真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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最終話 後編 真面目な彼女に告白をして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、余計な提案をしてくれたおかげで酷い目にあったよ」

「まぁまぁ、怒らないで和希君♪ はい、ジュース。ことりからのサービスだよ」

 

 あれから自由時間まで接客をこなした俺と海未は、まだ行っていなかった穂乃果たちのクラスへ足を運んでいた。

 そして、今は文句を言いつつ、ことりから受け取ったジュースを口に含んでいるところである。ちなみに海未はトイレに行っているため一時、席を外していた。

 

「そうだよ、和希君! 怒ってもいいことなんてないんだから」

「誰が怒らせたと思ってるんだよ!?」

 

 相変わらず呑気な穂乃果に、思わず声を上げる。さっきと言い、今と言い、悪気がない分、余計に質が悪い。

 それに、穂乃果もことりも可愛いから怒るに怒れないのだ。可愛いって本当に得である。今の二人の格好も、可愛さに拍車をかけてるしな。

 

 穂乃果たちのクラスは、休憩所的な感じで提供されている。ここで休憩がてら、飲み物を飲んだり、食べ物を食べたりできるというわけだ。

 そんな穂乃果たちのクラスなのだが、格好はなぜか可愛らしいフリフリのエプロン姿。穂乃果はピンク、ことりは水色を基調としたエプロン姿で、見ただけで可愛いと分かる。いや、見なくても可愛い。これを目当てに来るお客さんも多いというのは納得である。

 おかげで、休憩所らしからぬ人数でクラスは溢れていた。しかし、お客さんがたくさんいる中で穂乃果とことりを独占している俺は、主に男性陣から鋭い視線で睨まれている。

 落ち着かなくなった俺は、ことりからもらったジュースを飲み――。

 

「それよりも、和希君は海未ちゃんに捧げる告白の言葉は決めたの?」

「ぶほっ!?」

 

 ことりの一言によってジュースが器官に入り込み、俺は思いっきりせき込む。

 いや、告白だけなら俺も咳き込まないよ。彼女が海未に捧げる、なんて言い方をするから……。

 

「わわっ! 大丈夫和希君?」

 

 穂乃果が差し出してきたハンカチで口元を拭う。そして、ことりを睨みつけ……なんか睨み返されました。イミガワカラナイヨ。

 

「そんな風で本当に告白できると思ってるの、和希君?」

「す、すいません……」

 

 反射的に謝ってしまった。ことりって、有無を言わさぬ迫力がある気がする。まぁ、プンプン怒ることりも可愛いからいいんだけど。

 

「全く! ことりは、和希君がいざ告白の場面になってヘタレてしまうんじゃないかと思って心配です!」

「返す言葉もございません……」

 

 がっくりと肩を落とす俺。実際にヘタレる自分の姿を想像してしまったからだ。

 その場面が、やたらリアルに想像できてへこんだぜ……。

 

「まぁまぁ、ことりちゃん。和希君も好きでヘタレてるわけじゃないんだし、ここは許してあげようよ」

 

 何のフォローにもなっていない穂乃果の言葉。むしろ先ほど以上に心を抉られる。乾いた笑いすら出てこない。

 すると、そんな俺を見ていたことりの表情がふっと緩む。

 

「嘘嘘、冗談だよ和希君。確かに和希君はヘタレだけど、大事な場面で逃げ出すような人だとは思っていないから♪」

「それは、褒め言葉として受け取ってもいいんでしょうか?」

 

 どうにも貶されている気しかしないんだけど……。

 

「もちろん! 最大級の褒め言葉だよ」

 

 ことりにそこまで言われたら仕方がない。褒め言葉として受け取っておこう。

 

「それで、和希君は本当に何も考えてないの?」

 

 穂乃果からの問いかけに、俺は少しだけ逡巡した後、

 

「えっと、べ、別に考えてないわけじゃないんだけど……正直、告白の場面になってみないと分からないって感じで」

 

 という答えを出した。

 

 煮え切らない答えかもしれない。だけど、本当にこれ以外に言いようがないのだ。

 前にも言ったかもしれないけど、告白するのなんて初めてなわけで、どうなるのかも全く想像がつかない。

 

「だから俺は、その時感じたことをそのまま海未に伝えようと思う」

 

