真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 遅くなったあげく、最終話を前後編に分けるという始末……。
 前編は後編までのつなぎだと思って下さい。


最終話 前編 真面目な彼女に告白をして……

 そして、運命? の文化祭二日目。

 

「今日は一般客も多く訪れる文化祭二日目だからね! 稼いで稼いで、稼ぎまくるわよ!!」

『おぉーーー!!』

 

 金に目のくらんだ文化祭実行委員に、同じく金に目のくらんだクラスメイト達がこぶしを突き上げる。良い雰囲気だと言われればそれまでなのだろうが、欲望が前面に押し出されているため、素直に賛同できない。

 そもそも、今の俺にはクラスのノリについていけるほど、心に余裕がないのも事実である。

 理由はもちろん、後夜祭で海未に告白しようと思っているから。

 

(はぁああああ~~~。胃が痛い……)

 

 昨日までは何とも思っていなかったのだが、いざ当日になってみると、とんでもなく緊張している自分がいる。告白するということで、これほど神経質になるとは……。

 キリキリと痛む胃を抑えつつ、俺は視線を海未の方へと移す。彼女は既にメイド服を着用し、クラスメイトの女子と談笑しているところだった。

 すると、彼女がチラッとこちらに視線を向ける。

 

「…………」

 

 しかし、海未は何も言わずに俺から視線を逸らすと、クラスメイトとの談笑を再開する。若干、へこみそうになる光景だが、こうなるのも無理はない。

 

 後夜祭に呼び出す=告白するのと、ほぼ同然のことだからな。いくら恋愛関係に疎い海未でも流石に気付くだろう。

 それに今朝、起きてから今に至るまで事務的な会話こそしたものの、世間話というのはほとんどしていない。

 俺が意識しすぎているというのもあるのだけど、それ以上に海未も俺の事を意識しているような気がした。まぁ、全て想像にすぎないんだけどね。

 

「おーい、和希君に海未ちゃん。なんだかボーっとしてるみたいだけど、話ちゃんと聞いてた?」

 

 実行委員の声に意識が現実へと戻ってくる。

 

「あぁ、わりぃ。何も聞いてなかった」

 

 手を合わせると、実行委員はプンプン怒りながらも再び今日の予定について俺に聞かせてくれた。

 しかし海未は、その説明の最中もどこか上の空で……、

 

「海未ちゃん? 本当に大丈夫? なんだか顔も赤いみたいだし」

 

 実行委員からの指摘に、ぶわっと顔を赤くした海未がぶんぶんと首をふる。

 

「だ、だだ、大丈夫です!! えっと、それで何の話をしていたのですか?」

「何の話をしてたか分からない時点で、結構大丈夫じゃない気がするんだけど……」

 

 とっても苦しい言い訳に、若干呆れ気味の実行委員。

 そんな海未を見て俺は思う。今日、無事に文化祭を乗り切り、告白までつなげられるのかと。

 しかし、今更うじうじ考えたところで時間は止まってくれない。告白は既に約束された事実なのだ。

 

(取り合えず今は、目の前の文化祭に集中しよう)

 

 少しだけ熱くなっていた頬をパシッと叩いて気合を入れる。

 そして、昨日と同様の放送の後、文化祭二日目、一般公開日がスタートした。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「和希くーん、お客様が来たから接客お願い!」

「あいよ~」

 

 扉の前にいた女子から声がかかり、俺はお盆を持ちながら返事を返す。

 

 昨日もそれなりに人が来たと感じていたのだが、一般公開日である今日のほうが断然多い。

 開店直後からコンスタントにお客をさばいているのだが、それでも間に合わないほどである。

 加えて、今日は男女で時間を分けるということはしていない。おかげで俺も海未も、というかクラスメイト全員がせわしなく働いているという状況だった。

 

(おっと、ぼーっとしてる場合じゃなかった。お客さんを早く席に案内しないと)

 

 足早にお客さんの元へ向かう。しかし、そこで俺を待っていたお客さんを見て思わずあんぐりと口を開けてしまった。

 

「やっほー、和希君!」「こんにちは、和希君♪」

 

