真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 ひたすら海未と和希が、イチャイチャしているだけだった気がする。


11話 真面目な彼女と遊園地に行った

「和希君、早く早く!」

「ちょっと待てよ穂乃果。そんなに急いでもアトラクションは逃げないから安心しろ」

「穂乃果、前を見ないと転びますよ?」

「穂乃果ちゃん、まだ何もしてないのに楽しそうだね♪」

 

 元気いっぱいな穂乃果に、若干心配そうな俺と海未。そして、いつも通り天使の如く、微笑みを浮かべることり。

 

 なんか、海未が素直になってドギマギし始めてから、一か月ほど。

 季節は10月に突入し、あれだけ厳しかった日差しも、うるさかったセミの声も、ここの所はすっかり落ち着いて、だんだん秋らしい気候になってきた今日。

 俺と海未、それに穂乃果とことりは、とある遊園地に足を運んでいた。

 

 最初に言っておくと、ここは某ネズミの居る夢の国ではない。ここはジェットコースターなどの絶叫マシンが多くあり、絶叫好きにはたまらない遊園地である。

 夢の国でも別に構わなかったのだが、人が多そうなのでやめた。俺、人ごみがあんまり好きじゃないし、海未たち三人と一緒に居たら、背中を刺される気しかしない。

 それに、海未を除く三人がジェットコースター系のアトラクションが好きなので、こちらの遊園地のほうが性に合ってるっていうのも理由の一つだな。

 ちなみに海未は、遊園地に来るのが久しぶりすぎて、絶叫マシンに乗れるのか、乗れないのかも、よく覚えていないらしい。

 この遊園地で絶叫系が無理だったら、乗れるアトラクション、ほとんどないと思うんだけど……。まぁ、そん時はそん時で考えればいいや。

 

「ほらっ、和希君! ぼーっとしてるとおいてっちゃうよ?」

 

 おっと、穂乃果が大変ご立腹だ。そんな穂乃果に「ごめんごめん」と手を合わせる。そのまま三人と一緒にチケット売り場に行き、一日フリーパスを購入。

 

「それじゃあ、まずは何から乗ろう?」

「はいはいっ! 穂乃果、まずはあのジェットコースターがいい!」

 

 穂乃果が指差した先にあったのは、FU〇IYAMAと呼ばれるジェットコースター。

 このコースターはこの遊園地を代表するものであり、王道中の王道である。キングオブコースター。

 まぁ、一発目にしては無難な選択だろうな。

 

「俺は穂乃果の意見に賛成だけど、二人は大丈夫か?」

「うん! ことりもこれで大丈夫だよ!」

「私も構いませんよ。多分、これくらいなら何とかなります」

 

 うーん、本当に大丈夫なのかな? 乗った後に泣き喚かれても困るけど……。まぁ、海未は意外と肝が据わってるし、問題ないだろう。

 二人に了承を取ったところで、俺たちは待機列の最後尾へ。

 

「それにしても、開園直後だっていうのに、結構並んでるな~」

「まぁ、並んでいる時間はみんなで話してれば、あっという間だって!」

「そうそう。それに待っている間はきっと、和希君が面白い話をしてくれるから♪」

「こ、ことりさん? そんな無茶振りは勘弁してほしいっす……」

 

 ことりたちを満足させられるほどの話を、俺は持ち合わせちゃいない。というか、何を話してもスベる気しかしない。くそっ、こういう時に場を盛り上げる小噺(こばなし)の一つでも持っていれば……。

 

「それじゃあ、ことりから和希君の事について、色々質問しちゃってもいい?」

「別に構わないけど、それって面白いのか?」

「もちろん♪ それじゃあ早速……和希君はどんな女の子がタイプですか?」

「ぶっ!?」

 

 どういうわけか、ことりの質問に海未が過剰に反応してる。

 

「何で海未が狼狽えてるんだよ? 質問されてるのは俺なのに」

「い、いえ、なんでもありません。それより、和希は早くことりの質問に答えてください!」

 

 よく分からないけど、海未に怒られた。理不尽にもほどがある。

 

「まぁ、タイプって言っても、可愛くて、性格が合えば、誰でもいいんじゃないか?」

「……誰でもいいって、和希は最低ですね」

「そこだけピックアップするんじゃねぇよ! マジで最低な奴になるから!」

 

 皆さん、改めて言っておきます。私は誰でもいいわけではありません。

 まず第一に、性格が俺と合うことが大事です。決して、可愛ければビッチでも、ギャルでもいいわけではありません!! 