 告白なんて、これに尽きる気がするんだ。

 色々と言葉を考えても、その場に行ったら全部吹き飛んでしまう。好きな人を目の前にしたら頭が真っ白になってしまう。

 緊張の度合いは人それぞれかもしれないけど、何も考えられなくなるところはみんな共通……だと、俺はそう思うけどね。

 

「穂乃果も、和希君の言った通りでいいと思うよ。穂乃果が和希君の立場でも、同じように思ったことを言う気がするし」

 

 うん。穂乃果の場合は、何も考えずに「好きッ!!」って言いそうだ。後、ハグもしそう……。

 まぁ、穂乃果は私生活でもあんまり考えて行動してないからな。ほとんど、感性だけで動いているのだろう。ある意味凄い。

 

「むぅ~、和希君、今失礼なこと考えてたでしょ?」

「いや、何も考えてないよ。ことりも、感じたことをそのまま伝えるでいいと思うか?」

「うんっ♪ ……それに海未ちゃんも、感じたことをそのまま伝えてもらったほうが絶対に嬉しいと思うし」

 

 後半の言葉は聞こえなかったけど、取り敢えずことりも俺の考えを受け入れてくれた。これでもう、思い残すことはないだろう。

 

 

 

「まぁ、俺の言葉なんてどうでもいいことなんだよな。下手したらフラれる可能性だってあるわけだし」

 

 

 

『…………』

 

 

 

 なんて付け足したら、二人が冷たい視線を俺に向けてきた。

 

 

 

「全くもう! 和希君はどうしてそうなっちゃうのかなぁ~」

「海未ちゃんがあれだけ分かりやすいのに……これはもう早く告白を済ませてもらわないと」

 

 

 

 二人の不満げな声だけが聞こえてくる。な、何かまずいこと言ったかな? 

 そんなタイミングで、海未がトイレから戻ってくる。

 

「すいません、トイレが予想以上に混んでいたもので……あれっ? どうかしたんですか?」

「ううん、何でもないよ。全部和希君が悪いんだし」

「そうそう! 和希君が全部悪いんだから、海未ちゃんは気にしなくても大丈夫だよ!」

「そうですか……一体何をしたんです、和希?」

「俺は何もやってないんだけど……」

 

 こんな感じで文化祭を楽しんでいる間にも、俺は自覚していた。

 

 刻一刻と、告白の時間が近づいているということを。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

『以上で、第○○回、音ノ木坂学院学園祭を終了します。各クラス、片付けられるものは片付け、夜に行われる後夜祭も全力で楽しみましょう!』

 

 アナウンスの声と共に、楽しかった学園祭が終わりを告げる。

 しかし、学園内を包む熱気はまだまだ収まりそうもない。それもそのはずで、この後は片付けがそれなりに済み次第、後夜祭が行われるのだ。

 

 後夜祭では、校庭の真ん中に大きなたき火が置かれ、その周りで好きな人と音楽に合わせて踊ったりする。

 まぁ、ここまでは一般的な後夜祭とほぼ変わらない。しかし、この好きな人というのがみそで、後夜祭で好きな人にアタックし、恋人を作るというのが毎年の恒例行事のようになっていた。

 

 告白に成功した人はそのまま恋人と踊り、敗れたものは敗れた者通しで慰め合う。まさに、天国と地獄。それ以外は友達と楽しく踊るって感じだ。

 そして俺も多分に漏れず、恋人を作ろうとしているわけで……。

 

「どうしたの和希君? 随分、顔色が悪いみたいだけど」

「い、いや、何でもないよ……」

 

 クラスメイトの女子に指摘された俺は、無理やり笑顔を作り、何でもないと手をふる。現在、絶賛緊張中の俺は、激しい胃の痛みに襲われていた。

 だって、片付けが終わったら海未に告白するんだぜ? 1時間、2時間後には俺、海未に告白してるんだぜ? 心の準備ができなさ過ぎて、どうにかなりそうである。

 

「あ~、もしかして、後夜祭で海未ちゃんに告白しようとしてるんでしょ?」

 

 まだ何も言っていないのに、一瞬でバレたんだけど……。これだから、女子の勘ってのは恐ろしい。

 

「ま、まぁ、そんなところかな」

 

 特に隠す理由もないので素直に白状すると、女子の目がキラキラと輝く。

 

「ふぅ~ん、そうなんだ。やっと告白するんだぁ~」

 

 うわぁ……めっちゃ楽しそう。言うんじゃなかった。

 

