真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 またしても気付かぬうちに一万字越え……短くまとめられる技術を身に着けたいと思う、今日この頃。


16話 真面目な彼女と一緒に文化祭前日の夜を過ごした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りの喧騒がやけに耳につく。

 

 楽しそうに笑いあう声や、何かを指示するような声。様々な声が聞こえてくる中で、この教室は対照的に静黙を保っていた。

 まるで、この空間だけが切り取られたように感じるほど。それ程までに静かだった。

 

「…………」

「…………」

 

 私と和希しかいないこの教室。

 

 既に外は薄暗くなり始めており、明かりをつけなければ中の様子がよく見えないだろう。

 そんな状況で私は、和希に抱き締められていた。

 

 抱き締めてきた和希は、未だに口を開いていない。ただ、私の身体をきつく抱き締めてくるだけ。

 絶対に離さない。そう言われているようだった。

 あまりにきつく抱き締められていた私は、言葉を発することもままならない。ただただ、和希の胸に顔を埋めることしかできなかった。

 

 ドクンドクンと、力強い彼の脈動をゼロ距離で感じ続ける。二人の体温が混ざり合う。

 

「……海未」

 

 そこでようやく和希が口を開いた。しかし、耳元で囁くように呟く彼の声は、いつもより数倍、甘美な響きをもって私の耳に届く。

 

 彼の吐息が私の耳をいたずらにくすぐる。

 

 

 

「あっ……///」

 

 

 

 自分の口から、聞いたこともないような甘い声が漏れた。その瞬間、信じられないほど身体が熱くなり、恥ずかしさが込み上げてくる。

 私は恥ずかしさから逃れようと、無意識に彼の腰辺りに腕をまわした。

 

「海未、一回だけ顔上げて」

 

 和希の問いかけに私はふるふると首をふる。

 

「……や、です」

 

 どんな顔をしているか分からない。どれほど顔を赤くしているか分からない。

 今の自分を見られたくない一心で、私は和希の胸に顔を埋め続ける。

 

「……ごめん、これじゃ話できないから」

「えっ……」

 

 気付くと私は、和希の身体から無理やり引き離されていた。隠していた顔が露わになってしまう。

 

 

 

「っ!? み、見ないで下さいっ!!」

 

 

 

 恥ずかしい……。私は両手を顔の前でぶんぶんと動かす。ひとまずこうしていれば、真っ赤に染まった顔を見られることはないだろう。

 しかし、和希はそんな私の腕をガシッと掴んだ。

 

 

 

「海未、今はちゃんと顔を見て話したい!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 彼が発した強い意志のこもった言葉に、私の抵抗が止まる。

 そのままおずおずと顔を上げると、同じく真っ赤な顔で私を見つめる和希と視線が絡まり合った。

 

 

 

『………………』

 

 

 

 ドクンドクンと、早いリズムを刻んでいる鼓動。真剣な瞳で私を見つめてくる和希。

 

 心臓がきゅぅと締め付けられ、張り裂けそうな想いが奥底から湧き上がってくる。

 既に周りの喧騒は聞こえなくなっていた。

 

 

 

「海未……俺は、その」

 

 

 

 和希の声しか聞こえない。和希の姿しか目に入らない。

 

 今は和希のこと以外、考えたくない。

 

 

 

「は、はい……」

 

 

 

 潤んだ瞳で彼の事を見つめ、次の言葉を待つ。

 もう、顔を見られたら恥ずかしいとか、そんな事はどうでもよくなっていた。

 

 

 

「えっと、俺は……う、海未の事が」

 

 

 

 一つ一つ、ゆっくりと言葉を発する和希。私は、胸の前でギュッと両手を握り締める。

 

 ……期待していいんですよね? 私の気持ちと和希の気持ちが、同じだと思ってもいいんですよね?

 

 あなたに、恋をしていてもいいんですよね? 

 

 私は和希の事を見つめ続ける。

 

 

 

「海未のことがす――」

 

 

 

 和希が大切な言葉を言いかけた、まさにその時だった。

 

 

 

ガタタッ!

