真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 やったね、今回も無事に一万文字越えだよ!

 とまぁ、一万字越えはどうでもいいとして、今回はいつもに比べてイチャイチャが少ないことを謝罪しておきます。その代わりに文化祭の楽しい雰囲気が伝わってくれば幸いです。
 そのため、ブラックコーヒーでも飲みながらのんびり読んでいってください。


17話 真面目な彼女と文化祭の一日目を過ごした

 

 

 

 そして迎えた文化祭当日。

 

「今日は待ちに待った文化祭当日です。皆さん、目一杯楽しんでください。しかし、羽目を外し過ぎないよう、節度を持って行動してほしいと思います」

 

 現在は講堂に全校生徒が集まり、文化祭の開会式を行っているところだった。ちなみに、今挨拶しているのは先日行われた生徒会選挙で見事、生徒会長に当選した絢瀬絵里先輩。

 

 モデルのような出ているところは出て、引っ込むところは引っ込むと言った完璧なスタイル。碧眼の瞳はまるで、宝石が煌めいているかのよう。

 更に、金髪ポニーテールというところも非常にポイントが高い。密かにファンクラブが存在しているというのも納得である。ほんと、女神がこの世に現れたらこんな容姿なんだろうなって感じの人。

 

 同じ金髪として親近感も沸くしな。まぁ、親近感とかは俺が勝手に思っているだけで、生徒会長もそう思ってくれているかは分からない。というか、絶対に思っていないだろう。面識もないしな。

 

 だけど、可愛さだけでいったら海未には敵わない。これ、とっても大事。

 そりゃ、スタイルとかでは多少劣っているかもしれないけど……それでもやっぱり海未の方がいいと思う。惚れた弱みってやつだな。

 

「和希、先ほどから生徒会長の事を熱心に見ていましたけど、どうかしたんですか?」

 

 どうにも女子って生き物は、視線というものに敏感らしい。隣に座る海未がキョトンと首をかしげる。

 一瞬、本当の事を言いかけ……急いで口をつぐんだ。自分で言うのもなんだが、ろくでもないことを考えていたわけだし。

 取り敢えず、適当なことを言って誤魔化しておくか。

 

「いや、新しい生徒会長の金髪がすごく綺麗だなぁって」

「……和希はやっぱり金髪のほうが好きなんですか?」

 

 海未が少し不満げな表情を浮かべる。

 よく分からないが、俺の返事が気にくわなかったらしい。き、金髪を褒めたのがいけなかったのかな? 

 

「い、いや、特別金髪が好きってわけじゃないぞ! たまたま俺と同じ髪色だったからであって……」

「別に怒っていないので、必死に弁明しなくて結構ですよ。でも、和希は金髪には目がない変態さんだった、ということがよく分かりましたから!!」

 

 めっちゃ怒ってるし、めっちゃ気にしてるじゃん! 女心は本当に難しい。

 ぷいっと顔を背ける海未に、どうしたもんかと腕を組む。……いや、まぁ、言うことは一つしかないと思うんだけどね。

 

 好きじゃない人の髪を褒めて好きな人が拗ねたら、好きな人の髪を改めて褒め直せばいい。だって人間だもの。……相田みつをさん。大変失礼なことをおっしゃってしまい、誠に申し訳ございません。

 名言みたいだけど、欠片も名言ではない。むしろ迷言である。

 

「…………」

 

 しかし、褒めてあげないことには状況が全く改善しないだろう。相変わらず海未は口をとがらせてむすっとしている。

 

 めんどくさいけど、可愛いなぁ畜生! ほんと、あんまり拗ねてるようなら、その尖らせた唇にキスしちゃうぞ? ……はい、そんな度胸があったらとっくに告白を済ませて付き合っています。

 

 俺はまごうことなき、ヘタレです。

 

「はぁ……」

 

 自虐をしたところで、頭をガシガシとかく。言わないと、海未はずっと拗ねたままだろうし……。

 

「俺は確かに金髪も好きだけど、その、う、海未の髪が一番好き……です」

 

 最後の言葉の声量が小さくなり、敬語になってしまうヘタレの鏡。ほんと、ことりとか裏で俺の事をヘタレ扱いしているに違いない。

 恥ずかしさと情けなさに、ため息すら出ない俺。

 

「……へ、へぇ、そうなんですか」

 