 挨拶をしてきたのは穂乃果とことり。うん、この二人はさして問題ではない。

 むしろ、問題は二人の後ろにいる面々で……。

 

「なんで睦未さんがいるんですか……」

 

 呆れたような声出す俺に、睦未さんはなぜか「ふふんっ!」と胸を張る。

 

「逆にどうしてそんな質問をするのか、知りたいくらいですね。娘と、将来息子になるかもしれない男の子の晴れ姿を見てはいけないのですか?」

 

 いや、だって海未から「絶対に来ないで下さいね! 絶対ですからね!?」とか言われてたじゃん……。しかし、娘からの忠告を無視して堂々と来る辺り、言うことを聞くつもりなんてはなからなかったのだろう。

 それにしても、なんか将来の息子とか聞こえた気がするけど……気のせいに違いない。

 

「あらあら! やっぱり和希君は海未ちゃんのお婿さん候補なの?」

 

 せっかく何事もなくスルーできると思ったのに!! 

 

 余計な一言を口にしたのは同じく文化祭に来ていたらしい、穂乃果ママ。恐らく、穂乃果か睦未さん辺りに誘われたのだろう。

 

「候補というよりも、将来の息子であると断言したほうがいいかもしれませんね」

「ちょっ!? 勝手に断言しないで下さい!! 俺と海未はまだ……」

『まだ?』

 

 やべぇ、完全に墓穴を掘った。ニヤニヤと俺を見つめる四人。ちゃっかり穂乃果とことりも入っている。

 

「……何でもないですよ。忘れてください」

 

 この四人に付き合っていると埒が明かない。後ろもつかえているので、早急に中へと案内しよう。

 

「えっと、人数は四人で大丈夫ですか?」

「あっ! 和希君、ちょっと待って。あと一人がもう直ぐ来るから」

 

 もう一人? 俺が首を傾げていると、その一人はすぐにやってきた。

 

「ごめんなさい、お待たせしちゃったかしら?」

「ううん、大丈夫だよお母さん!」

「り、理事長!? ってか、お母さん!?」

 

 やってきた人物に思わず目を剥いてしまう。だって、いきなり目の前に学園の理事長が現れたんだぞ? しかも、ことりのお母さんって……理解が追いつかなくて大渋滞を起こしている。

 

「そう言えば和希君には話してなかったね。こちら、ことりのお母さんです♪」

 

 紹介された俺は改めて南家の母と子を見比べる。……うん、確かに似ているな。

 銀色の髪とか、おっとりした雰囲気とか……さすがは家族。そこで理事長が俺に向かって頭を下げる。

 

「初めまして。ことりから和希君の事については色々と伺ってるわ。色々とね♪」

 

 色々という部分をやけに強調された気がする。からかい上手だという部分も親子で似ているらしい。大迷惑である。

 

「それにしても……和希君は海未ちゃんのお婿さんって認識で大丈夫かしら?」

「大丈夫じゃねぇよ!!」

 

 理事長相手に思わずため口でツッコんでしまった。

 

「ことりから聞いたんですか!?」

「いえ、睦未さんからそう聞いたのよ。『海未にぴったりのお婿さんがうちに来てくれたの!』って」

 

 俺はキッと睦未さんを睨みつける。しかし、肝心の睦未さんはニマニマと微笑むばかり。畜生、あいつは悪魔の生まれ変わりかよ……。

 

「……中に案内するのでついて来てください」

「和希君ってば、耳真っ赤だよ?」

「うるせぇぞ、穂乃果!!」

「素直になればいいのにぃ~」

「ことりもだ!!」

 

 味方が一人もいない。そのまま5人の視線を背中に受けながら席へと案内する。

 

「あっ、いらっしゃいま……って、お母様!?」

 

 素っ頓狂な声をあげたのはもちろん海未。できれば、気付いてほしくなかった。だって、この後いじられるのが目に見えてるし……。

 

「絶対に来ないで下さいと、そう言ったじゃありませんか!!」

「あらあら、ごめんなさい。てっきり、そういうフリなのかと」

「そんなわけないじゃないですか!!」

 