 そこのところ、海未みたいに勘違いしないで下さい。

 

「うーん、それじゃあ全然分かんないよ。あっ! それじゃあ、穂乃果たちの中なら誰が一番タイプ?」

「穂乃果たちの中なら?」

「ちょっと穂乃果!? あなたは一体何を聞いて……」

 

 相変わらず慌てた様子の海未を無視して、俺は穂乃果たち三人をそれぞれ眺める。

 こうしてみるとタイプは全然違うけど、みんな可愛いんだよなぁ~。これは悩む……。

 

「は、早くしてください!」

「まぁまぁ、海未ちゃん。和希君も真剣に悩んでくれてるんだし、待ってあげようよ♪」

 

 悩み続けること、約二分間。俺は結論を出した。

 

「顔だけなら、海未が一番タイプかな。ただし、黙っている時に限る」

 

 後、素直な時も同様かな。あの時の可愛さはマジでやばい。

 

「……最後の言葉のお蔭で、素直に喜べません。全く、これだから和希は」

「そう言ってるけど海未ちゃん、口元すっごく緩んでるよ?」

「穂乃果っ!? て、適当なことを言わないで下さい!! 別に緩んでなんかいません。普通です、普通!!」

 

 穂乃果の指摘に、顔を真っ赤にして海未が反論している。完全に弄ばれてるな。ことりもことりでニマニマしてるし。

 

「ふふっ♪ 予想以上の答えが聞けたところで、どうして海未ちゃんの顔がタイプなの?」

「どうしても何も、別にいいだろ。理由なんて」

「え~。でもことり、海未ちゃんがタイプだって言った理由が、とっても気になるなぁ~?」

 

 ツンツンと俺の頬をつつくことり。くっ……この上目遣いと甘い声は反則だ。というか、本当の事を言わないと解放されない気がする。

 

「こ、ことり! そこまで追求しなくても……」

 

 いいぞ、海未。もっと言ってやれ! 今だけはお前のことを、全力で応援してやるぞ! 

 しかし、何やらこしょこしょとことりに耳打ちされている。これはもう、嫌な予感しかしない。そして、話を終えた海未は少しだけ頬を染めながら口を開く。

 

「ま、まぁ、理由くらいなら聞いてあげてもいいですよ?」

 

 一体全体、ことりに何を吹き込まれたんだ? 突然の方針転換に、俺は絶句するしかない。

 

「ほらぁ~。和希君、海未ちゃんもこういってることだし」

「い、いや、無理して言うほどでもないし。それより結構時間も経ったことだから、俺たちの番じゃ――」

「穂乃果たちの番はまだまだだよ。だから、安心して和希君!」

「…………」

 

 親指をグッと立てる穂乃果。おかしいな。俺の周りに味方が一人もいない。三人の視線が俺に集中する。

 

「あぁ、もう! 分かった、分かったから!」

 

 視線に耐え切れなくなった俺は、半分やけになって叫ぶ。畜生、こんな予定じゃなかったのに……。どうしてこうなった!? 

 

「…………だよ」

「えっ? 和希君、もっと大きな声で!」

「だ、だから、普通に可愛いと思うからだよ!」

 

 穂乃果とことりの厳しい追及をうけ、思わず声が高くなる。気分は、国会答弁中に野党から厳しい追及を受ける与党議員みたいだ。

 くそっ、可愛い宣言と相まって余計に恥ずかしい。この場に埋まりたい気分だ。

 

「へ、へぇ、可愛いですか……和希にしては、よくできたほうですね」

 

 腕を組み、そっぽを向きながら、えらそうなことを言う海未。ここが遊園地じゃなかったら、普通に頭を引っ叩いている気がする。

 しかし今は、周りの目があるプラス、恥ずかしさが勝っているため、何もできない。顔を真っ赤にして耐えるだけである。く、屈辱だ……。

 

「海未ちゃん、あんなこと言ってるけど、すごくデレデレしてるよ。和希君は気付いていないみたいだけどね」

「可愛いね、海未ちゃん♪ 嬉しいのなら、素直に嬉しいっていえばいいのに!」

 

 そんな俺たちを、穂乃果たちが生温かい目で見つめている。そんな感じで女子三人から羞恥プレイをうけていると、いい感じに時間が経過してたらしい。次はもう、俺たちの番となっていた。

