SAO -Epic Of Mercenaries-   作:OMV

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六話 確執の同志

東京都 東大和市 [14:00]

 

牧田 玲/デルタ・DAIS[Disavowed]所属エージェント

 

防衛省から帰り、実家に戻った牧田は、冷蔵庫にあった物で手軽な昼食を摂ると自室へ向かった。

 

二階へと上がり、左手にあるドアを開ければもうそこは牧田の自室だ。自室と言っても、室内にはベッド、パソコンデスクと大型のコンピューター、それに収まる形のデスクチェアしか置いていない。衣服類は全て壁面に収められているクローゼットに全て押し込まれており、見た感じではものすごく殺風景な物になるほど、牧田の自室はシンプルを極めていた。

 

部屋に入ると牧田は羽織った薄手のパーカーから所持していた物を全て机の上に置き、勢い良くベッドへと倒れ込んだ。

 

牧田の体重を直に受けたスプリングが軋み、収縮して反発力を牧田の身体へと訴える。その反発を背中で受け止め、仰向けで天井を見つめる。

 

牧田の目線の先には、純白の内壁材が一面に広がっている。いったい自分に、こんなに真っ白であった時期があったのだろうか、と牧田は思った。

 

牧田は本当の自分の親の名前を知らない。今の父と母は、あくまでも牧田を児童養護施設から引き取った義理の親であり、正確な血が繋がった親ではない。といっても、牧田は今の両親が好きであるし、両親の方も牧田を我が子の様に育ててくれたので別に不満も文句もない。それは同じ児童養護施設で育った妹も同じな筈だ。

 

本当の親の事を知りたいと思ったことは何度もある。だがそれは、牧田にとって許されないことであり、そもそもその情報を手に入れるのら限りなく不可能に近い。牧田が幼少期に関わった事の真実は、既に誰かの手によって闇に葬られてしまっている。その情報をサルベージするには、多額資金と優秀な人材、そしてなによりも莫大な時間が必要だった。

 

今はそんな時間は無い。何よりの目標は、ALOに隠された未帰還者に関する情報を徹底的に探し出し、ユーリ・マクラーレンに再会する事だ。今の目標はそれだけである。

 

しかし、その目標を達成する手段は、生憎牧田は持ち合わせていなかった。つい先ほど、防衛省で直属の上官である菊岡に要請を断られたばかりだ。諜報組織の力を使えばかなり楽に事が進む筈が、このままだと事件解決の目処が牧田独りの能力に左右されることになる。いくら牧田が諜報組織に属するエージェントとは言え、独力ではかなり厳しい部分も出てくるだろう。だが、組織に頼らずとも牧田には築き上げた人脈があった。それをフル活用すれば良いだけの話だ。それを駆使するため、牧田は腕の反動を使ってベッドから飛び起きると、スマホを片手に部屋を出た。

 

 

 

再び外へ出ようと、勢い良くドアを開けた途端、何かがドアと接触し、「いっ.....」という聞き覚えのある唸り声が裏側から聞こえた。一瞬で見当の付いた人物を頭に思い浮かべながら、そっとドアを引いた。

 

そこには頭を抑えて俯く栗原の姿があった。栗原は顔を上げて牧田の姿を認めると、涙目になりながら牧田を睨み付けた。

 

「牧田くん.....ひどいですよ」

 

「仕方ないだろ。というか、家の前で何やってたんだ?」  

 

「今から入ろうとした所ですよ。少し話したかったんです」

 

「今からか.....」

 

「何処かに行こうとしてたんですか?」

 

「いや、大丈夫だ。上がってくれ」

 

人脈はこの後からでも動かせる。そう判断した牧田は、再び家へと入ると、栗原を自室に招き入れた。

 

 

 

■■■■■■

 

東京都 八王子市 [16:40]

 

牧田 玲/デルタ・DAIS所属三曹

 

東京・八王子市の市街地にある喫茶店に、牧田は居た。都心部の店と比べれば遥かに安価なコーヒーを啜りながら目的の人物を待っていた。しばらくすると、シック調のドアベルが鳴り、一人の女性が店内へ入って来た。彼女は黒いカーディガンに白のシャツ、グレーのパンツを着込み、首には藍色のマフラーを巻いていた。牧田や栗原とと同年代に見える彼女は、牧田の向かい側の椅子を引くと、そこに腰掛けた。

