ガリオンの一室に閉じ込められた私だけど、
暇だ…
やることもないし、手錠をかけられているし…閉じ込められた部屋に飾られている絵や彫刻を鑑賞するぐらいしかやることがない。私は芸術の類はよくわからないのだけど、暇つぶしにはなるだろう。
そんな気持ちでしばらく絵画などをながめていると、ジーサードが帰ってきた。
「何してやがる」
「ん?飾られてるものを見てるの。別にいいでしょ」
私がそう返すとジーサードは黙って部屋に置いてあるソファーに腰掛けた。会話は二言で終了。
私とジーサードの間に沈黙が流れる。
…………
…………
…………き、気まずい。
二人しか部屋にいない状況でどちらも喋らないこの状況はとても気まずい。
サードはこちらを見ていないフリをしながらも眼球だけで私を無言で観察しているのが分かる。気になっているけど気になっていない感じで振る舞っているのだろう。
宣戦会議や空き地島ではあれだけ傍若無人で凶暴なことを言っていたジーサードだけど、たぶん女の子にはどう対応したらいいのかわからないのだろう。さっき急にキスしようとしてきたし。
………女の子があんまり得意じゃないところも兄弟で似てるね。
「くすっ…」
「どうした…?」
「ごめんごめん、昔のことをちょっと思い出してね」
キンジも最初に私と会った時すごい縮こまっていた。懐かしいなあ。
仕方ない…こういう時はまた私が手綱を握るか。
「はじめましてじゃないけど…
ぺこりと日本風に頭を下げると
「ああ…ジーサード
いきなり挨拶をした私に対して、少し躊躇ってはいたが、ジーサードも挨拶を返してきた。
「それでこれからの予定は?」
「何人かの俺の仲間と一緒に東京都周辺のホテルにしばらく泊まることになるな。フォースの『双極兄妹』を待たなくちゃならねェ」
「わかった…」
私から目線を逸らしながら言うジーサードに対して言いたいことはあるが、まだ言うタイミングではないだろう。
で、川崎のホテルに移った私とジーサード同盟の面々だけど、その面々はなかなかに面白い。
執事のアンガスさん
包帯の黒人のオカマのコリンズさん
白人エリート支配層・保守派・体育会系ぽいアトラスさん
銀髪オッドアイのロカさん
狐耳で私をずっとなぜか威嚇しているツクモさん。
人種どころか人外までも仲間にしているのは、ジーサードの懐の深さもあるだろうが、使える人については細かいことは気にしない大雑把さもプラスに働いているのだろう。
とても良いことだね。
でも、これは………
「ねえ、ジーサード」
「何だァ」
「私、女の子なんだけど…?」
「?」
私とジーサードは強制的に同じ部屋に泊まらされた。まあ最上階のスイートルームで灯りをつけて回るのが面倒なほど多数の部屋に分かれているので一緒の部屋に泊まっている感覚は薄いからそれはいい。
ルームサービスさんが私たちのことを若いカップルと勘違いしてるのはまだいい。
でも、
「なんで上半身裸なの…!?」
絨毯の床で倒立したジーサードが指立て伏せをしていた。上半身裸で!
ジーサードは左手が義手なので、右腕と左腕のバランスを兼ねた体操なのだろうけど…別に上半身裸でやる必要ないじゃん!