 

「二人掛けで座るみたいだけど、どうやってすわ――」

『海未ちゃんと和希君。私と穂乃果ちゃん(ことりちゃん)で!!』

「お、おぅ……」

「どうしてそんなに息ぴったりなんですか……」

 

 俺と海未がドン引きする中、半ば強引に俺と海未は隣同士で座ることに。そして、ようやく俺たちの番となった。

 

「安全バーの確認を行います」

 

 係りの人が、一つ一つの安全バーを確認していく。そして、

 

「安全の確認が完了しましたので、出発いたします。それじゃあ、いってらっしゃい!」

 

 手を振られながら、ジェットコースターが出発した。

 

 そのままガタガタと頂上に上がっていく中で、緊張気味に目の前のバーを握る海未が視線の端に移る。

 

「緊張してるのか?」

「は、はい。少しだけ。やっぱり怖くて……」

 

 そういう海未の顔は少しだけ青い。俺はこっそりと、前に座る穂乃果とことりの姿を確認する。……よしっ、今なら大丈夫だな。

 

「……ったく、仕方ねぇな」

 

 心のなかで10ほどの言い訳を重ねた後、俺は緊張気味に座る海未の左手をしっかりと握り締めた。

 そんな俺に、海未の身体がピクッと震える。

 

「ど、どど、どうしたんですか!?」

 

 顔を赤くしてテンパる海未に、俺はそっぽを向きながら答えた。

 

「お前が、あまりに緊張してるからだよ。……他意はない」

 

 俺の言葉に、海未が恥ずかしそうに俯く。だけど、

 

ぎゅっ

 

 海未が指を絡めるようにして手を握り直してきた。

 

 

 

「……こっちの方が、いいです」

 

 

 

 絡めた指を通して、彼女の体温がじんわりと伝わってくる。

 何というか、ジェットコースターにのっていることを忘れてしまいそうだ。

 

「……海未、これはずるい」

「えっ? なんですか和希?」

「何でもないよ。それより、もう直ぐで落ちるから、心の準備をしておけよ」

 

 俺の言葉の数秒後、

 

「きゃぁあああああああ!」

「うぉおおおおおおおお!」

 

 俺たちを乗せたジェットコースターは、ものすごいスピードで落ちていくのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「和希っ! 次はあのジェットコースターに乗りましょう!!」

「はいはい、ジェットコースターは逃げないから、大丈夫だよ」

 

 キラキラと目を輝かせた海未が、俺の腕をグイグイと引っ張る。

 取り敢えず、この状況を説明しておくと、海未がジェットコースターにハマりました。

 

「あんなにはしゃいでる海未ちゃんを見るのも久しぶりだね~」

 

 呑気に声を上げる穂乃果に、俺もうんうんと頷く。

 

 FUJI〇AMAに乗り終えた後、「和希! ジェットコースターって、すごく面白ですね!!」とテンション高めに話しかけてきた時には、若干引いてしまった。海未って、こんなに無邪気に笑うんだなと。

 

 その後、ド・ドド〇パと、え〇じゃないかにも乗ったのだが、ずぅーっとキャーキャー騒いでいた。俺じゃないよ。海未がだよ。

 ちなみに俺は、ええじゃないかに乗った際、とんでもないスピードとGの影響で後頭部を強打していた。め、めちゃくちゃ痛かったです。楽しかったからいいんだけどね。

 しかし、そのおかげでしばらくの間、脳が震えていましたよ。……決して俺は魔女教ではない。無宗教です。

 

「もうっ! 和希ってば、何をボーっとしているのです? 早く行きますよ! 次は高〇車です!!」

 

 ほんと、最初のうちとはまるで別人だな。穂乃果が二人いるみたい……。思わず苦笑いを浮かべながら、海未の後についていく。

 それにしても、高〇車か……あの角度はどうやって出しているのだろう? 首をかしげながら、高飛車の列に。待っている間、海未はずっとそわそわしていた。そして高飛車に乗るや否や、

 

「和希、すっごく楽しみですね!」

 

 なんて純粋に笑いかけてきたものだから、別の意味でドキドキしてしまった。いつものツンツンした海未はどこに行ったんだよ? 調子狂うな、全く……。

 そのまま121度の角度で落下した後、俺たちは遊園地内にあるフードコート内で昼食をとることにした。

 

「ところで次は何に乗るんだ?」

 

