いいサブタイ思いつかなかった…
「ボクはエル・ワトソン」
その名を聞いたアリアが「えっ」と小さな声を上げて少年の方へ振り向いた。
ーーワトソン…?
その名は探偵科の教科書に載っている。
銀華の父、シャーロックホームズの名パートナー。終生シャーロックの相棒だった有名な人物の苗字だ。
「えっ……!じゃあまさかあんた……」
アリアは小さく声を振るわせワトソンの顔を見上げる。
「そう。ボクはJ・H・ワトソン卿の曾孫だよ」
今度はワトソンか……。ホームズ2世とホームズ4世といい、こんなぽんぽん有名人の親族が出てくるとはな。
「トオヤマ。『君は何をしにきた』とボクに聞いたけど理由が必要なのかい?」
「それぐらい聞いてもいいだろ。俺はお前を知らないんだ」
不機嫌なワトソンに俺も釣られ少し不機嫌になってそう返すと、ワトソンはアリアと護送車にいるかなえさんを順々に見る。
「ボクは許嫁と義理の母親を助けに来た。それだけだよ」
と言った。
「許嫁?」
「アリアのことだ」
当たり前だろう?と言わんばかりにワトソンが言い放つ。
そして自分より背の高い俺を見上げて胸を張り、繰り返し言うのだった。
「君が紅華・ホームズ・イステルの婚約者のように、神崎アリアはボクの婚約者だ」
☆★☆
「エル・ワトソンです。これからよろしくね」
その声にクラスの女子からキャーー!と黄色い声が上がる。あいつ……武偵高に転入してきやがった。
ワナワナと震えるアリアはこちらを窺い見るように見てくる。なんだよ。お前らしくないな。
俺にもいるんだからお前に婚約者がいても別に問題ないだろ。それにワトソンとホームズの関係は、俺が関われる話じゃないしな。
朝のホームルームの終了のチャイムが鳴ると同時にきゃー!と女子どもがワトソンの席を取り囲んでる。
まるでアイドルの囲み取材みたいだ。
「前の学校では専門科はどこだったの!?」
「ニューヨークでは強襲科、マンチェスターでは探偵科、東京では衛生科に入る予定だよ。ボクは自分の武偵技術に最後の磨きをかけにきた」
強襲科、探偵科の次に衛生科って…横にいるもう1人のホームズさんと同じだな。
ちなみに横にいる銀髪のホームズさんは、ワトソンに興味なし。ワトソンの方を見ることなく、あくびなんかしてるよ。呑気だなあ。まあ…興味があったらそれはそれで困るがな。
そもそもイ・ウーにあったICBMで助けに来たのを見るに元から交流があったのかもしれん。
「何部に入るの?」
「ごめん。部活動に入る予定はないんだ」
「ダメだよ帰宅部なんて。キンジと一緒にお昼寝でもするつもり?」
おい、水泳部の女。俺のことを悪くいうな。ていうか、ばれてるのかよ。銀華やアリアが不機嫌だったりするときは屋上で時間潰してるけどさ。
「でも、遠山君とワトソン君がつるんだら……たらしが移って……それなら私にもチャンスが来るかも……?」
「「……たらしが移る?」」
引っ掛かりを感じたらしいワトソンと銀華の声が重なる。
女子は俺の方をチラッと見て、手で口元を隠し(読唇術封じ)、ワトソンにゴニョゴニョと何かを囁いている。
「な、トオヤマはそんな…?好色な……!」
それを聞いたワトソンは俺の方を見ると急に顔を赤らめ、細い眉を吊り上げてこっちを睨んでくる。
「君は婚約者がいるのにどういうことだ!」
多分ワトソンは『銀華』『アリア』『白雪』『理子』『レキ』辺りのことを女子から聞いたのだろう。
なんか勝手に棲みついたり、風様の命令で求婚してきたりする女子どもの一つ一つを自己弁護する気にもならない。というか、いまだに俺も風とかよくわからんしできん。
「そうなんだよ。キンジは私を置いてすぐ浮気するんだよ。およよ」
超下手な泣き真似をしてワトソンと女子から顔を隠す銀華。
隠すためにこっちを見る顔は………笑ってるじゃねえか。揶揄うのやめろ。
ワトソンは日本語の授業にも難なくついてきた。
武偵高の偏差値が地の底とはいえ、日本史にまで全問正解してたのは驚いた。
