真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

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 テスト……嫌な響きです。


6話 真面目な彼女とテストで勝負することになった

「それじゃあ、お母様。行ってきます」「睦未さん、行ってきます」

「はいはい、行ってらっしゃい!」

 

 海未が連れ去られたり、名前で呼ぶようになってから、約一か月が経過していた。

 

 海未の事を名前で呼ぶことにも慣れ、名前で呼ばれる事にも慣れ、そのたびに睦未さんがにやけるのにも慣れ……。うーん、最後のはわりとどうでもよかった気がする。慣れたからいいんだけど……。

 まぁ、とにかくこの一か月間は何事もなく平和で、平凡な日々だった。あと、ことりが相変わらず可愛い。これ、すごく重要。

 

「それにしても、今日は暑いな」

 

 手をうちわ代わりにして仰ぐものの、まるで意味をなさない。既に梅雨も明け、じりじりと夏特有の厳しい日差しが、容赦なく俺たちの身体に降り注いでいる。

 

「天気予報では、30度を超えると言っていましたからね」

 

 海未もポケットからハンカチを取り出して、額や首元の汗を拭う。チラッと見えるうなじがなんとも艶めかしい。

 これが海未じゃなく、ことりだったらよかったのにな。

 

「和希。今、私の事を馬鹿にしませんでした?」

「いやいや、あなたの考えすぎですよ。あははは……」 

 

 絶対零度の視線を、乾いた笑いでやり過ごす。こいつ、鋭すぎるだろ……。一ミリたりとも表情筋を動かさず、心の中だけでバカにしたというのに。

 そんな感じにいつもの場所まで歩いていくと、

 

「海未ちゃん、和希君、おっはよー!!」

 

 夏の暑さをものともしない、元気な声が俺の耳に響いてきた。こんなくそ暑い状況の中で、元気に挨拶をできるやつを俺は一人しか知らない。

 

「おはようございます、穂乃果」

「おう、おはよう穂乃果。お前は相変わらず、元気だな」

「そういう和希君はぐったりしすぎだよ! もっと熱くなっていかないと!」

 

 脳裏にあの熱いお方がよぎる。しかし、すぐに頭の中から追いやった。だって、余計に暑くなるもん。

 

「海未ちゃんに、和希君。おはよう♪」

 

 こ、この声はもしかしなくても、大天使ことり様だ。取り敢えず、深々と頭を下げる。

 

「おはようございます、ことり様。ご機嫌麗しゅう。今日も良いお日柄で」

「さっき、思いっきり暑いと言っていたではありませんか……」

「あ、あはは……」

 

 ちっ、隣にいるやつがなんだかうるさいな。俺はお前ではなく、大天使ことり様に挨拶をしているんだ。いちいち、口を挟まないでもらいたい。

 

「何でしょう。今、無性に和希の頭を叩きたい気分です」

 

 だからお前はエスパーかよ! そう心の中でツッコみながら、俺も海未と同様に流れてきた汗をタオルで拭う。

 梅雨のじめじめした暑さよりはましなのだが、それでも暑いものは暑い。しかし、正直に言おう。俺は夏が好きだ。いや、好きになったというべきか。

 

「…………」

「どうしたの真嶋君? ことり、何か変かな?」

「いや、変じゃない。……最高だなって」

 

 何が最高って、夏服がもう最高。言葉には言い表せない魅力が、夏服という一枚の衣類にはつまっている。ほんと、肌の露出が増えるってたまりませんなぁ。

 

「ねぇねぇ、海未ちゃん。和希君はどうして、ことりちゃんの夏服を見てうんうん頷いてるの?」

「彼は変態なんです。病気なんです。だから穂乃果。和希を見ると病気が映るので、あまり見ないように」

 

 誰が病気じゃ! 女子の、しかも可愛いことり様の夏服姿を見て、興奮するのは俺だけじゃないと声を大にして言いたい。

 男はみんな変態。これ、次の期末テストに出します。

 

 そんなわけで(どんなわけだ)、いつも通り仲良く4人で学校に向かう。そのまま学校で授業を受けつつ、海未に怒られたり、海未に怒られたり、海未に怒られたり……していくうちに(おかしい。俺の一日、海未に怒られてばっかり)最後の授業である現代文が終了した。

 

「よーし。今日はここまでな。ちなみに、来週の期末テストの範囲もここまでになるから。しっかり復讐をしておけよ」

「先生、なんだか復習の字が違うような……」

 