 

 

 

『っ!?』

 

 

 

 突然の物音に、先ほどまで流れていた甘い空気が霧散する。

 

 い、いったい誰ですか、私たちの邪魔をしたのは! そのまま物音のした方へ視線を移すと、

 

 

 

『あっ……』

 

 

 

 先ほど自分のクラスへ戻ると言っていたことり、そしてやっちゃったという顔でこちらを見つめる穂乃果の姿。そして、ちらほらとクラスメイトの姿も見える。というか、ほぼ全員が私たちのやり取りを覗いていた。

 

 私たちと視線が合うと、全員が「あはは……」と気まずい笑みを浮かべ、わざとらしく視線を逸らす。

 

「はぁ……」

 

 やりきれないという風にため息をつく和希。こめかみが若干ぴくぴくと動いているところをみるに、とても怒っているようです。

 まぁ、あの場面を邪魔されたのですから、当然ですよね。……怒っているのは私も同じですが。今は恥ずかしさよりも、怒りが勝っています。

 

「……海未、ごめん。この続きはまた別の時でいいか?」

 

 掴んでいた手を離して和希が問いかけてくる。

 

「……はい、構いませんよ。どうせこの状況で話なんて、できるはずがありませんから」

 

 許可なく覗いていた人たちにお説教をしなくてはいけませんからね。

 二人で頷きあった後、許可もなく覗いていた野次馬共に視線を向けます。

 

 

 

「穂乃果、ことり? 一体何をしているのですか?」

 

 

 

 ニッコリと気持ち悪いくらいの顔で微笑むと、二人が「ひぃっ!?」と短い悲鳴を上げる。まるで化け物を見た時のような悲鳴だ。

 

 

 

「オイコラ。首謀者は手をあげろ。というか、何時からいた?」

 

 

 

 和希も怒りのオーラを隠そうともせず、クラスメイト達に近寄っていく。

 金髪の不良、更に執事服というだけあって、怒った時の迫力は相当の物がありますね。目力が半端じゃありません。

 

 そんな和希にクラスメイト達は、

 

「い、いや、俺はこいつから誘われただけで……」「はぁっ!? 俺は誘ってないだろ!?」「見苦しいよ、二人とも。さっさと罪を認めたほうが楽にな……」「てめぇ、逃げる気かよ!?」「そ、そもそも、結構な人数で覗いていたのに気付かない、和希君が悪いと思いまーす!」「そうだ、そうだ! あんな恥ずかしいことしておいて、今更だよ!」

 

 見苦しい言い訳を重ね、最終的にはみんなで開き直ってしまった。

 しかし、そんな事で許す和希ではない。

 

「……お前ら、そこに正座」

『…………はい』

 

 一人の圧力に屈するクラスメイト達およそ30名。しょぼんと俯きながら正座をする姿は、何だか間抜けに見えます。

 そんな私の視界の端で、こそこそと逃げ出そうとする二人。

 

「穂乃果にことり? 一体どこへ行こうとしているのですか?」

「う、海未ちゃん! ここは穏便にね?」「そ、そうだよ海未ちゃん。別に穂乃果だって見たくて見たわけじゃ……」

「正座、してください」

『…………はい』

 

 問答無用で二人もその場に正座をさせる。

 

 結局、私と和希の説教が終わったのは三十分後だった。わ、私たちの大事な瞬間を邪魔したのですから、当たり前ですよね。

 ちなみに説教後、クラスメイト+幼馴染二人が足の痺れに苦しんでいたのは自業自得です。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 波乱に満ちた文化祭準備期間もほとんどが終了し、今日は遂に文化祭の前日。その夜に突入していた。

 どのクラスも最後の追い込みとばかりに、気合をいれて制作物の作成に力を入れている。

 みんな疲れているはずなのだが、アドレナリンが出ているらしく、どのクラスからも楽しそうな声が聞こえてきていた。

 

 もちろん、俺たちのクラスも例外ではない。

 

「い、いらっしゃいませ、お嬢様? どうぞ、こちらの席へ?」

「ストップ、ストォーップ! 和希君、どうして全部の言葉が疑問形なの? それじゃあ、お嬢様は満足してくれないよ」

 

