真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 あけましておめでとうございます。この作品は新年初投稿ですので一応ご挨拶を。前回からおよそ二か月ぶり。何とかペースを維持できています。次は何とか4月中に投稿できれば思っております。
 

※短編集とか書いてますけど、2話しか掲載されていませんのでご注意を。前半の方が長くて、後半が短めです。


AFTER STORY 3 真面目な彼女との短編集

 

 

 

 

『帰り道』

 

 

 

「それじゃあこれでHRを終わりな。みんな気を付けて帰れよ~」

 

 帰りのHRが終わり、クラスメイトは各々席を立ち始める。

 

「あ、あのっ、和希……」

 

 俺も帰りの支度をする中、隣に座る海未が少し緊張気味に話しかけてきた。少しだけ頬が赤い。しかし、俺はその理由が分かっているので彼女が何か言う前に答える。

 

「分かってる。今日も部活が終わるまで待ってるから」

 

 俺がそういうと、海未の表情がぱぁあっと明るくなり……恥ずかしくなったのかすぐにその表情を引っ込めた。

 

「私はまだ何も言っていません」

 

 拗ねたようにそっぽを向く。

 

「言われなくても海未の表情で分かるよ。一緒に帰るって言ってくる時は、いつも緊張気味で顔も少し赤いしな」

「す、少しだけしか緊張してませんよ!」

「緊張はしてるんだ」

「っ!? し、してませんよ! 言葉の揚げ足をとらないで下さい!」

 

 顔を先ほどよりも赤くして海未が声を上げる。ほんと、俺の彼女は可愛いなぁ。

 

「そもそも部活後は一緒に帰ってるんだし、わざわざ言わなくてもちゃんと待ってるって」

「で、ですが、和希にだって早く帰りたい時があるんじゃないかなと……。それに部活のある時はいつも待たせているわけですし」

「だからそんなの気にするなっていつも言ってるだろ? 俺は海未と一緒に帰りたいから待ってるんだ。それに待ってる間は宿題が出来るわけだし、何も問題はないよ」

 

 それだけ言ってもまだ申し訳なさそうな表情を浮かべる海未の頭をぽんっとなでる。

 

「それとも、海未は俺と一緒に帰りたくないのか?」

「……その言い方はずるいです」

「分かったのなら早く部活に行ってこい。遅れると先輩たちに迷惑をかけるぞ?」

「和希に言われなくても分かってます!」

 

 弓道の道具を背負って部活へ向かう海未を見送った後、俺は改めて帰りの準備に取り掛かる。

 

「和希君たちって、何か最近吹っ切れた感じあるよね?」

 

 海未が教室から出ていったタイミングで、目の前に座るクラスメイトが話しかけてきた。

 

「そんな風に見えるか?」

「うん、そう見える! 以前までは付き合ってるとはいえ少し遠慮してる感じがしたんだけど、最近は人目もはばからずイチャイチャしてるでしょ?」

「イチャイチャなんて別にしてな――」

「さっきまでイチャイチャしておいて何を今さら……。あれでイチャイチャしてないって言ったら、世間一般的なイチャイチャの概念が音を立てて崩れ落ちるわよ。見てるクラスメイトの身のもなりなさい」

 

 若干やさぐれたように呟かれ俺は頭をかく。さっきの会話は別にイチャイチャなんてつもりは全くなかったんだけど……。

 俺がそう話すと、

 

「だったら早く結婚しなさいよ。もう一緒の空間にいるだけで砂糖を吐きそうになるの。この際、法律は無視して構わないわ」

「言ってること無茶苦茶だな……」

 

 より一層やさぐれてしまった。これはもうどうしようもないので、放っておくことにしよう。俺は会話を切り上げ、さっさと図書室へ向かうのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「んん~……ようやく終わった」

 

 宿題を終わらせた俺は、誰もいない図書室で大きく伸びをする。今日は授業で出された宿題が多く、そこそこ大変だった。

 

 スマホを確認すると既に海未の部活が終わる時間になっている。しかし、海未からの連絡はない。恐らく部活が長引いているのだろう。

 

(ここにいてもやることないし、取り敢えず弓道場へ向かおうかな。近くで待ってれば海未もわざわざ図書室まで来る必要がなくなるし)

 

 一応海未に連絡を入れ、俺は図書室から弓道場へと向かう。

 季節も十二月になり、時折肌を撫でる風に一層の肌寒さを感じるようになっていた。これからもっと寒くなるのだと思うとかなり憂鬱である。

 なんてことを考えているうちに弓道場に到着し、遠目から中を確認する。

 

