真面目な彼女の家に居候することになった 作:グリーンやまこう
「ここが穂乃果の家だよ!」
そう言って穂乃果が指差す先には、和菓子屋『穂むら』と書かれた看板。えっ、なに? 穂乃果の家ってここなの? 全然、話についていけていないんだけど!?
「穂乃果ちゃんの家に来るのって、久しぶりだなぁ」「確かにそうですね。最近は部活やその他の活動が忙しくて、遊ぶ暇もなかったですから」
戸惑う俺とは対照的に、海未もことりもスタスタと穂むらの中に入っていく。
ちょっと待って! 意味がよく分かってない俺を置いていかないで!!
「なぁ、穂乃果。お前のうちって本当にここなの? 和菓子屋なの?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 穂乃果の家、和菓子屋なんだ。まぁ、そんな事どうでもいいから、入って入って!」
初耳ですという暇もなく、グイグイと背中を押されて俺も店内に入る。
「あっ、穂乃果。海未ちゃんとことりちゃん、先に穂乃果の部屋に通しといた……って、あら?」
そこで店内にいた女性と目が合った。多分、穂乃果のお母さんなのだろう。
「初めまして。穂乃果たちの友達で、真嶋和希です」
簡潔に挨拶をして、俺は頭を下げる。取り敢えず、海未の家に居候しているというのは言わないでおいた。
なぜって、そりゃ男が女の家に居候しているなんて、世間的に見たらあまりいい気分にならないだろうし。それに居候の件を勝手に言うと、海未に怒られるかもしれないからな。
「お母さん、この人が海未ちゃんちで居候している和希君だよ!」
オイコラ、穂乃果てめぇ! 俺の気遣いを返せ! 気遣いは日本人の美徳だぞ。
「あぁ、この子が。睦未さんから色々と話は聞いてるわよ。何でも、『海未に最適なお婿さん候補が来てくれて嬉しい』って」
オイコラ、睦未てめぇ!! 勝手なことを……おっと、あまりに驚きすぎて、穂乃果と同じようなことを考えてしまった。
それにしたって酷すぎる。色々って、一体何を話したんだろう? というか、海未に最適なお婿さん候補って……。俺じゃなく、海未にダメージが大きい気がする。
「えっと、穂乃果のお母さん。すいませんが、睦未さんの言う事は9割方嘘ですので、鵜呑みにしないで――」
「聞いてよ、お母さん。和希君ってば、今日も穂乃果たちの事を放っておいて、海未ちゃんとイチャイチャしてたんだよ?」
バカやろう!! お前は地雷を自ら踏まないと気が済まないのか!? またしても余計なことを言いやがって。
「あらあら、やっぱり海未ちゃんとはそういう関係なのね」
ほらみろ。お前のお母さんが俺を見て、ニヤニヤし始めたじゃないか! あぁ、否定するのも面倒になってきた。
「穂乃果? そんなところで何を話しているのですか?」
はい、もうタイミングばっちりです。ありがとうございます。
穂乃果の部屋から降りてきたらしい海未に、俺はため息をつく。こいつら全員、裏で手を組んでるんじゃないだろうな? そう思えるほどのタイミングである。
案の定、穂乃果のお母さんは海未をみて、さらにニヤニヤし始めたし……。
「ねぇねぇ、海未ちゃん」
「はい、なんですか?」
「いつから和希君と付き合ってるの? というか、どこに惚れたの?」
穂乃果のお母さん(面倒だから穂乃果ママにしよう)の言葉に、海未の顔がボッと火が付いたように真っ赤になる。
「な、なな、ななな、何を言っているのですか!? 私は和希となんか付き合っていません! こんなダイオウグソクムシと同等の価値しかない、和希なんかと付き合うだなんて、ありえません!!」
「誰がダイオウグソクムシと同等の価値だ!! 俺は深海のお掃除屋さんじゃないぞ!?」
そもそも、ヒトとダイオウグソクムシとを比べないでほしい。相手にも失礼だし、もちろん俺にも失礼だ。
別に、どっちが上の立場とは言わないけどさっきの言葉、地味に俺の心を引き裂きましたからね? 比べるならせめてヒトと比べろ、ヒトと!