 実行委員から檄が飛び、俺は頭をかく。クラスの準備と並行して行われていたのが、明日の接客練習だった。

 しかし、見ていれば分かる通り、俺は執事の経験なんてあるわけがないので、演技が酷いものとなっている。

 これでも精一杯やってるんだけどなぁ。ほんと、俳優さんは凄いと思う

 

「お、お帰りなさいませ……ご、ご主人……さま」

「海未ちゃーん、恥ずかしいのは分かるけど、もっと大きな声で! それじゃあ、ご主人様が満足してくれないよ」

 

 こちらもこちらで苦戦しているようだ。顔を真っ赤にした海未が、同じく実行委員から苦言を呈されている。

 まぁ、海未は極度の恥ずかしがり屋だし、メイド服も着てるからある意味しょうがない。多分、穂乃果とかことり相手なら何とかなると思うんだけど……。

 

 というか、実行委員の格好が腹立つな。映画監督っぽい帽子をかぶり、サングラスをかけ、メガホンを持ち、足を組みながら指示を出している。

 お前は何時からそんなに偉くなったんだよ! 

 

 その後、特訓のかいあって、俺の演技力は何とか見れるようにはなった。問題は海未で、

 

「うーん、クラスの男子相手で恥ずかしがってちゃ、明日はどうなるんだろう?」

「す、すいません……」

 

 やっぱり恥ずかしさが取れないらしい。申し訳なさそうに頭を下げている。

 

 クラスの男子相手に練習しているらしいが、それでも顔を真っ赤にしてもにゅもにゅしているからな。実行委員が頭を悩ませるのも無理はない。

 穂乃果とかことりなら、うまいことメイドさん役をこなすと思うんだけど……。そこでクラスの中から声が上がる。

 

「ねぇ、一回和希君相手に接客練習させてみたら?」

「お、おれっ?」「か、和希にですか!?」

 

 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。いや、だってねぇ……。

 クラスの男子で緊張してるのなら、俺がやっても結果は変わらない気がする。

 

「も、もう少しいい考えがあるだろ?」

「そ、そうですよ! 別に和希である必要は……」

 

 そんな俺たちの気持ちとは裏腹に、その作戦はクラスのみんなには好意的に受け止められたらしい。

 

「よしっ! 取り敢えず、その作戦で接客練習してみよう。じゃあ二人とも準備して!」

 

 見事に俺と海未の意見は無視された。結局、実行委員に指示されるまま、俺は一度廊下に出る。

 どうでもいいけど、執事を接客するメイドってかなりシュールだな。なんて考えていると、教室内からお声がかかったので扉を開けて中に入る。

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様♡」

 

 

 

 甘い声に、やわらかい笑み。そして、洗練されたメイドと仕草。一瞬、本物のメイドさんに挨拶をされたのかと思った。

 

「あ、はい、どうも、帰ってきました」

「それではこちらの席へどうぞ」

 

 先ほどとは、まるで別人のように接客をこなす海未。そのおかげで、へんてこな挨拶をしながら着席する羽目になった。動揺しているのがまる分かりである。

 

「ご注文はどうなさいますか?」

「え、えっと……それじゃあコーヒーを」

 

 声が上ずってしまった。は、恥ずかしい……。

 

「はい、コーヒーですね。かしこまりました」

 

 顔を赤くしている俺に、にっこりと海未が微笑む。その可愛らしい姿に、鼓動が早くなる。メイド服姿の海未は、俺に対して効果抜群だったらしい。

 その後も問題なく、接客業務をこなしていく。最後まで接客をこなした時にはクラスメイトから拍手をもらうほどだった。

 

「凄い、すごいよ海未ちゃん! パーフェクトだよ!! これなら明日の本番も問題ないね!!」

 

 実行委員が興奮気味に、海未の肩をバシバシとメガホンで叩く。そして、なぜか俺もバシバシと叩かれる。しかも頭……。結構痛かった。メガホンで人を叩いちゃいけない。

 

「と、取り敢えず、うまく接客出来て良かったです」

 

 ホッと息を吐く海未。そんな彼女に、一人が疑問を投げかける。

 

「でも、どうして和希君とだとうまくいったのかな? 他の男子と大して違いはない気がするんだけど」

 

