「ここ」
ロカさんのフェラーリがたどり着いたのは川崎・扇島付近。
倉庫が並んでる倉庫街だ。
二人で降りて進んでいくと……
(お……!)
透明化されたB2爆撃機とそっくりの気配がする全翼機がある。
「こっち来て」
その海の上にかかった橋を渡るようにロカさんは平然と歩いていく。目の錯覚みたいだ。
続けて歩いて見るに、少し怖いね。
ロカさんは私に背を向け、足元の端末を操作した。
するとそのそばがマンホールのように開き、内部……海面下に続く梯子が迫り出す。
「先降りて」
一応逃げないように先に行かせるロカさんだけど、私手錠してるから降り辛いよ。
めんどくさかったので…バンっ!
飛び降りると…
「あらまぁ!元気なお客さんね」
包帯で顔面を半分ほど巻いている黒人のヒョロ長い体をした男の人と鉢合わせした。
いきなり降りてきた私を見てあんまりビックリしていない。
ハッチが開いた時から待機してたみたいだね。
「ただいま、コリンズ。守備役お疲れ様。何もなかった?」
「何もなかったわ。それで…その子がいるってこと作戦は上手くいったってところかしら?」
「8割ぐらい正解。後で話すよ」
そんな会話をした二人は私の方に振り返った。
「コリンズ?さん。はじめまして。北条銀華っていいます。ジーサードにいじめられてここにきました。しばらくよろしくお願いします」
ぺこりと頭を少し下げる日本風に挨拶すると…
「アタシたちもサードにいじめられた経験があるから仲間よ。よろしくね銀華ちゃん♪」
コリンズさんもジーサードを襲って返り討ちにあった経験があるのだろう。共感を得れたようで、仲間意識がコリンズさんの中で芽生えたみたい。
「銀華、態度違くない?あたしの時にはそんなことしてないよ」
「ロカさんは私を襲いにきたから明確に敵だったでしょ。それに挨拶する暇なんてなかったし」
ロカさんが私をちょっとネクラそうなジト目で睨んでくるので私もジト目でお返しする。
私に返されたロカさんはバツが悪くなったのか
ついてきて、とだけ言い廊下を進んでいった。
ロカさんたちと入った、本来ならクラスター爆弾やB61小型核爆弾、統合直接攻撃弾などを搭載するであろう広い格納庫には
(絵だ…)
写実的な宗教画、片や印象派やキュビズムの油彩画、前衛的な現代美術絵画といった様々な絵が飾られている。それに大きな彫刻や巨大なスピーカーもあちこちにある。
まるでオーディオルームを美術館にしたような、そんな空間だ。
「銀華はここでサード待ってて。少ししたら帰ってくるだろうから」
「見張らなくていいの?」
「カメラでは見てる。それにここまできて逃げるぐらいなら、フェラーリの時にあたしに仕掛けて逃げてるでしょ」
とそそくさと出ていった。
ここはおそらくジーサードお気に入りの空間らしい。そこに部下が勝手にいるのは都合が悪いってところかな?
部屋に点在してるソファーに座った私は一息吐く。考えるのはキンジたちのこと。
しばらく私は武偵高に戻れないだろう。
キンジに心配かけてしまうのは申し訳ない。
というか、ジーサードにキスされそうになった瞬間おそらく撮られたの本当にマズい……
後で弁解するしかないだろう。
ちなみに手錠は邪魔だが、キンジに教えてもらった遠山家の秘技『骨克己』━━自己脱臼・骨折技で抜けることはできる。その後に紅華に変身して
……でも、私はジーサードで実験したいことがある。この実験が上手くいけば、私自身の大幅な強化になる。これが上手くいくかは
だから私は
ジーサードは私を利用しようとしているのだから、私もジーサードを利用させてもらう。
勝負だよ、ジーサード。
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晩飯はかなめが作った普通に美味いカレーを食べた翌朝、おたまでフライパンをカンカンする『妹目覚まし』なる行為で起こされた俺はかなめが用意していたトーストと目玉焼きを食べた。
昨晩は最低限警戒して皿を交換したが…まあそんなことするやつではないだろう。殺したいなら寝首をかけばいいだけだし。
部屋を見渡して見るに、朝早く起きて家事をせっせとしていたみたいだ。
家中が綺麗だし、洗濯物もベランダに干してある。まるで銀華や白雪のような働きっぷりだ。
俺らは二人でバスに乗り(めちゃくちゃ見られた)、かなめは教務課の前で降り、そこから姿を消している。
一人で出歩かせるのも怖かったが、昨日の約束もある。俺が女子と触れ合わなければベルセにはならないだろう。やばい女ではあるが、
触らぬ女に祟りなし
かなめもいるし、銀華が帰ってくるまではより一層気をつけようと思っていた昼休み……
「あの……お兄ちゃんを呼んでくれませんか?私、遠山かなめといいます」
クラスの後ろのドアでかなめの声がした。
…ッ!?