「ほらっ! 和希も、穂乃果も行きますよ! ただでさえ時間が乏しいのですから」
これ以上追及されたくなかったのだろう。海未が俺たちの手を引いて、穂乃果の部屋へと引っ張っていく。
うんうん、素晴らしい危機回避だ。……さっきからグソクムシに引きずられている気がしてならない。あっ、これはポ〇モンの方だった。
「海未ちゃん、何か進展があったらちゃんと聞かせてね」
「進展なんてありません!」
海未も律儀に返事をしなきゃいいのに……。まだ一分も勉強していないのに、既に疲れている。体力のなくなった自分に、思わずため息が出るのだった。
☆ ★ ☆
「さて、取り敢えず……何からやるべきか」
海未から穂乃果の惨状については聞いている。しかし、やみくもに手を付けていては絶対に終わらない。なので、優先順位をつけて勉強していかなければ……。
適当にやって、30点以上取れなかったその瞬間、穂乃果は赤点決定。補習も決定である。
「ちなみに、穂乃果は何が得意なんだ?」
「うーんと……体育は得意だよ!」
「俺は勉強の話をしてるんだよ!!」
この子バカなの? イラッとしたので、穂乃果の頭を一分間ほどぐりぐりとする。解放した穂乃果は若干涙目だった。
「うぅ……頭が割れそうだよぉ」
「自業自得だ。それよりも、得意な教科は?」
「現代文とか、歴史とか……」
「なるほど。完全な文系タイプだな。それじゃあ、今日は数学をやろう!」
「どうしてそうなるの!?」
涙目のままツッコむ穂乃果。うーん、なんだか悪いことをしている気分になる。
「いや、全教科30点以上取らなきゃならない以上、苦手な科目を重点的にやっとかないと、どうしようもないだろ? それに、得意な科目なら気合で何とかなる」
「まさかの精神論!?」
彼女は驚いているものの、テストまで残り一週間しかないのだ。それくらいしないと、彼女の絶望的な数学と科学、物理の点数はどうにもならない。
特に酷い数学は、今のうちからしっかり対策しないと大けがをしかねないのである。
「和希の言うことに賛同するのは非常に癪ですが、今回ばかりは彼の言う通りです。そうしなければ、流石に間に合いません」
「お前さぁ、俺の事を馬鹿にしないと気が済まない病気なの?」
そろそろ本格的に泣いちゃうよ?
「ちなみに、ことりは前回の中間、何点くらいだったの?」
「うーんと、私は平均70点くらいだったかな。私も数学がちょっと苦手で」
「大丈夫、大丈夫。ことりの苦手は穂乃果の苦手と雲泥の差があるから」
「ことりちゃーん! 和希君がナチュラルに穂乃果の事を馬鹿にするよぉ!!」
「あ、あはは……よしよし、穂乃果ちゃん」
バカにされてショックを受けたのか、穂乃果がことりの胸に顔を埋める。くそっ、なんてうらやま……怪しからんやつなんだ。
「泣いててもしょうがないし、そろそろ勉強を始めるぞ。ほらっ、さっさと教科書を出した出した」
俺の言葉に、穂乃果が渋々教科書を取り出し始める。よっぽど数学の勉強をやりたくないらしい。
「あれ? 和希君。数学の教科書は?」
「数学なんて、問題集解いてれば十分だから捨てた。今日だって、穂乃果のを見ればいいし」
「…………へ、へぇ」
「すいません、ことり。和希はこういう人なんです。慣れてください」
教科書捨てた発言に絶句することり。そんな顔も可愛いなぁ。
「そんなわけで、早速勉強を始めるぞ。まずは、穂乃果。分からないところを教えてくれ」
「分からないところって言われても……穂乃果、分からないところが分からないよ」
「…………ほ、ほぉ」
「すいません、和希。これが穂乃果なんです。慣れてください」
ぜ、前途多難すぎて発狂しそうである。でも、勉強を見ると言った以上、最後まで付き合うしかないんだよな……。心の中だけでため息をつく。
その後三十分以上かけて、まずは穂乃果のわからないところを探して、それからようやくテスト対策が始まったのだった。
☆ ★ ☆
「す、数式が……数式が頭の中をうろうろしてるよぉ」
「うろうろって、どんな状況だよ。まぁ、やった数式が全部抜けてるよりは、よっぽどましだ」
机に突っ伏す穂乃果に、俺は苦笑いを浮かべる。
「テストの数学なんて、数をこなせば絶対にできるようになる。英語とか現代文よりよっぽどましだぞ?」
「それは和希君だから言えるんだよぉ……穂乃果は二度と数式なんて見たくない」
嫌だ嫌だと首を振る穂乃果。こりゃ、毎日でも付き合ってやらないと、マジで30点に届かないかも……。
「ねぇねぇ、和希君」
どうしたもんかと悩む俺の制服を、ことりがくいくいと引っ張る。その仕草は非常にまずいですよ。可愛くて!!