(あー、まだやってるっぽいな)

 

 道着を身に着けた女子生徒がちらほらと動いている。俺の予想通り練習時間が伸びているみたいだ。

 

(取り敢えず終わるまでこの辺で待ってるか)

 

 あまり近づきすぎると不審者と勘違いされかねないからな。

 俺は壁に寄りかかり、ポケットからスマホを取り出す。最近始めたソシャゲをしつつ、海未を待っていると、

 

「あ、あのっ!」

「……はい?」

 

 誰かに声をかけられ視線を上げると――。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ふぅ……」

「お疲れ様、海未」

 

 最後の一本を打ち終え、タオルで汗を拭う私に部長が声をかけてきた。

 弓道の腕は確かなのですが、結構ボディタッチが激し目の先輩です。

 

「あっ、お疲れ様です部長」

「最近絶好調だね。矢を放てば全部的の中心に行く感じ。調子がよさそうだけど、なにかあったの?」

「へっ? え、えっと、それは……」

 

 返答に迷う私を見た部長の口元がニヤニヤと緩み始めた。

 

「もしかして、愛しの彼氏とラブラブできてるから?」

「っ!?」

「その反応は図星みたいね」

 

 顔を真っ赤にした私を見て再びニヤニヤと笑みを浮かべる部長。

 

「だ、誰から聞いたんですか!? 私、付き合ってること部長に話してませんよね?」

「他の一年生から聞いたのよ。というか、後夜祭で結構目立ってたから弓道部に所属している人、全員知ってると思うわ」

「そ、そんなに目立ってました?」

「そりゃね。元々海未は大和撫子美人でモテてるわけだし、彼氏も金髪で目立つでしょ? そんな二人が周囲の目もはばからず手を繋いで校舎の中に入って行くんだもの。目立たないわけがないわよ」

 

 あの時は告白されるかもということに頭がいっぱいだったため、そこまで気にしている余裕はなかったのだ。しかし、今思い出すと確かに目立っていたのかもしれない。

 

「うぅ……急に恥ずかしくなってきました」

「ほんと海未は付き合っても変わらないわね。まぁ、そんなところが可愛いんだけど!」

 

 手で顔を覆った私の頭を部長がよしよしとなでる。

 

「それにしても調子が良くなったのはやっぱり部活後、彼氏君と一緒に帰るようになったのが要因なの?」

「えっ? ど、どうしてそれが分かった……あっ!」

「ふふっ、ほんと海未は素直で可愛いわね」

 

 口を滑らせた私を見て部長が三度微笑む。

 

「……だ、だって仕方ないじゃないですか。一緒に帰れるって思うと、その……やっぱり嬉しいですし、練習にも気合が入るんです」

「あぁっ! もうっ、海未ってば可愛すぎ。ほんと彼氏君が羨ましい!」

「部長、そこまでにしてください。海未さんと彼氏君に迷惑が掛かりますから」

 

 私を抱き締めようとした部長の首根っこを掴んで引き離す副部長。部長とは対照的でいつでも冷静沈着。滅多に大きな声をあげたりしないものの、部長に対してだけは辛辣な人です。

 

「ごめんなさいね海未さん。練習が終わったのに、このおバカな部長に付き合わせちゃって」

「い、いえ、私は大丈夫ですので気にしないで下さい」

「そう言ってくれて助かるわ。でも、早く帰りの支度をしないとあなたの彼氏が誰かにとられちゃうんじゃない?」

「えっ?」

 

 副部長の視線の先には和希が弓道部の女子に囲まれている姿が見えた。ど、どうして和希が弓道場の近くにいるんでしょう?

 

「多分、いつもより練習時間が伸びたからじゃないかしら? それで、図書室から弓道場まであなたを迎えに来たんだと思うわよ」

「あっ、確かにいつもの時間よりは遅くなってますね……って、副部長がどうしてその事を!?」

「さあ? でも、練習が終わるたびに一人でいそいそと図書室へ向かう海未さんは部長の言う通り、可愛かったわよ」

 

 いつもとは違い、悪戯っぽく微笑む副部長。誰にもバレないようこっそり図書室に向かっていたのに、まさか見られていたなんて……。

 

「ちなみに、私以外にも知られてるからね」

「…………き、着替えてきます!」

 

 これ以上ここにいるとさらにいじられそうだったので私は副部長に頭を下げ、更衣室へと向かう。か、和希も待たせてしまいますし、仕方ないですよね。

 

