真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
とても三話では終わりませんでした。毎回毎回、どうしても文字数が多くなってしまうのを何とかしたい……。
「ねぇねぇ、今日はどうして海未ちゃんと和希君、喧嘩してないの?」
「……なんで俺たちが喧嘩してないとおかしい、みたいな聞き方をするんだよ?」
目の前に座るクラスメイトの女子から声をかけられ、俺は適当に返事をする。多分、暇になってしまったのだろう。
現在は、文化祭の出し物を話し合っている真っ最中。しかし、俺は話し合いに参加することなく漫画を読んでいた。まぁ、俺が意見を出さずとも、一部の人が頑張っているおかげで、議論は順調に進んでいる。
だからわざわざ意見を出す必要もない。漫画を読んでいても、何も問題ないだろう。ちなみに海未は、隣で真剣に議論の行方を見守っていた。……たまにチラッとこちらを確認するのは、心臓に悪いのでやめてほしい。
「だってさ、海未ちゃんと和希君だよ? 喧嘩をしてないだなんて、地球が自転をしていないレベルでおかしいよ!」
「いつから俺と海未の喧嘩は地球規模になったんだ……」
そして話は冒頭部分へ戻ってくる。
どうでもいいけど、地球の自転が止まったら人類滅亡だぞ。つまり、俺と海未が喧嘩を止めたら人類が滅亡することになる。……この理屈は絶対におかしい。
「……別にいいだろ、喧嘩してなくても」
というか、今の俺たちは喧嘩できるような状態じゃないのだ。そもそも今日は朝起きてから、一度も海未と話していない。いや、まぁ朝起きてすぐ顔を合わせたんだけど、
「あっ、海未。おは――」
「っ!? し、しちゅれいしまっしゅ!!」
既に制服姿だった海未は、俺と会うなり顔を真っ赤にして、セリフを噛みまくって、そのまま学校へ行ってしまった。引き留める暇もなかったぜ。
それにしても、俺の起床時間は7時だったにも関わらず、制服姿で朝ご飯も済ませていたらしい海未。
一体何時に起きたんだか。目の下のクマはかなり酷かったけど……。おっと、それは俺も同じだったな。
「ねぇ、海未ちゃーん。今日はどうしていつもみたいに和希君と喧嘩しないの? 夫婦喧嘩?」
「おいっ、ばか! やめろって!」
その質問の仕方はまずい。夫婦とか、今の俺たちにとって禁句みたいなもんだから。案の定海未は、
「はぇっ!? ふ、夫婦!?」
ピンポイントに単語を聞き取って、盛大にテンパっていた。
いやいや、もっと他にも言ってただろ? どうしてそこだけ聞きとってるんだよ!? お、俺まで照れるからやめてくれ!
「う、うん?」
海未の反応がおかしいのを感じ取ったのか、クラスメイトの女子も怪訝そうに首をかしげる。横の俺も、顔真っ赤だしな。
完全に海未を疑っているような視線。少しツッコまれたら、たちまちボロが出てしまうだろう。しかし、ある意味丁度いいタイミングで、文化祭の実行委員が大きな声を出した。
「はいっ! それでは、私たちのクラスは文化祭で、メイドカフェをやることになりました! 皆さん、取り敢えず拍手~」
パチパチと、クラスからまばらな拍手があがる。あれ以上追及されなかったのは良かったのだが、どうしてメイドカフェ?
黒板にでかでかと書かれた「メイドカフェ」の文字を眺めながら首をかしげる。
「ど、どうしてメイドカフェなんですか!?」
おっ! 首をかしげていた俺の代わりに、海未が質問してくれた。まぁ、話を聞いていない身としては至極まっとうな質問だろう。いや、話を聞いてろよって? だが断る!!