 そう言われてみれば、そうかもしれない。海未も問いかけに首を傾げ……ぽそっと口をひらく。

 

 

 

「……多分、和希だったからだと思います」

『…………』

 

 

 

 俺だけでなく、クラスメイト全員がシーンと静まり返った。まぁ、あんなことを言い出せばある意味当然だろう。

 しかし海未はその変化に気付かない様子で、

 

 

 

「和希が相手だとすごく安心できて、接客もしやすくて、楽しくて……。うまく言い表せないんですけど……和希だけが私の特別、みたいです」

 

 

 

 少し顔を赤くして、でもどこか嬉しそうに、とんでもなく恥ずかしい事を口に出した。

 幸せそうに微笑む海未。その笑顔を見た瞬間、教室中から『はぁ……』とため息をつく声が聞こえてくる。

 

「もう、どれだけ私たちに見せつけてくるのよ……」「今の海未ちゃん、何も計算してないからすごいよね」「破壊力が段違いだ……はやく付き合えよ!!」「何度も俺に青春を見せつけてきやがって……」「グボハァッ!!」「先生!! ○○君の口と鼻から、大量の血が噴出しましたぁああ!!」

 

 可愛すぎる海未に、騒がしくなる教室内。血を口から鼻から噴き出したやつは大丈夫なのだろうか? 

 

 一方、海未から恥ずかしいことを言われた俺も例外に漏れることなく、顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「か、和希? どうして顔を真っ赤にしているのですか?」

 

 少し慌てた様子で俺の元に駆け寄る海未。この無自覚ちゃんが……。

 

 

 

「……海未があまりに可愛いことを言うからだよ」

「か、かわっ!?」

 

 

 

 お返しとばかりに呟くと、今度は海未の顔が真っ赤になる。

 

「い、いい、いきなり何を言い出すんですか! こんな人前で!!」

「こんな人前で、あんなセリフを吐いた海未にだけは言われたくない」

「あんなセリフって……私は何も変なことを言っていませんよ! ただ、思ったことをそのまま口に出しただけであって……」

「それが大問題なんだよ。海未のばーか」

「な、なぁっ!? バカって言うほうがバカなんですよ! 和希のばーか、ばーか!!」

 

 ムキになって言い返してくるが、「ばーか」の言い方が可愛すぎ。ほんと、恋をすると相手のどんなことでも可愛く見えてくるから不思議である。

 うっすら笑みを浮かべていると、

 

「どうして笑っているのです!? 私は怒っているのですよ!!」

「はいはい、海未ちゃんは可愛いねぇ~」

「絶対、私の事を馬鹿にしていますよね!?」

 

 ……久しぶりだな。海未とこんな風にギャーギャーと言いあうのも。顔を真っ赤にして、猫のように唸る海未を見てそう思う。

 

 好きになってからというもの、海未とこうして口喧嘩をすることなんてほとんどなかったからな。

 たまになら、こうして喧嘩するのもいいかもしれない。毎日は勘弁だけど……。

 

「和希っ! 私の話を聞いているんですか!?」

 

 やれやれ、うちのお姫様が話を聞いていないからって、大変ご立腹のご様子だ。

 俺はそんな可愛いお姫様に、ごめんと手を合わせる。

 

「わりぃ、何にも聞いてなかった!」

「全く、和希は本当に仕方ないです! もう一度言いますから、ちゃんと聞いていてくださいね?」

 

 そこから海未にお説教らしきものをありがたく頂戴したのだが、ありがたく頂戴した割に、全く頭に入ってこなかった。

 まぁ、海未が終始満足そうだったので、気にしないことにしよう。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 あれからクラスメイト達も回復し、一時間以上作業を進めていたのだが、

 

「海未ちゃんに、和希君。まだ準備は終わってないけど、一度休憩して来たら? まだ二人とも、シャワーだって浴びてないでしょ?」

 

 またまた登場の実行委員から、休んだほうがいいと声がかかる。

 確かに言われた通り、俺と海未はあれからまともに休憩をとっていない。頭もボーっとしてきているので、休憩という提案はとてもありがたかった。

 

