真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
さて、ある意味激動だったクリスマスを終え、今は12月31日。大晦日だ。
そして、今俺が何をしているのかというと、
「海未~、部屋の掃除が終わったらついでに俺の部屋も掃除しておいてくれ」
「バカなことを言っている暇があったら、漫画を読み直してないで手を動かしてください!」
年末の大掃除をしている真っ最中だった。しかし、海未が声を荒らげた通り俺は懐かしい漫画を読むのに必死で掃除がまるで進んでいない。
いやー、掃除あるあるだと思うけど、懐かしい漫画とか久しぶりに出た来たアルバムとか見ると普通は読んじゃうよね? そのままもう一度漫画の世界へ戻ろうとすると、
「いい加減にしてください!!」
「ぎゃあっ!?」
頭を引っ叩かれ、その反動で床を漫画がすべっていく。……このやり取り、少しだけ懐かしさを感じるな。
そもそもどうして海未が俺の部屋にいるんだよ?
「和希を一人にすると掃除をしないと思ったからです」
「ナチュラルに人の思考を読むなよな……というか、いきなり引っ叩くなよ! 鬼、悪魔、海未!」
「掃除をしない和希が悪いです! というか、誰が鬼で悪魔ですか!」
二人でギャーギャーと口喧嘩をしていると、居間の掃除をしていた睦未さんが呆れた様子で顔を出す。
「二人とも、喧嘩をするのは構いませんが、大掃除が終わってから存分に喧嘩してください」
「お、お母様。ですが悪いのは掃除をしない和希で……」
「俺はいきなり暴力を振るってくる海未の方が悪いと……」
「はいはい、喧嘩……と言うよりはイチャイチャしてただけみたいでしたね。そういうのも掃除が終わった後にしてください」
『…………』
睦未さんに論破された俺たちは再び大掃除へと戻る。それに今日の夜は穂乃果たちと初詣に行く予定なので、どっちにしろ早く掃除を終わらせないとまずいのだ。
自分の部屋だけじゃなく、園田家全体の掃除もまだまだ残ってるわけだしな。
(それにしても園田家は本当に広いな……)
真面目に掃除をし始めて一時間。こうして掃除をしてみるといかに園田家が広いかと言うことが分かる。
さっきから物を運んだり、雑巾をかけたりしているのだが終わる気配が全くない。
「和希、こっちの段ボールを運んでおいてくれませんか?」
「はいよ~」
そうしている間にも海未から声がかかり、俺は段ボール運びに勤しむ。こういう重いものを運ぶ作業は男の仕事でもあるからな。
そして再び一時間ほど大掃除に取り組んだ後、ひとまず昼食ということになった。
「和希さん、ちょっと見てほしいものがあるんですけど」
食後のお茶を飲んでいた俺の元に、睦未さんがアルバムらしきものを持って近づいてきた。海未は着替えてくるとかで、自分の部屋に戻っている。
「いいですけど、それってアルバムですよね?」
「そうですよ。掃除をしていたら懐かしいアルバムが出てきたので、和希さんにも見せてあげようと思ったんです」
そう言いながらアルバムを開く睦未さん。一体何を見せてくれるんだろう?