「まっ、頑張りなよ! クラス全員が応援してるから」

「頑張ります」

 

 痛む胃を押さえながら返事をする。

 本当に応援してくれているかは分からないが、人からの好意は素直に受け取っておこう。

 

 その後は、なるべく告白という言葉を考えないように黙々と手を動かす。考えちゃうと片付けに集中できないし……。

 1、2時間ほど手を動かしたところで、細かい部分を残す以外の片付けが全て終了した。辺りは既に薄暗い。

 窓から校庭に視線を向けると、既にキャンプファイヤーの準備が完了しており、あとは生徒が踊るだけといった形になっている。そこへ、

 

 

 

『キャンプファイヤーの準備ができました。片付けの終わったクラスから外に出てきてください』

 

 

 

 タイミングよく放送が流れてきた。それを聞き、俺たちは教室から校庭へと向かう。

 ちなみに海未は片付けを終えた後、穂乃果とことりたちの元へ行くと言っていた。きっと今頃、放送を聞いて校庭に歩き出しているだろう。

 彼女たちの所にはこれからいろんな意味で人が集まると思うので、近づくのが大変かもしれない。三人が三人とも、タイプの違う可愛さを持っているからな。

 まぁ、そんなの知ったこっちゃないんだけどね。海未とは元々約束してるわけだし。どんなイケメンが海未に言い寄っていても、関係なしに押しのけていくだけである。

 

 そんな思いを胸に歩いていくと、既に校庭は多くの生徒たちで活気づいていた。

 見ると、告白が成功して仲睦まじい様子を見せる恋人たち。膝から崩れ落ち、周りから慰められている人たちなどがいた。早くも告白タイムが始まっているらしい。

 成功した人、失敗した人をしり目に、俺は辺りを見渡す。すると、一際多くの人が集まっている集団が目についた。恐らく、あそこに海未たちがいるのだろう。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

 俺はゆっくりと深呼吸を繰り返す。

 そして、目的を果たすため、その集団に向かって歩き出した。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「海未さん、俺と一緒にダンスを踊ってください!」

「い、いえ、私は、その……」

「それじゃあ、ことりさんと穂乃果さんは?」

 

 しかし私と同様に、穂乃果とことりは首を横に振った。私たちに断られ、撃沈した彼はトボトボと哀愁を漂わせながら帰っていく。

 

 もう、何人目だろうか? こうして、男性が私たちの元に言い寄ってくるのは。

 同学年の人はもちろん、先輩方までが私たちと踊ろうと誘ってくる。正直、少しだけ鬱陶しい。

 

「ふぅ、それにしても海未ちゃんはモテモテだね♪」

「私が人気なのではなく、穂乃果とことりが人気なんじゃないですか?」

「そんなことないと思うけどな。海未ちゃんは大和撫子美人だし!」

「べ、別に、よく知らない人にそう思われていても戸惑うだけです」

「じゃあ、和希君は?」

 

 ことりの一言に私は言葉に詰まる。多分からかってくるとは思っていましたけど、やっぱり反応できませんでした。

 

「か、和希は……」

『和希君は~?』

 

 いつの間にか、穂乃果も一緒になって耳を傾けている。これも、幼馴染だからこそできる技なのかもしれません。……まさか、裏で示し合わせているのではないでしょうね? 

『海未ちゃーん。和希君に褒められたら、どう思うのぉ~?』

 

 黙っている私に、追撃をかける様な二人の言葉。まぁ、黙っていたところで許してくれる二人ではありませんから……。

 覚悟を決めた私は、一つ深呼吸をして口を開く。

 

 

 

「か、和希なら……嬉しい、です」

 

 

 

 口に出すと恥ずかしくて、声が尻すぼみになる。

 

 でも、二人だって分かっているはずです。私が和希に褒められて、嬉しくないわけがないことくらい……。

 

『ふぅ~ん。そうなんだぁ~』

 

 楽しそうに微笑む二人に、私はやけになって声を上げる。

 

 

 

「そ、そりゃあ、嬉しいですよ。当たり前じゃないですか!!」

「海未ちゃんってば、可愛い!」「可愛い♪」

「うぅ……」

 

 

 

 可愛い、可愛いと言われて、私の頬が少しだけ熱くなった。ま、全く、穂乃果もことりも私で遊ばないで下さい! 