「はいっ! なんですかことりさん!?」
思わず興奮気味に振り向く。案の定、困ったような、若干引いたような顔をされ、冷静になる俺。
うーん、ことり相手だと、どうしてこうなってしまうんだ?
「えっと、私も数学で一つ聞きたいところがあるんだけど……」
ことりが指差した問題に目を通す。
「あぁ、これは、まずはこうして……最終的にこうやって解くんだよ」
「なるほど! 流石和希君! 教えるの上手だね」
「い、いやぁ……それほどでも」
あぁ、これはまずい。顔がにやける。ことりさん、マジで天使。
「…………」
ギュゥウウウウウウウ!
「いたたたっ!? なんだよ一体?」
「私も一問だけ、あなたに教えてもらいたいところがあって。なので呼びました」
「普通に呼べ、普通に!!」
「それで、この問題なんですけど――」
「答えを見てやり方を確認しろ。以上!」
「私だけ雑すぎませんか!?」
俺の返答は雑なんかではなく、効率的と言ってほしい。ただでさえ穂乃果の相手で手一杯なんだ。
隣でギャーギャーうるさい海未を放っておき、俺は立ち上がる。
「なぁ、穂乃果。トイレってどこだ?」
「部屋を右に曲がったところの突き当りにあるよ~」
「了解。ちょっとお借りします」
そう言って用を足すために、穂乃果の部屋を出る。そしてすることを済ませ、部屋に戻ろうとしたところで、
「あっ、どうも」
部屋から出てきた、穂乃果の妹さんらしき女の子に頭を下げられた。慌ててこちらも頭を下げる。
「どうも。穂乃果の友達で、真嶋和希です。えっと、穂乃果の妹さんで合ってるのかな?」
「はい、そうです。穂乃果の妹で、高坂雪穂と言います」
赤みがかった茶髪に、ツリ目。それに、しっかり者だという事が今の会話だけで分かる。何というか、あんまり穂乃果と似てないな。
「えっと、真嶋さん」
「俺の事は和希でいいよ。みんなそう呼んでるし」
「あっ、はい。それじゃあ、和希さん。今日はどうしてこんなところに? 後、私の事も雪穂で構いませんから」
疑問符を浮かべる雪穂ちゃんに、今日高坂家にお邪魔した経緯を説明する。
「それは何というか……すいません。うちの姉がだらしないせいで、和希さんに大変なご迷惑を……」
「いやいや、雪穂ちゃんが謝ることじゃないから大丈夫だよ。それに俺も教えるついでに、復習が出来るから一石二鳥だし」
やっぱり、雪穂ちゃんは姉と違ってしっかりしているなぁ。それにどことなく、クールである。
元気いっぱいな穂乃果を太陽とすれば、少しクールでしっかり者の雪穂ちゃんは月ってところかな?
