真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
「えー、本日で夏休みが終了して新学期になったわけですが、しっかりと気持ちを切り替えて――」
夏休みが終了し、今は始業式の最中。最低でも15分は話す校長先生の、ありがたいお言葉もそろそろ終盤戦という所だった。理事長さんはサクッと終わらせてくれたというのに……見習ってほしいものである。
「ふわぁ……ねむ」
「ちょっと和希、あくびなんてだらしないですよ?」
隣に座る海未が、怪訝そうな顔をして俺を注意してくる。ちなみに海未は眠そうな表情など一ミリたりとも見せずに、しっかりと話を聞いていた。
多分、校長の話を真面目に聞いているのはこいつくらいだろう。生徒の大半はもれなく夢の中だし。
「仕方ないだろ。つまらないものはつまらないし、眠いのものは眠いんだ。そんなわけで俺は寝る!」
「ダメですよ?」
「っ!?」
そういって、俺の脇腹をかなりの力でつまむ海未。思わず声をあげそうになるも、何とか堪える。め、めっちゃ痛かった……。
「おいっ! すげぇ、痛かったんですけど?」
「知らないです。寝ようとした和希が悪いんです」
本当、可愛くないやつだな。夏祭りの時の、素直な海未は本当に何だったんだよ……。
一応言っておくと、あの夏祭り以降、俺と海未の関係が変わったと思いきや、何一つ変わっていなかった。前進も、後退もしない。つまりいつも通り。
海未がこちらをちらちら見てくる時はあるけど、それ以外は特段変わったことはなかった。
(あんときの海未は、最高に可愛かったんだけどなぁ)
はぁ、と思わずため息をつく。
「どうしたんですか、ため息なんかついて?」
「……夏祭りの時みたいな、素直な海未ちゃんを見たいと思って、ため息をついたんだよ」
「――っ!? あ、あの時のことは忘れてくださいと、家でも言ったじゃないですか!」
海未が俺の右腕をポコポコと殴る。しかし、海未は恥ずかしさが勝ると途端に力がなくなるので、さっぱり痛くない。あー、丁度いい力加減で気持ちいいなぁ。
『……あいつら、新学期早々イチャイチャしてるよ。バカップルっていう、自覚ないのかなぁ……』
ちなみに、起きていたクラスメイト全員は和希と海未の様子を見て、こんなことを思っていた。クラスメイトの中では、あれで付き合っていないのが不思議らしい。
全員の口から、和希たちとは違うため息が漏れる。後、その中の8割がリア充爆発しろとも思っていた。
☆ ★ ☆
さて、無事始業式も終わり、ロングホームルームや席替え(一番後ろの席なのは良かったのだが、また海未の横になってしまった。神様はやっぱり不平等だ!)なども終了し、あっという間に下校時刻。
「ねぇねぇ、真嶋君。海未ちゃんと夏休みの間、何もなかったの?」
とあるクラスメイトの女子が話しかけてきた。
どうして夏休みの予定なんか? とも思ったが、一応答えておこう。
「うーん、夏休み? 特に何もなかったよ。風邪の看病してもらって(穂乃果とことりも一緒)、夏祭りに行った(穂乃果とことりも一緒?)くらいだ」
『きゃー!!』
なぜか女子の間から黄色い歓声が上がる。そして海未が、俺の後頭部を力いっぱい叩いてきた。
暴力反対!
「ってぇ! オイコラ海未、いきなり何するんだよ?」
「和希がいけないのではないですか! 今の説明では、そ、その、私たちが二人きりで、もにゅもにゅ……とにかく、和希の言い方では、色々と誤解を与えてしまいます!」
ひとしきり俺を怒ったり、もにゅもにゅした後、周りの女子に「穂乃果とことりも一緒でしたから!」と必死に弁明を繰り返す。どうでもいいけど、その弁明方法だと逆効果じゃないか?