振り返ると、やはり武偵高の服を着たかなめが…来てる!うちのクラスに!
女子たちはかなめを、かわいーと褒めながら撫で撫でしており、こういうことには無駄にめざとい男子たちがざわついている。
「おいッ!?何しに来たんだよ!」
俺が慌ててドアのところに行くと、後ろから男子たちがついてきやがった。
「もう!お兄ちゃん!お弁当忘れちゃダメだよ!」
かなめはさっきまでの弱々しさはなんのその、俺に対しては強めの口調になるリアル妹っぽい感じだ。
そして、ぽす。
小さなバスケットに入ったサンドイッチを押し付けてきやがった。
弁当の話なんて一度もしてないのに、自分の存在を知らしめるために俺のクラスに来やがったなこいつ…!
「噂の妹じゃん!」「都市伝説じゃなかった!」「めっちゃ可愛いじゃねえか」
外面はとても可愛いかなめを褒めちぎる男子たち。
「キンジ、北条さんと言いどんだけ勝ち組人生だよ」「美人な嫁さんに可愛い妹、どんな徳を前世で積んだんだ?」
銀華の名前を聞いて少しイラッとした様子のかなめであったが、表情は変えずにニコニコしている。銀華の名前を聞いても、ここでは昨日みたいに暴れないで可愛い妹を演じているのも計算のうちだろう。賢い女だ。
「うちの妹と取り替えてくれよぉー!」
と追い縋る武藤や男子どもを振り払って、かなめと共に教室から逃げ出す。
そして、人気のない予備のロッカールームに連れ込み、鍵をかける。
「おい、かなめ。もう2年の教室には来るな」
「うん、もう行かないよ」
にっこり笑ってそう答えるのを見るに、やはり自分の存在を知らしめにきたのだろう。
「でも、改めて学校で会うのってドキドキするね。おうちではあたしがお兄ちゃんを独り占めしてイチャイチャしてるのにここではそれを内緒にしてる。これって背徳の醍醐味だね。すっごく気持ちいいよ。お兄ちゃんに片思いしてる女達━━悔しがっているんだろうなぁ。優越感感じちゃう」
ツッコミどころ満載のかなめのこの発言に対して説教しようとした時、
「お兄ちゃんの事色々聞いちゃった。友達とか、先輩たちとか」
「何…?」
「お兄ちゃんは『昔は立派な強襲武偵だった』っていろんな人が言ってたよ。強襲科の学生はみんなお兄ちゃんに一目置いてたって。そりゃそうだよね。あたしに簡単に勝っちゃうんだもん」
余計なことばっかり聞いてきやがって…
「俺の過去なんかお前には関係ない」
「お兄ちゃんのことはなんでも知りたいんだもん。あっ、それとね」
「?」
「午前の休み時間にね、知らない男子に人気のないところに連れて行かれたの。それで手紙渡されちゃった。たぶんラブレター」
ああ…そっち系の話か。
かなめは中身はともかく見た目はすこぶる良いから手が早いやつが放っておかないのだろう。
「これどうしようか。恋愛の練習台に彼氏にしちゃってもいいかな?」
などと手紙を渡してくるので俺は少し考えてから一応内容を確かめて見ることにする。
どこのバカだよ。こいつの中身知ったらたぶん温度差にショック死レベルだ。
それにかなめもかなめだ。俺には他の女に触るなって言ってたくせに。
そんなこと考えながら、ペラ、と手紙を開くと
『ウソだよお兄ちゃん。妬いてくれた?』
とキレイな文字で書かれており、叩いてやると思って顔を上げると、先読みしていたのかそれを防ぐように抱きついてきた。
「かなめ、お前妙なイタズラするな!」
「ふふっ。今のはお兄ちゃんの愛を確かめたの。イラッとした顔をしてくれて嬉しかった。お兄ちゃんはもうあたしを愛し始めて……ううん、もう愛してくれてる」
「違う。お前に近づく男がいたらそいつが危ないから…」
「ふふっ。安心して。嫉妬なんていらないんだよお兄ちゃん。もし本当にアプローチされても相手にもしないから。男子って苦手だもん」
あの銀華でさえ異性は得意じゃないと言っていたし、俺も女は苦手だ。
ヒステリアモードを持つものは基本的に異性は苦手なんだろうな。
