真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 どうか温かい目で見守ってください。


1話 真面目な彼女の家に居候することになった

「今日からあなたは、私たちの家に居候することになりました」

「……はっ?」

 

 高校一年生になって、2か月ほどが過ぎた頃だろうか? 「もうそろそろ梅雨だなぁ」と思っていたところに、突然すぎる宣言。

 思わず俺、真嶋和希(まじまかずき)は間抜けな声をあげてしまった。

 

 おばさんの海外出張に伴って、下宿先を紹介してくれると聞いたのは昨日の話。そして、住所とグー〇ルマップを照らし合わせつつ、この家に着いたのは今さっき。そして思いもよらなかった居候宣言。ただただパニックになっている。

 

 今日は取り敢えず、挨拶をするだけにしようと思っていたのに……。そもそも俺、居候することについて、おばさんから一言も聞いてないよ?

 

「す、すいません。突然すぎたんでもう一度、ゆっくり、はっきりと言ってもらってもいいですか?」

 

 とにかく一度冷静になろう。もしかしたらさっきの宣言は俺の聞き間違いだった……なんて事があるかもしれないし。

 

「いいですよ。それではもう一度。あなた、真嶋和希君は、今日からここ、園田家に居候することになりました」

 

 うん、聞き間違いであることを期待してたんだけど、その期待は無残にも消え去ってしまった。

 しかし、居候すること自体はさしたる問題ではない。俺自身が今住んでいる(過去形になってしまったが)家は、おばさんの家だしな。

 一人で住んでも寂しいだけであり、そもそも俺に生活費や光熱費もろもろを払うお金なんてどこにもない。

 

 そんなわけで、居候の件に関しては大歓迎なのだが……問題は別の部分にある。

 

「お母さま!! どうして私が、真嶋君のような素行の悪い人と一緒に暮らさなければならないのですか!?」

 

 俺の横で叫び声をあげたのはこの家の娘である園田海未。

 

 玄関で『園田』と書かれた札を見かけ、嫌な予感がしていたのだが……見事に予想が当たってしまった。

 

 容姿端麗であり運動神経、学力共に抜群。さらさらと流れるような黒髪に、整った顔立ち。そして普段の丁寧な立ち振る舞いから、大和撫子を体現したかのよう美少女である……と、クラスの男子たちは評価していた。

 大事なことなのでもう一度言っておくと、”クラスの男子たち”がである。俺は決して、そんな事を思っちゃいない。

 

 容姿云々は置いておくとして、こいつには容姿以外に問題があり過ぎるのである。

 

「あの、すいません。えっと、園田のお母さん?」

「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。私の事は気軽に睦未(むつみ)とお呼びください」

 

 意外とフランクなんだな、園田のお母さんは。それにべらぼうに美人である。

 

 高校一年生の娘を持っているとは思えないほどの美貌。髪にも艶があり、肌も実に若々しい。美魔女とはこの人のようなことをいうのだろう。あと、胸も大きい。娘である園田とは大違いだ。

 もう一度言おう。貧相な胸を持つ園田とは大違いである。

 

「それじゃあ睦未さん。……取り敢えず、隣でバカみたいに叫んでいる、あなたの娘さんを一度静かにさせてもらってもいいですか? 近所迷惑なので」

「誰がバカですか、誰が!! 私よりもあなたみたいな人のほうがよっぽど近所迷惑です!!」

「海未さん。そんなに大きな声を出してはいけませんよ?」

「お、お母様……ですが、悪いのは横にいる真嶋君であって」

 

 睦未さんに怒られても、なお引き下がろうとはしない園田。鬱陶しいし、うるさいし、なによりうざい。よしっ、これから園田を言い表すときは3Uの園田と呼ぼう。我ながら、素晴らしい呼び名を考え付いたもんだ。三種の神器みたいでかっこいい。

 

 さて。取り敢えずここまでのやり取りで、園田に対する俺の評価がある程度分かったであろう。逆に園田が俺の事をどう思っているのかも……。

 一言で言い表すのなら、俺と園田は犬猿の仲という感じであった。そりゃもう、目を合わせれば喧嘩ばかりである。

 干支で言えば犬と申の間を取り持ってくれる、酉のような存在が欲しいものだ。

 

「ちょっと真嶋君! 聞いているのですか!? そもそも、あなたが普段から真面目な人であったら私も反対しないのであって――」

 