 海未がそっ気のない返事をする。しかし、その耳は真っ赤に染まっていた。

 髪の毛の先をくるくるさせているところを見るに、恥ずかしがっているのだろう。怒りのオーラも少なくなっているし、取り敢えず機嫌を直してくれたらしい。

 無事……ではないけど、拗ねているよりはよっぽどましである。

 

((和希と、海未さんや。たのむから、はよぅ付き合ってくれ……恥ずかしくて見てられん))

 

 クラスメイト達の声が聞こえてきた気がするけど、空耳だろう。……やけに悶えている気もするけど、多分俺の視力が悪くなっただけだろう。

 クラスメイトの挙動がおかしい中、生徒会長の話も終わり、文化祭一日目に突入していくのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「よーし、今日は校内発表とはいえ、クラスの売上は全員で山分けだから、稼ぐだけ稼いで、打ち上げでパーッと騒ぐわよ!!」

『うぉおおおおお!!』

 

 実行委員の声掛けに、クラスの全員が拳を天へと突き上げる。

 

 ほんと、このクラスは無駄に結束力が高い。まぁ、俺も多分に漏れず拳を高々と突き上げているんだけど……。やっぱり沢山稼ぎたいしね。

 何時の時代でも、お金って人を動かす原動力になると思う。

 

「そして、クラス売り上げのキーマンとなるのが、和希君。それに海未ちゃんの二人よ! 心の準備はできてる?」

「サーイェッサー!」

 

 既に執事服への着替えを終えて準備万端の俺は、元気よく敬礼を繰り出す。ここまできたら怯んでいられない。今まで培ってきた練習の成果を前面に出すだけだ。

 

「の、ノリノリですね、和希は……」

 

 俺の姿を見て、海未は若干引いている。そんな彼女も、既にメイド服へと着がえを済ませていた。相変わらず、似合いすぎていて辛い。

 

 ちなみにもう分かっている通り、俺と海未は普通にお客さんの前で接客することになっていた。

 一応、実行委員には『裏方がいい!』って言ったんだけどね。俺も海未もお互いの姿を他の客に見られたくないわけだし……。

 

 だけど、そんな俺たちの思いも空しく、お願いは却下されていた。何でも、俺たちが前に出ないとお客が来ないかららしい。他のクラスメイトを信じてやれよ……。

 それでも渋っていたのだが、「お願い、後生だからぁああ!!」と泣きつかれ、最終的にこっちが折れる形のなったのである。

 鼻水まで垂らされたら仕方がない。というか、必死すぎて気持ち悪かった。

 

 その代わりと言っては何だけど、自由時間は二人一緒とさせてもらった。ここでも実行委員は、最後まで引き下がってきたけどね。こればっかりは譲れなかった。

 時間は1時以降。ちゃんと一緒に回ろうぜとお誘いは済ませてあった。めちゃくちゃ楽しみである。

 

「どうしたんですか、和希? ニヤニヤと……気持ち悪いですよ」

 

 顔をにやけさせていると、隣にいる海未から辛辣なツッコミが入った。泣きそう。

 

「……いや、何でもないよ」

 

 これで本当のことを言うと、また気持ち悪いと言われそうなので適当にはぐらかしておく。

 

「まぁ、深くは聞かないでおいてあげます」

「助かるよ……」

「ふふっ♪」

 

 へこむ俺を見て楽しそうな声を漏らす海未。そして、

 

 

 

「自由時間、楽しみですね♪」

 

 

 

 無邪気な笑顔を浮かべるのだった。

 

「……お、おぅ」

 

 これだから無自覚は怖い。何も計算されていないその笑顔に、俺の顔が一瞬にして熱くなる。

 

「二人とも、始まる前からイチャイチャしないの~」

『イチャイチャなんてしてない(です)!!』

 

 ジト目でこちらを見つめてくる実行委員(というか、クラス全員)に、二人の声が見事に被った。

 

 そんなこんなで、開店の準備を進める俺たち。一応、軽い軽食とかは十分すぎる位、用意してあるけど、実際の所どれくらいの人が来るんだろうな? 

