真面目な彼女の家に居候することになった   作:グリーンやまこう

9 / 27
 こんなに長くなる予定じゃなかった……。


9話 真面目な彼女と花火を見に行った

 俺の風邪も無事に完治し、数日が過ぎた。

 

 その間に、面倒な宿題を穂乃果と共に片付けたり(あの海未が俺に対して頭を下げてきたのである。何でも毎年夏休み最終日に穂乃果が「うわーん! うみちゃぁーん、宿題が終わらないよぉ」と泣きついてくるのが恒例行事なんだとか。その面倒ごとを避けるため、今年は俺に頼んで早く終わらせたかったらしい。面倒ごとは俺に丸投げですか、そうですか……)、ことりと一緒に改めてショッピングに行ったり、海未に怒られたりしていた。

 あっ、最後のだけは毎日の恒例行事だったっけ。

 

 そんなわけで既に夏休みも中旬。折り返し地点に突入していた。

 今現在、俺が何をしているのかといえば、冷房の効いた部屋に寝っ転がり、漫画を読んでいる最中である。

 ちなみに読んでいるのはるろうに〇心。うーん、俺も天〇龍閃をうってみたいものだ。もしくは九〇龍閃。最悪、二〇の極みでもオッケー。

 そんなわけで俺が、部屋に置いてあった棒のようなものを手に取り、飛天〇剣流の練習をしていると、

 

「あ、あなたは昼間から一体何をやっているのですか?」

 

 まるでダニを見るような視線を感じ振り向くと、そこでは海未が頭を抱えてこちらを見ていた。というか、今のシーン見られたよね? めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。

 まぁ、「天〇龍閃!!」と声に出していない分、よしということにしよう。

 

「いや、何でもないよ。ただ、改めて不殺を心に誓っていたところであって……うん、違います。ただ、漫画を読んでいただけなんです。だからそんな目で俺を見ないでェえええ!!」

 

 海未からの冷たい視線に耐え切れなくなった俺は、本当の事を話す。いやー、流石にメンタルがもちませんでしたわ。

 

「それで、一体どうしたんだ?」

「いえ、先ほど穂乃果とことりから、花火を見に行かないかと誘われまして。和希も誘っておいてほしいと言われたんです。私は正直、誘わずにこっそり見に行ったほうが面白いと思ったんですけどね」

「そんな事をしてみろ。俺は毎晩、海未の部屋の前ですすり泣いてやるからな」

「何ですかその地味すぎる嫌がらせは……」

 

 俺の言葉を聞いて、あきれた様子の海未。だけど、本当に俺だけハブられた日には、孫の代まで呪ってやるからな。

 

「まぁ、流石にあなたを一人のけ者にするようなことはしませんから、安心してください。それでですね、場所と時間なんですけど……」

 

 聞くところによると、園田家から30分程度の場所で行われるらしく、地元の人たちも沢山来て、それなりに盛り上がるらしい。

 花火を見に行くだなんて、かなり久しぶりのことである。なんだか楽しみになってきた。ことりと穂乃果とも一緒だし。一名、おまけがいるけど。

 

「お母さまには既に話を通してありますから。お小遣いも貰いましたし」

 

 そう言って5千円札を二枚取り出す。

 ちょっと待って。睦未さんや、お小遣いがちと多すぎやしませんか? 花火大会なんて、多くても2千円程度で十分な気がする。

 

「なぁ、海未。花火大会に5千円は流石に多すぎない?」

「私もそう言ったんですけど、お母様がきいてくれなくて……最悪、余った分は穂乃果たちに使ってもらうか、返しましょう」

 

 うーん、それでも絶対に余る気がするなぁ。まぁ、海未の言う通り余ったら返せばいい。

 ぶっちゃけ俺の楽しみは花火や出店よりも、穂乃果やことりたちと花火大会に行けるという事なので、お金のほとんどは返すことになるだろう。だけど、二人に貢ぐのも悪くないな。これで俺の好感度上昇はほぼ間違いない……ぐふふ。