 再び、マシンガンの如く、お説教を俺に浴びせる園田。よくもまぁ、そこまで人の悪口がいえるってもんだ。

 

「少しは黙ったらどうだ? 3Uの園田さん」

「はいっ? 3U?」

「鬱陶しい、うるさい、うざい。それを簡単に言うと三U。お前の名前も海未でUだし、なかなかいい呼び名だろ?」

 

 俺の返答に、園田の顔が怒りによって真っ赤に染まる。いやー、顔を真っ赤にしてプルプル震えてますなぁ~。実に滑稽である。

 

「まぁまぁ、二人とも。今日から一緒に住むのだから仲良くお願いします」

 

 そう言って、睦未さんが俺たちの仲裁に入る。しかし、そんなものじゃ怒り狂った園田は収まらない。

 

「お母さま! 私は絶対に反対ですからね! こんなバカみたいな男と一緒に住むだなんて!! あなたなんて、公園のベンチ……いえ、地面の上で十分です!!」

「睦未さん。俺の荷物って、届いたりしていますか? もしあるのなら、早速整理をしたいんですけど」

 

 園田のお小言より、自分の荷物が大事。それに仕事の早いおばさんのことだ。荷物なんてとっくに園田家へと送ったことだろう。

 

「話を聞きなさい!! 真嶋君!!」

 

バシッ!!

 

 無視したらめちゃくちゃ怒られた。しかも頭を叩かれた。訴えてやる!! 

 

 まぁ俺が頭を叩かれたとか、そんな事はどうだっていい。まずは置いてきぼりになっている読者の皆さんに、俺と園田の関係を教えておかなくちゃいけないな。後はどうして園田が俺をここまで毛嫌いするのかを……。

 隣で未だギャーギャーうるさい園田を他所に、俺は出会った当初の事を思い出す。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「真嶋和希です。よろしく」

 

 桜の花びらが舞い踊る4月。

 

 高校受験を乗り切った俺は無事、音ノ木坂学院に入学し、今はクラスで自己紹介をしている最中だった。しかしそれも5秒ほどで終わり、軽く頭を下げて席に腰掛ける。

 

 そんな俺に、クラスメイト達は訝しむ様な視線を向けてきた。いや、訝しむというよりは危険視するような視線って言ったほうが正しいのかもしれない。

 なぜなら俺の容姿は、お世辞にも真面目な学生が多い音ノ木坂に置いてかなり異質だったからだ

 

 金に近い色をした髪の毛に、着崩された制服。更に耳にはピアスと、よくこのなりで高校に入学できたものだと思えるほど。

 

 つまり何を隠そう俺は、自他ともに認める立派な不良だったのである。

 

 ちなみに俺が不良化(なんだか悪い製品になった気分)したのは、中学二年生のころからだ。

 その当時は親が離婚し、思春期真っ只中で精神が不安定だった俺は見事不良に。まぁ、一種の現実逃避と言うやつだ。

 しかし俺が不良化しても、周りからは何も言われなかった気がする。両親の離婚で気を遣われたという事も、もちろんあるだろう。

 ただ髪色は元からだし、不良になったからといって喧嘩もしてなければ、学校をさぼって遊んだりもしていない。問題を起こすと後から面倒だし……。ピアスだけは自主的にだけど。

 取り敢えず俺の事を簡単に言い表すとするならば、迷惑をかけない不良という感じである。

 

(まぁ、授業は真面目に受けなくなったけどな。学校には行くけど授業はサボったりしてたし、出ててもほぼ寝てた)

 

 最終的に、先生方には多大な迷惑をおかけしておりました。それって結局サボってるじゃんとか言う、野暮なツッコミは禁止。

 ちなみに授業をサボることはこれからも継続していく予定なので音ノ木坂の先生方、よろしくお願いします。多分、普通の不良より質が悪いだろう。

 

 なんて思いつつ、俺が持参した漫画を読み始める。10年以上前の漫画だが、これがまた面白いんだよなぁ。アメフトのルール知らなくても面白いし。

 そんなわけで俺はマンガへと集中し始める。すると、どこからか感じる鋭い視線。いつもなら無視をしているところだが、あまりの鋭さに俺は一度顔を上げる。

 

 すると、一人の女子生徒と視線が合った。

 

(あいつは……誰だったっけ?)

