哿と婚約者   作:ホーラ

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なっちー好き


第15話:援護

 

 

ワトソンが編入してきてしばらく経ったある日、同級生にパシらされていた情報科の中空知の掃除を手伝ってやると…どうやら中空知はジャンヌと友達らしい。

 

「お前…ジャンヌが今どこにいるとか知らないか?」

「今、ですか?わ、私の部屋に、と、いうか、私とジャンヌさんの女子。女子寮で相部屋を……していて……いますよ?」

「え?」

「先週に一度、私に電話で依頼をしてきて……今朝帰ってきて欠席してました、学校は。ケガをしていたので。部屋に、今います」

 

ジャンヌ、武偵高に帰ってきているのか。しかし怪我とはな。今のジャンヌは同じ師団で仲間だ。心配だ。会いにいかないとな。

だがジャンヌは中空知とルームメイトらしい。

どこの部屋か知らないので案内してもらいたいが、このテンパりがすごい中空知に『お前の部屋に入れろ』というわけだから言い方が難しそうだぞ。

ちょっと丁寧に言わないとまた語順並び替えクイズをやらされる。

 

「中空知、頼みがあるんだが……」

「た、たのみ、頼み、だ、ダメです、お、男の人の頼みっ。びゅい、がががが」

 

もう既に壊れた機械のような声を出す。

 

「わ、私、頼まれると、イ、嫌とは言えない、性格ですので!や、やさしくっ!」

「じゃあ、都合がいい。頼ませてもらうが」

「そ、その前に、き、着替えを!お、おとこっ!特に下を!」

「まだ何も言ってないだろ…!」

 

という壊れた機械状態から意思疎通に時間を要したが、俺はなんとか第三女子寮にあるジャンヌと中空知の部屋に行くことができたのだった。

 

X脚をガクガク震わせる中空知と部屋に上がると

 

「……!」

 

びっくりするくらい中には音響機器がびっしり集められていた。無数の高そうなスピーカーやアンプ、壁には色とりどりのヘッドホンが家電量販店かのようにぶら下げられている。

アクセスランプが至る所でピカピカし、電子の匂いがする室内で……窓際にちょこーんと置かれた観葉植物だけが女の子っぽい。

ていうか、あの鉢に小さなプラカードで、トオヤマクンって書いてないか?そんな植物あったっけ?

 

「ち、違います!わ、私しょ、植物に、は、話しかけたりなんて、してません!そ、そこまで、孤独じゃないです!そ、それと、そっちの小部屋には何もありません!不測の事態に備えて買い溜めした、ふ、不埒な下着とかありません!ほ、本当に!」

 

俺が観葉植物を見てるのにびっくりしたのか、植木鉢ごとヘッドホンの空き箱で覆ってしまう。

 

「ジャンヌさんは、そちら、ですっ!」

 

慌ていた中空知が指した、そこだけいきなり古風で洋風の装飾が施されているドアだった。説明不要でジャンヌぽいな。

 

洋風なドアを開けると、明るい。姿は見えないが確かにいるみたいだ。

マホガニーの机に古風なガス灯のような形のルームランプ。まるで政治家の執務室のようなシックな装飾が施されている。中空知ゾーンとは大違いだ。

そして本棚には、フランス語、日本語の歴史書と思われる書物が並んでいる。

 

(勉強家だなぁ……)

 

と思って一冊抜くと…なんだ奥にもう一列少女漫画が隠されてあるぞ。それもたくさん。

くくっ。ジャンヌこんなのも読むのか。意外な一面発見だ。女っぽい部分は奥に隠しているわけだ。あいつらしいな。

ごそごそ。

気配に顔を上げると奥にもう一部屋ある。ジャンヌはそこにいるらしい。

 

(怪我が重くて寝込んでたりしたらまずいから騒がしくするわけにはいかないな)

 

