真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
「ねぇねぇ、海未ちゃん。バレンタインの日に、和希君にどんなチョコをあげるか決めた?」
「へっ!? な、なんですか藪から棒に!?」
新年を迎え、二月も中旬に入ろうかというある日。穂乃果の家に集まってわいわい話していたのですが、親友であることりの質問に私は思わずびっくりしたような声を上げてしまいました。
「全然藪から棒じゃないよ~。だって、もう直ぐバレンタインだよね? 大好きな彼氏がいる海未ちゃんにとって、このイベントは結構重要だと思うんだけど」
「ま、まぁ、確かにそうかもしれませんけど……あと、恥ずかしいので大好きなって言うのはやめて下さい!」
「和希君の事、大好きじゃないの?」
「ほ、穂乃果もうるさいです!」
今日も私の事をからかってくる親友に一喝入れた後、私はぽつりとつぶやきます。
「……べ、別に考えてないわけではないですよ。その、このような関係になって初めてのバレンタインなわけですし」
彼氏と言うとまたからかわれそうだったので、このような関係といって誤魔化す。一方、二人は私の言葉に『おー!』と手を叩く。
「バレンタインなんて全く興味のなかった海未ちゃんがこんなことを言うなんて……穂乃果、すごく嬉しいよ」
「うんうん、そうだね穂乃果ちゃん。バレンタインのバの字も知らなかった海未ちゃんが……やっぱり彼氏の存在は女の子を変えるんだね!」
「二人揃って酷いです! あとバレンタインくらい私でも知っています!! そもそも、元はと言えば二人が言わせてきたんでしょう!!」
顔を真っ赤にして叫んでも、二人は『きゃ~♡』と楽しそうに笑うばかり。なんだか、怒っているこっちがバカらしく思えてきました。私は「コホン」と咳払いをすると、話の流れを元に戻す。
「それでバレンタインの話に戻るのですが、正直どんなチョコをあげればいいのかと迷ってしまいまして」
「迷うも何も、和希君ならどんなチョコでも喜んでくれるんじゃない?」
「そうなのですが……」
「もしかして海未ちゃん、あの噂の事気にしてる?」
「…………」
ことりの言葉に私は思わず黙りこくってしまう。
その噂というのが、和希が生徒会長である絢瀬絵里先輩と一緒に居たということだった。
一月の下旬ごろに二人が歩いている姿を、とある一年生が見たことが事の始まりである。私自身、まだ二人一緒に居る姿を見かけたことがないのだが、噂として出回ってしまっている以上どうしても気になってしまう。
「あの噂って、和希君が生徒会長と一緒にいたって噂? でもあれって本当に噂程度のモノじゃなかったっけ?」
「それが、最近になってまた二人一緒に居るところを見た人がいたみたいなんだよ。ことりも見た本人に聞いてみたんだけど『二人は目立つから間違いない』って」
確かに絢瀬先輩はスタイルもよく美人なので目立つし、和希も和希で目立つため間違えたというのはあまり考えようがないだろう。
しかも、ただ一緒に居るだけじゃなくて楽しそうに歩いていたと言われているのが私のもやもやに拍車をかけていた。
「もうっ! 和希君ってばこんなに可愛い海未ちゃんをほったらかしにして! お説教してあげないと!」
「ま、待ってください! まだ本当かどうかも分かりませんし、本当だったとしても和希に何か意図があっての事だったかもしれませんから」
今にも園田家へ走り出しそうな穂乃果を必死に止める。今言った通り、まだ噂の域を出ないような話を和希にしても迷惑をかけるだけです。それに今、和希は買い物に行くとかで園田家には居ないはずですし。
「和希自身も特に変わった様子を見せていませんし、いつも通り私と一緒に帰ったりしてくれます。だから、きっと大丈夫だと思うのですが……」
「甘い、甘いよ海未ちゃん! 男の子は必ず浮気するものだってどこかの番組でも言ってたし、もっと怪しまないと!」
「いくらなんでも酷すぎです、穂乃果」
男性の皆さんに失礼なことを言った穂乃果の代わりに私から謝ります。すみません。ただ、最近もよく芸能人が誰々と浮気したという話はよく聞くので、和希に当てはまらないともいえないのが何とも……。