 

 自己紹介を全く聞いていなかったため、まるで記憶に残っていない。

 顔は抜群に整っている。多分、今まで見てきた中で一番可愛いと言っていいかもしれない。黒い髪をストレートに伸ばし、真面目ですというオーラが全身からにじみ出ている。あいつは間違いなく、真面目も真面目。くそ真面目なタイプの女子だろう。

 

 正直、この手のタイプの女子は一番苦手だ。中学でも、何かと俺に突っかかってきて苦労した記憶がある。

 しかし、俺が一睨みすれば大体のやつは怖気づいたので今回もその作戦で行こう。

 

ギロッ

 

 俺はこちらを見てきていた女子を、鋭い視線で脅すように睨む。すると、

 

ギロッ!!

 

 あろうことか、俺よりも鋭い視線で睨まれた。しかも相当目力が強い。こんな経験、不良になってから初めてだったので、俺は思わず面食らってしまう。

 

(おっかねぇ女子もいたもんだ。そこら辺にいる男子より、よっぽど怖いぞ……)

 

 世界はまだまだ広い。どうやら俺は、井の中の蛙状態になってしまっていたようである。反省反省。そんなわけで、俺の記憶に新たな女子のタイプがインプットされた。

 

 彼女の事をインプットした俺は彼女からゆっくりと視線を逸らす。根拠はないが、あのタイプとは非常に相性が悪そうだ。第六感がそう警告している。

 

(真面目で融通が利かなそうで、頭が固そうだ)

 

 それに何度言っても構わず、俺に突っかかってきそう……。しかし、それも漫画の世界に入ってしまえば問題がない。

 その後、俺が集中してアメフトマンガを読みふけっていると、ガタガタという音が耳に入ってくる。恐らく自己紹介が終わり、HRも終わったのだろう。思ったよりも早かったな。

 

(さーて、面倒な学校も終わったし、家に帰りますか。あっ、その前に本屋でジャ〇プの新刊を買いに行かないと)

 

 俺が机の上に広げていた漫画(10冊ほど)を片付けていると、

 

「あの、少しいいでしょうか?」

 

 凜とした声が俺の耳に響く。その瞬間、俺の第六感がかつてないほどの警告音を発した。

 

(なんだかわからないけど、このまま顔をあげたら面倒ごとに巻き込まれそうな気がする。よしっ、ここは用事があるってことにして、さっさと退散しよう)

 

 取り敢えず適当な用事を考えた俺は、愛想笑いを浮かべて顔を上げる。

 

「ごめん。俺、今日忙しいからまた今度にしてくれ!」

 

 そう言って、足早に立ち去ろうとする俺。我ながら完璧な作戦だ。これだけ迅速に目の前から立ち去ろうとすれば、止めるやつはほぼいないだろう。

 しかし俺の考えは少々見込みが甘かったらしい。

 

「待ってください!」

 

 ガシッと右腕を掴まれる。ま、まずい。この展開は完全に想定外だ……。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 俺は冷や汗を流しながら振り返る。するとそこには案の定、先ほど俺に鋭い視線を向けてきていた女子がいた。

 そして先ほどと同様、俺に鋭い視線を向けてきていて……。

 

 これが俺と園田の出会い。

 後はもうどうなったのか、想像がつくだろう。

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「真嶋君!! 授業中に漫画を読むなと、あれほど言っているじゃないですか!!」

「うるせーな、園田。今いいところなんだから邪魔するなって。それに先生が何も注意してこないんだから、別にいいだろ?」

「先生が良くても、私が良くないんです! だから早くしまって下さい。他の生徒にも迷惑がかかります」

「俺はそうやってぴーぴー騒ぐ方が、迷惑だと思いまーす」

 

 これが今日の授業中。もう、完全に先生を放置して、俺と園田はギャーギャーと言い合いを繰り広げていた。

 あれからというもの、園田は俺が風紀を乱している行動をとるや否や、こうしてやんややんやとお説教を繰り広げるのである。

 

 ほんと、迷惑極まりない。声も大きいので鼓膜が破れてしまいそうだ。そして周りの連中は「また真嶋と園田が喧嘩してるよ……」とあきれ顔。というか、もう慣れ始めたのか、俺たちの事を微笑ましげに見守ってくる奴さえいる。

 見守っている暇があったら、園田を止めてほしい。

 

 ちなみに俺と園田は、隣同士の席である。どうしてこうなったのかといえば、単純にくじ引きの結果である。窓側の一番後ろが俺。その隣に園田という感じだ。

 神様は実に不平等である。

 