 

「……何を考えてるのか知りませんけど、どうせロクなことを考えてないですよね?」

「……顔に出てた?」

「はい、はっきりと」

 

 半眼で俺を睨む海未から視線を逸らす。畜生、これで俺の考えていた「二人に貢いで好感度上昇作戦」が台無しになってしまった。

 これからは、マスクを着けて日々を過ごしたほうがいいかも……。その後はる〇うに剣心の続きを読んだり、武〇錬金を呼んだりしていると、

 

「やっほー、海未ちゃん! お邪魔しまーす!」

「海未ちゃん、今日はよろしくね♪」

 

 穂乃果とことりの声が、玄関から聞こえてくる。しかし、時間を確認するとまだ三時を回ったところだ。

 花火大会自体は5時から始まると聞いているし、いささか早すぎる気がしないでもない。なんて俺が首をかしげていると、ドタドタと騒々しい足音が近づいてきて……ノックもせず、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 

「和希君、元気?」

「少なくとも、お前よりは元気じゃねぇよ。後ノックをしろ、ノックを」

 

 ちょっとエッチな漫画を見てたらどうするんだよ? あっ、でも穂乃果なら気にしなさそう。

 これが海未ならその本を八つ裂きにされて、最終的に俺も八つ裂きにされそうだ。

 

「和希君、こんにちは♪」

「おぅ、今日はよろしくな。それにしても、来るの早すぎないか? 花火大会が始まるのって、5時くらいからなんだろ?」

「あっ、今日はね、浴衣を着ていくことになってるんだ。それで浴衣って一人だと着方が良く分からないから、海未ちゃんに教えてもらおうと思って早く来たの」

 

 なるほど。確かに海未は着物を着てる時があるからな。

 浴衣と着物の違いはよく分からんけど、同じようなものなのだろう。

 

「二人とも、お母様を呼んできたので、こちらに来てください」

『はーい!』

 

 海未に呼ばれた二人は、返事をして俺の部屋から出ていった。海未だけでは時間がかかるのだろう。睦未さんも一緒に着がえを手伝うみたいだ。

 それにしても二人の浴衣姿。非常に楽しみだ。取り敢えず着替え終わったら、真っ先に写真を撮らせてもらおう。

 俺が妄想を広げ続けること約一時間。

 

「和希君、入るよー!」

 

 今度はちゃんと声をかけて(相変わらず返事は待ってくれないが)、穂乃果たちが部屋の中に入ってきた。

 

「えへへぇ~、どうかな?」

 

 そう訊ねてくる穂乃果はもう、抱き締めてあげたくらいに可愛い。

 髪の毛をお団子に纏め、普段とはまた違った印象与えてくれる。着ている浴衣は白地に水玉があしらわれ、金魚が描かれているものだった。

 

「そりゃもう、すごく似合ってるぞ。文句なしに可愛い!」

 

 もう少し気の利いた事を言えればよかったのだが、仕方がない。でも穂乃果はそんな感想でも喜んでくれたらしく、顔を綻ばせていた。

 

「和希君、ことりの浴衣はどうかな?」

 

 続いてことり。そのままでも十分なのだが、浴衣を着ることによってよりその可愛さが際立っている。

 彼女が着ていたのはピンクを基調にし、所々に桜? の花が散りばめられた浴衣だった。髪には編み込みなんかも入れており、結局可愛い。異論は認めない。

 

「もちろん、似合ってるよ。ことりらしくて、最高だ!」

 

 グッと親指を立てると、ことりはニコッと微笑んでくれた。鼻血が出そうです。さて、二人の浴衣を堪能したところで早速写真を……。

 

「あれっ? 海未ちゃんどうしたの、そんなところに隠れちゃって?」

 

 柱の陰に隠れる海未に、穂乃果が声をかける。

 ……やばい。二人の姿を写真に収めたい一心で、海未の事を完全に忘れていた。まぁ、適当に褒めとけば大丈夫だろ。

 そんなわけで、俺は海未を呼ぶ。

 

「おーい、海未。そんなところに隠れてないでこっちに来いよ。本当なら穂乃果とことりの浴衣姿で十分だけど、特別に今回だけは褒めてやるから」

「あなたは一体何様なんですか……」

 

 首から上だけを出した状態で、海未がため息をつく。何でもいいけど、早くしてほしい。

 俺はことりと穂乃果の姿を写真に収めたいんだ!