だってクラスの女子全員、『海未ちゃん、真っ赤になって……可愛いなぁ』って顔してるし。
「まぁまぁ、落ち着けって海未。そんなに怒鳴っても血圧が上がるだけで、いいことはないぞ?」
「誰のせいで怒鳴ってると思っているのですか!?」
おっと、火に油を注ぐようなことをしてしまった。我ながら、反省反省。
ところで、どうして俺達の関係をクラスメイトからこうもいじられるのか? 原因は以前俺が、「おい、海未。さっき睦未さんから連絡があって、今日の夕食は二人でお願いしますだとよ」というセリフを、うっかりクラス内でもらしてしまったからである。
もちろん、居候していることを知らないクラスメイトは全員、目が点に。文字通り、クラス内に激震が走ったのである。
しかし、ここで止まっておけば、というか海未も気付いて受け答えをしなければよかったのだ。
にもかかわらず海未は、「あっ、そうですか。それでは部活が終わり次第、なるべく早く帰れるようにしますね」と受け答えてしまったのだ。居候ということに慣れ過ぎて、俺も海未も油断していたのだろう。
俺自身が原因とはいえ、あの瞬間は思わず頭を抱えてしまった。
もうその後は、主に女子から質問攻めである。質問内容は覚えていないが、滅茶苦茶疲れたことだけは記憶に残っていた。
まぁ、俺と海未が名前で呼び合うようになった時から、怪しまれたんだけどね。今ではこの有様だった。
クラスの女子からはいじられ、男子からは疎まれ……不良の面目丸つぶれである。というか、俺の事を不良として見てるクラスメイトなんてもういない。ほんと、おかしなクラスに出会ってしまった。
そこで、意味のない弁明を終えた海未がふらふらと帰ってくる。
「おうっ、お疲れさん」
「全く、誰かさんのせいで余計な体力を使いました……」
「弁明なんかしても、意味ないんだからしなきゃいいんだよ。……っと、海未。少しじっとしてろよ」
「えっ?」
首をかしげる海未に近づいていき……髪についていた糸くずを優しく取り除く。
「急に悪いな。髪に糸くずがついてたんだよ」
彼女は俺の行動に少し驚いた様子だったが、
「あ、ありがとうございます……」
ぽしょぽしょと小さな声でお礼を言った後、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
指でくるくると髪の先をいじっているあたり、照れているのだろう。海未のくせに、反応がいちいち乙女だ。
「お、おぅ……」
そんな反応されると、こっちまで照れるのでやめてほしい。俺も頬をかきながら彼女から視線を逸らす。
個人的には怒られるかな? と思っていた分、素直にお礼を言われると、ただただ恥ずかしかった。
『…………』
「生温かい視線を向けるのはやめろ!」
『…………ちっ』
「あからさまな舌打ちも同様だ!」
このクラスは変わってるよ。いろんな意味で……。
☆ ★ ☆
始業式の日から二週間ほどが経過し、
「ねぇ、海未ちゃん。和希君にはいつ告白するの?」
「ぶっ!!」
「わぁっ! 海未ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……それよりも穂乃果! きゅ、きゅ、急に何を言いだすんですか!?」
私は口元を拭いつつ、変なことを言いだした穂乃果を、真っ赤な顔で睨みつける。
今日はたまたま部活が休みで、穂乃果とことりと一緒に遊ぼうということになっていたのだ。そして今は、遊び疲れて近くにあったファミレスで休憩しようということになったのである。
しかし、席に着くなり穂乃果がとんでもないことを言い出した為、私は大声を上げる羽目に。
「何って、穂乃果、別に変なことを言ったつもりはないよ? むしろ変なのは海未ちゃんだよ!」
「穂乃果の言っていることが理解できません……」
「えぇー! ことりちゃんは、穂乃果の言ってること、理解できるよね?」
流石のことりでも、今回ばかりは穂乃果の味方をすることはないはずです。……そのはずだったんですけど、
「ごめんね、海未ちゃん。実は私も、穂乃果ちゃんと同じ事を聞こうとしてました♪」
