また、ISや学園に関する基本的な語釈はないので、ご了承ください。
(ふむ……)
(本当に女子しかいないじゃないか。いや、目の前に一人だけ男が………こいつが織斑……織斑……なんだっけ?)
南は頭を動かし、必死に思い出そうとするが、残念ながら名前は出てこない。
IS学園一年一組の教室。その教卓の隣で、副担任の山田先生に促されて自己紹介をする。
「神代 南です。よろしく」
「「「……………………」」」
嫌な視線が南を襲った。
終わりかよっ! と無言のツッコミが聞こえる。
「あの~。終わりですか?」
オドオドと声をかけてくる山田先生に、南は肩をすくめるだけ。
「えぇ、まぁ……趣味は、プロ野球観戦ですかね……」
ヤケクソ気味に付け足した趣味にも、山田先生は「ああ、そうですか……」と小さく頷くだけだった。
(いや、助けてくれよ。贔屓の球団とか聞いてきてくれ……)
南の想いも虚しく、重い空気の教室に溶けていくだけだった。
「まったく……織斑と言い、ボーデヴィッヒと言い、どうしてまともに自己紹介ができんのだ」
そう言って、ため息を漏らしたのは色々凄い一組の担任、織斑千冬。
織斑……織斑……織斑なんとかの姉であり、元世界最強の女性だ。
「さーせん」
ボソッと言った一言に、織斑千冬の反応は早かった。
「謝るときはちゃんと……」
右手で持っていた出席簿が振り下ろされ―――
「うおっ!?」
ると同時、南は身体を捻って、それを避ける。
避けた先にいたのは、山田先生だった。顔と顔の距離は二十センチもない。
「どうも」
そう笑ってごまかす。
「はわわわわ……」
山田先生は顔を赤くしながら、目を大きく見開いた。
「す、すいません」
その反応に思わず、南は飛び退く。
逃げるように視線を山田先生から外して、教室へ……すると、クラスメイトの唖然とする顔が並んでいた。
織斑なんとかが、バカみたいに口開けて驚いている。バカみたいだ、と南は心の中で笑った。
「ほう、よく避けたな。これで2人目だ……まぁ、今回は許してやろう」
織斑千冬の声が低く響いた。
「それでは次の授業から神代には参加してもらう。この時間は自習……まぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ。お前も頑張れよ」
そんな一言に、南はため息をつく。これから起こるだろう、質問責めを思ってのことだった。
「私と山田先生はやることがある。教室を離れるが、騒がしくだけしないように。神代……お前の席は……ボーデヴィッヒの隣が空いているな。あの一番後ろの銀髪の隣だ」
「分かりました」
「では、次の授業に遅れんように。以上」
そう言って、二人の教師は教室を出て行った。
千冬&真耶side-
「先生、なぜ神代くんには手加減したんですか?」
真耶は隣を歩く千冬に尋ねる。
「何がだ?」
「ですから、先ほどの出席簿アタックですよ。避けられるってことは手加減したんじゃ―――」
真耶は眼鏡を軽く持ち上げて言葉を続けようとしたが……
「いや、手加減はしてない」
千冬は言葉を被せた。
「はい?」
真耶はポカンと口を開ける。
「だから、あれは手加減なし……むしろ普段、織斑たちにしているのとは格段に違う速度で当てた……いや、当てようとした……か」
千冬は自虐的にふっと笑った。
「で、では……どうして神代くんは……」
「真耶……お前、アイツの資料に目を通したか?」
「い、いえ……片付けなければならない資料がたくさんあったので、まだ見てないですね」
「そうか。これがその資料だ」
そう言って、千冬は一枚の紙を渡した。
それを両手で受け取った真耶は、じっと見つめるように文章を追う。
そこには―――
「えっ……」
「そういうことだ。私のほうでも色々と調べてはいるんだが……詳しくは分からなくてな」
「何者なんでしょうか……」
真耶は険しい顔つきで問うが、「さあな」と、千冬は軽く笑った。
「何者かは知らんが、これから調べていくさ。ISも同時にな……それに、アイツはここの脅威にはならんだろう。私の勘だが……」