 

「ほらほら、海未ちゃん。どうせみられるなら早い方がいいでしょ?」

「わっ! こ、ことり!?」

 

 ことりに背中を押された海未が、柱の陰から出てくる。その姿を見た俺は……少しの間彼女に見惚れてしまった。

 

「……み、見てるだけじゃなく、何か言って下さい!」

 

 海未が、浴衣の帯を手で握り締めながら叫ぶ。

 そんな彼女の着ている浴衣は淡い水色を基調とし、青と紫の朝顔が浴衣のいたるところで花を咲かせていた。髪もいつもとは違い、ハーフアップに纏めている。

 元々和装が似合う海未なのだが、その中でも今着ている浴衣は一番似合っていると言っても過言ではなかった。

 

「い、いや悪い。普通に似合ってたから見惚れてたんだよ。お前って、浴衣めっちゃ似合うな」

 

 思ったことをそのまま口にすると、海未の顔が真っ赤に染まる。

 

「な、ななっ!?/// あなたは急に何を言っているのですか!?///」

「急にも何も、思ったことを言っただけだよ。普通に似合ってんじゃん、その浴衣。俺、変なこと言ったか?」

「へ、変なことはいっていませんけど……。普段は絶対にこんなこと言わないくせに……ずるいです」

 

 顔を真っ赤にしたと思ったら、俺に聞こえないような声でぶつぶつと呟く海未。変な奴だなぁ。

 

「和希君って突然素直になるから、ある意味怖いよね。特に、和希君から褒められ慣れてない海未ちゃんにとっては」

「だけど、案外その方がいいかもしれないよ。海未ちゃん、自分の気持ちに気付いてなさそうだし」

「確かに……海未ちゃん、そういうのに疎いからねぇ~」

 

 こらこら、そこの二人。俺に隠れて、コソコソ話し合うんじゃない。嫌われてると勘違いしちゃうじゃん。

 

「それじゃあ三人の着がえも済んだことだし、そろそろ行こうか?」

「えっ? 何言ってるの和希君。まだ、和希君の着がえが済んでないよ」

「はいっ? 俺の着がえ? 別に俺は今の格好で十分――」

「穂乃果ちゃん、和希君を捕獲して!」

 

 適当な理由を付けて断ろうとした俺の体を、穂乃果が文字通り捕獲する。背中には何やら柔らかい感触。……うん、発展途上ではあるが、小さすぎもしない、実に良い理想的なおっぱいだ。

 じゃなくて、早く振り払わないと。しかし、どこからそんな力が湧いてくるのか、穂乃果を全く振りほどけない。

 

「よしっ、穂乃果ちゃん。そのまま和希君を連れてレッツゴー!」

「レッツゴー!!」

「おいっ、穂乃果にことり。流石に無理やりすぎだろ!? 俺はこのままの格好で十分なんだ! 海未も何とか言ってやってくれ!」

「和希、諦めてください。こうなったことりは、もう誰にも止められません」

 

 達観したような海未の声を背に、俺はずるずると引きずられていくのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「はい、完成♪」

 

 楽しそうなことりの声と共に、俺はようやく彼女たちから解放される。畜生、着たくないって散々駄々をこねたのに……。

 誰一人として味方がいなかったため、無理やり俺も浴衣を着る羽目になったのだ。というかなんだかんだ、睦未さんが一番ノリノリだった気がする。「これもいいんだけど、やっぱりこっちかしら?」という感じで。

