IS-インフィニットストラトス~一匹の蜘蛛~   作:清麿

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13.休日は大勢で

日曜日の朝。

 

土曜日にもIS実習の授業があるこの学園では、唯一の休みである。

 

そんな日曜の朝、更識 簪は七時に目を覚ました。

 

休みであるこの日でも朝が早いのは、言わずもがな特撮ヒーローを見るためだった。

 

「んぅ……」

 

小さくベッドの上で伸びをしてから、首を回す。

 

そうして、隣のベッドに目を向けた。

 

神代 南が寝ている。

 

小さく寝息を立てて眠る想い人に、簪は無意識に笑みを浮かべていた。

 

(南も、見るかな……)

 

こちらを向いて、気持ちよさそうな表情で目を閉じている彼を起こすのは、少し気が引けた。

 

(でも……この前、見たいって言ってたし……)

 

簪は以前、南がリアルタイムで見たいと言っていたことを思い出し、起こすことを決意した。

 

その前に顔を洗おうと、ベッドから起き上がる。

 

「んんっ……んぁ……」

 

同時に、南が寝返りを打った。

 

被っていたシーツが剥がれる。

 

「えっ!?」

 

シーツが剥がれたベッドには、何とも不可思議な光景が。

 

二人……二人寝ている。

 

一方は当然、南だ。

 

もう一方のイレギュラー。

 

それがつい先日、謎の『南を嫁にする』宣言をしたラウラ・ボーデヴィッヒであったのはすぐに分かった。

 

「な……な……」

 

簪の喉が、声を張り上げようと震える。

 

「なんで一緒に寝てるのー!」

 

大きな声を出すことに慣れていない簪のそんな叫びは、可愛らしいものだったが、南が目を覚ますには十分だった。

 

「んんっ……どうした簪……朝っぱらから……あ?」

 

眠たげに、髪をガシガシと触ってから、違和感に気付いたのか目線をそちらに向ける。

 

「ん?……もう朝か?」

 

目を覚ましたラウラが体を起こした。

 

剥がれたシーツが、奇跡的に体の上に被さっていたので、大惨事にはならなかったがラウラは何も衣類を身に纏っていなかった。

 

生まれたままの恰好。まさに、それだった。

 

「ふ、服! なんで、着てないの!?」

 

簪がズンズンと南のベッドまで駆け寄って、ラウラを指さす。

 

その指が震えていることは、簪にとって問題ではなかった。

 

「夫婦とは、互いに包み隠さぬものだと聞いたのだが……」

 

ラウラがそんなことを言っているが、起きたばかりの南は目を閉じたまま起きようとしない。

 

五月蠅いなぁと顔をしかめるだけだった。

 

「南は私の嫁だからな……更識 簪、だったか? お前には迷惑をかけると思うが、どうか許してほしい」

 

丁寧に言いながら、ラウラはまた起こしていた体を横にする。

 

南に寄り添うように体を密着させると、彼もまた寝ぼけているのかラウラを抱くように腕を回した。

 

「いいから、二人とも起きなさいッ」

 

簪の鋭い声が、朝から部屋をつんざく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、俺が朝から説教されなきゃいけないんだ……」

 

「更識 簪……中々、恐ろしい女だ」

 

「南のばか……」

 

寮の廊下を歩く南は、あくび交じりに言った。

 

その両隣でラウラと簪が呟く。

 

こってり絞られたラウラは、簪への警戒度を強めていた。

 

「日曜に朝飯食うなんて久しぶりだ」

 

同じく怒られた南であったが、勝手にベッドに入ってきたとしか言いようがない彼に、簪も強くは言えず。

 

結局、あまり気にしている様子はない。

 

食堂に着くと、セシリアと鈴がカウンターで料理を受け取るため、並んでいるのが見えた。

 

「おはようーございます」

 

南はまだ眠たげな声で、鈴の頭に手を置いた。

 

「あ、南」

 

「おはようございます、み、南さんっ」

 

鈴は特に嫌がることもなく目線を上げ、セシリアは緊張気味に南の名を呼んだ。

 

「南、さん……?」

 