「はぁ……お前が隣じゃなきゃもっと静かな学校生活を送れていたというのに」

「それはこっちのセリフです! こっちの!! 元はといえば、あなたが学校にふさわしくない格好、ふさわしくないものを持ち込んだからいけないのであって――」

 

 くどくどと、再開されるお説教。五月蠅くてかなわないので、俺はあらかじめ持参しておいた耳栓を装着。そのまま、読みかけだった漫画の世界へ……。

 

「話を聞けと言っているじゃありませんか!!」

 

 園田が思いっきり、俺の手から漫画を弾き飛ばす。弾き飛ばされた漫画が無残にも床を転がる。

 

「ぎゃーーー!! てめぇ!! 俺の頭を叩くのは構わんけど、漫画を叩くなって言っただろ!? 傷がついたらどうするんだ!!」

「全部、自業自得です!! 今は漫画ではなく、教科書を読む時間なんですから。さぁ、早く現代文の教科書を机の上に出してください!」

「今日は、おうちに教科書を全て忘れてしまいました。なので勉強はできません。よって私は、漫画を読むことだけに集中したいと思いまーす」

 

 煽るような俺の言葉に、園田のこめかみがぴくぴくと震える。しかし、俺は何も間違ったことは言っていない。教科書を持ってきていないのだって本当だしな。

 そんなわけで俺が三度、漫画の世界へ入ろうとすると、

 

バシッ!!

 

 再び床に転がる、俺の漫画。二度目という事もあってか、お気に入りの漫画に少しだけ傷がつく。

 

「て、てめぇ……園田!!」

 

 俺が鬼のような形相で振り返ると、同じく鬼……いや、般若のような顔をした園田と目が合った。

 

「真嶋君……今日という今日は、あなたを絶対に許しません!! 今すぐその腐った性根を叩き直してあげますから、そこに、今すぐに、正座してください!!」

「嫌ですー。僕は正座なんてしませんー。園田さんが正座したらどうですかぁ? きっとそのお堅い頭も幾分かやわらかくなると思いますよ」

 

 売り言葉に買い言葉。そして何度目か分からない、言い争いが始まる。

 

「お、お前ら……一応授業中なんだけど」

 

 悲しいかな、先生の注意は全く俺たちの耳に届かない。

 結局俺と園田の言い争いは、授業が終わるまで続いたのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 以上が今日に至るまでの、俺と園田の関係性である。細かいことよりも俺と園田はめちゃくちゃ仲が悪いんだな、ということが伝われば問題ないです。

 

「ちょっと真嶋君!! 話を聞いているのですか!? 私の話は何一つ終わっていませんよ!」

「はいはい、聞いてます、聞いてまーす」

 

 回想から戻ってきた瞬間に、このお小言。イラッとしたので、適当に返事をしてやった。

 

「っ!! ……真嶋君、真面目に聞いてください!!」

 

 そして、俺の言葉に見事噴火する園田山。見慣れた展開すぎてあくびが出る。

 

「まぁまぁ、お二人とも。喧嘩はその辺りにしてください。どうせ、今日から一緒に住むのです。喧嘩ならいつでもできるでしょう?」

『好きで喧嘩してるわけじゃないです(よ)!!』

 

 園田のお母さんは、少し天然なのだろうか? 俺たちだって、好きで喧嘩してるわけじゃないのだ。

 お互い譲れないものがあるからこそ、喧嘩しているのであって――。

 

「でもよく言うじゃない。喧嘩するほど仲がいいって」

『仲良くない(です)!!』

 

 もしかしたらこの人、からかっているだけなのかもしれない。彼女の天然? な一言に俺と園田の声が被る。ここだけ無駄に息ぴったりだ。

 

「なんだ。やっぱり仲がいいじゃない。これなら一緒に生活しても問題なさそうね」

 

『…………』

 

 もはや何も言うまい。園田もその辺りを悟ったらしく、疲れた顔をして頭を抱えていた。疲れてるのはむしろこっちなんだけど……。

 

(これからの生活は一体どうなるんだろう?)

 

 今までは学校だけでよかったのに、これからは園田と朝昼晩365日顔を合わせなければならない。

 大っ嫌いな奴と一つ屋根の下で生活。もしかしなくても、これからの日々は今までより大変なものになるだろう。

 

「はぁ……」

 

 先の見えない日々に対して、俺の口からため息が漏れるのだった。




 海未ちゃんに怒られたい……そう思って書いた作品です。
 前書きでも言いましたが、どうか温かい目で見守ってくれればと思います。
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