哿と婚約者   作:ホーラ

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明けましておめでとうございます


第17話:紫電の魔女

 

「大丈夫か…ワトソン!」

「……だ、大丈夫ではないな。ヒルダと関わった時から防具の耐電性は高めてきたつもりだったが…す、すまない」

 

俺と戦ったワトソンだが、たった一撃でスタンさせられた。見たことも聞いたこともない、直径2m弱のボールの形をした雷によって。

今この現象はヒルダの攻撃と見て間違いないだろう。

 

(あれをもう一発撃たれたら…!)

 

まずい。

敵は第二展望台、つまり俺たちの上を取っており俺たちは丸見えのはずだ。第一展望台は工事中で柱以外に遮蔽物となる天井がないのだから。

俺は急いでワトソンを抱えて、退避しにかかる。

しかし、エレベーターは眼下と同じく停電中。

ボタンを押しても反応がない。

仕方なしに駆け降りた工事用の階段の途中に扉を見つけ、蹴り開ける。

扉の奥は小部屋になってきて上からの視界もない。ここならひとまず安全だろう。

白雪は神社で今いないので他のバスカービルのメンバー、理子とレキに連絡しようとするが…

 

「…?」

 

画面がおかしくなっている。

画面に『電波障害が発生しています』とだけ出るだけだぞ。通話ボタンを押しても繋がらないしメールもダメだ。

 

「おい、ワトソン。大丈夫か?」

「だ、大丈夫だ……一応、命に別状はない。それより、アリアだ。そこには…ヒルダもいる……ボクにはアリアを連れてきてしまった責任がある……だから、頼む。同じアリアのパートナーとして……頼む……!アリアを救ってくれ…….!」

「心配するな。俺は元々アリアを連れ戻すつもりできてるからな。それがお前からヒルダに変わっただけだ」

 

俺の言葉で安心した顔になったワトソンは震える手で自分の装備━━サーベルを渡してくる。

 

「この十字箔剣(クルス・エッジ)を君に託す…使ってくれ。君も見ただろう。ヒルダは……これを嫌う」

 

喋ることすら辛そうなワトソンを前に俺は眉を寄せる。

……?

俺はこんな剣初めて見るぞ?

 

「そ、そうか。この剣を覚えていないか。ヒルダめ……外堀通りの戦いは覚えているね?」

「ああ。お前が助けてくれたやつだろ?」

「…なるほど。すぐには見破られないようあえて甘くかけたんだな。トオヤマいいからこれを持っていけ。ヒルダには通常の武器は通用しない」

「ああ、わかった」

 

ワトソンから剣を受け取るが…

自分のスクラマサクスも持ってきたから2振りの帯刀になる。銃も二丁あるし俺も双剣双銃(カドラ)になっちゃったよ。

 

「ヒルダは『紫電の魔女』。電気を操るがそれは生理的な力だ。奴の能力は素粒子を操る力だ。お前に分かりやすくいうと、周囲の物質を粒子にして、その粒を集めたり避けたりできる。多大な精神力━━ゲームで言うとマナ消費は悪く、効率も悪いようだが……さっきのように雷球を放ったり、地面を解かし影のように移動できたりする」

 

どうやらヒルダは地面に潜ってるだけで、実際の影になってるわけではないらしい。陸で潜水艦みたいなことやってるのかあいつ。

 

「ヒルダは賢い女だ。超能力に頼るだけではなく、古流の催眠術も使う。人間を何かの指示に従わせたり、何かを忘れさせたりする能力はそれだ。君の外堀通りでの戦いの記憶が曖昧になってるのもそれのせいだ」

「吸血鬼・超能力・催眠術か…厄介の三暗刻だな。まだ違う役があったりしないよな?」

 

最近覚えた麻雀用語でそう話すと、ワトソンは申し訳なさそうに……

 

「……まだある」

「なんだ?」

「君は宣戦会議でヒルダと君の婚約者・クレハが仲良くしてるのを見ただろう。彼女はイ・ウー時代、紅華を師と仰ぎ、推理力の向上を行なった。そしてその結果『教授』や『クレハ』に及ばないまでも、それに近い『条理予知』なら行えるようになったという」

 

……条理予知。

シャーロックや銀華が使う未来を予知する推理だ。

 

「まあそれは大丈夫だ。どうやら俺は『条理予知』に対しては特攻薬らしいからな」

「……確かに、君は教授もクレハも倒している。普通なら有り得ないことだけど……今の君を見てたらわかる気がする。本当は一緒に行ってやりたいが…ボクはしばらくは動けそうにない」