そんな俺の一人芝居はどうでもいいとして、海未の質問に実行委員の男子が答える。
「だって、クラスの大半が園田さんのメイド服姿を見たいって言うから」
予想の斜め上をいく答えが返ってきた。
そもそも答えになっていない気がする。海未も海未で、ポカンと口を開けているし。多分、俺も同じような顔をしているだろう。
「い、いやいや、私は絶対にメイド服なんて、そんな破廉恥な服、着ませんからね!?」
秋葉原とか、その他もろもろの地域にいるメイドさんたち全員に謝れ! あの人たちは、お前が破廉恥だと言う服を毎日着て接客しているんだぞ!
「でも、これはクラス全員の総意なんだ。男子も女子も、園田さんのメイド服姿を見たくて、見たくて、夜も眠れないくらいなんだから」
それが本当なら、このクラスには変態しかいないことになる。
俺は嫌だよ。変態に囲まれながら、文化祭の準備をしなきゃいけないだなんて。
「まぁ、今言ったことの2割は冗談として」
残りの八割は本気なんですか!? 残りの八割は海未のメイド服姿を見る為なら、努力を惜しまない変態なんですか!?
実行委員の言葉に、海未が顔を真っ青にしてドン引きしている。今回ばかりは、海未がとっても可哀想だ。
「つまり、私たちのクラスは園田さんのメイド服姿を拝めるなら、どんなことでも取り組む所存であります」
実行委員の言葉に、クラスの俺たちを除いた全員が頷く。何と統率のとれた組織だろうか?
訓練された変態ほど怖いものはない。……もうヤダ、このクラス。穂乃果たちのクラスに逃げ込みたい。
「い、嫌です! やっぱりメイド服なんて私には無理です!!」
「そ、そこを何とかお願いします、園田さん!!」「園田さん、もうあなたしかいないんです!」「園田さん!! そこを何とか!」「園田さん!!」
実行委員を含めた男子全員(ど変態)が、その場に土下座する。
傍から見れば、酷い光景としか言いようがない。プライドって、大事だよね?
「無理なものは無理なんです!! だから別の出し物にしましょう?」
しかし、プライドをかなぐり捨てた土下座でも海未の心は動かない。
まぁ、当然っちゃ当然だよな。海未は元々、かなりの恥ずかしがり屋だし。メイド服を着て接客だなんて、本当に嫌なのだろう。
まぁ、海未のことだから似合うには、似合うと思うんだけどね。一人蚊帳の外で状況を眺めていると、女子たちがひそひそと、俺を見ながら話しているのに気付く。
そこっ! 本人に隠れてコソコソ話さない! 訝しむ様な視線を彼女たちに向けると、なぜかニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。オーラが半端じゃない。というか、怖い。
「にゃ、にゃんでしょうか?」
緊張のあまり言葉を噛んでしまう。ここでガツンと言い切れない自分が情けない。ほんと、不良の面目丸つぶれである。
「和希君も見たいでしょ? 海未ちゃんのメイド服姿?」
「まぁ、似合うとは思うけど……」
頭の中に、メイド服姿で接客をする海未の姿が浮かぶ。
ミニスカフリフリメイド服でもいいけど、やっぱり海未にはロングスカートの正統派メイド服だろうな。そんな彼女の姿を2分ほど妄想し、
「……いいな」
そう呟いた俺はきっと、間抜けな顔をしていたことだろう。間抜けな俺の反応を見て、女子たちがしめたとばかりに海未の元へ。
「海未ちゃん、海未ちゃん。和希君が海未ちゃんのメイド服姿を、どうしても見たいらしいよ?」
ちょっと待て。確かに『いいな』とは言ったが、『どうしても』とは言っていない!
