で起きる

・アリアは昨晩の記憶がない。なお机の上に酒瓶が何本もある

・アリアの首筋に唇形の鬱血がある

この状況でなんで俺が怒られなくちゃいけないんだよ…まったく……

 

アリアを俺の家に置きっぱなしで、俺1人登校すると……

 

「おはよう、キンジ」

「……おはよう、銀華」

 

銀華は普通に登校してきていた。

 

「ん、どうした?何か私の顔に付いてる?」

「いや…なんでもない」

 

銀華の顔はまるで昨日のことなどなかったかのようだ。

………

銀華にアリアのことを話すべきなのだろうか。

でも銀華は『中立』。メーヤに攻撃を仕掛けようとしたのを見ると敵になる可能性も十分あり得る。

それでも銀華になら……

 

「銀華、ちょっといいか?」

「……うん、いいよ」

 

3限の授業が終わり、4限目の3クラス合同のLHR(ロングホームルーム)のために体育館に移動する時、俺は銀華に声をかけた。

 

「もう……極東戦役のことでしょ」

 

先に皆移動し、誰もいなくなり人気のない階段の踊り場で銀華は困ったという顔をして俺のしゃべりたいことを当ててくる。

 

「そうだ。お前にとっては簡単な推理すぎるだろうから隠さずに言う。銀華、『師団』に入ってくれ」

 

俺の言葉を当然推理していた銀華は…

 

「はぁ……昨日紅華が言ったでしょ?私は『中立』だって。研鑽派はまだしもメーヤと仲間になるのは無理」

 

ため息交じりにそう言う。メーヤとの使い魔の一件を相当根に持っているらしい。

 

「これでもすごーーーーく譲歩してるんだよ、キンジ。紅華は元々主戦派のリーダーってことは知ってるよね?パトラとかセーラとかに『もちろん眷属だよね?』って聞かれたのに、私はそれを断って『中立』に立場を置いてるんだから」

 

初めて聞く名前が出てきたが…どうやらココの一件やレキの一件といい、イ・ウー崩壊から宣戦会議の前までは勧誘の時期だったらしい。銀華もその時期に勧誘を受けていたと。

 

「まあ、武偵高(ここ)に通う限り『バスカービル』や『研鑽派』が多数いるから敵にはなれないよね。敵陣のど真ん中で暴れるアホみたいなことはしないから、それは安心して」

 

と『私は安全』みたいなことを言ってくるけど、全員蹴散らすつもりなら蹴散らせそうですけどあなた…

 

「……でも俺は諦められない」

「仕方ないことだよキンジ。私は(銀華)であると同時に(紅華)なのだからね」

 

ごめんねという風に手を合わせる銀華は……相変わらずカワイイ。昔の俺だったらそれだけでヒスって………ヒス……その手があったか!

 

「銀華」

「な、何!?急に顔を近づけて」

「そんなに言うことを銀華がいうことを聞いてくれないなら……俺がヒステリアモードになって、銀華をヒステリアモードにさせて言うことを聞かせる」

「!?」

 

完璧かと思われる銀華の唯一というか2つの弱点。

それは弱くなってしまう女版HSSと、俺だ。

俺は今初めて、自分の武器『男』を使う。

俺の言葉を聞いた銀華は顔を青くして

 

「そ、それはずるい!!私の人体設計上キンジには勝てないようにできてるの!しかもこんなところでHSSになっちゃったら人生の終わり!ずるい!ずるいよ!」

 

銀華はあわあわとみたことがないぐらい慌てる。

銀華はヒステリアモードになると弱くなるので、俺以上にヒステリアモードになることを恐れている。今までなったのも俺たちの家か、緊急事態のみだ。

その弱点を今使わせてもらう。

 

「武偵にずるいもへったくれもない。それは褒め言葉だ。俺は持てるものは全部使って銀華を『師団』に引き込む」

「そんなかっこいいこと言って、やることはチューとかでしょ!ロメオ禁止!!」

 

頭が分身したように見えるぐらい首を横にブンブン振る銀華。

ちなみにロメオとはーーー武偵用語の一つで男版のハニートラップ。

正攻法では倒せない女のターゲットに対して、その女が好きそうな男が近づいて……色仕掛けで寝返らせたり、機密を喋らせたりする方法の隠語だ。

しかしこれはハニートラップより難易度が高く、東京武偵高には専門学科がない。確か学科があるのは世界でもベルリンとバンコクだけらしい。もちろん俺は体質のこともあるので、手法はビタ一文学んだことない。

しかし…すでになぜか俺にベタ惚れしてる、しかもHSSとか言う爆弾を持ってるやつぐらいなら、学んだことがない俺でも実行に移すことは可能だ。銀華以外にやろうとは1ミリも思わないがな。