 先生の言葉に若干ビビりつつ、俺は一週間後に迫ったテストに「はぁ」とため息をつく。

 個人的にテストは嫌いだ。というか、好きなやつのほうが珍しいと思う。

 

「どうしたんですか? そんな物憂げな顔をして」

「いや、来週からテストだろ? 嫌で嫌でしょうがないんだ」

 

 ぶつぶつ文句を言う俺に、海未はあきれ顔だ。

 

「嫌なのは当たり前でしょう。あんな授業態度をとっていれば、テストの成績が悪くなるのも当然です」

 

 聞き捨てならないことを言われた気がする。

 

「おい、ちょっと待て。俺がいつ、テストの成績が悪いと言った?」

「確かにあなたの口からは言っていませんけど、どうせ酷い成績なんじゃないですか? それこそ、進級が危ぶまれるほどに。まぁ、その点、授業を真面目に受けている私は何も問題ないですけどね」

 

 ふふんと、ない胸を張る海未。これは現実を見せてやらないといけないな。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 俺は、プリントで溢れかえっている机の中を必死に漁る。確かこの辺に……おっ! あった。

 

「全く、机の中くらいきちんと整頓してください」

「教科書が一冊も入っていないことについては何も言わないんだな」

「言ってもしょうがないから諦めたんです。それはそれとして、何ですかその紙?」

「中間テストの結果用紙」

 

 そう言って俺は、海未に結果用紙を手渡す。さて、これを見た彼女は一体どういう反応をするのか?

 

「どうせ、穂乃果と同じような点数が並べられているのでしょう?」

「おいおい、俺を侮辱するのは構わんが、穂乃果は関係ないだろ?」

「大ありです。和希は穂乃果のテスト結果を知らないから、そんな事が言えるんです」

「そんなに悪いのか?」

 

 海未が俺の耳に顔を寄せ、穂乃果のテスト結果を囁く。そして俺は絶句した。

 

「……お前の親友、大丈夫なの?」

「こればっかりは何とも言えません。一応、中学時代からテストがあるたびに「勉強しなさい!」と、口酸っぱく言ってきたのですが……」

 

 全く進歩がありませんでした……遠い目で海未が呟く。どうやら相当苦労を重ねてきたらしい。ほんと、ごくろうさんです。

 そもそも、よくその成績で音ノ木坂にはいれたもんだ。

 

「まぁ、穂乃果の勉強云々はどうでもいいとして、取り敢えず俺のテスト結果を見て見ろよ」

「和希はそんなに恥をさらしたいのですか?」

「お前は本当に失礼な奴だな!! とにかく結果を見ろって」

 

 俺からのお叱りを受け、海未が渋々テスト結果に目を通し始める。

 

 最初こそ、どうでもよさげに結果を眺めていた海未だったが、次第にその目が大きく見開かれていく。そして、最終的には顔が真っ青になっていた。

 

「あ、ありえません。こんなこと……絶対にあり得るはずがありません!! 和希、カンニング、もしくは先生に賄賂を渡したんじゃないですか? そうに違いないです!」

「んな事するか! 正々堂々とテストに臨んだ結果、この点数だ!」

「だとしてもあり得ません。どうして……どうして、和希の点数が私の点数を上回っているのですか!?」

 

 海未がテストの結果用紙を掴みつつ、机をバンバンと叩く。どうでもいいけど、学校の備品は大切にね。

 

「その疑問は最もだ。でも、授業を適当に受けていたからと言って、テストの点数が悪いとは限らない。そう、俺は授業を真面目に受けないだけで、テストはいいんだよ!」

 

 最近、授業中に俺が好き勝手に過ごしていても、先生は何も言わなくなっている。その最たる理由が、テストでの結果だった。数字とは正義。絶対無二の存在なり。

 ちなみにテスト返却の際、「真嶋君、これだけ点数取れるなら真面目に授業を受けたらどう?」と、目のハイライトが消えた先生全員(一部を除く)に言われた。

 

「ありえません、ありえません、ありえません……。全教科平均85点なんて、私は認めませんよ」

「これが現実なのだよ園田君。それで……君の中間テスト。結果はどうだったのかな?」

「……全教科平均80点くらいでした」

「ほーん。それで、全教科平均80点の園田君。この結果を受け、あなたはどうお考えですか? これでもまだ、俺の事を勉強ができないとバカにするのですか?」

 

 悪代官のような笑みを浮かべる俺。

 

「く、屈辱です。どうしてこんな人に私が……」

 

 何も言い返せず俯く海未に、あーっはっはっはと高笑いを上げる。いやー、いつも散々海未には怒られてるからな。

 こうして屈辱に歪む彼女の顔を見ていると、実に気分がいい。……今の俺、性格最悪だな。

 

「ふ、ふふふ……」

「お、おい、どうしたんだよ?」

 

 不気味な笑い声を上げ始めた海未。夏の暑さと、テストの点数に負けたショックで、頭がおかしくなったのか?