「私が言える立場ではないですけど、これからも姉のことをよろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げる雪穂ちゃん。うーん、やっぱり真面目だ。
「どうなるか分からないけど、取り敢えず任されました」
ニコッと雪穂ちゃんに微笑むと、彼女もぎこちないながらも笑顔を浮かべてくれた。そのまま彼女と別れ、穂乃果の部屋に戻る。
「遅かったね、和希君。迷っちゃった?」
「いや、部屋に戻る最中、穂乃果の妹、雪穂ちゃんに会ってな。少し話してたんだ。穂乃果とあまりにも違うもんだから驚いたよ」
「ちょっとそれどういう意味?」
穂乃果がぷくっと頬を膨らませる。あざといなぁ。可愛いからいいけど。
「ほんと、穂乃果に少しでも雪穂のしっかりさがうつればいいものの……」
「海未ちゃんまで酷いよ!」
性格的に、海未と雪穂ちゃんは話が合いそうである。お互い真面目だし。
その後、穂乃果のやる気を何とか阻害しないよう注意を払いながら、俺たちは勉強を続けていったのだった。
☆ ★ ☆
そしてテストの前日となった日曜日。
俺はテスト前、最後の追い込みと称して勉強に励んでいた。穂乃果は……うん、何とかなるだろう。そんなわけで明日の教科を勉強していると、
トントン
部屋の扉が控えめにノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
コーヒーを持った海未が俺の部屋に入ってきた。
「お母さまが和希にって」
「おう、サンキューな」
海未から受け取ったコーヒーに口をつける。
何となく、園田家はコーヒーとか飲まなそうなので、実際に初めて出された時には驚いてしまった。最近はもう慣れたが、やっぱり先入観とは恐ろしいものである。
ちなみに味は……うん、俺の好みのブラックだ。猫舌の俺には少し熱いけど。
そんなわけで、俺がちびちびとコーヒーを飲んでいると、海未がいつまでたっても部屋から出ていかないことに気付く。
「どうした? 部屋に戻らないのか?」
「いや、その……」
俺の問いかけに、海未はもじもじと恥ずかしそうに視線を逸らす。
「トイレなら早く行ったほうがいいぞ。それとも、この年になってトイレに行くのが怖いとか言わないよな? そんな事言ったら俺はドン引きです」
「と、トイレくらい一人で行けます!! バカにしないで下さい!」
「じゃあ、なんたっていつまでも俺の部屋に居座ってるんだよ?」
「うぐっ……そ、それは」
再び言葉に詰まる海未。そしてしばらくの間、「うぅ~」とうなった後、ようやく口を開いた。
「……えてほしいです」
「はい? ワンモアプリーズ」
声が小さすぎて全く聞き取れなかった。
「だ、だから、勉強を教えてほしいんです!!」
「……はっ? 勉強?」
素っ頓狂な声で聞き返してしまう。だって、明日テスト本番だよ? この時期になって分からないとか結構やばくない?