「ま、まぁ、穂乃果ちゃんの言ったことは少し極論過ぎるから、和希君に関しては心配しなくてもいいと思うよ。私の目から見ても浮気する心配なんて全くないと思うから。それに浮気なんてしたらすぐにばれそうだしね! でも、何かあったのだけは聞いてもいいんじゃない?」
「それは私も思ったのですが、あまり詮索しすぎるのもよくないのかなって。詮索しすぎて和希に嫌われるのもよくないですし」
女性の方が詮索しすぎて男性に嫌われるのはよくある話だ。確かに疑わしい動きをする男性にも問題はあるかもですが、あれは女性の方にも同じく原因がありますし……。
だからこそ、ここは余計な詮索をせずに黙っているべき……黙っているべきだったんですけど、
「ね、ねぇ、海未ちゃん。あれって和希君と生徒会長だよね!?」
穂乃果たちと三人で集まった次の日、バレンタインの二日前の日に事件が起こりました。
和希と生徒会長が、何かを話しながら生徒会室から出てきたのです。しかも、二人とも笑顔で。
「…………」
私は見た光景を信じられず呆然としてしまいました。どうして? なぜ? という気持ちが頭の中をぐるぐると回っています。
「う、海未ちゃん、大丈夫?」
呆然とする私を見てことりが焦ったように声をかけてきました。
「は、はい、大丈夫ですよ。……大丈夫です」
何とか平静を装ったものの、動揺した気持ちはまるで隠しきれていませんでした。声はかすれ、頭の中は相変わらず真っ白。もちろん、事情を聴いてみるまで確かなことは言えませんが、それでも悪い方へ悪い方へと考えてしまいます。
二人は私たちに気付くことなく別方向へ歩いていきました。しかし、今回ばかりは私たちに気付かなくてよかったと思います。今、出会ってしまえば冷静に話が出来るわけないですから。
しばらく間呆然と立ち尽くす私。
「……海未ちゃん、バレンタインどうするの?」
恐る恐るといった様子で穂乃果が声をかけてくる。私は何とかして平静を取り戻すと、いつも通りの笑顔を幼馴染二人に見せる。
「予定通り作りますよ。じゃないと、昨日集まった意味がなくなってしまいますからね」
それに、この事ならバレンタインのチョコと渡した後で聞けばいい。……と、自分を納得させてバレンタイン当日を迎えたのだった。
☆ ★ ☆
「珍しいな、海未が自分の部屋に俺を呼ぶなんて」
「ま、まぁ、そういう日だってたまにはありますから」
そしてバレンタイン当日の夜。……既にバレンタインは夜になっていた。
どうして夜になってしまったかというと、結局、噂のもやもやが晴れずに学校でチョコを渡せなかったためです。
しかし、せっかく作って渡さないのも嫌だったので、仕方なく和希を部屋に呼び出したわけですが……正直、どうやって話を切り出していいのか分かりません。
ひとまず、あらかじめ用意しておいたお茶を和希の前に差し出します。
「お茶を持ってきたので、どうですか?」
「おっ、ありがと。それじゃあ遠慮なく」
和希は特に緊張した様子もなく、呑気な顔でお茶を啜っています。その様子を見て安心すると同時に、少しだけイラッとしました。
私がこれだけもやもやしている中で和希は平然とお茶を飲んでいる。それが何となく許せなくて、
「和希……この前、生徒会長と一緒に居ましたよね?」
「ぶっ!?」
ついに我慢できなくなった私からの質問に、和希が飲んでいたお茶を噴き出しました。
何もやましいところがなければこんな反応はしないと思います。ということは、信じたくないですけど……。
「い、いや、まぁ、確かに一緒に居たんだけどさ」
口元をタオルで拭いつつ、歯切れ悪く答える和希。私と視線を合わせようともしません。どういったものかと逡巡しているようにも見えます。
「一緒に居たのは間違いじゃないんだけど、その色々あってさ」
和希はそう言って肝心な部分をはぐらかす。やっぱり和希は……そう思った瞬間、鼻の奥にツーンとしたような感覚が走りました。目の前が涙で霞む。私は彼にバレないようそっと涙を拭き、
「……わかりました」
「えっ? 分かったって何が?」
「和希は、生徒会長の事が好きになってしまったのですよね?」
「…………はい?」
間抜けな声を上げる和希を他所に私は俯きつつ、半ば自暴自棄になって口を開きます。
「分かっています。私が至らないばかりに和希にたくさんの迷惑をかけていたんですよね? 確かに私はなかなか素直になれませんし、スタイルだってあまりよくありません。さらに言えば、和希に我慢ばかりさせてしまっています。それで私に愛想をつかした和希は、生徒会長とどこかで知り合いになって惹かれあったと」