 ちなみにこの音ノ木坂。文化祭の前日はお泊りあり。しかもシャワー室が解放されたり、タオルや布団の貸し出し、ちょっとした軽食が支給されたりと、なかなかの大盤振る舞いだった。

 更に、洗濯機や乾燥機なんかもあったりと、ちょっと普通の学校とずれていたりする。まぁ、流石に着がえとかは持ってきているので洗濯機、乾燥機はあまり使うことはないんだけどね。

 

 そんなわけで、文化祭前日はよっぽどのことがない限り、生徒は誰も家に帰ったりしなかった。

 

「俺は休憩したいけど、海未はどうする?」

「私もちょっと疲れてしまいましたから、休憩したいです」

 

 普段よりもトロンとした瞳で海未が答える。

 海未は寝るのも早いからな。今の時間ですら、きついのだろう。

 

「うんうん、準備はこっちで進めておくから、まずはシャワーから浴びてきたら? 今はちょうど人があまりいない時間帯だと思うし」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 実行委員に促されるまま、俺たちはシャワー室へ。

 

 初めてシャワー室を使ったのだが、滅茶苦茶綺麗で驚いた。シャンプーやリンス、洗顔料まで常備されているし。

 カネのかけどころが違う気がしないでもないけど……。まぁ、汚いよりは綺麗な方がいいし、不便よりは便利な方がいいからな。気にしない、気にしない。

 

 手短にシャワーを済ませ、近くにあったソファに腰掛けて海未を待つ。うわっ、このソファもふかふかだ……。だから、カネのかけどころが(ry。

 

 

 

「すいません、和希。お待たせしてしまって」

 

 

 

 数分後、シャワーを浴び終えた海未が、ソファに座る俺の元に小走りでやってくる。

 

「おうっ、全然待ってないから大丈夫だよ」

 

 そのまま俺たちは並んで歩き始める。しかし、好きな人のシャワー後って相当やばかった。一応、家でもたまに見かけたりするのだが、学校という特殊なシチュエーションのお蔭で、より一層彼女の事が魅力的に見えてしまう。

 

 しっとりと少しだけ濡れた髪に、桜色に染まった頬。ショートパンツからのぞく、瑞々しく真っ白な生足。

 俺は何を隠そう足フェチなので、彼女のすらっとした長い足を見るだけで思わず生唾を飲み込んでしまう。

 

 

 

「か、和希……そ、その、あまりじろじろ見られると、恥ずかしいです///」

 

 

 

 どうやら、彼女の事を凝視しすぎたみたいだ。海未が恥ずかしそうに、もじもじと足をすり合わせる。

 うん、どこを凝視していたのかも完璧にばれていた。

 

 

 

「……本当にごめんなさい」

 

 

 

 誠心誠意を込めて頭を下げる。

 これからは不用意に見つめないよう、努力しなきゃな。いや、努力する必要なんて全くないんだけど……。

 

 その後は極力、海未の身体(特に足)を見ないよう注意しつつ、教室まで戻る。

 

「お帰り~、二人とも」

「悪いな、準備を任せちゃって。それで俺たちも準備に戻るけど、どこを手伝ったら――」

「あっ、二人はもう二時間くらい休んできて大丈夫だよ。二人は明日の主役だし、倒れられても困るしね。それに準備だってこの通り、順調に進んでるから」

 

 実行委員が得意げにクラスを指差すものの……絶対に順調じゃないだろ。

 女子はまだいいけど、男子はもれなく全員の顔色が悪い。というか、ゾンビみたいな顔をしている。

 まぁ、結構な重労働を男子一同は請け負ってきたからな。疲れるのも当然だろう。

 

「いやいや! そんな半分死にかけの男子たちを見て放っておけるかよ!」

「そうですよ! 私たちはまだまだ元気ですから、むしろ男子の皆さんを休憩させてあげて下さい」

 

 クラスの状況を見かねた俺と海未が声を上げるも、実行委員は頑として首を縦に振ろうとしない。

 それどころかゾンビ化した男子からも「俺たちは大丈夫だ。問題ない」と力のない声が上がる。

 力のこもっていない時点で大問題なのだが、彼らの意志は固く、実行委員同様全く折れる気配がない。

 最終的にはクラスの女子たちも参加してきて――

 