しかし、女子たちの言葉を真に受けてしまったらしい海未が、チラッと俺に視線を向ける。
「和希……」
「な、なんだよ?」
「……見たいですか?」
少しだけ頬を染め、俺を見上げるようにして海未が訊ねてきた。どうやら朝のギクシャクは多少直ったらしいが、今度は俺の方がやばい。
惚れた男を殺すためにやってきているのか、瞳までウルウルと潤ませるおまけつきである。こんな可愛く訪ねられて、否定できるわけがない。
「みたい、です……」
女子のようにか細い声で呟く。今の俺は最高に女々しくて気持ち悪い。だけど、
「ま、まぁ、和希が見たいというなら……」
髪先を指でくるくるといじりながら海未が答える。
今までは何とも思わなかったけど、俺は今の仕草めっちゃ好きだわ。
恥じらいもあり、可愛さもあり、嬉しさもあり。三拍子揃っているとは、まさにこの事である。
(海未ちゃんと和希君がデレたぁ~)
どういうわけか、クラスメイト全員が俺と海未を見てニヤニヤしている。……いや、違った。男子は全員、目を血走らせて嫉妬の視線を向けている。醜いったらない。
「ちなみに当日、真嶋は執事服姿で接客だからな」
はぁっ!? なんだって!?
「は、はぁっ!? 聞いてねぇぞ、そんなの」
「まぁ、今言ったからな。それに女子たっての希望なんだ。金髪執事には需要があるんだとよ。つまり、そういうことだ」
「…………」
いやいや、どういうことだよ!? しかし、反論空しく、クラスの女子たちに丸め込まれてしまった。畜生めぇ!!
☆ ★ ☆
「珍しいね、和希君の方から誘ってきてくれるだなんて!」
「確かにそうかもな。誘うにしても、穂乃果たちからが多いし」
執事役を押し付けられた日の放課後。俺は穂乃果とことりと共に、帰り道を歩いていた。
海未は部活があるとのことで、先に帰っていてと言われている。その為、この場には居ない。というか、いたらいたで相談事ができないし。
そのまま二人を連れて洒落た喫茶店の中に入る。ちなみに今日のお代は俺持ちだ。まぁ、相談する身でもあるから当然であろう。
そして窓際の席に着くと、早速ことりが声をかけてくる。
「ところで和希君。今日はどうしてことりたちを呼んだの?」
「あ~、うん。その事なんだけど……」
いざ口にしようとすると、めちゃくちゃ恥ずかしいな。それに、いつも喧嘩していたところをことりたちには見られていた分、余計に恥ずかしい。
こんなことになるくらいなら、海未と普段からもっと仲良くしておけばよかった。と、取り敢えずここは落ち着くために水を一杯――
「もしかして~……海未ちゃんのこと、好きになっちゃった?」
「ぶぅーーーー!?」
「わわっ! だ、大丈夫、和希君?」
含んでいた水を吹き出した俺に、穂乃果がナプキンを差し出す。それをありがたく受け取り口を拭っていると、ことりがいい笑顔でこちらを見ていることに気付いた。
うわぁ……いじられる気しかしない。
「今の反応を見ると、本気で海未ちゃんのことが好きみたいだねぇ~」
「ええっ!? 和希君、海未ちゃんのこと、好きなの!?」
「このおバカ! 声が大きい!」
おでこにチョップをかますと、涙目になる穂乃果。
「うぅ、痛いよぉ~」
「大きな声を出す穂乃果が悪い! それで、まぁ、なんだ、その、えっと……」
恥ずかしさのあまり、全身から変な汗が吹き出し始める。顔がどんどんと熱を持つのが分かる。
後、ことりのにまにま顔のお蔭で、言いづらくてしょうがない。
「だから、あれだよ、あれ。俺は……」
「おれは~?」
うわーん。ことりがおれをいじめるよぉ~。しかし、泣いていてもしょうがないので、俺はようやく覚悟を決める。
「俺は……海未のことが好きなんだ」
やった、やったぞ。俺は遂に成し遂げた! ……告白もしていないのに、何が成し遂げただよ。
「ふふっ♪ 和希君、海未ちゃんのこと好きになっちゃったんだぁ~?」