 海未目当てに来た客は、片っ端から俺がぶっ飛ばす! 決意を新たにしている俺の耳に、

 

 

 

『それでは、第○○回、音ノ木坂学院学園祭をスタートします。皆さん、終了時刻まで目一杯楽しみましょう』

 

 

 

 と、アナウンスの声が聞こえてきた。それと同時にクラスメイトの数人が、宣伝用のパネルを持って外に飛び出していく。

 どうやら勧誘係りらしい。気合入ってるなぁ~。

 

「おーい、和希君。早速お客さんが来たから、接客よろしく!」

「はいよ~」

 

 勧誘係りに感心していたら、お客さん第一号が来店したらしい。俺は返事をしつつ、扉の元へ向かう。

 

 基本的に女子のお客さんの相手は男である俺たちが、男子のお客さんは海未たち女子が行うことになっていた。今回のお客さんは女子二人なので、男である俺が向かうというわけである。

 そしてやってきた女の子たちに、精一杯の営業スマイルを浮かべた。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。どうぞ、こちらの席へ」

 

 声もなるべく色っぽくしろとのことなので、自分ができる最大限に甘い声を出す。

 俺にしてみれば気持ち悪いことこの上ないのだが、女子からの反応は結構いいものとなっていた。海未も俺の声を聞いて、照れていたくらいだし。

 

『は、はい……』

 

 よかった。来てくれたお客さんもドン引くことなく、素直に従ってくれている。

 これで引かれたら執事服を脱ぎ捨て、教室の外へぶん投げていたところだったぜ。どっかの制服好きが、身を乗り出してまで拾ってくれそうだけど……。

 取り敢えず二人を着席させ、メニュー表を手渡す。

 

「こちらからメニューをお選びください」

 

 ちなみに、メニューと同時に何やら特典も選べるらしいのだが……俺はその特典とやらの内容を全く聞かされていない。それは海未も同様だった。

 正直、嫌な予感しかしない。ま、まぁ、変な特典はついていないだろうから、大丈夫大丈夫。

 きっとグッズとか、写真サービスとかだろう。

 

 

 

「それじゃあ、ケーキセットを二つと……特典は金髪執事からの壁ドンでお願いします!!」

「おいっ、ちょっと実行委員。こっちに来なさい。怒らないから」

 

 

 

 何一つ大丈夫じゃなかった。俺は元凶である実行委員を、ドスの利いた声で呼び出す。

 あの実行委員を少しでも信用した俺がバカだったよ……。

 

「一体何? 接客は練習した通りだよ?」

 

 めんどくさいという顔をしてやってきた実行委員を、思いっきり怒鳴りつける。

 

「接客の事を言ってんじゃねぇよ。俺が聞きたいのは、この特典のことだ!! なんだよ、金髪執事からの壁ドンって! 頭おかしいのか!?」

 

 俺が大声を上げると、実行委員は「ふふんっ!」と得意げに鼻を鳴らす。

 何も聞いてないけど、ぶっ飛ばしてやろうかな、こいつ。

 

「これがうちのメイド執事喫茶の見どころなんだよ! ただ、執事とメイドが接客するだけじゃつまらないからね!」

「確かにつまらないけど……特典をやらなきゃいけない、俺たちの気持ちを考えてくれ! 海未を見てみろ! 衝撃の事実に、顔を真っ赤にして固まってるじゃないか!!」

 

 指さす方で、海未が口をパクパクさせて固まっていた。

 ただでさえ恥ずかしがりやな海未にとって接客業はハードルが高いのに、これ以上ハードルを上げてどうするんだよ!!

 

「大丈夫、やってみれば何とかなるって! やらない後悔より、やる後悔だよ!!」

「あんたはいいでしょうね! 接客せず、裏に張り付いてるだけなんだから!!」

 

 実行委員が、ここまで身勝手だとは思わなかった。怒りで身体を震わせていると、追い打ちをかけるように実行委員が口を開く。

 

「ついでに勧誘係にも特典の事を中心に、勧誘をしてもらってるから! これでお客さんが大量に来ること間違いなしだね!」

「今すぐにでも勧誘係りを止めに行きたい気分だよ……」

 

 これはもう、どうしようもない。俺は、はぁとため息をつく。

 

 視界の端で海未が「勧誘係りを止めに行きます!!」と走り出そうとしていたが、クラスメイト数人によって取り押さえられていた。

 可哀想に……。強く生きるんだぞ、海未。

 

「ほらほら、ケーキセットの用意もできたことだし、覚悟を決めなって!」

「分かったよ! やりゃいいんだろ、やりゃ!!」

 

 やけくそ気味に叫んだあと、その顔をすぐに営業用に戻し、お嬢様方にケーキセットを持っていく。

 

「お待たせしました。ケーキセットです」

 

 その後、二人がケーキセットを食べ終わるまで別の人の接客をしながら待っていると、

 

「そ、それじゃあ、特典の方を……」

 

 僅かに頬を染めたお嬢様(お客様)が声をかけてくる。何回でも言うけど、本当にやるのこれ? 黒歴史確定じゃん……。

 

「………………」

 

 そんな期待を込めた瞳で俺の事を見つめないで! なんか、俺が悪いみたいだから!