「そうだろうな。他に何か知ってることはあるか?」

 

アリアが心配になってきた俺はそろそろ反撃に転じようと銀剣を背に立ち上がる。

 

「ボクはヒルダに完全に信用はされていなかったから、会わせてもらえなかったけど…彼女には協力者がいる」

「敵がもう1人で条理予知。厄介の四暗刻単騎待ちでダブル役満だな」

「頑張れトオヤマ。君なら勝てる。君は不可能と思われていた教授やクレハを倒したのだから」

 

俺を責めて言葉だけでも励ましそうとしてくれるワトソン。

ありがとう。

それだけで十分だ。銀華の力を得た俺は誰にも負けないさ。

 

☆★☆

 

第一展望台に戻ると、街の灯りが元に戻ってるのが見える。

どうやら先ほどの雷球を撃つために街から盗電していたらしい。人騒がせな女だよまったく…

 

(しかし、撃ってこないな)

 

もう一度雷球が来ないかヒヤヒヤしながら進んでいるのだが、そんな気配はない。

あれだけの大技だし、再装填に時間がかかるのかもしれない。

エレベーターが復活していたので第一展望台に登った時と同じように、乗り継いで上昇を繰り返す。

航空機が衝突しないように設置された赤く光る警告灯が金網から格子状の影を俺の顔に落とす。

眼下の景色は人工衛星から撮影した航空写真のようだ。

 

(それにしてもたけえ…)

 

もう既に435m、東京タワーより100mほど高い位置におり、そこからは鉄パイプと鉄板を組んだだけの簡素の階段が上へと続いていた。

その階段に一歩踏み出そうとした時、

 

「キンジ」

 

頭上からアニメ声がした。

 

「……!?」

 

顔を上げると鉄骨の陰に

 

「アリア…!」

 

アリアだ。いつものピンクツインテールを風に靡かせて少し上にある鉄板の踊り場に立っている。よかった。目が覚めたんだな。

 

「大丈夫か?ワトソンに眠剤かなにか飲まされたみたいだが」

「平気よ。ここに着いた時は寝てたから状況の把握に時間がかかったけどね。あんたこそ平気?ここに来たってことは倒したんでしょ、ワトソンを」

「別に問題ない」

「あっそ。あんたが上がってくるとは私は思ってたけどね」

 

頑張って(?)ワトソンを倒してきたのに軽いなあお前。信用されてるからかもしれんが。

 

「来て、ヒルダと話すわよ」

「話すって…俺とお前はあいつの親父・ブラドのカタキだろ?話が通じる相手か?」

「通じるわ。ヒルダはブラドより計算高い。ひいお爺様と紅華を倒したキンジをそれなりに警戒しているみたいだわ」

「買い被られたもんだな」

「戦うだけが武偵じゃないわ。交渉できるならして、『()()』に寝返らせるまではできなくても…ヒルダとバスカービルの間で、不可侵協定ぐらいなら結べるかもしれない」

 

そういうアリアに手を引かれながら階段を上がっていく。

見れば、アリアは……イヤリングをしている。片耳だけ、刺々しいやつだ。ちょっとコウモリぽい。

どこか見覚えがあるんだが…思い出せない。

まあ、アリアの趣味なら変なこと言うといつもの拳銃(ガバ)が出てくるから言わぬが吉。危機管理は大事ですからね。

 

2人で上がった第二展望台は第一展望台よりもちろん狭いが、綺麗に片付けられていた。

ヒルダの姿は……ない。

でもあいつは地面の影に潜むことができる。油断はできないぞ。

 

「何かしらこれ」

 

アリアが見るものを俺も見ると、祭壇?

いや違う、通常よりでかいがあれは棺だ。

漆黒の棺が鮮やかな紅の薔薇によって飾り付けられている。あの見覚えのある薔薇は紅鳴館でブラドが育てていた『アリア』って名前のバラだな。

 

「こんなものまで用意して……交渉次第ではこれに入れって意味ね」

 

アリアの視線を追うと棺には俺とアリアの名前が刻んである。持ち運ぶためか棺桶には2つの太い電気コードのようなケーブルで繋がれているぞ。妙だな。

 

「『棺』は終の棲家。小さい領域とはいえ、誰にも侵されない個の領域。それは気高き吸血鬼からの至上の贈り物として心得なさい」

 

ぞぞ…ぞぞぞ………

北側の棺から日傘が出てくる。

くる。くるくる。

とふざけるように回すヒルダが、棺に腰掛ける形で浮かび上がってきた。

 