「ツクモが、上半身出した方がいいっていうからよォ。でも、お前の反応を見る限り悪くないってところか」
ニヤリと笑うジーサード。
キンジの上半身でさえ、この私(ヒス私は別)はあんまり見たことないからテンパってしまう。
ジーサードほどではないが、実は私もキンジ以外の異性慣れはあんまりしていないのだ。(ヒス私は別)
「早く…服着て!」
「チッ、仕方ねえな…」
私のお願いが通じたのか、ジーサードは指だけで軽く跳躍して、タンッと床に立ち直した。
部屋の隅に待機していたツクモさんがササっと汗をタオルで拭き取っている。
そのツクモさんがジーサードに着せる服は白と金の二色でギラギラ煌めく、スーパースターみたいなスーツ。
キンジが着たら見た瞬間に爆笑しちゃう自信あるけど、ジーサードはとっても似合っている。
……ジーサードはフェイスペイントを落としたらよく似ている兄弟ぐらいにはキンジに顔似てて結構かっこいいし、性格も女の子に弱いなど横暴なところを除けば似ていると言えなくもない。
でも、ジーサードにはキンジと違って、私に対しての○○がないよね。
☆★☆★☆★☆★
数日後の夕方、アリアたちが退院したとの連絡を貰った。
俺が師団の作戦上かなめを預かっている事は、ワトソンが説明してくれたらしいが……
かなめはアイツらの目の前で、俺との関係を誤解させるような言動をしている。
このままアリアたちと会うと危険だろう。特にアリアは風穴祭りとか言いつつ、
奴隷こと俺はご主人様のご機嫌伺いをしなければ……
と電話をかけると「あたしも話したいことがあるから来なさい」とのご命令を賜った。
で、どこにいるかと聞いたら……
「SSRの屋上」
だそうだ。
超能力捜査研究科。嫌な予感しかしない。
少しどころかとてもお邪魔したくないSSR棟にお邪魔して、トーテムポールの柱や魔法陣の描かれたドアを開け、屋上に出ると……
夕陽の中に何やら難しい顔をして目を閉じているアリアと、その傍らに立つSSR3年の時任ジュリア先輩がいた。
クォーターのアリアより外人ぽく、3/4外人の銀華より日本人ぽい、ハーフの時任先輩は、白く細い右手の五指を開き、アリアの頭に乗せている。
「あ、えーっと、俺は2年の遠山です。そこのアリアと…」
「静かにしなさい」
クールに返してくる時任先輩はSSRの首席候補で、来年はモスクワ大学に行くことが決まっているとか銀華が言っていた。
とても優秀で、残念なことに美人な先輩だが、ある理由により、みんなから避けられている。
「あ、キンジ」
今俺に気づいたらしいアリアは座ったまま目を開ける。アリアは胡座をかいていてスカートの中身が見えそうだったが、逆光でセーフ。助かった。
「こら、集中しなさい」
先輩が女にしては低めの声で命ずると、アリアが珍しく人のことを聞き、何か念じるような顔になった。
「神崎、もともとダメだったのが、もっとダメになったよ。好きな男子が来たぐらいで、そんなに心を乱してはいけない」
「は、はいっ!?」
犬歯丸見せでガバッと大口を開けたアリアは、夕陽の中でもわかるぐらい顔が真っ赤になった。マバタキするほどの間に。
俺の方を見て、先輩の方を見て、俺の方を見て口からあわあわと声が出るぐらい驚いている。
「はぁ…ホームズ家は不安になるね。お前
先輩の言葉に、キュイーン、アリアはもう一段階、赤面レベルを上げた。まるで赤面界のヒルダの三段変身みたいだ。
(俺に抱かれる…?)
お姫様抱っこのことか?それならやったことあるだろうに。ヒス俺がだけど。
あと『お前も』ってことはもう一人以上いるのは確定だけど、誰だよ。
「外見は、子供ぽいのに、随分ませてるねお前。見てる私まで恥ずかしくなるよ。そういうのはもっと成熟して持ちなさい。そんな小さな体でそんなことしたら、お前壊れちゃうよ」
時任先輩は呆れているようで、大きくため息をついた。
「違う!ハズレ!ハズレ!大ハズレですそれは!」
アリアは胡座から真後ろに倒れ込み駄々っ子モードで先輩を全否定している。
幼い頃から超能力少女としてロシアでテレビに出ていた先輩は、接触した人間の脳派から思考までをも読み取る能力を最も得意としている。
それで読み取った内容が本人に少しでも危険を及ぼす事だった場合、その本人に直接注意する自分ルールがあるらしいのだ。
しかし、今のアリア同様、
時任先輩に思考を読まれた人は、『そんなことは考えていない!』と怒るらしい。
なので、彼女は嫌われ者の日影者……なのだが、銀華とはすごく仲がいいというか銀華のことがお気に入りらしい。
銀華は時任先輩と一緒に思考を読まれないトレーニングみたいなことをしたらしく、銀華は時任先輩といても思考が読まれないほぼ唯一の存在だからだ。
あと実は先輩は人の思考は読めても本の思考は読めないから推理小説オタク、特にホームズの伝記がお気に入りだ。そのことからホームズの銀華もお気に入りなのかもしれないけど。
そんなことを考えているうちに、先輩はアリアにアドバイスをして屋上から出ていった。
取り残されたのは俺とアリアの二人だけだ。
「おい、アリア。何してたんだ」
「
ま、まずい…!