「……私も後夜祭で校舎内に連れて行って告白してくれて、遅くなったら弓道場まで迎えに来てくれる彼氏が欲しかったわ」

「いつまでも夢見てないで現実を見なさい」

 

 部長が遠い目をして何かを呟いているが、気にしないことにしましょう。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ねぇねぇ、和希君は海未ちゃんのどこが好きになったの!?」

 

「海未ちゃんへの告白の言葉を教えて!」

 

「というか、喧嘩ばっかしてたのにいつから好きになったの?」

 

「いっぺんに喋らないでくれ……。なにを言ってるのかさっぱり分からん。というかうるさいから」

 

 私が着がえを終えて戻って来ても、和希をとり囲む輪は小さくなるどころかむしろ大きくなっていた。輪の中心にいる和希は女子からの質問攻めに、若干鬱陶しそうな表情を浮かべている。

 どうやら、同じ女子高生といっても穂乃果やことりとは別扱いらしい。特にことり相手にあんな鬱陶しそうな表情を浮かべたりしませんからね。

 その表情を見た私は心の中でほっと息を吐いた。

 

(和希がニヤニヤしていたら……と思いましたけど、安心しました)

 

 相変わらず弓道部の女子からの質問を鬱陶しそうにあしらう和希。出会った当初の頃、私を邪険に扱っていたころの和希に似ていますね。昔を思い出し微笑んでしまう。

 さて、いつまでもあの状況下に和希一人ではキレてしまうかもしれないので助けに行ってあげましょう。和希は元々、気の長い方ではないですから。

 

「和希!」

 

 私が名前を呼ぶと、和希は「助かった!」と言わんばかりの表情を浮かべる。そして、女子生徒の壁をずかずかと押しのけると、いきなり私の手を握ってきた。

 

「ふえっ!?」

 

『きゃーーーー!!』

 

 驚く私と黄色い歓声などまるで気にせず、校門へ向かって歩き始める和希。

 

「よしっ、帰るぞ海未!」

「あっ、はい……」

 

 弓道部の皆さんにお疲れさまでしたの一言も言えませんでした……。

 

 そのまま校門まで歩いていき、校門から5分ほど歩いたところで和希が立ち止まってこちらを振り返る。

 

「ごめんな、無理やり連れだしたみたいになって」

「い、いえ、それは構わないんですが……どうしてこんな無理やり?」

「……あの空間に耐えられなかった。どうして女子は集まるとあんなにうるさいんだろう」

 

 げんなりした様子の和希に思わず「ふふっ」と吹き出してしまう。

 

「笑い事じゃないぞ。海未が図書室に来る時間になっても来なくて弓道場に行ってみたら……これから弓道場に迎えに行きたくなくなるよ」

「まぁ、私も皆さんがあそこまで興奮するとは思いませんでした。普段はもっと落ち着いてますから安心してください」

「今度からマスクでもつけて行こうかな?」

 

 マスクをしてもその金髪でバレるんじゃ? とは言わないでおきました。

 

「そもそも、皆さんの前で急に手をつないだことの方が問題で……」

「あ、あの時は逃げることで必死で何も考えてなかったんだよ。それに付き合ってることバレてたっぽいし、今更じゃないか?」

「それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」

「冷静になって考えると、確かに恥ずかしい行動だったけどさ……」

 

 和希も顔を赤くしてそっぽを向いている。やっぱり何も考えずに手を繋いだらしい。そんなところが和希らしいと思っていたら、

 

「……あのまま質問攻めにあってると、海未に勘違いされるかもって思ったから。海未と同じ弓道部の人たちとはいえ、女子に囲まれてたわけだし」

 

 頬をかきながら答える和希の顔は少しだけ申し訳なさそう。そんな和希をからかいたくなった私は、少しだけムッとした表情を浮かべてみる。

 

「勘違いされるかもって、和希は浮気でもするつもりなんですか?」

 

 さて、和希はどんな反応を――――。

 

「それは絶対にないよ。だって、あの中だったら海未が一番可愛いし。そもそも、海未が彼女なのに浮気とかありえないだろ」

「っ!? そ、そうですか……」

 

 からかうつもりが、逆にとんでもない一撃を返されてしまいました。「俺、なんか変なこと言った?」と言わんばかりに平然としている和希とは対照的に、私の頬はゆでだこのように赤く染まる。

 い、いつもはどっちかというとヘタレなくせに……。

 

「海未、本当にどうかしたのか? 顔も赤いし」

「な、なんでもありませんよ!! 和希のバーカ! 私だって和希のことが大好きですし、浮気なんて絶対にしませんからね!!」

「ほんとにどうしたんだよ!?」

 

 今度は和希の頬が真っ赤に染まる。ふぅ、これで一死報えました……って、これじゃあただの恥ずかしいカップルでは?