(銀華に聞かれたら膨れるかもしれんが、ヒルダすごい美人だな)

 

彫刻のような顔、蝋細工のような白い肌に抜群のプロポーション。そんな美人がゴスロリ服を着ると、魔的な感じがして、人間ではないヒルダは違和感がない。

 

「ふふ、見惚れているのね」

 

俺の視線に気付いたのか。脚を挑発的に組み替える。

 

「ああ、君は美しいよ。でも俺にはもっと美しい花が帰りを待っているからね。だから……」

 

俺は一息ついて……

 

「先に聞かせてもらおう。何をやっているんだ?()()

 

横のアリアにそう話しかける。

俺の言葉を聞いたアリアはツインテールをピンと伸ばすように固まった。どうやらバレていると思っていなかったらしい。

 

「なんで俺がわかったのか教えてあげるよ。アリアは『師団』『眷属』を知らない。わざと教えてなかったんだ。なのにさっきアリアは『師団』という言葉を出していた。またアリアは生物学上、ほんとギリギリ女って感じなんだ。理子のアリアは女性的すぎた」

 

俺はこの半年アリアに付き纏われていたのだから、顔が一緒でも見分けがつく。

というか、そもそもあの凶暴女が交渉がどうとかいうわけがない。

本物のアリアは考えるより先に強襲・逮捕を選択するのだから。

 

「……誰がギリギリ女よ…!!」

 

モゴモゴッ!

俺の横の棺からアニメ声が上がる。

 

「アリア…?」

「あんた後で風穴祭りだから。でもそれは後にして蓋開けなさい!」

 

そう俺に命令してくるので俺は仕方なく棺の蓋を開ける。

ビチャっ!

棺からグルグルに鎖で縛られたアリアが飛び出してきた。

そして俺をキッと睨んでからヒルダを睨む。順番逆では?

そう、この感じですよ。この感じ。

本物のアリアはこうでなくちゃ。

 

「理子ォ……!」

 

俺たちの光景を見たヒルダはザワァ!と縦ロールしたツインテールを揺らしながら足元の棺を蹴る。

 

「理子。お前は私の臣下にしてやるつもりだったけど、ペットに格下げよ。一生私の部屋でおもちゃにしてあげるわ」

 

ヒルダのその言葉にアリアの顔をしたままの理子は俯いたまま動くことができない。何も言わない。

理子らしくない怖気ついた顔で、ヒルダの怒りを否定することなく受け入れている。

 

(怖いんだ)

 

理子は昔ブラドに犬のように扱われていた。おそらくヒルダにも。その時のイジメのトラウマが理子をまだ蝕んでいるんだ。

怖くて、怖くて、逆らえないんだ。本当に。

 

「遠山を拘束する計画を失敗したのはお前の責任よ。今すぐに謝りなさい。ううん、謝るだけではダメ。失敗を詫びてこの靴に口付けして永遠の忠誠を再度誓いなさい。お前はそのイヤリングがついてる限り、私のものとして生きるしかないのだから」

 

どうやらあのイヤリングは何かヒルダに対して反逆を防止するシステムがあるらしく……ヒルダの言葉を聞いた理子はアリアの顔をした特殊メイクを取り、恐怖に震えながらヒルダの方へ向かう。

まるで断頭台に登る死刑囚のように。

ヒルダの下へ辿り着いた理子は、アリアの変装を解き、縋るような手つきで、捧げ持つように目の前のハイヒールに触れる。

いつもの陽気さは身を潜め、静かな理子は顔の下、コンクリートの床に……

ポタポタと滴が滴っている。

あれは理子の涙。

 

「武偵憲章8条、任務はその裏の裏まで完遂すべし」

 

俺の声にヒルダと理子がこちらを向く。

 

「理子いつだったか。君は俺に依頼したよね。『助けて』と。以前紅華も『表』で君を助けたのだし、今度は俺が『裏』を完遂しよう」

「ほほっ、紅華が理子を助けた?私は既に理子のことに関しては紅華の許可を得ているわ。つまり…理子は紅華に()()()()()のよ」

 

なるほど。

理子の心を折った理由はそれか。

 

「ヒルダ、君は何もわかってないだね」

「なんですって……?」

「紅華は理子にお前を倒すチャンスをあげたんだ」

 

俺は足で地面に寸頸を打ち込む秋水の前提技『秋草』を使いロケットのように飛び出した。

あまりの速さにヒルダは大きく目を見開く。

その隙に、俺は駆け抜けざまに理子をお姫様抱っこで救出した。

 

(スタンガンは面倒だな)

 

とある程度バックステップでヒルダとの間合いを広げる。

 

「……」

 

俺の腕の中で理子は……まるで幼児のように震えていた。幼少期に心に刻まれたヒルダへの恐怖と紅華に捨てられたということが理子を縛っているのだ。

一方素早く確認したところ、ぴちぴち!ぴちぴちぴち!