 その後、ひっきりなしにやってくる男性たちを(主に穂乃果とことりが)あしらい続けること約10分。

 

「あっ! ……海未ちゃん、ちょっとこっちに来て」

 

 声をかけられた私がことりの元へ向かうと、なぜか優しい手つきで前髪を整えられる。

 

「い、いきなりどうかしたのですか?」

「うん♪ 海未ちゃんにとってすごく大事な人が来てくれたから」

「大事な人?」

 

 後ろを振り返ると、ある一人の男性が熱のこもった瞳で見つめていた。

 

 真っ直ぐでぶれない彼の視線。特徴的な金色の髪が10月の夜風に靡いている。

 そこで彼の口が小さく、だけどしっかり動いた。

 

 

 

 

 

「海未」

 

 

 

 

 

 彼が私の名前を優しく呼ぶ。

 後夜祭が始まってからずっと、待っていた相手。私にとってすごく大切な人。そして、大好きな人。

 

 自然と口元が緩む。私も彼に答えるよう、口を開いた。

 

 

 

 

 

「……遅いですよ、和希」

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 海未に遅いと言われた俺は、「仕方ないだろ」と言いつつ頬をかく。

 

「お前らが人気すぎるんだよ。おかげで近づくだけでも一苦労だった」

 

 というか、海未目当ての男子多すぎだろ……。遠目から眺めても人気ぶりがよく分かったので、若干嫉妬していた。

 そんなわけで、思わず不満げな言葉を口にしてしまった俺。しかし、なぜか海未はやわらかい笑みを浮かべる。

 そして、次に発せられた彼女の言葉は、ちっぽけな俺の不満など、簡単に吹き飛ばしてしまった。

 

 

 

「でも、私は嬉しかったです。和希はこうしてちゃんと来てくれましたから」

 

 

 

 胸の前で手を合わせ、少しだけ首を傾ける。

 うっすら桜色に染まった頬。さらさらと風になびく彼女の黒髪。そんな彼女の姿にしばらくの間、釘付けになった。

 

「和希?」

 

 海未の声にハッと我に返る。見ると、傍にいた穂乃果とことりも不思議そうな顔で俺の事を見ていた。

 

「ご、ゴホンゴホン!」

 

 わざとらしく咳払いを繰り返した俺は、海未の右手をギュッと掴んだ。

 

「海未、行くぞ」

 

 人ごみをかき分け、校舎の方向に向かって歩いていく。

 

『和希くーん!!』

 

 不意に聞こえてきた大声。俺は声のした方向に顔を向けると、そこでは穂乃果とことりが口に手を当てていて、

 

 

 

「和希君、ファイトだよっ!」「頑張ってね、和希君♪」

 

 

 

 どんな意味を込めた言葉なのか。そんなものは、聞かなくても分かるだろう。

 激励の言葉をかけてくれた二人に俺は、「ありがとう」という意味を込めて右手を上げる。そして俺たちは再び、校舎に向かって歩き出した。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「か、和希、一体どこに行くのですか?」

 

 昇降口に辿り着いたところで、海未が戸惑いの声を上げる。そう言えばどこに行くのか、まだ何も説明してなかったっけ。

 

「教室だよ。あんなにうるさいところだと、いつ邪魔が入るか分からないしな」

 

 まぁ、うるさいというのは建前で、本音はみんなの前で告白するのが恥ずかしいからだ。

 一応、後夜祭を行っているとはいえ、教室の鍵はどこも開いている。だからこそ、今の教室は告白するのにうってつけの場所であると言えるだろう。

 

 海未の手を引きながら夜の校舎内をずんずんと歩いていく。文化祭の時、あれだけ五月蠅かったのがまるで嘘のようだ。

 廊下はしんと静まり返り、聞こえてくるのは校庭から流れてくる音楽と、生徒たちが楽しそうにはしゃぐ声だけ。

 

ドクン、ドクン、ドクン……

 

 周りが静かなこともあって、鼓動の音がいつもより鮮明に聞こえる。

 いつもより……というか、人生で一番早い。て、手汗とか大丈夫かな? 