「そうです、勉強です! どうしても一問だけわからなくて。答えを見てもやり方まで載っていなくて、その……」
どんどんと声が尻すぼみになっていく。普通に頭のよい海未が俺に尋ねてくるだなんて、よっぽど難しい問題なのだろう。
「ただでさえ、和希は穂乃果に勉強を教えていて時間がないのに……でも、何度解き方を確認しても答えが出なくて、困ってしまったんです」
悲し気に目を伏せる海未。
どうやら教えてほしいと言い出せなかったのは、俺に教わるのが屈辱とかそんな理由じゃなく、俺の勉強時間を気にしていたかららしい。
こいつ、普段は俺の気持ちを気にせずばんばん悪口を言ってくるくせに、こんな時ばっかり余計な気をまわすんだよな。
「分かった、分かったから。そんな悲しそうな顔するなって。俺もちょうど一息ついたところだったし、一問くらいなら大丈夫だよ」
俺がそういうと、ぱぁっと彼女の顔が明るくなる。なんだかんだ、こいつも穂乃果と同じくらいに分かりやすい。
取り敢えず勉強机では教えにくいので、小さな机を取り出して部屋の真ん中に広げる。
「それでどの問題なんだ?」
「えっとですね……この問題なんですけど」
海未が指し示したのは、とある数学の問題。
「あぁ、この問題な。俺も難しくて手間取ったんだよ」
今回のテスト範囲の中で、一番難しいと言っても過言ではない問題だ。海未が苦戦するのも無理はない。
ちなみに穂乃果には、もちろん時間の無駄なので諦めろと言っておいた。こんな問題を解くだけ無駄だし、基礎問題を解いていたほうがよっぽど点数が取れる。
それにしても、穂乃果はちゃんと勉強してるのかなぁ? お父さん心配だよ。まぁ、穂乃果のことはいいとして、
「この問題はな、ちょっとしたコツがいるんだよ。今から説明していくから」
「はい、わかりました」
そう言って、海未が覗き込むようにして俺のノートを見つめる。垂れてきた髪を耳にかける仕草が妙に色っぽくて、思わず生唾を飲み込んでしまった。
「どうしたんです、和希?」
「い、いや、何でもない。えっとそれで解き方なんだけど」
キョトンと首をかしげる海未に、何でもないと手を振りつつ、俺は丁寧に問題の解説をしていく。
しばらくの間、難しい顔で説明を聞いていた海未だったが、どうやら理解できたらしい。
「なるほど、こうやって解くんですね。納得できました!」
「理解が早くて助かるよ。穂乃果とはえらい違いだ」
「全く、そうやって穂乃果を馬鹿にすると、後で怒られますよ?」
そう言って海未が咎めるものの、いつもに比べたら全然怖くなかった。むしろ、今の状況を楽しんでいるようにも思えてくる。
「……あの、和希」
すると海未が、ちょいちょいと服の袖を引っ張る。正直、普段とのギャップにより、滅茶苦茶ドキッとしたのは内緒。
「和希がいいならですけど……今日は和希の部屋で勉強してもいいですか?」
「……なんで?」
思わず素の声でツッコんでしまった。そんな俺に、海未があわあわし始める。
「い、いえ、その、決してあなたの邪魔をするつもりはなくて、また分からない問題が出てきたら嫌だと思いまして。和希次第ですけど、ここにいれば分からなくなってもすぐに聞けますし……だ、だから、変な気は全然ないんです!」
「そういうことだったのね。まぁ、いいよ。俺もいちいち来られるよりは楽だしな」
「あ、ありがとうございます!」
俺の返事に再び顔を輝かせる海未。本当に分かりやすいことで。
そのまま海未は、教科書とノートを広げて勉強し始めた。そんな彼女に倣って、俺もやりかけだった問題集をもう一度開く。
そのままの状態で一時間ほどが経過しただろうか? きりがいいところで一度大きく伸びをした俺に、海未が声をかけてくる。
「和希って、勉強するときだけは眼鏡をかけるんですね」
「普段の視力でも、全然問題ないんだけどな。かけたほうが若干見やすいってのと、あとは気分。眼鏡をかけてたほうがやる気になるだろ?」
「眼鏡をかけたほうがやる気になるって、あなたらしい理由ですね。それなら普段も眼鏡をかけてください」
「流石に普段からは嫌だよ。金髪にピアスに眼鏡とか、キャラの大渋滞を起こすしな」