異変を感じたのか、簪が怪訝そうな顔をすると、南も「おっ?」とセシリアの方を見た。

 

「なんだ、名前で呼んでくれるのか……あ、目玉焼き定食で」

 

鈴の頭から手を放して注文した南に、セシリアが大きく頷いた。

 

「え、えぇ! わたくしはクラスの代表ですし、お名前でお呼びしようかと……」

 

「理由はちょっと意味分からんが……まぁ、好きに呼んでくれ」

 

南は笑いながら、カウンターに肘を置く。

 

「はいっ!」

 

セシリアが笑顔で、大きく頷くタイミングで、箒とシャルロット、一夏がカウンターの方へ来るのが見えた。

 

「おぉ、何か勢ぞろいだな」

 

笑いながら定食を受け取ると、一夏が手を挙げた。それに続くように二人も駆け寄る。

 

「よっ」

 

「おはよう」

 

「おはよっ、南」

 

朝からオールキャストじゃないかと笑う南は、先にテーブルに座るべく席を探す。

 

「ここでいいか」

 

端の大き目なテーブルに座り込むと、セシリアが隣に……座ろうとして、鈴に引っ張られた。

 

同じく反対側では、ラウラが座ろうとして簪に引っ張られると、何やらコントをしているようだった。

 

「鈴さんっ」

 

「あたしが南の隣に座るから!」

 

「なんだ? 嫁の隣に座るのは、夫として当然じゃないか?」

 

「何を言っているのか、分からない……私が、隣……」

 

ぎゃあぎゃあと騒いでいる四人を尻目に、ささっと忍者のような動きで、箒とシャルロットが両隣に座った。

 

「「「「あああっ!」」」」

 

「ふん、私の勝ちだ」

 

「ごめんね、皆……あはは……」

 

勝ち誇る箒と、控えめに笑うシャルロット。

 

南は目を閉じて、まだあくびしていた。

 

「どこに座っても同じじゃないか」

 

呆れた声に、いつの間にか定食が乗った盆を持った一夏が座りながら言った。

 

「南の隣で食べたいんじゃないか?」

 

「そうか……じゃあ、食べてる途中に交代で移動しながら、というのはどうだ?」

 

「落ち着かないわよ!」

 

南が言うと、鈴が声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、南」

 

一夏が口を開いた。

 

「ん?」

 

南は味噌汁を一口飲みながら、一夏を見た。

 

「もうすぐ臨海学校だろ? 水着って買ったか?」

 

「あぁ……そう言えば、そんなことも言ってたな……」

 

茶碗を持ち上げながら、呟く南に一夏が続ける。

 

「まだなら、今日買いに行こうぜ」

 

「持って行かないと怒られるそうだしな……」

 

怖い担任の顔を思い浮かべながら、南は米を口に運んだ。

 

「あ、僕も水着持ってないし、ついて行っていいかな?」

 

シャルロットが控えめに手を挙げると、同時に手を挙げる者が。

 

「ちょうど新しい物が欲しいと思っていたんだ。ぜひ、一緒させて欲しい」

 

「わ、わたくしも行きますわ!」

 

「当然、あたしも!」

 

「水着……何をそんなに張り切っているのかはよく分からんが、私もついて行こう」

 

「同じく」

 

全員が手を挙げると、一夏が頬を掻いた。

 

「えっと……何か、凄いことをしに行くみたいだな……ただ水着買うだけなのに……」

 

苦笑する一夏と、やる気に溢れている女子六人。

 

対照的だったのは、南だ。

 

乗り気じゃないのか、表情は曇っている。

 

「言ってもまだ先じゃなかったか? もう少し後でも……」

 

そう言うと、一夏が首を振る。

 

「ダメだぞ、ちゃんと事前に準備しておかないと」

 

「お前は事前に勉強をしておいてから、試験に臨むタイプなんだな」

 

南が言う。

 

「試験ってそういうものじゃないですの?」セシリアが、すぐさま指摘した。

 

「南はいったい、どう臨んでたの?」シャルロットは、不思議そうに訊ねる。

 