 

 余計な心配をしているうちに、俺たちは目的の教室に辿り着いた。

 メイドカフェなどで使ったテーブルなどは既に撤去され、いつも通りの机と椅子が並べられている。

 そのまま、海未と一緒に校庭の様子が見える窓際へ。

 

「おっ! ここからだとキャンプファイヤーが綺麗に見えるな」

「そ、そうですね……」

 

 返ってきた海未の声は固い。彼女も俺と同じで、かなり緊張しているのだろう。

 

 そう思った瞬間、気持ちが少しだけ楽になった。

 

 

 

「……なぁ、海未。この席、覚えてる?」

 

 

 

 とある席に腰掛けた俺は、海未に視線を向ける。

 

 

 

「? その席がどうかしたんですか?」

「俺が初めて誰かさんに睨まれた席」

 

 

 

 俺の言葉に、海未もハッとした顔になった。

 

 そう、ここは入学して自己紹介をした後、海未に睨まれ、口喧嘩をした思い出の席。言い換えれば、海未と初めて出会った場所でもある。

 

「もう半年以上前にもなるのか……懐かしいな。あの時は海未にすごい顔で睨まれたっけ」

「あ、あの時は和希の事を何も知らなかったんです! それに和希にだって原因が……」

 

 楽しそうに笑うと、反対に海未は拗ねたように口を尖らせる。

 

 

 

「ごめん、ごめん。怒らせるつもりなかったんだ。……ただ、今から話すことの前に、少しだけ思い出すのもいいかなって」

 

 

 

 出会った当初、俺たちの仲は最悪だった。でも、それから紆余曲折を経て、お互いがお互いの事を大切に思えるほどの関係にまでなった。

 俺に至っては、海未を好きになってしまったのである。仲が悪かった時期を思い出すと、今でも信じられない。

 

 

 

「確かに、和希の言う通りかもしれませんね。あの時の会話があって、今があるわけですから」

 

 

 

 感慨深そうに頷く海未。彼女も彼女なりに思う所があるのだろう。

 ……さて、思い出に浸るのもこの辺にして、そろそろ本題に入ろうか。

 

 俺は立ち上がると、大きく深呼吸をする。そして背筋を伸ばし、彼女の方へと向きなおった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 海未も雰囲気の違いを感じ取ったらしく、黙って俺の事を見つめている。

 

 外からの光しか入らない教室でも、彼女の姿だけは鮮明だった。思わず、生唾を飲み込む。

 それ程までに海未は美しく、可憐だった。

 

 

 

「海未――」

 

 

 

 彼女の名前を呼ぶ。

 

 一応、告白の言葉は考えていたつもりだった。

 しかし、伝えたいことが次から次へと溢れて止まらない。これまでの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

 

 言いかけてはやめ、言いかけてはやめを繰り返し……最終的に出てきたのはたった一言だった。

 

 

 

 

 

 

「好きです」

 

 

 

 

 

 

 一番シンプルで、それでいて気持ちを一番ストレートに伝えられる言葉。

 

 

 

 

 

 

「俺と、付き合って下さい」

「――っ!?」

 

 

 

 

 

 

 海未の瞳が大きく見開かれ、頬が桜色に染まる。

 

 結局、考えていた言葉は何一つ伝えられなかった。だけど、一番伝えたかったことはしっかりと伝えられた。それだけで俺は満足だった。

 後は海未の返事を待つだけ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 俺の告白を聞いた海未の瞳は涙で潤んでいた。そして、視線が少しだけ右往左往する。告白の返事をどうするべきか、悩んでいるようだった。

 俺は黙って海未の答えを待つ。

 

 彼女の視線が再び俺の元へ戻ってくると同時に、告白の返事が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 シンプルな答え。しかし、海未の気持ちは十分すぎるほど俺に伝わった。

 緊張の糸が切れてしまった俺は、思わずその場に座り込んでしまう。

 

 

 

「良かったぁああああ~」

 

 

 

 嬉しいやら、ホッとしたやら、やっぱり嬉しいやら……。ここが家であれば間違いなく、奇声をあげて悶えていた。

 

「だ、大丈夫ですか、和希?」

 

 戸惑いの声を上げる海未に、俺は大丈夫だというジェスチャーをする。

 

「大丈夫だよ。大丈夫だけど……あと少しだけ待って」

 

 こんな顔を海未に見せるわけにはいかない。

 たっぷり時間をかけてにやけた顔を何とかした後、改めて顔を上げる。

 

 

 

「海未」

「な、なんですか?」

「これからもよろしくな」

 

 

 

 そう言って俺は笑顔を向けた。

 

 関係が変わるとはいえ、これからも海未とは同じクラスメイトであり、居候先として一緒に住んでいくということは変わりない。

 だから俺は、改めて笑顔を向けたのである。

 