 仕方がないと覚悟を決めた俺はお嬢様を壁際まで連れていく。

 

「そ、それじゃあ……」

「ひゃ、ひゃい!」

 

 うわぁ、緊張してんな。それでもやるしかない。

 俺は彼女の右耳辺りに、思いっきり右手をドンッと押し付ける。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 えっ、こっから先、どうすればいいの? 俺、何も聞いてないんだけど……。

 困った俺が視線を巡らせていると、実行委員がカンペらしきものをこちらに見せてきていた。

 

『そこで甘い言葉を囁いて!』

 

 その後には、しっかりと囁く言葉まで指定されていて……あいつ、マジで文化祭終わったら覚えてろよ? 

 視線を再び彼女に戻すと、俺は甘い? 言葉を彼女の耳元で囁く。

 

「他の男なんて見てんじゃねぇ。お前は……俺だけを見てろ」

 

 言ってみた感想。死にたい。あと、実行委員をビンタしたい。

 こんなの、とんだ公開処刑じゃねぇか!

 

「……は、はい///」

 

 しかし、壁ドンされていたお嬢様は顔を真っ赤にしてこくんと頷くだけ。う、うーん? 今ので本当に満足できたのかな? 

 ちらりと実行委員の方に顔を向けると、カンペで『バッチリ!!!!』と返してきた。どうやら満足してくれたらしい。

 

 

 

「…………」

「っ!?」

 

 

 

 もの凄い視線を感じて振り返ると、鬼のような形相をした海未と目が合い……ゆっくりと逸らした。

 よく分からんけど、後でちゃんと謝ろう……。自由行動の時、ずっと不機嫌だとたまらんし。

 

「じゃ、じゃあ、次は私にお願いします!」

 

 しまった。相手は二人じゃなかったっけ……。

 そのまま彼女も同じように壁際に連れていき、ドンッと壁ドンを敢行する。

 

(えっと、次の指示は……)

 

 カンペを確認すると、またしても黒歴史確定の言葉が綴られていた。そういう言葉はイケメンだから許されるんだよ! 

 軽くため息をついた後、再び気持ちを作る。今の俺はめちゃくちゃイケメン。金髪のイケメンだ……。

 

「そんなに可愛いことばっかり言ってると、その唇にキスしちゃうぞ?」

 

 今度は先ほどと別の意味で心を抉られる。タイプが違うと、傷つき方も違うんだな……。

 

「…………///」

 

 取り敢えず、今回も引かれなくて済んだみたいである。

 ところでさっきの女の子と言い、どうして顔を真っ赤にさせているんだろう? トイレにでも行きたいのか?

 

 

 

「…………」

 

 

 

 相変わらず背中に突き刺さる、凍てつくような視線。何となくドラクエに出てきそう。シリーズ一つもやったことないんだけどね! ポケモンとカービィなら死ぬほどやった。

 そんなドラクエとか、ポケモンとかは心底どうでもよく、海未の機嫌を何とかすることがとんでもなく憂鬱である。

 

『あ、ありがとうございました!』

 

 ぺこぺこと頭を下げながら出ていく二人を見送った後、俺はすぐさま海未の元へ――

 

 

 

「和希くーん! 次はこちらのお客様に特典をお願いね! 今度は顎クイをしてほしいんだって!」

「…………」

 

 

 

 人間、本当に絶望すると何も言葉が出てこないということがよく分かった。

 海未からの視線がより一層強くなる。俺には弁明する時間すらないというのか!? そもそも、特典って壁ドンだけじゃないのかよ……。今の俺は完全に歩く黒歴史である。

 

 その後、渋々お客様の元へ行き、強い気持ちを持って顎クイをさせていただいた。

 ちなみに、一日目が終了した後に聞いた事なのだが、時間によって男性、女性のお客さんを分けて集客していたらしい(俺は全く知らなかった)。

 