見た目は美形で、リアルに貴族。頭もいいときたら女子はほっとかないだろうな。
みたいなことを考えながら、一般校区から探偵科までのバスを待っていると…
「やっぱりトオヤマか」
俺の前に停まったのはポルシェ911。1000万はくだらない超高級車だ。その中から声をかけてきたのはワトソン。
「バスは来ないぞ。前の交差点で蘭豹先生がバスを手で横転させたからね。しばらくは通行止めだ」
蘭豹のやつ…!どうせ生徒が喧嘩してたとかが理由だろうが、素手でバスを横転させるな。
「乗れ、トオヤマ。徒歩でも間に合うだろうが、探偵科まで送ろう。君とは少し話したいこともある」
そう言ってドアを開けたワトソンに俺は若干の危機を覚える。
なんだろう。コイツと2人っきりになるとなぜかまずい気がする。気に食わないとかそういうことじゃなく、直感的に、本能的に危険を感じる。
しかしワトソンの情報だと待てどもバスは来ない。乗っておくか。
俺が乗ると、車を走らせ始めたワトソンから微かにシナモンのようないい匂いがする。男のくせに変なやつだ。
「いい車だな」
「昨日買った。日本は路地が多いから小柄な車が欲しかったからね」
金持ちだなあ。お前。
アリアと銀華のホームズコンビも金持ちだし、金ないのは俺だけだよまったく……
それっきり会話が続かない俺たちがしばらく黙っていると、信号待ちの時ちらっと見てきたワトソンが口火を切った。
「ーー君は紅華・ホームズ・イステル……ここでは北条銀華だったかな、という婚約者がいながら女たらしらしいな。君は」
「そう言われてるらしいが、俺には銀華だけだ」
「君はそう言うだろうが、自分ではなんとでも言える。そう見えてしまう、じょ、女性に対してのふしだらさ。それは最も良くない。君の第一印象は悪い。最悪だ」
とワトソンはハンドルを持つ手を強張らせる。
どうやら生真面目で頭に血が昇りやすいタイプらしい。俺の苦手なタイプだ。
「だからアリアには、トオヤマの部屋に住むのはやめろと命じておいた」
「ありがたい話だぜ。あいつが勝手に棲みついていただけで俺は迷惑していたんだからな」
俺がフンと鼻を鳴らすと、ワトソンも同じように鼻を鳴らした。
「なんとなく、君とは気が合わないようだ」
「なんとなくじゃないぞ。俺も同意見だ」
探偵科の前に到着したワトソンはムッとした様子で
「アリアとは成人してから組む予定だったが、その前にアリアと君を遠ざける。アリアは君を妙に気に入ってるようだからね。
「勝手にしろ。送ってくれてありがとうな」
「よく覚えておけ。アリアのベストパートナーはボクだ」
ワトソンは宣戦布告するように少し強めに俺に言ってくるのだった。
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ボクはトオヤマを探偵科まで送って車を出そうとした時、
「じゃあ、次は私とドライブしてくれないかな?」
誰もいないはずの助手席から声が上がる。
こ…この声は
「ほ、北条銀華…!」
「ハロー、ワトソン君。それとも、ワトソン
「な……ッ!」
勝手にいつのまにかボクの車に乗って、挨拶だけではなく、誰も知らないはずのボクの秘密を知っていると言外に脅してくる。
「早く出して、ワトソンちゃん」
「……くっ」
ボクの性別を他の人に知らせるわけにはいかない。彼女の言う通りにするべきだろう今は。
「それでホームズのお嬢さんがボクになんのようだい?ボクとパートナーを組んで欲しいとかでもあるまいし」
彼女が何を考えてるのかわからない。
ここは情報を聞き出すために話を振るのが大事だ。
「そうね、パートナーは間に合ってる」
北条銀華とは実は話したことがない。イ・ウーにリバティー・メイソンのスパイとして乗船した際、噂に聞いていた『紅華・ホームズ・イステル』はいなかった。
『北条銀華』としてここ東京武偵高に通っていたからだろう。