 最初こそ海未は、言っている意味が分からず戸惑っていた。しかし、すぐ俺の気持ちに気付いてくれたらしい。

 

 

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 何度でも見たくなるような、そんな魅力的な笑顔を俺に向けてくれた。

 

 

 

「……さて、それじゃあ穂乃果たちの所に戻ろうか」

「そうですね」

 

 

 

 そこで俺はゆっくりと海未の左手に手を伸ばす。そのまま彼女の手をしっかり握りしめた。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 何も言わずに手を握ったため、海未は一瞬驚いたように自身の左手に視線を移す。

 

 嫌がるかな? そう思ったのだが、意外にも海未は手を離さずにいてくれた。

 海未の手はすべすべてしていてやわらかい。繋がれた右手に意識を向けつつ、教室を後にして廊下に出た。

 

『…………』

 

 無言のまま廊下を歩き、恐らく告白の結果を待っているであろう穂乃果たちの元へ戻っていく。

 

 

 

 

 

「あ、あの、和希」

「どうした?」

「……手、恥ずかしいので、昇降口までにしてください///」

「……うん。俺もすっげぇ恥ずかしいから、昇降口までにしような///」

 

 

 

 

 

 恋人として普通に振る舞えるようになるのはお互い、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年の時が経過し――。

 

 

 

ジリリリリリリリリッ!!

 

 

 

 休日であるにも関わらず、けたたましい目覚ましの音が鳴り響く。

 

「う、うぅーん……」

 

 目をつむったまま、目覚ましまで手を伸ばし……それを止め再び夢の世界へ。

 

 せっかくの休日だ。昨日も仕事で遅かったし、もう少し寝かせてほしい。二度寝ほど気持ちのいいものもないからな。

 そんな俺の願いも空しく、

 

 

 

「お父さん!!」「おとーさん!!」

「ぐえっ!?」

 

 

 

 お腹の上にそれなりの重さの塊が二つ、飛び乗ってくる。それによって、カエルの鳴き声のようなうめき声を上げる俺。

 結構な痛みに顔をしかめつつ、渋々目を開く。

 

 

 

「……卯月、それに空。起こすのは構わないけど、もう少し優しく起こしてくれないか? 毎回こんな起こされ方してたらお父さん、死んじゃうよ?」

「だってお父さん、こうしなきゃ絶対に起きないじゃん!」「じゃん!!」

 

 

 

 そう言ってにぱーと笑うのは長女の真嶋卯月(まじまうづき)と、長男の真嶋空(まじまそら)。俺の大切な子供たちだ。

 

 卯月の方は五歳。母親の遺伝子を色濃く継いでおり、容姿やまっすぐに伸びた黒髪は母親そっくりだ。

 空は今年で三歳になる。こちらは俺の方の遺伝子を継いでおり、金髪を受け継いでくれていた。

 

 そして、名前の由来なのだが、卯月の方は俺と海未の名前をくっつけたって感じ。空は海の反対という形で名付けていた。自分ではいい名前を付けたと思っている。

 

 子供の成長とは早いもので、少し見ない間にものすごい成長を遂げていることもしばしば。身長も然り、体重も然りである。

 まぁ、体重に関しては毎朝のタックルによって変化がよく分かるんだけど。

 

「あっ! お母さんが朝ご飯って言ってたよ!」「いってたよ!」

「分かった。お父さんもすぐに行くから、卯月と空は先に言っててくれ」

『うんっ!』

 

 パタパタと駆けていく二人を見送った後、洗面所で顔を洗い、朝ご飯が用意されているというリビングへ。

 そこでは俺の妻がいつも通り、柔らかな笑みを浮かべて俺の事を待っていてくれた。

 

 

 

「おはようございます、和希さん」

「おはよう、海未」

 

 

 

 最愛の妻である海未に挨拶を済ませ、俺は朝ご飯の並んだ食卓に腰を下ろす。

 

「はい、ご飯とお味噌汁です」

「おっ、ありがとう」

 

 伸ばした艶のある黒髪を腰辺りで束ね、ご飯を差し出してくれた海未は、お礼の言葉にニッコリと微笑む。ほんと、俺にはもったいないくらいの奥さんだ。

 ちなみに今日の朝食は、日本人の愛する和食。海未の作る和食は、世界で一番おいしいと思う。

 

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」『いただきます!』

 