「ど、どうして……」
ニッコリと微笑むことりに、私は思わず絶句する。今だけは天使の様なことりの頬笑みが、悪魔の微笑みに見えます……。
「だって、夏祭りのことが本当なら、海未ちゃんもう和希君の事好きなんでしょ?」
「っ!? べ、別に、和希の事を多少認めただけで合って、好きというわけでは……」
ちなみに、夏祭りで穂乃果たちと離れた後のことは、二人に根掘り葉掘り聞かれたため、全てばれていました。
その、浴衣姿をかっこいいと言ったことも……。
「穂乃果知ってるよ! 海未ちゃんみたいな人の事をツンデレって言うんだって!」
「つ、ツンデレ?」
「特定の人の前でツンツンした態度をとったかと思ったら、急にデレデレしだす人の事を言うんだよ!」
「なぁっ!? べ、別に私は和希の前でデレデレなんて――」
「そこで迷いなく、和希君の名前が出てくる海未ちゃん、可愛い!」
「…………」
死ぬほど恥ずかしいです。何も考えずに答えた自分が迂闊でした。これからはもっと、鍛錬を積んでいく必要がありますね……。
「和希の名前が出てきたのはたまたまです。たまたまなんですからね!!」
「あっ、そのセリフもすごくツンデレっぽい!」
「…………穂乃果、これから宿題を見てあげませんからね?」
「べ、別にいいもん! 海未ちゃんが見てくれなくても和希君がいるから」
これは後で和希に、穂乃果を甘やかしすぎるなと言っておかなければなりません。和希は、隙あれば穂乃果を甘やかしますから。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃんの和希君をあんまり取っちゃ駄目だよ?」
「誰が私の和希ですか! 別に和希が誰のものになっても関係ないです」
「じゃあ、穂乃果が和希君の彼女になっちゃってもいいの?」
何気ない穂乃果の言葉に、私は色々と想像します。穂乃果と和希が仲良く並んで手を繋いで、笑顔で会話して……。
「…………………………だ、だから、和希が誰の彼女になっても、私には関係ないです」
「それじゃあ、ことりも和希君の彼女候補に立候補しちゃおうかな♪」
穂乃果につられて、ことりまで手を挙げだす。彼女は冗談で言っていると分かる口調なのに。冗談だと分かるのに……。
私の中の何かがきれてしまったらしく、
「だ、駄目です!! 和希は、和希は……あっ!」
思わず私はファミレスであることを忘れて、立ち上がってしまった。突然立ち上がった私に、店内の視線が集中する。
「す、すいません……」
私は真っ赤な顔で頭を下げ、着席すると、キッと穂乃果とことりを睨みつけた。
しかし、そこは長年幼馴染をやっているだけあります。今更、私の視線くらいでは全然怯んでくれません。
「ふふっ、和希君の前でもそのくらい素直になればいいのに?」
「こ、ことりぃ……」
恨みがましい視線を改めてことりに向けますが、彼女はニコニコと微笑むばかり。
「海未ちゃん、それってもう、和希君のこと好きだってことだよね?」
穂乃果が、身を乗り出すようにして私に迫ってくる。確かに穂乃果の言う通りなのかもしれません。でも、
「……分からないんです、自分の気持ちが。今まで誰かの事を好きになる事なんて、一度もありませんでしたから」
子供の頃の私は今以上に引っ込み思案で、恥ずかしがりやで、穂乃果の後ろに隠れるばかりで、男の子と話す機会なんてほとんどありませんでした。
中学に入ってからはご存知の通り、私はむしろ男子と対立する立場にありましたから、当然誰かを好きになる事もなかったです。
だからこそ、和希は少しだけ特別でした。
一緒に住み始めた頃の私たちは、最悪の関係だったと言わざるをえません。和希は私の大嫌いなタイプの人で、言うことも全然聞きませんでしたから。
でも、彼は不良だけど私の事を助けてくれて、いつも憎まれ口ばかり叩いてくるけど、不意に見せる彼の優しさは、いつだって私の心をドキッとさせる。
特に夏まつり以降は、彼の事を自然に目で追ってしまうことが増えている気がした。和希の言葉に、行動に、ドキッとしたりすることも同様に……。
