真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
前編後編でお送りしますがよろしくお願いいたします。
「ねぇねぇ、和希君!」
「ん? どした穂乃果?」
学校終わりの帰り道。名前を呼ばれ、俺は穂乃果の方へと視線を向ける。もちろんその隣にはことりの姿も。
今日、海未とは一緒に帰っていない。理由は弓道部の人たちと一緒に部活終了後、ご飯を食べに行くと言っていたからだ。
そんなわけで、たまたま昇降口であった穂乃果たちと一緒に帰っているというわけである。
「クリスマスの予定はどうなってるの? もう海未ちゃんと話しはした?」
目をキラキラと輝かせ、クリスマスの予定を聞いてくる穂乃果に「そういえば……」と呟く。現在は12月の中旬で、あと一週間もすればクリスマスだ。
去年までは恋人なんていなかったため、クリスマスはチキンを食べるイベント程度しか認識していなかったけど今年は違う。なぜなら今年の俺には海未(彼女)がいるのだから。しかし、
「あー、そういえばもう直ぐクリスマスだったな……何も決めてないけど」
一応何をしようかなとか、どこに行こうかなと考えていたのだが、結局何も決めていなかったことを思い出す。いや、だって彼女の居るクリスマスなんて初めてだし、どうしていいのか分からないんだよ。
そんな俺を見たことりは「はぁ……」といつも通りため息をつく。
「もうっ! 決めてなさそうだったけど、やっぱり決めてなかった! 駄目だよ和希君! 今年は海未ちゃんと過ごす初めてクリスマスなんだから!」
海未とクリスマスをどう過ごすか決めてないと言った俺の言葉を聞いて、ことりがプンプンと大変ご立腹の様子。しかし、その反応は何となく予想はできていた。……予想できていたのなら、クリスマスの予定を決めておけという話だけど。
「う、うん、まぁそれはそうなんだけど、彼女ができたのも初めてだし何していいのか全然わからなくてな。プレゼントは準備しといたほうがいいと思うんだけど」
『当たり前だよ(です)!!』
「なんかごめんなさい……」
ことりだけでなく、穂乃果にまでツッコまれるとは思わなかった。俺は反射的に視線をそらしてしまう。
「むしろ、彼女がいるのにプレゼントすらも準備してない和希君に驚きだよ!」
「で、でも、海未だって準備してない可能性が……」
「そんなことないよ! 海未ちゃんは穂乃果たちに相談して……ふがっ!?」
「ほ、穂乃果ちゃん、それ以上はダメッ!」
失言しかけた穂乃果の口を慌ててことりが塞ぐ。具体的には分からなかったけど、海未は既にプレゼントの準備をしているらしい。
「とにかく今の和希君を見てるとことり、とっても心配です!」
ことりに言われるまでもなく、俺は既に頭を抱えていた。
やべぇ、どうすればいいんだよ……。
「…………ことりさん」
「何ですか?」
「助けてください」
「よろしいっ♪」
素直に頭を下げると、ことりは待ってましたとばかりに頷く。恐らくこうなることも彼女は予想していたのだろう。やっぱりことりには敵わない。
「だけど、プレゼントだけは自分でちゃんと決めること! ことりたちもアドバイスはしてあげる。海未ちゃんの彼女はやっぱり和希君なわけだし!」
「それは大丈夫だよ。プレゼントについては自分で決めるから」
「デートのファッションについては穂乃果たちに任せて!」
「是非ともお願いしたいところだけど、穂乃果も来るの?」
「もっちろん! だって面白そうだから!」
面白そうだからついてくるという、なんとも穂乃果らしい理由。まぁ、アドバイスをしてくれる人は多いに越したことはないのでありがたい。
「ところで、ファッションについてもアドバイスしてくれるんだな」
「だって和希君、デートに行くような服ってあまり持ってないでしょ?」
「……言われてみると、俺ってろくな服持っていなかった気がする」
今までなら気にしてこなかったけど、いざ彼女ができてみるとまともな服の大切さを痛感する。俺のクローゼットはユ〇クロでいっぱいです。
「だから、ファッションについても穂乃果たちでアドバイスしてあげるんだよ! ことりちゃんに任せておけば問題なし!」
「その言い方だと穂乃果はいらないんじゃ?」
「ほ、穂乃果はプレゼント選びとかデートプランで活躍する予定だから!」
少しだけ心配だけど、穂乃果と海未は幼馴染でもあるからきっとよいアドバイスをしてくれるだろう。そもそも、俺がポンコツ過ぎてこんなことになってるわけだし……。
「それじゃあ、二人に色々と頼らせてもらうよ。えっと、プレゼントとか服を見に行く日は何時にする?」
「和希君が大丈夫なら明日にでも見に行きたいけど……どうかな?」
ことりの提案に大丈夫だと頷く。というか、予定が入っていたとしてもその予定を別日に移していたと思う。
「穂乃果ちゃんも大丈夫?」
「うんっ! 本当は店番頼まれてたんだけど、雪穂にやってもらうことにするから!」
「それって本当に大丈夫なのか?」
「あはは……」
雪穂ちゃん、すごい怒りそうだな。まぁ、高坂家のことなので気にしない気にしない。
その後は集合場所と時間を決めてからお開きとなった。
☆ ★ ☆
時が過ぎるのは早いもので、今日はもうクリスマス当日。
(うーん……落ち着かない)
自室で海未を待つ俺は、先ほどから落ち着きなくベッドの前をうろうろと歩き回っていた。
ことりと穂乃果の協力によって服やデートプラン、プレゼントは問題ない。しかし、それだけ揃えてもらっても緊張してしまう。
ちなみに今日は5時ごろに家を出て、あらかじめ予約をしておいたお店で晩御飯を食べた後、イルミネーションを見たりする予定だ。
テンプレではあるのだが、初めてのデートは無難なもので言ったほうがいいとことりにアドバイスされたため、このようなデートプランになったのである。俺も初めてのデートで恥だけはかきたくないからな。
(というか海未の奴、結構時間かかってるけど何してるんだろう?)