うぅ……自分に原因があるとはいえ、言っていて泣きそうになります。あの時、怖がらずに和希を受け入れていればよかったのかもしれません。
しかし、今となってそれは後の祭り。自業自得というやつです。そんな私を見て和希がどういうわけか大きな声を上げる。
「ま、待て待て! お前急に何言ってんの!?」
「急にも何も、こうなったのは和希が生徒会長と浮気してたのが原因じゃないですか!!」
「うわきぃ?」
「だ、だって、私の友達にも和希と生徒会長が一緒に歩いているところを見た人がいるって聞きましたし、実際に私も見ました。二人が誰もいない生徒会室から出てきて……つまり、もうできているということでしょう?」
「……まじか。あの時の事をピンポイントで見られてたって事かよ」
私の言葉を聞いて、何やらぶつぶつと呟きながら和希が頭を抱えています。恐らく浮気がバレたので、どう言い訳しようかと考えているに違いありません。
そして覚悟を決めたように頭を下げてくる和希、
「……ごめん、海未」
「…………はい、大丈夫です。私はもう覚悟を決めて――」
「それ、全部海未たちの勘違い」
「……はい?」
今度は私が首を傾げる番でした。
「か、勘違いってどういう事ですか!?」
「そのまんまの意味だよ。俺が絢瀬先輩と一緒に居たのは、別に惹かれあったから一緒に居たわけじゃない。……はぁ。この事はもっと後に言う予定だったんだけど、こうなるんだったら隠さずに言っておけばよかった」
恥ずかしそうに頭をかいた後、
「俺さ、来年から生徒会に入ることにしたんだ」
「せ、生徒会!?」
次から次へと新たな情報が頭の中に入ってきて、処理が間に合いません。私が目をぐるぐるさせていると、おでこに痛みが走りました。
「痛っ!?」
「落ち着けって。これじゃあ話が先に進まないから」
どうやら和希にデコピンをされたみたいです。しかし、おかげでパニックになっていた頭が少しだけ落ち着きました。
「す、すいません、取り乱してしまったみたいで……」
「まぁ、原因は俺にあるみたいなもんだから別に大丈夫だよ」
「それでは改めて聞きたいんですけど、どうして生徒会に?」
「海未の影響を受けたからかな?」
「私の?」
言葉の意味が分からず首を傾げる私。
「海未ってさ、いろんなことを頑張ってるだろ? 部活動もそうだし、家での習い事だってそう。普段は恥ずかしくて言わないんだけど実は俺、海未の事彼女である以上にすごく尊敬してるんだ」
思ってもみないことを言われて私は戸惑ってしまいます。だって、彼氏である和希からそんな事を言われるのは初めてだったから。
和希も改めてこんなことを言うのは恥ずかしいのか、僅かに頬を染めています。
「そ、そんな……部活動は好きでやっているだけで、習い事も昔からやってきただけなので、別に尊敬されるほどの事はなにも……」
「そういう、謙虚なところもすごいと思ってるんだよ。……海未は知らないだろ。俺がどれだけお前の事をすごいって思ってるのか」
和希はそう言って不貞腐れつつも、どこか恥ずかし気に視線を逸らす。
「だからさ、俺も何か頑張ろうかなって思ったんだ。そんな時に、生徒会でメンバーを募集してるって張り紙を見たんだよ。それで絢瀬先輩に話を聞いてみたら、たまたま書記に空きができたって事だったんだ」
ここまで聞いてようやく、色々なことが繋がりました。そして同時に私はとてつもなく恥ずかしくなりました。
「多分、絢瀬先輩と一緒に歩いていたのは生徒会の事を細かく色々と聞いてたからだよ。入ってから実は……なっても困るからな。生徒会室にいたのも同じ理由で、後は正式に加入する書類を書いていたからなんだ」
つまり和希が生徒会長と一緒に歩いていたのは浮気でも何でもなく、何かを頑張ろうとした結果というわけです。
そんな誠実な理由だったのに私は勝手に色々と決めつけて――。
「うぅ……」
「海未?」
私の中の恥ずかしさがキャパシティを超え、手近にあったクッションを顔に押し付けて真っ赤な顔を隠します。
つまり、私は勝手に勘違いをして勝手に嫉妬していただけだったのです。こんなの恥ずかしくないわけがありません。すると、