 

 

 

 

「ほ、本当に良かったのでしょうか?」

「絶対に良くなかったとは思うけど、俺たちが休まないといつまでたっても準備が進まなかったと思うし……」

 

 俺と海未はタオルケットのようなものと、二人分のクッションを持たされ、空き教室の休憩スペースに押し込まれていた。

 この時点でクラスメイトの考えはある程度分かっていたが、あえてツッコむ様なことはしなかった。あいつらも、あいつらなりに応援してくれているのだろう。まぁ、遊ばれているだけかもしれないけど……。

 

 なんて思いながら床にクッションを敷き、壁にもたれかかるようにして腰を下ろす。海未も俺に倣うようにして、腰を下ろした。

 

「……それにしても、和希とこうして文化祭の準備をしているだなんて、すごく不思議ですね」

「確かに、出会った頃の俺たちからしたら、考えられないもんな。今みたいに仲良く隣り合って座っている事とかも」

 

 まだ半年ほどしか経っていないが、いがみ合っていた日々がすごく懐かしく感じる。それだけ俺と海未のこれまでは、とても濃い日々であったということだろう。

 

 

 

「……なぁ、海未」

 

 

 

 何気ない会話を交わしていた最中。俺は覚悟を決めて口を開く。

 本当なら、文化祭が始まる直前にでも言おうと思ってたんだけどな。何時誘っても変わらないし、今なら誰にも邪魔されないだろう。

 

 

 

「どうしたんですか?」

「……海未は後夜祭、誰かと過ごす予定はある?」

 

 

 

 鈍感な海未でも、流石に今回は分かってしまったらしい。

 彼女の頬が少しだけ赤く染まる。

 

 

 

「……と、特に予定はないです」

 

 

 

 恥ずかしそうに俯く海未に、俺はふぅと息を吐いた。取り合えず、予定はないみたいで一安心。

 これで予定が入ってるとか言われたら、俺の計画が全て台無しだったからな。……この前は計画関係なしに、告白しそうになったけど。

 

「それじゃあさ、その時間を少しだけ貰ってもいいか? あの時、最後まで言えなかったことを、改めて言い直したいんだ」

「わ、分かりました……」

 

 海未がこくんと頷く。そして顔をあげると、俺に向かって僅かに微笑を浮かべた。

 

 

 

「待ってますからね?」

 

 

 

 ……表情といい、言葉といい、俺の事を殺しにかかっているとしか思えない。ほんと、ずるいなぁ……。

 

 もっと好きになっちまうよ。

 

 

 

「よしっ、話も済んだことだし少しだけ休ませてもらうか」

 

 俺は熱くなった顔を手で仰ぎながら、タオルケットを海未の身体にかける。

 

「ほら、風邪ひいちゃいけないからな。ちゃんとかけて寝ろよ?」

 

 10月の夜はわりと冷えるし、風邪をひかれても困るしな。俺は男だし、タオルケットがなくても多分、問題ないだろう。根拠は何一つないけど。

 しかし、海未は少しだけむすっとした顔になる。

 

「な、何かお気に召さないことでも?」

「……これでは和希が風邪をひいてしまうかもしれないじゃないですか」

「い、いや、俺は丈夫だし、別にかけてなくても大丈夫……」

「和希が大丈夫でも、私が嫌なんです!」

 

 そう言って海未は俺との距離をさらに詰めると、二人の身体を覆うようにしてタオルケットをかけ直した。

 二人の体温がタオルケットの下で混ざり合う。正直、これは想定外だった。

 

 俺が驚きを隠せないでいると、

 

 

 

「こ、これなら、二人で一緒に、温まれるでしょう?」

 

 

 

 上目遣いで俺を見つめてくる。恥ずかし気に俺を見上げる彼女はとても可愛かった。

 

 全く……これだから海未には敵わない。

 

 

 

「……サンキュな、海未」

 

 

 

 赤く染まった頬を隠すように、俺は彼女の頭をポンポンとなでる。

 

 

 

「……どういたしまして」

 

 

 