「ああ、どうしよう。好き好きスイッチ入っちゃった。このままじゃ帰れないよぅ」
「なんだ、好き好きスイッチって。いいから帰れ。どこのクラスに潜り込んだか知らんが」
「お兄ちゃん、ハグして」
「なんでだよ」
「好きだから。だから、して。ぎゅってして。ぎゅーって抱きしめて。そしたら帰るから」
俺の胸に頬擦りしつつ、かなめは熱に浮かされたように言ってくる。
なんか、俺の背に回した腕で…見た目以上にしっかり俺を捉えている。
こうやって拘束されたままじゃ俺も帰れん。
それでかなめが帰ってくれるなら抱いてやるか。ハグぐらいならまあ銀華も許してくれるだろ。
━━ぎゅ。
子供をあやしてやる気分でかなめを抱いてやった。
「お兄ちゃん……おにぃ、、ちゃん……」
足元に水滴を落とした。
な、泣いてやがる。嬉しさのあまりに。
すぐキレたり、すぐ泣いたり情緒不安定だな本当に。
「お兄ちゃん。それ以上のことは今日はもう頼まないから…」
潤み切った瞳の奥で抑えきれない欲望が渦巻いている女を俺に向けるかなめは
「お願い、おねがい。キスして━━それだけでいいから」
とんでもないことをおねだりしやがった。
手が入れば足も入るってやつだな。
したたかな女だ。
「バカ言うな。お前が言うには俺たち兄妹なんだろ?」
「だからだよ。だから実現できる可能性があるの。お願い、お兄ちゃんから、して…!」
そして、口を少し開けたまま、眠るように目を瞑った。
まったく………困ったものだ。
かなめは待っている。俺からかなめにすることを。
このまま逃げることはかなめにロックされている限りできない。普段の俺ではかなめには勝てない。
それに振り払ったことで、自暴自棄になり、ここで暴れ始めたら手に負えないことになる。
仕方ない。
本当に仕方ないことだ。
ごめん銀華。
「━━ッ!」
してやった。
かなめに求められた通りに。
その瞬間、かなめは歓喜に震え、びくっびくびくっと身を震わせた。
かなめの張りのある唇から、俺の唇に熱と震えが伝わってくる。
(やっぱりな)
だが、俺の方は予想通り、前にした時と同じだ。
何もやましい気持ちを感じない。
洋画で欧米人があいさつでキスをしたときのような、身近なものに触れた感覚しかない。
ヒステリアモードにやはりならない。
俺の後頭部に手を添え、長くしようとするのは銀華のくせであり、かなめもその兆候があったのでするりとかわし、口を外す。
「はぁ、はぁ……すごい、すごいよ……好きな人にキスされると…こ、こんなにすごいんだ…」
「かなめ、呂律が回ってないぞ。もう離れろって」
「そ、そうだね。心臓止まっちゃいそう…それにわかったから。なれる、きっとなれる。合理的だよ。あと一歩、ううん、あと2歩進めば」
「なんの話だよ。ほら落ち着け」
背をさすってやってから腕を解くと、かなめもようやく俺から腕を離し
「あ、ありがとう。お兄ちゃん。ありがとう、抱いてくれて。キスもそっちからしてくれて….これで本当に……あたし達本物の、恋人になれた気がするよ……」
などと、浮ついた声で妙なことを言ってくる。
溢れる涙も感動で止まらないといった感じだ。
色々ツッコミどころはあるが、この状態のまま返すわけにはいかん。落ち着かせないとな。
「お前って…意外と泣き虫だよな」
「お兄ちゃんが、あたしを受け入れてくれたから。愛して、愛してくれたから。あたし、今、幸せだよ……幸せ。体中から幸せが溢れちゃうぐらい幸せだよ……」
見るに見かねて手で涙を拭ってやると、俺の手をぱしっと掴んできた。
「お兄ちゃんは、あたしだけのお兄ちゃん…愛してくれて、ありがとう。これからもずっとあたしだけを愛してね……」
うっとり言うかなめのこの態度は…
恋してる乙女の仕草だ。
これ銀華さんが帰ってきた時に殺されませんか俺?
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