アリアは跳ねながら

しゅるしゅる!

と鎖から抜けていた。

コイツはツインテールごと縛られた時限定で縄抜けができるんだった。

 

「理子が私を倒すですって?トオヤマ、お前はどれほど馬鹿なのかしら。理子は私を倒せないから私に従ってお前を罠に嵌めた薄汚い女なのよ」

「そうだよ、キンジ…あたしは裏切り者だ。命惜しさにお前を裏切った薄汚い女だ」

 

ヒルダの声を聞くだけで震える理子は、俺の腕の中でボロボロと泣きじゃくっていた。

震える耳のイヤリングが鈍く光を反射する。

 

「薄汚くなんかないわ!」

 

しゅるんっ!

鎖から抜け出したアリアは、すかさず俺の背からワトソンの十字箔剣を抜いた。

 

「理子はちょっとムカつくけど、ヒルダあんたと違っていい子だわ」

「何を言ってるのかしら。私たちの一族は、気高き闇の眷属。当然私たちは迷わない。理子、お前のように闇に背を向けたことは一度もないわ」

 

ばさっ!

ヒルダはコウモリのような羽を広げ、一際大きく羽ばたき、棺の上に降り立った。

 

「それは竜悴公(ドラキュラ)は力を教条(ドグマ)とし、最も力を得て、生物の頂点に立った血族だからよ。力なき者は力あるものに服従して生きる。それがこの世界の現実」

 

カツン、カツン。

ヒルダが棺の上を歩くヒール音が鳴る。

 

「その現実からは逃げられない。強者の束縛の下で生きる。逆らえば殺されるのだから。理子。お前のイヤリングは、その教条の象徴よ」

 

教壇から語る教師のようにヒルダは語り続ける。

 

吸血鬼(私たち)は現実主義なの。紅華のように『弱者を助け、強きを挫く』などと理想は語りはしない。彼女の力ですらそれはなしえてないのが現実なの。だから……理子。あなたが私に従うのは当然のことなのよ。力あるものに従って生きる、普通の人間と同じ現実を受け入れるだけのことなのよ」

 

ヒルダのその言葉を皮切りに……フッ、フッ、フッーー

また少しずつ停電している…!

 

「現実を受け入れる。それは人として成熟するということ。泣くことは何もないのよ。お前はトオヤマとアリアを捨てると同時に迷いも捨て、大人になれるの。だから泣くことなんて何もないわ」

 

理子は両手で顔を覆い、ひっく、ひっく、とひきつるように泣き続けている。

我慢の限界がきた俺はご高説を垂れたヒルダを鼻で笑ってやった。

 

「力こそ全てか。ヒルダ、君は人間を見る目がないし、失礼だよ。まるで理子が弱い子のような言い方をしたんだからね」

「なんですって…!?」

 

キッとつり目をこっちに向けたヒルダに俺は笑顔を返す。

 

「君は弱い人間しか見たことがないんだな。俺は幸か不幸か、困ってしまうほど強い人間達を見てきた。理子もその1人だ」

「キンジ…?」

 

理子が泣き腫らした目で俺を見上げてくる。

 

「ヒルダ。君のいう通り、人間は裏切ったり迷ったりするだろう。しかし、その迷いを許し正しい道を選択するまでお互いを見守る強さもある。理子はほんの少し、方向音痴なだけ。だから俺が道標になってあげよう」

 

そして腕に抱いた理子へ父が娘を見るような優しい目を向ける。

理子の瞳を見つめ真摯に問いかけた。

 

「理子。君はブラドとヒルダに束縛されてきた。紅華が一旦解放してくれたとはいえ、それはきっと残忍で、厳しく、執拗な束縛だっただろう」

「……」

 

はっきりとしたふたえの理子の濡れた目が、

俺の目を見つめ返してくる

 

「理子。君はそのままでいいのか?束縛されたままでいいのか?」

 

まっすぐ、そう聞かれた理子は

 

「い、いやだよ…」

 

大きな目からさらに涙を溢れさせた。

止めようがないほど、泣いて泣いてーーぐしゃぐしゃに泣きながら

 

 

 

「……本当の、自由になりたいよ……」

 

 

 

 