 みんなで挨拶を済ませ、朝食を口にする。うん、今日も最高にうまい。

 その後、ある程度食べ進めたところで卯月からお声がかかる。

 

「ねぇねぇ、お父さん! 今日、卯月たちはおばあちゃんの家に行くんだよね?」

「そうだよ。ちょっとお父さんとお母さんに用事があってな。だから、今日はおばあちゃんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」

「はーい!」

「空も、おばあちゃんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」

「わかったぁ!」

 

 元気よく手を上げる子供たち。この笑顔を見るだけで元気100%だ。何でも買ってあげたい気分になる。一度やろうとしたら海未に止められた。「親バカも大概にしてください」と。

 そのまま朝ご飯を食べ終え、家を出る準備を整える。

 

「和希さん。すいませんが、子供たちの送り迎え、よろしくお願いしますね」

「いいって。普段は家のことを散々やってもらってるからな。それに、おばあちゃん……睦未さんの家はそんなに遠くないし大丈夫だよ」

 

 卯月と空の誕生を経て無事、おばあちゃんとなった睦未さんなのだが、現在は一緒に住んでいない。

 一緒に住んでもよかったのだが、元々俺と海未は就職後、家を出て同棲していたのだ。だったら、結婚後もそのまま二人で……ということになったのである。

 

 まぁ、さっきも言った通り、俺たちの住んでいるマンションと海未の実家はそこまで離れてないんだけどね。

 卯月と空が生まれたばかりの時は本当、お世話になりました。俺がまるで役に立たなかったもので……。

 

「お父さん、準備できたよ!」「たよっ!」

 

 子供たち二人の準備が完了したということで、親子三人で海未の実家へと向かうことにした。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「それでは睦未さん。子供たちをお願いします」

「はい、わかりました。……今日は子供たちの事を気にせず、楽しんでください」

 

 ニッコリと微笑んでくれた睦未さんに「ありがとうございます」と頭を下げ、海未の待つマンションへと戻る。

 

「ただいま~」

「おかえりなさい。ありがとうございました」

 

 出迎えてくれた海未と共にリビングへ。

 

 ソファに腰掛けると、海未が寄り添うようにして俺の隣に腰を下ろした。そんな可愛い妻の頭を撫でると、甘えるようにしてすり寄ってくる。

 

 

 

「和希♪」

 

 

 

 はい、もう可愛い。恋人になってからというもの、彼女の可愛さは留まることを知らなかった。一体、可愛さの上限はどこにあるんだという感じである。

 高校生の頃に比べて表情も、身体付きも大人っぽく変わっていた。スタイルの良さも相変わらずで、とても子供を二人生んだとは思えない。

 

 ちなみにここだけの情報、海未は二人きりの時、常にこんな感じだ。普段は世間体を気にして和希さんと呼ぶが、二人きりになると昔のように俺のことを和希と呼ぶ。

 何でも、昔の気持ちを忘れずにいたいからということらしい。ほんと、海未が俺の奥さんでよかった。

 

 

 

「和希」

「ん? どした?」

「ふふっ、呼んでみただけです♪」

 

 

 

 あぁ、もう! 可愛いな、俺の奥さんは!! 

 少しだけイチャイチャした後、俺は話を本題へと持っていく。

 

「それにしても、今日はよくみんな集まれたよな」

「本当にそうですよね。無理だったら構わないと言ったのですが……」

 

 カレンダーに視線を移すと、今日の日付に大きく〇がついていた。〇印が示す意味。それは、

 

 

 

「でも、せっかく元μ'sのみんなが俺たちの結婚記念日を祝ってくれるんだ。全力で楽しませた貰うとするよ」

 

 

 

 〇印の中には結婚記念日という文字が刻まれている。

 もうお分かりかもしれないが、今日は俺と海未の結婚記念日だった。ちなみに、今年で七回目になる。

 

 大学を卒業して、三年後に俺と海未は結婚。だから俺も海未も、もう32歳になる。

 俺はそれなりに有名な企業へ就職し、家族を支えるべく毎日奮闘していた。海未は保育士として働いているのだが、今はとある理由で休業中。

 とある理由は後で語るとして、結婚後は卯月と空という子宝にも恵まれた。自分で言うのもなんだが、俺は世界一幸せだと思っている。

 

