ここからはほとんど聞いた話になる。
というのも、俺はワトソン、ヒルダの連戦で脳を酷使していたらしく、カナほど長い時間ではないが2日ほど連続で眠り続けてしまったからだ。
まあ、鉄風のような荒技もやったし仕方ないのかもしれない。
まず理子は助かった。
俺がヒステリアモードが解けると同時に、銀華も解け、紅華に変身して塔の上まで飛んできてくれたらしい。(人間か?)
解毒はあまり専門じゃないらしいが、応急処置で一命を取り留め、武偵病院でちゃんとした解毒を行った。
そしてヒルダも魔臓機能が不全なのにも関わらず、驚異的な生命力で手術を乗り切った。彼女の体内にはおおよそ200発以上の散弾銃の弾が埋まっていたというのだから驚きだ。しかし血液不足に陥いり、血液型も特殊で一時は生命の危機だったらしいが、どうやら同じ血液型だった理子が輸血したことによって、ヒルダは息を吹き返した。病院で最初は暴れていたヒルダもそれを聞いて大人しくなったらしい。
ワトソンとヒルダの件、これにて一件、いいや、二件落着ってところだな。
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キンジのHSSが長かったせいで私のHSSも今までで一番長かった。キンジほどじゃないけど脳を使った影響に加え、理子とヒルダの治療の疲れからか、しばらく何もやる気が起きずに家でゴロゴロしていると
ピンポーン!
とインターホンが鳴った。
私はパジャマから普段着に急いで着替える。
その時間僅か5秒。
この高速着替え術も変身をする上で身につけた技だ。
髪を整え、身だしなみを急いでチェックする。
うん、大丈夫。
インターホンを鳴らすのなんてどうせキンジなのだからと気合を入れて身だしなみを整えたのだが、私の推理と違った。
ガチャっと玄関のドアを開けると
「あれ?」
「今いい?しろろん」
理子だった。
いつもの陽気さは身を潜め、真剣な顔をしている。
「いいよ、入って」
「お邪魔しまーす」
理子はチェリーみたいな飾りのついた靴下のまま私と共にリビングまで歩く。
歩く時にぽんぽんと跳ねるものだから、ヒラヒラのスカートや緩いウェーブの髪が空気をはらみ…
ふわふわ
とバニラみたいな理子の甘い香りが漂ってくる。
女の私から見てもとても良い女の子だ。
そんなことはさておき……
リビングのソファーで横並びに座ると同時に
「で、今日はどうしたの?」
単刀直入に聞く。
まあ大体推理できているけれど。
「お礼と宣戦布告かな」
「宣戦布告……?」
私の推理の範囲外の言葉が出てきて首を傾げる。
「まずはお礼。助けてくれて、ありがとう」
「うんん、私は応急処置しかしていないよ。お礼は解毒してくれた矢常呂イリン先生に言いなよ」
矢常呂イリン先生は救護課の先生で、彼女の治療を見たワトソンちゃんくんから彼女は天才だったと聞いている。
「先生にももちろんお礼は言ったよ。でも治療の他にもしろろんはあたしを救ってくれたでしょ?」
「……いや、それは昔のことでしょ?いまさらお礼を言われる筋合いはないよ」
「ブラド、そしてヒルダを倒せるようにキンジを貸してくれたんでしょ、違う?」
「…………………」
………バレてる。
理子を拾った私であったけど、完全に自由にすることはできなかった、ヒルダやブラドがいたから。イ・ウーでの私の立場上、理子だけを優遇することはできなかった。
だから、私自身ではなくキンジを使って理子を解放するというプランを立てたのだが、どうやら気づかれてしまったようだ。
「いや、私がいなくても同じように運命は進んでいたよ。多分父さんの策略でね。だから私に感謝することはないよ」
「それはそうかもしれないけど、あたしは紅華のおかげで牢獄から出れた。キンジのおかげで自由な本当の私になれた。2人のおかげだよ。この恩は必ず返す」
私の目をしっかり見る理子の目は有無を言わせない目だ。
…こ、困ったなぁ。
「あー、まあ恩がどうとかは考えなくていいよ。私が勝手にやっただけだから。それよりせっかく自由になったのだから自由を満喫したら?それが私への恩返しだよ」
あんまり気が利かないようなことしか言えない。
だって私の視点では私は何もしてないから。
「そうだね……今まではずっとブラドとヒルダのことが心のどこかにひっかかっていた。逃げたかったから戦ってきた。でもそれがなくなって、自由になって、不安でもあるよ」
「無理する必要はないね。理子は理子らしく生きればいいんだよ」
私が前キンジに言ったようなことをいうと、理子はクスリと笑った。
私そんな変なこと言った?