 

「銀華が『師団』に入るって言わないなら今ここでHSSにしちゃうけどどうするんだい?」

 

ヒス俺の口調を少し真似て言うと、銀華はぐぬぬぬぬぬぬぬ、と悔しそうな声をあげる。

そして右手を口に当て、その場をぐるりぐるりと忙しなく回りはじめた。

窮地に追い詰められた、この状況の解決策を世界最高峰の頭脳で考えているらしい。

しばらく頭の上から蒸気が立ち上るほど考えた後、ぽんっと頭の上の豆電球が光ったように思いついた顔になる。

 

「じ、じゃあ今『師団』に入ると外聞が悪いから、ポイント制にしよう。HSSからとって『Hシステム』……だとちょっとエッチぽいから………『Sシステム』!」

 

と言って銀華はポケットから白いカードを取り出した。俺に渡したそれは無記入のネームカードだ。なんだこれ。

 

「キンジのことを私がかっこいいと思ったら一個お花を書いてあげる。そのお花が……5個…だと少なさそうだから………10個貯まったら『師団』に入ってあげる」

 

入るつもりはないが、チャンスはくれるっていうことか。

まあ、ロメオでいれても本当に師団の一員となってくれるからは微妙だったからな。ちゃんとチャンスをくれてる分前よりはマシか。

 

「当然ロメオは禁止!で、でも……代わりに戦う前には、H、HSSにはならせてあげる!これは『師団』に与するわけではなく『婚約者』としての義務だから問題ないよ!もちろん、この行為では花はあげないけどね!」

 

下を向きながら顔を紅華の髪のように真っ赤にしながら言う。

どうやら…戦う前にそういう行為をさせてくれるらしい。他の女子でなるのは銀華が怖いし、これからの敵は強大なので、あっちの俺に頼らないといけないとは思うのだが……銀華さん的にはそういうことしてオッケーなの?と思ったけど、紅華で経験済みでした。

 

「じ、じゃあ…かっこいいことって思うことはなんだ?」

「さあ、なんでしょう」

 

うふふ、と笑う銀華。くそ、さっきまでの主導権を完全に取り返されちまった。

 

「さあって」

「太陽はなぜ昇る?月はなぜ輝く?キンジは私を惚れさせたんだから、自分で推理しなよ」

「太陽がのぼり、月が輝くのもどちらも自然現象で理由なんかない。そんなもん推理できん」

「その通りだよ、キンジ。私がかっこいいと思うのも自然現象。だからロメオなんて無理しなくて、キンジはキンジらしくいればいいんだよ」

 

ニコッと笑いながら俺がレキに言った言葉を言う銀華は、極東戦役やアリアのことでいっぱいだった俺を癒す笑顔だった。

 

☆★☆

 

「ガキども!それじゃあ文化祭でやる『変装食堂(リストランテ・マスケ)の衣装決めをするぞ!」

 

ドンッ!

体育館に集まったざわつく生徒達を天井への威嚇射撃で静まらせつつ、強襲科教師・蘭豹が叫ぶ。

体育館には2年・A・B・C組の生徒が集められているが、B組のジャンヌはいない。欠席らしいな。

昨日玉藻に眷属を追うように言われてたし今も追っている最中なのかも。

 

「よおーし、各チーム同士で集まって待機ィー!」

 

尋問科の綴が叫ぶとD・E組、そして姿を滅多に出さないX組はいないものの、同じチームのメンバーがそれなりに固まり出す。

などと眉を寄せる俺のそばに、同じA組の午後から登校してきたアリア、理子と銀華(銀華のチームはX組の一石と同じらしいが奴はこの場にはいない)、B組の白雪、C組のレキが集まってきた。

 

「……」

 

昨日の件もあったのでレキをチラリと見るが

 

「……」

 

いつものレキだ。ヘッドホンをかけたままボーッとしてる。

 

「そうだ、レキさんって何聞いてるの?」

「風です」

「私にも聞かせてよ」

「どうぞ」

 

銀華がレキからヘッドホンを借りて、本当に風だ…とか仲良く喋ってると

 

「キンちゃん、くじ引きの箱きたよ」

「あ、ああ」

 

気がついたら俺の真横にいた白雪が言うので、くじ引きの箱をまじまじ見る。

手伝いの一年が持ってきた、上に丸い穴の空いた箱は、武偵高の文化祭で俺たち2年の一部が担当する、『変装食堂』の衣装を決めるくじ引きである。

 

(このくじ引き、かなり命がけなんだよな…)

 