そう言った。

 

「よし、よく言ったな理子」

 

俺は180度ターンして、理子をそっと足元に下ろす。

 

「それを聞けたならもう十分だ。俺が戦う理由ができた」

「遅い!もう少し早く決めなさいよ!竜悴公姫・ヒルダ。あんたを傷害・監禁・未成年略奪の容疑で逮捕するわ」

 

アリアは純銀の十字箔剣を取って構えながら、俺は法化銀弾が装填されたベレッタがホルスターにあるのを確認しながらヒルダに向かい合う。

 

「ああ、そう。私はまずアリアを殺すわ。そして今のトオヤマは私のアクセサリーにするわ」

 

そして、パチ……パチン………とその身に小さな雷を纏い始めた。

 

「『雷球(ディアラ)』。弱いワトソンの制裁に使ったのは80%ほどだったけど、アリアには100%をお見舞いしてあげるわ」

 

ツンと突き出した彼女の胸の前にピンポン玉のような黄金の雷球が発生している。

それが野球ボール→バレーボール→バスケットボールと1秒ごとに大きくなっていく。

くるぞ。

あれは街の電力を使ったヤツの決め技だ。

ワトソンを撃った球状の雷と同じ。

 

格闘戦になったら俺たちは不利だ。

何せあのスタンガンみたいな攻撃を防ぐ手段は今の俺たちにない。

銃を見ればブラドと同じで奪いにくるだろう。だから見せない。奴が前の接触時に見せた電気で人を攻撃する際の癖、一瞬力むクセの瞬間、その無防備な時に撃たせてもらう。

俺の銃技の中で最も早い技『不可視の銃弾』でな。

アリアも勘でそれがわかってるようで動かない。

雷球はワトソンが食らったものよりすでに二回りぐらい大きいが、恐れることはない。あれが飛んでくる前にヒルダを倒すのだから。

 

(さあ、いつでも来い!)

 

ヒルダが力むのは約0.5秒。

だがそれだけあれば十分だ。

ヒステリアモード、それにリゾナは天下無双。

誰にも負けたりはしない。

俺はヒルダが力を込める瞬間を見逃すまいとその美しい顔を凝視する。

 

「トオヤマ。お前は幻想を語る愚者。お前は幻想の中で囚われたまま、アリアが死ぬのを見ていなさい。幻想は夢。夢は現実たりえぬのだから」

 

すうぅ、とヒルダはそこで息をつき、黄金の雷球を放とうと、力みーー

今だ!

(不可視の銃弾ーー!)

 

…!?

 

「…ッ!?」

 

どうした。どうしたんだ。

手が動かない。俺は電撃何一つまだ食らっていないのに。

 

「お前達、学習能力がないのねぇ、トオヤマ、アリア」

 

雷球を放つフリをしたヒルダはニヤリと笑い、雷球を自分の頭上に移動させた。

 

「下品な香水のような銀の匂いをプンプンさせて、私が気づかないとでも思った?お前達は必ず私を見る。だから私も暗示術(メンタリズム)を準備していたのよ」

 

…しまった。

これがワトソンの言っていた暗示術か…!

アリアも動かなかったんじゃない、動けなかったんだ!

 

「科学が発展するように、魔術も日々進化してきた。自分の身体から消費するだけでは、精神力はすぐそこをついてしまうわ。だから、体外から力を得る方法が編み出されてきたの。パトラが星から力を得るように、紅華が自然から力を得るように、私は人間の使う電力をいただく。近年の分類で言えばII種超能力の1人よ。さあ、これで100%」

 

語りつつ、雷球を育て上げたヒルダはその肌からも短い雷を空に放っている。

 

「アリア。今からお前は死ぬのにいい表情よ、フィー・ブッコロス(素晴らしいわ)…!」

 

今度こそ本当に小さく力んだ時。

 

「ーー?」

 

風に乗ってビー玉のような何かが地面スレスレを駆けた。俺の足元からヒルダの立つ棺の側面へ。

あれは…シャボン玉…?

いや違う。

あれは新幹線の中で見た『爆泡珠』、気体爆弾だ。

 

ドウウウウウッ!

 

爆発に第二展望台が大きく揺れる。棺を彩っていた赤薔薇や蔦植物などが空を舞う。

ヒルダが、ピンヒールの足でよろめくと…

フッ

まるで電源を抜かれた電球のように消えて無くなってしまう。

 

「4世……!」

 

振り向くと俺の横では、震える指で極小の香水瓶を摘んだ理子が立ち上がっていた。




頑張れ理子りん
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