 

「久しぶりだな。アン」

 

牧田がそう言うと、アンと呼ばれた彼女ははにかみながら言葉を返した。

 

「こちらこそ久しぶりだね。玲くん」  

 

そう言って久しぶりの再開を言葉で確認し、アンはウェイターにホットコーヒーを注文した。

 

「で、どうだ? 頼んだ奴は」

 

「それなんだけどね.....」

 

アンは肩に掛けていたトートバッグからタブレットを取り出すと、牧田の前へと差し出した。タブレットの画面には、何やら名簿らしき書類のPDFが写し出されていた。

 

「これ。取り敢えず、情報網に引っ掛かったのだけリストアップしてみた。一応系列の子会社まで調べてみたけど、該当者は少ないみたい。もし足りなかったらまた言ってくれれば、すぐに集めるよ」

 

「ありがとうな、アン。助かる」

 

アンこと燦杏禮(サン・アンシャン)は、日系中国人の少女であり、台湾国防部情報課(T.M.D.I.C.)、通称「藍衣社」に所属するエージェントであった。若冠17歳で諜報組織の海外部門に選抜されたエリートであり、その能力も立場相応の物を持っている。牧田との関係も諜報組織での人材交流が始まりであった。  

 

現在は日本に在住し、日本で活動している華僑スパイの炙り出しと調査を主な任務としているが、DAISと藍衣社の関係からか、時々自身とは関係無い事で協力してもらう事も多い。それを彼女は毎回笑顔で請け負ってくれている。申し訳無い気持ちで一杯なのだが、中々それを返すことは出来ていない。

 

「調査してる最中に気になったのはこの人かな」

 

そう言ってアンが指差したのは、リストの中段に記載されていた男の名前であった。

 

「武藤洋太?役職は....本社営業部門の部長か」

 

「この人、公安調査庁のデータベースで調べてみたらマークされてたよ。どうやら不自然な金の流れがあるらしいんだって。金融庁にも目を付けられているみたい」

 

「金.....資金繰り?」

 

当然、SAO内のプレイヤーの意識を留めようとすれば、ゲームのメインサーバーを確保しておかなければならない。それの保守には莫大な予算が必要だろう。もし仮にその武藤という男が実行犯として関与しているのならば合点が行く話だ。

 

「詳しく言えば、インサイダーで数億の利益を上げてるらしいよ。でも不可解なのはその金がどこへ行ったか、金融庁でも足取りが掴めて無いらしいって」

 

「足取りが掴めない、か....」

 

こういう時にDAISの情報網が使えたらどれだけ便利なのだろうか。だが、この件に関しては菊岡と決別した以上、今更泣き付く事は許されないだろう。

 

「アン、もし良かったらでいいんだけど、継続して調べてもらう事は出来るか?」

 

「任せてよ。最近中国本土の方が忙しいみたいだから、こっちには仕事が回ってこないんだよ」

 

昨年、中国では共産党政権を覆そうとする軍の一派が台湾の支援の元にクーデターを敢行し、現在では中国全土でクーデター軍と共産党軍が抗争を繰り広げている。勿論、クーデター軍のバックアップに台湾が着いている為、アンの所属する「藍衣社」は大車輪の働きをしているだのだろうが、どうやらアンのような海外派遣組は無縁の事らしい。

 

「ごめん。関係無い事に巻き込んじゃって」

 

「気にしないでいいよ。私も玲くんにいつも助けられてるしね。そういえば.....」

 

アンは微笑んだ顔から一転、何やら深刻な顔になると、牧田の耳へと顔を近付け、小声で話し掛けた。

 

「私、所沢の部屋からここに来る途中に絵理香ちゃんを見かけたんだよ。何か悲しそうな顔で歩いてたけど、牧田くん何か知ってる?」

 