「キーくんも同じようなこと言ってたよ。理子らしく生きろって」
………キンジ、もしかして私の言葉引用したな。
ノーマルモードのキンジは口下手で気の利いたようなこと言えないから仕方ないけど。
「だから、理子は理子らしく生きるよ。これが二つ目の宣戦布告」
「?」
私が推理できなくて、はてなマークを浮かべているところに理子は私の耳に近づいて
「理子はね。何回もキーくんに助けられてね、キーくんを好きになってしまったのです!」
「!?!?!?!?!?」
思わずソファーから飛び上がってしまう。
そ、それは困るよ!
「だから理子はしろろんからキーくんを泥棒しちゃおうと思ってるの。泥棒だから宣戦布告より予告状かな?」
だめ、だめ、だめ!
理子は可愛い。
目鼻立ちが同性から異性からも好かれる造形。
肌も化粧品のCMに出れそうなぐらいきめ細やかで柔らかそうなまつ毛も同性の私ですらその長さに驚かされる。
そして蜂蜜色の金髪。これもため息が出るほど美しい。
これに加え、何度か羨んだことがあるぐらい私よりはるかに大きい胸。
自慢することじゃないけど、私が男だったら絶対理子を見るたびにHSSになってる。キンジは頑張ってる。
そんな理子にキンジを狙われてしまったら、とられてしまうかもしれない…!
「本当は欲しかった『しろろん』が『キーくん』に取られちゃったから、今度は『しろろん』から『キーくん』を盗ることにしたんだ!」
「だめ!キンジは私のもの!」
ぐぬぬぬぬ、と歯ぎしりする私のことを見て理子はどこか嬉しそうだ。
「でも理子はドロボーですから、盗むものが難しければ難しいほど燃えるんだよね」
楽しそうな理子を見て、宣戦布告をされているはずなのに、私もつい微笑んでしまう
……ああ、なるほど。
「じゃあ理子がどれぐらいキーくんが好きか教えてあげる。恥ずかしいから小さい声だけど」
私のキンジへの好き度とどれぐらい差があるか参考までに聞いておこうと思って、ヒソヒソ話の手つきをした理子の方へ体を傾け、耳を寄せる。
そしたらいきなり理子が
ちゅっ。
頬にキスしてきた。不意打ちで。
「り、理子!?」
「くふふっ!これが理子のしろろんへの今までの気持ち。今までの理子とは
女の子とのキスなんて初めてで、それに不意打ちだったのでちょっとHSSになりそうでびっくりしたけど、理子の『してやったり』みたいな顔を見て私も一緒に笑ってしまう。
「うん、負けないよ!」
ああ、よかった。
理子は昔の自分と別れを告げ、今の本当の理子になった。
理子と私は昔からこうなりたかったんだよ。
助けた・助けられたの関係じゃなくて。
本当の友達の関係に。
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ヒルダ戦の後また嘘のように平和な生活が戻ってきた。
アリアとワトソンの婚約は結局破談となった。
アリアもそれを聞いて『そんなことだとは思ったわ』と言っていたらしい。しかし自分が女子ということは心の準備ができてなくてまだ言えなかったらしく、それを解消するためにリハビリをする(リハビリってなんだよ)とか宣ってきたので、バレた時に銀華が怖すぎるので丁重にお断りした。
文化祭の変装喫茶では銀華のウェディングドレス姿やジャンヌのメイド服姿等で馬鹿どもが盛り上がる等の事件があったが、まあ
極東戦役はヒルダを倒したことで師団側に少し有利に傾いた。出張でいなかった白雪にも、話すと暴走しそうだったアリアにも極東戦役の情報をちゃんと話せたし、これでバスカービル全員がちゃんと極東戦役について知ったことになる。
平和に順調に進んでいると思われた日々であったが…すぐそんな日は失われた。
10月31日の深夜、再提出を求められていた転出届の再提出を終えると、翌日は日曜日だ。
俺は情報課のPCルームで民間の依頼を物色して時を過ごす。
目下の課題は俺自身の財政難を解決するためだ。
『オロチ』の左手分として平賀さんに払う代金ぐらいはすぐに用意しないとまずい。
そう思って検索するが、短期間で高収入なものは危なかったりするものばかりで、いまいちいい仕事はない。
などと、仕事を選り好みしていたら夜になってしまい、誰とも話さないまま一日を終えた。
やっとめぼしい依頼を教務課の依頼板で見つけ、男子寮に帰ると
「……?」
廊下に点々と血の汚れが続いていた。
それ自体は悲しいことに
ーーー!