 正直、ジェットコースターはお腹一杯なんだけど……。俺の問いかけに海未……ではなく、ことりが手を挙げる。

 

「はいはい、和希君! ことり、次はお化け屋敷に行きたいな♪」

「…………ごめん、もう一回言って」

「えっ? お化け屋敷に行きたいなって」

「あ、あぁ、お、おおお、お化け屋敷ね。う、うん、それじゃあ、昼食を食べ終えた後はお化け屋敷に行こうか。あ、あははは……」

「和希君、どうかしたの?」

「いや、何でもないぞ穂乃果。何でもないったら、何でもないんだ」

 

 頭にクエスチョンマークを浮かべる穂乃果に、俺は冷や汗を流しながら首を振る。

 

 この遊園地にあるお化け屋敷、日本一長く、怖いとまで言われていた。もう、最悪である。

 

(何とか理由を付けて、その場から逃げ出さないと……)

 

 この後のことを考えて、ため息が出る俺だった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

(和希の様子がなんだかおかしいです)

 

 お化け屋敷に向かう道のりを歩く中で、私はそう思う。

 そわそわして落ち着かないし、視線は右往左往しているし、冷や汗は酷いし……。これはもう、何かを隠しているとしか思えません。

 

「和希、さっきから落ち着かないですけど、どうかしたんですか?」

「べ、べべ、別に、何もないし、俺はいつも通りだよ。ほ、ほんとだからな!?」

「まぁ、和希がそこまで言うなら、これ以上は問いませんけど……」

 

 絶対に大丈夫じゃなさそうです。声は上擦ってますし、相変わらず冷や汗も酷いですし……。

 もしかして、お化け屋敷が苦手なのでしょうか? それなら一連の行動に説明がつくんですけどね。

 挙動のおかしい和希に注意を向けつつ、私たちはお化け屋敷までの道のりを歩いていき、

 

「やっと着いた! それにしても、すっごく怖そうだね~」

 

 穂乃果の言葉に私たちも頷く。外観から既におどろおどろしく、いつ本物の幽霊が出てきてもおかしくない。そんな雰囲気だった。

 

「だけど、すごく面白そうだね♪」

「うんうん! ことりちゃんの言う通りだよ! 怖そうだけど、やっぱり面白そう!」

「二人ともすごいですね。私はあまり得意ではないですから。ちなみに、和希はどうなんです?」

 

 怖がっているのか確認するという意図も込めて、和希に話を振る。すると、

 

「…………な、なかなか、怖そうじゃないか。お、お化け屋敷はこれくらいじゃないと」

 

 和希は顔面蒼白になりながらも、精一杯強がっていた。これはもう、完全に黒ですね。

まぁ 、穂乃果とことりもいますし、今は黙っていてあげましょう。

 

「それじゃあ、早速入ろうよ! ここのお化け屋敷、距離も長いから、出るまでに結構時間がかかるみたいだし」

「分かりました。ほらっ、和希も行きますよ?」

 

 未だに顔が青白い和希を、無理やり引っ張っていく。

 

 お化け屋敷に入る途中で和希が「い、イタタタタ……ちょっとお腹が痛いから、お化け屋敷は無理かもなぁ~」という、下手くそな演技を披露していたが、穂乃果とことりと共に問答無用で引っ張っていった。

 後ろから「鬼、悪魔、海未!!」と大変失礼な言葉が聞こえてきたものの、無視させてもらった。誰が鬼で悪魔ですか、全く。そして、

 

「次の方、どうぞ~」

 

 無事に? 私たちの番となった。

 

「それじゃあ、私とことりちゃん。海未ちゃんと和希君のペアで!」

 

 今さらツッコみませんけど、やたら穂乃果とことりが私と和希を組ませるのは、まぁ、その、つまり……そういうことです。察してください。

 

「海未ちゃん、それに和希君。また出口でね♪」

 

 手を振りながら穂乃果とことりが、先にお化け屋敷の中へ。しばらく待った後、私たちもお化け屋敷の中へと入っていく。

 しかし、隣にいる和希の足取りが相変わらず重い。

 

「和希、そんなに遅く歩いていると、出る時間がどんどん遅くなりますよ?」

「う、うるせぇ! 今はちょっと調子が悪いだけだ!!」

「歩くのに調子も何もない気がするんですけど……」

 