 

 結局俺は、黒色を基調とした浴衣を身に纏っていた。

 

「わぁ~! 和希君、すっごく似合ってるよ!」

「はいはい、ありがとよ穂乃果。お世辞でも嬉しいぞ」

「もぅっ! お世辞じゃないってば!」

 

 俺の返事にプンスカと怒る穂乃果。やっぱり穂乃果は怒っても可愛いなぁ。

 

「ほんとだよ和希君。ことりから見ても、今の和希君は凄くかっこいいから安心して!」

 

 おいおい、目の前にいることりはただの天使かよ? いや、天使だったか。俺はことりに、かっこいいと言われるだけで昇天しそうです。

 

「海未ちゃんも和希君の事、かっこいいと思うでしょ?」

「……ま、まぁまぁですかね。ようやく人前に出れるようになったレベルです」

 

 腕を組みつつ、何故か偉そうに感想を述べる海未。その言い方だと普段の俺は、人前に出れないような恰好をしてることになるんだけど……。

 別に、ことりたちと同じく褒めろとは言わんが、せめてまともに評価してほしいものである。

 

「ふふふっ、海未ちゃんってば相変わらず、素直じゃないんだから」

 

 そっぽを向く海未の隣で、黒いオーラを出して微笑むことり。毎度のことなので気にしないようにしよう。

 彼女の本音を知ることは、世界の理を知ることより怖い気がするからな。触らぬ神に祟りなし。

 

「さて、そろそろ良い時間だし、花火大会の会場まで歩いていこうか?」

 

 浴衣を着るのに予想以上の時間がかかっていたらしく、時刻は既に5時を回っていた。

 

「和希の言う通りですね。あまり遅くなると、人がどんどんと増えて大変ですから」

 

 そんなわけで俺たちは園田家を後にし、花火大会の行われる会場まで歩いていく。海未たちが履いている下駄の、カランコロンという音が祭っぽくていい感じだ。

 ちなみに俺は草履。普通にスニーカーを履こうとしたら「雰囲気が壊れるから草履をはいてください!」とことりに怒られたため、草履をはいている。

 個人的には歩きやすいスニーカー、もしくはクロックスが良かったんだけどね。ことりに怒られちゃ、仕方がない。

 

 そのまま、海未たちの後をついて歩いていくと、花火大会の会場に到着した。花火自体は7時からなのだが、もう既にそこそこの人で賑わっている。

 

「うわぁ! 出店も一杯だね! ねぇ、和希君、まずはあれからやろうよ!」

「お、おいっ! 分かったから、そんな強い力で引っ張るなって!」

 

 グイグイと穂乃果に引っ張れていくと、彼女はまず射的屋の前で足を止めた。

 

「和希君、どっちが沢山景品を落とせるか勝負しようよ!」

「いいけど、射的ってあんまりやったことないんだよな~」

 

 というか、当たっても全く倒れないという印象がある。だけど、穂乃果がやりたいっていうんだし、断る理由もないか。

 そんなわけで、俺は屋台のおじさんにお金を渡す。

 

「取り敢えず二人分で。海未とことりはどうする?」

「うーん、私は見てるだけでいいかな。一度だけやったことあるんだけど、全く当たらなかったんだ」「私も射的は苦手なので、今回は見ていることにします」

 

 二人は見ているだけになったので、俺と穂乃果の勝負となった。

 

「ふふふ……負けないからね、和希君! こう見えて、穂乃果は射的得意なんだよ?」

 

 立派なフラグが立ったところで、穂乃果が弾を詰め、小さなおもちゃに向けて発射。

 しかし、当たらない。二発、三発目と立て続けに発射するも、かすりもしていない。一体どこを狙っているのだろう?