鈴だけが「分かる、分かるわ! 勉強するなんて裏切りよ!」と頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

返却口に食器を返した後、結局、一夏の勢いに押されて水着を買いに行くことになった南。

 

部屋で着替えてから、校門の前に集まることになった。

 

黒のロールアップシャツにジーンズとラフな格好で、簪と他の皆を待つ。

 

簪も普段は、めかしこむこともないが、今日は特別だった。

 

普段は制服と部屋着しか見せることがないので、精一杯の恰好をしていた。

 

時刻は朝の十時。全員が集まったところで、一夏が「行くか」と先頭を歩こうとする。

 

「まぁ、待て一夏」

 

そんな一夏の腕を掴んだ南が、空いた手でラウラを指さした。

 

「お前、制服で行くのか?」

 

全員の新鮮な私服姿が、ラウラの普段と変わらない制服姿を際立たせていた。

 

「私は、これしか服を持っていない」

 

なぜか胸を張って答えるラウラに、ため息が出た南。

 

それは彼だけではないらしく、他の五人の女子もそれぞれの反応をする。

 

一夏だけが「別に良くないか?」と呑気に言っていた。

 

「鈴、服を貸してやれ。今日は水着ついでに、ラウラの私服も買ってやる回だ」

 

南が言うと、鈴は「はっ?」と口を開けた。

 

「な、なんであたし?」

 

「服のサイズ一緒っぽいし」

 

「そ、それは……む、胸含めて言ってるのかしら……?」

 

鈴のツインテールが、奇妙に揺れた。

 

今にも、引きちぎれそうにブンブン振り回るんじゃないかと、南は心配になる。

 

「何を言ってるんだ。背丈がって意味に決まってるだろ……」

 

「それならいいケド……はぁ、しょうがないわねぇ。ほら、行くわよ」

 

鈴がため息をついた後、ラウラを引っ張った。

 

「何を言っている。私はこれで充分だぞ」

 

「アンタが良くても、あたしらが目立つでしょうが」

 

そう言いながら、ズルズルとラウラを引っ張っていく鈴はたくましく見えた。

 

「さて……暇になったな」

 

「まぁ、すぐに着替え終わるよ」

 

シャルロットが言うと、南の前に出てきてクルリと回った。

 

「それより、どうかな……僕の私服……変じゃない?」

 

上目遣いに南を見上げたシャルロットに、南はウッと声が出そうになる。

 

つい先日まで男として、制服も同じズボンだったシャルロットのスカート姿というのは、実に刺激的だったからだ。

 

「ま、まぁ……可愛いと思うぞ。うん」

 

「そ、そっか……ありがと……へへ……」

 

素っ気ない言葉ではあったが、照れながら言う南に満足したのか、シャルロットは嬉しそうに身を捩った。

 

そうなると、不機嫌になるのは簪だった。

 

(私が、一番最初なのに……私服を見せたのも、好きになったのも……私が最初なのに……)

 

顔が自然と沈みがちになるが、箒やセシリアにも詰め寄られている南に気付く様子はない。

 

「わ、私はどうだ! 南っ」

 

「ああ、可愛らしい服も着るんだな。俺みたいな、こんなジーンズを履くと勝手に思ってたんだが……そんな服も良く似合ってる」

 

「そうか、そうか……」

 

(箒さんも……)

 

簪の唇が尖る。

 

「南さん! わたくしは、どうでしょう?」

 

「ん? イメージ通りの清楚な服でいいじゃないか。言わなくてもいいだろってくらいだぞ」

 

「言って頂かないと嫌ですわ」

 

そう言いながらもニタニタと笑うセシリア。

 

(セシリアさんも……)

 

頬まで膨れてきた簪。

 

「俺はどうだ?」

 

(織斑くんも……織斑くん!?)

 

不機嫌な顔も忘れて、驚きに目を丸くする。

 

「そのシャツいいな。俺もそんなのが欲しい」

 

一夏が羽織っている、カジュアルなブロードシャツを指さしながら、南は平然と答える。

 

簪は、仲良さげな二人を少しだけ注意深く見つめていた。

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