 本当に苦手なんですね、お化け屋敷。……ちょっと、からかって見ましょうか。私はバレないよう、静かに和希の後ろに回って、

 

「わぁっ!」

「おひょぉ!?」

 

 驚かしたら、予想以上に面白かったです。お、おひょぉって……。

 

「……ぷっ」

「う、海未、てめぇ……」

 

 思わず吹き出してしまいました。そんな私に、和希が鋭い視線を向ける。だけど、涙目なので全然怖くないですね。膝も現在進行形で震えていますし。

 

「ふふっ♪ 和希ってば、やっぱりお化け屋敷が苦手なんですね。……可愛いです!」

 

 私の言葉に、和希が真っ赤になって俯く。

 

「だ、だからお化け屋敷なんて嫌だったんだよ……」

「昔から苦手なんですか?」

「小さい頃、お化け屋敷に入ったんだけど、その中で親とはぐれてな。それ以来、お化け屋敷はトラウマとして俺の心に刻み込まれてるんだよ」

 

 思い出しただけで寒気が……和希がぶるぶると震えている。これはよっぽど怖かったんでしょうね。

 私はそんな和希にニッコリと微笑んだ。そのまま右手を差し出す。

 

「はい、和希」

「……なんだよ、その右手は?」

「このままだと、和希はずっと怖がったままでしょう? だから手を繋いであげようと思ったんです」

 

 普段ならこんなこと、恥ずかしくて絶対に言えません。でも、今の可愛い和希なら大丈夫です。

 そ、それに、今なら誰にもバレることなく、手を繋げますし……。

 

 私の差し出してきた右手を見て、和希はしばらく悩んでいたみたいですが、ギュッと握り締めてくれました。

 どうやら、自分のトラウマには勝てなかったみたいです。

 

「ふふっ♪」

「わ、笑うんじゃねぇよ!!」

 

 再び真っ赤になって憤慨する和希。なんでしょう。和希は怒っていますけど、私は新たな彼の一面を知ることができて、とても嬉しいです。

 怒りながらも、右手を離さない和希に、私はお化け屋敷がずっと続いてもいいのかなと思うのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「あっ、海未ちゃんに、和希君。お疲れ……って、どうしたの和希君、その顔!?」「か、和希君、大丈夫!?」

「い、いや、気にするな……」

「ふ、ふんっ!」

 

 お化け屋敷後、穂乃果たちの合流したのですが……和希の顔を見て二人が驚きの声を上げる。なぜならその右頬には、大きな紅葉マークがついていたからだ。

 

 か、和希がいけないんです! 手を繋ぐだけならまだしも、まさか驚いて私の身体を抱き締めてくるだなんて思いませんでした。

 和希は目の前の恐怖から逃れるために必死だったので、分からなかったかもしれないですけど、あなたの事を好きなこっちに身にもなってほしいです。

 

 抱き締められた時は、心臓が止まるかと思いました。全く、お化けより驚きましたよ……。

 でも、和希の胸の中は温かくて意外と心地よかった……な、何でもありません!

 

「きっと、和希君が驚いて海未ちゃんに抱き付いちゃったんじゃない? 和希君、お化け屋敷に苦手そうだったから」

「当初の予定とは違ったけど、それならそれで美味しい展開だったのかもね♪」

 

 穂乃果とことりが私たちを見て、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべています。きっとろくでもないことを考えているのでしょう。

 しかし、これでツッコむと墓穴を掘る気しかしません。なので私は、取り敢えず黙っていることにしました。

 

 その後は、まだ回りきれていなかったアトラクションに乗ったり、園内をぶらぶらしたり……。

 

 いい時間になったところで、穂乃果とことりがあるアトラクションを指差しました。

 

「ねぇ、最後に観覧車に乗ろうよ!」「もちろん、ペアは海未ちゃんと和希君。私と穂乃果ちゃんでね♪」

「別にペアに関しては何言わないけど、最後くらい一緒に乗ろう――」

『いいからっ!!』

「あっ、はい。なんか、ごめんなさい」

 

 二人の迫力に、和希が素で謝っています。迫力だけなら、和希も負けていないはずなんですけどね。

 そんな事はどうでもいいとして、私たちは観覧車の乗り場まで歩いていく。ジェットコースターのように、混む様なアトラクションでもないので、あっという間に私たちの番になった。

 

「お客様は、四名様で――」

『いえ、二名ずつで!!』

「あっ、そ、そうですか……それでは最初のお二人はお乗りください」

 