 つまり、開店直後の今現在、やたら女性のお客さんが多いのはそのためらしかった。それにしたって、俺ばかり呼ばれるのは納得いかないんだけど……。

 

「こっちだってお前ばっか呼ばれるのは納得できないんだよなぁ~? どうして俺たちには特典のお願いが来ないんだぁあああああ!!」

 

 なんか、ごめんなさい。後、うるさいから声量を押さえて。

 血眼で俺と見つめる男子たちに頭を下げた後、接客業に戻る。

 

 引き続き、壁ドンやら顎クイやらケーキを食べさせてあげるやら……精神がゴリゴリとすり減ったぜ。誰かさんの視線にもやられたし。

 そんなこんなで無事、女子パートが終了し、今度は野郎どもが雪崩のように店内に押し寄せてきた。むさくるしいったらない。まぁ、俺は裏に行って休むからいいんだけど。

 そのまま俺は、すり減った精神を休ませようと裏に戻り――

 

 

 

「す、すいません、こちらの特典をやってほしいんですけど」

「こ、これを、ですか!?」

 

 

 

 面白そうな声が聞こえてきたので、俺は回れ右をする。店内に視線を移すと、海未が真っ赤な顔でアワアワしているところだった。

 近場にいた実行委員に声をかける。

 

「女子の特典ってどんなのなんだ?」

「別に特段、変なのは入れてないよ。一緒に写真を撮ってあげるサービスだったり、『あーん♡』してあげるサービスだったり……」

 

 多少、モヤモヤするが致し方ない。俺も同じようなことをやっていたわけだからな。でも、それくらいなら海未があんな声を上げるもんかね?

 

「あと、本当のメイドカフェみたいに料理を運んできた後、『萌え萌えキューン♡』をやるサービスなんかも取り入れたりしたわね!」

 

 あぁ、絶対それだわ。海未があれだけテンパっている理由。俺が女だったとしてもやりたくない。

 メイドカフェにいるメイドさんは、あれを臆することなくやるんだもんな。ほんと、尊敬する。

 

「お願いします! どうか、お願いします!!」

 

 床に頭を擦り付けんばかりの勢いで土下座するお客さん。

 周りを見ると、同じように土下座をする人たちがちらほら……。クラスメイトの数人も頭を下げている。やべぇ、この空間に変態しかいない。

 変態共は、どんだけ海未の「萌え萌えキューン♡」見たいんだよ!! 俺も見たいけどさ! 

 

 しばらくの間、逡巡していた海未だったが、野郎どもの圧力に負けたのか胸の前に指でハートを作る。そして、

 

「お、おいしくなーれ、おいしくなーれ、も、萌え萌えキューン……うぅ~~~///」

 

 顔を真っ赤にして魔法の呪文を唱え終わった海未は、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い、その場にうずくまってしまった。

 それを間近で見ていたクラスメイトの間に、ポワンとした空気が流れる。

 

 

 

(か、かわえぇえええええええええ!!)

 

 

 

 

 恐らく、店内にいた全員がそう思っただろう。恥じらった仕草も相まって、とんでもない破壊力だった。

 

「あ、ありっ、ありがとう、ございましたぁああ!!」

 

 実際にやってもらった人なんか、感動のあまりむせび泣いている。

 そして、クラス内お客さんたちから『万歳!!』という声まで上がり始めた。つられて万歳をし始めるクラスメイト一同。

 ほんと、このクラスにはバカしかいない。

 

「バンザーイ!!」

 

 そう言ってる俺も万歳してるんだけどね! 雰囲気はこれぞ文化祭って感じだ。

 そんな俺の頭を、いつの間にか近くにやってきていた海未がバシンッと叩く。

 

「和希まで、なに悪乗りをしているんですか! 怒りますよ!!」

「いや、もう怒ってるじゃん……」

 

 叩かれた頭をさすりながらそう呟く。

 結局、この万歳は海未が『萌え萌えキューン♡』をするたびに行われるのだった。海未もなんだかんだ断らないあたり、偉いと思う。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ま、全く、酷い目にあいました……」

「そう言うなって。俺としては十分面白かったし、可愛かったぞ?」

 

 そして自由時間。

 

 制服に着がえ直した俺は、海未と一緒に文化祭の雰囲気を楽しむべく、校舎の外をのんびり歩いていた。

 ここでは様々なお店が並んでいたり、勧誘の声が響いたりしている。

 