アンと栗原の関係はSAOに囚われた三年以上前から続いていた。栗原といつも共に居たため、アンが気になって栗原と何となく会話し始めたのがファーストコンタクトであったと記憶している。こっちに戻ってきてからは交流があるかどうかは定かでは無いが、二年近く見ていない栗原の姿を見てそれが栗原だと解ったということは戻ってきてからも何かしらの交流があったのだろう。

 

「あー.....それは.....」

 

「何?何か変な事やっちゃったの?」

 

「.....まぁ」

 

「喧嘩でもしたの?」

 

牧田は首を横に振った。そして、言うのを躊躇うかのように口を開閉していたが、決心したような眼差しをアンに対して向けると、その言葉を発した。

 

「......イカれた」

 

「は?」

 

アンは牧田が呟いた言葉が理解出来ないと言わんばかりに無遠慮な声を出した。その言葉を飲み込むように受け止めた牧田は、俯きながら、その言葉をもう一度言い放った。

 

「栗原が.....病んだ」

 

■■■■■

 

東京都 東大和市 [14:40]

 

牧田 玲/デルタ・DAISエージェント

 

「あ? どういう事だ」

 

栗原と居る時には、いつも温厚そうであるはずの牧田の顔は、今では怒りが浮かびあがっていた。牧田の目線の先には、何が起こったのか解らない、と困惑し、狼狽する栗原の姿。二人は机の前で向き合い、今にも掴みかからんとしそうな勢いで対面し、口論していた。

 

「ですから.....」

 

「栗原、黙れ。その言葉を二度と口にするな」

 

「なっ....何でですか?というか、どうしてそんなに怒っているんです?」

 

「お前....正気か?自分が言ったことが理解出来てないのか....?」

 

牧田は信じられない、という感情が顔に浮き出していた。それは、牧田が幾多の危険を乗り越えたDAISのエージェントとしてもあまり見せない、珍しい顔であった。

 

「私は正気ですよ!一体どうしたんですか....」  

 

「じゃあ何で.....何で笑顔でそんな事が言えるんだ?」

  

そんな事。つい数分前に栗原が言った言葉の事だ。それは、長く栗原の幼馴染であった牧田を驚かせるには充分な威力を持っていた。

 

「決まってます。私は、そうであるべき人間なんです。もう戻ることはできません。だから牧田君、もし今回の件で邪魔になる人間が居れば遠慮無く私に申し付けてください」

 

その瞬間、牧田には栗原が栗原で無い何かに見えた。エージェントとして何度も見てきた地獄の場面に遭遇したような、そんな衝動を身体に受けた。そんな事を知ってか知らずか、栗原は不可解なまでに清く、そして可憐に微笑むと、牧田の言う「そんな事」を言い放った。

 

「私は、躊躇い無く人を殺せますから」

 

 

■■■■■

 

 

「という訳だ、アン」

 

「.....うん」

 

牧田は、つい一時間前に起きた出来事を、包み隠さずにアンへと伝えていた。伝えた理由は自分でも良く解らない。台湾のエージェントであるという、国籍も身分も栗原とは大分違うアンに何を期待すれば良いのかは分からないが、取り敢えず伝えたのは自分が助けを求めていたからかもしれない。

 

アンは深刻そうな顔をして俯いていた。まさか、交流のある同年代の少女が荒んでしまっているとは思ってもみなかったのだろう。人が死ぬことや狂う情景には慣れている筈の諜報員でも、それが身近な人だったりすれば話は別だ。

 

「どうして....そうなっちゃったの?」

 

アンは心配そうな顔を崩さずに聞いた。

 

「....事情は複雑だよ。そもそもの始まりはSAO内部での事だ」

 

SAOの事は知ってるよな、とアンに確認を取り、アンが首を縦に振ったことを確かめた牧田は、一度ウェイターを呼び出し、おかわりのココアを注文した。アンも、同じタイミングでコーヒーを注文した。

 

しばらくして、湯気が立っているココアとコーヒーが運ばれてきた。二人はそれを飲み、一息吐いてから牧田の話は始まった。

 

「SAO内部で、俺と栗原は一緒に行動していたんだ。それは初めの時も終わりの時も同じだった。でも、間に空白期間があった」

 

それは丁度、あのデスゲームが始まってから一年近くが経過した冬の頃だった。

 