 係りの人も、穂乃果とことりの迫力に若干引いている。まぁ、あれだけ食い気味に言われたら当然でしょう。

 そんなわけで、先にことりたちが観覧車に乗り込む……寸前に二人が私たちの方に振り返り、

 

『海未ちゃん、頑張ってね!』

 

 意味深な笑顔を浮かべてきたので、私の顔は一瞬で真っ赤になりました。

 

「っ!? ほ、穂乃果、ことり!?」

「じゃあねぇ~」「ばいばい、海未ちゃん♪」

 

 狼狽える私を残して、穂乃果たちは一足先に上へと上がっていきます。

 

「……頑張ってって、お前観覧車に乗るだけなのに、どんだけ気合入ってるんだよ?」

「そ、そう言う意味じゃないですから! あれは穂乃果たちが勝手に言っただけなんですからね!?」

 

 和希が変な勘違いをしたところで、私たちも係りの人に誘導され、ゴンドラに乗り込んだ。乗り込んだ後は、向かい合うようにして座る。

 

「観覧車なんて乗ったの、ほんと久しぶりだなぁ。おぉ、高くなってきた!」

「そ、そうなんですか……」

 

 外を見て呑気に呟く和希を他所に、私は緊張で会話に全く集中できません。

 こんな狭い空間に和希と二人きり。観覧車が回っている間は、好きな人と二人きりで、誰にも邪魔されない空間。

 

(うぅ……///)

 

 私は思わずギュッとこぶしを握り締める。トクントクンと、和希にまで聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、うるさい鼓動。

 頬に手を当てると、信じられないくらいに熱を持っている。穂乃果とことりがあんなことを言わなければ、もう少し緊張も和らいだというのに……

 

(ところで和希は私と二人きりで、緊張しているんでしょうか?)

 

 今更、和希が緊張するような性格には見えませんけど、一応確認です。私はチラッと、彼の方に視線を向ける。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 和希は頬杖をつきながら、外を眺めていた。何時になく真剣な表情。

 最初は疲れたのかと思いましたが、どうやら和希は考え事をしているみたいです。

 

「和希、大丈夫ですか?」

 

 少し心配になった私が和希に声をかける。すると和希はこちらに視線を向け、困ったような表情を浮かべた。

 

「……海未、ちょっとそっちに行ってもいいか?」

「えっ?」

 

 私の了承を得る前に和希は立ちあがると、そのまま私と隣にストンと腰を下ろした。

 

 それもお互いの間を開けることなく、ゼロ距離の位置に。

 肩が触れ合って、私と和希の体温が混ざり合う。

 

(えっ!? えぇっ!? か、かか、和希は急にどうしたんですか!?)

 

 突然のことに、私の頭が真っ白になった。和希は普段からも行動が読めないですけど、今回ばかりは本当に訳が分かりません。

 

「…………あのさ、海未」

 

 そこで和希が口を開く。

 

「ど、どうしたんですか?」

「海未は俺の事、どう思ってる?」

「…………………………はいっ!?」

 

 とんでもないことを聞いてきた和希。

 おかげで冷静になってきた思考が、再びフリーズする。

 

「な、なな、なんでそんな事を聞くんですか!?」

「何でって、気になったからだけど?」

「それなら、まずは和希から聞かせてください! わ、私の事どう思ってるんですか!?」

 

 質問を質問で返した私に和希は、

 

 

 

「俺? 俺は海未のこと好きだぞ」

 

 

 

 一瞬、呼吸が止まった。

 

「もちろん、友達としてだけどな」

「……ま、全く、びっくりさせないで下さい!」

 

 まぁ、分かってましたけどね。分かってましたけど……色々と期待してしまったじゃないですか! 

 ヤキモキする私を知ってか知らずか、和希は前を向きながら話し出す。

 

「最初は海未のこと、大嫌いだったんだから不思議だよな。口うるさくて、理不尽で、うざくて……」

「和希は私に殴られたいのですか?」

「まぁまぁ、落ち着けって。今はたまに、口うるさいなぁって思うくらいだから」

「たまにでも大問題です!!」

 

 怒っていますという視線を和希に向ける。そんな私を見て和希は優しく微笑んだ。

 

「ど、どうして笑っているんですか?」

「いや、こうして海未と話してると、やっぱり楽しいなって」

「ふぇっ!?」

「あっ、別に今のことは冗談でも、お前をからかってるわけでもないからな」

 

 むしろ、冗談でないことが大問題なんですけど!?

