哿と婚約者   作:ホーラ

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42巻の新ヒーローは8が好き


第16話:瞬殺

俺は何度かエレベーターを乗り継ぎ、たどり着いた先、『350m』と書かれた第一展望台に侵入する。

未完成の展望台は剥き出しのコンクリートで足元を塗り固めただけの状態だ。

いくつかの機材が隅にあるだけで他には何もない。

物音はしない。だが、微かにシナモンのような香りがーー

 

「やるじゃねえか、ワトソン」

 

俺はまだ影も形も見えない相手に話しかける。

やつはいる。確実に。

 

「お前が武偵高で俺に外堀を埋めていた理由がわかったぜ。アリアを攫った後、俺と戦うことを想定していたんだな」

 

オロチは片手しか間に合わなかった。もし、ココとの戦いで身につけた銃弾逸らし(スラッシュ)をやるとしたら左手は犠牲にせざる得ない。

どんな不利でも一回しか使えない。

使用回数を制限、いやほとんど封じられたと言ってもいいだろう。

 

「俺は今まで、仲間と協力して物事を乗り越えてきたフシがある。イ・ウーの件も銀華やアリア、武藤たちとのチームワークがなかったら乗り越えられなかっただろう。お前はそこに目をつけ、俺を孤立させた。薄汚い真似をしやがるぜ」

 

俺の横にはいつも銀華やアリア、白雪、レキがいた。サポートも武藤や平賀さんがしてくれた。

だが今回はそれがない。

 

「出てこいよ。それとも朝まで隠れてるつもりか?」

 

ピリっ…

周囲の空気が張り詰める感覚がある。挑発に乗るあたり、ワトソンは頭に血が昇りやすいタイプだ。

 

「何をしにきた?」

「それを聞くか?」

 

俺はベレッタのスライドをコッキングすることでその問いに答える。

声の方を見ると……いるぞ。

円形の展望台の逆側。

 

「俺はアリアを奪い返しにきた」

「何を言っているんだトオヤマ。アリアはボクのものだ。アリアは渡さない」

「そうもいかない。俺はバスカービルのリーダーなんだ。チームメンバーがやられたら内申が下がる。アリアをどうした?」

「薬で眠らせてある」

「いいのか?婚約者に対してそんなことして」

「婚約?ああ、それはゴッコ遊びみたいなものだ」

「遊びか。そうか」

 

アリアとの婚約を馬鹿にするような反応に、俺と銀華の婚約を馬鹿にされたと感じる。

 

「正式にボクのパートナーになるにはアリアは頭が悪すぎる」

「それならお前も教育してやる。武偵高なりのやり方でな」

 

ゴロゴロ……と雷が遠くで鳴る。

俺の怒りに合わせるように。

 

「トオヤマ、先に言っておくがイギリスでは自衛のための殺人が武偵には認められている。そしてボクは、王室付きの武偵でもある。つまり、キミを日本で殺しても罪に問われることはない」

「安い脅しだ。ワトソン。銀華やアリアは脅しと同時に攻撃してくるからな」

「そんなことはしない。ボクは正式に決闘を申し込む」

「そうかい、それなら受けてやるよ」

 

俺がそういうと、カシュッ、という小さな音がワトソンの方から聞こえる。

今のは無針式注射器の音だ。

ここで使うということはおそらく武偵用の中枢神経刺激薬だろう。日本では禁止されているが、一時的に集中力が増す等の効果があるドラッグだ。

 

「教えてやろう」

 

薬が回るまでの間、時間稼ぎのつもりかワトソンはそう切り出し

 

「ボクがアリアから遠ざけたのは彼女を保護するためだ」

「保護?」

「『師団』にいれば確実にアリアは殺される」

 

極東戦役の話か。

 

「実際、アリアを守っていた殻金は『眷属』が5つ、『師団』は2つだ。既に彼女は危険に晒されている。ボクはアリアの安全のために彼女をキミから取り上げる。君たちは判断を誤った」

「宣戦会議では、お前らリバティーメイソンは中立だっただろ」

「現状を見て、ボクが『眷属』につくよう進言した。今、本部で審議中だよ。来週には可決されるだろう」

「それならいい。敵の芽は早めに摘ませてもらう」

 

俺は自分から間合いを詰める。これ以上喋ると薬でアイツが有利になるからな。

目指すべきは早期決着だ。

 

「どうした。殺傷圏内(イン・レンジ)だぜ」

 

拳銃交戦距離に入った俺が低く言うと、

ザッ!