「そんな楽しそうな瞳を俺に向けんじゃねぇ!」
ことり様は天性のドSなのかもしれない。いや、絶対にドSだ。一方穂乃果は、またしても大きな声を上げる。
「和希君も、海未ちゃんのこと好きだったんだ!」
「……ん? 和希君も?」
首をかしげる俺に、ことりが慌てて穂乃果の口を塞いで、「あはは……」と乾いた笑い声をあげる。
「い、今のは、海未ちゃんも一緒だったらいいねってことだよね? 穂乃果ちゃん?」
「う、うん。そうそう、それが言いたかったの!」
一瞬、ことりから物凄い圧を感じたが、なんだったのだろうか? 穂乃果もぶるぶる震えてるし。まぁ、気のせいだと思いましょう。
「話を元に戻して……和希君は海未ちゃんのどこを好きになったの?」
「……それって言わなきゃ駄目か?」
「うんっ! もちろんだよ。言わなきゃ、相談にのってあげません♪」
なんて理不尽な……。楽しそうに微笑むことりに、がっくりと肩を落とす。
あんまり海未のどこが好きだとか、考えたことないんだよな。しかし、ことり様の、おねがぁい! には逆らえない。
たっぷり時間を使って考え、俺はとても恥ずかしいセリフであると分かりながら口を開く。
「多分……どこってわけじゃないんだと思うんだ。俺は、海未だから好きなんだと思う」
もちろん、海未は可愛い。それに、スタイルだっていい。理由を探せば、いくらでも出てくるだろう。
だけど、俺の好きは可愛いからとか、スタイルがいいからとかじゃない気がする。
海未だったから。
海未だから、好きになったんだと思う。俺がそう、呟くようにして二人に話すと、なぜか穂乃果とことりの顔が真っ赤になっていた。
「う、うわぁ……和希君、思った以上に海未ちゃんにデレデレだったよ」
「き、聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃった……。今の言葉を、そっくりそのまま海未ちゃんに聞かせてあげたいくらい」
二人でぼそぼそと話し合っているが、一体何を話しているんだろう? というか、今の言葉に少しくらいツッコんでもらわないと、流石に恥ずかしい。
海未に惚れてるとはいえ、恥ずかしいという自覚はあるからな。
「どうしたんだ二人とも?」
「な、何でもないよ和希君! ただ、和希君がすっごく海未ちゃんの事を好きなんだなって、びっくりしちゃったんだよ」
「そ、そうだよ和希君! ことりもまさか和希君が、ここまで海未ちゃんにぞっこんなんだとは思わなかったんだ!」
「そんな恥ずかしいことを大声で言わないでくれ……」
店内の人から、物凄く生温かい視線を浴びているから。惚れてるのは認めるけど。
「でもさ、不思議だよね。この前まで和希君、海未ちゃんのこと意識してなかったのに、突然好きになるんだもん!」
「あっ、それはことりも思った! ……もしかして~、あの遊園地の時か、もしくは遊園地後に、何か海未ちゃんとあったのかな?」
「……何にもないです」
相変わらず鋭いことりの視線から逃れるように目を逸らす。穂乃果も十分鋭いのだが、ことりはやはり一つ抜けているよな。
海未は論外。ちなみにことりに言わせれば、俺も論外らしい。自分では結構鋭いと思っているんだけど……。
「今の間がすっごく怪しんだけど……今日のところは見逃してあげます♪」
「助かります、ことりさん……」
追及されたら、あの日に抱き締めて、プロポーズまがいの事を言った事実まで聞きだされてしまいそうだ。
ニッコリ微笑むことりに苦笑いを浮かべる。
「それでさ、文化祭後の後夜祭で、海未に告白しようと考えてるんだけど……告白して大丈夫かな?」
「えっ、どうして?」
「いや、俺って海未に好かれてるとは思わないんだよ。不良だし、よくケンカもするし……だから、フラれるかもって」
『…………』
二人から、「えっ? 何言ってるのこいつ?」って感じの冷たい視線を感じる。お、俺、今何かまずいこと言った?