ドアの前にハイマキがうずくまっている。
「どうしたんだ…!?」
銀色の毛は血で汚れ、京都で多数の犬に襲われた時と同じぐらい負傷している。
慌てた俺が膝をつくと、口に咥えていた携帯を震えながら渡してきた。
見ればその携帯はレキのものであったが……事態が事態なので開くと
初めは、なんだかわからなかったが、携帯は写真を撮った直後の状態になっていた。
画面下に『保存しますか?』のポップアップがあり、そこに映っていた写真は
(なんだ!?これは!)
白銀と漆黒のガバメント。
イロカネアヤメ。
マッドシルバーのデリンジャー。
ドラグノフ狙撃銃。
アリア、白雪、理子、レキの武器が無造作に積み上げられている。
その写真に愕然としていると
ピピピピピピ
レキの電話から着信音が鳴った。
画面を見るに『番号非通知・テレビ電話着信中』の表示となっている。
震える指で通話ボタンを押すと
『遅えよ。ようやく出やがったか』
低い声が聞こえて、フェイスペインティングをした男の顔が映る。
(こいつはーー!)
見覚えがある。
確か宣戦会議の時にいた、ジーサードと呼ばれていた人物。あそこにいた中で最も好戦的だった男だ。
すぐその顔は消え
『フォース、見ろ。こいつが遠山キンジだ』
ジーサードの声が画面外から聞こえる。そして新たに携帯を渡されたと思われる人物が映った。
俺はその顔に、息を呑む。
映ったのは美少女。おそらく俺より歳は下。赤いサングラスのようなゴーグルを付けて、細めの体には部分的にマッドブラックのプロテクターを装着している。そして各所に何本も刀剣類をつけているようだ。
しかし、驚くのはその装備についてではない。
この子を初めて見たのにも関わらず、
俺はこの子をなぜか知っているような気がする。
知識ではなく、血が知っている。
この子と俺は近い。
そんな言いようのない感覚が全身を駆け抜ける。
身近な人物で言えばこれは銀華にしか感じたことがない。
誰なんだコイツは…!
『うわ、うわ。タイプすぎる。写真より動画の方が断然いい!』
「誰だお前は!」
レキの携帯に叫ぶと
『あたしは製品番号・GⅣ、名前はないよ』
黒い目を細め少女が答えてくる。
ジーフォースだと…!?
「さっきの写真はなんだッ!アリアたちに何をした!」
『どれがお兄ちゃんの彼女かわからないからみんなやっちゃったよ』
……?
お兄ちゃんだと!?
一体誰のことだ。
『お兄ちゃんに近づく女は全殺し。他にも女がいるならそいつらも全殺しね。お兄ちゃんは私でHSSになればいいの、って言っちゃった!背徳ぅ…!言っただけでヒスっちゃいそう…!あと、お兄ちゃんの
きゃははは!と顔をあげて笑う美少女の声に頭が真っ白になる。
なんだなんだなんだ。
なんの話だ。
そもそも、俺に妹はいない。
俺たち遠山兄弟は、兄さんと俺の2人だけなんだよ!
それに俺の一番のお気に入りはサードが貰うって…どういうことだ!
わからない。奴らの言ってることが何一つわからない。
「お前ら何者だ!」
『何度見ても信じられねえ。こいつがシャーロックをやりやがったのか』
「おい、お前たちは誰なんだ!答えろ!」
『来い。戦え』
二つだけ答えたジーサードはテレビ電話を切る。
そしてレキの携帯宛に乱数のような長い文字列のアドレスから新たな2枚の写真と動画付きのメールが送られてくる。
全部チェックしようと急いで画像から開くが、1枚目の写真が衝撃的すぎてその写真から目を離すことができない。
灼けつくような鼓動が走る。
頭に血が昇り何も考えてられなくなるような感覚。
俺はジーサードを殺さなくてはいけない。たとえ、武偵法9条があろうと。
俺が一枚目に開いた画像は2人の男女が映っていた。
その男女が抱き合いキスをする寸前の画像だ。
男の方は『ジーサード』。
そして女の方は銀色の髪に瑠璃色の目を持つ
『銀華』
だったのだから。
次週お休み
2月からジーサード編