なんて考えつつ、アルバムの一ページ目に視線を移すと、
「……何ですかこれ? 天使の生まれ変わりですか? いやすいません、どこからどう見てもただの天使でした。いやー、天使って本当にいたんですね」
「落ち着いてください。これは海未さんですよ」
壊れかけた俺を睦未さんが窘める。
彼女の言う通り、開いたアルバムには小さい頃の海未が映っていた。今よりも引っ込み思案な様子で、一緒に写っている睦未さんの服の袖を掴んでいる。
「確か、幼稚園の年長さんだったと思うんですけど、ほんと可愛いですよね~。もちろん、幼いころの穂乃果さんやことりさんも可愛かったですけど、やっぱり自分の娘が一番です」
「完全に親バカですね。可愛さに関しては否定しませんけど」
この少し心配そうな表情でカメラのレンズを見つめている姿が愛おしすぎる。別に俺はロリコンではないが、ロリコンになりそうだ。
「この写真もいいんですけど、次の写真も中々ですよ」
次のページには満面の笑みを浮かべた、ロリ海未ちゃんが写っていた。
「かはぁっ!?」
取り敢えず吐血した。ロリってだけでも可愛いのに、こんな無邪気に笑われるともうダメです。
「ふふっ、やはりこの海未さんには和希さんも勝てなかったようですね」
「こんなの、誰だって負けますよ。何でこんなに可愛いんですか」
「やっぱり私の子供だからだと思いますよ」
「サラッと自慢するのはやめて下さい」
だけど、この人もほんと美人だからな。昔の写真と今を比べてもあんまり変わってないし、スタイルだって相変わらずである。とても子供を二人生んでいるとは思えない。
「まぁ、私の事はどうでもいいんです。次はこの写真なんですけど……」
アルバムをめくり、次の写真に目を通していく俺たち。他にも姉と移ってる写真や、穂乃果やことりと移っている写真もあった。取り敢えずロリことりは最高です。
10分ほど写真を見ていたところ、自分の部屋から海未が戻ってくる。
「二人とも一体何を見て……っ!? な、何を見ているんですか!?」
「なにって、小さい頃の海未だけど?」
「は、恥ずかしいので見ないで下さい!! お母様も勝手に見せないで下さいよ!!」
この後、俺たちは海未にしこたま怒られた。
☆ ★ ☆
アルバムを見終わった後は大掃除を続け、気付けば夜の11時を回っていた。
「和希、準備はできましたか?」
「おう、大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」
「それじゃあお母様、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
睦未さんに見送られつつ、俺たちは夜の道を二人で歩いていく。目的地は穂乃果の家だ。
毎年海未は穂乃果、ことりと一緒に初詣へ行っているらしく、今年は俺もそれについていく形になっている。
穂乃果とことりはしきりに、『海未ちゃんと二人きりでいけばいいじゃん!』と行ってきたのだが、俺は固辞した。
理由は海未と二人きりで初詣に行きたくないということではなく、毎年行っているのだから今年も三人で行ったほうがいいといったのだ。
そこで二人は折れてくれたのだが、どういうわけか俺もついてきて! ということになり今に至る。
「はぁ……それにしても寒いですね」
海未が白い息を吐きながら両手をこすり合わせている。冬なので寒いのは当然なのだが、今日は特に寒いとニュースでは報道されていた。
そんな日なので俺も海未も厚着でマフラーはしていたのだが、手袋はつけていない。
「海未、手」
「…………はい」
流石の海未も意図が分かったのか、素直に左手を差し出してくる。俺は海未の左手をしっかり掴むと、コートのポケットの中に二人の手を突っ込んだ。
「……右手は寒いと思うけど我慢してくれ」
「……はい。でも大丈夫です。左手がすごく温かいですから」
そう言って微笑む海未に俺も笑い返す。どっちも言わなかったけど、お互い手を繋ぎたかったからこそ手袋をつけてこなかったのだ。
こんな光景、穂乃果やことりが見ていたらニヤニヤすること間違いなしである。
「いやー、今年も一年が終わるんだな」
「そうですね。去年も色々ありましたけど、今年はそれ以上でした」
「それは俺もだな。まず、居候するなんて思ってなかったし」
お互い、俺が居候を始めた4月を思い出して苦笑いを浮かべる。本当に今年は濃い日常を過ごしてきた。
告白したときにも思い返したけど、あの時の俺たちが今こうして付き合って、手を繋いで歩いていることが奇跡に思えてくる。
「居候してきた時は最悪でしたね。男性の方が来るとはあらかじめ言われていましたけど、まさかあなたが来るなんて思ってもみませんでしたから」