 よっぽどメイド服姿を見られたくなかったのか、海未は顔を真っ赤にして母親に詰め寄る。

 しかし、睦未さんは気にした様子もなく、スマホでパシャパシャと娘のメイド服姿をカメラに収めていた。

 

「ちょっと、お母様!!」

「ああ、ごめんなさい。あまりに海未さんのメイド服姿が可愛かったもので、つい」

 

 この人、ただの親バカなんじゃないだろうか? 話を聞かない母親に憤慨する娘。

 しかも二人は無駄に美人なもんだから、周りからの注目もかなりのものだった。

 

「まぁ、落ち着けって海未。今のこの人に何を言っても無駄だし、さっさと注文を済ませちゃおうぜ」

「そ、それもそうですね」

「流石に今の言葉は傷つきましたよ……」

 

 心にダメージを負った睦未さんを無視して、俺と海未は注文を受ける。一通り注文を聞いたところで、

 

「えっと、ご注文を頂いたお客様には執事とメイドから、か、壁ドンや顎クイのサービスなどがあるんですけど……」

 

 自分で言ってて死にたくなってきた。どうして、やりたくもない特典を進めなきゃいけないんだよ!! 海未も昨日の事を思い出したのか、眉間にしわを寄せている。

 

「あっ、別にことりたちは特典をつけなくて大丈夫だよ」

『へっ?』

 

 ことりの言葉に、俺と海未は気の抜けた返事を返してしまう。

 

「ほ、本当にいいのか?」

「うんっ♪ その代わり、後で聞いてほしいことがあるんだ!」

 

 聞いてほしいこと? 

 俺と海未は顔を見合わせるが、ことりの考えていることは全く分からない。

 

「ま、まぁ、別に大丈夫だけど……」

 

 嫌な予感はする。しかし、断る理由も特にない。その為、俺はことりの提案に乗ることにした。

 

「ふふっ、約束だよ?」

 

 意味深な笑みを浮かべることり。そして、追随するように他四人もにんまりと微笑む。まさに作戦通り、という笑み。

 彼女たちの笑顔に身震いを感じたが、もう後に引くことはできない。注文された料理を準備し、五人のテーブルに運ぶ。

 そのまま穂乃果たちは楽しそうに談笑してたのだが、あらかた料理を食べ終えると、ことりが俺たちをちょいちょいと手招きしてきた。

 

「な、なんでしょうか?」

 

 身構える俺と海未。そんな俺たちにことりはニッコリと微笑み、

 

「私たちの聞いてほしいことはね……和希君が海未ちゃんに壁ドンしてほしいってことなんだ♪」

『…………はいっ!?』

 

 ことりの一言に、時が止まったように感じた。しかし、それも一瞬のことで、俺と海未は同時に疑問の声を上げる。

 

「だからね、和希君が海未ちゃんに壁ドンをしてる姿を見たいって言ったの! もしかして、顎クイもつけてほしかった?」

『いやいやいや、そう言うことじゃなくて!!』

 

 嘆息することりに、俺たちは全力でツッコミを入れた。

 顎クイが欲しかったとか、そう言う問題じゃない。そもそも、根本的な部分から間違っている。

 

「ど、どうして、壁ドンなんかされなければいけないんです!?」

「そうだ、そうだ! どうして壁ドンなんてしなきゃいけないんだ!?」

 

 思ったことを素直に口にすると、ことりを筆頭に五人とも不満げな表情を浮かべる。

 

「どうしたんですか、和希さん。壁ドンをするのに理由が必要なんですか?」

「理由もなく壁ドンするやつがどこにいるんだよ!!」

 

 キリッ! とした顔で、何もかっこよくないことを言い放つ睦未さん。少なくとも俺は、理由もなく壁ドンをする変態を見たことがない。

 

「むぅ~……和希君、文句ばっかり言ってないで早く壁ドンしてよ!!」

「穂乃果は黙っていてください!!」

 

 待ちくたびれたらしい穂乃果が不満げな声を上げ、それを海未が一蹴していた。

 しかし、そのおかげで周りがさらに注目してしまい……完全に俺たちの分が悪くなっている。

 

「お、おいっ! お前らも何か言って――」

 

 救いを求めてクラスメイトの方へ振り返る。

 

『…………』

 

 しかし、クラスメイト達は皆、「うんうん」と頷くばかりだ。

 おいっ! お前ら、なに「その手があったか……」って顔してんだよ!! 