ギリギリまで薬が回る時間を稼いでいたワトソンが駆けてきた。

黒袖からスリーブガンの要領でP226Rを出したワトソンが即座にそれを連射してくる。

ギギギギンッ!

俺の前方1〜2mで全ての弾丸が四方八方に飛び散る。

ーー銃弾撃ち

俺には弾は効かないぜワトソン。

全て弾を撃ち尽くしたワトソンは夜戦用の黒に着色したナイフを手に持ち、すれ違いに様に刃を振るう。

狙いは右手首なようだが、俺に刃も効かないぜワトソン。

ヒステリアモードの俺には全てがスロー。ナイフの刀身を狙ってきた右手でニ指真剣白刃取り。

それを見たワトソンはナイフから手を離し、俺の頭めがけ見え見えのハイキックを放ってくる。後ろにスウェーして躱したが、右ハイはブラフだったらしい。スピンして俺の側頭部を狙う左の裏拳を放ってきた。

それも軽々かわすが、違う、裏拳もフェイント。回転した際に肘から出したブレードの曲刃が俺の顔面に迫ってくる。

 

「だから効かねえって」

 

先ほどから右手に持ってるワトソンのナイフをふるい、肘のブレードを破壊。左手で肘を掴み、足を払いながらダンスするように仰向けに倒した。起き上がってこないよう浮き固めでのしかかりながら。

 

「チェックメイトだ、ワトソン」

 

起き上がってこないよう右膝でやつの()を押さえるのだがワトソンのそこは妙に柔らかい……男にしては柔らかすぎる……こっ、この、感触は……

 

「……!」

 

って嘘だろ…?

 

「……ッ!」

 

悔しそうに俺を見るワトソンがフッ!と針を吐いてくるが全てがスーパースローに見える俺に当たるわけがない。顔を傾けながらよけ、俺は散々嫌がらせしてきたこいつに一番嫌がりそうなことを言ってやる。

 

「お前女だったのか」

 

☆★☆

 

ワトソンちゃんくんを後ろでに手錠をかけ拘束する(諦めずにあちこちから武器を出してくるから時間がかかった)。

 

「殺してくれ……お前に女とバレたこと…もう、耐えられない…キリスト教徒は自殺できない。女とバレたボクはどうせ戻ったら殺されるし、それも事故死にさせられる。武偵法を守る必要はない」

「女は殺せねえよ」

 

例えリゾナでもヒステリアモードはヒステリアモード。武偵法があろうとなかろうと当然女を殺すことなんてできない。

俺の言葉に再び涙目になるワトソンだが………それにしてもあまりにあっさりワトソンを制圧できて驚きだ。もしかして、かなり俺も強くなったのか…?銀華が『1人でなんとかしてねー』と言っていたのは俺とワトソンの戦力差を感じていたのかもしれない。

 

「ていうかなんで、『転装生』・男のフリなんかしてたんだよ」

 

転装生とは極々稀に男子が女子のフリをして、女子が男子のフリをして武偵高に通うことだ。例を挙げると…絶対に!絶対に!ないことだが、俺がクロメーテルに変装して武偵高に通えばそれは転装生となる。

転装生のワトソンちゃんくんは何も言わないので…

 

「黙っていたら言いふらすぞ」

 

と脅すと……

 

 

「………バレてしまったものは仕方ないから教える。アリアをワトソン家に入れるためだ。男のボクと結婚すればアリアをワトソン家に入れられる。ボクは元々そのため男子として育てられたのだ」

 

………なかなか複雑な育て方をされてるな、ワトソンは。

まあよく考えれば武藤のグラビアも興味なさそうだったし、ヒステリアモードの本能が妙な危険を感じていたのも女だっただからなのだろう。

 

「貴族の社会的責任ーーそれを果たすためワトソン家はリバティー・メイソンで無償で秘密裏に世の中を救う活動をしてきた。しかしここ30年ほど凋落傾向にあった。オモテ社会の金融業で成功してた分、逆にそこを蔑まされていた。それで…」