「俺と栗原はある場所で一振りの日本刀を入手したんだ。名前は[後生(ぐそう)]って刀でな...」

 

「後生....か。DAISにとっては縁起の悪い名前だね....」

 

「だから縁起が悪そうで俺はその刀を栗原に渡したんだ。丁度、栗原も新しい武器を欲しがってたから」

 

過去にDAISはその日本刀と同じ「後生」と名の付いた化学兵器「GUSOH」に関連した任務で、多くの人員を失った事件があった。それの排除の為に、海上自衛隊の護衛艦二隻が轟沈し、マスコミでも大きく取り上げられていたが、それは事件の本質とは無関係の機雷接触という言い訳を強引に滑り込ませた結果であり、真実とは違うという。もっとも、事件が発生したのはまだ牧田やアンが産まれてない時であるので、本当の事は確かめようが無いのだが。

 

「その刀は他の刀よりも遥かに強かった。もう桁違いにな.....。でも、それは犠牲の下に生まれた性能だったんだ」

 

「犠牲、って....?」

 

「.....正確に言うならば装備者の自己犠牲、かな。その刀は[妖刀]だったんだ」

 

「日本の[ムラマサ]みたいな?」

 

「[村正]は徳川にとっての妖刀ってだけで、具体的な効果は無かった。まぁ、それを現実では妖刀って言うのかもしれないけど、[後生]はその上を行ってた」

 

「その上.....」

 

「ああ。"相手に与えた損害(ダメージ)を、自我(エゴ)の崩壊で払う"、ってのが後生が妖刀たる所以さ。その呪いのせいで、栗原は自我を失いかけた。でも、奴はそれを封じたんだ。自身の感情を一切抑制して、その呪いを抑え込んだ。一年間姿を眩ました後、突然目の前に現れたあいつは俺達の知っていた栗原じゃなかった。自分の感情を押し殺し、ただ目の前の敵を屠り続けるキルマシーンと化していたんだ....」

 

「だから、絵理香ちゃんは敬語で会話するようになったんだね.....驚いたよ。まさかあのゲームの中でそんな事があったなんて」

 

「正直、この件に関しては俺が悪いんだ。俺があの刀を装備していれば済んだ事を....[後生]のジンクスなんか当てにしたから起こったんだ」

 

「誰も未来は予測出来ないよ。それは玲くんだって同じ。結果は誰にも分からないものだから」

 

「....ああ。SAOから帰って来てからも、栗原はあの性格を崩さなかった。もう妖刀を制御する必要も無いのにだ。きっとあいつは自分自身を責めているんだろうな.....あの刀で、何人ものプレイヤーを殺した、その罪は消えない、ってね。恐らく、それが病んだ原因だ」  

 

「絵理香ちゃんが、殺した....?」

 

「あのゲームの中には愉悦を得る為にプレイヤーを殺す奴まで出てきたんだ。人を殺すっていうのが、どんな意味を持っているのかも知らずにな。後生はその札付きの奴らを探知すると、装備者の身体を乗っ取るカラクリを備えていたんだ。そして、殺した。それで栗原が後生で稼いだスコアは二桁。ゲームじゃない現実世界でなら一発死刑だ」

 

「....つまり、あのゲームの中で絵理香ちゃんは、後生に[カウンターマダー(対殺人者)]として操られ、殺人者を始末してたって事なんだね....。その結果、絵理香ちゃんは病んじゃった、と」

 

「アン、正直に言ってこの話を聞いてどう思った」

 

「.....愉悦を求めて殺人って、愚鈍だね。しかもゲームの中で、ね。どうして愉悦を感じるんだろうね?理解できないよ」

 

「確かに愚鈍かもな。でも、愉悦抜きにすれば、それは俺もお前も通った道だろ?」

 

「そう言われちゃうと、言い返す言葉が無いね...。秘密組織のエージェントとして生きてるせいか人間的な感覚が薄れてきちゃったかなぁ...?」

 

「安心していいよ。俺の方がよっぽどだ」

 

「....玲くんは、絵理香ちゃんをどうするの?」

 

「.....取り戻すしか無いだろう。元の栗原を」

 