と、そーっとドアを開けると中は細長い小部屋で大きめのウォークインクローゼットとして利用されているみたいだ。

だが、なんだこれ。

室内にはヒラヒラ、フリフリ、赤白ピンク水色のドレスが奥までずらりと並んでいる。

これは……紅華がよくきているロリータファッションだ。それがまるでショップか卸問屋のように集積されている。

その服の森をかき分け進むと……いた。

細長い部屋の一番奥。姿見鏡の前にジャンヌが。

変装食堂向けに俺が引いた『アットホームカフェテリア』のロゴ入りウェイトレス衣装を着てモデル立ちし、キリッとした表情で鏡を見ている。

引き締まった長い美脚を目立たせるオーバーニーソックスを履き、腰に手を当て、綺麗な銀髪をファサッと手で靡かせたりーーかっこよくポーズを決めているが……何やってんの?

普通に元気じゃねえか。

 

「フッーー私はこんなにも、愛らしい」

 

声を……かけるにかけれない。

1人でファッションショーをやってる。昔同じ状況の銀華に話しかけたらありえんぐらい怒られた経験がある。俺はそのトラウマで動けなくなってると

 

「フフッ。まさか、皆の前で堂々とこれを着られる日が来るとはな。元々持っていたとは情報科の連中も思うまい。遠山のやつ最高のくじを引くものだ」

 

などと独り言を呟くジャンヌと鏡越しに……

目があっちまった。

ぴき。

と俺と目があった銀氷の魔女・ジャンヌは凍りつく。そのまま心停止したみたいに動かなくなったぞ。

 

「ジャンヌ。元気じゃねえか。中空知が怪我をしたっつーから心配したんだぞ。それともう一つ。なんだこれ。お前の私物か?」

 

その姿を見て先に氷解した俺は銀華やアリアで身につけた『どんなに怖くてもシラを切り通す』作戦。ヒラヒラの森から1人ファッションショーの舞台へ移動する。

そして…ようやく氷解したジャンヌはパシっと両手で顔面を覆った。

 

「おしまいだ……」

 

そして、へな、へなへな。

 

スカートをふんわりさせながら、膝を悲劇のヒロインのように崩れ落ちていく。

 

「何がおしまいなんだよ」

「……遠山。お前は見てはならないものを見た。生かして帰すわけにはいかん!」

 

ちゃき。ジャンヌは涙目で魔剣(デュランダル)を取り出した。

 

「お、おい…!そんな格好でも武装してたのかよ!」

 

俺に裸でも見られたかのようなジャンヌが持つ鞘を慌てて押さえると、手に力が入らないのか、呆気なくジャンヌは剣を離してしまった。

 

「この部屋を見たものはいない。ここは私だけの秘密の楽園なのだ。理子にも秘密にしていたのに……!」

 

わなわなと震えるジャンヌのエプロンの裏側から今度は拳銃がでてきた。

 

「わ、わかった。秘密にする。だから撃つな」

「本当か?もし誰かに話す……例えば北条等に話したらお前を冷凍マカロンにする」

「約束する。というか人間はマカロンにはならん」

「まあ、こんなところで発砲したら服に穴が開くしな」

 

と銃を収めてくれた。

ジャンヌの中では、服>俺 らしいが、まあそれで助かったんだ。お服様々だ。

 

制服に着替えたジャンヌは頬をピンクに染めたままだが、コーヒーを淹れてくれた。

 

「言っておくが、私自身でもわかっているからな」

「何をだ?」

「ああいった服は私には似合わないということだ」

 

本当に恥ずかしそうにジャンヌは俺のことを見てくる。

 

「あの手のドレスは紅華や理子など小柄な少女が着ることで愛らしくまとまる。だが、私はこの身長だし、男のように幼い頃から育てられてきたから、本来合わないのだ。しかしそう思えば思うほど、なぜか私はああいうドレスに憧れを…」

 

あー…気持ちわからなくもないな。人間は自分にないものに強く憧れる習性があるからな。

 

「それで理子の影響や紅華が着ているのを見て、1着だけ日本の原宿で買ったら…癖になってごらんの有り様だ。笑いたければ笑え。ハハハッ…」

 

今度はジャンヌも壊れ気味のようなこと言い出すので

 