「俺だって居候先が、敵対心を抱いていた海未の家だったなんて、微塵も思ってもなかったよ」
そこで俺は少し気になっていたことを海未に聞いてみる。
「ところでさ、海未っていつから俺のこと好きだったの?」
「へっ? い、いつから……ですか!?」
「いや、そういう話ってお互いしたことなかったなって。言いたくなければ全然大丈夫だけど」
「ぎゃ、逆に和希は何時から好きだったんですか?」
「ん、俺? 俺は自分の母親の事を話した時、海未がずっと一緒にいたいって泣いてくれた時かな。あの時に海未の事がたまらなく可愛く思えて……好きになったと思う」
「そ、そうですか……」
「自分から聞いてきて、顔真っ赤にするのはやめてくれませんか?」
「か、和希だって真っ赤ですよ!!」
うーん、傍から見れば完全にバカップルそのものだ。しかし今のは絶対に海未が悪いと思う。
「そ、それで俺は答えたわけだけど、海未はどうなんだよ?」
相変わらず顔を真っ赤にしたまま海未は逡巡し、
「……多分、お祭りに言った時だと思います」
「えっ、そんなに早かったの?」
驚いて聞き返す俺。告白するまで不安の方が大きかった俺にとって、その話はかなり意外だ。
一方海未は「はい」と頷き、
「ただ、お祭りの時はあくまで好きかなと思った時で、意識し始めたのはもちろん不良から助けてくれた時です」
「あー、そう言えばそんな事もあったな。今思えばかなり危なかったけど、海未が叫んでくれたから助かったんだっけ」
今となっては懐かしい思い出の一つだ。
正直、あのタイミングで海未が叫んでくれていなければ確実に俺は相手の拳を頬に貰っていただろう。拳を貰っても助かっていただろうけど、やっぱり痛いのは嫌だからな。
「あ、あの時はとにかく必死だったんです! でも、それから和希の事を意識して、和希が私の中で特別になって……それで好きになったんです」
「なんか改めて言われると恥ずかしいな……」
「まぁ、最終的に気持ちを自覚したのは、和希が別の女の子に告白されたと聞いたからなんですけどね」
「えっ!?」
半眼で睨んでくる海未に俺は思わず間抜けな声を上げる。
「だ、誰からその事を?」
「ことりからです。全く、モテる男はつらいですね」
「いや、告白されたのもその一人だけだから」
「……別に怒ってませんよ。それがあったからこそ気持ちを自覚できたわけですし、今はこうして和希と手を繋いで歩いていられているんですから」
ギュッ、とポケットの中で握られている手の感触が強くなった。視線を移すと、潤んだ瞳の彼女と目が合う。
「私、あなたを好きになれてよかったです」
「そんなの俺もだよ。俺も海未を好きになれてよかった」
海未に出会えてなかったら、こんな気持ちを味わうこともなかっただろう。自然と俺と海未は向き合う形になっていた。
「……和希」
俺の名前を呼ぶ彼女の唇に視線が釘付けになる。ここが外であることも忘れて俺は、彼女に吸い寄せられるようにして距離を詰める。
空いている左手で海未の髪を梳くと彼女は気持ちよさそうに目を細めた。
「……海未」
二人の距離が縮まっていき、そして――――
「あー、えっと二人とも。お楽しみのところ悪いんだけど、流石に外だからほどほどにしておこうね~」
『っ!?』
少しだけ困ったような声が聞こえてきて、俺たちは我に返って距離をとる。声の聞こえてきた方に顔を向けると、「あはは~」と頬をかくことりと目が合った。
「こ、こここここ、ことり! い、今のは違うんだ!」
「何が違うのかなぁ~? 私には外でもお構いなしにイチャイチャするバカップルにしか見えなかったんだけど?」
ことりの笑みが少しだけ黒い。もしかすると随分前からいたのかも……。
「それに、ここってもう『穗むら』の前なんだよね~」
「えっ!?」
驚いて振り向くと、目の前には見慣れた『穗むら』の看板があり、その下では穂乃果と穂乃果ママがニヤニヤと俺たちを見つめていた。
「いやー、手を繋いできた時点でラブラブだなーと思ってたんだけど、まさかうちの前でキスをしかけるほどだったなんて」
「これは睦未さんにも報告ね。二人の交際は順調ですよって」
二人の言葉に顔が熱くなる。穴があったら入りたいのだが、生憎入れるほどの穴はない。
ちなみに海未は、先ほどから顔を真っ赤にして固まってます。
「取り敢えずここにいてもしょうがないし、二人をいじるのは道中でしなさい」
「できれば道中でもしないで下さい……」
そんな状態で俺たちは神社までの道を歩いていくのだった。……海未は無理やり引っ張っていきました。
☆ ★ ☆
「全く、和希君も海未ちゃんも付き合って幸せなのはいいけど、時と場所を考えてください!」
「め、面目ないです……」
「すいませんでした……」