 

「うぅ~……」

 

 涙目で穂乃果が唸っている。俺は一発も撃っていないが、流石にこれ以上は見ていられない。

 そう思った俺は穂乃果の後ろに回り込むと、彼女の身体を包み込むようにして両腕を掴んだ。

 

「俺が支えててやるから、あとはちゃんと的を狙って――」

「……和希君って意外と大胆だね?」

「んなこと気にしなくてもいいから、早く弾を発射しろ!」

 

 振り向いてニヤッと、悪い笑みを浮かべる穂乃果を一喝する。穂乃果には絶対小悪魔の気質がある気がしてならない。

 

「それじゃあ、行くよ! それっ!」

 

カコンッ

 

 穂乃果の撃った弾は無事、よく分からん小さなおもちゃに命中。そのまま後ろに倒れる。

 

「おめでとう、お嬢ちゃん。ほらっ、持っていきな」

「わーい! やったー! 和希君、見て見て! 取れたよ!!」

 

 おっちゃんから景品を受け取った穂乃果が、満面の笑みで俺におもちゃを見せてくる。何というか、手伝って良かったなと素直にそう思える笑顔だった。

 今どき、こんなピュアな女の子がいるだなんて。おじさんは涙が止まりません。

 

「それじゃあ今度は、和希君の番だね!」

 

 取り敢えず穂乃果の笑顔を守るため、俺は全弾当たりそうで外れるという絶妙なところに撃っておいた。

 

「あーあ、結局一発も当たらなかったな」

「それじゃあこの勝負、穂乃果の勝ちだね!」

「勝った穂乃果には、好きなものを一つ奢ってやる権利を授けよう」

「ほんと!? じゃあたこ焼き! ……あっ、そういえば射程のお金」

「あぁ、それも勝った権利の中に含まれてるから気にするな」

 

 ポンポンと穂乃果の頭を撫でると、彼女は再び無邪気な笑顔を浮かべる。いい、笑顔です。

 穂乃果の笑顔を見て癒されていると、ことりが俺の脇腹をつんつんとつついてきた。

 

「どうした、ことり?」

「和希君、さっきの射的、穂乃果ちゃんを勝たせるためにわざと全弾外したでしょ?」

「……さぁ、何のことやら」

 

 とぼけると、ことりは「やっぱり和希君は優しいね」といって微笑む。どうして女子ってこんなにも鋭いんだろうか? 

 その後は約束通り、たこ焼きを穂乃果にプレゼント。とってもいい顔でたこ焼きを頬張ってくれた。

 

「さて……あれっ? 海未はどこに行ったんだ」

 

 あたりをきょろきょろと見渡すと、海未がある屋台の前で立ち止まっているのが目に入る。

 あれは、りんご飴?

 

「おーい、海未」

「あっ、和希。すいません、勝手に離れたりして」

「いや、それはいいんだけど……それ欲しいのか?」

 

 りんご飴を指差すと海未は、「いいえ、そういうわけではないのですが……」と首を振る。

 

「昔、夏祭りでよく買ってもらったんです。その時には、お姉さまも一緒で……少し懐かしい気分に浸っていたんですよ」

 

 そういえば海未には年の離れた姉がいることを、ことりから教えてもらったんだっけ。

 恐らくこれは想像だけど……海未は姉のことが大好きだったんだろうな。少し悲し気に微笑む彼女にそう思う。

 

「なぁ、海未」

「はい、なんですか?」

「りんご飴、買ってやるよ」

「えっ?」

 

 俺は海未に許可を取ることなく、睦未さんからもらったお金……ではなく、バイトで稼いだお金を取り出す。

 何となく、自分のお金で買わないとダメな気がしたから。ちなみに、いい忘れてたけど、俺週二でバイトしています。

 

 そのまま屋台のおっちゃんにお金を渡すと、買ったりんご飴を海未に手渡した。

 

「ほらっ、大きい方でよかったか?」

「それは構いませんけど……本当にいいのです?」

「気にすんなよ。俺が好きで買ったんだから。好意には素直に甘えとけ」

 