「いや、笑ったりはしない。可愛かっただろ」

「か、可愛い…?」

 

俺の言葉が意外であったのか瞳を丸くした。

 

「ああ。似合ってたし心配するな」

「お前は変なやつだな。センスがないぞ」

 

と言って横を向いたジャンヌはちょっとにやけるのを我慢してるようになったぞ。

………やはりな。

女子は想像してない急なタイミングで可愛いと言われると喜んだり慌てたりするのはヒス俺に対する銀華/紅華で学習済み。服は特に褒めると良い。

ジャンヌも例に漏れなかったみたいだ。

これでようやく本題に入れそうだ

 

「ところで、お前どこへ行ってたんだ?宣戦会議の後」

「『眷属』らの動きを追っていた。ずっとな」

「奴らはどうしてる?」

「皆それぞれの拠点に戻り機会を窺っている。すぐに動いたのはヒルダぐらいだ。実は私も奴と接敵してひどく感電させられてな」

「怪我ってやつかそれが」

「見た目だけではわからないだろうが、全身の腱にダメージが入り手足に力が入らない。おかげでしばらく戦闘は無理だろう」

 

だからさっき俺に剣を取られたんだな。

 

「ヒルダには俺たちも襲われた。ギリギリ無事だったが」

「理子から聞いている。だが安心しろ。やつは一月もすれば東京から居られなくなる。玉藻が不眠不休で鬼払結界を広げているからな。既に品川、豊洲など湾岸地帯には近づけない。即席だから1年しか保てないらしいが、強力なものだぞ」

「キバライ結界?なんだそれ」

「わかりやすくいうと鬼、魔物の類が入ると、人間で言えば中性子線を浴びているような状態になる。そのため鬼が侵入できなくなる区域になるのだ」

「すごいことしてるな裏で…」

「今に始まったことではない。東京は元々香港やローマと並び耐魔性が強い都市だ。山手線と中央線が鋼鉄の陰陽太曲線を書いてるから、その円内ではあらゆる魔物が弱まるのは有名な話だ」

 

どこが有名な話だ。一回も聞いたことねえよそんなの。

 

「ところでジャンヌ。アリアに『眷属』『師団』の件話すか?あいつ無理に突っ込みそうだからまだ話してないんだが」

「そうだな。アリアにはギリギリまで黙っておこう。この戦いは防衛の方が有利だ。アリアに言って無理に攻められると困るからな」

「俺も同意見だ」

「あと北条はどうだ?あいつはお前に惚れているだろう。お前のHSSとか使って引き込めそうか?」

「感触としては悪くはなさそうだ。まあ、すぐにとは言わんがいずれ引き込めると思う」

「あいつとは気が合うわけではないが、仲間としては頼り甲斐がある。言い換えると敵になると手に負えない強さだ。お前の働きを期待している」

 

ジャンヌが妙に期待する声を俺に掛けると、ジャンヌの携帯が鳴った。

 

「中空知だ」

「中空知って…横の部屋にいるだろう」

 

不思議に思う俺を置いてジャンヌは携帯に出てしばらく話している。

 

「うむ、わかった。少し待て……遠山。お前はこの部屋に残れ。お前を見てると中空知はいつもの力を出せなくなる。彼女とは携帯で話せ」

「どうした。先週中空知に何か依頼したって聞いたが、それか?」

「そうだ。転入生の会話を盗聴させている」

「転入生って……もしかしてワトソンか?」

「そうだ。私はヤツを疑っているのでな」

 

ジャンヌの言葉に俺は目を見開く。

 

「お前も気づいているらしいがヤツの動きは不自然だ。それで経歴を洗ったが、あいつは曲者だ。二つ名は『西欧忍者(ヴェーン)』、リバティー・メイソンでは有能な諜報員として勲章を貰ってるような男だ」

「……アイツ」

「……北条は警戒してないのか?」

「なんか銀華はワトソンに対しては『どうでも良くない?』って感じなんだよな。興味がないというか」

「まあそれならいいが…私は姑息なことをする奴が嫌いだ」

 

姑息って…盗聴はセーフなの?