時計の針は既に五時を指している。そういえば、穂乃果とことりが来てたような気がするけど、一体なにをしてるんだろう?
一応、お店の時間に余裕はあるのだが、遅くなりすぎてもお店に迷惑がかかるからな。
「和希、遅くなってすいません」
「和希くーん、お待たせ!」
部屋の外から海未の声と穂乃果の声が聞こえてきた。どうやら準備が終わったらしい。
「いや、全然大丈夫だよ。遅かったけど一体何をして――」
取り敢えず扉を開けた俺は海未の姿を見て……言葉を失った。
「…………」
「……か、和希? どうかしたのですか?」
よく分からないけど、海未がいつもの十倍増しくらいで可愛くなっている。いや、元々可愛いんだけどそれがパワーアップしたというか、なんというか……。
服も普段はあまり穿かないスカートを身に着けて、とにかく可愛い。自分にもっと語彙力があれば海未の魅力を最大限に伝えられるのにと思い知らされる。
「ふふっ♪ 和希君ってば海未ちゃんを見てびっくりしてるみたい!」
「へっ!? 今の私、そ、そんなに変ですか?」
「逆だよ海未ちゃん。和希君は、今の海未ちゃんが可愛すぎて見惚れてるの!」
「か、かわっ!?」「っ!?」
ドストレート(図星)な穂乃果の言葉に俺と海未の顔が真っ赤に染まる。
「海未ちゃんはね、いま薄くだけどお化粧してるの!」
「そ、そうなんだ……」
「それで~、今の海未ちゃんを見て和希君は何も感想がないんですか?」
ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべることり。横の穂乃果もニマニマしている。畜生、わざわざ口に出さなくても分かってるだろうに……。
「べ、別に……言わなくても分かるだろ」
「言わなきゃわかんないよ! ねっ、ことりちゃん?」
「うんうん、言わなきゃわからないよ!」
「ふ、二人とも、私は別に……」
『海未ちゃんは黙ってて!』
こ、この二人、俺を弄んで楽しんでやがる。海未がせっかく助け船を出してくれたのに一刀両断されてるし……。
言わなきゃいつまでたっても家を出れそうにないので、俺はやけくそ気味に叫んだ。
「だから、可愛いに決まってるだろ! いつも可愛いけど、今日はそれ以上だった! 思った以上に変わっててびっくりした!! はい、お終いッ! 海未、行くぞ」
「……えっ!? は、はいっ!」
既に準備のできていた俺は海未の右手を掴むと、急いで玄関へと向かう。
「じゃあ二人とも、行ってくるから」
「和希君に、海未ちゃん。ファイトだよ!」
「お土産話、楽しみにしてるね♪」
「別に今日は無理して帰ってこなくても大丈夫ですからね。ただ、泊まるのなら私に連絡を――」
「睦未さん!!」「お、お母様!!」
余計なことを言った睦未さんに一喝を入れ、園田家を後にする。しばらく歩いたところで、ようやく二人で息をついた。
「……何にもしてないのに疲れたな」
「……そうですね」
お互い疲れたような表情を浮かべ……笑いあう。
「それじゃあ改めて今日はよろしくな海未」
「はい、よろしくお願いします和希! しっかりエスコートしてくださいね?」
彼女の言葉に応えるように、海未の左手をもう一度しっかり握り直す。もちろん俺も海未も手袋なんてしていない。理由は聞かなくても分かるだろ?