「.....うん。それを聞いて安心したよ、玲くん」

 

「その為に未帰還者の問題を解決しないとな.....あいつはずっとSAOに囚われたままだ。未帰還者の問題でも、気に病んでたみたいだからな」

 

「分かった。....ところで玲くん。さっきから気になってたんだけど、どうしてDAISじゃなくて私に頼るの?DAISなら、私が持っていないようなネットワークも、優秀な人材も沢山利用できるよね?残念だけど、[藍衣社]は今大陸の方で忙しいから、そっちのほうは期待しない方が良いけど.....」

 

「さっき防衛省で菊岡さんに協力を断られた。ついでに部隊員非承認処分を下されたよ」

 

「それって.....謹慎処分みたいなものだよね、大丈夫なの?」

 

心配な眼差しでこちらを見つめてくるアン。彼女は本当に仲間を信頼し、心配してくれているという事が伝わってくる。そんな純粋な思考と感情を持つアンという人物は、一国の諜報組織には勿体無いのではないか、と牧田は勝手な事を感じていた。

 

「まぁ、大丈夫だと思うよ。火器使用は禁止されたけどね.....だから正直、DAISの支援は受けられないと思っておいた方が良いかもな。誰が首謀者なのか証拠を手に入れれば話は別なんだがな」

 

「でもそれだとこのチームは玲くんと私の二人だけってこと? 幾らなんでもそれは無理だよ。人手が足りなすぎる」

 

牧田は腕時計を確認すると、頷いてアンを見据えた。

 

「大丈夫だ。そろそろ三人目が来る」

 

すると、店のドアが開き、ベルが人の入店を知らせた。小さな喫茶店なので、入り口の方へ振り向けば、余裕でその人物を見ることが出来る。

 

2mを越えそうな身長に、長髪を後ろで束ねた特徴的な髪型。上着として米空軍の濃緑のフライトジャケットを着込み、寒そうにポケットに手を突っ込みながら歩いてくるその人物こそ、牧田が「三人目」に推した人物であった。

 

「久しぶりだな、久里浜」

 

彼の名は久里浜洋平。元DAISのエージェントであり、現在ではDAISの親機関に当たる第一情報本部の技術研究所装備の開発を請け負っている開発部門にてテスターとして在籍していた。牧田とは旧知の仲であり、今でも普通に連絡を取り合う仲であった。

 

彼の所属は前述した通り、情報本部の技研である。牧田が久里浜を呼んだ理由は色々あるのだが、その中の一つがこの所属先であった。火器をすべて没収されてしまった牧田だが、所属先から多数の銃火器を引き出す事の出来る久里浜が居ればその問題は解決する。それを見越して、牧田は久里浜に助力を頼んでいたのだった。

 

久里浜は片手を挙げて牧田に応じたが、向かいに座るアンを見た途端、憎々しげな表情を見せた。それは、こちらに来た男が久里浜だと認識したアンも同様であった。

 

「おう、牧田。久しぶり.......って、なんでこいつが要るんだよ.....」

 

「玲くん、まさかとは思うけど、彼が三人目じゃないよね?」

 

「あ?なんだ。わざわざ八王子まで出てきてやったのに文句あんのか」

 

「文句が無いとでも思ってるの?!」

 

久里浜がDAISのエージェントだった頃から、この二人はどうも馬が合わないようで、任務等で寄る度々に衝突を繰り返していた。そんな相性最悪の二人を選んだ理由は単純、この二人以外に頼れる者が居ないからである。

 

「まぁまぁ二人とも落ちついて....。アン、久里浜が三人目だ。悪い、こいつ以外に助力を頼める奴が居なかったんだよ」

 

「ったく.....こいつが居るなら最初っから言ってくれよ」

 

「私も、彼がこのチームに参加するとあらかじめ言っておいて欲しかったな.....」

 

「悪い悪い。.....まぁ、過去の話は水に流そう。これからは互いに仲良くしてくれよ」

 

そんな感じで何となしに和解を提示してみた牧田であったのだが、当の久里浜もアンも互いに目も会わせようともしない。これは参ったな、失敗したかな?と牧田は内心で猛烈に反省した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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