 

「…………」

「…………」

 

 お互い無言で俯きあうこと30秒ほど。

 

「……ぷっ!」

「……ふふっ!」

 

 同じタイミングでふき出す私たち。言わなくても考えていることは同じだろう。

 

 そして、もう一度しっかり手を繋ぎ直す。もちろん恋人繋ぎ。

 

「じゃあ、遅くならないうちに急いで帰ろうか。睦未さんも心配するだろうし」

「そうですね。あっ、今日の晩御飯は鍋にするってお母様が言ってましたよ」

「それは早く帰らないとな。海未、早く帰るぞ」

「ちょ、ちょっと! 急に歩くスピードをあげないで下さい!」

 

 部活終わりに二人で歩く帰り道。その時間は私にとってすごく楽しくて、大切な時間です。

 こんな時間が来年も、再来年も続けばいい。心の中でそっと願ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

『小悪魔海未ちゃん』

 

 

 

「それで和希、この問題は……」

「…………はい」

 

 どうも皆さんこんにちは。真嶋和希です。

 

 いま俺が何をしているかというと、海未に勉強を教えている最中です。その最中なんだけど、

 

「和希、聞いてますか?」

 

 挙動のおかしい俺を見て海未は首を傾げる。しかし、俺の挙動がおかしいのは今、目の前にいる海未に原因があるのだ。具体的にどの辺がおかしいのかというと、

 

「和希?」

 

 俺の名前を呼ぶついでに距離を詰め、膝に手を添える海未。少し分かりづらいかもしれないが、いつもより距離が近く、先ほどからなぜかボディタッチも多い。

 いつもはこんなことしないだけに、俺はかなり混乱していた。

 

(ど、どうしてこうなった?)

 

 取り敢えず少し前に時を遡ることにしよう。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「和希、今大丈夫ですか?」

 

 部屋の扉をノックする音に俺は読んでいた漫画から視線を外す。

 

「大丈夫だよ」

「じゃあ入りますね」

 

 返事を聞いた海未が扉を開け部屋の中に入ってきた。彼女の右手には数学の教科書らしきものが握られている。

 そして今日の彼女は、普段と少しだけ違う格好をしていた。風呂上がりなので部屋着を着ているのだが、それが何だか色っぽい。

 ショートパンツに、ゆったりとしたシャツと薄手のパーカーの組み合わせ。ショートパンツを履いているおかげで彼女の生足が惜しげもなく披露され、ゆったりとしたシャツは少しかがむと中が見えてしまいそうになる。

 

 つまり、いつもの海未に似合わない大胆な格好をしていたのだ。

 

「和希? どうかしたんですか?」

 

 雰囲気の違う彼女に見惚れすぎたらしい。海未が首をかしげて俺を見つめる。

 

「い、いや、何でもないよ。それよりどうして俺の部屋に来たんだ?」

「それが宿題でちょっと分からない部分があったので、教えてもらおうと思ったんです」

「そういえば今日出た数学の宿題、結構難しかったからな」

 

 海未にそう答えながら俺はいつも通り小さな机を準備し、ノートを取り出す。俺は既に宿題を終わらせ、答えも出ているので海未にやり方を教えることは容易であろう。

 

「ありがとうございます和希。それじゃあ隣に失礼しますね」

 

 俺の隣に座った海未は教科書を開く。なるべく彼女に視線を向けないよう注意しつつ、俺も教科書を視線を移す。

 

「この問題なんですけど……」

「っ!?」

 

 海未が問題の個所を指摘しようと前かがみになった瞬間、俺は慌てて視線を逸らした。ゆったりとしたシャツのお蔭で、いつもより胸の部分が緩くなっている。

 つまり……その、見えそうになったので視線を逸らしたのだ。

 

「あの和希、そっぽを向いたら問題が見えないのでは?」

「わ、分かってるよ!」

 

 誰のせいだと……。しかし、その事は口に出さず問題だけに集中する。気にするだけで時間の無駄だし、何より余計な体力を使うからな。まぁ、完全に気にするなって言うのは無理なんだけど。

 

(横を気にするんじゃない。横を見たらいろんな意味で死ぬぞ)

 

 必死に自分の中の欲望を押さえつつ、何とか問題を海未に説明すると、

 

「あっ、なるほど。そうなってたんですね!」

 