「腹の探り合いはめんどくさいから…前置き無しにしよう。貴方がやりたいのはアリアとキンジを引き離す作戦でしょ。ヒルダから聞いてる」
「ああ、君の婚約者トオヤマをアリアから引き離して彼女をイギリスに連れ帰る。これがボクの使命さ」
彼女はヒルダやパトラなどの『眷属』のメンバーと交友がある。
そのためリバティーメイソンの予測では『眷属』の予測だったのだが、意外にも『中立』の立場をとるとは。もしかしたら『師団』所属の婚約者・トオヤマが彼女の弱点なのかもしれない。
「君にとってアリアは邪魔だろう?ボクたちの計画に対して協力、あるいは見逃してくれないか?」
「まあ私は見逃してあげる。でも……キンジは容赦はしないと思うよ」
「トオヤマにボクが負けるとでも思うのかい」
「さあ」
ニコニコとこちらを見てくる北条。
その笑顔はこちらを少し小馬鹿にする笑みだ。
「私は『中立』だからね。貴方とキンジの戦いに加勢したりはしないよ」
「それならいい。ボクとしても君の敵には回りたくないものだからね」
北条銀華には勝てるだろうが、紅華・イステルが出てきた場合勝ちの目は薄い。
しかし、彼女は約束を守ることで有名だ。その彼女が加勢しないと言っているならば、この計画の間にはボクと戦闘になる可能性は低いだろう。
「……それで君はボクにそんなことを言うために車に乗ったのかい?」
「ん?そうだよ。私はキンジとドライブデートしたワトソンちゃんが羨ましかったから意地悪しにきただけ」
は……?
馬鹿……なのか……?
「で、デートって…!トオヤマはボクを男だと認識しているはずだ!」
「でも、ワトソンちゃんは女の子でしょ。私に黙ってキンジとデートするのは許さないよ」
ぷりぷりと怒る北条。
本当にこんなことを言うためにボクの秘密を使ってこの車に乗ってきたらしい。
なるほど……
訂正しよう。
この女……馬鹿じゃなくて『大馬鹿』だ。
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次の日からワトソンの俺への嫌がらせが始まった。
例を挙げると
・バレーの授業で俺の顔面を狙ってくる
・学食で一番安いコッペパンを淋しく食う俺の前でステーキを食う
・俺が「
などなど、違法ではないが明らかに俺を意識した嫌がらせをしてするようになった。
しかもやつは俺だけを標的にしているので、俺以外からの評判は良い。ヤツを目の敵にしていた男子共も『変装喫茶』でやつが引いたお題の『女装』を見てから急にヤツに対して優しくなった。言うまでもないが女子からの評価もすこぶるいい。
晴れてワトソンはクラス全員の寵児となり、友達をどんどん増やしていってる。そのワトソンと気が合わない上、元々社会不適合な俺は……だんだんクラスに居場所がなくなってくる。
武藤と平賀さんに気をつけろと言うものの、「あいつはいい奴だ」と既にワトソンに籠絡されてる始末。
アリアはワトソンに言われ俺の部屋に来なくなったし、白雪も神社。
銀華は『キンジなら1人で大丈夫。自分でなんとかしてね〜』とワトソンには興味無いのか協力はしてくれない。
ワトソンは俺の弱点ーー社交性のなさをついて孤立させてきた。
武藤や平賀さんに対しては金を積みサポートを取り上げにかかってきている。しかし金がない俺にはどうすることもできない。
俺は独りになりつつある。少しずつヤツの策略によって。
まあ、女子からは銀華が怖いから元々距離を置くようにしていたし、そもそもどうせ来年で辞めるので武偵高から距離はおいていたし孤独には慣れてる。
だがあいつのやり方はねちっこい。男のくせに女の腐ったようなやり方をしやがる。
俺が嫌いなら男らしく喧嘩を売ってくればいい。
でも俺の外堀を埋めてきたってことはーーやつは動く。昔の戦争じゃ城の堀を埋めたら次は本丸を攻めたものだからな。
そりゃそうなんだけど、ワトソン8巻だけ口調違いすぎる。脳内ワトソンと口調が合わない