たまにいるけどな。不良でも眼鏡かけてるやつ。俺からして見れば、真面目なのか、真面目じゃないのか分からないので、はっきりしてほしい。そう思っている。
「確かに、それもそうですね。ただでさえ、和希はキャラが濃いですから」
「キャラが濃いってどういう事だよ?」
「不良で、変態さんで、ことりに目がなくて、素直じゃなくて、授業を真面目に受けなくて、私のいう事を全く聞かなくて……」
なんだよこの悪口祭。しかし、彼女の言葉にはまだ続きがあって、
「だけど、私のピンチを助けてくれて、困った時には文句を言いながらも手伝ってくれて、今だってこうして勉強を見てくれて……そんな優しさを持った、憎みたくても、憎めないキャラです」
妙に色香を帯びた口調で、海未が囁くようして呟く。最後の言葉がなんとも彼女らしい。それでも、少しだけ嬉しいと感じてしまう自分がいた。
「……確かにこうしてみると、俺ってめちゃくちゃキャラ濃いな」
「…………」
返事が返ってこない。チラッと海未の顔を確認すると、
「……すぅ……すぅ」
「寝てんじゃねぇか……」
既に彼女は夢の中へと旅立っていた。スマホで時間を見てみると、いつの間にか11時半を回っている。
「そういえば海未って、寝るの異常に早かったな」
この前、「寝るのはやっ! おばあちゃんかよ」ってツッコんだら、普通に怒られた記憶がある。
そんな海未がこんな時間まで起きているのは、流石に無理があったのだろう。今は気持ちよさそうに、むにゃむにゃ言っていた。
「こうしてみると、普通に美人なんだよな、海未って」
眠る海未の頬をつんつんとつつくも、全く起きる気配がない。
長い睫毛に、さらさらとした黒髪。肌もきめ細かくて……頼むから、普段もこれくらい静かにしてほしいものである。
「それにしてもさっきのセリフ、多分寝ぼけてたんだろうな」
理性のある状態なら俺に対してあんなこと、絶対に言わないだろう。何というか、舞い上がって損した気分だ。
「うーん、こんなところで寝られても困るし、取り敢えず俺の布団にでも寝かせよう」
彼女の部屋は、俺の部屋から少しだけ距離がある。その為、海未を部屋に運んでいくよりは、俺の部屋で寝かせたほうがよっぽど楽なのだ。
海未を起こさないよう机を片付け、慎重に布団をセッティングする。
「よっと」
貧弱な俺でも持ち上がる程、華奢な海未の身体を横抱きにする。ずっと持ち上げてるのは無理だけど、それにしたって軽い。本当にちゃんと飯食ってるのか? そのまま彼女を布団に寝かせて、掛け布団をかける。
「……さて、俺は勉強の続きでもしますか」
その後勉強机に移った俺は、一時間ほど勉強を続け、いい感じにテスト範囲を終わらせることができた。
あくびを噛み殺しつつ、布団で眠る海未に視線を移す。
「……すぅ……すぅ」
彼女は相変わらず、気持ちよさそうに寝息をたててていた。
「んぅん……」
くぐもった声を上げ、寝返りをうった海未の体勢が少し変わる。そのせいか、若干服装が乱れ、見えてはいけないものが見えてしまった。
「……あぁ、もう!」
無防備なその姿に俺はガシガシと頭をかく。青い色をした何かなんて、決して見ちゃいない。
流石にこのままではまずいので、なるべく海未のほうを見ないようにして布団をかけ直した。
「今日は机に突っ伏して寝るか」
本来なら予備の布団を出して寝ているところだが、今日ばかりは仕方がない。疲れは取れないけど、明日の朝、シャワーを浴びれば何とかなるはずだ。
それに朝起きて海未の顔が真横にあるとか、悪夢を見るよりも怖い。というか、先に海未が起きたら、状況を理解しないうちにぶん殴られそう……。
そんなわけで俺は机に突っ伏した。
(明日のテスト、大丈夫かな。……特に穂乃果)
しかし、彼女の心配をしている暇もなく、俺の意識は睡魔によってのみ込まれたのだった。
☆ ★ ☆
「んっ……」
目を開けると、いつもとは違う天井が視界に広がる。
あれっ? ここはどこでしょうか? 確か昨日は和希の部屋で勉強をしていて……。和希の部屋で……。
「っ!?」