 クラスメイトからの反撃も期待できず、事態はますます悪くなっていく。

 

(海未、これはもうやらなきゃ駄目な気がする)

(ほ、本当にやるのですか!?)

(だって、もうこの状況、逃げられないだろ……)

 

 生徒だけでなく、一般の人たちからも期待の視線を一身に浴びる俺たち。その視線に気づいたらしい海未が「うぐっ……」とうめき声をあげる。

 これ以上抵抗するのはほぼ、不可能だろう。

 

「……海未!」

「っ!? は、はいっ!」

 

 意を決して海未の名前を呼ぶと、彼女もビクッと反応して背筋を伸ばす。そんな海未の手を掴むと、壁際に押しやった。

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 

 無言で見つめ合う俺たち。

 

 しかし、見つめ合っていても始まらないので、ふぅと息を吐いた俺は、海未の右耳の横あたりにドンッと右手をついた。

 

『…………』

 

 教室の中にいる全員が固唾をのんで、状況をを見守っている。一方俺たちはというと、

 

 

 

『…………』

 

 

 

 お互いが何かを言うわけでなく、ただ無言で見つめ合っていた。

 

 いや、違う。俺は目の前にいる海未があまりに綺麗で、言葉が出てこないだけだった。

 

 昨日、今日と、顔にうっすらと化粧を施している海未。

 普段は化粧などしない(しなくても十分綺麗)からこそ、化粧とした時の破壊力が一段と増す。

 俺は男なので化粧のことについてはさっぱりわからない。でも、海未が化粧をしてより可愛く、より綺麗になったことだけは分かる。

 

 少しだけチークの入った頬。いつもより瑞々しく、ぷっくりとした唇。ハニーブラウン色の瞳は涙で少しだけ潤み、俺を誘惑するようにゆらゆらと煌めく。

 

 

 

「海未……」

 

 

 

 無意識に彼女の名前を呼んでいた。頬に優しく手を添える。

 

 

 

「和希……」

 

 

 

 トロンとした瞳で俺を見上げる海未。甘える様な声で名前を呼んだあと、そっと俺の手に自身の手を重ねてきた。

 元々近かった顔の距離が少し、また少しと縮まっていく。あと少しで海未の唇に――――

 

 

 

『ごほん、ごほんっ!』

 

 

 

 突然聞こえてきた咳払いに俺と海未はハッと我に返る。見ると、クラスメイト達が顔を少しだけ赤くして俺たちの事を見てきていた。

 視界の端では穂乃果たち五人が、『あと少しだったのに!』という顔をしている。そんな視線を一通り眺め、俺と海未は今一度顔を見合わせた。

 

 

 

「わ、悪い海未!!」

「こ、ここ、こちらこそすいません!!」

 

 

 

 自分たちのしていたことを自覚した俺たちは、横に飛びのく様にして距離をとる。ふ、雰囲気に充てられていたとはいえ、俺はなんてことを……。

 ドクドクとうるさい心臓を押さえつつ、ことりたちのテーブルへ。

 

「えっと、その、取り敢えず満足してくれたか?」

「うーん、ことり的には若干物足りない感じだけど……今回は可愛い海未ちゃんと和希君を見れたことだし、許してあげます!」

 

 色々なものを失いかけたものの、一応は満足? してくれたらしい。良かった、よかった。

 

「何もよくないよ! あそこまでいってどうしてキスしないの!?」

 

 うるさい穂乃果は、今度なんでも奢ると言って黙らせておいた。痛い出費には違いないが、今回ばかりはしょうがないだろう。蒸し返されても困るし……。

 

 ちなみにお母様方は真っ赤な俺と海未を見て、ニヤニヤとご満悦の様子でした。

 




 読了ありがとうございました。
 後編はそこそこかけているので、書き終わり次第投稿します。
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