「聞いた、ことりちゃん? フラれるかもって……和希君も海未ちゃんの同じくらい、鈍感だよね?」
「ほんとだよ~。周りから見れば両思い同然、というよりも、ただ恥ずかしいカップルなのに……本人たちは意外と気付かないものなのかな?」
だから、俺に聞こえないような声でコソコソ話さないで。嫌われてるかと勘違いしちゃうから。
少しだけ肩を落とす俺に、話し合いを終えた二人が顔を上げる。
「答えは言わないけど、穂乃果は和希君が告白するのなら、全力で応援させてもらうよ!」
「えっ、答え知ってるの!?」
「もちろんっ♪ なんたって、私たちは海未ちゃんの幼馴染だからね!」
「……ち、ちなみに、海未は好きな人っているの?」
「ふふっ、秘密だよ~」
「教えたら面白くないもん♪」
答えをはぐらかされ、もやもやとした気分になる俺。「うがぁー!」と、頭を抱える俺を見て楽しそうな穂乃果とことり。
しかし、そんなほんわかした空気が一瞬にして凍り付く。
「か、和希君! そと、そとっ!」
「っ!?」
あれだけ楽しそうだった二人の顔が、真っ青になっている。
「はっ? 外?」
穂乃果に言われるがまま、窓の外に視線を移すと、
「………………」
氷の女王様が……じゃなくて、海未が冷ややかな眼差しでこちらをみつめていた。
恐らく、部活が終わって帰ってきたのだろう。隣に友達の姿もちらほらと見えるし。まぁ、そのお友達は、冷ややかに俺を見つめる海未をみて、すごく困惑してるけど。
そもそも、海未はどうしてあんなにご立腹なんだ?
「……ねぇ、和希君。今日、海未ちゃんに私たちと遊ぶってことをちゃんと言った?」
「えっ? 言う必要はないと思って、別に言ってないけど」
俺の返答にことりが「あちゃ~」と声を上げる。そして海未と同様、冷ややかな視線を俺に向けてきた。
「そういうことはちゃんと、海未ちゃんにもいってあげなきゃ駄目でしょ?」
「な、なんで? 穂乃果とことりと遊んでるだけだぞ?」
「それでも、今は大切な時期だからダメなんです! ほらっ、早く海未ちゃんの所へ行ってきなさい!」
「わ、分かったから、そんな強い力で押さないで!」
グイグイとことりに背中を押され、喫茶店の外へ。
あっ、ちゃんと三人分のお金は机の上に置いていきましたからね! そして、
「…………」
「お、おっすおっす……」
後ろから、ゴゴゴゴゴゴ……という効果音がしてきそうな海未と、会いまみえる。
彼女の後ろに、スタンドっぽいモノは見えない。というか、見えたら多分、俺はぼっこぼこにされている。
「…………」
「あ、あの~、海未さん?」
ひ、一言もしゃべってくれない。今の彼女は、その雰囲気と視線だけで人を殺せそうだ。口を開かない海未に、びくびくと震えていると、無言のまま右手をギュッと掴まれる。
「は、はいっ? なんですかこの手――」
「……帰りますよ。すいません、今日はこの人を連れて先に帰らせてもらいますね」
無視された。泣きそう。
悲しみに暮れる俺のことなんてお構いなしに、海未が弓道部の人たちに頭を下げる。そして、俺を引っ張りながら帰り道を歩き始めた。
『キャー!』
なんか後ろから歓声が上がった気がする。
「海未ちゃんってば、大胆だなぁ♪」「海未ちゃんも和希君もファイトだよ!」
なんかよく知った声も聞こえてきた気がする。
☆ ★ ☆
喫茶店から園田家までは5分ほどの距離なのだが、その時間がえらく長いと感じた。
そりゃあ帰り道、俺たちの間に会話はなかったからね。ストレスがマッハで溜まりましたよ。そのまま玄関で靴を脱いだところで、ようやく海未が手を離す。
「あ、あの~、海未さん? そろそろ喋ってくれると嬉しいんですけど?」
手を離しても一向に口を開こうとしない海未に、恐る恐る声をかける。
「……和希」
「は、はいっ!」
相変わらず、怒った時の目力が半端じゃない。ちびるかと思った。
そんな事はいいとして、俺は彼女の呼びかけに背筋を伸ばす。
「まだ夕食まで時間がありますので、一度私の部屋に来てください」
「わ、分かりました……」
自室に俺を呼び出すだなんて……。一体、どんな説教が俺を待ち構えているのだろう? 夕食までの間、尋問でもされるのだろうか?