「ったく、海未は普段しっかりしてるのに、こういうことになると途端にポンコツ化するよな」
優しい手つきで私の頭を撫でる和希。普段なら「ポンコツじゃないですよ!」とツッコミを入れるところですが、事実なので何も言い返すことができません。
「……どうせ私はポンコツですよ」
おかげで拗ねてしまう始末。これでは和希も呆れてしまうはずです。
「ぷっ……あはは!」
しかし、聞こえてきたのは和希の笑い声でした。
「わ、笑ってほしいとまでは言っていません!」
「いや、ごめんごめん。自分でポンコツって言う海未が可愛くてさ」
目じりにたまった涙を拭きながら、和希が私の頭をポンポンとなでる。
「別に今回の事は海未だけのせいじゃないから大丈夫だよ。そもそもは、隠してた俺に原因があるんだしさ。ごめんな、沢山心配かけて」
もう一度頭を撫でると、和希は私の瞳をしっかりと見つめる。
「絢瀬先輩は確かに魅力的な人だと思うよ。でも、だからって俺が浮気するなんて絶対にありえない」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「だって、俺は海未のことがめっちゃ好きだから」
そう言って少し恥ずかし気に微笑む和希。一方私は、
「…………ふーん、そうですか」
多分、今までで一番顔がニヤニヤと緩んでいたと思います。
ど、どうしてこんなに嬉しいんですか!? 別に好きなんてこれまでも言われてきたはずなのに……。でもニヤニヤが止まってくれません。嬉しすぎてどうにかなってしまいそうです。
……ずるいです、その笑顔は。
私が恥ずかしさで悶えていると、和希が急にそわそわとし始めます。どうかしたのでしょうか?
「それでさ、こんなタイミングで言うことじゃないと思うんだけど、今日はバレンタインじゃん? それで海未は俺にチョコをくれないのかなーって?」
「あっ! 申し訳ないです。このごたごたですっかり忘れていました」
私は慌てて鞄の中から今日、和希に渡す予定だったチョコを取り出す。
「はい、どう――」
チョコレートを渡そうとしたところで、私はとあることを思いつきます。今回の事は元々和希のせいでもあるんですから、これくらいお願いしても罰は当たらないと思います。
「ん? どうしたんだ?」
「いえ、ちょっといいことを思いつきまして」
「いいこと?」
和希が少しだけ嫌な表情を浮かべていますが、そんな事私にとっては関係ありません。
私はチョコの入った容器の包装を解くと、その中から一つだけチョコを取り出して、
「…………何してんの?」
「私が食べさせてあげようと思いまして」
「自分で食べられるからいいよ」
「……私、今回の事でとても傷つきました。和希に浮気されてるんじゃないかと思って」
「うぐっ……それはお互い様で」
「傷つきました」
「…………あーん」
「ふふっ、あーん♪」
観念したのか、和希がしぶしぶ口を開けたので、私は上機嫌になりながらチョコを口の中に持っていく。しばらくもぐもぐと口を動かす和希。
「どうですか?」
「……美味しいよ。これ、手作り?」
「はい、そうですよ」
「いつの間に作ってたんだ?」
「見られるのが嫌だったので、和希が眠ってからこっそり作ったんです。いわゆるサプライズというやつですね!」
私はそう言って胸を張りましたが、全てことりの受け売りです。彼女から「チョコを作っているところを見られないほうがいい!」といったアドバイスがなければ、普通に和希のいる前で作っているところでした。
ちなみに教えてもらったことはこれだけじゃなくて――
「…………」
「なぁ、次からはもう一人で食べられるからその箱を俺に渡してもらえないか?」
「……嫌です」
「嫌ですって、流石に高校生にもなって「あーん」は恥ずかしいんだよ」
「じゃあ、「あーん」をしなければいいんですよね」
「うん、だから普通に……え? ちょ、ちょっと何してんの!?」
狼狽えたような和希の声。それもそのはずで、私は容器から取り出したチョコを自分の口で加えていたのだから。
私はチョコを咥えたまま和希の首に腕をまわす。顔は確認するまでもなく真っ赤だろう。
「……海未、本気なのか?」
彼の問いにコクッと頷く私。
ことりに言われたこと。それはもう少し先に進んでもいいのではないかといったことでした。