始業式の日。髪についていたゴミを取ってもらった時は、本当にどうにかなりそうだった。
和希の整った顔が近づいてきて、ふわっと和希の匂いが鼻腔をくすぐって……。いきなり過ぎて、相当動揺してしまったのはよく覚えている。
「あんまり難しく考える必要はないと思うよ。誰かを好きになる気持ちは、理屈じゃ説明できない部分も多いはずだから」
ことりが私を諭すように話しかけてくる。
「理屈じゃない……」
夏祭りの時、彼の言葉に思わず「嬉しい」と言ってしまった。「可愛い」と言われてすごくドキドキした。彼女の言う通り、この気持ちは理屈で説明できることではない。
だって、頭ではあれだけ和希を悪く言っていたのに、心はそう思ってくれなかった。ギャップと言われればそれまでかもしれないが、それでも彼の優しさに惹かれたのは事実であって……。
「和希君から止められてたんだけど、ちょうどいい機会だから言っちゃうね。この前和希君、告白されてたんだ」
「……えっ?」
思わず間抜けな声をあげてしまった。
「ことりも聞くつもりはなかったんだけどね。たまたま告白されてる近くを通りかかっちゃったから」
ことりの声がやけに遠く聞こえる。心がぎゅうっと締め付けられ、スッと体温が下がっていくような感覚。血の気が引くとはまさにこのことだった。
もしかしたら和希に、彼女がいるのかもしれない。そう考えるだけで目の前が真っ暗になっていくようだった。
「そ、それで、和希の返事は?」
思わず声が震える。次の言葉を聞きたいけど、聞きたくない。ことりの口から返事を聞くのがすごく、怖かった。
「……もちろん、断ってたよ。今は好きな人がいないんだって」
「……そう、ですか」
私はホッと息を吐く。和希に彼女がいなくて安心した反面、好きな人がいなくて残念な気持ちがもう反面。
「海未ちゃんって、和希君の事になると穂乃果以上に分かりやすいよね~」
「えっ? 私、顔に出てましたか?」
「うんっ! 彼女がいなくてすごく安心したけど、好きな人もいなくて少し残念……みたいな感じの顔だったよ!」
元気よく頷く穂乃果に、私はますます恥ずかしくなってきました。ことりならともかく、単純な穂乃果にまで見破られたとなると、これは少々問題です。
「海未ちゃん、今穂乃果のこと、心の中でバカにしたでしょ?」
「……バカにはしていないで安心してください」
ジト目の穂乃果に私は苦笑いを浮かべる。そして私は気付いてしまった。いえ、違いますね。認めたくなくて、意固地になっていただけかもしれません。
「穂乃果、ことり……私」
胸に手を当てて、私は静かに、だけどしっかりと二人を見据えて、一つの答えを出した。
「私は、和希のことが、好きです」
もちろん、イラッとすることも多いです。それでも、私は和希のことが好きだったんです。多分、私の事を助けてくれた日からずっと……。
「和希に褒められると、すごく嬉しいです。思わず、顔が緩んでしまいます。和希に名前を呼ばれた時、すごくドキッとしました。まさか、本当に呼んでくれるとは思いませんでしたから。和希が他の女の子にデレデレしてると、すごくイラッとします。でも、和希が取られちゃうんじゃないかと思って、すごく心配になります」
誰かを好きになる気持ちなんて、今でもよく分かりませんし、一口で語れるようなものでもありません。
一目見た時から好きだという人もいる。最初は友達だったという人もいるし、私のように最初は嫌いだったという人もいるでしょう。
「好き」という気持ちの説明は簡単なようで、意外と難しい気持ちですから。だけど、今私の言った全てが、誰かを好きになる事なんだと思います。
「……私は和希の笑顔が好きです。たまにしか見せてくれませんけど、彼の笑顔は優しくて、その……とてもかっこいいです」
先ほどからニヤニヤと見つめる、二人の視線が妙にむず痒い。おかげで顔が余計に熱くなってしまう。これだから本当の事を言いたくなかったんです。
「まぁ、和希君、穂乃果の目から見てもかっこいいからねぇ~。海未ちゃんがそう思うのも当然のことだよ!」