 

「半年も一緒に住んでるからかもしれないけど、最近は特にそう思うんだ。海未と他愛もない話をして、笑って、怒られて……これがすごく楽しく感じるんだよ」

 

 恥ずかしがるでもなく、取り繕うでもなく、自然な笑顔を浮かべる和希。

 

 

 

 そんな彼の笑顔は、今まで見てきた中で一番魅力的なものだった。

 

 

 

(そ、そんな顔で私を見ないで下さい……あなたのことしか考えられなくなってしまいます///)

 

 思わず手で顔を覆う。和希の笑顔を見るだけで顔が熱くなって、口元が自然と緩んでしまって……。

 こんな顔、とてもじゃないですけど和希に見せられません。

 

「……それで改めて聞くけど、海未は俺の事どう思うんだ?」

 

 赤面する私に、和希の声が聞こえてくる。うっ……このまま流そうとしていたんですが、和希は見逃してくれませんでした。

 覆っていた手をどけると、ニヤニヤといじるような視線を和希が向けてくる。

 

「ほらほら~、早く言わないともっと言いにくくなるぞ?」

 

 さっきの笑顔をとは違い、いつも通りの笑顔を浮かべる和希。こ、これもこれでドキッとしま……な、何でもないです!!

 

「わ、分かってますよ!!」

 

 思わず声を荒らげてしまう。あなたはいいかもしれませんけど、私は違うんですからね!! 

 心の中で和希に一喝した後、私は深呼吸を繰り返す。そして、

 

「……わ、私も和希のことは、き、嫌いじゃないですよ」

 

 べ、別に私は間違ったことは言っていません。だから、和希もこれで許してくれるはずです。

 

「ふーん。嫌いじゃないってことは?」

 

 許してくれませんでした。私は言葉に詰まる。

 きっとお化け屋敷での出来事を、根に持っているに違いありません。

 

「き、嫌いじゃないってことは、その、つまり、そういうことです……」

「そういうことって?」

「だ、だから、嫌いじゃないの反対と言う意味で……」

「嫌いじゃないの反対って?」

「……か、和希は意地悪です」

「いやいや、俺は頭が悪いからな。ちゃんと言ってくれないと、意味をしっかりと理解できないんだよ」

 

 ニヤニヤと笑う和希に、非難の視線を向ける。テストの点数が学年で10位以内の人が、何を言っているんですか……。

 しかし和希は、そんな私を見ても許してくれるそぶりをみせてくれない。むしろ、楽しんでいるようにすら見える。

 そのまま10秒ほど躊躇っていたのだが、和希の視線に耐え切れず、私は重たい口をゆっくりと開いた。

 

 

 

「す、好きですよ。友達としてですけど……」

 

 

 

 キュッと目を瞑り、顔を真っ赤にして答える。

 そんな私を見て和希が、満足げに息を吐いた後、

 

 

 

「よくできました」

 

 

 

 そう言ってポンポンと頭を撫でてきた。優しい手つきに思わず頬が緩んで……、

 

「こ、子ども扱いしないで下さい!」

 

 我に返った私は、勢いよくその手を払いのけた。

 

「嫌われてるんじゃないかと思って、心配してたんだけどなぁ。でも、海未の本音が聞けて良かったよ」

「和希は本当に意地悪です!」

「でも好きなんだろ?」

「そういう所は大っ嫌いです!!」

 

 ふんっとそっぽを向く私。プンプンと怒る私を宥めた後、和希はまじめな顔になって、私のことを見つめてきた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「……今日、帰ったら海未に話したいことがあるんだ」

「話したいこと?」

「うん。話したいこと。だからさ、家に帰ったらご飯の前に俺の部屋に来てほしい」

 

 真面目なトーンで話された彼の言葉に、私はこくんと頷く。

 

「ちなみに、どんなことを話すんですか?」

 

 私の問いかけに和希は悩む様なそぶりを見せた後、小さく呟くようにして口を開いた。

 

 

 

 

 

「睦未さんはもう知ってるんだけどな。……俺の両親のことだよ」




 今回も読了ありがとうございます。そして感想やお気に入り等、いつも励みになっております。次回の話も頑張ります。
 さて、この作品もいよいよ佳境という所まできておりますが、最後まで書ききりたいと思います。
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