 返事をする海未はいつもよりも嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「やっほー、海未ちゃん! 疲れてると思って、穂乃果の家のお饅頭をおすそ分けに来た……って、あれ? 海未ちゃんも和希君もいない」

「えっ……あっ、本当だ。海未ちゃんも和希君も、どこに行っちゃったんだろう?」

 

 クラスの出し物がひと段落した穂乃果たちは和希たちのクラスにやって来たのだが、肝心の二人がどこにもいない。

 キョロキョロとあたりを見渡していると、クラスの中の一人が彼女たちに気付き、声をかける。

 

「二人とも、誰かをお探し?」

「うん! 海未ちゃんと和希君を探しにきたんだけど……」

 

 穂乃果たちが二人を探していると告げると、クラスメイト達が一斉にニヤニヤとし始めた。

 意味が分からず首をかしげる、穂乃果とことり。

 

「どうかしたの?」

「まぁ、その事は実際に現場を見せたほうがいいかな? 二人とも、こっちだよ!」

 

 言われるがままに引っ張られていく。そして彼女が連れて行ったのは、休憩スペースとして提供されている空き教室だった。

 

「こんなところに連れてきて、一体何が……あっ!」

「わぁっ♪」

 

 二人が楽しそうな声を上げる。その視線の先には、

 

『すー……すー……』

 

 肩を寄せ合って眠る、和希と海未の姿があった。仲良く同じタオルケットにくるまって眠っている。

 

「二人とも、すっごく仲良しだね!」

「ふふっ! そうだね穂乃果ちゃん♪」

 

 眠る二人を見てほっこりする穂乃果とことり。

 

「穂乃果ちゃん、二人のタオルケットをめくってみなよ!」

「えっ? そんなことしてもいいの?」

「いいの、いいの。問題なし! それにクラスメイトは全員見ちゃったし、今更だよ」

 

 果たしてそれがいいのかどうかは分からないが、気になる二人は言われるがままにタオルケットをめくる。

 

 

 

『わぁっ!』

 

 

 

 穂乃果とことりが同時に声を上げた。

 

 タオルケットをめくった先にあったのは……しっかりと繋がれた二人の手だった。

 しかも、恋人繋ぎというおまけつき。

 

「いや、二人の様子を見に来た人が何となくタオルケットをめくったら、こんなことになっててね。繋ぎ合って眠ったのか、無意識なのかはわからないけど、相変わらず見せつけてくれるよ」

 

 穂乃果たちを連れてきたクラスメイトが呆れたような声を出す。

 

「うーん、穂乃果はきっと、無意識につないだと思うけどな~」

「二人が起きている時につなぐとも考えられないしね。海未ちゃんは恥ずかしがり屋だし、和希君は意外とヘタレだし」

 

 和希が起きていたら確実にへこむであろうことを口にすることり。

 それを聞いた穂乃果は、困ったような表情で笑っている。

 

「さて、これ以上は二人が起きちゃうかもだから」

 

 そう言ってタオルケットをかけ直す。だったら最初から何もするなよというツッコミは禁止。

 

「それにしても、本当に二人とも起きないねぇ。海未ちゃんは知ってるけど、和希君もだなんて」

「寝つきがいいのもあるかもしれないけど……ことりはそれ以上に理由があると思うな」

 

 

 

 ことりの言う通り、和希と海未はとても幸せそうな寝顔を浮かべていた。

 そんな二人を満足げに眺めた後、三人で空き教室を後にする。

 

 

 

「あっ、そういえば和希君と海未ちゃんの事を写真に収めておいたんだけど……二人とも欲しい?」

『欲しいっ!!』

 

 

 

 

 

 和希と海未が起きた後、クラスラインには二人寄り添って眠る二写真が何枚も貼られており……。

 二人が顔を真っ赤にして激怒したのは言うまでもないだろう。




 今回も読了ありがとうございます。そして、感想やお気に入り、評価をありがとうございます。感想なんかは毎回、楽しく拝見させてもらっております。
 さて、この物語もあと2話ぐらいでラストを迎えるんじゃないかと思います。まぁ、本当に2話で終わるか怪しいですけどね。

 まぁ、そんな感じで進めていきますが、最後までお付き合いしていただければ幸いです。
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