「ことりもそう思うな♪ それに海未ちゃんと和希君は、タイプも似てるからすごくお似合い」
「……ちなみに私と和希はどう似ているのですか?」
「なかなか素直になれない、ツンデレタイプ♪」
「ものすごくバカにされた気分です……」
和希はツンデレ? なのかどうか、わかりませんけど、きっと私と和希はバカにされていることでしょう。
「……ふえっくしょい! 誰か俺の噂でもしてるのか? いやー、人気者は困るぜ」
「素直になれないのは、その、は、恥ずかしくて……どうしても、思っていることと違うことを言ってしまうんです」
『海未ちゃんは可愛いねぇ』
「二人とも、真面目に聞いてください!!」
のほほんとした二人に、再び私は机をバンッと叩いて立ち上がり……周りの人たちに頭を下げてもう一度座り直しました。
「ま、全く、本当に穂乃果とことりは……」
「だって、和希君の事を想って乙女になる海未ちゃんを見てると面白くて!」
「だって、和希君の事を想って乙女になる海未ちゃんが可愛くて♪」
うぅ……二人が必要以上に私の事をいじってきます。顔が熱くて、熱くて……。
「改めて聞きますけど、どうやったら和希の前で素直になれるんでしょうか?」
「うーん、穂乃果は別に無理して素直になる必要はないと思うけどな~」
「そもそも和希君の事だから、「どうした、急に素直になって? 海未がそんなに素直になるだなんて、気持ち悪いぞ?」って言うんじゃない?」
「……想像できるから怖いですね」
私は思わずため息をつく。和希は私の好意を、なかなか受け入れてくれませんから。
「だから、ちょっとずつでいいんだよ海未ちゃん。まずは一日一回、和希君の事を褒めるみることから始めたらどう?」
「ほ、褒めるですか……」
「もうっ! 褒めることくらいで恥ずかしがってたら、和希君と付き合った時どうするの?」
「つ、付き合うっ!?」
思わず声が裏返る。
「そうだよ。だって海未ちゃん、和希君の事好きなんでしょ?」
「そ、それはそうですけど、いきなり付き合うだななんて……」
「ま、まぁまぁ、穂乃果ちゃん。海未ちゃんはさっき自分の気持ちを自覚したばかりなんだし、驚いちゃうのも無理ないよ。まぁでも」
そこでことりは、私に向かってニッコリと微笑む。
「和希君は鈍感だから、海未ちゃんが素直にならないと、一生気持ちに気付いてもらえないよ?」
「…………」
本当にことりは痛いところを絶妙についてきますね。私はそんな彼女に苦笑いを浮かべる。
「確かにそうかもしれません。私は穂乃果やことりと違って、和希に良い印象をそこまで持たれていないでしょうから」
「……和希君って、本当の所、海未ちゃんのことどう思ってるのかな? 穂乃果的には海未ちゃんが思ってるより、印象は悪くない気がするんだけど」
「……多分、最初の頃の印象が強すぎるからじゃない? あの時はお互い、悪口を言い合ってたわけだしね。それでも、夏祭りの後の会話を聞いてる限り、かなり好印象を持たれてると思うんだけどなぁ~」
「? どうしたんですか、二人とも」
『ううん、何でもないよ!』
息を揃えて、首を振る二人。なんでしょう? いまいち、納得できません。
「そんな事よりも、海未ちゃんが考えなきゃいけないことは、これからどうやって和希君の事を褒めるのかだよ!」
私が不満げな顔で二人を見つめていると、穂乃果が強引に話を元に戻す。
「ほ、褒めるって言っても……あっ!」
私の頭の中にとある和希の姿が浮かぶ。
誰にも話したことがない、私がかっこいいと思う彼の姿。今日も和希が家で勉強をしていれば、その姿が見れるかもしれません。
「ふふっ♪ 海未ちゃん、何か言い褒め言葉が浮かんだのかな?」
「い、一応ですけど……」
「それじゃあ、帰ったら早速褒めてあげなきゃだね! ファイトだよ、海未ちゃん!!」
「海未ちゃん、頑張って♪」
ほのかとことりから激励の言葉を受ける。まだ言えると決まったわけではありませんが、もし言えるのであれば、頑張って素直にならなければいけませんね。