 納得してくれたようでふむふむと頷いている。ちなみに俺の方はかなり体力を持っていかれていた。勉強を教えただけなのに……。

 

「さて、これで終わりか?」

「えっと、まだもう少しあるんですけど……」

 

 そこまで言うと海未はなぜか俺との距離を詰める。ぴったりと肩が当たる距離。更に俺の太もも辺りに手を添える。いきなりのことに俺が目を白黒させていると、

 

「……教えてくれませんか?」

 

 上目遣いで俺の瞳を覗き込んでくる海未。俺の頭が見事にフリーズする。

 

 ちょっと待って。こんな小悪魔みたいな事する海未なんて俺は知らない。その後、何とか再起動した俺は「分かった」とコクコク頷くしかなかった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

 こんな感じで冒頭部分に戻るというわけである。海未がいつもと違うということだけ理解してもらえれば幸いです。なんて考えている余裕もなく、

 

「和希、ちゃんと聞いてます?」

 

 今度は両手を太もも辺りに添え、俺の瞳を覗き込んでくる海未。ぷくっと膨らんだ頬も相まって、男を惑わす小悪魔感が半端じゃない。

 

「き、キイテマスキイテマス」

 

 機械のように抑揚のない声を出す。海未があざとくて、色っぽくて、可愛くて……。

 

 その後は回らない頭を何とかして回転させ、海未のわからなかった問題を教えることができた。

 

「ふぅ……教えてもらいたい問題は終わりました」

「そりゃよかったよ……」

 

 ある意味地獄のような時間がようやく終わり、俺はため息交じりに返事をする。取り敢えず終わってくれてよかった。今みたいな時間がいつまでも続いたら俺の理性が持たない。

 

「ちょっと水飲んでくるわ」

「あっ、和希! 少し待ってください」

「ん? どうかしたの……か?」

 

 服の袖を引っ張られ後ろを振り返った俺は声を失う。なぜなら、

 

「…………」

 

 海未が俺の袖を引きながら、目を瞑っていたからだ。まるでキスを待っているかのような顔。

 

(はっ? えっ? はぁっ!?)

 

 突然のことに混乱する俺の頭。しかし、混乱しても海未は瞳を瞑ったまま。

 

(こ、これは……そういうことなのか?)

 

 もしかすると海未はキスをしたくていつもと違う格好をして、ボディタッチを多めにしてたのか? そう考えると、今までの行動に辻褄が合う……かもしれない。

 

(……なら、してもいいよな? だって海未の方から誘ってきてくれたわけだし)

 

 回らない頭のまま、顔を海へと近づけていく。海未との距離が20センチ、10センチ、5センチと縮まっていき、そして遂に海未と唇が触れあ――――。

 

 

 

パチッ

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

 触れ合う寸前で海未が目を開けた。ガッツリと目が合い、無言で見つめ合うこと数秒。

 

 

 

「きゃあーーーー!!」

「ふげっ!?」

 

 

 思いっきり突き飛ばされた俺はしりもちをつく。えっ? 一体全体何が起こったの? 訳が分からず呆然とする俺を他所に、海未は真っ赤に顔をして口に手を当てている。

 

「……し、し」

「し?」

「失礼しますっ! 勉強を教えてくれてありがとうございました!」

 

 それだけ口にすると、一目散に俺の部屋から出て行ってしまった。残された俺はしばらくの間、海未の出ていった扉を見つめる。

 

「な、なんだったんだ……」

 

 せめて少しくらい説明してほしいと思う俺だった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ぶ、部長!! 言った通りにしたらき、き、キスされかけてたんですけど!?」

 

 私は顔を真っ赤にして自分の部屋に帰った後、電話越しの部長に捲し立てる。ちなみに今回のことの発端は、私がいつも勉強を見てくれる和希を喜ばせたいと部長に相談したものだった。

 

「あちゃー……彼氏君、あと少しだったのに。まぁ、喜ばせることはできたと思うけど」

「聞いていますか部長! 私はちゃんと緩めの服を着て、なるべくボディタッチ多めにして和希との距離を詰めました。それで、最後の袖を引いて15~20秒まったらキスされかけて――」

「なるほど。それなら30秒にすればよかったかな?」

「部長!!」

 

 すべての原因は部長にあったようです。それから部長は海未から1時間ほど説教を受けたとかなんとか。




 読了ありがとうございました。そして、短編集? に付き合っていただきありがとうございました。次回からまたいつも通りに戻るのでご安心を。
 これからも応援よろしくお願いします。
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