それに以前、お前も銀華を攫ったり姑息なことしてただろという言葉がでかかるが言わないでおこう。ジャンヌが反ワトソン派なのは頼もしいからな。

 

「遠山。これを聞け。奴は動いたらしいぞ。アリアと一対一で話している」

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

……そろそろかな?

私はキンジに電話をかける。

 

「銀華、()()()()()()()()()。今すぐ車を貸してくれないか」

「はいはい。第三女子寮の前で待機してますよ」

 

キンジがアリアを連れ去ろうとしたワトソンちゃんを追うのは推理するまでもない。武藤くんはもうワトソンちゃんに籠絡されてるから移動手段は私しかないからね。先に待機しといてあげた。私はできる、つ、妻ですからね!

2分ほど待つとジャンヌの携帯を持った()()()()キンジが降りてきた。あれ……?

 

「銀華、助かるぜ。まずは俺の部屋に向かってくれないか?」

「……ベルセにはなってないの?ワトソンにアリアを奪われそうなのに」

「……いやアリアでなるわけないだろ。アイツとはビジネスパートナーみたいなものだからな。お前とは違う」

 

ズキュンッ!

う、嬉しいこと言ってくれるね。最近キンジはHSSじゃない時もこういうこと言ってきて心臓に悪い。

 

『音声、建物への反射音にて再捕捉。ワトソン、アリア車内にいます。車種はポルシェ911カレラ・カブリオレ。都道482号線を北東に走行中』

 

装備を取りに自室に一回戻ってから再び私の車に乗ったキンジが持つ携帯から中空知さんの美声が響く。

どうやらワトソンちゃんは車でアリアをどこかに連れ去るつもりらしい。

 

『アリアにワトソンが話しかけています。アリア、回答なし。眠っている模様』

「不自然だ。どんな眠り方か教えてくれ。難しいと思うができるか?」

『盗聴中………意識レベル、JCSⅡ-10以下。呼吸音・心音等のバイタルサインは投薬麻酔等による清明度の低下に酷似』

 

ワトソンちゃんはアリアに眠剤でも盛ったみたいだね。

 

「台場のホテルから北東に向かっている。どこに行くか推理できるか銀華?」

「私に頼るのずるいよ……まあ私は機嫌がいいから教えてあげる。東京スカイツリーだよ目的地は」

『車内のカーナビゲーション、入力音。目的地は東京都墨田区押上1-1-2。北条さんの推理通りかと考えられます』

 

中空知さんは女子寮の指向性レーザーマイクで半径3kmまで音をなんでも拾える。本当にすごい能力だ。超能力と変わんないよ。

私は車に搭載されているアイに建築途中のスカイツリーに向かうように言う。

少し経つと、

 

『ワトソン、アリア。音声捕捉限界に到達しました。首都高速汐留JCTにて音声消失。ここからは聴音不能と判断されます。お気をつけて』

「ありがとう、中空知。助かったよ」

 

そう言って車の隣に座るキンジは電話を切った。

そして私の方を向く。

私を見るキンジの顔は言うか言わないかどこか迷ってる顔だ。

ち、ちなみに私はこの後の起こることが推理できている。

そして決心がついた顔で

 

「銀華………いいか?」

 

と言ってきた。

……

『何が』とは聞かない。わかっているから。

 

「ワトソンはこっちの俺じゃおそらく勝てない。お前の力を借りたい」

「約束したしね。協力してあげるって」

 

これは『師団」への援護ではない。『婚約者』としての援護だ。

 

「ありがとう」

「お礼はいいよ。早く済ませちゃおう」

 

その私の言葉を最後に私たちの声は聞こえなくなる。聞こえるのはお互いの舌が交わる音。唾液を交換する音だけだ。

 

頑張ってね、キンジ。

 




15巻ジャンヌめっちゃ良かったのに、16巻のリサで全て持ってかれて不憫だ…40巻のジャンヌは結構良かったけど。

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