「まぁ、私としてはいい写真が取れたし、満足な部分もあるんだけど」
「しゃ、写真を撮った!? すぐに消してくれ!!」
「二人が反省するまで消しませーん♪」
「三人ともー、早く来ないと遅くなっちゃうよ!」
先をいく穂乃果に促されつつ、俺たちは参拝客の並ぶ列を進んでいく。新年までは後数分というところまできていた。
そして俺たちの番となり、お賽銭を投げ入れ手を合わせる。
(取り敢えず、来年も健康で過ごせますように。そして……海未とこれからも一緒にいられますように)
お祈りを済ませた俺たちは列から離れて帰り道を歩き始める。
「ねぇねぇ、和希君は何をお願いしたの?」
「人に願いを教えると叶わないって聞いたことがあるから、秘密です」
「えー! そんなの迷信だって~。教えてよー!」
いや、健康はともかく海未と一緒って恥ずかしくて言えねぇよ……。
「海未ちゃんは、なんてお願いしたの?」
「……言いません」
「ふふっ、その反応でもう何となく予想できちゃうけどね♪」
海未もことりに聞かれてるみたいだけど、願いについては口を噤んでいた。まぁ、ことりの事だから今言ったように予想できてそうだけど。
「あっ、12時になった」
新年を迎えたのはまさにそんなタイミングだった。俺は三人の方を向き直り、
「あけましておめでとう。今年もよろしくな」
テンプレともいる挨拶を三人に向けて言うと、これまたテンプレともいえる返事が返ってきた。
『あけましておめでとう(ございます)!』
三者三様の笑顔を向けられ、俺もつられて笑顔になる。今年もいい年になりそうだと、我ながらじじくさいことを考える俺だった。
☆ ★ ☆
そして穂乃果たちと別れ、俺たちは園田家に帰ってくる。お互い軽くお風呂を済ませてから、俺の部屋に集まっていた。
しかし、夜も遅いということで海未は大分眠そうである。それもそのはずで、普段ならとっくに眠っている時間帯だからな。
「海未、そろそろ自分の部屋に戻って寝たほうがいいんじゃないか?」
すると海未はギュッと俺の服の袖を握る。
「……今日は和希と一緒に寝たいです」
甘える様な声色で海未が呟く。一瞬、何を言われたのか分からなかった。彼女の言葉を一分ほどかけて飲み込む。
「えっと、寝ぼけてるとかじゃないんだよな?」
「…………」
俺の問いかけに無言で頷く。どうやら寝ぼけて適当なことを口走ったというわけではないようだ。
「……じゃ、じゃあ一緒に寝るか?」
「っ! は、はい……」
消え入りそうな声で返事をする海未。
俺は俺で緊張しつつ先にベッドの中へと入り、海未が入れるくらいのスペースをあける。
「ほらっ」
「し、失礼します!」
海未は律儀に挨拶をしながら俺の横に潜り込む。
『…………』
背中合わせになった俺たちは無言になる。
しかし、俺はすぐに身体を反転させ彼女の華奢な身体を優しく抱き締めた。
「……和希、もっと強くても大丈夫です」
そう言って海未が首に手をまわし、俺の胸に顔を埋める。そのいじらしい姿や言葉は本当にずるい。
「海未、ちょっと一回だけ顔上げて」
すると、上目遣いになりつつ顔を上げる海未。そんな彼女の右頬に手を添える。
「……さっきにできなかったから」
「…………」
言葉の意味を理解した海未が目を瞑る。
俺はもう一度彼女の頬を優しく撫でた後、唇に優しくキスをした。
「んんっ……」
彼女の口から艶っぽい声が漏れる。
気付くと、俺は海未の身体を先ほどよりも強く抱き締めていた。
いつもより少しだけ長いキスを終え、俺たちは改めて見つめ合う。
「……そういえば、穂乃果にも聞かれてましたけど神社で何をお願いしたんですか?」
さっきは誰かに言うと願いは叶わないとか話したけど、海未だから別にいいか。
「自分の健康と後は……これからも海未と一緒にいたいって」
「……ふふっ」
「どうして笑うんだよ?」
「いえ、私と同じことを願っていたんだなって……嬉しくなったんです」
嬉しそうにはにかむ海未はとにかく可愛かった。そこで俺は改めて言いたかったことがあったので口を開く。
「えっと、海未。さっきも言ったんだけど、三人同時にだったから改めて……あけましておめでとう、海未。今年もよろしくな」
「こちらこそ。あけましておめでとうございます、和希。そして、今年もよろしくお願いします」
俺たちはそうして新年のあいさつを交わし……糸が切れたように眠りに落ちたのだった。
ちなみに、次の日の朝。睦未さんが二人仲良く眠っている俺たちを写真に収めたのはまた別のお話。
次は一か月後とか言いながら、気付くと5か月が経過してました。遅くなったことについては大いに反省しております。しかし、次もいつになるか……失踪だけはしないように頑張ります。
あと2話か3話くらいで完結ですので最後までお付き合いお願いします。