もしくは江戸時代の罪人の如く、三角の木材の、一番尖った部分の上に正座をさせられ、石をのせられていくのだろうか?
あれは見てるだけで地獄だとよく分かる。どっちにしろやりたくないし、絶対に行きたいとは思わない。
だからと言って、立ち止まっていれば余計に海未を怒らせかねないので、仕方なく彼女についていく。そのまま彼女の部屋に入り、
「そこに座ってください」
座布団を指差す海未。良かった。取り敢えず、江戸時代の罪人になることはなかったらしい。
しかし、気を抜けるわけでもない。だってこれから鬼のような海未からの、鬼のような説教が待ち受けているのだから……。
「は、はい……」
好きになったとはいえ、怖いものは怖い。ガタガタ震えながら、座布団の上に腰を下ろす。
それを見た海未が、別の座布団を手にして……どういうわけか、俺の隣に腰を下ろしてきた。
お互いの肩が触れあう程の至近距離。ゆっくりと温かさが広がる。
「な、何してんの?」
思わず、素でツッコんでしまう。
「……う、うるさいです! しばらくの間、このままじっとしていてください!」
よく分からんが、すごい剣幕でまくしたてる海未。そんな彼女に「は、はぁ……」と気の抜けた返事をする。
だって、本当に言っていることが分からないし。
ま、まぁ、好きな人とこれだけ近づけるなんて、俺からしたら役得なんだけど……。
彼女から漂ってくるシトラス系の香りに頭をくらくらさせていると、海未の方からようやく声をかけてきた。
「どうして私がこんなことをしたか、分かります?」
彼女の言葉に、思考を必死に回転させる。しかし、ことりに言われたこと以外、なにも浮かんでこない。
まぁ、誰かに指摘されたことを言うわけにもいかないので、俺は海未に向かって首をふる。
「……ごめん。さっぱりわからない」
「……どんかん」
「海未だけには言われたくないよ」
分からないと言った俺に、むすっと口を尖らせる海未。怒った顔も可愛いのがちょっとだけムカつく。
そんな風に不満げな様子の海未だったが、ふっと表情を緩ませる。
「……でも、私が隣に座っても逃げなかったので、許してあげます」
ムカつくけど、ふっと緩ませた表情も可愛かった。少しだけ頬に熱を感じたため、海未にばれないようそっと目を逸らす。
「というか、結局海未はどうして怒っていたんだ?」
「和希が分からなければ気にしなくていいですよ。私はもう、気にしていませんから」
「それならいいんだけど……」
「はい、気にしなくても大丈夫です♪」
そう言って笑顔を見せる海未は、先ほどより大分機嫌がよくなったみたいだ。だけど、距離が近いのでとっても心臓に悪い。全く、俺の気も知らないで……。
そのままの体勢でしばらく引っ付いていると、海未がこちらに顔を向ける。
「和希」
「ん? どうした?」
「文化祭、頑張りましょうね」
「……そうだな」
今一度、身体を寄せてくる海未に、顔がにやけるのを必死に我慢し、冷静に頷くのだった。
ちなみにその後、夕食を伝えに来た睦未さんに、身体を寄せ合っている俺たちの姿を見られ、無茶苦茶いじられました。
今回も読了ありがとうございます。そして、いつも感想やお気に入り等、ありがとうございます。これからも頑張りたいと思います。
それにしても、現実の高校でメイドカフェをやる学校、本当に存在するんですかね?