せっかく、こうして幼馴染二人が応援してくれているのですから。
「二人の期待に沿えるよう、あと自分の為にも頑張ります!」
私の言葉に穂乃果とことりが優しく微笑む。その後は二人といつも通り、とりとめもない会話をして、私は和希の居る自宅に帰ったのだった。
☆ ★ ☆
穂乃果たちと別れ、家に帰ってきた私は、一つ深呼吸をしてから彼の部屋の扉をトントンと叩く。
お母さまから、ご飯の用意ができたことを伝えてほしいと言われたのだ。しかし、先ほど和希のことが好きだと自覚してしまったため、なんだか気恥ずかしい。
「和希、いますか?」
声をかけるも、返事は帰ってこない。恐らく、イヤホンをして音楽でも聞いているのだろう。
「入りますからね」
もう一度確認を取り、私は和希の部屋の中へ。
中では案の定、和希がイヤホンをつけて勉強をしている最中だった。よっぽど集中しているのか、私が入ってきた事にも気づいていないみたいです。
「和希」
彼の肩をトントンと叩く。そこでようやく私の存在に気付いた和希が、驚きのあまり瞳を真ん丸くさせました。
「何だ、海未か。びっくりさせないでくれ」
「私はちゃんと声をかけましたよ? 和希こそ、私の声が聞こえない音量で音楽を聞かないで下さい」
「これでも音量には気を付けてるんだけどなぁ~。それで、どうかしたのか?」
「お母さまから、夕食の準備ができたので、和希に伝えてきてほしいと言われたんです」
「了解。それじゃあ、勉強道具を片付けて行くから、先に戻ってていいぞ」
そう言って和希は、机の上に広がっていた勉強道具の片づけを始めます。
チラッと見えましたが、彼は数学をやっていたみたいですね。何やら数式が、所狭しとノートに書き込まれていましたから。
ちなみに和希が勉強をしているのは、先日行われた実力テストの結果が芳しくなかったためです。それでも私より点数は上なのですが、彼曰く「これじゃあまずい」とのことで、先日から暇を見つけては勉強をしているというわけでした。
(最近は特にそうですけど、和希は本当に不良なのかと疑問に思うことが増えてきました。実力テストの点数が低くて勉強を始める不良なんて私は知りません)
真面目な生徒ならいざ知らず、和希ですからね。ほんと、訳が分かりません。そう思いながら、私は眼鏡をかけている彼の横顔を眺めます。
眼鏡姿の和希は私のお気に入り。彼はキャラの大渋滞を起こすとのことで、学校では眼鏡をかけていません。
だから今の和希は穂乃果も、ことりも知らない。私だけが知っている特別な姿。
初めて見た時からギャップにやられてしまった私は、見るたびに心がドキッとします。
だって、仕方ないんです。すごく似合っていて、その、か、かっこいいですから……。
「なんだ? 俺の顔に何かついてる?」
じろじろ見ていたせいか、私に向かって和希が首をかしげてきます。
「い、いえ、そういうわけではないんですけど……」
適当に誤魔化そうとして……頭の中に先ほどの会話がよぎる。
『和希君は鈍感だから、海未ちゃんが素直にならないと、一生気持ちに気付いてもらえないよ?』
「…………」
「海未?」
和希は他の女の子に告白されるくらい、モテる男の子です。もしかしたら、私がこうして素直になれないうちに、和希は他の女の子と付き合ってしまうかも……。
自分の気持ちを理解してしまった以上、そんなの絶対に嫌です。だから私は胸の辺りをキュッと握り締めて、顔をあげた。
「和希はやっぱり、その眼鏡姿が一番、似合ってるな、と思いまして……」
カッコいいです。
その一言は恥ずかしくて口に出せなかった。お祭りの時は言えましたけど、あの時は背負われていて、顔を見る必要がありませんでしたし……。
それと、最後のほうは恥ずかしくて声が小さくなってしまった。でも、素直になれないときに比べたら格段の進歩です。
「…………」
私の言葉に和希は何も言いません。あ、あれっ? もしかして逆効果でした? だけど、悪態をついてこないあたり、怒ってるとも思えません……。
(和希は一体何を考えているのでしょう?)