私たちは普通のキスをしたことがあっても、その先の事をしたことは一度もない。長めにキスをするときも、基本的に唇同士が触れ合っているだけ。
そんな感じのことを話したところ(どっちかと言えば根掘り葉掘り聞かれたというほうが正しい)ことりに、
『うーん、こんなことあんまり言うことじゃないと思うんだけど……多分、和希君は相当我慢してると思うよ』
思わずギクッとするようなことを言われました。
和希と付き合い始めてから、何となくそういうことを意識することもあります。でもやっぱりどこか恐怖心が抜けなくて……和希に甘えてしまっている。
彼は以前、『海未を怖がらせたり、傷つけたくない』といってその先に進むことを一旦やめてくれました。しかし、同時に『したくないわけではない』とも言いました。
多分、今だってずっと我慢してくれている。もしそのような雰囲気になっても、私が『怖い』と言えばやめてくれるだろう。
でも、それじゃ意味がない。いつまでたっても前に進めないままだ。私が変わらないといけない。
これまで我慢してくれた和希に今度は私から――。
和希の口元までチョコと持っていく。一口サイズのチョコが和希の唇に触れ、少しずつ口の中に入って行く。ゆっくり、ゆっくりと二人の距離が縮まる。
そして、チョコがもう少しで全て口の中に入るという所で和希が私の後頭部に手を添えると、グイッと彼自身の方に私の頭を引き寄せてきた。
「んむっ!?」
一瞬で私たちの距離がゼロになり、和希と唇が触れあった。続けざまに彼の舌が私の咥内に侵入してくる。チョコの甘さと和希の舌が入ってきて、私は思わず目を白黒させる。
しかし、和希はこの深いキスをやめてくれません。むしろ、どんどん舌の動きが激しくなってきます。
「ふっ……んっ……んぁ」
私の口から喘ぎ声のような声が漏れる。まるで自分の声ではないような、甘ったるい女の声。
その声が恥ずかしくて……でも、その声を出さないように息をする方法が分からない。声を抑えようとするたびにもっと声が大きくなる。
「んちゅ……ん……っ、……ぁん」
恥ずかしい声が漏れるたびに和希の舌の動きも激しくなる。そして、私もいつの間にか彼の舌に自分の舌をゆっくりと絡ませていた。
こんなはしたないこと……心ではそう思っている。でも身体は意思を反して和希を求めている。彼を求めて舌を動かしていた。
「んっ……んぁん……ふっ、……ちゅっ……ぷはっ」
ようやく唇を離す私たち。つつっと私たちの間に唾液が糸を引く。たまらなく身体が熱い。私は空気を求めて「はぁはぁ」と荒い息を吐く。
私は今一体どんな顔をしているのだろう? 自分の身体を支えられなくなった私は、和希のに抱き付くような形で身体を預ける。和希はそんな私の身体を優しく抱き締めると、
「…………ごめん」
一言、そう謝ってきた。
「……どうして謝るのですか?」
「いや、我を忘れてがっついちゃったからさ。海未の気持ちも考えずに」
「……別にいいんですよ。そもそも誘ったのはこっちなわけですし」
「本当にびっくりしたよ。それで、今のはその……これからもう俺は我慢しなくていいってこと?」
ギュッと私を抱き締める力が強くなる。
「……はい、もう大丈夫です。だからもう、我慢しないで下さい」
「じゃあ、これからは我慢しないから。……俺の部屋に来てもらってもいい?」
「………………はい」
身体が再び熱を持った。返事を確認した和希は私の手を掴み、そのまま和希の部屋へと向かう。
部屋に入ると私は和希のベッドで仰向けに寝転がり、和希は私の上に覆いかぶさるようにして横になった。
『…………』
お互いが無言で見つめ合う。私の心臓は狂ったようにどっくんどっくんと早鐘をうっている。
でも不思議と嫌な気分ではない。色々と吹っ切れたからだろうか?
「……海未」
和希が私の名前を呼んで頬に手を添える。恐らく、最後の確認ということだろう。
私は彼の右手に自身の左手を優しく重ねた。
「はい、大丈夫です」
微笑む私に和希は安心したような表情を浮かべ……再び私たちの唇が重なった。
今年のバレンタインはいつもより少しだけ濃く、そして甘かったです。
生徒会の云々の所は実際、どうなっているのかよく分からないので想像です。違和感があっても許していただければと思います。なんか生徒会長だけ選挙で決めるってイメージがあったんですよね。
あと、二話くらいで終わるといいなぁ。