「……私は何も面白くありませんでした」

 

 ぷくっと頬を膨らませてそっぽを向く海未が可愛い。

 

「ごめんごめん。俺も笑っちゃったし、悪いかったよ」

「それもそうですけど……私は和希が他の女の子に壁ドンやら顎クイやらをしていたのが、すごく面白くなかったです」

 

 海未が拗ねたように呟く。

 

「えっと、それは俺に嫉妬してくれてるってことでいいのか?」

「っ!? べ、べべ、別に嫉妬だなんて…………」

 

 きっと図星なのだろう。海未の視線がせわしなく動いている。毎回思うけど、分かりやすいなぁ。

 まぁ、あれだけ凍てつくような視線を向けられたら、いやでも気づくぞ……。

 

 そんな彼女の頭をぽんっとなでる。

 

「まぁ、俺も海未があーんしてる姿とか見て嫉妬してたから、お互い様だよ」

「……だ、だから、別に嫉妬なんてしてないですよ」

 

 ここまで言ってもまだ、嫉妬していた事実を認めない海未。しかし、俺が嫉妬していたと聞いて、口元がゆるゆるに緩んでいた。

 可愛い彼女に癒されつつ、俺たちはお店を見ながら歩いていると、隣からぐぅと可愛い音が聞こえてきた。

 視線を向けると、真っ赤な顔でお腹を押さえる海未が目に入る。

 

「そういやまだ何も食べてないから適当に買って食べようか。……誰かさんもお腹がすいてるみたいだし」

 

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる俺の右肩を、ポコポコと海未が叩いてきた。よっぽど恥ずかしかったのか、涙目になっている。

 

「ばかっ、ばかっ!! 今のは忘れてください!!」

「分かった、分かった。忘れてやるから、取り敢えず何か食べようぜ?」

 

 真っ赤な顔のまま無言でこくんと頷く海未。

 それを確認した後、近くにあった出店でたこ焼きを一パック。それと自販機で飲み物を二人分購入する。俺は炭酸飲料。海未はお茶にしておいた。確か海未って炭酸が苦手だったはずだし。

 たこ焼きと飲み物を持って俺たちはベンチに腰を下ろす。

 

「たこ焼きと、飲み物はお茶でよかったか?」

「は、はい。大丈夫です。ありがとうございます」

 

 俺からたこ焼きとお茶を受け取り、海未が頭を下げる。

 そして、きちんと「いただきます」と手を合わせ(こういう所は流石だと感心する)、たこ焼きを頬張った。

 

「あっ、意外とおいしいですね! 文化祭のモノというだけあって、あまり期待はしていなかったんですけど」

「うん。素直なのはいいけど、もう少し声を抑えてください。さっきのお店からあんまり距離がないから」

 

 チラッとお店の方に視線を向ける。幸いなことに俺たちの会話は聞こえていなかったらしく、お店の人は黙々とたこ焼きづくりに熱中していた。

 ふぅと息を吐いた後、俺は何気なくたこ焼きをもぐもぐと頬張る海未を見つめる。

 

 美味しそうに食べているのだが、たまに唇をペロッと舐める仕草がなんとも艶めかしい。

 

「どうかしたんですか、和希?」

 

 しまった。どうやら、またしても海未の事を見つめすぎてしまったらしい。首をかしげる海未に、ダラダラと冷や汗を流す。

 唇を舐める仕草が艶めかしかったなんて、口が裂けても言えない。下手したら変態扱いされてしまう。

 そんな俺に海未の目がスッと細められる。や、やばい。バレた?

 

 

 

「和希……もしかして、たこ焼きを食べたかったんですか?」

 

 

 

 よかった。取り敢えず、ばれていなかったらしい。

 正直、俺はそこまでお腹が減ってなかったので、食べたいわけではないんだけど……。

 

「ま、まぁ、そんなところかな。あ、あはは……」

 

 海未の勘違いに便乗して、乾いた笑いを浮かべる。そんな俺に海未は、

 

「それじゃあ……はい」

 

 タコ焼きに爪楊枝を指して、それを差し出してきた。何事だと固まる俺。

 数秒後、どうやら海未が俺に食べさせてくれようとしていることに気付く。

 

「えっと、これは、その……」

 

 周りにちらほらと人がいる分、結構恥ずかしい。

 俺が差し出されたたこ焼きを前にまごついていると、

 

「た、食べさせてあげようとしているのですから、は、はやく口を開けてください!!」

 

 海未が真っ赤な顔で大きな声を出す。恥ずかしいのは彼女も一緒らしい。

 恥ずかしいのなら、無理してやらなきゃいいのにと言ったら、弓道の矢で射抜かれそうだ。

 

「あっ、はい!!」

 

 俺も覚悟を決め、口を開く。

 

「あ、あーん……」

 

 「あーん」って言うの止めて! キュンとしちゃうから!! 