変装食堂。普通の高校ならコスプレ喫茶みたいな出し物なのだが、この学校は普通ではない。きた衣装の職業をきちんと演じ、それらしく振る舞うことが義務付けられる。

武偵高からしてみれば、生徒の潜入捜査技術を一般にアピールする機会だから、真面目にやらないと教務科によるそれは恐ろしい体罰が待っている。

つまりこのくじ引きは悪魔のくじ引きなのだ。

 

「さあ、師匠引いてくだされ。こちらが男子の箱でござる」

 

今見たら、箱持ってるの風魔じゃねえか。

お前、人前で師匠とか呼ぶなよな。DEでボコるぞ。

 

「引き直しは一度のみでござる。ではご武運をッ!」

 

なぜか俺をニコニコ見上げてくる風魔に対して無言を通し、俺は箱に目を入れ、中にあるくじをまさぐる。

 

(いいのが出てくれよ…)

 

念じたところでいいのが出るわけではないが念じてしまう。うーん、底の方が当たりか?底ということは初めに書かれたやつだろうし、変なやつは普通後半に書くよな。

ちなみに大外れは『女装』である。

銀華は「久しぶりにクロちゃんみたい」と言っていたが、クロメーテルを武偵高の他の連中に見られてみろ。教務課の体罰の前に心的外傷で拳銃自殺ものだ。

ちなみにそのふざけたことを言っていた銀華はレキのヘッドホンを掛けながら女装でろという風に横で念を送っている。超能力で出ちゃいそうだから、まじでやめろ。

 

「ど、どうだ……?」

 

と引いたくじを恐る恐る見ると

 

『神主』

 

ハズレハズレ。これは作法とかが難しい。

うっとり見る白雪と面白くないと騒ぐ理子と銀華を無視しながら『チェンジ』を告げもう一度箱に手を入れる。

 

「チェンジすると2枚目の衣装は強制でござる」

 

それは知っているので決死の思いで引いた2枚目はーーー『警官(巡査)』

よかった…これならなんとかなりそうだ。

 

「キンジがそんな普通の警察官なんて真っ当な人生送れるわけないのに…」

 

おい、女装が出なくて残念そうな銀華。悪口聞こえてますよ。

 

「師匠。ジャンヌ殿は本日欠席でござるが、前もってくじ引き代理人に指名されておる。代わりに引いてもらうでござる」

 

と風魔が女子用の箱を突き出してくるので、俺はジャンヌの分も引く。

 

『ウェートレス(アットホームカフェテリア)』

 

店の名前は知らんがまあいいだろ。

というかなんでもいい。人のだし。

 

「じゃあ次は私引こうかな」

「奥様、それじゃあご武運を、忍ッ!」

 

横にいた銀華が少し緊張した顔で風魔の持つ箱の中に手を入れる。

銀華は露出の多い系の物が出るとヒス的な意味で困るのだろう。そして俺も困るが。

などと見ていると銀華の一枚目は

『バニーガール』

くじを見た銀華は、その天才的な頭脳で自分のバニーガール姿を想像したのか、ぶんぶん首を横に振ってチェンジを申し込む。ヒス的にもありがたい。

ふむ…と箱を見て推理し始めた銀華はどうやら未来を見る条理予知をしているようで…

箱からスッと引いたくじは

『花嫁(ウェディング)』

それを引いた銀華はよしっという風にガッツポーズ。どうやら狙っていたお題らしい。

条理予知、卑怯だ。

そもそもウェディングドレスって歩きにくそうだしウェイターが務まるのか?いいんだけどさ。

そして他の連中にはくじの結果は隠した。なんで?

 

その後バスカービルの面々が引くと

理子が『ガンマン』(なぜマンのお題が女子に)

白雪が『先生』

レキが『博士』

そしてアリアが……

 

「今のなし!無し無し無し!まずあんたは死刑!」

「やめなよ、アリア。ちゃんとやりなさい『小学生』。ぷっ」

「諦めようよ、アリアちゃん。理子が『小学生』の衣装作り手伝ってあげる!きゃははははははは」

「誰がアリアちゃんよ!銀華も笑ったわね!あんたらまとめて風穴!風穴流星群!風穴ビックバーーーンッ!」

 

ぎゃーすと暴れるアリアを白雪が羽交締めにし理子と銀華で拳銃を抜こうとする両手を抑えている。(レキはすでに体育館の外に避難済み)

なんとアリアは『小学生』を引いた。

あまりにハマり役だが……なんて運の悪さだ。

 

俺の女装もそうだが……ハマり役とやりたい事は一致しないってことだな。わかったな、アリア。

 




キンちゃん様のやりたくないこと
ロメオ・女装・超人との戦い


キンちゃん様の得意なこと
ロメオ・女装・超人との戦い
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