「アリアを使おうとしたワケか」

「そうだよ…ホームズ家はリバティー・メイソンに加盟はしていなかったが、活動には賛同し協力してくれていた。だから将来有望な探偵、あるいは武偵に育つであろうアリアの誕生を知った先々代の当主がホームズ家と密約を結び……その冬に生まれる予定だったボクの許嫁にしたんだ。生まれたボクが女子だったことはホームズ家には隠されていてね」

 

あーだから男として育てられたのか。

それで嫌がらせされてた俺は良い迷惑だぜ。

 

「だが…トオヤマ。それは事態の裏面に過ぎない。さっきボクが言った、アリアの身に迫る危険も本物なんだ。バスカービルの君が『眷属』を選ばない限りーーこのままではアリアは……」

 

と縋るように言ってくるワトソンに…

 

「今から『眷属』になったら今度は『師団』に狙われる。裏切り行為とか言われても、ジャンヌに凍らされたり、レキに撃たれたり、玉藻やメーヤにわけわからん術をかけられたくはない」

「だが紅華・イステルは……」

「……紅華がどうした?」

「お前の婚約者、紅華・イステルはおそらくそのうち『眷属』につくぞ。そしたら『師団』に勝ち目はない」

「紅華がなんだ。もし紅華が相手でも問題ない。俺は裏切る方が嫌だ。チームの仲間を守る。相手が誰でも関係ない。襲う奴がいるなら守る。攫うやつがいるなら奪い返す」

 

実際、紅華はまあたぶんなんとかなる。

あいつ俺に弱すぎるし。

 

「どうしても『眷属』にはならないのか?どんな不利で危険でもか」

「いつものことだ」

 

という俺を拘束されたまま見上げたワトソンはーーなんか目つきが急に……きゅん…と女ぽくなった気がする。嫌な感じだ。

 

「わかった……トオヤマ。ここからはボクも協力しよう。もし君がボクの女のことを黙っててくれるならばリバティー・メイソンへの『眷属』帰属提案も撤回し、『師団』になるよう再提案しよう」

「ああ、お前が女ということは生涯秘密にしてやるよ」

「ありがとう、トオヤマ」

 

そう言ってワトソン派柱の影の方を見る。

 

「あそこに銀弾の弾倉が2本ある。それとアリアはこの上にいる。それを使え」

「なんで銃弾がいるんだよ」

「それは……」

 

ワトソンが言葉を言い切ることはなかった。

なぜなら眼下の街、その一部で起きている異変に気づいたからだ。

ある一角の電気が次々と消えていく。上から見ると黒くなった空間が広がっていくように見える。それが続く。どうやら停電らしい。

 

「……?」

 

その代わり、明るくなったのは俺たちの遥か上空。なんだ?スカイツリーの450m付近、第二展望台あたりで何かが光っている。

もしかして下で戦っている間に上で、工事をしていたのか?

 

「ーーッ!Watch out!High!」

 

その光に気づいたワトソンは慌てて英語で叫んだ。

光が落ちてくる。まるで太陽やライトが落ちてくるような……

いやライトじゃない。

大きい。

直径2mぐらいの球状の光!

 

「トオヤマ、ボクから離れろ!」

 

ワトソンの声が聞こえた瞬間。

俺の視界が真っ白になった。

悲鳴すら上げることができず、ワトソンはその球体の直撃を受けた。

俺の耳にバリバリと虚空をつんざく放電音(スパークノイズ)が響く。

これはーーーヒルダの技!?

どういうことだ、前襲われた時よりもずっと強い!

 

「ワトソン!」

 

返事はない。

上にはアリアとヒルダがいるってことか…

ヒルダ…前はなすすべなくやられたが、今回は前とは違うところを見せてやるぜ…!

 




ワトソンってたぶん真正面から戦ったらアリアより弱い気がするので超強化キンちゃんだと瞬殺。ワトソンはイ・ウー時代紅華と会っていないので原作より強化されないというこの作品では不憫なキャラ。

次回・超強化キンちゃん様vs超強化ヒルダ前編

良いお年を
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