 

「こうなったらもうやるしかありません。和希! 次の期末テスト、私と勝負です!!」

「勝負?」

「はい! このまま負けっぱなしではいられませんからね。というか、和希に点数負けてるままとか、屈辱のあまり発作が出てしまいそうです」

「お前、どれだけ俺の事嫌いなんだ。発作とか、いくら俺でも泣くぞ?」

 

 いくら嫌いな相手とはいえ、流石に傷つく。というか、ショックのあまり号泣しそう。

 

「和希が泣く、泣かないなんてどうでもいいんです」

 

 酷いっ!!

 

「それよりも、私からの勝負受けるんですか?」

「いや、受けるも何も、そんなことをしたところで、俺にメリットが一つも無い――」

「もし私に勝てたら、ことりとのデートを取り付けてあげてもいい……」

「よしっ、勝負だ海未。信じられないくらい勉強して、ことり様とのデートを実現させるんだ!!」

「ことりが絡むと相変わらずですね……まだ、ことり本人から許可も貰っていないのに」

 

 一人勝手に盛り上がる和希に、海未は大きなため息をつく。そしてぷいっとそっぽを向いた。

 

「どうしてことりばかり……ばかっ」

「ん? 何か言ったか?」

「別に、なんでもありませんよ。それより、勝負するということで問題ありませんね?」

「当たり前だ。男に二言はないよ。後、俺が負けた時には、何でも一ついう事を聞くってことで大丈夫か?」

「問題ないですよ」

「あれあれ~。二人して何話してるの?」

 

 あっまあまな声に振り向くと、ほんわか笑顔を浮かべることりが。その隣にはどういうわけか、げんなりとした顔をしている穂乃果も一緒。

 

「いや、テストの点数で勝負しようって、海未と二人で話をしてたんだ。勝ったほうに報酬付きで」

「あっ、それ面白そう! ことりもその勝負に参加してもいいかな?」

 

 報酬という言葉につられたのか、「はいはーい!」と、ことりが手を挙げる。もう、その仕草だけで悶え苦しむほどに可愛い。

 

「も、ももも、もちろんです!! それでですね、私がことり様に勝ったあかつきには、どのような報酬を……って、いたたたたたっ!?」

 

 わき腹に強烈な痛みが走る。なんだなんだと隣を見ると、むすっとした顔の海未と目が合った。

 

「んだよ、海未? 俺、今変なことしたか?」

「……別にっ!! ただ、和希があまりにも気持ち悪い顔をしていたので、イラッとしました」

 

 ぷっちーん。

 

「俺は現在進行形で、海未にイラッとしているんだが?」

「それはこっちのセリフです。いい加減夏にもなったので、そのふざけた金髪をどうにかするべきじゃないですか?」

 

 バチバチと、火花が散っているんじゃないかと勘違いするほど睨み合う俺たち。何度でも言うが、俺の金髪はアイデンティティだ。

 

「はぁ~。素直になれない海未ちゃんも、ついつい憎まれ口を叩いちゃう和希君も、見てて飽きないなぁ~」

 

 ことりは相変わらず、天使の笑みでにこにこしている。しかし、裏がありそうで若干怖い。

 

「まぁ、海未に対してイラッとするのはいつものことだし、気にしないことにして……それよりも、穂乃果。お前、どうかしたのか?」

 

 いつもなら、他人の会話を遮ってまで自分の存在をアピールする穂乃果が、今日に限って全く口を開いていない。

 

「だってぇ……和希くぅーん!!」

「おわっ!?」

 

 突然抱き付いてきた穂乃果を、何とか受け止める。どうでもいいけど、胸が当たっていた。穂乃果って意外とある……すごーく心臓に悪い。ドキドキしちゃう。

 