色々と思い出した私は、勢いよく起き上がる。この布団は私の物ではありませんし、そもそも布団に移った記憶もありません。
恐らく和希が自らの布団を敷き、そこに眠ってしまった私を運んだのでしょう。そんなわけで乱れた服装を戻しつつ、きょろきょろとあたりを見渡すと、
「ぐぅ……ぐぅ……」
勉強机に突っ伏すような形で眠っている、和希の姿が目に入った。私は布団から出ると、和希の元に近づきます。余程ぐっすり眠っているのか、私が近づいても起きる気配はありません。
「……こんな所で寝ると風邪をひきますよ?」
その背中に優しく布団をかける。一瞬だけもぞもぞと彼が動きましたが、すぐにそれも収まり、再び規則正しい寝息が聞こえてきました。
「……昨日はありがとうございました。勉強を見てくれただけでなく、私を布団に寝かせてくれて。また一つ、あなたに借りができてしまいましたね」
彼のことは、相変わらず好きになれません。服装は乱れていますし、授業は真面目に受けないないし、ことりにはデレデレしますし、穂乃果には甘いですし……。
でも、完全には嫌いになれません。だって和希は、
「たまに優しくて、そのたまにが、抜群にかっこいい……って、私は何を考えてるんですか!?」
思わず恋する乙女のように、うっとりと呟いてしまいました。彼の優しさが心に響くのは、普段とのギャップが激しいからです。
ま、全く、普段から優しくしていれば私がドキドキすることもないのに……。
「和希はずるいです」
そう言って、彼の頬をつんつんと指でつつく。い、意外とやわらかいですね。男のくせに……。
たっぷり1分ほどつんつんした後、私は彼の耳に顔を寄せる。
「聞こえるわけないですけど……今日のテスト、頑張りましょうね」
小さな声で囁いた私に、彼の口元が少しだけ緩んだ気がしました。
☆ ★ ☆
ちなみにみんな気になるテストの結果は、
俺、全教科平均86点。海未、全教科平均83点。穂乃果、全教科平均40点(一応、30点切った教科は一つも無かった。やったね!)。
ことり、全教科平均90点。
「う、嘘だろ……」
ことりの点数に、本人を除く全員が絶句したのは言うまでもない。本人曰く、「ちょっと頑張っただけだよぉ」とのこと。
いやいや、ちょっと頑張ったくらいでとれる点数ではない。何というか、ことりの持つポテンシャルの高さを認識する、今回の期末テストだった。
その後、勝ったことりのお願いということで、四人仲良くケーキバイキングに行くことになったのだが、
「こ、ことりさん? 俺の見間違いじゃなければこの店、チーズケーキしか置いてませんよね?」
「うん、そうだけど何か問題でもあるの?」
「い、いやぁ~、流石にチーズケーキだけで二時間は持たないんじゃ……」
「大丈夫だよ♪ ことり、チーズケーキ大好きだから!」
胸の前で拳を握ることりとは対照的に、俺は早くも胃がもたれ始めた。いくらあっさりおいしいチーズケーキでも、二時間ぶっ通しで食べたら流石にまずい気がする。
「おい、海未に穂乃果。今からでも遅くないから、ことりを止めてくれ」
「諦めてください、和希。私たちは勝負に負けたんです」「ことりちゃん、チーズケーキには目がないからねぇ~。ファイトだよ、和希君!」
役に立たない幼馴染共め……。畜生、チーズケーキ二時間食べ放題とか、いろんな意味で拷問だよ。
結局勝負に負けたため、どうすることもできずチーズケーキバイキングがスタートし、
「あれ? 和希君、お皿にチーズケーキが乗ってないよ? はいっ、ことりが持ってきた分を分けてあげる」
「……うっぷ」
「わぁっ! 和希、出すならトイレに行って出してきてください」
「いっそのこと、チーズケーキを鍋にしちゃえばいいんじゃない? そうすれば流し込むようにして、たくさんのチーズケーキが食べられるよ!」
バカなことを言いだした穂乃果を無視してトイレに走る。
チーズケーキを鍋にすると言った瞬間、ことりの目が光った気がするけど、見なかったことにしよう。
結果として俺の心には、チーズケーキというトラウマが刻まれたのだった。
読了ありがとうございます。また、感想や評価等、いつもありがとうございます。