 半ば強引にりんご飴を押し付ける。しばらく逡巡していた海未だったが、

 

「……分かりました。あの和希が、私に向けてくれた好意ですもんね。素直に受け取っておきます」

 

 ニッコリと笑顔を浮かべたのだった。少し余計な言い回しも混ざっているが、まぁよしとしよう。

 

「海未ちゃん、和希君! もう少しで花火が始まるって!」

「おうっ! すぐに行くから」

 

 穂乃果に呼ばれた俺たちは彼女の元へ……行く途中、ある屋台の前で立ち止まる。

 

「和希?」

「……ちょっと先に行っててくれ。俺もすぐに行くから」

 

 海未を先に行かせて、俺はある屋台で買い物を済ませる。とあるものを買った後、俺は急いで穂乃果たちの元へ。

 

「和希君、遅いよ! 何やってたの?」

「いや、ちょっと野暮用でな」

「野暮用?」

 

 可愛く首をかしげることりに、俺は先ほど買ったわたあめの袋を差し出す。

 

「えっ? これって……」

「穂乃果と、海未にだけ買って、ことりにだけ買わないってのも不公平だろ? それに、いつも仲良くしてもらってるお礼だ」

 

 言ってて恥ずかしくなってきた。そんな俺に、ことりは悪戯っぽく微笑む。

 

「和希君ってば、顔真っ赤だよ?」

「うるせぇ!」

「だけど、ありがとう和希君! ことり、嬉しいよ♪」

 

 やっぱりことりは、ただの天使だった。かわゆすぎるぜ、チクショウ! 天使すぎることりに悶え苦しみつつ、花火の見えやすい場所まで歩いていく。

 

「……さて、穂乃果ちゃん。そろそろだね」

「……うん、ことりちゃん。ふっふっふ、和希君と海未ちゃん……」

 

 何やら、こしょこしょと話し合う穂乃果とことり。嫌な予感しかしない。

 

「おい、二人とも。一体何を話して――」

『何でもないよ!!』

「あっ、はい。そうですか……」

 

 有無を言わさない迫力に、俺は口を噤まざるを得なかった。ふ、二人は何を企んでいるのだろう? 

 結局二人の企みが分からないまま、目的の場所に辿り着く。すると、ことりと穂乃果がわざとらしい声をあげた。

 

「あー、ことりちょっとお花摘みに行きたいなぁ~。ねぇ、穂乃果ちゃんも一緒に行かない?」

「いいよ! 穂乃果もちょうど行きたいなって思ってたところだから」

 

 いくらなんでも酷い演技力だ。しかしそれに気付かないのが、園田海未というやつである。

 

「あっ、それなら私も――」

『海未ちゃんはここで和希君と待っててね』

「へっ?」

 

 海未の返事を待つことなく、というか返事を無視して、ことりと穂乃果はトイレへと駆けていってしまった。その後姿を、俺と海未は呆然と見つめる。

 嫌な予感が現実になってしまった。あいつら絶対、トイレが目的じゃないだろ……。

 

「はぁ……取り敢えず、二人が帰ってくるまでここで待ってようぜ」

「そ、そうですね……」

 

 いまいち事態を呑み込めていない海未は放っておき、俺は持ってきたレジャーシートを地面に敷く。

 そのレジャーシートの座ってからほどなくして、ことりからメッセージアプリに連絡がきた。

 

『トイレが予想以上に混んでて、道も大混雑で……取り敢えず戻れそうにありません。なので海未ちゃんと二人、花火を楽しんでください♪』

 

 あいつら……思わず頭を抱える。

 

「どうしたんですか、和希?」

「……これを見ればすべてわかる」

 

 俺は海未にメッセージアプリを見せると、

 

「な、なんですかこれはっ!?」

「俺に聞くなって……」

 

 俺だってわけわかんないんだから……。

 

「二人に連絡を取ってみます」

「出ないと思うけどなぁ……」

 