「どうしたんだ、穂乃果?」

「先生が、次のテストで全教科30点以上取れなかったら、赤点にして夏休み補習だっていうんだよ!! おかしいと思わない?」

「いや、まったくおかしいとは思わない。むしろそれが普通だと思う」

「酷いよっ!!」

 

 おっと、先生の言い分が正論すぎて思わず本音がぽろりしてしまった。それにしたって、平均30点以上をとれないと喚いているだなんて……。こりゃ、相当まずい状況だな。

 

「穂乃果、来年からはきっと違う学年になると思う。でも、俺は穂乃果がもう一度、一年生をやり直すとしても、俺はずっと友達だ」

「その笑顔がすごく心に刺さるよ!?」

 

 清々しいほどの笑顔を浮かべる俺に、穂乃果が涙目になって「嫌だよぉー。穂乃果も一緒に進級したいよぉー」と、さらに身体を密着させてきた。

 犬っぽいけど、犬ではない。だって本物の犬は、こんないい匂いしないもん。

 

「分かった、分かったから。俺が勉強見てやるから、取り敢えず離れろ!!」

「えっ! いいの?」

 

 キラキラと穂乃果が目を輝かせる。勉強を教えると言った途端にこの態度……なんて現金なやつだ。

 

「でも、和希君って不良だし、頭よくなさそうだよね。もしかして、穂乃果より悪かったりする?」

「……おい、海未。穂乃果に現実を見せてやれ」

「分かりました。穂乃果、これが現実ですよ」

 

 そう言って海未が、テストの結果用紙を穂乃果に見せる。ついでにことりも覗き込んできた。そして、

 

「わぁ! 和希君って勉強できたんだね!」

「酷いよ、和希君! 穂乃果、和希君がバカだって信じてたのに!! バーカ、バーカ!」

「残念だったな。俺はお前とは違う。現実をしっかり受け止めろ」

 

 ワーワーうるさい穂乃果に、達観した笑みを浮かべた。あなたとは違うんです。

 

「まぁ、取り敢えず俺が穂乃果に、勉強を教えてあげられるだけの学力が確認できたところで、勉強はどこでやろうか? 別に学校の図書館でもいいんだけど」

「うぅ、和希君が勉強できるだなんて……。神様は不公平だよ」

「いつまでもぶーぶー言ってるんじゃねぇ。文句を言っている暇があったら、早速勉強会を始めるぞ」

「あっ! それなら穂乃果の家でやろうよ!」

「そりゃ別に構わないけど、親御さんは大丈夫なのか?」

「うん、ぜんっぜん大丈夫。よしっ! そうと決まればレッツゴーだよ! 海未ちゃんも、ことりちゃんも!」

 

 グイグイと、元気な穂乃果に引っ張られ、そのまま学校の外へ。というか、ことりと海未も一緒に勉強するのね。

 

「和希、本当に良かったのですか? あなた自身の勉強もあるのに」

 

 穂乃果家への道を歩いている最中、海未がそう訊ねてくる。少しだけ申し訳なさそうな声。

 

「人に教えてやった方が自分の理解も早く進むしな。別に問題ないよ。それに、自分の分の勉強は夜にでもやればいいし」

「それならいいのですが……」

 

 真面目な海未のことだ。きっと俺が穂乃果に勉強を教えることによって、不公平が生じるのではないかとでも思っているのだろう。

 

「いいんだよ。お前は何も気にしなくて。それに、海未が俺に勝つためには、多少なりハンデは必要だろ?」

「……あなたは相変わらずですね」

 

 困ったような、だけど少し嬉しそうな顔で海未が微笑む。

 柔らかなその笑顔は、俺にとって完全に不意打ちだった。畜生、海未のくせに……。

 

「あぁ! 海未ちゃんと和希君が穂乃果たちを放っておいて、イチャイチャしてる!!」

「なぁっ!? い、イチャイチャなんてしていません!!」

「穂乃果知ってるよ! そうやってムキになって否定するところがすごく怪しいって!!」

「俺たちの関係を怪しんでいる暇があったら、お前は目の前のテストに集中しろ」

「和希君、海未ちゃんとイチャイチャしていたことに関しては否定しないんだ」

「ことりさん、それ以上は勘弁してください……」

 

 ことりと穂乃果、両方にいじられつつ、俺たちは穂乃果の家へと歩いていくのだった。

 




 今回も読了ありがとうございます。感想や、評価等、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
 それにしても、ほのことうみの三人と一緒に勉強とか、絶対集中できないですね。いろんな意味で。
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