 そして、先ほどチラッと話したμ'sという言葉。

 これは今や伝説となっているスクールアイドルの名前だ。高校二年生の時、廃校に陥りそうだった音ノ木坂を救ったスクールアイドルでもある。

 穂乃果が発起人として始めたのだが、海未やことり、その他6人のメンバーで活動していた。

 詳しい説明は省略するが、とにかくその人気は凄まじかったのである。間近で活動を見ていた俺が言うのだ。間違いない。

 

 そんなμ'sだったのだが、三年生の卒業とともに解散。しかし、メンバー同士は解散後も頻繁に連絡を取り、仲良くしているということは海未からよく聞いていた。

 卒業後はそれぞれがそれぞれの道を歩んでいる。海未の幼馴染だけ説明すると、穂乃果は実家を継ぎ、ことりは世界的なファッションデザイナーになっていた。

 

「穂乃果はいいとして、ことりなんてよく予定があったよな。今でも海外を飛び回ってるんだろ?」

「はい。そう聞いています。ですが、私たちの結婚記念日を祝いたかったらしく、無理やり予定を無くしたとかなんとか言っていました」

「なんか、ことりらしいな……」

 

 他のメンバーも結構忙しいはずなのだが、ことりと同様に無理やり予定を開けたらしい。ありがたいやら、申し訳ないやらという感じである。

 

「でも、私は嬉しいです。全員が集まれることなんて、なかなかありませんから」

「確かに。集まるのは、誰かが結婚した時とかくらいだからな」 

 

 俺たちの結婚式も、しっかり全員集合していた。

 あの時もみんな、相当忙しかったはずだけど……メンバーに何かお祝い事があると全員集合するのは、それだけμ'sの絆が深いということなのだろう。

 

 今回はもちろん結婚式ではなく、結婚記念日なのだが、最近全員で集まっていないということで海未が提案したのである。

 ……まぁ、呼び出したのはメンバーに報告したいことがあったからでもあり、

 

 

 

「みんな、驚くかな?」

 

 

 

 俺は海未のお腹をさする。

 

 

 

「きっと、驚くと思いますよ。穂乃果なんて特に「えぇ~~!? 三人目っ!?」といって驚きそうです」

 

 

 

 くすくすと笑った後、海未も俺と同じように自分のお腹を優しくさすった。

 今、海未のお腹には三人目の命が宿っている。つまり報告というのは三人目を妊娠しているということであり、これが休業の理由でもあった。病院の先生が言うには、女の子らしい。

 

「どんな名前にしようかな~」

「随分と気が早くないですか? 生まれるまでにはまだ時間がありますよ?」

「俺が好きで考えているからいいんだよ。良い名前を付けてあげたいからな」

 

 うーん、うーんと名前を悩み始めた俺に、海未が苦笑いを浮かべる。

 

 しかし、その苦笑いをすぐに引っ込め、柔らかな表情を浮かべると、頭を俺の肩に預けてきた。

 

 

 

「海未?」

「私は、よっぽど変な名前でなければこの子は幸せだと思いますよ。だって生まれてきたら、こんなにかっこよくて優しいお父さんに出会えるのですから」

 

 

 

 ……本当に海未は困る。思わず涙が出そうになった。

 彼女にばれないようそっと涙を拭い、俺は笑顔を向ける。

 

 

 

「確かに、子供は幸せだよな。生まれてきたらこんなに可愛くて美人で、優しいお母さんに出会えるんだから」

 

 

 

 そう言って俺たちは微笑み合う。まさにそのタイミングで家のインターホンが鳴り、

 

 

 

『海未ちゃーん! もうみんな玄関で待ってるから扉開けて~』

 

 

 

 元気な声がリビングに響き分かった。顔を見なくても分かる。穂乃果の声だ。

 

 

 

「……さて、早く扉を開けないとうるさいから、行ってくるわ」

「そうですね。……和希、最後に一つだけいいですか?」

「どうかしたのか?」

 

 

 

 

 

「和希、私と結婚してくれて、本当にありがとうございます。……大好きです」

 

 

 

 

 

 思わぬ不意打ちに俺は少しだけ面をくらう。

 しかし、それも一瞬のことで、俺は海未に最大限の気持ちを込めて返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の方こそ、結婚してくれてありがとう、海未。……大好きだよ」




 本当に、本当に読了ありがとうございました。

 色々と言いたいことはありますが、それは全て活動報告でしたいと思います。良ければそちらをご覧ください。
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