俺が恐れていたことが密かに始まっていた。
打撃・斬撃・銃撃と既に技のデパートのアリアが、超能力まで入荷したら技の楽天市場になっちまう。
俺はアリアが俺に撃ってきた回数を数えているんだが、敵より俺に撃ってきた数の方が多い。
俺の敵ですか、あなたは。
「よせよそんなの」
「と言ってよすあたしじゃないことは、あんた知ってるでしょ?」
と、返ってきて項垂れる。
男として恥ずかしいことだが、アリアからは銀華に守ってもらおう。
「何でそんなことに精を出してるんだよ。かなめに仕返しするためか?」
「かもめ…?」
「かもめじゃない。かなめだ。ジーフォースのことだ」
と説明すると、アリアはもともとツリ気味の目をこちらにギロリと向け、
「へー、日本名を付けてあげたの。やっさしいのね!随分とお気に入りなのね、あの可愛い中学生が。このロリコン!」
げし!俺の靴を踏んできやがった。
「やめろよ。しょうがねえんだよ。アイツは俺の妹を自称してるし、銀華の情報に繋がるのは今アイツしかいないんだから」
「あんたにとって銀華は大事かもしれないけど…アイツも銀華も、師団の仲間じゃないでしょ!アイツらはあたし達を奇襲してきた敵よ!それなのにワトソン達も随分怯えてるみたいだし…敵か味方かの議論はするだけ無駄よ!あたし達はあたし達で判断して動くから。べぇーだ!」
「このわからず屋め」
「それはアンタでしょッ!」
俺とアリアはそのまましばらく睨み合う。
「それであの妹ちゃんと一緒に住んでるみたいだけど…アンタ妹ちゃんとしてないでしょうね!」
してないとはアリア達の前でしたキスのことだろう。
……困ったことにしてしまってるんだよなこれが。
あれは拘束されてて仕方のないことだし、やましい気持ちにもならなかった。
無罪とはいえないが釈明の余地はあるだろう。
「そのだな…してなくはないが. 、それはその、イギリス育ちのお前ならわかってもらえると思うんだがな……」
「あんた……!銀華がいないからってどんだけ熱愛してんのよ!」
「最後まで聞けよ!いつものことながら!」
「しかも、自分の妹と…!」
「だから、かなめは妹じゃねえって言ってるだろ!自称妹に付き纏われて迷惑してるんだよ!」
俺が逆ギレでそう叫ぶと、バキッ!という物音が屋上のラジエーターの裏側から上がり
ひゃう!
閻魔より怖いのくせにビビリのアリアが俺に抱きついてきた。
ボロいラジエーターには何も異変はないように見えるし、何も起きない。
「お、おいアリア。離れろよ」
フェンスに押し付けられた俺がそういうと、アリアは何故か覚悟を決めた顔になった。
「銀華がいない今しか、あたしのチャンスはない……」
「?」
「ねえ、あの子のことが好きなの?本当に」
「そんなわけないだろ……」
「じゃあ……し、下向きなさい!あたしの頭に顔つけるぐらい下」
夕焼けと同じぐらい顔を真っ赤にしたアリアがそう命令してくる。
「いきなり何だよ」
「いいからっ、下向け下っ!」
右向け右!みたいにいうが、よくわからん命令は無視だ無視。アリアのいい匂いを嗅がないようずっと上見たままでいてやる。
そのまま少し黙っていると
「じゃあ…キ、キンジ。くつひも解けてるよ」
あまりにも棒読みのアリアのセリフについ俺が下を覗き込んでしまい、
アリアがガバっ!
ぎゅーと目を閉じたままツインテールの顔を上げてきて、背伸びしてその勢いで
ガチっ!
「………!」
「………!」
真っ赤な顔の小さな口を俺の口に押し当てた。
激しく興奮していたらしいアリアの熱い体温が唇から伝わってきて……
キス…されてるのか。
それが後からわかった。
わかった時にはアリアは100m走のような勢いで、屋上をドアの方に駆けていった。
「アリア!」
意味がわからない。
いきなりアリアもキスしてくるなんて。
しかし、アリア。キスが下手すぎた。
歯と歯がぶつかるような音もしたし、たぶんキスしたことないな……
しかし、きた……来た、来たぞ。
ヒステリアモードが。
銀華はもちろんのこと、理子やレキ、アリアでもなってしまうなんて……
悪い男で、ごめんね銀華。
銀華ガードがないと、ここぞとばかりに原作通りの女難の相が解禁されてしまうキンちゃん
お遊びはここまで、この章あと4話予定。