なんて考えていると、和希は無言のまま眼鏡を外し、こちらに近寄ってきて……その眼鏡を私にかけさせてきました。
そして私の頭を一回ポンッとなでると、
「うん。やっぱり眼鏡は、海未の方が似合ってるよ」
少しだけ微笑みながらそう伝えてきたのだった。
「…………へっ?」
まさか和希に褒められると思っていなかった私は、しばらくの間、何を言われたのか分からず放心状態に。
しかし、徐々に彼の言った事を飲み込み始めると、ボンッと顔が熱くなった。
「な、ななっ!? きゅ、急に、何を――」
戸惑う私を他所に、
「さてと、それじゃあ晩御飯を食べに行こうか」
和希はさっさと部屋を出ていってしまいます。
残された私は体から力が抜けてしまい、その場にへたへたと座り込んでしまいました。
「うぅ……///」
顔と耳が熱いやら、褒められて嬉しいやら、急に言うなんてずるいやら……様々な感情が私の心を渦巻く。
だけど……私は和希の眼鏡に手を添えて、
「えへへ///」
堪えきれずに笑みをこぼしたのだった。
☆ ★ ☆
(はぁ、驚いた……)
俺はリビングまでの廊下を歩きながら、思わず心臓を押さえる。未だにバクバクと、信じられないほどうるさい。
(ほんと、どうして急にあんなことを……)
ほのかに頬を染め、上目遣いで俺の事を見つめてきた海未の姿が頭をよぎる。
あの時は突然のことに思わず言葉を失ってしまったが、何とか誤魔化せた。……と思う。海未に眼鏡をかけさせ、取り敢えず頭に浮かんだことを言ったのだが、自分でも何を言ったのかよく覚えていない。
うん、それぐらいテンパってたんだと思ってほしいです。だってさ……素直になった海未、めっちゃ可愛かったんだ。それはもう、抱き締めたくなるほどに。
あんなの反則である。元が美人なんだから、素直になった海未が可愛くないわけがない。
(晩ご飯の時、どんな顔して海未と話したらいいんだろう?)
この後のことを考えて、若干憂鬱な気分になる俺だった。
(まぁでも、嬉しかったしそこまで気にしなくてもいいかな?)
☆ ★ ☆
ちなみに夕食時。
妙にギクシャクする俺たちを見て睦未さんが「何々? どうしたの二人とも? もしかして、付き合っちゃった?」と楽しそうに突っ込んできたのは言うまでもない。
その時に海未が、いつも通り「付き合ってません!!」とツッコんでくれたらよかったのだが、
「べ、別に、付き合ってなんて……」
もにょもにょと言い訳? みたいなことを言った後、なんかすごく幸せそうな顔をして頬を緩ませたもんだから、もう大変だった。
詳細については面倒なので省略させていただきます。
今回も読了ありがとうございます。そして、感想やお気に入り等、いつもありがとうございます。励みに、これからも頑張ります。
それにしても、眼鏡姿の海未ちゃんも可愛いんだろうなぁ~。