 それに加えて、上目遣いと真っ赤に染まった頬というコンボをくらい、瀕死一歩手前まで追い込まれる。

 しかし、こんなことで死ぬわけにはいかないので、口を開け続ける。そして、口の中にたこ焼きがゆっくりと入ってきた。

 

「…………」

 

 もぐもぐと、たこ焼きを咀嚼する。しかし、全くと言っていいほど味が分からない。

 

 よく漫画とかで、好きな人にあーんされると味が分からなくなるとか言ってる描写があるけど……それは正しいことだと、今この場で証明された。

 

「お、美味しいですか?」

 

 だから、味なんてさっぱり分かりません!

 

 

 

「ごめん、美味しいのかどうか全然で……海未の『あーん……』が強烈すぎたから///」

「はぇっ!?///」

 

 

 

 あ、あれっ? 俺、今心の声をそのまま口に出してた? 

 それについては、目の前でアワアワしてる海未を見ていれば一目瞭然だろう。頭から湯気を出さんとする勢いで、顔が真っ赤になっている。

 

 余計な一言で気まずくなった俺たちは、お互い真っ赤な顔で正面を向いた。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 数分に渡って、俺たちの間に沈黙が流れる。

 

 しかし、その沈黙を破るようにして海未がこてんっと、俺の肩に頭を預けてきた。

 

 

 

「ど、どど、どどど、どうしたんだ!?」

 

 

 

 突然のことに、言葉を詰まらせる。今度はこっちがアワアワする番だった。

 そんな俺に向かって海未は、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「いえ、特に理由はないんですけど……ただ、こうしたくなったので」

 

 

 

 なにその可愛い理由? ふわっと香る彼女の甘い香りがより一層強くなる。

 

 

 

「……私、文化祭が始まる前までは少し不安だったんです。本当にちゃんと接客ができるのかなとか、文化祭をちゃんと楽しめるのかなって」

 

 

 

 そんな事は少しも感じなかったけど……。海未も海未で緊張してたんだな。

 

 

 

「ごめん、全然気づかなかったよ」

「顔に出していませんでしたからね。でも、今はもうそんな事は考えられません。すごく文化祭を楽しめています。だって……」

 

 

 

 そこで海未がちょいちょいと制服の端を引っ張ってくる。

 

 

 

「どうしたんだ――」

 

 

 

 

 

「和希とこうして、文化祭を一緒に過ごせているんです。楽しくないわけがないじゃないですか。……和希と一緒だから、文化祭が楽しいです。和希と一緒に居るこの時間がすごく……幸せです」

 

 

 

 

 

 ふわっと、花が咲いたような笑顔を海未が浮かべる。

 

 

 

 振り返るタイミングを計ったかのように浮かべた笑顔に、俺は釘付けになった。

 ばっくんばっくんと波打つ鼓動。可愛いのはもちろん、何より幸せだと言われたことが一番嬉しかった。

 

「……そりゃ、よかったよ」

「ふふっ♪ 和希ってば、照れてます?」

「照れてねぇ!!」

 

 その後は別のクラスの出し物を楽しんだり、行動で行われていた劇を鑑賞したりした。二人での時間は楽しく、海未の言う通り幸せを感じる。

 

 こうして初めての文化祭。その一日目が終わっていった。

 

 明日は文化祭二日目。その後には後夜祭が控えている。

 

 そう、海未に告白すると決めた後夜祭が。

 

 

 




 今回も読了ありがとうございます。そして、感想やお気に入り、評価をいつもありがとうございます。前話がランキング入りしており、感謝以外ありえません。
 さて、次回は最終話になります。ここまで応援して下さった方には感謝してもしきれません。
 色々言いたいことはありますが、取り敢えず最終話をかき終えてから色々言いたいと思います。
 それでは、最終話まで付き合ってもらえれば幸いです。
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