 もちろん、俺の予想通り二人が出ることはなく、海未はがっくりと肩を落とす。

 

「まぁまぁ、落ち込んでてもしょうがないし、花火見ようぜ? 花火に行く前も言ったけど俺、花火なんて久しぶりだから結構楽しみなんだ」

「……それもそうですね」

 

 今回ばかりは海未も素直に頷くと、二人揃ってレジャーシートに腰を下ろした。

 

「和希は何時振りなんですか、花火?」

「うーん、家からなら何度も見たことあるけど、こうして花火大会に来るのは10年ぶりくらいかな」

 

 何気ない会話を交わしていると、俺たちも仲良くなったなぁと思わず感心してしまう。

 たまに言い合うのは変わりないけど、こうして普通の会話をするようにもなった。出会った当時に比べたら、格段の進歩である。海未も俺も、それなりに丸くなったということかもしれない。

 

「ふふっ」

「どうかしたんですか、和希? ニヤニヤと……気持ち悪いですよ」

 

 ちょっと褒めようとしたらこれだよ。まぁ、ある意味これが海未らしいんだけどな。

 

「……あの、和希」

 

 隣に座る海未が浴衣の端を引っ張る。

 

「どうかしたのか?」

「えっと、その……今日の和希の浴衣姿、すごくか――」

 

ドーンッ!!

 

 頬を染めた海未が何かを言いかけた。まさにそのタイミングで、夏の夜空に大輪の花が咲く。

 様々な色、形の花火が夜空を彩り、俺たちはその様子に釘付けとなった。

 

「綺麗、だな……」

「はい、そうですね……」

 

 そのまま海未と共に花火を見続ける。スターマインやら、よく分からん形の花火やら、最近の花火は凝ってるなぁ。

 体感時間およそ5分。あっという間に花火終了のコールが辺りに響く。しばらくは余韻に浸っていたものの、俺はゆっくりと立ち上がった。

 

「それじゃあ花火も見終わったことだし、そろそろ帰るか」

「そうですね」

 

 ことりたちとは合流できそうにない。その為、俺と海未は二人きりで帰り道を歩き始めた。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

「ところで、さっきは何を言いかけたんだ?」

「……別に、何でもないですよ。だから気にしないで下さい」

 

 そう言って海未は首を振る。きっと何でもなくはないんだけど、本人がそう言ってるんだし、深追いはしないことにしよう。

 

「…………」

「…………」

 

 人気の少ない帰り道。歩いているのは俺と海未だけ。下駄のカランコロンという音が耳に残る。

 先ほどまでの喧騒とはうって変わって、二人の歩くこの道はとても静かだ。

 

「きゃっ!」

 

 短い悲鳴に、俺が海未のほうを振り返る。

 

「どうかしたのか?」

「下駄の鼻緒がきれてしまって……」

 

 彼女の足元を確認すると、ぷっつりと下駄の鼻緒がきれてしまっていた。

 

「あぁー、こりゃどうしようもないな……」

 

 生憎、切れた鼻緒を結び直す技術を俺は持ち合わせていない。だからといって、裸足で帰れというわけにもいかない。

 裸足で帰れば、どこかで怪我をするかもしれないからな。その為俺は、彼女に背を向けるような形で屈みこむ。

 

「ほらっ、海未」

「えっ? 何をしてるんですか?」

「それじゃまともに歩けないだろ? だから、お前を背負って帰ろうと思ったんだ」

 

 俺の提案に、海未の顔が少しだけ赤く染まる。

 

「せ、背負って帰るだなんて、そんな恥ずかしいこと……」

「じゃあ、裸足で帰るか?」

「そ、それは……」

「というわけだ。ほらっ、早く俺の背中に乗れ」

 

 そこまで言って、ようやく海未が俺の両肩に手を添える。そして、おずおずと身体を密着させてきた。

 ふわっと鼻腔をくすぐる甘い香りに、一瞬ドキッとする。

 

「……それじゃ、持ち上げるぞ」

「は、はい……」

 

 俺は海未の太ももをしっかりとつかみ、彼女の身体を持ち上げる。お姫様抱っこをした時にも思ったのだが、やっぱり海未の身体は軽い。

 

「お、重くないですか?」

「俺の筋肉でも持ち上がるくらいには軽いよ」

 

 そんな会話を交わして、俺は園田家に向けて歩き出した。しばらくの間、俺たちは無言で帰り道を歩いていく。

 

 そのまま帰り道を半分ほど歩いた頃だろうか?