「ところで、今日の俺の服装どうかな?」
「服装ですか?」
目的地であるレストランまでの道のりで一番気になっていたこと訊ねる。ことりや穂乃果と相談しつつ決めたとはいえ、やはり心配なものは心配なのだ。
ほんとなら家を出る直前に聞いてる予定だったんだけど……。海未はしばらく俺の服装を眺めた後、
「そうですね、すごくよく似合ってると思いますよ。……流石、穂乃果とことりですね!」
「そうそう、二人のお蔭で今日の服を揃えることができた……って、ばれてる!?」
驚く俺を見て海未はクスクスと笑みを漏らす。
「ちょうど一週間前くらいでしょうか? 少しコソコソしながら出かけて言ったのでもしかしてと思ったんですけど、図星だったみたいですね」
「おかしいな。俺としては海未にバレてないと思ったのに……」
「ちょっとでもおかしいと気づいちゃうんですよ。挙動もおかしかったですし。それに、私はいつも和希の事を見てますから!」
「お、おう、そうなんだ……」
海未は平然と笑ってるけど気付いてるのかな? 自分が「いつも和希を見てますから」と言ったことに……。
「……あっ! い、いつもって言うのは、その、言葉の綾というか、別に和希の事を四六時中観察しているという意味ではなく……」
やっぱり気付いていなかった。恐らく顔を赤くした俺を見て気付いたのだろう。慌てたように、つないでいないほうの手を顔の前でぶんぶんと動かしている。顔はもちろん真っ赤だ。
「そんな一生懸命否定しなくても分かってるから大丈夫だよ。まぁ、俺としてはいつも気にかけてくれてるんだと思って嬉しかったし……」
口から出たのは自分でもびっくりするくらい素直な言葉。俺も俺で何ってことを言ってんだ……。
真っ赤になった頬をかきながらそう答えると、海未の瞳が大きく見開かれる。その瞳は少しだけ潤んでいるように見えた。
「……ばか和希。そこはいつもみたいにからかって下さいよ」
小さな声で海未が呟く。
「い、いや、本当はからかう予定だったんだけど、なんか言葉が出なかったというか、何というか……」
これ以上言い訳しても墓穴を掘るだけなので俺は一度咳払いをする。
「この話は取り敢えず終わりにして……それと、さっきことりたちと服を選びに行ったって言ったじゃん?」
「はい。それがどうかしたのですか?」
「その、服を選ぶだけとはいえことりたちと一緒に出掛けたこと、海未はあんまよく思わないんじゃないかなって」
「あぁ、その事ですか。確かに和希が私のよく知らない女の人と出かけていたらよくは思わないですけど、相手は穂乃果とことりですから。全く気にしてませんよ。だから謝らないで下さい」
「そっか。ありがとな海未」
「……むしろ、私と一緒にクリスマスを出かけるために服やデートプランを考えてくれたんだと思うと、すごく嬉しいです」
やわらかい笑みを浮かべた海未はそっと身体を寄せてくる。
「私は和希とクリスマスを過ごすことができて本当に幸せです。……ありがとう、和希」
「……えっ!? 今敬語が取れて……」
思わず目を見開いてしまった。う、海未が敬語を使わずに話して――。
「……どうでした、敬語じゃない私の言葉は?」
してやったりの表情を浮かべる海未。一方俺はしばらく固まった後、
「は、はぁっ!? お前、まさかわざとやったのか!?」
「ことりに言われて半信半疑でやってみたのですが、効果てきめんだったみたいですね♪」
どうやら色々とことりに吹き込まれたらしい。何でも『和希君にしたら効果抜群だよっ!』という感じに。
(畜生、ことりの奴め。死ぬほどドキッとしたじゃねぇかよ……)
あぁ、これは駄目だ。顔が熱い。海未の顔をまともに見れない。
敬語の取れた彼女は正直、破壊力抜群だった。ぶっちゃけもう一回言ってほしいくらいに……。
彼女らしからぬ大胆な行動と言葉に気恥ずかしくなった俺は、顔を逸らして歩くことに集中する。
「ふふっ♪ 和希ってば照れてますか?」
「……照れてない。よそ見ばっかしてると転ぶぞ?」
「和希の腕に掴まっているので大丈夫です」
今日の海未はいつもより楽しそうに俺の事をからかうのだった。
今回も読了ありがとうございます。今後も応援よろしくお願いします。
ちなみに後編は全く書けてません……なるべく間をあけない様に頑張ります。
最後にこのシリーズについてですが、残り5話以上10話以下で完結させる予定でいます。ころころと言うことの変わる私ですが、最後までお付き合いいただければと思います。