「そうだといいんですが……」
「なに、もしものときは私がどうにかするさ……命をかけてな」
目を鋭く細めて、低く呟く。
「…………」
そんな真剣な眼差しに小さく震えた真耶は、それを茶化さない。
「ちなみにだが……」
ふいに軽くなった声色に、どこか安心を覚えながら真耶は千冬を見る。
「なんでしょう?」
思い出したように顔を上げた千冬は、先程とは違う意味で目を細めた。
「さっき言っていた出席簿アタックとやらだが……」
「ふえっ?」
まさかの言葉に、間の抜けた声を出す真耶。
「そうか、そんな間抜けな名前を付けていたのか……じっくり話を聞こう、じっくりとな」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!!」
真耶の悲鳴が、廊下を駆け抜けた。
南side-
「神代君! どうしてISを動かせるの!? どこでそれが分かったの!?」
「貴重な男性操縦者ってことは、専用機持ってるの!?」
「彼女いる!?」
「さっきの織斑先生の出席簿アタック!どうやって避けたの!」
「好きな食べ物とかは!?」
ぶつけられる様々な質問に、一問一答していく南。
滝のようになだれ込む質問の数々に、苦笑いで答えていった。
「織斑君! デュノア君も! ついに、三人目の男の子が! それもこの一組に!」
興奮気味にクラスメイトが織斑なんとかを呼ぶ。
それを待っていたかのような表情で、彼は南の席へ歩み寄ってきた。
ニヤニヤとしながら、他の女子は距離を開ける。
「よ、よぉ。神代……だよな。俺は織斑一夏……学園に三人しかいない男なんだ。仲良くしようぜ」
そう言って、織斑一夏は軽く手を上げた。
(ああ、そうだ。一夏だ一夏)
頭の中でもやもやしていた霧がスゥと晴れていく感覚だった。
(確か、そんな名前だったな……だが)
南はふと思う。
先程の女子も言っていた、三人目という言葉。
最初に聞いていた情報では、男でISを動かすことが出来るのは、自分とこの織斑一夏の二人のはずだ。
「三人? どういうことだ? 男でISを使えるのはお前だけじゃないのか?」
「ん? そうだと思ってたんだけど、ほら一番前の金髪の奴いるだろ。アイツも男なんだよ」
そう言って指差された先を見ると、確かに明るい金色をした中世的な顔立ちをしている人影が。見えにくいが、確かにズボンだ。
こちらを伺ってたのか、目が合うと軽く手を振ってきた。
「なるほど……」
手を上げ返すことも無く、南は目を離さないように彼を見つめる。
「おーい。シャルルー。お前はいいのか?」
織斑はもう一人の男、シャルルを呼んだ。
すると、少しだけ渋ったように見えたが、程なくして立ち上がりこちらにやってきた。
「シャルル・デュノアだよ、フランスの代表候補生。よろしくね」
そう言って手を伸ばしてくる。
「おう」
短く答えた南は、その手を軽く握り返す。
「…………」
「どうかした?」
軽く握ってたはずの手を、中々離さない彼に違和感を抱いた、デュノアが首をかしげる。
「いや、すまない。なんでもないんだ」
「……どうでもいいが私の周りでごちゃごちゃと騒ぐな。うるさい」
手を離したと同時だった。
低く唸るような声が、南の隣から聞こえる。
「なんだよ、ラウラ。」
そう言って一夏は歯を剥いた。
「ふんっ」
「なんだ。どうしてこんなに不機嫌なんだ」
織斑に向き直って尋ねるが、熱くなっているのか返事はない。
「ま、まぁまぁ一夏。南も困ってるしさ……」
シャルルが一夏の肩を叩いた。
(もう下の名前で呼ぶのか……さすが、外国人だ)
「っ……ごめんな、南」
(お前もか?俺も下の名前で呼んだ方がいいのだろうか)
南は隣の席に座る少女の不機嫌さの理由を気にしていたことなどすっかり忘れて、二人を交互に見る。
心の中で考えても答えは出ない。
空気の悪い時間は長く感じると言うが、意外にも一夏とシャルルはすぐに席に戻って行った。
「なんだなんだ、意外と楽しくない学園生活か?」
冗談交じりに南は笑う。
感想など、お待ちしております。