 

「……和希」

 

 背中にいる海未が小さな声で俺の名前を呼ぶ。

 

「ん? どうした?」

 

 歩きながら返事をする。一体どうしたんだ――。

 

 

 

「あの時は恥ずかしくて言えませんでしたけど……その浴衣、すごく似合ってます。……かっこいいです///」

 

 

 

 完全に不意打ちだった。彼女の言葉に身体がカッと熱くなる。それに伴って心臓も、狂ったように早い鼓動を刻み始めた。

 

「あ、ありがとな。……その、なんだ、さっきも言ったけど、浴衣が似合ってるのは本当だから。海未の浴衣姿も……可愛いから」

 

 動揺を隠すようにそう答えると、首にまわされている腕に力がこもる。そして海未は俺の背中に顔を埋めると、小さな声で、

 

 

 

「……嬉しい、です」

 

 

 

 一言、それだけ呟いた。たった一言だけだったが、俺の心拍数は何倍にも跳ね上がる。

 心臓をキュッと掴まれたような感覚に襲われ、さっきよりも身体が熱くなった。

 

(うわぁ……なんだよこれ)

 

 顔を手で覆いたい気分になったが、海未をおんぶしているため、仕方なく俺は夜空を見上げる。

 正直、素直な海未がここまで可愛いだなんて想定外だった。いつもは、俺の悪態ばかりついてるくせに……。

 

 今はどうしてこんなに可愛いんだよ。

 

(取り敢えず、海未に今の顔を見られなくてよかったな……)

 

 そう思った俺は、少しだけホッと息を吐くのだった。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 

 

(うぅ……どうしてあんなことを言ってしまったのでしょうか?)

 

 和希の背中に顔を埋めながら、先ほどの言葉を悔やみます。おんぶをされているというだけで恥ずかしいのに……。

 い、いえ、別に後悔はしていません。ただ言うつもりがなかった分、恥ずかしくて、恥ずかしくて……。その場をのたうちまわりたい気分です。でも、

 

(可愛いなんて、いつも言わないくせに……ずるいです、反則です。そんな事言われて……嬉しくないわけないじゃないですか)

 

 また心臓が、トクントクンうるさくなってきました。これじゃあ、私を背負っている和希にまで聞こえてしまいます。だから早く止まってください! 

 

 しかしそんな私の気持ちとは裏腹に、心拍数はどんどんと上昇していく。

 

(どうしてこんなに……今日の私は変です。おかしいです……)

 

 顔も熱くて、和希の言葉を思い出すたびに、心がキュッと締め付けられて……。すごく、切ない気持ちになってきます。

 だけど、全然嫌な気持ちじゃない。むしろ嬉しい……本当、私が私じゃなくなったみたいです。

 

(どうしてこんな風になってしまったんでしょうか?)

 

 私はもう一度、和希の背中に顔を埋めました。

 

 きっとこれは和希がいけないんです。和希が余計なことを言うから……だから私は悪くないんです!!

 

「……和希のばかっ」

 

 私は彼に聞こえないくらい小さな声で、ぽそっと呟いた。

 




 今回も読了ありがとうございます。そして感想など、いつもありがとうございます。次回も頑張ります。
 ちなみに三人の着ていた浴衣はスクフェスの物を参考にしました。若干色が分かりずらかったので、色に間違いがあっても大目に見てください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。